説明

低トランス脂肪酸油脂組成物

【課題】
本発明の目的は、トランス脂肪酸含量が低いにもかかわらず、水素添加臭の風味を有する油脂組成物及びその製造方法を提供することである。
また、本発明の目的は、トランス脂肪酸含量が低いにもかかわらず、水素添加臭の風味を有する食品を提供することである。
また、本発明の目的は、水素添加臭の風味を有する食品において、トランス脂肪酸含量を低減する方法を提供することである。
【解決手段】
本発明の油脂組成物は、部分水素添加油脂を1〜30質量%含有し、該部分水素添加油脂の過酸化物価が0.04〜7であることを特徴とする。
また、本発明の食品は、本発明の油脂組成物を用いた食品であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランス脂肪酸含量が低いにもかかわらず、水素添加臭(水添臭又は硬化臭と呼ばれることもある)の風味を有する油脂組成物に関するものである。
また、本発明は、トランス脂肪酸含量が低いにもかかわらず、水素添加臭の風味を有する食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
動植物油脂を部分水素添加して得られる硬化油(以下、部分水素添加して得られる硬化油は、部分水素添加油脂とする)は、サラダ油等に代表される液状油と比べ、耐熱性、酸化安定性に優れるため、フライドチキン、フライドポテト、バターピーナッツ、ドーナツ等に用いられる加熱調理用油脂として従来から用いられて来た。また、部分水素添加油脂は、可塑性を有することから、マーガリン、ショートニング等の可塑性油脂組成物やホイップクリーム等の起泡性水中油型乳化物等の広く油脂加工食品にも用いられて来た。
【0003】
動植物油脂の部分水素添加油脂は、水素添加によって生成するトランス脂肪酸を含有している。近年、トランス脂肪酸に関しては、ヒトをはじめ動物が長期間多量に摂取した場合には、血中総コレステロール値及び悪玉と呼ばれる低密度リポ蛋白質コレステロール値を高め、肥満や虚血性心疾患などの原因となりうるという学説が欧州や米国から出て来ており、一定水準以上のトランス脂肪酸を含有する食品については表示を義務化する等の対策をとる国が増えてきている。我が国においても世界的な流れを受け、食品中のトランス脂肪酸含量を低減させる試みが検討されており、加熱調理用油脂や油脂加工食品についても、トランス脂肪酸含量の低減化が求められている。
【0004】
動植物油脂の部分水素添加油脂中におけるトランス脂肪酸含量の低減化に関しては、水素添加反応の工程で、触媒や温度等の反応条件を工夫する試みがなされている(例えば、特許文献1、2)。
【0005】
一方、動植物油脂の部分水素添加油脂は、水素添加臭と呼ばれる独特の風味を有しており、例えば、フライドチキンやドーナツ等では、水素添加臭の独特の風味が消費者に慣れ親しまれている。従って、水素添加臭は、商品の個性を特徴付ける重要な風味の一部として定着しているものも多い。
この動植物油脂の部分水素添加油脂の水素添加臭は、前述したトランス脂肪酸に起因することが知られている。
従って、前述のトランス脂肪酸含量を低減させる試みにより、トランス脂肪酸含量を減らすと、水素添加臭の独特な風味が失われるという問題があった。
【0006】
以上のような背景から、動植物油脂の部分水素添加油脂の独特な風味である水素添加臭の風味を有したまま、トランス脂肪酸含量をできる限り低減した油脂の開発が望まれていた。
【特許文献1】特開平7−316585号公報
【特許文献2】特開2006−320275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、トランス脂肪酸含量が低いにもかかわらず、水素添加臭の風味を有する油脂組成物及びその製造方法を提供することである。
また、本発明の目的は、トランス脂肪酸含量が低いにもかかわらず、水素添加臭の風味を有する食品及びその製造方法を提供することである。
また、本発明の目的は、水素添加臭の風味を有する油脂組成物おいて、トランス脂肪酸含量を低減する方法を提供することである。
また、本発明の目的は、水素添加臭の風味を有する食品おいて、トランス脂肪酸含量を低減する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、軽微に酸化した部分水素添加油脂を配合することで、水素添加臭の風味を有したままトランス脂肪酸含量を低減することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。より詳しくは、油脂組成物中に過酸化物価が0.04〜7である部分水素添加油脂を1〜30質量%含有させることで、水素添加臭の風味を有したままトランス脂肪酸含量を低減することができることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明は、部分水素添加油脂を1〜30質量%含有する油脂組成物であって、該部分水素添加油脂の過酸化物価が0.04〜7である油脂組成物である。
【0010】
本発明の第2の発明は、前記油脂組成物の全構成脂肪酸中におけるトランス脂肪酸含量が20質量%以下である第1の発明に記載の油脂組成物である。
【0011】
本発明の第3の発明は、前記部分水素添加油脂が、ヨウ素価が20〜90で全構成脂肪酸中におけるトランス脂肪酸含量が10〜60質量%である第1又は2の発明に記載の油脂組成物である。
【0012】
本発明の第4の発明は、第1〜3のいずれか1つの発明に記載の油脂組成物を用いた食品である。
【0013】
本発明の第5の発明は、過酸化物価が0.04〜7である部分水素添加油脂を1〜30質量%含有させることを特徴とする油脂組成物の製造方法である。
【0014】
本発明の第6の発明は、過酸化物価が0.04〜7である部分水素添加油脂を1〜30質量%含有させた油脂組成物を食品に用いることによる、水素添加臭の風味を有する食品のトランス脂肪酸含量を低減する方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、トランス脂肪酸含量が低いにもかかわらず、水素添加臭の風味を有する油脂組成物及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、トランス脂肪酸含量が低いにもかかわらず、水素添加臭の風味を有する食品及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、水素添加臭の風味を有する油脂組成物において、トランス脂肪酸含量を低減する方法を提供することができる。
また、本発明のよれば、水素添加臭の風味を有する食品において、トランス脂肪酸含量を低減する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明の油脂組成物について説明する。
本発明の油脂組成物は、部分水素添加油脂を1〜30質量%含有し、該部分水素添加油脂の過酸化物価が0.04〜7であることを特徴とする。
【0017】
部分水素添加油脂とは、動植物油脂を部分水素添加して得られる油脂である。部分水素添加油脂は、部分水素添加硬化油、部分水添油と呼ばれることもある。極度硬化油が原料油脂を構成する全ての不飽和脂肪酸の二重結合に水素を付加することで構成脂肪酸の全てを飽和脂肪酸としたものであるのに対して、部分水素添加油脂は原料油脂を構成する一部の不飽和脂肪酸の二重結合に水素を付加したものであり、部分水素添加油脂は構成脂肪酸に不飽和脂肪酸が残存しているものである。水素付加の反応時に副反応として、不飽和脂肪酸の二重結合がシス型からトランス型への異性化を起こすため、不飽和脂肪酸が残存している部分水素添加油脂には、通常、トランス脂肪酸が含まれるものである。
【0018】
部分水素添加油脂の原料となる動植物油脂としては、通常、食用油脂として使用されるものであれば特に制限なく使用することができるが、例えば、大豆油、菜種油、綿実油、コーン油、パーム油、紅花油、ヒマワリ油、牛脂、豚脂等やこれらのエステル交換油、分別油等が挙げられる。
【0019】
部分水素添加油脂は、常法の水素添加方法により製造することができる。例えば、原料油脂である動植物油脂に、ニッケル等の触媒を対油0.01〜0.3質量%添加し、温度120℃〜200℃、水素圧0.01〜0.3MPaの条件で水素添加反応を行うことにより製造することができる。
【0020】
本発明に使用する部分水素添加油脂は、軽微に酸化したものを用いることが好ましい。より詳しくは、本発明に使用する部分水素添加油脂は、過酸化物価が0.04〜7であることが好ましく、0.1〜6であることがより好ましく、0.2〜5であることが更に好ましく、0.2〜1であることが最も好ましい。部分水素添加油脂の過酸化物価が上記範囲にあると、水素添加臭の風味が強まるため、トランス脂肪酸含量を低減することができ、また、酸敗臭の点でも問題ないものが得られる。
過酸化物価が上記範囲の部分水素添加油脂としては、過酸化物価が上記範囲であれば特に制限なく使用することができるが、部分水素添加油脂が長期間保存により酸化したものや強制的に空気を吹き込む等による強制的に酸化させたもの等を使用することができる。
なお、油脂の過酸化物価は、「社団法人 日本油化学会 基準油脂分析試験法2.5.2.1−1996」の方法に準じて測定することができる。
このように軽微に酸化して過酸化物価が上記範囲となった部分水素添加油脂を使用すると、トランス脂肪酸含量が少なくても水素添加臭の風味の発現を強めることができるため、トランス脂肪酸含量を低減することができる。
【0021】
本発明に使用する過酸化物価が上記範囲の部分水素添加油脂は、ヨウ素価が20〜90で全構成脂肪酸中におけるトランス脂肪酸含量が10〜60質量%であることが好ましく、ヨウ素価が25〜80で全構成脂肪酸中におけるトランス脂肪酸含量が15〜55質量%であることがより好ましく、ヨウ素価が30〜70で全構成脂肪酸中におけるトランス脂肪酸含量が15〜50質量%であることが最も好ましい。部分水素添加油脂のヨウ素価及び全構成脂肪酸中におけるトランス脂肪酸含量が前記範囲にあると、水素添加臭の風味が強く、また、加工油脂食品として使用し易い物性となる。
なお、油脂のトランス脂肪酸含量は、AOCS法(Ce1f−96)に準じてガスクロマトグラフィー法にて測定することができる。また、油脂のヨウ素価は、「社団法人 日本油化学会 基準油脂分析試験法2.3.4.1−1996」の方法に準じて測定することができる。
【0022】
部分水素添加油脂の市販品としては、例えば、大豆油の部分水素添加油脂(商品名:大豆硬化油40、日清オイリオグループ株式会社製、融点40℃、ヨウ素価67.6、トランス脂肪酸含量46.1質量%)、菜種油の部分水素添加油脂(商品名:菜種硬化油34、日清オイリオグループ株式会社製、融点34℃、ヨウ素価74.0、トランス脂肪酸含量37.3質量%)、パーム油の部分水素添加油脂(商品名:パーム硬化油47、日清オイリオグループ株式会社製、融点47、ヨウ素価38.6、トランス脂肪含量18.3質量%)、綿実油の部分水素添加油脂(商品名:綿実硬化油36、日清オイリオグループ株式会社製、融点36℃、ヨウ素価64.2、トランス脂肪酸含量34.8質量%)及びコーン油の部分水素添加油脂(商品名:コーン硬化油40、日清オイリオグループ株式会社製、融点40℃、ヨウ素価65.9、トランス脂肪酸含量40.1質量%)等を例示することができる。
通常、製造直後の市販品の部分水素添加油脂は、過酸化物価が0である。
【0023】
また、本発明で使用する部分水素添加油脂は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0024】
本発明の油脂組成物中における過酸化物価が上記範囲である部分水素添加油脂の含量は、1〜30質量%であることが好ましく、2〜30質量%であることがより好ましく、3〜25質量%であることが更に好ましく、4〜20質量%であることが最も好ましい。油脂組成物中における部分水素添加油脂の含量が上記範囲にあると、水素添加臭の風味を有したまま、トランス脂肪酸含量を低減することができる。
【0025】
本発明の油脂組成物の全構成脂肪酸中におけるトランス脂肪酸含量は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、1〜10質量%であることがさらに好ましく、3〜8質量%であることが最も好ましい。油脂組成物の全構成脂肪酸中におけるトランス脂肪酸含量が上記範囲にあると、得られる食品が水素添加臭の独特な風味を程好く有するものとなる。
従来の部分水素添加油脂を含有する油脂には、全構成脂肪酸中に40質量%程度のトランス脂肪酸が含まれる。従って、本発明によると、油脂中のトランス脂肪酸含量を1/2〜1/40程度と大幅に低減することができる。
【0026】
本発明の油脂組成物は、過酸化物価が上記範囲の部分水素添加油脂以外の動植物油脂を適宜配合することができる。動植物油脂は、過酸化物価が上記範囲の部分水素添加油脂でなく、食用油脂であれば特に限定されないが、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等やこれらの分別油(パーム油の中融点部、パーム油の分別軟質油、パーム油の分別硬質油等)、エステル交換油が挙げられる。また、これらの動植物油脂は、1種又は2種以上を使用することができる。
本発明の油脂組成物中における過酸化物価が上記範囲の部分水素添加油脂以外の動植物油脂の含量は、70〜99質量%であることが好ましく、70〜98質量%であることがより好ましく、75〜97質量%であることが更に好ましく、80〜96質量%であることが最も好ましい。
【0027】
本発明の油脂組成物は、必要に応じて通常の油脂に用いられる添加剤を適宜配合することができる。具体的には、保存安定性向上、酸化安定性向上、熱安定性向上、低温化での結晶抑制等を目的としたポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ビタミンE、アスコルビン酸脂肪酸エステル、リグナン、コエンザイムQ、オリザノール、ジグリセリド、シリコーン、トコフェロール及びレシチン等が挙げられる。
【0028】
本発明の油脂組成物は、過酸化物価が上記範囲の部分水素添加油を油脂組成物中に好ましくは1〜30質量%、より好ましくは2〜30質量%、更に好ましくは3〜25質量%、最も好ましくは4〜20質量%含有させることで製造することができる。油脂組成物の製造方法は、過酸化物価が上記範囲の部分水素添加油脂を上記範囲含有させる以外は、常法により特に制限なく製造することができる。例えば、過酸化物価が上記範囲の部分水素添加油脂と過酸化物価が上記範囲の部分水素添加油脂以外の油脂とを質量比(過酸化物価が上記範囲の部分水素添加油脂:過酸化物価が上記範囲の部分水素添加油脂以外の油脂)で好ましくは1:99〜30:70、より好ましくは2:98〜30:70、更に好ましくは3:97〜25:75、最も好ましくは4:96〜20:80混合することで製造することができる。
【0029】
本発明の油脂組成物は、揚げ物、炒め物等の加熱調理や水中油型乳化物、起泡性水中油型乳化物、可塑性油脂組成物、ルウ、チョコレート等の油脂加工食品等に好適に用いることができる。
【0030】
本発明の油脂組成物は、トランス脂肪酸含量が低いにもかかわらず、水素添加臭の風味を有するものである。従って、本発明の油脂組成物は、水素添加臭の風味を有したまま、トランス脂肪酸含量を低減することができる。
【0031】
また、本発明の油脂組成物を食品に用いると、得られる食品の水素添加臭の風味を有したまま、トランス脂肪酸含量を低減することができる。
【0032】
次に、本発明の食品について説明する。
本発明の食品は、本発明の油脂組成物を用いた食品であることを特徴とする。
【0033】
本発明の食品とは、本発明の油脂組成物を用いて揚げ物、炒め物等の加熱調理することにより得られる加熱調理食品、本発明の油脂組成物を用いて製造される水中油型乳化物、起泡性水中油型乳化物、可塑性油脂組成物、ルウ、チョコレート等の油脂加工食品、これらの油脂加工食品を用いて製造される加工食品等のことを意味する。
本発明の食品は、水素添加臭の独特の風味を有するものである。
【0034】
本発明の食品のうち、加熱調理食品の具体例としては、例えば、素揚げ、から揚げ、カツ、コロッケ、フライ(フライドチキン、フライドポテト等)、天ぷら、ドーナツ、揚げ麺、せんべい、あられ、ビスケット、クラッカー、クッキー、プレッツェル、コーンチップス、コーンパフ、コーンフレークス、ポップコーン、ポテトチップス、ナッツ、バターピーナッツ、スナック菓子等が挙げられる。
加熱調理食品は、本発明の油脂組成物を用いて加熱調理する以外、使用する素材や特別な条件を必要とせず、常法により製造(調理)することができる。
【0035】
本発明の食品のうち、油脂加工食品の具体例としては、例えば、クリーム等の水中油型乳化物、ホイップクリーム等の起泡性水中油型乳化物、マーガリン・ショートニング(製菓・製パンの練り込み用・折り込み用、フライ用、炒め用、バータークリーム用等)等の可塑性油脂組成物、カレー等のルウ、チョコレート等が挙げられる。
油脂加工食品は、本発明の油脂組成物を用いて製造する以外、使用する素材や特別な条件を必要とせず、常法により製造することができる。
油脂加工食品においては、油脂加工食品に使用する油脂のうち、本発明の油脂組成物を30〜100質量%使用することが好ましく、50〜100質量%使用することがより好ましく、70〜100質量%使用することが最も好ましい。
【0036】
本発明の食品のうち、加工食品の具体例としては、例えば、ケーキ、クッキー、ビスケット、パイ等の焼き菓子、食パン、菓子パン、デニッシュ等のパン、ピザ、カレー等のルウ食品等が挙げられる。
加工食品は、本発明の油脂組成物を用いて製造した油脂加工食品を用いる以外、使用する素材や特別な条件を必要とせず、常法により製造することができる。
【0037】
本発明の食品は、トランス脂肪酸含量が低いにもかかわらず、水素添加臭の風味を有するものである。従って、本発明の食品は、水素添加臭の風味を有したまま、トランス脂肪酸含量を低減することができる。
【0038】
以下、具体的な実施例に基づいて、本発明について詳しく説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例の内容に、何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
(油脂組成物の評価1)
パーム油(商品名:精製パーム油、日清オイリオグループ株式会社製)80質量部と、製造後6か月が経過した過酸化物価0.4の菜種油の部分水素添加油脂(商品名:菜種硬化油34、ヨウ素価74.0、トランス脂肪酸含量37.3質量%、日清オイリオグループ株式会社製)20質量部とを、混合し、実施例1の油脂組成物を得た。また、パーム油(商品名:精製パーム油、日清オイリオグループ株式会社製)と、過酸化物価0の菜種油の部分水素添加油脂(商品名:菜種硬化油34、ヨウ素価74.0、トランス脂肪酸含量37.3質量%、日清オイリオグループ株式会社製)とを、パーム油:菜種油の部分水素添加油脂の質量比で、それぞれ20:80、30:70、40:60、50:50、60:40、70:30、80:20の割合で混合し、風味標準品の油脂組成物を得た。
油脂のトランス脂肪酸含量は、AOCS法(Ce1f−96)に準じてガスクロマトグラフィー法にて測定した(以下のトランス脂肪酸含量についても同様の方法で測定した)。油脂の過酸化物価は、「社団法人 日本油化学会 基準油脂分析試験法2.5.2.1−1996」の方法に準じて測定した(以下の過酸化物価についても同様の方法で測定した)。油脂のヨウ素価は、「社団法人 日本油化学会 基準油脂分析試験法2.3.4.1−1996」の方法に準じて測定した(以下のヨウ素価についても同様の方法で測定した)。
5人のパネルにて40℃に加温した各油脂組成物における水素添加臭の風味を評価し、実施例1の油脂組成物がどの配合比の風味標準品と同程度の水素添加臭の風味を有するかを評価した。
その結果、実施例1の油脂組成物は、パーム油50質量部と過酸化物価0の菜種油の部分水素添加油脂50質量部とを混合して得られた風味標準品の油脂組成物と同程度の十分な水素添加臭の風味を有していた。表1に実施例1の油脂組成物と、パーム油50質量部と過酸化物価0の菜種油の部分水素添加油脂50質量部とを混合して得られた風味標準品のトランス脂肪酸含量を示した。実施例1の油脂組成物は、パーム油50質量部と過酸化物価0の菜種油の部分水素添加油脂50質量部とを混合して得られた風味標準品の油脂組成物よりもトランス脂肪酸含量が少ないにもかかわらず、同程度の十分な水素添加臭の風味を有していた。
【0040】
【表1】

【0041】
(油脂組成物の評価2)
パーム油(商品名:精製パーム油、日清オイリオグループ株式会社製)95質量部と、製造後1年が経過した過酸化物価0.5のパーム油の部分水素添加油脂(商品名:パーム硬化油47、ヨウ素価38.6、トランス脂肪含量18.3質量%、日清オイリオグループ株式会社製)5質量部とを、混合し、実施例2の油脂組成物を得た。また、パーム油(商品名:精製パーム油、日清オイリオグループ株式会社製)と、過酸化物価0のパーム油の部分水素添加油脂(商品名:パーム硬化油47、ヨウ素価38.6、トランス脂肪含量18.3質量%、日清オイリオグループ株式会社製)とを、パーム油:パーム油の部分水素添加油脂の質量比で、それぞれ20:80、30:70、40:60、50:50、60:40、70:30、80:20の割合で混合し、風味標準品の油脂組成物を得た。
5人のパネルにて40℃に加温した各油脂組成物における水素添加臭の風味を評価し、実施例2の油脂組成物がどの配合比の風味標準品と同程度の水素添加臭の風味を有するかを評価した。
その結果、実施例2の油脂組成物は、パーム油50質量部と過酸化物価0のパーム油の部分水素添加油脂50質量部とを混合して得られた風味標準品の油脂組成物と同程度の十分な水素添加臭の風味を有していた。表2に実施例2の油脂組成物と、パーム油50質量部と過酸化物価0のパーム油の部分水素添加油脂50質量部とを混合して得られた風味標準品のトランス脂肪酸含量を示した。実施例2の油脂組成物は、パーム油50質量部と過酸化物価0のパーム油の部分水素添加油脂50質量部とを混合して得られた風味標準品の油脂組成物よりもトランス脂肪酸含量が少ないにもかかわらず、同程度の十分な水素添加臭の風味を有していた。
【0042】
【表2】

【0043】
(油脂組成物の評価3)
過酸化物価0の大豆油の部分水素添加油脂(商品名:大豆硬化油40、ヨウ素価67.6、トランス脂肪酸含量46.1質量%、日清オイリオグループ株式会社)に空気を強制的に吹き込み、過酸化物価の上昇した風味調製油1〜5を調製した。

標準油:過酸化物価0の大豆油の部分水素添加油脂
風味調製油1:標準油に空気を強制的に吹込み過酸化物価を0.1に調製
風味調製油2:標準油に空気を強制的に吹込み過酸化物価を0.2に調製
風味調製油3:標準油に空気を強制的に吹込み過酸化物価を1.0に調製
風味調製油4:標準油に空気を強制的に吹込み過酸化物価を4.8に調製
風味調製油5:標準油に空気を強制的に吹込み過酸化物価を6.8に調製
風味調製油6:標準油に空気を強制的に吹込み過酸化物価を10.3に調製

パーム油(商品名:精製パーム油、日清オイリオグループ株式会社製)80質量部と、上記の各風味調製油20質量部とを、混合し、実施例3〜7の油脂組成物、比較例1の油脂組成物を得た。また、水素添加臭の風味を有する参考例の油脂組成物として、パーム油(商品名:精製パーム油、日清オイリオグループ株式会社製)80質量部と、上記の標準油20質量部とを、混合したものを用いた。なお、実施例3〜7の油脂組成物、比較例1の油脂組成物、参考例の油脂組成物のトランス脂肪酸含量は、全て9.2質量%であった。
5人のパネルにて40℃に加温した各油脂組成物における水素添加臭の風味を評価し、参考例の油脂組成物における水素添加臭の風味と比較した。また、各油脂組成物の酸敗臭の有無についても評価した。結果を表3に示した。
表3から分かるように、実施例3〜7の油脂組成物及び比較例の油脂組成物と参考例の油脂組成物はトランス脂肪酸含量が同じであるにもかかわらず、実施例3〜7の油脂組成物及び比較例1の油脂組成物における水素添加臭の風味は参考例の油脂組成物における水素添加臭の風味よりも強いものであった。なお、比較例1の油脂組成物は、酸敗臭が強いものであった。
【0044】
【表3】

【0045】
(食品の評価1)
パーム油の中融点部(ヨウ素価35.5、融点34℃、日清オイリオグループ株式会社社内調製品)80質量部と、製造後6ヵ月が経過した過酸化物価0.4の菜種油の部分水素添加油脂(商品名:菜種硬化油34、ヨウ素価74.0、トランス脂肪酸含量37.3質量%、日清オイリオグループ株式会社製)20質量部とを、混合し、実施例8の油脂組成物(トランス脂肪酸含量7.5質量%)を得た。また、水素添加臭の風味を有する標準品として、パーム油の中融点部(ヨウ素価35.5、融点34℃、日清オイリオグループ株式会社社内調製品)50質量部と、過酸化物価0の菜種油の部分水素添加油脂(商品名:菜種硬化油34、ヨウ素価74.0、トランス脂肪酸含量37.3質量%、日清オイリオグループ株式会社製)50質量部とを、混合したものを、風味標準品の油脂組成物(トランス脂肪酸含量18.7質量%)とした。実施例8の油脂組成物又は風味標準品の油脂組成物を用い、表4の配合で常法によりホイップクリームを作成した。
5人のパネルによってホイップクリームの風味を評価した結果、実施例8の油脂組成物を用いて作成したホイップクリームは、風味標準品の油脂組成物を用いて作成したホイップクリームと同程度の十分な水素添加臭の風味を有していた。ホイップクリームに用いた実施例8の油脂組成物は、風味標準品の油脂組成物よりもトランス脂肪酸含量が少ないにもかかわらず、得られるホイップクリームは、同程度の十分な水素添加臭の風味を有していた。
【0046】
【表4】

【0047】
(食品の評価2)
パーム油の中融点部(ヨウ素価40.5、融点31℃、日清オイリオグループ株式会社社内調製品)90質量部と、菜種油の部分水素添加油脂(商品名:菜種硬化油34、ヨウ素価74.0、トランス脂肪酸含量37.3質量%、日清オイリオグループ株式会社製)に空気を強制的に吹き込むことで得られた過酸化物価0.1の菜種油の部分水素添加油脂10質量部とを、混合し、実施例9の油脂組成物(トランス脂肪酸含量3.7質量%)を得た。また、水素添加臭の風味を有する標準品として、パーム油の中融点部(ヨウ素価40.5、融点31℃、日清オイリオグループ株式会社社内調製品)75質量部と、過酸化物価0の菜種油の部分水素添加油脂(商品名:菜種硬化油34、ヨウ素価74.0、トランス脂肪酸含量37.3質量%、日清オイリオグループ株式会社製)25質量部とを、混合したものを、風味標準品の油脂組成物(トランス脂肪酸含量9.3質量%)とした。市販のから揚げ粉(日清製粉株式会社製)100質量部に対してガラムマサラを5質量部加えたものを適量塗付した鶏もも肉を、実施例9の油脂組成物又は風味標準品の油脂組成物を用いて180℃で4分間フライし、フライドチキンを得た。
5人のパネルによってフライドチキンの風味を評価した結果、実施例9の油脂組成物を用いたフライドチキンは、風味標準品の油脂組成物を用いたフライドチキンと同程度の十分な水素添加臭の風味を有していた。フライに用いた実施例9の油脂組成物は、風味標準品の油脂組成物よりもトランス脂肪酸含量が少ないにもかかわらず、得られるフライドチキンは同程度の十分な水素添加臭の風味を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部分水素添加油脂を1〜30質量%含有する油脂組成物であって、該部分水素添加油脂の過酸化物価が0.04〜7である油脂組成物。
【請求項2】
前記油脂組成物の全構成脂肪酸中におけるトランス脂肪酸含量が20質量%以下である請求項1に記載の油脂組成物。
【請求項3】
前記部分水素添加油脂が、ヨウ素価が20〜90で全構成脂肪酸中におけるトランス脂肪酸含量が10〜60質量%である請求項1又は2に記載の油脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の油脂組成物を用いた食品。
【請求項5】
過酸化物価が0.04〜7である部分水素添加油脂を1〜30質量%含有させることを特徴とする油脂組成物の製造方法。
【請求項6】
過酸化物価が0.04〜7である部分水素添加油脂を1〜30質量%含有させた油脂組成物を食品に用いることによる、水素添加臭の風味を有する食品のトランス脂肪酸含量を低減する方法。

【公開番号】特開2009−89684(P2009−89684A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−265282(P2007−265282)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】