説明

低い反応成分比を用いて、PEG−ヘモグロビン結合体を調製するための方法

本発明は、一般に、低い反応成分比を用いて、ポリエチレングリコール(「PEG」)結合体化ヘモグロビン(「Hb」)を調製するための方法に関する。より具体的には、本発明は、高められた収量および純度でPEG結合体化Hb(「PEG−Hb」)を調製するための方法に関する。上記方法は、a)水性希釈剤中でヘモグロビン(Hb)を2−イミノチオラン(2−IT)と混合してチオール化Hbを形成する工程;および該水性希釈剤中でポリエチレングリコール(PEG)−マレイミド(Mal)を該チオール化Hbに加えてPEG−Hb結合体を形成する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、一般に、低い反応成分比を用いて、ポリエチレングリコール(「PEG」)結合体化ヘモグロビン(「Hb」)を調製するための方法に関する。より具体的には、本発明は、高められた収量および純度でPEG結合体化Hb(「PEG−Hb」)を調製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
酸素療法(時折、「酸素を運搬する血漿増量剤」と称される)として有用である酸素運搬体は、以下の3つカテゴリーに分類され得る:i)ペルフルオロカーボンベースのエマルジョン、ii)リポソーム封入(liposome−encapsulated)Hb、およびiii)改変されたHb。下で議論されるように、どれも完全にうまくいったというわけではないが、改変された、細胞を含まないHbを含む生成物は、最も見込みがあると考えられる。過フルオロ化合物ベースのエマルジョンは、リガンドとして酸素を結合することとは対照的に酸素を溶解させる。生物学的システムにおいて使用されるために、上記過フルオロ化合物は、脂質、代表的に卵黄リン脂質で、乳化されなければならない。ペルフルオロカーボンエマルジョンは、製造するのに費用がかからないが、それらは、有効であるのに十分な酸素を、臨床的に許容される用量で運搬しない。反対に、リポソーム封入Hbは、有効であると示されているが、普及して使用するには費用がかかりすぎる(一般に、Winslow,R.M.,「Hemoglobin−based Red Cell Substitutes」,Johns Hopkins University Press,Baltimore(1992)を参照のこと)。
【0003】
赤血球代用物として、赤血球溶血物由来の遊離Hbを利用する最初の試みは、うまくいかなかった。ストローマの構成要素は、毒性であることが見出され、凝固障害および関連する腎不全をもたらした。1967年に、ストローマフリーのHb(「SFH」)溶液が調製された(Rabiner,S.F.et al.,1967,J.Exp.Med.126:1127−1142)。しかし、それらは、わずか約100分間の輸血半減期を有することが見出された。
【0004】
SFHの短い循環半減期の理由は、そのタンパク質がその四量体形態から二量体に解離する能力に起因し、それは腎臓によって循環から迅速に濾過される。従って、Hbの管外遊出を制限または防ぐために、架橋Hbのための多数の方法、および高分子との結合体化によってHbの流体力学的サイズを増加させるための他の手段が考案されてきた。SFHを架橋することによるポリ−Hbの形成が、特許文献1、および特許文献2に記載される。サブユニット間のアミノ酸残基を結合する、内部架橋Hbは、ジアスピリン(特許文献3に記載されるようなビス−3,5−ジブロモサリチレート(bis−3,5−dibromosaliocylate)のジエステル)、または2−N−2−ホルミル−ピリドキサル−5’−ホスフェート、および水素化ホウ素(Benesch,R.E.et al,.1975,Biochem.Biophys.Res.Commun.62:1123−1129)を用いて達成され得る。二量体の形成を防ぐための四量体Hbユニットのサブユニットを化学的に結合する分子内架橋は、特許文献4に開示される。さらに、Simon,S.R.およびKonigsberg,W.H.は、分子内架橋Hbを生成するためのビス−(N−マレイミドメチル)エーテル(「BME」)の使用を開示し(1966,PNAS 56:749−56)、その分子内架橋Hbは、ラットおよびイヌに注入されるときに、半減期が4倍増加することが報告された(Bunn,H.F.et al.,1969,J.Exp.Med.129:909−24)。しかし、HbとBMEとの架橋は、同時に、Hbの酸素親和性における増加をもたらし、このことは、当時は、潜在的なHb−ベースの酸素運搬体(「HBOC」)としてのその使用を妨げると考えられた。
【0005】
SFHはまた、他の高分子(例えば、デキストラン)(Chang,J.E.et al,.1977,Can.J.Biochem.55:398−403)、ヒドロキシエチルデンプン(特許文献5)、ゼラチン(特許文献6)、アルブミン(特許文献6)、およびPEG(特許文献7、特許文献8、特許文献9、および特許文献10)に繋がれた。
【0006】
これらの酸素運搬溶液の生理的効果のいくつかは、完全には理解されていない。これらのうち、おそらく最も議論の的となるものは、動物およびヒトにおいて高血圧症として現れ得る、血管収縮を引き起こす傾向である(Amberson,W.,1947,Science 106:117−117)(Keipert,P.et al.,1993,Transfusion 33:701−708)。α−鎖とビス−ジブロモサリチル−フマレートとの間で架橋されるヒトHb(「ααHb」)は、モデル赤血球代用物として、米国陸軍によって開発されたが、それが、肺および全身の血管抵抗の深刻な増加を示した後に断念された(Hess,J.et al.,1991,Blood 78:356A)。この生成物の市販版はまた、期待はずれの第三相臨床試験後に断念された(Winslow,R.M.,2000,Vox Sang 79:1−20)。
【0007】
細胞を含まないHbによって生み出される血管収縮についての最も一般的な説明は、それが、内皮由来血管弛緩因子(EDRF)である、一酸化窒素(「NO」)を容易に結合するということである。2つの分子アプローチは、HbのNO結合活性を克服する試みにおいて進歩してきた。第一のアプローチは、組換えDNAを利用することであり、このアプローチは遠位ヘムポケットの部位特異的変異誘発によって、HbのNO結合を低減することを試みた(Eich,R.F.et al.,1996,Biochem.35:6976−83)。第二のアプローチは、Hbのサイズがオリゴマー化を介して高められる化学的改変を利用し、このアプローチは血管裂孔(vascular space)から組織間隙(interstitial space)へのHbの管外遊出を低減するか、またはそれをできる限り完全に阻害することを試みた(Hess,J.R.et al.,1978,J.Appl.Physiol.74:1769−78;Muldoon,S.M.et al.,1996,J.Lab.Clin.Med.128:579−83;Macdonal,V.W.et al.,1994,Biotechnology 22:565−75;Furchgott,R.,1984,Ann.Rev.Pharmacol.24:175−97;およびKilbourne,R.et al.,1994,Biochem.Biophys.Res.Commun.199:155−62)。
【0008】
実際に、NOへの親和性が低減した組換えHbが生み出されている。このものは、最大負荷(top−load)したラット実験において、高血圧性がより低い(Doherty,D.H.etg al.1998,Nature Biotechnology 16:672−676、およびLemon,D.D.et al.1996,Biotech 24:378)。しかし、研究は、NO結合がHbの血管作用に対する唯一の説明ではない可能性があることを示唆する。特定の大きなHb分子(例えば、PEGを用いて改変されたもの)は、たとえ、それらのNO結合速度が、重度に高血圧性のααHbのものと同一であっても、事実上、高血圧作用を有さないことが見出されている(Rohlfs,R.J.et al.1998,J Biol.Chem.273:12128−12134)。さらに、PEG−Hbは、出血の前の交換輸血として与えられるとき、結果として起こる出血を防ぐことにおいて並外れて有効であることが見出された(Winslow,R.M.et al.1998,J.Appl.Physiol.85:993−1003)。
【0009】
Hbに対するPEGの結合体化は、その抗原性を低減し、その循環半減期を延長する。しかし、上記PEG結合体化反応は、αβ−二量体サブユニットへのHb四量体の解離をもたらし、40,000ダルトン(「Da」)より小さいHbモノマー単位のPEG−結合体を受けて交換輸血されたラットにおいて肉眼的(gross)ヘモグロビン尿症を引き起こすことが報告されている(Iwashita and Ajisaka Organ−Directed Toxicity:Chem.Indicies Mech.,Proc.Symp.,Brown et al.1981,Eds.Pergamon,Oxford,England pgs 97−101)。84,000Daよりも大きい分子量を有するポリアルキレンオキシド(「PAO」)結合体化Hbは、Enzon,Inc.によって調製され(特許文献11)、それは、Hbのαおよびε−アミノ基においてHbに繋げられた10コピーのPEG−5,000鎖を有した。この置換の程度は、哺乳動物においてヘモグロビン尿症に関連する、臨床的に重要な腎毒性を避けるとして記載された。しかし、上記結合体化反応は、不均一な結合体集団をもたらし、カラムクロマトグラフィーによって除去されなければならない他の望ましくない反応成分を含んだ。
【0010】
PEG結合体化は、代表的に、生体分子の表面上の官能基と活性化されたPEGとの反応を介して実施される。最も一般的な官能基は、リジン残基およびヒスチジン残基のアミノ基、ならびにタンパク質のN末端;システイン残基のチオール基;そして、セリン残基、トレオニン残基、およびチロシン残基のヒドロキシル基、ならびに上記タンパク質のC末端である。PEGは、通常、ヒドロキシル末端を、温和な水性環境においてこれらの官能基と反応することが可能な、反応性の部分に転換することによって、活性化される。治療用生物製剤(biopharmaceutical)の結合体化に使用される最も一般的な一官能性PEGのうちの1つは、メトキシ−PEG(「mPEG」)であり、これは、たった1つの官能基(すなわち、ヒドロキシル)を有し、従って、二官能性PEGに関連する架橋および凝集の問題を最小限にする。しかし、mPEGは、しばしば高分子量の二官能性PEG(すなわち、「PEGジオール」)が夾雑しており、それはその製造プロセスに起因して、10%〜15%ほど高い範囲に及び得る(Dust J.M.et al.1990,Macromolecule 23:3742−3746)。この二官能性PEGジオールは、所望される一官能性PEGのおおよそ2倍のサイズを有する。その夾雑の問題は、PEGの分子量が増加するに従って、さらに悪化する。mPEGの純度は、FDAが、高レベルの、製造プロセスにおける再現性および最終薬物生成物の質を要求するので、PEG化生物治療剤(biotherapeutics)の製造について特に重要である。
【0011】
PAOに対するHbの結合体化は、酸素化状態および脱酸素状態の両方において、行われてきている。特許文献12は、結果として生じるPEG−Hb結合体の酸素親和性を高めるために酸素化、すなわち「R」状態でHbを結合体化することを記載する。これは、結合体化の前にHbを大気と平衡させることによって達成される。他の発明者ら(others)は、酸素親和性を減少させ、構造上の安定性を増加させて、Hbが化学的改変、ダイアフィルトレーションおよび/または滅菌濾過、ならびに滅菌の物理的ストレスに耐えるのを可能にする、結合体化の前の脱酸素ステップを記載する(米国特許第5,234,903)。Hbの分子内架橋について、改変前にHbを脱酸素する工程が、そのα−鎖のリジン99を架橋試薬に曝すために必要とされ得ることが示唆される(米国特許第5,234,903)。
【0012】
PEGとの結合体化の前のイミノチオランを用いるHbチオール化の動力学は、Acharyaらによって調査された(特許文献13)。イミノチオランの濃度を、10倍(1四量体当たり平均5つの外因性チオールを導入した)から30倍に増加させることにより、Hb上の外因性チオールの数をほぼ倍にすることが観測された。しかし、PEG結合体化後に見られるサイズの増加は、たとえチオールの数が2倍になっても、ほぼ限界であった。これは、20倍モル濃度過剰のマレイミジルPEG−5000の存在下での結合体化反応が、より反応性の低いチオールをもつHbの表面を覆い、より反応性の高いチオールをもつHbのさらなる改変に抵抗する立体障害(steric interference)をもたらしたことを示唆した。その結果、改変されたHbの所望される分子量(すなわち、1Hb分子当たり6±1 PEG)を達成するために、Acharyaらは、Hbを8〜15モル濃度過剰のイミノチオランでチオール化し、次に、そのチオール化Hbを16〜30倍モル濃度過剰のマレイミジルPEG−5000で反応させた。しかし、大規模な生産における、これらの高いモル濃度過剰の反応成分濃度は、HBOCを調製するための費用を著しく増大させる。さらに、このような高いモル濃度過剰のマレイミジルPEG−5000は、より多くの不必要な反応成分の生成を伴う、より不均一な生成物をもたらす。
【0013】
従って、費用が減らされ、効率が増加し、不純物の少ない、そして分子量範囲がより狭い、特定のサイズ範囲のPEG結合体化Hbを調製する方法の必要性が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第4,001,200号明細書
【特許文献2】米国特許第4,001,401号明細書
【特許文献3】米国特許第4,529,719号明細書
【特許文献4】米国特許第5,296,465号明細書
【特許文献5】独国特許発明第2,161,086号明細書
【特許文献6】独国特許発明第2,449,885号明細書
【特許文献7】独国特許発明第3,026,398号明細書
【特許文献8】米国特許第4,670,417号明細書
【特許文献9】米国特許第4,412,989号明細書
【特許文献10】米国特許第4,301,144号明細書
【特許文献11】米国特許第5,650,388号明細書
【特許文献12】米国特許第6,844,317号明細書
【特許文献13】米国特許第7,501,499号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の概要
本発明は、一般に、ポリエチレングリコール結合体化ヘモグロビン(「PEG−Hb」)を調製するための方法に関し、この方法は、以下の工程:水性希釈剤中でヘモグロビン(Hb)を2−イミノチオラン(2−IT)と混合してチオール化Hbを形成する工程であって、ここで上記2−ITは、上記Hb濃度よりも、上記希釈剤中7モル濃度過剰と8モル濃度過剰との間の濃度で存在する、工程;および次に、上記水性希釈剤中でポリエチレングリコール(PEG)−マレイミド(Mal)を上記チオール化Hbに加えてPEG−Hb結合体を形成する工程であって、ここで上記PEG−Malは、上記Hb濃度よりも、上記希釈剤中9モル濃度過剰と15モル濃度過剰との間の濃度で存在し、ここで上記PEG−Malは、4,000ダルトン(Da)と6,000ダルトン(Da)との間の平均分子量を有する、工程、を含み;ここで結果として生じるPEG−Hb結合体は、1Hb当たり平均7.1個と8.9個との間のPEG分子を含む。
【0016】
1つの実施形態において、上記2−ITは、上記Hb濃度よりも、上記希釈剤中7.5モル濃度過剰の濃度で存在し、上記PEG−Malは、上記Hb濃度よりも、上記希釈剤中12モル濃度過剰の濃度で存在し、そして/または上記PEG−Malは、5,000ダルトンの平均分子量を有する。
【0017】
本質的に同一の条件下で測定される場合、本発明の例示的な方法に従って調製されるPEG−Hb結合体が有する、上記Hbが50%飽和されるものである酸素分圧(p50)は、同等の供給源由来の天然のストローマフリーのヘモグロビンよりも小さい。1つの実施形態において、上記PEG−Hb結合体の上記p50は、10ミリメートル水銀柱(mmHg)未満(例えば、4mmHgと8mmHgとの間)である。
【0018】
本発明の他の局面は、本明細書中いたるところに見出される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1:HbのβCys93残基およびチオール化リジンは、PEG化される。R、R、およびRは、Hbの主鎖を表し;Rは、アルキル基であり、「n」は、5,000Da PEGのオキシエチレン単位の平均の数を表す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
本発明は、一般に、低い反応成分比を用いて、ポリエチレングリコール(「PEG」)結合体化ヘモグロビン(「Hb」)を調製するための方法に関する。より具体的には、本発明は、高められた収量および純度でPEG結合体化Hb(「PEG−Hb」)を調製するための方法に関する。
【0021】
以下の記載において、分子生物学、免疫学、および医学の分野において使用される多くの用語が広く利用される。このような用語に与えられるべき範囲を含む、本明細書および特許請求の範囲の明瞭で一貫した理解を提供するために、以下の非限定的な定義が提供される。
【0022】
本開示において、用語「one」、「a」、または「an」が使用されるとき、それらはそうでないと示されない限り、「少なくとも1つ」または「1つまたはそれより多く」を意味する。
【0023】
本明細書中で用いられる場合、用語「活性化ポリアルキレンオキシド」または「活性化PAO」は、少なくとも1つの官能基を有するPAO分子を指す。官能基は、PAOと結合体化されるべき分子上の遊離アミン、スルフヒドリル、またはカルボキシル基と相互作用する反応性の部分である。例えば、遊離スルフヒドリルと相互作用する1つのこのような官能基は、マレイミド基である。同様に、遊離アミンと相互作用する官能基は、スクシンイミド基である。
【0024】
本明細書中で用いられる場合、用語「おおよそ」は、示される値の範囲内にある実際の値を指す。一般に、実際の値は、示される値の10%以内(すなわち、±10%)である。
【0025】
本明細書中で用いられる場合、用語「ヘモグロビン」または「Hb」は、一般に、酸素を輸送する赤血球内に含まれるタンパク質を指す。Hbの各分子は、4つのサブユニット、2つのα−鎖サブユニット、および2つのβ−鎖サブユニットを有し、これらは四量体構造に配置される。各サブユニットはまた、酸素を結合する鉄を含む中心である、1つのヘム基を含む。従って、各Hb分子は、4分子の酸素を結合し得る。
【0026】
本明細書中で用いられる場合、用語「MalPEG−Hb」は、マレイミジル活性化PEGが結合体化されたHbを指す。上記結合体化は、MalPEGをHb上の表面チオール基(およびより少ない程度にアミノ基)と反応させて、MalPEG−Hbを形成することによって行われる。チオール基は、Hbのアミノ酸配列に存在するシステイン残基において見出され、それはまた、チオール基を含むように表面アミノ基を改変することによって導入され得る。
【0027】
本明細書中で用いられる場合、用語「メトヘモグロビン」または「metHb」は、3価の鉄の状態にある鉄を含むHbの酸化形態を指す。MetHbは、酸素運搬体として機能しない。本明細書中で用いられる場合、用語「メトヘモグロビン%」は、総Hbに対する酸化Hbの百分率を指す。
【0028】
本明細書中で用いられる場合、用語「メトキシ−PEG」または「mPEG」は、PEGのヒドロキシル末端の水素が、メチル(−CH3)基で置き換えられたPEGを指す。
【0029】
本明細書中で用いられる場合、用語「混合物」または「混合する工程」は、2つまたはそれより多くの物質を、それら個々の特性を消失させる反応が起こることなく、一緒に混ぜることを指す。用語「溶液」は、液体の混合物を指し、用語「水性溶液」は、いくらかの水を含み、また、水とともに1つまたはそれより多くの他の液体物質を含んで、複数の構成要素の溶液を形成し得る溶液を指す。
【0030】
本明細書中で用いられる場合、用語「改変されたヘモグロビン」または「改変されたHb」は、Hbがもはやその「天然の」状態にないような、化学反応(例えば、分子内および分子間架橋)、組換え技術によって変更されたHbを指すが、これに限定されない。本明細書中で用いられる場合、用語「ヘモグロビン」または「Hb」は、それ自体が天然の改変されていないHb、ならびに改変されたHbの両方を指す。
【0031】
本明細書中で用いられる場合、用語「酸素親和性」は、酸素運搬体(例えば、Hb)が分子状酸素を結合するアビディティを指す。この特徴づけは、酸素によるHb分子の飽和の程度(Y軸)を酸素の分圧(X軸)に関連付ける、酸素平衡曲線によって定義される。この曲線の位置(position)は、P50値によって示され、P50値は、酸素運搬体が酸素で半分飽和される酸素分圧であり、酸素親和性に反比例する。それゆえに、P50がより低くなればなるほど、酸素親和性がより高くなる。全血の(および全血の構成要素(例えば、赤血球およびHb))の酸素親和性は、当該分野において公知である多様な方法によって測定され得る(例えば、Winslow,R.M.et al.,J.Biol.Chem.1977,252:2331−37を参照のこと)。酸素親和性はまた、市販のHEMOXTM Analyzer(TCS Scientific Corporation,New Hope,PA)を用いて、決定され得る(例えば、Vandegriff and Shrager in「Methods in Enzymology」(Everse et al.,eds.)232:460(1994)を参照のこと)。
【0032】
本明細書中で用いられる場合、用語「ペルフルオロカーボン」は、フッ素原子を含み、完全にハロゲン(Br、F、Cl)および炭素原子からなる、合成の不活性な分子を指す。それらは、等量の血漿または水よりも幾倍も多くの酸素を溶解させる能力を有するので、それらは、エマルジョンの形態において、血液物質(blood substance)として開発中である。
【0033】
本明細書中で用いられる場合、用語「ポリエチレングリコール」または「PEG」は、一般化学式H(OCHCHOH(α−ヒドロ−ω−ヒドロキシポリ−(オキシ−1,2−エタンジイル)としても公知である)(ここで「n」は、4よりも大きいか、または4に等しい)の液体または固体のポリマーを指す。置換または非置換の任意のPEG処方物が、この用語によって包含される。PEGは、多くの処方物において市販されている(例えば、CarbowaxTM(Dow Chemical,Midland,MI)、Poly−G(登録商標)(Arch Chemicals,Norwalk,CT)、およびSolbase)。
【0034】
本明細書中で用いられる場合、用語「ポリエチレングリコール結合体化ヘモグロビン」または「PEG−Hb結合体」は、PEGが共有結合的に結合したヘモグロビンを指す。
【0035】
本明細書中で用いられる場合、用語「ストローマフリーのヘモグロビン」または「SFH」は、全ての赤血球の膜が除去されているHbを指す。
【0036】
本明細書中で用いられる場合、用語「表面が改変されたヘモグロビン」は、化学基、通常、ポリマー(例えば、デキストランまたはポリアルキレンオキシド)が結合したヘモグロビンを指す。用語「表面が改変された酸素化ヘモグロビン」は、表面が改変されるときに「R」状態にあるHbを指す。
【0037】
有機ポリマー
以前の研究において、表面が改変されたヘモグロビンの分子サイズは、腎臓によって取り除かれることを避けるほど、および所望される循環半減期を達成するほど十分に大きくなければならないことが観測された。Blumenstein,J.らは、このことが84,000ダルトン(「Da」)の分子量で、または84,000ダルトン(「Da」)の分子量より上で達成され得ることを決定した(「Blood Substitutes and Plasma Expanders,」Alan R.Liss,editors,New York,N.Y.,pages 205−212(1978))。その研究において、その著者らは、様々な分子量のデキストランをHbに結合体化した。彼らは、Hb(64,000Daの分子量を有する)とデキストラン(20,000Daの分子量を有する)の結合体が、「循環からゆっくり取り除かれ、腎臓を通り抜けるのは無視できる程であった」と報告した。さらに、84,000Daより上に分子量を増加させることにより、これらのクリアランス曲線が著しく変わることはないことが観測された。
【0038】
本発明は、少なくとも84,000Daの分子量が得られ得る、Hbに対するPAOの結合体化のための方法を提供する。適切なポリアルキレンオキシドポリマーとしては、ポリエチレンオキシド(−(CHCHO)−)、ポリプロピレンオキシド(−(CH(CH)CHO)−)、およびポリエチレン/ポリプロピレンオキシドコポリマー(−(CHCHO)−(CH(CH)CHO)−)が挙げられる。本発明の実施において適切である、他の直鎖、分枝鎖および必要に応じて置換された合成ポリマーは、医学分野において周知である。
【0039】
Hbの表面を改変するために現在使用される最も一般的なPAOは、その薬学的受容可能性および商業的利用可能性に起因して、PEGである。さらに、PEGは、その分子内のエチレンオキシド(すなわち、−OCHCH−)の繰り返しサブユニットの数に基づいて、多様な分子量において利用可能である。PEG処方物は、通常、それらの平均分子量に対応する数によって示される。例えば、PEG−200は、200Daの平均分子量を有し、190〜210Daの分子量範囲を有し得る。
【0040】
ヘモグロビン改変
本方法において利用されるHbは、その供給源によって限定されず、ヒトもしくは動物由来であり得るか、または組換え技術に由来し得る。それは、天然(改変されていない)であるか、もしくは改変されているかのいずれかであり得、または組換えにより操作され得る。ヒトα−グロビン遺伝子およびヒトβ−グロビン遺伝子は、両方ともクローン化され、配列を決定されている(Liebhaber,S.A.et al.,PNAS 1980,77:7054−7058;Marotta,C.A.et al.,J.Biol.Chem.1977,353:5040−5053(β−グロビン cDNA))。さらに、多くの組換えにより改変されたHbは、現在、部位特異的変異誘発を用いて生産されているが、これらの「変異体」Hbの多様性は、望ましくなく高い酸素親和性を有することが報告されている(例えば、Nagai,K.et al.,PNAS 1985,82:7252−7255)。好ましくは、上記Hbは、ストローマフリーであり、内毒素を含まない。
【0041】
Hb上の利用可能な結合体部位の数を増やすための1つの方法は、遊離アミンよりもPEG−Malとの反応性が高い傾向があるスルフヒドリル基(「−SH」)を導入することである。多様な方法が、タンパク質のチオール化についての分野において公知である。これらとしては、例えば、上記タンパク質の残基を含む遊離アミンを、スクシンイミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネートとの反応後に、その3−(2−ピリジルジチオ)プロピオニル結合体をジチオトレイトール(「DTT」)またはトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン(「TCEP」)を用いて還元することよって、チオール化することが挙げられる。アミンはまた、スクシンイミジルアセチルチオアセテートとの反応後に、中性に近いpHで、50mMのヒドロキシルアミンまたはヒドラジンを用いてアセチル基を除去することによって、間接的にチオール化され得る。さらに、2−イミノチオラン(2−IT)は、遊離アミン基をチオール基に転換するために使用され得る。
【0042】
天然のヒトHbは、チオール化のために利用されて、その後マレイミド活性化PAO分子に結合体化し得る、固定数のアミノ酸残基側鎖を有する。これらは、下の表に表される。
【0043】
【化1】

結合体化後に上記Hbのアミノ(α−またはε−)基の本来の陽電荷を維持することは、有益であることが示唆されている。これを達成するために、その表面リジン残基のε−アミノ基を用いて、PEGをHbに結合させるためのプロトコルが開発され、ここで上記Hbは、依然として上記アミノ基の本来の陽電荷を保持する(米国特許第5,585,484号明細書)。これは、Hb上にスルフヒドリル基を導入するための、2−イミノチオランによるそのタンパク質のε−アミノ基のアミド化を含み、そのスルフヒドリル基は、その後、マレイミド−PEGを用いる結合体化反応の間にPEGのための結合部位として標的化される。
【0044】
このアプローチは、以前に使用されたスクシンイミジル化学よりも、少なくとも2つのさらなる特定の利益を有する:(1)スルフヒドリル基を有するマレイミド基の非常に高い反応性および選択性は、制限された過剰な試薬を用いて、チオールのほぼ定量的な改変を容易にする;および(2)2−イミノチオランのチオール基は、潜伏性であり、そのタンパク質のアミノ基と試薬との反応の結果として、インサイチューでのみ生成される。従って、Hbは、PEGでの表面装飾のためのチオール化およびPEG化する試薬と同時にインキュベートされ得る。
【0045】
1つの実施形態において、上記チオール化反応は、反応の程度を最適化するために、反応が完了する前に2−ITが著しく加水分解するpHより下であり、また、リジンのpKaより下である7〜9との間のpHで実施される。
【0046】
結合体化
本明細書中のどこか他のところで議論されるように、結合体化反応における反応成分のモル濃度比を増加させることにより、Hbに結合体化されるようになるPEG分子の数の増加をもたらすことが以前に仮定された。これは、Hbのチオール化プロセス(すなわち、Hbに対するチオール化剤のモル濃度比を増加させる工程)、および表面改変プロセス(すなわち、チオール化Hbに対する活性化されたPEGのモル濃度比を増加させる工程)の両方を含んだ。これらの研究により、10倍よりも大きいモル濃度過剰のイミノチオランが、Hb上のチオール化部位の数を、反応の最初の2時間において1四量体当たり4つの新しい反応性−SH基から11時間後に1四量体当たり約7つの新しい反応性−SH基まで、実質的に増加させることが実証された。10倍から30倍にモル濃度比を増加させることは、Hb上のチオールの総数をほぼ2倍にした。同様に、チオール化Hbに対するチオール活性化PEG(thiol activated PEG)のモル濃度比を増加させること(すなわち、20倍)はまた、チオール化Hbに結合体化され得るマレイミド活性化PEG分子の数を増加させた(米国特許第7,501,499号明細書を参照のこと)。これらの過剰モル濃度比は、その表面上に共有結合的に結合する、6±1 PEG分子を有するHbをもたらした。しかし、記載されるように反応成分比を増加させることは、反応動力学を遅くさせ、望ましくない副産物のレベルを増加させ、PEG−Hb結合体の分子量の分布を増加させる。
【0047】
本発明は、特定の分子量のPEGを用いて、正確に制御された反応成分比で、優れたPEG−Hb結合体が生産され得るという予期しない発見に基づく。本発明の方法は、Hbチオール化反応ならびにPEG結合体化反応の両方において、低いモル濃度比の反応成分を利用する。思いがけなく、そしてより高い濃度の反応成分が収量および結合体化効率の両方を増加させるという昔から正しいとされている通念に反して、より多くの数のPEG分子が、より低いモル濃度比の反応成分を用いて、改変されたHbに結合体化され得るということが見出された。別の利益として、結果として生じる結合体化生成物が、より高い比を用いる同じ生成物よりも狭い(tighter)分子量分布を有することが見出された。より具体的には、上記チオール化反応において、8倍未満のモル濃度過剰の2−IT、特に7倍と8倍との間のモル濃度過剰、およびより具体的には、7.5倍のモル濃度過剰;ならびに上記結合体化反応において、15倍未満のモル濃度過剰のPEG−Mal、特に9倍と15倍との間のモル濃度過剰、およびより具体的には、12倍のモル濃度過剰が、1Hb当たり、7.1個と8.9個との間の、および特に8個の、平均数のPEG分子をもたらした。議論されるように、より低いモル濃度比の反応成分を用いることは、いくつかの利点を有する。それは、最終生成物において不純物を低減し、このことは、精製プロセスの効率を容易にし、高められた分子の分散を介する反応効率を増加させる。効率の増加はまた、マレイミド環の加水分解および失活(deactivation)を完了するための反応時間を低減する。さらに、反応成分の量を減らすことによって、それらのそれぞれの反応からの副産物も低減される。具体的には、2−ITからの加水分解副産物(4−ブトリチオラクトン(4−butrythiolactone)および4−チオ酪酸が挙げられる)、ならびに環が開いた非反応性のPEGの副産物が、著しく減る。
【0048】
上に記載されるように、上記結合体化反応における、Hbに対するPEG−Malのモル濃度比は、15倍未満である。このモル濃度比は、反応性のPEG−Malの濃度に基づいており、Hbに対するPEG−Malの絶対比には基づかない。上記PEG−Malにおいて閉じた環構造を有する反応性のマレイミドの百分率は、その「末端活性(terminal activity)」と称される。従って、全てのマレイミドが反応性である場合、上記PEG−Malは、100%の末端活性を有する。PEG−MalのHbに対するモル濃度比は、本明細書中に記載されるように、Hbに対する末端活性のPEG−Malのモル濃度比に基づく。従って、PEG−Mal試薬の末端活性が90%である場合、さらに10%が、同じモル濃度比を達成するためにHbに添加される必要がある。
【0049】
残留未反応のPEGにおける低減は、生産における効率および最終生成物の質を増加させる追加の利益を有する。上記PEG結合体化反応後、残留反応成分は、10体積の最終生成物希釈剤(例えば、リンゲル乳酸塩または酢酸塩溶液)を用いてダイアフィルトレーションによって除去される。この工程に必要とされる時間の量は、ダイアフィルトレーションプロセスの容積流動(volumetric flux)によって決定される。所定のフィルターサイズについて、上記ダイアフィルトレーションプロセスは、本発明の反応比が利用されるとき、より速く終了する。上記反応成分の洗い流しは、指数関数的減衰に従い、結果として、不純物(上記反応成分中の残留反応成分および不純物)の初期濃度が減ることは、その生成物におけるそれらの最終濃度を減らす。同様に、試薬の総量を最小限にすることは、上記生成物における不純物の総量を低減し得る。
【0050】
PEG−Hb結合体
本発明のPEG−Hb結合体は、通常、全血よりも大きい酸素親和性を有し、より具体的には、全血の2倍またはさらに3倍の酸素親和性を有する。換言すると、上記PEG−Hbは、通常、同じ条件下で測定されるとき、ストローマフリーのヘモグロビン(SFH)の酸素親和性よりも大きい酸素親和性を有する。これは、上記PEG−Hb結合体が、一般に、10ミリメートル水銀柱(mmHg)未満だが3mmHgよりも大きいP50を有することを意味する。SFHは、37℃、pH7.4でおおよそ15mmHgのp50を有し、ここで全血についての上記p50は、同じ条件下でおおよそ28mmHgである。ヘモグロビンベースの酸素運搬体(HBOC)の酸素親和性を増加させるにより、上記p50を低下させることは、組織への酸素の送達を高め得ること、SFHの酸素親和性よりも低い酸素親和性は、受容可能ではないことが示唆された。Winslow,R.M.et al.,in「Advances in Blood Substitutes」(1997),Birkaeuser,eds.Boston,Mass.,at page 167、および米国特許第6,054,427号明細書を参照のこと。この示唆は、HBOCが、より低い酸素親和性、具体的には全血の酸素親和性に近似するp50を有するはずであるという広く行き渡った考えに矛盾する。それゆえに、多くの研究者は、ピリドキシル化Hbは、SFHと比較してより容易に酸素を放出するので、SFHのp50を、10mmHgからおおよそ20mmHg〜22mmHgまで上げるためにピリドキサールリン酸を使用してきた。
【0051】
高い酸素親和性でHBOCを製造することに対する多くの異なる科学的アプローチが存在する(すなわち、SFHよりも低いp50を有するもの)。例えば、研究により、酸素親和性において重要な役割を果たすアミノ酸残基(例えば、(β93システイン))を同定した。これらの発見に起因して、部位特異的変異誘発は、所望されるレベルまで酸素親和性を操作するために、現在容易に実施され得る(例えば、米国特許第5,661,124号明細書を参照のこと)。上記β93システイン残基は、直接的にヘム鉄に配位結合する、β−サブユニットにおける唯一の残基である近位β92ヒスチジン残基にすぐ隣接して位置する。β93システインに対する剛性で、かさのあるマレイミド基の結合は、低親和性T−状態のHbコンホメーションを通常安定化させる塩橋を置き換える(Perutz M.F.et al.,Biochemistry 1974,13:2163−2173)。このシフトは、R状態に対する四級のコンホメーションであり、より高いO親和性をもたらす(Imai,K.et al.,Biochemistry 1973,12:798−807)。多くの他のアプローチが米国特許第6,054,427号明細書において議論されている。
【0052】
インビボ投与のための処方物
本発明のPEG−Hb結合体は、インビボ投与に適している水性希釈剤中で処方される。上記希釈剤における酸素運搬体の濃度は、その適用に従って変動し得るが、上記PEG−Hb結合体の高められた酸素の送達および治療効果に起因して、通常、Hbの10g/dlの濃度を超えない。より具体的には、上記濃度は、通常、0.1g/dl Hbと8g/dl Hbとの間である。
【0053】
適切な水性希釈剤(すなわち、静脈内注射について薬学的に受容可能であるもの)としては、とりわけ、タンパク質、糖タンパク質、多糖類、および他のコロイドの水性溶液が挙げられる。これらの実施形態が、任意の特定の希釈剤に限定されることは意図されない。結果としては、希釈剤は、アルブミン、他のコロイド、または他の非酸素運搬構成要素の、細胞を含まない水性溶液を包含し得る。
【0054】
PEG−Hb結合体のこの溶液特性は、PEG鎖と溶媒の水分子との間の強い相互作用に起因する。これは、2つの理由で、HBOCについての重要な属性であると考えられる:1)より高い粘度は、両方のPEG−Hb分子の拡散係数を減らし、2)より高い粘度は内皮壁に対する上記溶液の流れのせん断応力を増加させ、血管収縮を和らげるための血管拡張物質(vasodilator)の放出を誘発する。従って、上記水性希釈剤中のPEG−Hbの処方物は、通常、少なくとも2センチポイズ(cP)の粘度を有する。より具体的には、2cPと4cPとの間、特に約2.5cPである。他の実施形態において、上記水性溶液の粘度は、6cPまたはそれより大きいものであり得るが、通常、8cP超ではない。
【0055】
上記PEG−Hb結合体は、任意の他のこのような生成物と同様にヘモグロビンベースの酸素運搬体としての使用に適している。例えば、それは、器官保存のための血液代用物として、手術などの間に血行動態の安定性を促進するために有用である。
【実施例】
【0056】
実施例
実施例1
Hbのチオール化
1. SFHの生成
濃厚赤血球(「RBC:Packed red blood cell」)を市販の供給源から(例えば、地方の血液バンク、New York血液センター、または米国赤十字から)手に入れる。その材料を、収集時から45日以内に取得する。全てのユニットを、使用前に、ウイルスの感染についてスクリーニングし、核酸試験に供する。非白血球除去(Non−leukodepleted)のプールされたユニットを、膜濾過によって白血球除去(leukodeplete)して、白血球を除去する。濃厚RBCを、滅菌管にプールし、さらなる処理まで2〜15℃で保存する。その体積を記録し、市販のコオキシメーター(co−oximeter)、または他の当該技術分野で認められた方法を用いて、Hb濃度を決定する。
【0057】
RBCを、0.45μmのタンジェンシャルフロー濾過を用いて6体積の0.9%塩化ナトリウムで洗浄し、その後、塩の濃度を減らすことによって細胞を溶解する。Hbの抽出を、同じ膜を用いて行う。その細胞洗浄物を分析して、アルブミンについての分光光度アッセイによって血漿構成要素の除去を確かめる。その溶解産物を、冷却下で0.16μmの膜を介して処理して、Hbを精製する。その精製されたHbを、滅菌の発熱性物質が除かれたもの(in a sterile depyrogenated)で収集し、次に限外濾過してウイルスを除去する。さらなるウイルス低減工程(溶媒/洗剤処理、ナノ濾過、およびアニオンQ膜精製が挙げられる)が行われ得る。このプロセスにおける全ての工程は、2℃〜15℃で実施する。
【0058】
溶解産物由来のHbを、30kDの膜を用いて、リンゲル液(「RL」)、またはリン酸緩衝食塩水(「PBS」、pH7.4)に交換する。上記Hbを、1.1mM〜1.5mM(四量体において)まで濃縮する。10体積〜12体積のRLまたはPBSを溶媒交換のために使用する。このプロセスを、2℃〜15℃で実施する。RLまたはPBSにおいて調製される上記溶液のpHを、チオール化の前に8.0に調整する。上記Hbを、0.45μmまたは0.2μmのディスポーザブルフィルターカプセルを介して滅菌濾過し、化学改変反応が行われる前に4±2℃で保存する。
【0059】
2. 上記SFHのチオール化
上に記載されるように調製されたSFHを用いて、チオール化を、Hbに対して8倍未満のモル濃度過剰の2−ITを用いて実施する。その比および反応時間を、PEG結合体化についてのチオール基の数を最大限にするため、および生成物の不均一性を最小限にするために最適化する。RL(pH7.0〜8.5)、PBS、または任意の同様のバッファーにおける、おおよそ1mMのHb(四量体)を、同じバッファーにおいて、8mM未満の2−ITと組み合わせる。この混合物を、10±5℃で6時間未満、連続して撹拌する。
【0060】
ジチオピリジン比色定量アッセイ(Ampulski,R.S.et al.,Biochem.Biophys.Acta 1969,32:163−169)を、チオール化の前および後に、および次に、再度Hb−PEG結合体化の後に、上記Hb四量体の表面上の利用可能なチオール基の数を測定するために使用する。ヒトHbは、β93システイン残基に2つの内因性の反応性チオール基を含み、それは、ジチオピリジン反応によって確認される。1:<8(SFH:2−IT)の比でのSFHのチオール化後、反応性のチオール基の数は、2個のチオールから7個超のチオールまで増加する。
【0061】
実施例2
PEG−Malに対するHbの結合体化
出発四量体Hbの濃度に対して100%の末端活性に基づく、15倍未満のモル濃度過剰のPEG−Malを用いて、PEG−Malを実施例1からのチオール化Hbに結合体化する。上記Hbをまず、そのHbを酸素化するように大気と平衡させる。RL(pH7.0〜8.5)、PBS、または任意の同様のバッファーにおける、おおよそ1mMのチオール化Hbを、同じバッファーにおいて、15mM未満のPEG−Malと組み合わせる。この混合物を、10±5℃で6時間未満、連続して撹拌する。
【0062】
PEG−Hb結合体を、70kDの膜を介して処理して(すなわち、<0の体積濾過(<0−volume filtration))、未反応の試薬を除去する。このプロセスを、540nmおよび280nmにおけるサイズ排除液体クロマトグラフィー(「LC」)によってモニターする。その濃度を4g/dl Hbに調整し、そのpHを6.0±7.8に調整する。
【0063】
その最終PEG−Hb結合体生成物を、4±2℃で、0.2μmの滅菌ディスポーザブルカプセルを用いて滅菌濾過し、滅菌の発熱性物質が除かれた管に収集する。上記PEG−Hb結合体を、4g/dlのRLに希釈し、そのpHを7.4±0.2のpHに調整し、次に滅菌濾過(0.2μm)し、内毒素を含まない滅菌容器に等分する。
【0064】
実施例3
上記PEG−Hb結合体の特徴づけ
1. 生理化学的な分析のための方法論
上記PEG−Hb結合体の均質性および分子サイズを、LCによって特徴づけて、未反応のPEG−Malの除去を評価する。その溶出物におけるHbの量を、540nmにおける吸光度をモニターすることによって決定する。これは、それらの分子量の違いに基づくピークの位置によって未反応のHbからPEG−Hb結合体を分離(resolve)する。その溶出物における未反応のPEG−Malの量を280nmにおける吸光度をモニターすることによって決定する。これにより、遊離PEG−MalからPEG−Hb結合体が分離される。その遊離PEG−Malは、PEG−Malにおけるマレイミド環の構造に起因するスペクトルのうちの紫外(「UV」)領域において吸収する。
【0065】
ラピッドスキャンダイオードアレイ分光光度計を用いてソーレーおよび可視領域における光学スペクトルを収集し、複数の構成要素の分析によりHb濃度およびmetHb%を分析する。
【0066】
PEG−Hb結合体の濃度およびmetHb%を、コオキシメーター(Instrumentation Laboratory,Bedford,MA)を用いて決定する。粘度を、レオメーター(Brookfield Engineering Laboratories,Inc.Middleboro,MA))を用いて決定する。コロイド浸透圧を、コロイドオスモメーター、Osmomat 050(Gonotec GmbH,Germany)を用いて決定する。酸素結合パラメーターを、Hemox Analyzer(TCS Scientific Corporation,New Hope,PA)を用いて酸素平衡曲線から決定する。
【0067】
2. PEG−Hb結合体についての規格
本発明の例示的な血液代用物組成物についての規格を、下の表1に表す。
【0068】
【表1】

上に明記される実施例は、上記組成物の好ましい実施形態をどのように作製および使用するかの完全な開示および記載を当業者に与えるために提供され、それらは、本発明者らが、自らの発明としてみなすものの範囲を限定することを意図するものではない。上に記載される様式の改変(本発明を実施するために、当業者に明らかである改変)は、以下の特許請求の範囲内にあることが意図される。本明細書中に引用される全ての刊行物、特許、および特許出願は、あたかもこのような刊行物、特許、および特許出願のそれぞれが、具体的および個々に本明細書中で参考として援用されることが示しているかのごとく、本明細書中で参考として援用される。
【0069】
(項目1)
ポリエチレングリコール結合体化ヘモグロビン(「PEG−Hb」)を調製するための方法であって、該方法は、以下の工程:
a)水性希釈剤中でヘモグロビン(Hb)を2−イミノチオラン(2−IT)と混合してチオール化Hbを形成する工程であって、ここで該2−ITは、該Hb濃度よりも、該希釈剤中7モル濃度過剰と8モル濃度過剰との間の濃度で存在する、工程;および
b)該水性希釈剤中でポリエチレングリコール(PEG)−マレイミド(Mal)を該チオール化Hbに加えてPEG−Hb結合体を形成する工程であって、ここで該PEG−Malは、該Hb濃度よりも、該希釈剤中9モル濃度過剰と15モル濃度過剰との間の濃度で存在し、ここで該PEG−Malは、4,000ダルトン(Da)と6,000ダルトン(Da)との間の平均分子量を有する、工程、を含み;
ここで該PEG−Hb結合体は、1Hb当たり平均7.1個と8.9個との間のPEG分子を含む、
方法。
【0070】
(項目2)
前記2−ITが、前記Hb濃度よりも、前記希釈剤中7.5モル濃度過剰の濃度で存在する、項目1に記載の方法。
【0071】
(項目3)
前記PEG−Malが、前記Hb濃度よりも、前記希釈剤中12モル濃度過剰の濃度で存在する、項目1に記載の方法。
【0072】
(項目4)
前記PEG−Malが、5,000Daの平均分子量を有する、項目1に記載の方法。
【0073】
(項目5)
本質的に同一の条件下で測定される場合、前記PEG−Hb結合体が有する、前記Hbが50%飽和されるものである酸素分圧(p50)は、同等の供給源由来の天然のストローマフリーのヘモグロビンよりも小さい、項目1に記載の方法。
【0074】
(項目6)
前記PEG−Hb結合体の前記p50が、10ミリメートル水銀柱(mmHg)未満である、項目5に記載の方法。
【0075】
(項目7)
前記PEG−Hb結合体の前記p50が、4mmHgと8mmHgとの間である、項目5に記載の方法。
【0076】
(項目8)
工程a)が7と9との間のpHで実施される、項目5に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレングリコール結合体化ヘモグロビン(「PEG−Hb」)を調製するための方法であって、該方法は、以下の工程:
a)水性希釈剤中でヘモグロビン(Hb)を2−イミノチオラン(2−IT)と混合してチオール化Hbを形成する工程であって、ここで該2−ITは、該Hb濃度よりも、該希釈剤中7モル濃度過剰と8モル濃度過剰との間の濃度で存在する、工程;および
b)該水性希釈剤中でポリエチレングリコール(PEG)−マレイミド(Mal)を該チオール化Hbに加えてPEG−Hb結合体を形成する工程であって、ここで該PEG−Malは、該Hb濃度よりも、該希釈剤中9モル濃度過剰と15モル濃度過剰との間の濃度で存在し、ここで該PEG−Malは、4,000ダルトン(Da)と6,000ダルトン(Da)との間の平均分子量を有する、工程;を含み、
ここで、該PEG−Hb結合体は、1Hb当たり平均7.1個と8.9個との間のPEG分子を含み;ならびに
ここで該PEG−Hb結合体は、より高いモル濃度比の2−ITまたはPEG−Malを用いて調製されるPEG−Hb結合体よりも狭い分子量分布を有する、
方法。
【請求項2】
前記2−ITが、前記Hb濃度よりも、前記希釈剤中7.5モル濃度過剰の濃度で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記PEG−Malが、前記Hb濃度よりも、前記希釈剤中12モル濃度過剰の濃度で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記PEG−Malが、5,000Daの平均分子量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
本質的に同一の条件下で測定される場合、前記PEG−Hb結合体が有する、前記Hbが50%飽和されるものである酸素分圧(p50)は、同等の供給源由来の天然のストローマフリーのヘモグロビンよりも小さい、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記PEG−Hb結合体の前記p50が、10ミリメートル水銀柱(mmHg)未満である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記PEG−Hb結合体の前記p50が、4mmHgと8mmHgとの間である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
工程a)が7と9との間のpHで実施される、請求項5に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−520512(P2013−520512A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555105(P2012−555105)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【国際出願番号】PCT/US2011/025888
【国際公開番号】WO2011/106396
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(504267116)サンガート, インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】