説明

位相調節器

【課題】位相調整板からの放熱を制限することによって、位相調整板に投入される単位熱量または単位電力量あたりの位相変化量を大きくした位相調節器を提供する。
【解決手段】位相調整板の温度による屈折率の変化を利用して光の位相を調整する位相調節器において、
前記位相調整板を保持する保持部材に前記位相調整板に近接して熱伝導制限機構を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、光ファイバ通信、特に波長分割多重方式(WDM)を採用した光ファイバ通信における差動位相変調信号を取り扱う際に必要になる遅延干渉計の位相調節器の改良に関し、特に、空間光学系を用いた位相調節器の高性能化に関するものである。
【背景技術】
【0002】
干渉計は、一般的に、入射光を複数の分岐光に分岐し、異なる光路を介した分岐光を干渉させて干渉縞等を測定するものである。この干渉計の一種として、一方の分岐光に対して他方の分岐光を遅延させて干渉させる遅延干渉計がある。
【0003】
この遅延干渉計は、例えば、差動位相変調方式(DPSK:Differential Phase Shift Keying)等の変調方式によって変調された光信号を波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)して伝送するWDM光通信システムの復調装置に設けられる。差動位相変調方式とは、先行する一つ前の信号の位相に対する相対的な位相変化を情報に対応させるように位相変調を行う変調方式をいう。
【0004】
図5は、本発明が適用される干渉計の要部構成を示す図で特開2008−224313号公報に記載されている。この公報に記載された干渉計について簡単に説明する。
干渉計20は、入射レンズ21、ハーフミラー22、位相調節器23、コーナーキューブミラー24、位相調節器25、コーナーキューブミラー26、及び出射レンズ27,28を備えるマイケルソン型の遅延干渉計である。
【0005】
入射レンズ21は、入射ポートP1から入射される入射光L0を平行光に変換する。尚、入射ポートP1の位置には例えば光ファイバ(図示省略)の射出端が配置されており、この光ファイバの射出端から射出される光が入射光L0として干渉計20の内部に入射される。ハーフミラー22は、入射レンズ21で平行光に変換された入射光L0を所定の強度比(例えば、1対1)を有する分岐光L1,L2に分岐する。また、ハーフミラー22は、コーナーキューブミラー24,26の各々で反射された分岐光L1,L2を合波して干渉させるとともに、干渉により得られた干渉光を所定の強度比(例えば、1対1)で分岐する。
【0006】
位相調節器23は、ハーフミラー22で分岐された一方の分岐光L1の光路上に配置されており、分岐光L1の位相を調整するものである。コーナーキューブミラー24は、直交する2つの反射面を有するミラーであり、ハーフミラー22で分岐されて位相調節器23を介した分岐光L1をハーフミラー22に向けて反射する。
【0007】
尚、位相調節器23は、ハーフミラー22で分岐された分岐光L1がコーナーキューブミラー24に向かう往路とコーナーキューブミラー24で反射された分岐光L1がハーフミラー22に向かう復路との双方の光路上に配置されている。これは、分岐光L1に対して位相調節器23が傾いたときの分岐光L1の光路のずれ(即ち、ハーフミラー23に対する分岐光L1の入射位置の位置ずれ)を抑えるためである。
【0008】
位相調節器25は、ハーフミラー22で分岐された他方の分岐光L2の光路上に配置されており、分岐光L2の位相を調整するものである。コーナーキューブミラー26は、コーナーキューブミラー24と同様に直交する2つの反射面を有するミラーであり、ハーフミラー22で分岐されて位相調節器25を介した分岐光L2をハーフミラー22に向けて反射する。ここで、コーナーキューブミラー24,26は、分岐光L1に対して分岐光L2が所定の時間だけ遅延するようにハーフミラー22に対する相対的な位置決めがなされている。分岐光L1に対する分岐光L2の遅延時間は任意に設定することができる。
【0009】
尚、位相調節器25は、位相調節器23と同様に、ハーフミラー22で分岐された分岐光L2がコーナーキューブミラー26に向かう往路とコーナーキューブミラー26で反射された分岐光L2がハーフミラー22に向かう復路との双方の光路上に配置されている。これにより、分岐光L2に対して位相調節器25が傾いたときの分岐光L2の光路のずれを抑えることができる。
【0010】
図6はこのような位相調節器の従来例を示す断面構成図である。図において、4はベースプレートであり、表面の一端付近にL字状の位相調整保持部材3の一端が固定され、他端はベースプレートの他端側に延長されている。位相調整保持部材3の他端には位相調整板1の一端が接着剤6により固定され、他端はベースプレート4側に延長されている。
【0011】
接着剤6で固定された他方の面(位相調整板1の対面)には位相調節用ヒータ2が固定されている。5は透過光であり、図5におけるハーフミラー22を透過/分岐したL1,L2に相当する。
この透過光は図では省略するが保持部材3に遮られることなくコーナーキューブ(図5参照)側に進行するように構成されている。
【0012】
この例では屈折率変化に熱を用いるものを示しており、位相調整板1は最適な光軸位置に固定されている。そして、位相調整用ヒータ2の発生する熱で位相調整板1の温度を変化させることにより、位相調整板1の屈折率が変化し、透過する光の位相を変化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−224313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述の光位相調節器は光モジュールのパッケージ内に組み込むために小型の位相調節器として開発されたもので、位相調整板1の縦、横および厚さの大きさは例えば3×3×0.3mm程度である。小型化のメリットは、加熱体積の削減による省電力効果と応答速度の向上である。
【0015】
一方で、位相調節範囲の拡大への強い要求も存在する。これは、位相調整用ヒータ2への投入電力を大きくすることで位相調整板1への熱供給を大きくし、位相調整板1の屈折率変化を大きくすることで可能となる。
【0016】
しかし、小型化により位相調整用ヒータ2の細線化が進むと、大電力投入により故障し易くなることが判っている。また、省エネルギーの流れにも反するという課題がある。
また、接着剤6が塗布される面積を小さくすることで位相調整板保持部3を通してベースプレート4へ逃げる熱流を制限する方法も考えられるが、接着面積が小さくなることで位相調整板1の位相調整板保持部3への接着強度が確保できないという課題がある。
【0017】
従って、本発明は、位相調整板1からベースプレート4への放熱を制限することによって、位相調整板に投入される単位熱量または単位電力量あたりの位相変化量を大きくした位相調節器を提供することを目的としている。
なお、位相調整板の接着強度を確保するために、位相調整板と保持部の接着部分の面積は充分に確保されているものとする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の位相調節器においては、
位相調整板の温度による屈折率の変化を利用して光の位相を調整する位相調節器において、
前記位相調整板を保持する保持部材に前記位相調整板に近接して熱伝導制限機構を設けたことを特徴とする。
【0019】
請求項2においては、請求項1に記載の位相調節器において、
前記熱伝導制限機構は溝であることを特徴とする。
【0020】
請求項3においては、請求項1に記載の位相調節器において、
前記熱伝導制限機構は穴とされ、該穴に熱伝導性の高い液体を注入し、前記熱伝導性の高い液体を前記穴から出し入れするための真空系を設けたことを特徴とする。
【0021】
請求項4においては、請求項1に記載の位相調節器において、
前記熱伝導制限機構は穴とされ、該穴にオイルまたは水銀を注入すると共に該水銀を出し入れするための真空系を設けたことを特徴とする。
【0022】
請求項5においては、請求項1に記載の位相調節器において、
前記熱伝導制限機構は穴とされ、該穴に磁性体を挿入し、該磁性体を出し入れするためのマグネットと、マグネットの移動機構を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したことから明らかなように本発明の請求項1,2によれば、位相調整板を保持する保持部材に前記位相調整板に近接して熱伝導制限機構としての溝を設けたので、位相調整板保持部3の断面積が小さくなり、位相調整板3からベースプレート4に流れる熱量を制限することができ、位相調整ヒータ2から位相調整板1へ投入された熱量が効率的に蓄積され、位相変化量を大きくすることができる。
【0024】
請求項2によれば、穴に熱伝導性の高い液体を注入し、前記熱伝導性の高い液体を前記穴から出し入れするための真空系を設けたので、位相調整板3からベースプレート4に流れる熱量を調節することができる。
【0025】
請求項3においては、穴にオイルまたは水銀を注入すると共に該オイルまたは水銀を出し入れするための真空系を設けたので、位相調整板3からベースプレート4に流れる熱量を調節することができる。
【0026】
請求項4においては、穴に磁性体を挿入し、該磁性体を出し入れするためのマグネットと、マグネットの移動機構を設けたので、位相調整板3からベースプレート4に流れる熱量を調節することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1は本発明の光位相調節器の断面を示す構成図であり、図6に示す従来例とは調整板保持部材に溝を設けた点のみが異なっている。
【0028】
即ち、ベースプレート4の表面の一端付近にL字状の位相調整保持部材3の一端が固定され、他端はベースプレートの他端側に延長されている。位相調整保持部材3の他端には位相調整板1の一端が接着剤6により固定され、他端はベースプレート4側に延長されている。
【0029】
接着剤6で固定された他方の面(位相調整板1の対面)には位相調節用ヒータ2が固定されている。5は透過光であり、図5におけるハーフミラー22を透過/分岐したL1,L2に相当する。
この透過光は図では省略するが保持部材3に遮られることなくコーナーキューブ(図5参照)側に進行するように構成されている。
【0030】
この例では屈折率変化に熱を用いるものを示しており、位相調整板1は最適な光軸位置に固定されている。そして、位相調整用ヒータ2の発生する熱で位相調整板1の温度を変化させることにより、位相調整板1の屈折率が変化し、透過する光の位相を変化させている。
【0031】
位相調整板保持部材3の他端(位相調整板が固定された側)付近には溝7が形成されている。この溝は位相調整板3から位相調節板を介してベースプレート4に流れる熱量の伝達防止機構として機能する。
即ち、溝を形成することにより位相調整板保持部3の断面積が小さくなり、位相調整板3からベースプレート4に流れる熱量を制限することができ、位相調整ヒータ2から位相調整板1へ投入された熱量が効率的に蓄積され、位相変化量を大きくすることができる。
この溝の場所や深さや幅は保持部材3からの熱量の伝導具合に合せて適宜決定する。
【0032】
図2(a〜d)は他の実施例を示すもので、図2(a)は位相調整板保持部3に穴を形成したものである。
【0033】
図2(b)は位相調整板保持部3の上部に穴を形成し、その穴に熱伝導性の高い液体(オイルや水銀10)を注入しポンプ9によって吸引する真空系を設けたたものである。真空度を調節することにより穴中のオイルや水銀の位置を調整し、放熱量を調整することができる。
【0034】
図2(c)は位相調整板保持部3の上部に穴を形成し、その穴に磁性流体12を注入すると共に該磁性流体を出し入れするための真空系を設けたものである。
真空度を調節することにより穴の中の磁性流体12の位置を調整し、放熱量を調整することで位相調整板3からベースプレート4に流れる熱量を調節することができる。
【0035】
図2(d)は位相調整板保持部3の上部に穴を形成し、その穴に磁性体(金属片13)を挿入し、磁性体を出し入れするためのマグネット11と、マグネット11の移動機構を設けたものである。位相調整板3からベースプレート4に流れる熱量を調節することができる。
【0036】
位相調節器の小型化により光透過部と接着部の距離が近接すると位相調整板の持つ光弾性効果が無視できなくなり位相調整板1と保持部材3の歪により位相調整板1に発生する応力によって、透過する光の偏光状態によって光の屈折率が変化する。これにより実効光路長が変化して位相が変動する。この位相の変動は本来の位相調整能力に対してノイズとして働き、位相調節器としての機能が低下する。
【0037】
また、位相調整板1が他の部品と他部品(例えばベースプレート)と接触すると、熱の流れに別経路が発生し、放熱条件が変化する。これによりヒータ2の発熱量が同じでも位相調整板の温度が変化することになり、位相調整量や応答速度が変化する。このことは本来の位相調節能力に対してノイズとして働き位相調節器としての性能が悪化するいう問題がある。
【0038】
図3は上述の問題を解決する実施形態の一例を示すもので、図1と同一部品には同一符号を付している。そして、この例においては位相調整板1と保持部材3が接着された付近の位相調整板1に溝7aを形成したものである。なお、溝7aの場所や深さや幅は位相調整量や応答速度の変化に合せて適宜決定する。
【0039】
図4は他の実施例を示すもので、この例においては図3に示す保持部材3を用いずに位相調整板1を接着剤6を用いてベースプレート4に直接接着し、更に位相調整板1が接着された部分からわずかに上方(透過光の光路に支障のない位置)に溝7aを形成したものである。この例においても溝7aの場所や深さや幅は位相調整量や応答速度の変化に合せて適宜決定する。
【0040】
図3の構成によれば、位相調整板に加わる応力を減少させることができ光弾性効果に対する悪影響を防止することができる。また、図4によれば、位相調整板からの放熱経路が限定され位相調節量のばらつきを抑えることができる。
【0041】
なお、以上の説明は、本発明の説明および例示を目的として特定の好適な実施例を示したに過ぎない。従って本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の光位相調節器の実施形態の一例を示す断面構成図である。
【図2】本発明の光位相調節器の他の実施例を示す断面構成図である。
【図3】本発明の光位相調節器の他の実施例を示す断面構成図である。
【図4】本発明の光位相調節器の他の実施例を示す断面構成図である。
【図5】本発明が適用される干渉計の要部構成を示す図である。
【図6】従来の光位相調節器を示す断面構成図である。
【符号の説明】
【0043】
1 位相調整板
2 ヒータ
3 位相調節板保持部材
4 ベースプレート
5 透過光
6 接着剤
7 溝
8 穴
9 ポンプ
10 オイル
11 マグネット
12 磁性流体
13 金属片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位相調整板の温度による屈折率の変化を利用して光の位相を調整する位相調節器において、
前記位相調整板を保持する保持部材に前記位相調整板に近接して熱伝導制限機構を設けたことを特徴とする位相調節器。
【請求項2】
前記熱伝導制限機構は溝であることを特徴とする請求項1に記載の位相調節器。
【請求項3】
前記熱伝導制限機構は穴とされ、該穴に熱伝導性の高い液体を注入し、前記熱伝導性の高い液体を前記穴から出し入れするための真空系を設けたことを特徴とする請求項1に記載の位相調節器。
【請求項4】
前記熱伝導制限機構は穴とされ、該穴にオイルまたは水銀を注入すると共に該オイルまたは水銀を出し入れするための真空系を設けたことを特徴とする請求項1に記載の位相調節器。
【請求項5】
前記熱伝導制限機構は穴とされ、該穴に磁性体を挿入し、該磁性体を出し入れするためのマグネットと、マグネットの移動機構を設けたことを特徴とする請求項1に記載の位相調節器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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