説明

位置決めガイド付き歯列矯正用ブラケットの作製方法

【課題】患者の各歯についてその舌側面及び/又は頬側面に接着固定する位置決めガイド付き歯列矯正用ブラケットの作製方法を提供する。
【解決手段】歯列矯正用ワイヤWに装着された各歯列矯正用ブラケットBの接着面に下地剤として第一歯科用光重合型組成物を薄く塗布し、第一歯科用光重合型組成物に対して接着性を有する第二歯科用光重合型組成物を歯列矯正用ブラケットBの接着面に盛って、患者の歯列を再現した歯列石膏模型3の予め分離剤を塗布しておいた歯面に粘着させ光を照射して第一及び第二歯科用光重合型組成物を重合硬化させ、次いで歯列石膏模型3上の歯列矯正用ブラケットBの周囲の舌側面全面及び/又は頬側面全面に咬合圧が作用すると容易に摩耗する第三歯科用光重合型組成物4を、薄く塗布し光を照射して少なくとも第二歯科用光重合型組成物と一体となるように重合硬化させて位置決めガイド付き歯列矯正用ブラケットを作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の各歯についてその舌側面及び/又は頬側面に接着固定する位置決めガイド付き歯列矯正用ブラケットの作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯列矯正では、歯列矯正用ブラケットの取付位置の僅かな違いによって、歯の動きが大きく異なるため、適切な位置に歯列矯正用ブラケットを取り付けることが非常に重要である。
【0003】
そこで歯列矯正用ブラケットの取付位置をより正確に決めるために、患者の歯列を再現した歯列石膏模型上で予め歯科技工士が歯列矯正用ブラケットの取付位置を決め、患者の歯に正確に取り付けられるように調整した後に、患者の歯に歯列矯正用ブラケットを取り付ける方法(間接法、インダイレクトボンディング)も行われている。しかしながら、このように予め歯列石膏模型上で取付位置を決めても、実際に患者の歯に取り付ける際にズレが生じ易く正確な取付位置を再現することは難しいのである。
【0004】
このような問題に対して、患者の歯列石膏模型の各歯に対して、歯科矯正用のブラケットをそれぞれ位置決めし、未硬化状態のレジンを歯列石膏模型の各歯に供給して、歯と当該歯に位置決めされているブラケットのベースとの間に充填されたアドバンス部と、当該アドバンス部から歯の切縁または咬合面まで延びるコア部とが一体成形されたブラケット取り付け用のレジン製個別コアを各歯毎に別個に形成し、前記ブラケットと一体化された状態のブラケット取り付け用のレジン製個別コアを、前記歯列石膏模型の各歯から取り外し、取り外した前記ブラケット取り付け用のレジン製個別コアのそれぞれを、対応する患者の各歯に取り付けて接着し、各ブラケット取り付け用のレジン製個別コア部を除去することを特徴とする歯科矯正装置のブラケット取り付け方法がある(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
このような取り付け方法を用いれば、各歯毎に別個に形成されコア部は患者の各歯の切縁や咬合面と一致する形状を成しているので、このコア部を患者の実際の各歯に被せるように装着するだけで、正確な位置に取り付けることができる。しかしながら、この方法ではコア部の厚さがアドバンス部と同程度に厚いため、対応する患者の各歯にブラケットを取り付け後に、不要となった各コア部をそれぞれ除去する必要があり、非常に手間がかかる上に、除去する際に取付位置がズレるなどの問題も生じ易い。また各コア部を完全に取り除かないと、残ったレジンによって咬合の際に噛み合わせる歯の切縁又は咬合面を傷付けることがある。更にこの方法では、アドバンス部とコア部とを形成するためのレジンに常温重合レジンを使用しているため、操作時間に制限が生じ対応する患者の各歯に合致した形状のレジン製個別コアを形成することが難しいという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−99161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記の問題に鑑み、歯列矯正用ブラケットを正確な位置に容易に取り付けることができ、また歯列矯正用ブラケットを取り付け後にレジン等を取り除く必要もなく、また残ったレジン等によって歯の切縁又は咬合面が傷付けられることがないと共に操作時間に余裕を持って作製することができる位置決めガイド付き歯列矯正用ブラケットの作製方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、歯列矯正用ワイヤに装着された各歯列矯正用ブラケットの歯面との接着面に下地剤として第一歯科用光重合型組成物を薄く塗布し、更に歯列矯正用ブラケットを患者の歯に接着する際に歯面と歯列矯正用ブラケットの接着面との間に生じる隙間を埋めるために前記第一歯科用光重合型組成物に対して接着性を有する第二歯科用光重合型組成物を歯列矯正用ブラケットの接着面に盛って、患者の歯列を再現した歯列石膏模型の予め分離剤を塗布しておいた歯面に粘着させ光を照射して前記第一歯科用光重合型組成物及び前記第二歯科用光重合型組成物を重合硬化させ、次いで歯列石膏模型上の歯列矯正用ブラケットの周囲の舌側面全面及び/又は頬側面全面に咬合圧が作用すると容易に摩耗する第三歯科用光重合型組成物を、薄く塗布し光を照射して少なくとも第二歯科用光重合型組成物と一体となるように重合硬化させて、患者の各歯についてその舌側面及び/又は頬側面に接着固定する位置決めガイド付き歯列矯正用ブラケットを作製すれば、歯列石膏模型上の歯面と予め下地剤を塗布した歯列矯正用ブラケットの接着面との間に、第二歯科用光重合型組成物を盛って硬化させることによって、歯面にその起伏に合致した面を形成させて歯列矯正用ブラケットを安定した状態で取り付けることができ、そしてこの歯列石膏模型上の歯列矯正用ブラケットの周囲の舌側面全面及び/又は頬側面全面に第三歯科用光重合型組成物を薄く塗布して硬化させることによって、歯列矯正用ブラケットが位置する歯面の形状は第二歯科用光重合型組成物で、歯列矯正用ブラケットが位置しない部分の歯面の形状は第三歯科用光重合型組成物によってそれぞれ転写され、これらが舌側面全面及び/又は頬側面全面の形状を転写させた位置決めガイド部となり、このガイド部が嵌るように実際の歯面に取り付けていけば、正確な取付位置に確実に取り付けることができ、また歯の切縁又は咬合面には厚さが厚いコア部が存在しないので、不要な部分を除去するなどの手間も必要なく、特に歯列矯正用ブラケットの周囲に塗布する第三歯科用光重合型組成物を咬合圧が作用すると容易に摩耗するもので構成されているので咬合の際に第三歯科用光重合型組成物が噛み合わせた歯の切縁に当たるような場合であっても、第三歯科用光重合型組成物によって歯が傷付くようなことがなく、また第三歯科用光重合型組成物によって噛み合わせが悪くなった場合でも、第三歯科用光重合型組成物は容易に摩耗して自然に取り除かれると共に、使用する第一、第二及び第三歯科用光重合型組成物がそれぞれ光重合型の組成物であるから、光を照射しない限り重合硬化しないので、操作時間に余裕を持って位置決めガイド付き歯列矯正用ブラケットを作製することができることを究明して本発明を完成したのである。
【0009】
即ち本発明は、患者の各歯についてその舌側面及び/又は頬側面に接着固定する位置決めガイド付き歯列矯正用ブラケットの作製方法であって、歯列矯正用ワイヤに装着された各歯列矯正用ブラケットの歯面との接着面に下地剤として第一歯科用光重合型組成物を薄く塗布し、更に歯列矯正用ブラケットを患者の歯に接着する際に歯面と歯列矯正用ブラケットの接着面との間に生じる隙間を埋めるために前記第一歯科用光重合型組成物に対して接着性を有する第二歯科用光重合型組成物を盛って、患者の歯列を再現した歯列石膏模型の予め分離剤を塗布しておいた歯面に粘着させ光を照射して前記第一歯科用光重合型組成物及び前記第二歯科用光重合型組成物を重合硬化させ、次いで歯列石膏模型上の該歯列矯正用ブラケットの周囲の舌側面全面及び/又は頬側面全面に咬合圧が作用すると容易に摩耗する第三歯科用光重合型組成物を、薄く塗布し光を照射して少なくとも第二歯科用光重合型組成物と一体となるように重合硬化させて作製することを特徴とする位置決めガイド付き歯列矯正用ブラケットの作製方法である。
【0010】
また患者の歯列を再現した歯列石膏模型が、採得した印象に基づいて作製した歯列石膏模型であれば、正確且つ容易に作製できて好ましく、またこの歯列石膏模型が、採得した印象に基づいて作製した歯列石膏模型から各歯を分離して矯正後に位置させようとする位置に移動させて固定させた歯列石膏模型であれば、最終的に位置させたい矯正後の位置を基にして歯列矯正用ブラケットの取付位置を正確に決めることができて好ましいのである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る位置決めガイド付き歯列矯正用ブラケットの作製方法は、患者の各歯についてその舌側面及び/又は頬側面に接着固定する位置決めガイド付き歯列矯正用ブラケットの作製方法であって、歯列矯正用ワイヤに装着された各歯列矯正用ブラケットの歯面との接着面に下地剤として第一歯科用光重合型組成物を薄く塗布し、更に歯列矯正用ブラケットを患者の歯に接着する際に歯面と歯列矯正用ブラケットの接着面との間に生じる隙間を埋めるために前記第一歯科用光重合型組成物に対して接着性を有する第二歯科用光重合型組成物を歯列矯正用ブラケットの接着面に盛って、患者の歯列を再現した歯列石膏模型の予め分離剤を塗布しておいた歯面に粘着させ光を照射して前記第一歯科用光重合型組成物及び前記第二歯科用光重合型組成物を重合硬化させ、次いで歯列石膏模型上の歯列矯正用ブラケットの周囲の舌側面全面及び/又は頬側面全面に咬合圧が作用すると容易に摩耗する第三歯科用光重合型組成物を、薄く塗布し光を照射して少なくとも第二歯科用光重合型組成物と一体となるように重合硬化させて、位置決めガイド付き歯列矯正用ブラケットを作製する方法であるから、歯列石膏模型上の歯面と、予め下地剤を塗布した歯列矯正用ブラケットの接着面との間に、第二歯科用光重合型組成物を盛って硬化させることによって、歯面にその起伏に対応した面を形成させて歯列矯正用ブラケットを安定した状態で取り付けることができ、そしてこの歯列石膏模型上の歯列矯正用ブラケットの周囲の舌側面全面及び/又は頬側面全面に第三歯科用光重合型組成物を薄く塗布して硬化させることによって、歯列矯正用ブラケットが位置する歯面の形状は第二歯科用光重合型組成物で、歯列矯正用ブラケットが位置しない部分の歯面の形状は第三歯科用光重合型組成物によってそれぞれ転写され、これらが舌側面全面及び/又は頬側面全面の形状を転写させた位置決めガイド部となり、このガイド部が嵌るように実際の歯面に取り付けていけば、正確な取付位置に確実に取り付けることができ、また歯の切縁又は咬合面には厚さが厚いコア部が存在しないので、不要な部分を除去するなどの手間も必要なく、特に歯列矯正用ブラケットの周囲に塗布する第三歯科用光重合型組成物を咬合圧が作用すると容易に摩耗するもので構成されているので咬合の際に第三歯科用光重合型組成物が噛み合わせた歯の切縁に当たるような場合であっても、第三歯科用光重合型組成物によって歯が傷付くようなことがなく、また第三歯科用光重合型組成物によって噛み合わせが悪くなった場合でも、第三歯科用光重合型組成物は容易に摩耗して自然に取り除かれるのである。更に本発明に係る位置決めガイド付き歯列矯正用ブラケットの作製方法において使用する第一、第二及び第三歯科用光重合型組成物は、それぞれ光重合型の組成物であるから、光を照射しない限り重合硬化しないので、操作時間に余裕を持って位置決めガイド付き歯列矯正用ブラケットを作製することができるのである。
【0012】
また、患者の歯列を再現した歯列石膏模型が、採得した印象に基づいて作製した歯列石膏模型である態様では、正確且つ容易に作製できて好ましく、採得した印象に基づいて作製した歯列石膏模型から各歯を分離して矯正後に位置させようとする位置に移動させて固定させた歯列石膏模型である態様では、最終的に位置させたい矯正後の位置を基にして歯列矯正用ブラケットの取付位置を正確に決めることができて好ましいのである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】歯列矯正用ワイヤに装着された歯列矯正用ブラケットの歯面との接着面に下地剤として第一歯科用光重合型組成物を薄く塗布する様子を示す斜視図である。
【図2】第一歯科用光重合型組成物の塗布後に、更に第二歯科用光重合型組成物を盛っている様子を示す斜視図である。
【図3】図2の状態の歯列矯正用ブラケットを採得した印象に基づいて作製した歯列石膏模型から各歯を分離して矯正後に位置させようとする位置に移動させて固定させた歯列石膏模型の歯の舌側面に粘着させて位置決めをする様子を示す斜視図である。
【図4】図3の状態から光を照射して重合硬化させる様子を示す斜視図である。
【図5】歯列矯正用ブラケットの周囲の舌側面全面に第三歯科用光重合型組成物を薄く塗布する様子を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明に係る位置決めガイド付き歯列矯正用ブラケットの作製方法について詳細に説明する。
【0015】
図面中、Wは歯列矯正用ワイヤ、Bはこの歯列矯正用ワイヤWに装着された歯列矯正用ブラケット、GBは位置決めガイド付き歯列矯正用ブラケットである。
【0016】
1は、歯列矯正用ワイヤWに装着された各歯列矯正用ブラケットBの歯面との接着面Baに下地剤として薄く塗布される第一歯科用光重合型組成物である。この第一歯科用光重合型組成物1としては、主原料として(メタ)アクリレート化合物と無機フィラーとを含み、少量の光重合触媒が添加されたものなどが利用でき、特に下地剤として薄く塗布するため粘性の低いものが好ましく利用できる。
【0017】
2は、第一歯科用光重合型組成物1に対して接着性を有し、歯列矯正用ブラケットBを患者の歯に接着する際に歯面と歯列矯正用ブラケットBの接着面Baとの間に生じる隙間を埋めるために歯列矯正用ブラケットBの接着面Baに盛る第二歯科用光重合型組成物である。この第二歯科用光重合型組成物2も主原料として(メタ)アクリレート化合物と無機フィラーとを含み、少量の光重合触媒が添加されたものなどが利用できるが、歯面と歯列矯正用ブラケットBの接着面Baとの間の隙間を埋めるために歯列矯正用ブラケットBの接着面Baに盛る必要があるので、粘性の高いものが好ましく利用できる。
【0018】
3は、患者の歯列を再現した歯列石膏模型である。このような歯列石膏模型3としては、採得した印象に基づいて作製した歯列石膏模型であれば、正確且つ容易に作製できて好ましく、またこの歯列石膏模型3が、採得した印象に基づいて作製した歯列石膏模型から各歯を分離して矯正後に位置させようとする位置に移動させて固定させた歯列石膏模型であれば、最終的に位置させたい矯正後の位置を基にして歯列矯正用ブラケットBの取付位置を正確に決めることができて好ましいのである。
【0019】
4は、咬合圧が作用すると容易に摩耗し、歯列石膏模型3上の歯列矯正用ブラケットBの周囲の舌側面全面及び/又は頬側面全面に薄く塗布される第三歯科用光重合型組成物である。この第三歯科用光重合型組成物4としては、咬合圧が作用すると容易に摩耗するように、(メタ)アクリレート化合物に有機フィラーを加えたものを利用することができるが、これだけでは十分な強度や剛性が得られない場合があるので、十分な強度や剛性が得られる程度に無機フィラーを加え、また少量の光重合触媒が添加されたものが好ましく利用できる。
【0020】
本発明に係る第一歯科用光重合型組成物1,第二歯科用光重合型組成物2及び第三歯科用光重合型組成物4に含まれる(メタ)アクリレート化合物は、アクリレート又はメタクリレートの各種のモノマー,オリゴマー,プレポリマーを意味している。
(メタ)アクリレートとして具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジ(メタ)アクリロキシプロパン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレートが挙げられ、これらのモノマーあるいはオリゴマーあるいはプレポリマーが好適に使用できる。また、ウレタン結合を持つ(メタ)アクリレートとして、ジ−2−(メタ)アクリロキシエチル−2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジカルバメート、1,3,5−トリス[1,3−ビス{(メタ)アクリロイルオキシ}−2−プロポキシカルボニルアミノヘキサン]−1,3,5−(1H,3H,5H)トリアジン−2,4,6−トリオン、2,2−ビス−4−(3−(メタ)アクリルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−フェニルプロパン等があり、その他2,2’−ジ(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンと2−オキシパノンとヘキサメチレンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとからなるウレタンオリゴマーの(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールとヘキサメチレンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとからなるウレタンオリゴマーの(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0021】
また第一歯科用光重合型組成物1,第二歯科用光重合型組成物2及び第三歯科用光重合型組成物4に含まれる無機フィラーとしては、無水ケイ酸、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、アルミナガラス、カリウムガラス、フルオロアルミノシリケートガラス等のガラス類、合成ゼオライト、リン酸カルシウム、長石、ヒュームドシリカ、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、炭酸マグネシウム、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、チタニア、含水ケイ酸、含水ケイ酸カルシウム、含水ケイ酸アルミニウム、石英等の粉末が使用できる。また無孔質のアトマイズド法のコロイダルシリカ、無孔質のコロイダルアルミナ、無孔質のコロイダルチタニア、無孔質の湿式法のコロイダルシリカも使用できる。
【0022】
第三歯科用光重合型組成物4に含まれる有機フィラーとしては、架橋剤を含むメタクリレート、アクリレート若しくはスチレンのホモポリマー、又はそのコポリマーが使用できる。具体的には、トリメチロールプロパントリメチルメタクリート又はそのアクリレート、その他の架橋剤等で架橋されたホモポリマーまたはそのコポリマー等がある。
【0023】
これらの各フィラーは(メタ)アクリレートと結合させるために、γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリ(メトキシエトキシ)シラン等のシランカップリング剤で表面処理されていてもよい。
【0024】
第一歯科用光重合型組成物1,第二歯科用光重合型組成物2及び第三歯科用光重合型組成物4に含まれる光重合触媒としては、開始剤と還元剤との組合せが一般に用いられる。開始剤には、カンファーキノン、ベンジル、ジアセチル、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルジ(2−メトキシエチル)ケタール、4,4‘−ジメチルベンジル−ジメチルケタール、アントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−クロロアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、1−ヒドロキシアントラキノン、1−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、1−ブロモアントラキノン、チオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−ニトロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2−クロロ−7−トリフルオロメチルチオキサントン、チオキサントン−10,10−ジオキシド、チオキサントン−10−オキサイド、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、イソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾフェノン、ビス(4−ジメチルアミノフェニル)ケトン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、アシルフォスフィンオキサイドの誘導体、アジド基を含む化合物などがあり、1種もしくは2種以上を混合して使用される。還元剤としては3級アミン等が一般に使用される。3級アミンとしては、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、トリエタノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルが好ましい。また他の還元剤として、ベンゾイルパーオキサイド、スルフィン酸ソーダ誘導体、有機金属化合物等が挙げられる。
【0025】
次に本発明に係る作製方法によって、実際に位置決めガイド付き歯列矯正用ブラケットGBを作製するには、先ず患者の歯列を再現した歯列石膏模型3を作製する。この歯列石膏模型3を予め患者から採得した印象に基づいて作製すれば、正確且つ容易に患者の歯列を再現することができる。そしてこの歯列石膏模型3の歯列は現在の患者の歯列と同一であるから、このような歯列石膏模型3に基づいて歯列矯正用ブラケットBの位置決めをすれば、非常に正確に位置決めをすることができる。そして、本発明に係る作製方法によって作製された位置決めガイド付き歯列矯正用ブラケットGBは後述するように位置決めガイドを有していて歯列石膏模型3で決めた位置を患者の実歯に正確に再現できるのである。
【0026】
なお、このような患者から採得した印象に基づいて作製した歯列石膏模型3は、矯正前の歯列状態を表しているので、実際の治療では矯正後の歯列状態を想像しながら、矯正前の各歯にそれぞれ適した力が加わるように、歯列矯正用ワイヤW等を調整しなければならずその調整が非常に難しい。
【0027】
そこで、前述の患者から採得した印象に基づいて歯列石膏模型3を作製した後に、各歯を歯列石膏模型3から一旦分離して、矯正後に位置させようとする位置まで各歯を移動させた歯列石膏模型3を使用することができる。
この場合は、理想とする歯列状態の歯列石膏模型3において、歯列矯正用ブラケットBの位置決めをしてから、実際の矯正前の患者の歯に取り付けられるので、歯列矯正用ブラケットBの取付位置が理想的な位置となるのである。これは、本発明に係る作製方法によって作製された位置決めガイド付き歯列矯正用ブラケットGBは後述するように位置決めガイドを有していて歯列石膏模型3で決めた位置を患者の実際の歯に正確に再現できるので、このような理想的な歯列状態にした歯列石膏模型3を使用することが可能となるのである。
【0028】
次にこのような歯列石膏模型3を使用して実際に位置決めガイド付き歯列矯正用ブラケットGBを作製するには、先ず、予め歯列矯正用ワイヤWに装着された各歯列矯正用ブラケットBを準備し、図1の如く各歯列矯正用ブラケットBの接着面Baに下地剤として第一歯科用光重合型組成物1を薄く塗布する。
このように第一歯科用光重合型組成物1を塗布して歯列矯正用ブラケットBの接着面Baに第二歯科用光重合型組成物2用のプライマー層を形成した状態で、この第一歯科用光重合型組成物1と接着性を有する第二歯科用光重合型組成物2を図2の如く盛るのである。
【0029】
このように歯列矯正用ブラケットBの接着面Baに第二歯科用光重合型組成物2が盛られた状態で、図3の如く歯列石膏模型3上の予め分離剤を塗布しておいた歯の舌側面に第二歯科用光重合型組成物2を介して歯列矯正用ブラケットBを粘着させて仮留めしていくのである。そして取付位置の決まった歯列矯正用ブラケットBに対して図4のように光を照射して第一歯科用光重合型組成物1及び第二歯科用光重合型組成物2を重合硬化させるのである。
【0030】
次に、図5の如く、歯列石膏模型3上の歯列矯正用ブラケットBの周囲の舌側面全面に第三歯科用光重合型組成物4を薄く塗布する。そして、光を照射して少なくとも第二歯科用光重合型組成物2と一体となるように、第三歯科用光重合型組成物4を重合硬化させれば、歯列石膏模型3から取り外した際に、歯科用ブラケットBと3つの歯科用光重合型組成物とが全体で一体となった状態で取り外すことができるのである。
【0031】
このように、位置決めガイド付き歯列矯正用ブラケットGBは、歯列矯正用ブラケットBが位置する舌側面の形状が第二歯科用光重合型組成物2で、歯列矯正用ブラケットBが位置しない部分の舌側面の形状が第三歯科用光重合型組成物4によってそれぞれ転写され、これらに舌側面全面の形状が転写されているから、この位置決めガイドに接着剤を塗布して実際の歯の舌側面に嵌るように取り付けていけば、正確な取付位置に確実に取り付けることができるのである。
【0032】
また、本発明に係る作製方法によって作製された位置決めガイド付き歯列矯正用ブラケットGBは、歯の頬側面に取り付けるような場合であっても同様に作製できるので、図示していないが、例えば見た目が気になる前歯に対しては舌側面に、臼歯に対しては装着等が容易な頬側面に取り付けるようにすることもでき、また装着等が容易な頬側面側にのみ装着するように作製することもできる。
【0033】
また歯列矯正では、歯列矯正用ブラケットB及び歯列矯正用ワイヤWの組合せに代えて、形状や装着状態も略同じである歯科矯正用チューブ及び歯科矯正用ペンデュラムの組合せが使用されることがある。この歯科矯正用チューブは歯列矯正用ブラケットBと略同じ形状をなし、また歯科矯正用チューブを歯科矯正用ペンデュラムに装着した状態と、歯列矯正用ブラケットBを歯列矯正用ワイヤWに装着した状態に殆ど差異はないので、全く異なることなく、本発明の作製方法が使用できる。また歯科矯正用チューブは一般に歯の舌側面に装着されるが、上述のように本発明に係る作製方法では舌側面側に対しても容易に作製できるのである。
【符号の説明】
【0034】
1 第一歯科用光重合型組成物
2 第二歯科用光重合型組成物
3 歯列石膏模型
4 第三歯科用光重合型組成物
B 歯列矯正用ブラケット
Ba 歯面との接着面
GB 位置決めガイド付き歯列矯正用ブラケット
W 歯列矯正用ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の各歯についてその舌側面及び/又は頬側面に接着固定する位置決めガイド付き歯列矯正用ブラケット(GB)の作製方法であって、
歯列矯正用ワイヤ(W)に装着された各歯列矯正用ブラケット(B)の歯面との接着面(Ba)に下地剤として第一歯科用光重合型組成物(1)を薄く塗布し、更に歯列矯正用ブラケット(B)を患者の歯に接着する際に歯面と歯列矯正用ブラケット(B)の接着面(Ba)との間に生じる隙間を埋めるために前記第一歯科用光重合型組成物(1)に対して接着性を有する第二歯科用光重合型組成物(2)を歯列矯正用ブラケット(B)の接着面(Ba)に盛って、患者の歯列を再現した歯列石膏模型(3)の予め分離剤を塗布しておいた歯面に粘着させ光を照射して前記第一歯科用光重合型組成物(1)及び前記第二歯科用光重合型組成物(2)を重合硬化させ、次いで歯列石膏模型(3)上の該歯列矯正用ブラケット(B)の周囲の舌側面全面及び/又は頬側面全面に咬合圧が作用すると容易に摩耗する第三歯科用光重合型組成物(4)を、薄く塗布し光を照射して少なくとも第二歯科用光重合型組成物(2)と一体となるように重合硬化させて作製することを特徴とする位置決めガイド付き歯列矯正用ブラケットの作製方法。
【請求項2】
患者の歯列を再現した歯列石膏模型(3)が、採得した印象に基づいて作製した歯列石膏模型であるか、又は採得した印象に基づいて作製した歯列石膏模型を各歯を分離して矯正後に位置させようとする位置に移動させて固定させた歯列石膏模型である請求項1に記載の位置決めガイド付き歯列矯正用ブラケットの作製方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate