説明

低トランス酸植物性油脂組成物

【課題】液状植物油脂を多く含有し、実質的にトランス酸を含まず、かつ、マーガリンやファットスプレッドとしての十分な口溶け、硬さ、光沢・ツヤ、保型性、可塑性、保存安定性を有し、製造時においても良好な充填粘度を有する可塑性低トランス酸植物性油脂組成物の提供。
【解決手段】下記のA成分:60〜80質量%、B成分:10〜20質量%、C成分:10〜20質量%からなり、B成分とC成分との質量比が1:0.5〜2であることを特徴とする低トランス酸植物性油脂組成物。A成分:液状植物油脂、B成分:融点32℃〜40℃で、炭素数8〜14の飽和脂肪酸を50質量%以上含有する植物性極度硬化油脂、C成分:融点34℃〜42℃で、炭素数8〜14の飽和脂肪酸を30〜50質量%、炭素数20〜24の飽和脂肪酸を3〜10質量%含有する植物油脂由来エステル交換油脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性油脂から構成され、マーガリン、ファットスプレッド、又はショートニングの原料となる可塑性低トランス酸植物性油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
最近のマーガリン、ファットスプレッド又はショートニング等の食用油脂製品は、風味が良好で、リノール酸やリノレン酸等の不飽和脂肪酸を多く含む油脂を含有する製品が好まれる傾向にある。特に、コーン油や大豆油、サフラワー油、オリーブ油、ナタネ油のような植物油脂は人気があり、需要量も増大傾向である。しかし、それらの植物油脂は多量の不飽和脂肪酸を含んでいるため、常温で液状である。したがってマーガリンやファットスプレッドのような食用油脂製品として必要な性状である使用温度範囲での好ましい硬さ、広い温度範囲での可塑性等を付与することが難しくなる。例えば、小型のカップ容器の付けマーガリンやフィリング等の製品に関しては、円滑にライン製造を行うためには、充填時に200dPa・s程度の粘度が必要である。一般的に液状油の粘度は10dPa・s未満であるため、液状の植物油脂を多量に含む製品の製造は困難といえる。
【0003】
そこで、それらの液状植物油脂を水素添加し、融点30℃〜40℃の硬化油にして使用している。水素添加された油脂には、大きく分けて2種類のタイプがある。一つは極度硬化油脂で、もう一つは部分水素添加油脂である。極度硬化油脂は、不飽和脂肪酸がほとんど存在しなくなるまで、即ち、ヨウ素価が実質的には0になるまで水素添加したもので、硬度が高く、また融点も高い固形油脂である。極度硬化油脂は、マーガリンやファットスプレッドのような食用油脂製品に必要な硬さ、可塑性や、製造時に必要な充填粘度を付与することができるが、融点が高いために良好な口溶けを維持することは困難である。
部分水素添加油脂は、不飽和脂肪酸の一部だけが飽和されたもので、極度硬化油脂と比較して軟らかく、また融点も低い油脂である。この部分水素添加油脂は、水素添加の度合いにより硬度や融点を容易に調整することができるため、マーガリンやファットスプレッドのような食用油脂製品に必要な硬さ、可塑性や、製造時に必要な充填粘度、そして良好な口溶けを付与することができ、食用油脂製品の原料油脂とし汎用されている。
【0004】
しかし、この部分水素添加油脂には、水素添加時に、異性体であるトランス酸(トランス型脂肪酸ともいう)を含有する。トランス酸については、心筋梗塞のリスクを高めるとして、米国では、2006年1月1日から食品などにトランス酸の含有量表示を義務化しており、天然に存在するトランス酸量以上を含まないことが望ましいとされている。
【0005】
リノール酸やリノレン酸等の不飽和脂肪酸を多く含む天然油脂は実質的にはトランス酸を含まない。風味が良好であり、家庭用の付けマーガリンやファットスプレッドの原料として消費者に人気が高いが液状であり保型性が得られない。一方で先に例示した植物油脂を極度硬化油脂まで水素添加した場合は、実質的にトランス酸を含まない。そこで、特許文献1には、トランス酸の含有量を減らした油脂組成物として、液状油脂にラウリン系油脂の極度硬化油を配合した油脂組成物が開示されている。液状油脂に極度硬化油を加え保形性を高め、この極度硬化油にラウリン系油脂を用いることにより、極度硬化油の使用による口溶けの悪さを解消する。また、さらに保型性を高めるためには、炭素数20以上の脂肪酸を含有する天然油脂の極度硬化油を少量添加することが好ましいことが開示されている。しかしながら、この油脂組成物では、製品の光沢・ツヤが少なく、可塑性の乏しい、ボソボソした物性になりやすく、長期冷蔵保存後に粗大結晶、グレインが発生するおそれがあるため、家庭用の付けマーガリンやファットスプレッドには改良が必要であった。
そこで、上記の物性を改良するため、特許文献2には、液状油脂と、ラウリン系の極度硬化油脂、ラウリン系油脂由来のエステル交換油脂、及び植物油脂の部分水素添加油脂を配合した油脂組成物が開示されている。しかし、部分水素添加油脂を使用するのでトランス酸が含まれることになり、部分水素添加油脂を使用しなくても上記の物性を改良できる油脂組成物が望まれていた。
【特許文献1】特開2002−161294号公報
【特許文献2】特開2007−129949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この様に、液状植物油脂を多く使用し、実質的にトランス酸を含まない油脂組成物において、(1)マーガリンやファットスプレッドとして良好な口溶けを維持すること、(2)充填時に十分な粘度を得て、マーガリンやファットスプレッドとして適する硬さ、可塑性を得ること、及び(3)光沢・ツヤのある良好な外観を維持できる保存安定性を有すること、の要求を同時に満たすことは技術的に容易ではなかった。
本発明は、上記の技術的課題を解決する油脂組成物を調整することである。すなわち、液状植物油脂を多く含有し、トランス酸含量を油脂中低含有量に抑制でき、かつ、マーガリンやファットスプレッドとしての十分な口溶け、硬さ、光沢・ツヤ、保型性、可塑性、保存安定性を有し、製造時においても良好な充填粘度を有する可塑性低トランス酸植物性油脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、特定の割合で「炭素数8〜14の飽和脂肪酸、及び炭素数20〜24の飽和脂肪酸を含有する植物油脂由来エステル交換油脂」を配合することで、液状植物油脂と極度硬化ラウリン系油脂からなる油脂組成物を使用したときの、製品の光沢・ツヤが少なく、可塑性の乏しくてボソボソした物性になりやすい、長期冷蔵保存後に粗大結晶・グレインが発生するおそれがあるなどの問題を解消できることを見出して本発明を完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)下記のA成分:60〜80質量%、B成分:10〜20質量%、C成分:10〜20質量%からなり、B成分とC成分との質量比が1:0.5〜2であることを特徴とする低トランス酸植物性油脂組成物。
A成分:液状植物油脂、
B成分:融点32℃〜40℃で、炭素数8〜14の飽和脂肪酸を50質量%以上含有する極度硬化ラウリン系油脂、
C成分:融点34℃〜42℃で、炭素数8〜14の飽和脂肪酸を30〜50質量%、炭素数20〜 24の飽和脂肪酸を3〜10質量%含有する植物油脂由来エステル交換油脂。
(2)前記(1)の油脂組成物を原料とする、マーガリン、又はファットスプレッド、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、液状植物油脂を多く含有し、実質的にトランス酸を含まず、かつ、マーガリンやファットスプレッドとしての十分な口溶け、硬さ、光沢・ツヤ、保型性、可塑性、保存安定性を有し、製造時においても良好な充填粘度を有する可塑性低トランス酸植物性油脂組成物を提供することができる。すなわち、液状植物油脂を60質量%以上配合し、実質的にトランス酸を含まず、かつ、マーガリンやファットスプレッドとしての十分な口溶け、硬さ、光沢・ツヤ、保型性、可塑性、保存安定性を有し、製造時においても良好な充填粘度を有する可塑性低トランス酸植物性油脂組成物を提供することができる。
さらに、本発明は、十分な口溶け、硬さ、光沢・ツヤ、保型性、可塑性、保存安定性を有するマーガリンやファットスプレッドを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の低トランス酸植物性油脂組成物は、液状植物油脂(A成分)、極度硬化ラウリン系油脂(B成分)、炭素数8〜14の飽和脂肪酸、及び炭素数20〜24の飽和脂肪酸を含有する植物油脂由来エステル交換油脂(C成分)を一定の割合で含有することを特徴とする。
【0010】
(A成分)
液状植物油脂は、通常、食用油脂として用いられ、常温において液体状を呈する油脂である。例えば、コーン油、サフラワー油、大豆油、オリーブ油、ナタネ油、落花生油、綿実油、米油、パーム核油、ヤシ油等の不飽和脂肪酸を多く含む油脂を挙げることができる。
これら液状植物油脂の中でも、コーン油、サフラワー油、大豆油、オリーブ油、ナタネ油は特に風味が良好である。
油脂組成物中のA成分の含有量は、70〜80質量部であることが好ましい。70質量%未満の場合、マーガリンやファットスプレッドを製造した際に液状植物油脂本来の風味を十分に残すことはできず、80質量%を超える場合は、マーガリンやファットスプレッドに適した硬さが得られ難くなる。
【0011】
(B成分)
本発明に用いる極度硬化ラウリン系油脂は、ヤシ油、パーム核油などのラウリン系油脂及びその分別油を極度硬化した油脂であり、融点32℃〜40℃の範囲で、炭素数8〜14の脂肪酸を50質量%以上含有する油脂である。20℃における固体脂含有率(SFC)が50〜65である極度硬化油脂であることが好ましい。水素添加は、例えば、圧力1〜20kg/cm、温度100〜250℃の条件下でニッケル触媒を添加して水素を吹き込みながら、不飽和脂肪酸がほとんど残存しなくなるまで、即ちヨウ素価がほぼ0になるまでおこなったものである。
本発明では、炭素数8〜14の脂肪酸を50%以上含有する極度硬化ラウリン系油脂を使用する。炭素数8〜14の飽和脂肪酸が50%未満の極度硬化油脂を配合した油脂組成物では、マーガリンやファットスプレッドを製造すると口溶けが悪くなりやすい。マーガリンやファットスプレッドに適した硬さ、保型性を得るには、極度硬化ラウリン系油脂の20℃における固体脂含有率(SFC)が50〜65の範囲になることが好ましい。
油脂組成物中のB成分の含有量は、10〜20質量部であることが好ましい。B成分の含有量が10質量%未満の場合は、マーガリンやファットスプレッドに適した硬さ、特に保型性を得ることが難くなる。B成分の含有量が20質量%を超える場合は、製品の光沢、ツヤがなく、可塑性の乏しい、ボソボソした物性になり、長期冷蔵保存後に粗大結晶、グレインが発生するおそれがあるため、マーガリンやファットスプレッドには不向きな状態となりやすい。
【0012】
(C成分)
A成分にB成分のみを配合したのみでは、先行技術に示すようにマーガリンやファットスプレッドの原料としては適さない。
本発明は、C成分として炭素数8〜14の飽和脂肪酸、及び炭素数20〜24の飽和脂肪酸を含有する植物油脂由来エステル交換油脂を配合することにより、この問題を解決する。
炭素数20〜24の飽和脂肪酸は、結晶化速度が速く油脂結晶を微細化し安定化させる効果を有するので、これらの脂肪酸を含む油脂はマーガリンの物性を向上させるには有効である。しかし、天然油脂由来のハイエルシン菜種極度硬化油をそのまま使用しても口溶けを悪くし長期保存時においてマーガリンの外観の劣化やグレインの発生を促進させる。そこで、これに炭素数8〜14の飽和脂肪酸を含有させたエステル交換油脂をC成分として配合することにより、これらの問題点を解決したものである。
本発明に用いるC成分は、詳細には、融点34℃〜42℃の植物油脂由来エステル交換油脂であり、炭素数8〜14の飽和脂肪酸を30〜50質量%、炭素数20〜24の飽和脂肪酸を3〜10質量%含有する油脂であり、20℃における固体脂含有率(SFC)が35〜45であるエステル交換油脂であることが好ましい。
本発明の油脂組成物はC成分の植物油脂由来エステル交換油脂を含むことより、これを使用し製造したマーガリンやファットスプレッドに光沢・ツヤを与え、可塑性を向上させ、長期冷蔵保存時の粗大結晶化、特にグレインの発生を抑制させることができる。また、C成分は、固化速度が速く、マーガリンやファットスプレッドの製品製造において充填時に200dPa・s程度の粘度が得られることから使用に適している。
【0013】
本発明に用いるC成分は、炭素数8〜14の飽和脂肪酸を多く含有する油脂と、炭素数20〜24の脂肪酸を多く含有する油脂を含む配合油をエステル交換して製造され、天然界に存在しえない脂肪酸組成の油脂である。例えば、炭素数8〜14の飽和脂肪酸を多く含む油脂としてヤシ油、パーム核油等の油脂40〜60質量%と、炭素数20〜24の飽和脂肪酸を多く含む油脂としてハイエルシン菜種極度硬化油7〜15質量%とを含む配合油をエステル交換し、20℃における固体脂含有率(SFC)が35〜45になるエステル交換油脂が好ましい。
エステル交換方法は、化学的方法、酵素的方法のいずれも使用できる。例えば、酵素的方法でグリセリドの一位と三位の脂肪酸を特異的に交換する酵素を使用して、30〜80℃で反応させて製造することが好ましい。
C成分において、融点が34℃に満たないエステル交換油脂を使用すると、製造したマーガリンやファットスプレッドの可塑性が十分に得られず、融点が42℃を超える場合は口溶けが悪くなる傾向がある。
C成分中の炭素数8〜14の飽和脂肪酸が30質量%に満たない場合、口溶けが悪くなる傾向があり、炭素数8〜14の飽和脂肪酸が50質量%を超える場合、マーガリンやファットスプレッドの光沢・ツヤが悪くなり、グレインの発生を抑制でき難くなる。
C成分中の炭素数20〜24の飽和脂肪酸が3質量%に満たない場合、小型のカップ容器用の付けマーガリンやファットスプレッドの製品において、十分な充填粘度が得られず、円滑にライン製造を行うことが難しくなる。炭素数20〜24の飽和脂肪酸が10質量%を超えると効果が飽和することになり、また、製品の口溶けが悪くなり易い。
C成分のSFCが35未満の場合は、製品に十分な硬さが得られなくなるおそれがあるので好ましくはない。
本発明の低トランス酸植物性油脂組成物中のC成分の含有量は、10〜20質量%であることが好ましい。C成分の配合量が10質量%未満の場合は、製造されたマーガリンやファットスプレッドにおいて、製品の光沢・ツヤが少なく、可塑性の乏しい、ボソボソした物性になり、長期冷蔵保存後に粗大結晶、グレインが発生するおそれがある。特に家庭用の付けマーガリンやファットスプレッドには不向きな状態になる。また、小型のカップ容器用の付けマーガリンやファットスプレッドの製品において、十分な充填粘度が得られず、円滑にライン製造を行うことが難しくなる。
C成分の含有量が20質量%を超える場合は、口溶けが悪くなる傾向がある。
【0014】
本発明において、B成分とC成分との質量比を1:0.5〜2とすると、マーガリンやファットスプレッドとして適する口溶け、硬さ、保型性、可塑性が得られ、光沢・ツヤのある良好な製品状態で長期間維持でき、粗大結晶、グレイン等の発生を抑制できる。製造時においても良好な充填粘度を有する。
C成分が上記比率より小さいとき(B成分に対するC成分質量比が0.5未満のとき)、製品の光沢・ツヤが少なく、可塑性の乏しい、ボソボソした物性になり、長期冷蔵保存後に粗大結晶、グレインが発生するおそれがある。C成分が上記比率より大きいとき(B成分に対するC成分質量比が2を超えるとき)、マーガリンやファットスプレッドの口溶けが悪くなり易い。
さらに好ましくは、油脂組成物全体として、融点が30℃〜35℃で、20℃における固体脂含有率(SFC)が8〜13であるとき、より口溶け、硬さの良好な油脂組成物が得られる。
【0015】
本発明は、A〜C成分を一定割合で混合した植物性油脂組成物を原料として、ショートニングや、マーガリンやファットスプレッドのようなW/O乳化型油脂食品を製造する。W/O乳化型油脂食品の製造方法は、例えば、A〜C成分を配合して本発明の油脂組成物を調製し、この油相40〜80質量部に対して、水相20〜60質量部を混合して乳化する。油相には、乳化剤、トコフェロール、香料、着色料等、その他油溶性の添加物も添加することができ、水相には、乳化剤、脱脂粉乳、食塩、増粘多糖類等、その他水溶性の食品や添加物を添加することができる。乳化工程は、マーガリンやファットスプレッドを調製するときの通常の乳化機を使用でき、ボテーター、コンビネーター、パーフェクターなどの急冷捏和装置にて、マーガリンやファットスプレッドを製造することができる。
【実施例】
【0016】
以下に、具体例を挙げて、詳細に説明する。
【0017】
製造例1
パーム核油を常法で極度硬化して油脂B−1を得た(ヨウ素価0.5)。融点40℃、炭素数8〜14の飽和脂肪酸は65質量%、20℃における固体脂含有率(SFC)は58であった。
【0018】
製造例2
パーム油を常法で極度硬化して油脂B−2を得た(ヨウ素価0.5)。融点65℃、炭素数8〜14の飽和脂肪酸は2質量%、20℃における固体脂含有率(SFC)は100であった。
【0019】
製造例3
パーム核油50質量部、ハイエルシン菜種極度硬化油(ヨウ素価0.5)10質量部、パーム油40質量部をエステル交換して油脂C−1を得た。エステル交換は、グリセリドの一位と三位の脂肪酸を特異的に交換する酵素(リポザイムTL−IM:ノボ・ノルデックス社製)を使用して、65℃で反応させた。製造されたエステル交換油は、融点37℃、炭素数8〜14の飽和脂肪酸は35質量%、炭素数20〜24の飽和脂肪酸は5質量%、20℃における固体脂含有率(SFC)は36であった。
【0020】
製造例4
ヤシ極度硬化油40質量部、ハイエルシン菜種極度硬化油(ヨウ素価0.5)5質量部、パーム油55質量部を酵素でエステル交換して油脂C−2を得た。エステル交換は、グリセリドの一位と三位の脂肪酸を特異的に交換する酵素(リポザイムTL−IM:ノボ・ノルデックス社製)を使用して、65℃で反応させた。製造されたエステル交換油は、融点39℃、炭素数8〜14の飽和脂肪酸は32質量%、炭素数20〜24の飽和脂肪酸は3質量%、20℃における固体脂含有率(SFC)は41であった。
【0021】
製造例5
ハイエルシン菜種極度硬化油10質量部、パーム油90質量部を酵素でエステル交換して油脂C−3を得た。エステル交換は、グリセリドの一位と三位の脂肪酸を特異的に交換する酵素(リポザイムTL−IM:ノボ・ノルデックス社製)を使用して、65℃で反応させた。製造されたエステル交換油は、融点45℃、炭素数8〜14の飽和脂肪酸は1質量%、炭素数20〜24の飽和脂肪酸は質量5%、20℃における固体脂含有率(SFC)は45であった。
【0022】
製造例6
ヤシ極度硬化油50質量部、パーム油50質量部を酵素でエステル交換して油脂C−4を得た。エステル交換は、グリセリドの一位と三位の脂肪酸を特異的に交換する酵素(リポザイムTL−IM:ノボ・ノルデックス社製)を使用して、65℃で反応させた。製造されたエステル交換油は、融点39℃、炭素数8〜14の飽和脂肪酸は39質量%、炭素数20〜24の飽和脂肪酸は0.3質量%、20℃における固体脂含有率(SFC)は41であった。
【0023】
製造例7
パーム核油50質量部、ハイエルシン菜種極度硬化油10質量部、パーム油40部を配合して油脂C−5を得た。本配合油は、融点33℃、炭素数8〜14の飽和脂肪酸は35質量%、炭素数20〜24の飽和脂肪酸は5質量%、20℃における固体脂含有率(SFC)は25であった。
【0024】
実施例1
コーン油を70質量部、油脂B−1を15質量部、油脂C−1を15質量部を配合し油脂組成物を製造した。この油脂組成物の融点は33℃、炭素数8〜14の飽和脂肪酸は10質量%、炭素数20〜24の飽和脂肪酸は3質量%、20℃の固体脂含有率(SFC)は9、トランス酸含量は0.7質量%であった。
この油脂組成物80.8質量部に、グリセリン脂肪酸エステル(商品名:エマルジーMS:理研ビタミン株式会社製)0.1質量部、大豆レシチン0.1質量部、及びβ-カロチン、香料を適量添加し、油相部とした。
この油相部81質量部に対し、水17質量部に食塩1質量部と脱脂粉乳1質量部を溶解した水相部を添加し、約70℃に加熱しながらスリーワンモーターにて攪拌混合し、乳化した。これをコンビネーター(シュレーダー社製)に通し、急冷捏和し、マーガリンを製造した。
【0025】
実施例2〜3
表1の組成比にて油脂組成物を配合し、実施例1と同様な方法にて、マーガリンを製造した。
【0026】
本発明で用いた、口溶け評価基準、可塑性評価基準、充填適正評価基準、保型性評価基準、外観評価基準、トランス脂肪酸含量の測定方法について記す。
(口溶け評価基準)
10℃に保存していた試料を約2g口内に入れて評価した。
3:3秒以内に溶解性が確認されたもの
2:3を超え8秒以内に溶解性が確認されたもの
1:8秒を超えたもの
(可塑性評価基準)
10℃に30日間保存していた試料の硬さ(破断強度)をレオメーター(山電(株)製)にて測定した。直径30mmプランジャーで10mm押した時の応力値(g)を、試料の硬さとして評価した。
3:1000g以上1800g未満
2:700g以上1000g未満、または1800g以上2500g未満
1:700g未満、または2500g以上
(充填適正評価基準)
充填時の製品粘度を、ビスコテスタ(リオン(株)製)で測定した。
3:200dPa・s以上400dPa・s未満
2:100dPa・s以上200dPa・s未満
1:100dPa・s未満
(保型性評価基準)
直径2cm、高さ2cmの円柱状に形取った試料を、30℃に3時間保存した。
3:最初の高さから10%未満の範囲低くなる。
2:最初の高さから10%以上20%未満の範囲で低くなる。
1:最初の高さから20%以上低くなる。
(外観評価基準)
10℃に30日間保存していた試料の外観を肉眼で評価した。
3:光沢・ツヤがある。
2:光沢・ツヤがない。
1:光沢・ツヤがなく、ザラツキが見られる。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
表2から明らかなように、実施例1〜3により製造されたマーガリンは、付けマーガリンとして優れた口溶けであり、かつ充填時に十分な粘度であり、マーガリンとして適する保型性(硬さ)、可塑性を有し、保存後もツヤのある良好な外観であった。
【0030】
比較例1
コーン油を70質量部、油脂B−1を27質量部、ハイエルシン菜種極度硬化油(ヨウ素価0.5)を3質量部配合して、油脂組成物を製造した。
この油脂組成物80.8質量部に、グリセリン脂肪酸エステル(商品名:エマルジーMS:理研ビタミン株式会社製)0.1質量部、大豆レシチン0.1質量部、及びβ-カロチン、香料を適量添加し、油相部とした。
この油相部81質量部に対し、水17質量部に食塩1質量部と脱脂粉乳1質量部を溶解した水相部を添加し、約70℃に加熱しながらスリーワンモーターにて攪拌混合し、乳化した。これをコンビネーター(シュレーダー社製)に通し、急冷捏和し、マーガリンを製造した。
組成比を表3に記す。
【0031】
比較例2〜10
表3の組成で、比較例1と同様な方法にて、マーガリンを調整した。
【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
表4から明らかなように、本発明のC成分を配合しない場合の比較例1は、製品の光沢、ツヤが少なく、可塑性の乏しい物性であった。同様に本発明のC成分を配合しない場合の比較例2〜4は、可塑性、保存後の外観に劣った。B成分を配合しない場合の比較例5は、口溶けが劣った。
B成分に比べC成分の多い比較例6(C/B比が2.5)の場合は口溶けに劣り、C成分に比べB成分の多い比較例7(C/B比が0.4)の場合は可塑性と外観に劣った。
B成分の少ない比較例8の場合は口溶けが劣り、C成分の少ない比較例9は可塑性と外観に劣った。また、液状油と極度硬化油のみの場合の比較例10は、口溶け、可塑性、充填適正、外観に十分な物性が得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のA成分:60〜80質量%、B成分:10〜20質量%、C成分:10〜20質量%からなり、B成分とC成分との質量比が1:0.5〜2であることを特徴とする低トランス酸植物性油脂組成物。
A成分:液状植物油脂、
B成分:融点32℃〜40℃で、炭素数8〜14の飽和脂肪酸を50質量%以上含有する極度硬化ラウリン系油脂、
C成分:融点34℃〜42℃で、炭素数8〜14の飽和脂肪酸を30〜50質量%、炭素数20〜24の飽和脂肪酸を3〜10質量%含有する植物油脂由来エステル交換油脂。
【請求項2】
請求項1記載の油脂組成物を原料とするマーガリン、又はファットスプレッド。

【公開番号】特開2010−98990(P2010−98990A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272426(P2008−272426)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】