説明

低ソーダ微粒水酸化アルミニウム及びその製造方法

【課題】バイヤー法により全ソーダ分(T-Na2O)含有量が低くて平均粒子径が十分に小さい低ソーダ微粒水酸化アルミニウムを効率良く安価に製造することができる低ソーダ微粒水酸化アルミニウムの製造方法を提供する。
【解決手段】バイヤー法により水酸化アルミニウムを製造するに際し、過飽和アルミン酸ナトリウム溶液から水酸化アルミニウムを析出させる析出工程を、媒体攪拌型粉砕機を用いた粉砕条件下で実施する、低ソーダ微粒水酸化アルミニウムの製造方法である。この方法により、全ソーダ分(T-Na2O)含有量が0.20質量%以下であって、平均粒子径(Dp50)が2.5μm以下である低ソーダ微粒水酸化アルミニウムを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、バイヤー法によって製造され、全ソーダ(Na2O)分の含有量が低く、しかも、平均粒子径が小さいギブサイト結晶(Al2O3・3H2O)からなる低ソーダ微粒水酸化アルミニウム及びその製造方法に係り、特に限定するものではないが、プリント配線基板等の電気・電子用途、電線被覆材、絶縁材料、建築用の内装材や外装材等の用途に用いられる合成ゴム、天然ゴム、合成樹脂等の種々の高分子材料に配合され、耐熱性や難燃性を付与するための難燃材として特に有用な低ソーダ微粒水酸化アルミニウム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイヤー法により平均粒子径の小さい微粒水酸化アルミニウムを製造する方法として、Na2O濃度50〜200グラム/リットル(g/L)、Al2O3濃度50〜220g/Lの過飽和アルミン酸ナトリウム溶液中に、平均粒子径0.5〜4μm及び湿式篩で測定した10μm以上の粒子含有量1質量%以下の水酸化アルミニウムを種子として100m2/L未満の範囲で添加し、攪拌下に40〜90℃で加水分解し、平均粒子径1〜4μm及び湿式篩で測定した10μm以上の粒子含有量0.5質量%以下の微粒水酸化アルミニウムを製造する方法が知られている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、この方法で得られた微粒水酸化アルミニウムは、通常その全ソーダ分(T-Na2O)含有量が0.2質量%以上であり、製紙塗工用途には好適に用いることができても、例えばプリント基板、半導体や電気電子部品の封止材、電線被覆材等の電気絶縁性が必要な部材等の用途には不向きであるほか、その平均粒子径についてみても、例えば電線被覆材、フレキシブルプリント基板、半導体封止材等の難燃性が求められている平均粒子径2.5μm以下の微粒水酸化アルミニウムを得るためには、湿式粉砕等の粉砕手段が必要になる場合があり、必ずしも十分であるとはいえない。
【0004】
また、バイヤー法により、全ソーダ分(T-Na2O)含有量が低く、しかも、平均粒子径の小さい低ソーダ微粒水酸化アルミニウムを製造する方法として、過飽和アルミン酸ナトリウム溶液中に種子として全ソーダ分(T-Na2O)含有量0.1質量%以下の水酸化アルミニウムを添加すると共に、過飽和Al2O3濃度15±5g/Lの条件で水酸化アルミニウムを析出させ、平均粒子径5μm以下及び全ソーダ分(T-Na2O)含有量0.03質量%以下の低ソーダ微粒水酸化アルミニウムを製造する方法が提案されている(特許文献2)。
【0005】
しかしながら、この方法は、水酸化アルミニウムの析出速度を非常に緩やかに制御するものであることから、その生産性〔析出速度:1時間(hr)当り1リットル(L)中に生成する水酸化アルミニウム(ATH)の量(g)〕が製品によっては1g−ATH/L・hr以下と低くて製造コストが高くつき、製造コストを抑えることが前提条件であることから不向きである。しかも、その平均粒子径についてみると、平均粒子径2.0μm以下のものの製造は比較的困難であり、この点で必ずしも満足できる方法であるとはいえない。
【0006】
更に、過飽和アルミン酸ナトリウム溶液から水酸化アルミニウムを析出させる際に、槽周壁に複数のバッフル板を設けて実質的に完全混合状態を達成し得るように攪拌条件を工夫し、容易に解砕可能で高い透明性を有する水酸化アルミニウム粉末の製造に適した平均粒子径40μm以上の水酸化アルミニウム凝集体を製造する方法が提案されている(特許文献3)。
しかしながら、この方法は、低ソーダ微粒水酸化アルミニウムの製造を意図したものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10-130,017号公報
【特許文献2】WO 2007/074,562 A1
【特許文献3】特許第4,097,418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明者らは、全ソーダ分(T-Na2O)含有量が低くて平均粒子径が十分に小さい低ソーダ微粒水酸化アルミニウムをバイヤー法により効率良く安価に製造する方法について鋭意検討した結果、媒体攪拌型粉砕機を用いて、過飽和アルミン酸ナトリウム溶液から水酸化アルミニウムを析出させる析出工程を粉砕条件下で実施することにより、低ソーダを達成しつつ加水分解で生成した水酸化アルミニウムの粒子の成長を抑制して平均粒子径が十分に小さい低ソーダ微粒水酸化アルミニウムを効率良く製造できることを見い出し、本発明を完成した。
【0009】
従って、本発明の目的は、バイヤー法により全ソーダ分(T-Na2O)含有量が低くて平均粒子径が十分に小さい低ソーダ微粒水酸化アルミニウムを効率良く安価に製造することができる低ソーダ微粒水酸化アルミニウムの製造方法を提供することにある。
【0010】
また、本発明の他の目的は、このような製造方法により製造され、好ましくは全ソーダ分(T-Na2O)含有量が0.20質量%以下であって、平均粒子径(Dp50)が2.5μm以下である低ソーダ微粒水酸化アルミニウムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、バイヤー法により水酸化アルミニウムを製造するに際し、過飽和アルミン酸ナトリウム溶液から水酸化アルミニウムを析出させる析出工程を、媒体攪拌型粉砕機を用いた粉砕条件下で実施することを特徴とする低ソーダ微粒水酸化アルミニウムの製造方法である。
【0012】
また、本発明は、このような製造方法により製造され、好ましくは全ソーダ分(T-Na2O)含有量0.20質量%以下及び平均粒子径(Dp50)2.5μm以下の低ソーダ微粒水酸化アルミニウムである。
【0013】
本発明において、水酸化アルミニウムを製造するために用いられる過飽和アルミン酸ナトリウム溶液は、バイヤー法によって得られるものであり、そのNa2O濃度は通常50g/L以上200g/L以下、好ましくは90g/L以上160/L以下に調整され、また、そのAl2O3濃度は通常50g/L以上220g/L以下、好ましくは90g/L以上180g/L以下に調整される。
【0014】
また、本発明において、析出工程では過飽和アルミン酸ナトリウム溶液中に種子を添加するのがよく、この種子添加は、平均粒子径50μm以下、好ましくは1.0μm以下の水酸化アルミニウムを添加率(g-種子/L-添加溶液)10g/L以上300g/L以下の割合で、好ましくは10g/L以上200g/L以下の割合で添加して行われる。添加する種子の平均粒子径が50μmより大きくなると製品中に粗大粒子が発生という問題が生じる。
【0015】
このような種子として用いる水酸化アルミニウムについては、それがどのような方法で製造されたものであってもよく、本発明の方法とは別の方法で製造されたものであっても、また、本発明の方法で得られた低ソーダ微粒水酸化アルミニウムであってもよい。
【0016】
本発明において、析出工程で用いる媒体攪拌型粉砕機は、剪断力を発現する小径ボール状の多数の媒体とこの媒体を攪拌する攪拌手段とを備えているものであり、この媒体攪拌型粉砕機における粉砕条件については、媒体の平均粒子径が通常0.5mmφ以上5.0mmφ以下、好ましくは1.0mmφ以上5.0mmφ以下であり、また、攪拌手段による攪拌速度が周速0.4m/s以上2.0m/s以下、好ましくは0.7m/s以上1.9m/s以下であるのがよい。この粉砕条件において、媒体の平均粒子径が0.5mmφより小さいと粉砕性が強くなりすぎ、製品を過粉砕してしまったり、また、媒体自体が磨耗で小さくなってきた場合には、粉砕機の下部スレードの詰まりが発生したり、スレードを抜けて製品側へ混入するという問題がある。反対に、5.0mmφより大きくなると空隙が大きくなる事により、製品の未粉砕・未解砕を生じ、また、媒体同士の磨耗により、媒体磨耗粉の混入という問題が生じる。媒体の粒子径は扱う製品の粒径に合ったものを使用する事が望ましい。また、攪拌速度が周速0.1m/sより遅くなると粉砕・解砕性の悪化という問題があり、反対に、2.0m/sより早くなると槽壁の磨耗という問題が生じる。
【0017】
また、本発明において、析出工程で過飽和アルミン酸ナトリウム溶液から水酸化アルミニウムを析出させる際の析出条件は、析出温度が通常50℃以上90℃以下、好ましくは65℃以上80℃以下であって、析出時間が通常1時間以上8時間以下、好ましくは4時間以上6時間以下である。析出温度が50℃より低いと製品中の全ソーダ分(T-Na2O)含有量が高くなるという問題があり、反対に、90℃より高くなると製品の析出量が減少したり、また、高温高ソーダにより装置への摩食及び摩耗という問題が生じる。
【0018】
本発明においては、析出工程で過飽和アルミン酸ナトリウム溶液から水酸化アルミニウムを析出させた後に、通常のバイヤー法による水酸化アルミニウムの製造の場合と同様に、加圧式濾過、遠心分離等の手段で生成した水酸化アルミニウムを固液分離し、次いで水洗して乾燥し、目的の低ソーダ微粒水酸化アルミニウムを得る。
このようにして得られた低ソーダ微粒水酸化アルミニウムは、必要によりその一部を新たな析出工程で種子として使用することもできる。
【0019】
本発明の方法で得られた低ソーダ微粒水酸化アルミニウムは、その全ソーダ分(T-Na2O)含有量が通常0.05質量%以上0.2質量%以下、好ましくは0.15質量%以下であって、その平均粒子径(Dp50)が通常0.5μm以上2.5μm以下、好ましくは2.0μm以下である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、バイヤー法により、全ソーダ分(T-Na2O)含有量が低くて平均粒子径が十分に小さい低ソーダ微粒水酸化アルミニウムを効率良く安価に製造することができ、特に、全ソーダ分(T-Na2O)含有量0.20質量%以下及び平均粒子径(Dp50)2.5μm以下の低ソーダ微粒水酸化アルミニウムを、その析出操作後に粉砕操作を必要とすることなく、効率良く製造し、安価に提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明する。
なお、以下の実施例及び比較例において、得られた低ソーダ微粒水酸化アルミニウムの特性〔全ソーダ分(T-Na20)含有量(質量%)、平均粒子径(Dp50)(μm)、〕の測定については、以下の方法で実施した。
【0022】
すなわち、全ソーダ分(T-Na20)含有量(質量%)はJIS R9301-3-9に準じた原子吸光法で測定し、平均粒子径(Dp50)(μm)はレーザー回折式粒度分布装置(日機装社製マイクロトラックX100)を用いて測定する。
【0023】
[実施例1]
外周にジャケットタイプの加熱・保温手段を備えた容量3Lの媒体攪拌型粉砕機(アトライター)の中に、バイヤー法で得られたNa20濃度149g/L、モル比(Na20/A1203)1.65、及び温度80℃のアルミン酸ソーダ水溶液3Lを投入し、更に、種子としてジェットミル粉砕によって得られた水酸化アルミニウム〔全ソーダ分(T-Na0)含有量0.25質量%、平均粒子径(Dp50)5μm、及びBET比表面積3.5m2/g〕200g/Lを投入し、媒体の平均粒子径5mmφ、攪拌速度(周速)1.31m/s、温度80℃、及び運転時間4時間の析出・粉砕条件で、このアトライターを運転し、水酸化アルミニウムの析出と粉砕を同時に実施した。この際の水酸化アルミニウムの析出速度は約6.01g-ATH/L・hrであった。
【0024】
このアトライターによる水酸化アルミニウムの析出・粉砕操作が終了した後、得られたスラリーをブフナ一濾過により固液分離し、次いで再び洗浄水でスラリー化させて固液分離を行う洗浄・濾過操作を適宜回数繰り返した後、乾燥して実施例1の低ソーダ微粒水酸化アルミニウムを得た。
【0025】
得られた水酸化アルミニウムについて、その特性を調べた結果、全ソーダ分(T-Na0)含有量が0.07質量%であり、平均粒子径(Dp50)が1.57μmであった。
結果を表1に示す。
【0026】
[実施例2〜15]
表1及び表2に示すアルミン酸ソーダ水溶液及び種子を用い、表1及び表2に示す析出・粉砕条件でアトライターを運転し、実施例2〜15の低ソーダ微粒水酸化アルミニウムを得た。
【0027】
各実施例2〜15について、水酸化アルミニウムの析出速度と、得られた低ソーダ微粒水酸化アルミニウムの特性〔全ソーダ分(T-Na0)含有量、平均粒子径(Dp50)〕とを、上記実施例1の結果と共に、表1及び表2に示す。
【0028】
[比較例1]
一般的な攪拌・温調機能を備えた容量4Lの析出槽の中に、バイヤー法で得られたNa20濃度140g/L、モル比(Na20/A1203)1.54、及び温度60℃のアルミン酸ソーダ水溶液3Lを投入し、更に、種子として水酸化アルミニウム〔全ソーダ分(T-Na0)含有量0.35質量%、平均粒子径(Dp50)0.9μm、及びBET比表面積12.2m2/g〕18gを投入し、温度60℃、及び運転時間20時間の析出条件で水酸化アルミニウムを析出させた。
【0029】
析出槽による析出操作が終了した後、上記の実施例1と同様にして比較例1の水酸化アルミニウムを製造し、次いでその特性を測定した。
結果を表2に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイヤー法により水酸化アルミニウムを製造するに際し、過飽和アルミン酸ナトリウム溶液から水酸化アルミニウムを析出させる析出工程を、媒体攪拌型粉砕機を用いた粉砕条件下で実施することを特徴とする低ソーダ微粒水酸化アルミニウムの製造方法。
【請求項2】
媒体攪拌型粉砕機による粉砕条件は、媒体の平均粒子径が0.5〜5.0mmφであって、攪拌速度が周速0.4〜2.0m/sである請求項1に記載の低ソーダ微粒水酸化アルミニウムの製造方法。
【請求項3】
過飽和アルミン酸ナトリウム溶液は、Na2O濃度が50〜200g/Lであって、Al2O3濃度が50〜220g/Lであり、また、析出工程では、過飽和アルミン酸ナトリウム溶液中に、種子として平均粒子径50μm以下の水酸化アルミニウムが10〜300g/Lの割合で添加される請求項1又は2に記載の低ソーダ微粒水酸化アルミニウムの製造方法。
【請求項4】
析出工程での析出条件は、析出温度が50〜90℃であって、析出時間が1〜8時間である請求項1〜3のいずれかに記載の低ソーダ微粒水酸化アルミニウムの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4に記載のいずれかの方法で得られた低ソーダ微粒水酸化アルミニウム。
【請求項6】
水酸化アルミニウムは全ソーダ分(T-Na2O)含有量0.20質量%以下及び平均粒子径(Dp50)2.5μm以下である請求項5に記載の低ソーダ微粒水酸化アルミニウム。

【公開番号】特開2011−16672(P2011−16672A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160534(P2009−160534)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】