説明

低下したイソクエン酸デヒドロゲナーゼ活性を有する微生物を使用するファインケミカルの製造方法

【課題】 工業的に重要な微生物を使用してファインケミカルを製造するための代替的発酵方法、およびその方法における使用のための微生物を提供すること。
【解決手段】 本発明は、ファインケミカルの製造のための、低下したイソクエン酸デヒドロゲナーゼ活性を有する微生物を使用する方法に関する。このファインケミカルはアミノ酸、重合体合成のための単量体、糖、脂質、油、脂肪酸またはビタミンであることが可能であり、好ましくは、アスパラギン酸ファミリーのアミノ酸、特にメチオニンもしくはリシン、またはかかるアミノ酸の誘導体、特にカダベリンである。さらに、本発明は、初期微生物と比較して低下したイソクエン酸デヒドロゲナーゼ活性を有する組換え微生物、ならびにアスパラギン酸ファミリーアミノ酸およびそれらの誘導体などのファインケミカルの製造における、かかる微生物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファインケミカルの製造のための、低下したイソクエン酸デヒドロゲナーゼ活性を有する微生物を使用する方法に関する。該ファインケミカルはアミノ酸、重合体合成のための単量体、糖、脂質、油、脂肪酸またはビタミンであることが可能であり、好ましくは、アスパラギン酸ファミリーのアミノ酸、特にメチオニンもしくはリシン、または該アミノ酸の誘導体、特にカダベリンである。さらに、本発明は、初期微生物と比較して低下したイソクエン酸デヒドロゲナーゼ活性を有する組換え微生物、ならびにファインケミカル、例えばアスパラギン酸ファミリーアミノ酸およびそれらの誘導体の製造における、そのような微生物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ファインケミカルは、例えば有機酸、例えば乳酸、有機アミン、例えばジアミノペンタン(カダベリン)、タンパク質生成性またはタンパク質非生成性アミノ酸、炭水化物、芳香族化合物、ヘテロ芳香族化合物、例えばジピコリナート、ビタミンおよび補因子、飽和および不飽和脂肪酸を含み、典型的には、製薬、農業、化粧品ならびに食品および飼料産業において、そしてまた、重合体合成のための単量体として使用され、必要とされる。それらは一般には化学法により製造されるが、益々多数のファインケミカルが発酵法によっても製造されている。
【0003】
例えばアミノ酸メチオニンに関しては、現在、世界の年間生産量は約500,000トンに達する。標準的な工業的製造法は発酵によるものではなく、多工程化学法によるものである。メチオニンは家畜における家禽飼料の第1制限アミノ酸であり、このため、主として飼料サプリメントとして使用される。例えば大腸菌(E. coli.)のような微生物を使用する発酵によりメチオニンを製造するための種々の試みが先行技術において公開されている。
【0004】
他のアミノ酸、例えばグルタミン酸、リシンおよびトレオニンは、例えば発酵法により製造される。これらの目的には、ある微生物、例えばC. glutamicumが特に適していることが判明している。発酵によるアミノ酸の製造は、L-アミノ酸のみが製造されるという、および化学合成において典型的に使用される溶媒のような、環境に対して問題となる化学物質が回避されるという格別の利点を有する。
【0005】
ジピコリナート、カダベリンまたはβ-リシンのようなファインケミカルに関しては、該化合物は多様な分野において使用され、一般に非発酵法により製造される。
【0006】
ジピコリン酸(CAS番号499-83-2)はピリジン-2,6-ジカルボン酸またはDPAとしても公知であり、種々の技術分野において、例えば、ポリエステルまたはポリアミド型の共重合体の合成における単量体、ピリジン合成のための前駆体、過酸化物および過酸、例えばt-ブチルペルオキシド、ジメチル-シクロヘキサノンペルオキシド、ペルオキシ酢酸およびペルオキシ-一硫酸の安定剤、金属表面の研磨溶液の成分、微量の金属イオンの存在により劣化され易い有機物質の安定剤(金属イオン封鎖作用)、エポキシ樹脂の安定剤、および写真溶液または乳剤の安定剤(カルシウム塩の沈殿を防ぐ)として使用される。DPAは細菌の内胞子において生合成されることがよく知られている。ジヒドロジピコリナートからのDPAの生合成を触媒する酵素はジピコリン酸シンテターゼである。該酵素はBacillus subtilisから単離され、さらに特徴づけられている。それはspoVFオペロン(BG10781, BG10782)によりコードされる。
【0007】
1950年代に、ストレプトミセス属により産生される幾つかの強塩基性ペプチド抗生物質においてL-β-リシンが同定された。加水分解に際してL-β-リシンを産生する抗生物質には、ビオマイシン、ストレプトリンA、ストレプトトリシン、ロゼオトリシンおよびゲオマイシンが含まれる(Stadtman, Adv. Enzymol. Relat. Areas Molec. Biol. 38:413 (1973))。β-L-リシンは、真菌ノカルジア(Nocardia)により産生される抗生物質、例えばマイコマイシンの構成成分でもあり、β-リシンは、他の生物学的に活性な化合物を製造するために使用されうる。しかし、β-リシンの化学合成は長時間を要し、高価な出発物質を要し、一般にラセミ混合物を生成する。
【0008】
1,5-ジアミノペンタンは、L-リシンの化学法(脱炭酸)により現在製造されている比較的高価な特殊化学物質である。発酵により製造されたジアミノペンタンは未だ市販されていない。
【0009】
ファインケミカルの発酵製造は、今日、典型的には、Corynebacterium glutamicum (C. glutamicum)、Escherichia coli (E.coli)、Saccharomyces cerevisiae (S. cerevisiae)、Schizosaccharomyces pombe (S. pombe)、Pichia pastoris (P. pastoris)、Aspergillus niger、Bacillus subtilis、Ashbya gossypiiまたはGluconobacter oxydansのような微生物において行われている。特に、Corynebacterium glutamicumは、アミノ酸、例えばL-グルタミン酸およびL-リシンを大量に産生しうることが公知である(Kinoshita, S. (1985) Glutamic acid bacteria; p. 115-142 in: A.L. DemainおよびN.A. Solomon (編), Biology of industrial microorganisms, Bejamin/Cummings Publishing Co., London)。
【0010】
E. coliおよびC. glutamicumのような微生物においてアミノ酸、脂質、ビタミンまたは炭水化物のようなファインケミカルを製造するための先行技術における試みの幾つかは、例えば、それぞれのファインケミカルの生合成経路に関与する遺伝子の発現を増加させることにより、この目的を達成することを試みた。例えば、メチオニンまたはリシンのようなアミノ酸の生合成経路における或る段階が律速段階であることが判明している場合には、それに対応する酵素の過剰発現は、触媒される反応の、より大量の産物を産生する微生物の取得を可能にし、したがって、最終的に、それぞれのアミノ酸の産生の増加を招くであろう。同様に、例えば所望のアミノ酸の生合成経路における或る酵素的段階が、大量の代謝エネルギーを望ましくない副産物の形成へと導くため、望ましくないことが判明している場合には、関心のあるアミノ酸の形成に最終的につながる代謝反応のみが有利に生じるよう、それぞれの酵素活性の発現をダウンレギュレーションすることが想定されうる。
【0011】
メチオニンまたはリシンの生合成に関与している遺伝子の発現をアップおよび/またはダウンレギュレーションすることにより例えばメチオニンまたはシリンの産生を増加させるための試みは、例えばWO 02/10209、WO 2006/008097およびWO 2005/059093に記載されている。
【0012】
例えばカダベリン、ジピコリナートまたはβ-リシンのようなファインケミカルの産生を、該化合物の生物学的前駆体の生合成に関与している遺伝子の発現をアップおよび/またはダウンレギュレーションすることにより増加させるための試みは、例えばWO 2007/113127、WO 2007/101867およびEP 08151031.5に記載されている。
【0013】
イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(ICD;IDH、EC 1.1.1.42、配列番号3と称されることもある)は、例えばC. glutamicumのクエン酸回路(TCA)に関与する酵素である。それは、該回路の第3段階、すなわち、アルファ-ケトグルタル酸およびCO2を与えるイソクエン酸の酸化的脱炭酸を触媒する。
【0014】
C. glutamicumにおいてICDをコードする遺伝子がEikmannsら(Eikmanns, B.ら, J. Bacteriol. (1995) 177:774-782)により同定され、クローニングされ、特徴づけられた。C. glutamicumにおけるノックアウトによる、ICDをコードする染色体icd遺伝子の不活性化は、グルタミン酸栄養要求性を招く(Eikmanns, B.ら, J. Bacteriol. (1995) 177:774-782)。
【0015】
C. glutamicumおよびE. coliにおけるICDの過剰発現はグルタミン酸の産生を増強しなかった(Eikmanns, B.ら, J. Bacteriol. (1995) 177:774-782)。しかし、E. coliにおけるICDの過剰発現はトレオニン産生の増加を招くことがDE 10210967において報告された。C. glutamicumにおけるグルタミン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子とのicdの共発現に関して、矛盾する結果が報告されている。すなわち、Eikmannsは何の効果も示さなかったが、JP63214189およびJP2520895においては、改善されたグルタミン酸収率が報告されている。
【0016】
アスパラギン酸ファミリーのアミノ酸、それらの生化学的前駆体およびそれらの誘導体のようなファインケミカルの産生を増加させるための報告されている試みを考慮したとしても、代替的な製造方法が尚も必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第02/10209号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2006/008097号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2005/059093号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2007/113127号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2007/101867号パンフレット
【特許文献6】欧州特許第08151031.5号明細書
【特許文献7】独国特許発明第10210967号明細書
【特許文献8】特開昭63−214189号公報
【特許文献9】特許第2520895号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Stadtman, Adv. Enzymol. Relat. Areas Molec. Biol. 38:413 (1973)
【非特許文献2】Kinoshita, S. (1985) Glutamic acid bacteria; p. 115-142 in: A.L. Demain and N.A. Solomon (ed.), Biology of industrial microorganisms, Bejamin/Cummings Publishing Co., London)
【非特許文献3】Eikmanns, B. et al., J. Bacteriol. (1995) 177:774-782
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
これまでに未知の特性を有するC. glutamicumのような工業的に重要な微生物を使用してファインケミカルを製造するための代替的発酵方法、および該方法における使用のための微生物を提供することが、本発明の目的の1つである。
【0020】
本発明の以下の説明から明らかとなるこれらの及び他の目的は、独立した特許請求の範囲に記載されている本発明により達成される。従属請求項は好適な実施形態に関する。
【0021】
1つの実施形態においては、本発明は、低下したイソクエン酸デヒドロゲナーゼ活性を有する細胞を使用する、ファインケミカルの製造方法に関する。該酵素のダウンレギュレーションが、特定の生化学的産物、特にアスパラギン酸の下流の産物の収率の改善を招くことは、これまで公知ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の方法により製造されるファインケミカルは、好ましくは、アスパラギン酸からメチオニンおよび/またはリシンへとつながる生合成経路の中間体を経由して合成される。該ファインケミカルは、好ましくは、天然に存在するアミノ酸、例えばリシン、トレオニン、イソロイシンまたはメチオニン、あるいはそれらの窒素含有誘導体、例えばβ-リシン、ジピコリナートおよび1,5-ジアミノペンタンである。
【0023】
該製造方法において使用される細胞は原核生物、下等真核生物、単離された植物細胞、酵母細胞、単離された昆虫細胞、または単離された哺乳類細胞、特に、細胞培養系内の細胞でありうる。本発明の文脈においては、「微生物」なる語はそのような種類の細胞に関して用いられる。
【0024】
本発明を実施するためにICD活性が低下される好ましい種類の微生物は、ICD発現が低下されるコリネバクテリウム(Corynebacterium)、特に好ましくは、ICD発現が低下されるC. glutamicumである。
【0025】
低下したICD活性を有し、好ましくは、宿主細胞におけるICD発現の低下を招く改変ヌクレオチド配列を含む組換え微生物も、本発明の一部を構成する。そのような微生物はC. glutamicumでありうる。
【0026】
本発明はまた、ファインケミカルを製造するための、特に、アスパラギン酸からメチオニンおよび/またはリシンへとつながる生合成経路の中間体を経由してファインケミカルを製造するための、前記組換え微生物の使用に関する。それは、特に、天然に存在するアミノ酸、例えばリシン、トレオニン、イソロイシンまたはメチオニンの製造のために使用されうる。それはまた、窒素含有ファインケミカル、例えばβ-リシン、ジピコリナートおよび1,5-ジアミノペンタンの製造に特に使用されうる。
【0027】
特に、本発明の以下の実施形態を提供する。すなわち、
(1)対応する初期微生物と比較して部分的または完全に低下したイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(ICD)活性を有する微生物を使用する、ファインケミカルの製造方法、
(2)対応する初期微生物と比較して部分的または完全に低下したイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(ICD)活性を有する組換え微生物。ただし、ICD発現の低下は、該微生物の天然icd配列の代わりの改変ICDコード化ヌクレオチド配列(icd配列)の発現によるものではなく、該宿主細胞のコドン使用頻度に従った場合に、より低い使用頻度のコドンにより、未改変ヌクレオチド配列のコドンの少なくとも1つが、該改変icd配列において置換されるよう、該改変icdコード化配列は未改変icd配列から誘導されている、
(3)ファインケミカルを製造するための、実施形態(2)の微生物の使用、
(4)実施形態(1)の方法により製造されたファインケミカルからの、化学物質、および重合体のような化学物質最終製品の製造方法であって、実施形態(1)の方法による該ファインケミカルの製造を1つの工程として含む製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】リシン生合成から分岐する酵素反応における、ベータ-リシン、ジピコリナートおよび1,5-ジアミノペンタンの発酵製造。示されている酵素は、一般に、該発酵において使用される微生物にとって異種である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
定義
以下の略語、用語および定義が本明細書において用いられる。
【0030】
IDH,イソクエン酸デヒドロゲナーゼ;ICD,イソクエン酸デヒドロゲナーゼ;「ICD」および「IDH」なる略語は、イソクエン酸デヒドロゲナーゼを表すために同義的に用いられる;WT,野生型;PPP,ペントースリン酸経路;DAP,ジアミノペンタン;DPA,ジピコリン酸。
【0031】
本発明の文脈において用いられる単数形は、文脈と明らかに矛盾しない限り、それぞれの複数形をも含む。したがって、「微生物」なる語は、同じ種類の2以上の微生物、すなわち、2個、3個、4個、5個などの微生物を含みうる。
【0032】
数値またはパラメータ範囲に関する「約」なる語は、関心のある特徴の技術的効果を尚も確保すると当業者が理解する精度区間を示す。該用語は、典型的には、+/-10%、好ましくは+/-5%の、示されている数値からの偏差を示す。
【0033】
特に示されていない限り、本発明の文脈における化合物またはアミノ酸は、種々の立体異性体の混合物を含む任意の立体化学を有しうる。好ましくは、該アミノ酸、それらの前駆体および誘導体はL-立体配置を有する。適当な場合には、特に好ましい立体配置が示されている。
【0034】
特に示されていない限り、本発明の方法により得られる酸は、遊離酸、該酸の部分的もしくは完全な塩の形態、または該酸およびその塩の混合物の形態でありうる。同様に、本発明の方法により得られるアミンは、遊離アミン、該アミンの部分的もしくは完全な塩の形態、または該アミンおよびその塩の混合物の形態でありうる。
【0035】
本発明の目的における「宿主細胞」なる語は、例えばポリペプチドまたはファインケミカルの製造のためのヌクレオチド配列の発現のために一般に使用される任意の単離された細胞を意味する。特に、「宿主細胞」なる語は、原核生物、下等真核生物、植物細胞、酵母細胞、昆虫細胞または哺乳類細胞培養系を意味する。
【0036】
「微生物」なる語は、原核生物、下等真核生物、単離された植物細胞、酵母細胞、単離された昆虫細胞または単離された哺乳類細胞、特に、細胞培養系内の細胞を意味する。本発明を実施するのに適した微生物は、酵母、例えばS. pombeまたはS. cerevisiaeおよびPichia pastorisを含む。哺乳類細胞培養系は、例えばNIH T3細胞、CHO細胞、COS細胞、293細胞、Jurkat細胞およびHeLa細胞を含む群から選択されうる。本発明の文脈においては、微生物は、好ましくは、原核生物または酵母細胞である。本発明の文脈において好ましい微生物は以下の「詳細な説明」の節において示される。特に好ましいのはCorynebacteria(コリネバクテリウム)である。
【0037】
「天然」は「野生型」および「天然に存在する」と同義である。「野生型」微生物は、特に示されていない限り、示されている微生物の一般的な天然に存在する形態である。一般に、野生型微生物は非組換え微生物である。
【0038】
「初期」は「出発」と同義である。「初期」ヌクレオチド配列または酵素活性は、例えば突然変異またはインヒビターの添加による、その改変の出発点である。いずれの「初期」配列、酵素または微生物も、その「最終」または「改変」対応物が有する及び特定の状況において示されている特徴的な特徴(例えば、低下したICD活性)を欠く。本発明の文脈における「初期」なる語は「天然」なる語の意義を含み、好ましい態様においては、「天然」と同義である。
【0039】
いずれの野生型または突然変異体(非組換え又は組換え突然変異体)微生物も、少なくとも1つの物理的または化学的特性において及び本発明の1つの特定の態様ではそのICD活性において初期微生物とは異なる微生物を与える非組換え(例えば、特異的酵素インヒビターの添加)または組換え法により更に改変されうる。本発明の文脈においては、初期未改変微生物は「初期」微生物または「初期(微生物)株」と称される。所定のICD発現レベルを有する初期株と比較した場合の、微生物におけるICD活性のいずれの低下も、比較しうる条件下での両方の微生物におけるICD活性の比較により決定される。
【0040】
典型的には、本発明の微生物は、遺伝的改変を含有しない初期微生物に該遺伝的改変を導入することにより得られる。
【0041】
微生物株の「誘導体」は、例えば古典的突然変異誘発および選択により又は定方向突然変異誘発により、その親株から誘導された株である。例えば株C. glutamicum ATCC13032lysCfbr(WO 2005/059093)は、LU11424と同様、ATCC13032から誘導されたリシン産生株である。
【0042】
本発明の目的における「ヌクレオチド配列」または「核酸配列」なる語は、ポリペプチド、例えばペプチド、タンパク質などをコードする任意の核酸分子を意味する。これらの核酸分子はDNA、RNAまたはそれらの類似体から構成されうる。しかし、DNAから構成される核酸分子が好ましい。
【0043】
本発明の文脈における「組換え」は、「遺伝的操作により又は遺伝的操作の結果として製造される」ことを意味する。したがって、「組換え微生物」は少なくとも1つの「組換え核酸」または「組換えタンパク質」を含む。組換え微生物は、好ましくは、発現ベクターまたはクローニングベクターを含み、あるいはそれは、宿主細胞の内因性ゲノム内にクローン化核酸配列を含有するように遺伝的に操作されている。
【0044】
「異種」は、細胞または生物に対する遺伝的操作により該細胞または生物内に導入された任意の核酸またはポリペプチド/タンパク質に関するものであり、その由来生物には無関係である。したがって、微生物から単離され同一種の別の微生物内に導入されたDNAは、本発明の文脈においては、後者の遺伝的に改変された微生物に対しては異種DNAであり、「相同」なる語が、この種の遺伝的に操作された改変に関して当技術分野において用いられることがあったとしても、前記のとおりとする。しかし、「異種」なる語は、好ましくは、本発明の文脈においては非相同核酸またはポリペプチド/タンパク質を指す。「異種タンパク質/核酸」は「組換えタンパク質/核酸」と同義である。
【0045】
「発現する」、「発現させる」、「発現された」および「発現」なる語は宿主生物における遺伝子産物(例えば、経路の遺伝子の生合成酵素)の発現を意味する。発現は、出発生物として使用される微生物の遺伝的変更により行われうる。いくつかの実施形態においては、微生物は、該出発微生物により又は変更されていない比較しうる微生物において産生される場合と比較して増加したレベルで遺伝子産物を発現するよう遺伝的に変更(例えば、遺伝的に操作)されうる。遺伝的変更には、特定の遺伝子の発現に関連した調節配列または部位の変更または改変(例えば、強力プロモーター、誘導性プロモーターまたは複数のプロモーターの付加によるもの、あるいは発現が構成的となるよう調節配列を除去することによるもの)、特定の遺伝子の染色体位置の改変、リボソーム結合部位または転写ターミネーターのような特定の遺伝子に隣接した核酸配列の変更、特定の遺伝子のコピー数の増加、特定の遺伝子の転写および/または特定の遺伝子産物の翻訳に関与するタンパク質(例えば、調節性タンパク質、サプレッサー、エンハンサー、転写アクチベーターなど)の改変、あるいは当技術分野における常套手段を用いる特定の遺伝子の発現を脱調節するためのいずれかの他の通常の手段(限定的なものではないが、例えばリプレッサータンパク質の発現を遮断するためのアンチセンス核酸分子の使用が含まれる)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
「保存的アミノ酸置換」は、初期アミノ酸配列における1以上のアミノ酸が、類似した化学的特性を有するアミノ酸により置換されること(例えば、AlaによるValの置換)を意味する。初期ポリペプチド配列と比較した場合の置換アミノ酸の比率は、好ましくは、初期アミノ酸配列の全アミノ酸の0〜30%、より好ましくは、0〜15%、最も好ましくは、0〜5%である。
【0047】
保存的アミノ酸置換は、好ましくは、以下のアミノ酸群の1つのメンバー間におけるものである:
・酸性アミノ酸(アスパラギン酸およびグルタミン酸);
・塩基性アミノ酸(リシン、アルギニン、ヒスチジン);
・疎水性アミノ酸(ロイシン、イソロイシン、メチオニン、バリン、アラニン);
・親水性アミノ酸(セリン、グリシン、アラニン、トレオニン);
・脂肪族側鎖を有するアミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン);
・脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸(セリン、トレオニン);
・アミド含有側鎖を有するアミノ酸(アスパラギン、グルタミン);
・芳香族側鎖を有するアミノ酸(フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン);
・塩基性側鎖を有するアミノ酸(リシン、アルギニン、ヒスチジン);
・硫黄含有側鎖を有するアミノ酸(システイン、メチオニン)。
【0048】
特に好ましい保存的アミノ酸置換は以下のとおりである。
【表1】

【0049】
「単離」なる語は「その由来生物からの分離または精製」を意味する。より詳しくは、多細胞生物の単離された細胞はその由来生物から分離しており、あるいは精製されている。これは、生化学的に精製された細胞および組換え的に製造された細胞を含む。
【0050】
本明細書中で用いる、アミノ酸の「前駆体」または「生化学的前駆体」は、本発明の微生物における該アミノ酸の形成につながる生化学的経路における該アミノ酸の前(「上流」)の化合物、特に、該生化学的経路の最後の数工程において形成される化合物である。本発明の文脈においては、リシン、メチオニン、トレオニンまたはイソロイシン、すなわち、アスパラギン酸以外のアスパラギン酸ファミリーのいずれかのアミノ酸の「前駆体」は、in vivoでの野生型生物におけるアスパラギン酸からそれぞれのアミノ酸への生化学的変換中に形成されるいずれかの中間体である。
【0051】
本明細書中で用いる「誘導体」(「微生物の誘導体」の文脈におけるその使用を除く;前記を参照されたい)なる語は、(i)アスパラギン酸ファミリーのアミノ酸から、または(ii)アスパラギン酸の下流の生化学的経路におけるそれらの生化学的前駆体から、酵素的または非酵素的変換(酵素的変換が好ましい)により誘導可能ないずれかの化合物を意味する。好ましくは、該変換は以下の少なくとも1つを引き起こす:
(i)1つ若しくは2つのカルボキシル基の除去;
(ii)1つのアミノ基の除去;
(iii)1つのアミノ基の転位;および/または
(iv)脱水素。
【0052】
特に好ましい変換および誘導体は後記の「詳細な説明」の節において説明される。
【0053】
「中間体」または「中間体産物」は、必ずしも分析的に直接検出可能な濃度においてではなく、化学的または生化学的過程中に一時的または連続的に形成される化合物と理解される。該中間体は、第2の化学的または生化学的反応により、特に、詳細な説明の節において後記に記載される後続の酵素的変換により、該生化学的過程から除去されうる。そのような後続の酵素的変換は、好ましくは、本発明に従い部分的または完全に低下したICD活性を有する微生物において生じる。この好ましい態様の方法においては、該微生物は、該方法の最終産物への内因性中間体の後続の変換における反応工程を触媒する少なくとも1つの異種酵素を含む。
【0054】
アミノ酸の「アスパラギン酸ファミリー」は、アスパラギン酸、アスパラギン、リシン、メチオニン、トレオニンおよびイソロイシン、特に、該アミノ酸のL-エナンチオマーを含む。狭義には、それはリシン、メチオニン、トレオニンおよびイソロイシンを含む。
【0055】
「炭素収量」は、(発酵において使用された炭素源、通常は糖の)消費された炭素量当たりで見出される(産物の)炭素量、すなわち、炭素源に対する産物の炭素比である。
【0056】
本発明の文脈における「ICD活性」は、ICDの任意の酵素活性、特に、ICDによりもたらされる任意の触媒作用を意味する。特に、「ICD活性」はイソシトラートからアルファ-ケトグルタラートへの変換を意味する。ICD活性は、酵素1ミリグラム当たりの単位(比活性)として、または酵素1分子当たり1分当たりに変換される基質の分子数として表される。
【0057】
発明の詳細な説明
本発明は、低下したICD活性を有する微生物による、ファインケミカルへのアミノ酸およびそれらの前駆体の生化学的変換に関する。
【0058】
ICDの活性は、細胞におけるアミノ酸産生に必要なNADPH/NADHの幾つかを与える。したがって、細胞のアミノ酸産生、特に、アスパラギン酸ファミリーのアミノ酸およびそれらの前駆体の産生を増幅するために該細胞におけるICD活性を低下させることは、本発明の着想以前には自明でなかったといえる。
【0059】
驚くべきことに、微生物におけるICD活性の低下が、アスパラギン酸ファミリーのアミノ酸、アスパラギン酸の下流の生化学的経路におけるそれらの前駆体、ならびに該アミノ酸および前駆体の或る誘導体の、該微生物における産生レベルの増加を招くことが、本発明において見出された。該誘導体は、アスパラギン酸ファミリーのアミノ酸またはその天然前駆体の1つを変換することにより、内因性または異種酵素により、好ましくは、異種酵素により、特に、図1に概説されている異種酵素により合成される。これらの産物の幾つかは、ファインケミカル、特に、アミノ酸メチオニンおよびリシンならびに誘導体カダベリン(1,5-ジアミノペンタン)、β-リシンおよびジピコリナートとして相当に興味深いものである。例えば、それらは以下のとおりに使用されうる:
1,5-ジアミノペンタン:ポリアミド単量体、ポリウレタン単量体、ピペリジン前駆体;
ベータ-リシン:カプロラクタム前駆体、ポリアミド単量体;
ジピコリン酸:ポリエステル単量体、ポリアミド単量体、安定剤。
【0060】
本発明の好ましい態様においては、実施形態(1)による製造方法は発酵法である。しかし、植物および非ヒト動物におけるin vivo製造を含む、化合物の生物工学的製造の他の方法も想定される。
【0061】
実施形態(1)によるファインケミカルの発酵製造のための方法は、グリオキシル酸分路を経由する炭素流量が増加するよう低下したICD活性を有する少なくとも1つの(好ましくは組換え)微生物の培養を含みうる。
【0062】
実施形態(1)のもう1つの好ましい態様においては、該製造方法において使用される微生物は組換え微生物である。植物および非ヒト動物におけるin vivo製造を含む、化合物の生物工学的製造の他の方法に関しては、選択される生物は、好ましくは、組換え生物である。
【0063】
本発明の任意の実施形態において、該実施形態に使用される微生物におけるイソクエン酸デヒドロゲナーゼ活性は部分的または完全に低下している。
【0064】
本発明の低下したICD活性を有する微生物は、同じ種および遺伝的背景の初期微生物と比較してその初期ICD活性を部分的または完全に喪失している。好ましくは、ICDの初期活性のおよそ少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも4%、少なくとも6%、少なくとも8%、少なくとも10%、より好ましくは、少なくとも20%、少なくとも40%、少なくとも60%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または全てが該微生物において喪失している。活性の低下の度合は、比較しうる条件下の初期微生物における内因性ICD活性の活性レベルと比較して決定される。
【0065】
ICD活性を可能な限り低下させることが常に望ましいわけではないと理解される。ある場合には、前記のレベルの、そしてまた、例えば25%、40%、50%などのようないずれかの不完全な低下で十分でありうる。
【0066】
ICD活性のいずれかの不完全な喪失が好ましい。なぜなら、これはTCAを維持し、該微生物がグルタマート、およびアルファ-ケトグルタラートから合成される他の生体分子を更に産生するのを可能にするからである。
【0067】
ICD活性の完全またはほぼ完全な(すなわち、90%以上の)喪失が該微生物を特徴づける実施形態においては、該微生物のための培養培地、特に、実施形態(1)での産生において使用される培地は、ICD活性の抑制により該微生物に欠けている1以上の必須化合物により補足されうる。特に、グルタマートは安価であり、容易に入手可能な化合物であるため、グルタマートが培地に補足されうる。
【0068】
2以上のICDコード化遺伝子および/または2以上の種類のICDを有する生物においては、ICD活性の低下は、種々の種類のICDの全ての、幾つかの又はだた1つの活性の低下でありうる。ICDの不完全な喪失の場合には前記の理由により、全ての種類ではないICDの特異的低下が好ましい。
【0069】
本発明に必要なICD活性の低下は、実施形態(1)の方法において使用される微生物の内因性形質、例えば、自然突然変異による形質、あるいは酵素活性、特にin vivoでの酵素活性を部分的または完全に抑制または阻害するための当技術分野で公知のいずれかの方法による形質でありうる。酵素活性の低下は、酵素合成および酵素反応いずれかの段階で、遺伝、転写、翻訳または反応レベルで生じうる。
【0070】
ICD活性の低下は、好ましくは、遺伝的操作の結果である。宿主細胞における1以上の内因性ICD遺伝子の発現の量を減少させるためには、そしてそれにより、icd標的遺伝子が抑制される該宿主細胞における該ICDの量および/または活性を減少させるためには、当技術分野で公知のいずれかの方法が適用されうる。微生物、例えばE. coliもしくはC. glutamicum、または他の宿主細胞、例えばP. pastorisおよびA. nigerにおける遺伝子の発現をダウンレギュレーションするためには、多数の技術、例えば遺伝子ノックアウトアプローチ、アンチセンス技術、RNAi技術などが利用可能である。それぞれの遺伝子の初期コピーを欠失させ、および/または、低下した活性、特に、低下した比活性を示す突然変異形態でそれを置換し、またはそれを弱いプロモーターから発現させることが可能である。あるいは、icd遺伝子の開始コドン、icd遺伝子のプロモーターを置換し、ランダムまたは標的突然変異誘発により突然変異を導入し、icd遺伝子を破壊またはノックアウトすることが可能である。さらに、不安定化要素をmRNA内に導入し、またはRNAリボソーム結合部位(RBS)の劣化を招く遺伝的改変を導入することが可能である。最後に、反応混合物に特異的ICDインヒビターを加えることが可能である。
【0071】
実施形態(1)の第1の好ましい態様においては、ICD活性はICD発現の部分的または完全な低下により低下される。「微生物における少なくとも1つのICDの発現の低下」は、定められたICD発現レベルを有する初期微生物と比較した場合の、微生物における発現のいずれかの低下を意味する。これは、もちろん、比較しうる宿主細胞型、比較しうる遺伝的背景状況などに関して該比較がなされることを前提としている。好ましくは、発現の低下は、前記のとおりに、または以下に記載されているとおりに達成される。
【0072】
本発明の特定の態様においては、該微生物は、ICD発現の低下により、好ましくは、少なくとも約5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または100%の低下により、その初期ICD活性を喪失しており、発現の低下の度合は、初期微生物におけるポリペプチドの発現のレベルと比較して決定される。発現の低下の度合は、比較しうる条件下で初期微生物において初期icdヌクレオチド配列から発現される内因性ICDの発現のレベルと比較して決定される。
【0073】
2以上のICDコード化遺伝子および/または2以上の種類のICDを有する生物においては、ICD発現の低下には1つ、幾つか又は全てのicd遺伝子が関与しうる。ICDの不完全な喪失の場合には前記の理由により、全てではないicd遺伝子の発現の特異的低下が好ましい。
【0074】
1つの好ましい態様においては、「発現の低下」は、ポリペプチドをコードする内因性ヌクレオチド配列を、実質的に同じアミノ酸配列および/または機能のポリペプチドをコードする改変ヌクレオチド配列で置換した場合に、減少した量の該コード化ポリペプチドが該改変細胞内で発現される状況を意味する。
【0075】
このダウンレギュレーション様式の特定の態様はicd遺伝子のノックアウトである(比較例4)。それは、関心のある微生物に適したいずれかの公知ノックアウト法により達成されうる。ノックアウトのための特に好ましい方法、および得られたノックアウト突然変異体を使用するファインケミカルの製造のための特に好ましい方法は実施例4に記載されている。
【0076】
icdのノックアウトはICD活性の完全またはほぼ完全な喪失をもたらしうる。したがって、欠損徴候を回避するために、および該微生物を生存させるために、グルタマートのような欠損ICD依存性産物での培養培地の補足がノックアウト突然変異体に必要でありうる。
【0077】
もう1つの好ましい態様においては、「発現の低下」は、遺伝子発現を妨げるアンチセンス技術またはRNA干渉(適用可能な場合、例えば真核細胞培養におけるもの)による発現のダウンレギュレーションを意味する。これらの技術はicd mRNAレベルおよび/またはicd翻訳効率に影響を及ぼしうる。
【0078】
さらにもう1つの好ましい態様においては、「発現の低下」は、「弱い」icd遺伝子、すなわち、初期ICD活性より低い酵素活性を有するICDをコードする遺伝子の導入と組合された、あるいは該細胞内の、より弱いICD活性を与える弱く発現される部位におけるicd部位の組込みによる、icd遺伝子の欠失または妨害を意味する。これは、遺伝子がそれほど良くは転写されない染色体遺伝子座においてicd遺伝子を組込むことにより、あるいはより低い比活性を有する又はそれほど効率的には転写されない若しくはそれほど効率的には翻訳されない若しくは該細胞内でそれほど安定ではない突然変異または異種icd遺伝子を導入することにより行われうる。この突然変異icd遺伝子の導入は、複製性プラスミドを使用することにより、またはゲノム内への組込みにより行われうる。
【0079】
さらにもう1つの好ましい態様においては、「発現の低下」は、低下したICD活性が、染色体にコードされたicd遺伝子からの転写を低下させることによる、好ましくは、初期プロモーターの突然変異、または初期ICDプロモーターの、該プロモーターの減衰形態もしくはより弱い異種プロモーターでの置換による、mRNAレベルの低下の結果であることを意味する。この態様を行うための、および得られた突然変異体を使用するファインケミカルの製造のための特に好ましい方法は実施例6に記載されている。
【0080】
さらにもう1つの好ましい態様においては、「発現の低下」は、低下したICD活性が、翻訳開始部位へのリボソームの結合の軽減を招き従ってicd mRNAの翻訳の軽減を招くRBS突然変異の結果であることを意味する。該突然変異は単純なヌクレオチド変化であることが可能であり、および/または開始コドンに対するRBSの空間的配置に影響を及ぼすことも可能である。これらの突然変異を達成するために、突然変異RBSのセットを含有する突然変異体ライブラリーが作製されうる。適当なRBSは、例えば、より低いICD活性に関して選択することにより選択されうる。ついで初期RBSは、選択されたRBSにより置換されうる。この態様を行うための、および得られた突然変異体を使用するファインケミカルの製造のための特に好ましい方法は実施例6に記載されている。
【0081】
さらにもう1つの好ましい態様においては、「発現の低下」は、例えば、二次構造を変化させることによりmRNAの安定性を低下させることによりmRNAレベルを低下させることにより達成される。
【0082】
さらにもう1つの好ましい態様においては、「発現の低下」はicdレギュレーター、例えば転写レギュレーターにより達成される。
【0083】
さらにもう1つの好ましい態様におけるICD発現をダウンレギュレーションするための具体的な方法は、PCT/EP2007/061151(微生物、特にCorynebacteriumおよびE. coliにおけるICD活性をダウンレギュレーションするためのコドン使用頻度法の適用に関して、これを参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されているコドン使用頻度法である。PCT/EP2007/061151は、宿主細胞における少なくとも1つのポリペプチドの量を減少させる方法を記載しており、該方法は、実質的に同じアミノ酸配列および/または機能のポリペプチドをコードする未改変ヌクレオチド配列の代わりの改変ヌクレオチド配列を該宿主細胞において発現させる工程を含み、ここで、該宿主細胞のコドン使用頻度に従った場合に、より低い使用頻度のコドンにより、該未改変ヌクレオチド配列の少なくとも1つのコドンが該改変ヌクレオチド配列において置換されるよう、該改変ヌクレオチド配列は該未改変ヌクレオチド配列から誘導される。
【0084】
ICDの量を減少させるためにCorynebacteriumおよび特に好ましくはC. glutamicumにおいて発現される改変ヌクレオチド配列の場合、未改変ヌクレオチド配列のコドンの少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、好ましくは、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも4%、少なくとも6%、少なくとも8%、少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、少なくとも40%、少なくとも60%、少なくとも80%、より一層好ましくは少なくとも90%または少なくとも95%、最も好ましくは全てが、それぞれのアミノ酸に関する、より低い使用頻度のコドンにより、該改変ヌクレオチド配列において置換されうる。より一層好ましい実施形態においては、置換されるべき前記の数のコドンは、高い頻度、非常に高い頻度、極めて高い頻度、または最も高い頻度のコドンを意味する。もう1つの特に好ましい実施形態においては、前記の数のコドンは最も低い使用頻度のコドンにより置換される。これらの全ての場合において、基準コドン使用頻度は、Corynebacteriumおよび好ましくはC. glutamicumのコドン使用頻度、好ましくは、Corynebacteriumおよび好ましくはC. glutamicumの豊富なタンパク質のコドン使用頻度に基づくであろう。詳細な説明は、PCT/EP2007/061151も参照されたい。
【0085】
本発明の特に好ましい態様は、PCT/EP2007/061151に記載されているコドン使用頻度を適合化することにより微生物におけるイソクエン酸デヒドロゲナーゼの発現の低下が達成される方法に関する。微生物はCorynebacteriumであることが可能であり、C. glutamicumが好ましい。これらの方法は、アミノ酸、特にメチオニンおよび/またはリシンならびにそれらの誘導体ならびに該アミノ酸の前駆体の誘導体、例えば1,5-ジアミノペンタン、β-リシンおよびジピコリナートの合成を改善するために用いられうる。したがって、PCT/EP2007/061151に記載されているコドン使用頻度法の適用により低下したICD活性を有する微生物は、本発明の1つの好ましい態様においては、実施形態(1)の方法を行うための選択された微生物である。開始コドン、例えばATGの置換により低下したICD活性を有する微生物、特に、開始コドンATGがGTGにより置換されている微生物が特に好ましい。PCT/EP2007/061151は、特に、1つの実施形態におけるGTGでの開始コドンの置換による並びに天然ICDの32位および33位におけるGGC ATTからGGG ATAへのグリシンおよびイソロイシンコドンの変化によるC. glutamicum細胞におけるICDの低下を記載している(配列番号3と配列番号4〜7とを比較されたい)。PCT/EP2007/061151のこれらの2つの実施形態は、実施形態(1)の製造方法の1つの態様におけるICD活性の低下のための選択された方法であり、したがって、本発明の実施形態(1)の方法におけるそれらの使用を明示的に参照により本明細書に組み入れることとする。それらの製造および使用は実施例1および3において実証されている。該実施例に記載されている微生物は本発明の好ましい実施形態(特に、株ICD ATG→GTG)である。
【0086】
一方、本発明の特に好ましい別の態様においては、PCT/EP2007/061151に記載されているコドン使用頻度法の適用により低下したICD活性を有する微生物は、実施形態(1)の方法における選択された微生物から除外される。該態様においては、実施形態(1)の方法は、ICD発現の低下が、該微生物の天然icd配列の代わりとして、該宿主細胞のコドン使用頻度に従った場合に、より使用頻度の低いコドンにより、未改変ヌクレオチド配列の少なくとも1つのコドンが改変icd配列において置換されるよう、未改変icd配列から誘導された改変ICDコード化ヌクレオチド配列(icd配列)の発現によるものではない、という条件下において、本発明の実施形態である。言い換えると、実施形態(1)の方法は、以下の条件において、本発明の実施形態である。すなわち、ICD発現の低下は、PCT/EP2007/061151に記載されている改変コドン使用頻度によるものではなく、PCT/EP2007/061151に記載されている微生物は使用されていない。より好ましくは、実施形態(1)の方法は、ファインケミカルが、リシン、トレオニンおよびメチオニンよりなる群から選ばれる場合に、ICD発現の低下が、該微生物の天然icd配列の代わりとして、該微生物のコドン使用頻度に従った場合に、より低い使用頻度のコドンにより、未改変ヌクレオチド配列の少なくとも1つのコドンが改変icd配列において置換されるよう、該改変icdコード化配列が未改変icd配列から誘導された改変ICDコード化ヌクレオチド配列(icd配列)の発現によるものではない、という条件において、本発明の実施形態である。
【0087】
前記条件は、PCT/EP2007/061151に記載されている改変コドン使用頻度によりICD発現が低下している微生物であって、さらに、該微生物の内因性生合成中間体または最終産物から該ファインケミカル合成の非天然標的化合物への変換を触媒する異種酵素を更に含む微生物(後記を参照されたい)を使用するファインケミカルの製造には、適用されない。好ましくは、該異種酵素は、ファインケミカルの合成または生合成における、特に、リシンから又はアスパラギン酸の下流のその生化学的前駆体から酵素的変換により誘導可能なファインケミカルの合成または生合成における1以上の工程を触媒する酵素よりなる群から選択される。より好ましくは、それは、脱炭酸、脱アミノ化、アミノ基転移、有機分子に沿ったアミノ基の転位、酸化および/または環化反応を触媒する酵素である。より一層好ましくは、それは、ジピコリン酸シンターゼ、リシンデカルボキシラーゼおよびリシン2,3-アミノムターゼよりなる群から選択される。特に好ましいのは、異種ジピコリン酸シンターゼ、リシンデカルボキシラーゼまたはリシン2,3-アミノムターゼを含む微生物である。言い換えると、この特に好ましい実施形態においては、該微生物は、PCT/EP2007/061151に記載されている改変コドン使用頻度により低下したICD活性を有することが可能であり、さらには、PCT/EP2007/061151に記載されている微生物であることが可能であるが、異種ジピコリン酸シンターゼ、リシンデカルボキシラーゼまたはリシン2,3-アミノムターゼを更に含む。
【0088】
本発明の実施形態(1)のファインケミカルの製造は、該ファインケミカルが、PCT/EP2007/061151に挙げられているファインケミカルのいずれでもない場合には、PCT/EP2007/061151に記載されているコドン使用頻度によりICD活性が低下した微生物を使用して行われうる。したがって、アスパラギン酸の下流の生化学的経路におけるアミノ酸の生化学的前駆体(例えば、アミノ酸リシン、メチオニン、トレオニンおよびイソロイシンの前駆体、例えば、2,3-ジヒドロジピコリナート、ジアミノピメラート、ホモセリン、ホモシステインおよび2,3-ジヒドロキシ-3-メチルバレラート)、および該アミノ酸または生化学的前駆体の天然または非天然誘導体は、PCT/EP2007/061151に記載されている微生物の産物として挙げられていないため、前駆体および誘導体の該群から選択される化合物は実施形態(1)の方法の好ましい産物である。より一層好ましいのは、該アミノ酸または前駆体の誘導体(好ましくは非天然誘導体)、特に、リシン、またはアスパラギン酸の下流のその天然前駆体の1つの誘導体(例えば、2,3-ジヒドロジピコリナート)の製造である。特に好ましいのは、1,5-ジアミノペンタン(カダベリン)、β-リシンおよびジピコリナートよりなる群から選択される化合物の製造である。
【0089】
実施形態(1)の第2の好ましい態様においては、ICD活性は該酵素の部分的または完全な抑制により低下される。該抑制は、ICDへのいずれかの公知の可逆的または不可逆的ICDインヒビターの結合の結果でありうる。そのようなインヒビターは当技術分野で公知であり、例えば、オキサロアセタート、2-オキソグルタラートおよびシトラート(これらはC. glutamicumにおけるICDの弱いインヒビターとして公知である)、またはオキサロアセタート + グリオキシラート(これらは強力なインヒビターとして公知である)(Eikmannsら (1995) 前掲)が挙げられる。該インヒビターは発酵培地に加えることが可能であり、あるいは細胞内でのその合成は外部刺激により誘導されうる。
【0090】
実施形態(1)および(2)の幾つかの好ましい態様においては、低下したICD活性は宿主細胞(好ましくは微生物、特にCorynebacterium)の遺伝的操作の結果であるが、低下したICD発現の結果ではない。
【0091】
特に、第3の好ましい態様においては、icd遺伝子の初期コピーを欠失させ、ICD活性の低下を示すICDをコードする突然変異形態で、または初期ICDより低いICD活性を有するICDをコードする異種icd遺伝子でそれを置換することにより、本発明の微生物のICD活性の低下がもたらされる。この態様を行うための、および得られた突然変異体を使用するファインケミカルの製造のための特に好ましい方法を実施例5に記載する。
【0092】
第4の好ましい態様においては、ICD活性低下を招く前記特徴の2以上の組合せが本発明の微生物において達成される。
【0093】
本発明の実施形態(1)の好ましい方法は、微生物において、好ましくはCorynebacteriaにおいて、より好ましくはC. glutamicumにおいてICD活性を低下させる工程を含み、ここで、前記の原理が用いられる。
【0094】
低下したICD活性を有する微生物における、アスパラギン酸ファミリーのメンバー、およびアスパラギン酸の生体内変換により形成されるそれらの前駆体の生合成における増加は、ICD抑制の結果としてのPPPおよびグリオキシル酸分路を通る炭素流量の増加によるものでありうる。前者はアミノ酸産生のための十分な還元等価体、すなわちNAD(P)Hの提供をもたらし、後者はアスパラギン酸ファミリーのアミノ酸の生合成のための必要な炭素前駆体を提供する。したがって、実施形態(1)において使用される微生物または実施形態(2)の微生物における、本発明の1つの好ましい態様においては、野生型微生物と比較して、
(i)グリオキシル酸分路および/または
(ii)ペントースリン酸経路(PPP)
を通る炭素流量が増加する。好ましくは、グリオキシル酸分路を通る炭素流量が増加する。該増加はいずれも、ICD活性低下の結果、該微生物の遺伝的操作の結果、該微生物の天然形質、またはこれらの要因のいずれかの組合せでありうる。グリオキシル酸分路を通る炭素流量の増加は、好ましくは、ICD活性低下および/または該微生物の遺伝的操作の結果である。PPPを通る炭素流量の増加は、好ましくは、該微生物の遺伝的操作の結果、より好ましくは、例えば、Psod(WO 2005/059144)のような強力プロモーターを使用することによる、PPP酵素発現レベルの活性アップレギュレーションの結果である。
【0095】
前記のとおり、本発明は、微生物、およびファインケミカル製造における微生物の使用に関する。しかし、実施形態(1)の製造方法における、および実施形態(2)の微生物に代わる、微生物以外の他の生物の使用も想定される。本発明の目的における「生物」なる語は、ファインケミカルの製造のためにヌクレオチド配列の発現に一般に使用される任意の非ヒト生物、特に、前記の微生物、藻類および蘚類を含む植物、酵母、および非ヒト動物を意味する。ファインケミカル製造に特に適している、微生物以外の生物は、植物および植物部分である。そのような植物は、単子葉植物または双子葉植物、例えば単子葉または双子葉作物植物、食物植物または飼料植物でありうる。単子葉植物の具体例としては、アベナ(avena)(エンバク)、トリチクム(triticum)(コムギ)、セカレ(secale)(ライムギ)、ホルデウム(hordeum)(オオムギ)、オリザ(oryza)(イネ)、パニクム(panicum)、ペンニセツム(pennisetum)、セタリア(setaria)、ソルガム(sorghum)(キビ)、ゼア(zea)(トウモロコシ)属などに属する植物が挙げられる。
【0096】
双子葉作物植物は、とりわけ、ワタ、マメ科植物、例えばマメ、特にアルファルファ、ダイズ、ナタネ、トマト、テンサイ、ジャガイモ、観賞植物、および高木を含む。さらに、作物植物は、果実(特にリンゴ、セイヨウナシ、オウトウ、ブドウ、柑橘類、パイナップルおよびバナナ)、アブラヤシ、茶樹、カカオノキおよびコーヒーノキ、タバコ、サイザル、ならびに薬用植物に関しては、ラウウォルフィアおよびジギタリスを含みうる。特に好ましいのは、穀物、コムギ、ライムギ、エンバク、オオムギ、コメ、トウモロコシおよびキビ、テンサイ、ナタネ、ダイズ、トマト、ジャガイモおよびタバコである。他の作物植物はUS 6,137,030から選ばれうる。
【0097】
種々の生物および細胞、例えば微生物、植物および植物細胞、動物ならびに動物細胞などは、細胞におけるicd遺伝子およびICDタンパク質の数および種類に関して様々であることが当業者に十分に認識されている。同一生物内であっても、異なる株は、それによって若干異なる発現プロファイルをタンパク質レベルで示しうる。
【0098】
微生物と異なる生物が本発明の実施において使用される場合には、非発酵製造方法が適用されうる。
【0099】
実施形態(1)、(2)、(3)および(4)の本発明においては、前記の任意の微生物が使用されうる。好ましくは、該微生物は原核生物である。本発明を実施するのに特に好ましいのは、Corynebacterium属およびBrevibacterium属、好ましくはCorynebacterium属(Corynebacterium glutamicumに特に関心が持たれる)、Escherichia属(Escherichia coliに特に関心が持たれる)、Bacillus属(特にBacillus subtilis)、Streptomyces属およびAspergillus属から選択される微生物である。
【0100】
本発明の好ましい実施形態は、コリネフォルム細菌、例えばCorynebacterium属の細菌から選択される微生物の使用に関する。特に好ましいのは種Corynebacterium glutamicum、Corynebacterium acetoglutamicum、Corynebacterium acetoacidophilum、Corynebacterium callunae、Corynebacterium ammoniagenes、Corynebacterium thermoaminogenes、Corynebacterium melassecolaおよびCorynebacterium effiziensである。本発明の他の好ましい実施形態は、Brevibacteria、特に、種Brevibacterium flavum、Brevibacterium lactofermentumおよびBrevibacterium divarecatumの使用に関する。
【0101】
本発明の好ましい実施形態においては、該微生物は、Corynebacterium glutamicum ATCC13032、C. acetoglutamicum ATCC15806、C. acetoacidophilum ATCC13870、Corynebacterium thermoaminogenes FERMBP-1539、Corynebacterium melassecola ATCC17965、Corynebacterium effiziens DSM 44547、Corynebacterium effiziens DSM 44549、Brevibacterium flavum ATCC14067、Brevibacterium lactoformentum ATCC13869、Brevibacterium divarecatum ATCC 14020、Corynebacterium glutamicum KFCC10065およびCorynebacterium glutamicum ATCC21608、ならびに例えば古典的な突然変異誘発および選択により又は定方向突然変異誘発によりそれらから誘導される株よりなる群から選択されうる。
【0102】
C. glutamicumの他の好ましい株は、ATCC13058, ATCC13059, ATCC13060, ATCC21492, ATCC21513, ATCC21526, ATCC21543, ATCC13287, ATCC21851, ATCC21253, ATCC21514, ATCC21516, ATCC21299, ATCC21300, ATCC39684, ATCC21488, ATCC21649, ATCC21650, ATCC19223, ATCC13869, ATCC21157, ATCC21158, ATCC21159, ATCC21355, ATCC31808, ATCC21674, ATCC21562, ATCC21563, ATCC21564, ATCC21565, ATCC21566, ATCC21567, ATCC21568, ATCC21569, ATCC21570, ATCC21571, ATCC21572, ATCC21573, ATCC21579, ATCC19049, ATCC19050, ATCC19051, ATCC19052, ATCC19053, ATCC19054, ATCC19055, ATCC19056, ATCC19057, ATCC19058, ATCC19059, ATCC19060, ATCC19185, ATCC13286, ATCC21515, ATCC21527, ATCC21544, ATCC21492, NRRL B8183, NRRL W8182, B12NRRLB12416, NRRLB12417, NRRLB12418およびNRRLB11476よりなる群から選択されうる。
【0103】
略語KFCCはKorean Federation of Culture Collectionを表し、ATCCはAmerican-Type Strain Culture Collectionを表し、略語DSMはDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturenを表す。略語NRRLはARS cultures collection Northern Regional Research Laboratory, Peorea, IL, USAを表す。
【0104】
L-リシン、L-メチオニン、L-イソロイシンおよび/またはL-トレオニンのようなファインケミカルを既に産生しうるCorynebacterium glutamicumの株は本発明の実施に特に好ましい。そのような株は例えばCorynebacterium glutamicum ATCC13032および特にその誘導体である。リシンを産生することが公知である株ATCC 13286, ATCC 13287, ATCC 21086, ATCC 21127, ATCC 21128, ATCC 21129, ATCC 21253, ATCC 21299, ATCC 21300, ATCC 21474, ATCC 21475, ATCC 21488, ATCC 21492, ATCC 21513, ATCC 21514, ATCC 21515, ATCC 21516, ATCC 21517, ATCC 21518, ATCC 21528, ATCC 21543, ATCC 21544, ATCC 21649, ATCC 21650, ATCC 21792, ATCC 21793, ATCC 21798, ATCC 21799, ATCC 21800, ATCC 21801, ATCC 700239, ATCC 21529, ATCC 21527, ATCC 31269およびATCC 21526も好ましく使用されうる。特に好ましいのは、L-リシン、L-メチオニンおよび/またはL-トレオニンのようなファインケミカルを既に産生しうるCorynebacterium glutamicum株である。したがって、フィードバック抵抗性アスパルトキナーゼを有するCorynebacterium glutamicumから誘導される株およびそれらの誘導体が特に好ましい。この好ましいものは、フィードバック抵抗性アスパルトキナーゼを有するCorynebacterium glutamicum ATCC13032から誘導される株を含み、特に、株LU11424、ATCC13032lysCfbrおよびATCC13286に関心が持たれる。フィードバック抵抗性アスパルトキナーゼを有するC. glutamicum LU11424、ATCC13032lysCfbr、ATCC13032またはATCC13286およびそれらの誘導体が本発明の文脈における特に好ましい微生物である。最も好ましいのはLU11424、ATCC13032lysCfbrまたはATCC13286およびそれらの誘導体であり、LU11424が特に好ましい。
【0105】
icdの内因性コピーを置換するために種々のC. glutamicum株を使用することが可能である。しかし、C. glutamicumリシン産生株、例えばATCC13032 lysCfbr、LU11424、またはATCC13032もしくはATCC13286の他の誘導体を使用することが好ましい。
【0106】
ATCC13032 lysCfbrは、ATCC13032から出発して製造されうる。そのようなリシン産生株を作製するためには、C. glutamicum ATCC13032においてlysC野生型遺伝子の対立遺伝子交換を行う。この目的には、該lysC遺伝子内にヌクレオチド交換を導入して、生じるタンパク質が311位にトレオニンではなくイソロイシンを含有するようにする。この株の詳細な構築は特許出願WO 2005/059093に記載されている。該lysC遺伝子のアクセッション番号はP26512である。
【0107】
LU11424は、実施例1に記載されているとおりに製造されうる。それはATCC13032 lysCfbrの誘導体である。LU11424におけるICD活性は、好ましくは、イソクエン酸デヒドロゲナーゼをコードするヌクレオチド配列の開始コドンとしてのATGの置換により、好ましくは、GTGでのATGの置換により低下される。icd開始コドンが置換された、実施例1に記載されている株(すなわち、株ICD ATG→GTG)が、本発明の文脈においては特に好ましい。しかし、LU11424に関して実施例1に挙げられている改変の1以上を有し低下したICD活性を有する任意のATCC13032誘導体も、本発明の実施のための好ましい株であるとされる。
【0108】
本発明に適したものとなるためには、前記微生物の全ては、部分的または完全に低下したICD活性を示すと理解される。本発明の文脈における好ましい微生物は、低下したICD活性が遺伝的操作(例えば、実施例1に記載されている株ICD ATG→GTG)の結果である組換え微生物である。
【0109】
本発明の実施形態(1)は、ファインケミカルを製造するための、低下したICD活性を有する前記微生物の使用に関する。
【0110】
「ファインケミカル」なる語は当業者によく知られており、製薬業、農業ならびに化粧品、食品および飼料産業の種々の分野で使用されうる化合物を示す。「ファインケミカル」なる語は重合体合成のための単量体をも含む。
【0111】
ファインケミカルは、最終産物、または更なる合成工程に必要とされる中間体でありうる。
【0112】
本発明の文脈においては、「ファインケミカル」なる語は、ただ1種類の化合物を表す場合の「ファインケミカル」と同意義である。本発明の方法および微生物による、ただ1種類の標的化合物であるファインケミカルの製造が好ましい。
【0113】
ファインケミカルは、少なくとも2つの炭素原子と、更には、炭素原子でも水素原子でもない少なくとも1つのヘテロ原子とを含有する全ての有機分子として定義される。好ましくは、「ファインケミカル」なる語は、少なくとも2つの炭素原子と、更には、少なくとも1つの官能基、例えばヒドロキシ-、アミノ-、チオール-、カルボニル-、カルボキシ-、メトキシ-、エーテル-、エステル-、アミド-、ホスホエステル-、チオエーテル-またはチオエステル-基とを含む有機分子を意味する。
【0114】
ファインケミカルは、したがって、好ましくは、有機酸、例えば乳酸、コハク酸、酒石酸、イタコン酸などを含む。ファインケミカルは更に、アミノ酸、プリンおよびピリミジン塩基、ヌクレオチド、脂質、飽和および不飽和脂肪酸、例えばアラキドン酸、アルコール、例えばジオール、例えばプロパンジオールおよびブタンジオール、炭水化物、例えばヒアルロン酸およびトレハロース、芳香族化合物、例えばバニリン、ビタミンおよび補因子などを含む。トレハロース、および以下の節に記載されているファインケミカルが好ましい。
【0115】
本発明の目的において特に好ましいファインケミカル群は、有機酸、アミノ酸、有機アミン、および芳香環内に1つ又は2つの窒素を含む複素環式芳香族化合物よりなる群から選択される生合成産物である。
【0116】
より好ましくは、本発明の文脈における「ファインケミカル」なる語は、少なくとも3つの芳香族または脂肪族炭素原子と、更には、少なくとも1つのカルボキシ-またはアミノ-基、より一層好ましくは、1つ又は2つのカルボキシ-および/またはアミノ基とを含む分子に関する。特に、本発明の方法および/または微生物により製造されるファインケミカルは、式IもしくはIIを有する化合物またはその塩である。
【化1】

【0117】
[式中、R1は-COOHまたはHであり、R2およびR3は、互いに独立して、NH2またはHであり、以下の組合せが好ましい:
R1 = COOH, R2 = NH2, R3 = H; R1 = H, R2 = NH2, R3 = H; R1 = COOH, R2 = H, R3 = NH2]。
【化2】

【0118】
前記のとおり、実施形態(1)の方法は、
(i)アスパラギン酸ファミリーのアミノ酸、特にリシン、
(ii)アスパラギン酸の下流の生化学的経路におけるそれらの生化学的前駆体、および
(iii)該アミノ酸または生化学的前駆体の天然または非天然誘導体
よりなる群から選択される化合物を製造するのに特に適している。非天然誘導体、特に非天然酵素的誘導体、およびアミノ酸の製造が好ましい。これらのうち、リシンの非天然誘導体、またはその前駆体(すなわち、アスパラギン酸からリシンへの生物変換における中間体)の1つの非天然誘導体の製造が好ましい。
【0119】
本発明の方法の特に好ましい最終産物は、リシン、メチオニン、トレオニン、イソロイシ、1,5-ジアミノペンタン、β-リシンおよびジピコリナートよりなる群から選択される。より好ましくは、該最終産物は、好ましい最終産物の群に含まれる誘導体(iii)から、すなわち、1,5-ジアミノペンタン、β-リシンおよびジピコリナートよりなる群から選択される。1,5-ジアミノペンタン(カダベリン)の製造が最も好ましい。
【0120】
前記のとおり、実施形態(1)の方法においては、アスパラギン酸ファミリーのアミノ酸およびそれらの生化学的前駆体よりなる群から選択される化合物は中間体または最終産物として製造されることが好ましい。1つの態様においては、アスパラギン酸、リシン、メチオニン、イソロイシンおよびトレオニンよりなる群から選択されるアミノ酸が実施形態(1)の方法の最終産物であり、ここで、リシン、メチオニン、イソロイシンおよびトレオニン、特にリシンが最終産物として好ましい。L-エナンチオマーが特に好ましい。第2の態様においては、それぞれのアミノ酸の生合成においてアスパラギン酸の下流に位置するリシン、メチオニン、イソロイシンおよびトレオニンよりなる群から選択されるアミノ酸の生化学的前駆体が実施形態(1)の方法の最終産物である。第3の態様においては、該アミノ酸またはアミノ酸前駆体は中間産物であり、ついで実施形態(1)の方法において、その誘導体、好ましくは有機アミン、有機酸またはアミノ酸へと酵素的または非酵素的に変換される。好ましくは、最終産物は該中間産物の非天然誘導体である。後に変換される特に好ましい中間産物はリシン、またはアスパラギン酸の下流のその生化学的前駆体の1つである。該前駆体のうち、ジヒドロジピコリナートが特に好ましい。
【0121】
前記の第3の態様においては、「誘導体」なる語は、(i)アスパラギン酸ファミリーのアミノ酸から、または(ii)アスパラギン酸の下流の生化学的経路におけるそれらの生化学的前駆体から、酵素的または非酵素的変換(酵素的変換が好ましい)により誘導可能ないずれかの化合物を意味する。好ましくは、該変換は以下の少なくとも1つを引き起こす:
(i)1つ若しくは2つのカルボキシル基の除去;
(ii)1つのアミノ基の除去;
(iii)1つのアミノ基の転位;および/または
(iv)脱水素。
【0122】
前記の第3の態様においては、前記の後続の変換は、好ましくは、酵素的変換であり、あるいは1つの酵素的工程を少なくとも含む。該変換を触媒する酵素は、低下したICD活性を微生物にとって、内因性または異種のものでありうる。それは、好ましくは異種である。
【0123】
該後続変換は、好ましくは、実施形態(1)に記載の微生物を含む反応混合物中で生じる。それは、該反応混合物に加えられた単離された酵素により、または低下したICD活性を有する微生物以外の第2の微生物により、または低下したICD活性を有する微生物自体により触媒されうる。それは、好ましくは、低下したICD活性を有する微生物自体により触媒される。
【0124】
したがって、実施形態(1)の方法の好ましい態様は、部分的または完全に低下したICD活性を有する微生物において生じる前記の後続酵素変換を含む。この好ましい態様の方法においては、該微生物は、好ましくは、該方法の内因性中間体から最終産物への後続変換における反応工程を触媒する少なくとも1つの異種酵素を含む。
【0125】
低下したICD活性を有する微生物における該異種酵素は、該微生物の内因性生合成中間体または最終産物をファインケミカル合成の標的化合物へと変換しうるいずれかの酵素でありうる。好ましくは、それは、ファインケミカルの合成または生合成における、特に、リシンから又はアスパラギン酸の下流のその生化学的前駆体から酵素的変換により誘導可能なファインケミカルの合成または生合成における1以上の工程を触媒する酵素よりなる群から選択される。より好ましくは、それは、脱炭酸、脱アミノ化、アミノ基転移、有機分子に沿ったアミノ基の転位、酸化および/または環化反応を触媒する酵素である。より一層好ましくは、それは、ジピコリン酸シンターゼ、リシンデカルボキシラーゼおよびリシン2,3-アミノムターゼよりなる群から選択される。特に好ましいのは、異種ジピコリン酸シンターゼ、リシンデカルボキシラーゼまたはリシン2,3-アミノムターゼを含む微生物である。
【0126】
したがって、実施形態(1)の方法の特に好ましい態様においては、該微生物は、前節に記載されている少なくとも1つの異種酵素を含む。特に好ましいのは、以下のとおり、ジピコリナート、1,5-ジアミノペンタンおよびβ-リシンよりなる群から選択される産物の1つの製造のために最適化された微生物の使用である:
ジピコリナート:異種ジピコリン酸シンターゼを有する微生物;
1,5-ジアミノペンタン:異種リシンデカルボキシラーゼを有する微生物;
β-リシン:異種リシン2,3-アミノムターゼを有する微生物。
【0127】
実施形態(1)の方法の好ましい最終産物のそれぞれに関しては、低下したICD活性を有するだけではなく所望の最終産物の製造のために特異的に適合化されてもいる微生物が使用されうる。この適合化は、望ましくない副産物/副生成物の合成を引き起こすことが知られている酵素活性の抑制または低下によるものでありうる。生合成経路の一部を構成する酵素の量または活性の低下は、例えば、副産物の産生を阻止することにより及び好ましい方向へと代謝流動を導くことにより、前記ファインケミカルの合成の増強を可能にしうる。一方、この適合化は、ファインケミカル産生を増強することが知られている酵素または代謝経路の活性の増強によるものでありうる。該微生物の該適合化は、所望の最終産物につながる変換工程の1以上を触媒する酵素、特に、アスパラギン酸の下流の変換工程を触媒する酵素、より詳しくは、アスパラギン酸からリシンへの変換工程を触媒する酵素、または該微生物の内因性生合成中間体もしくは最終産物からファインケミカル合成の非天然標的化合物への変換を触媒する異種酵素の活性および/または発現の増強を含むことが好ましい。該適合化は、標的ファインケミカルの産生を増強する又は更には該産生に必須である(野生型微生物が標的化合物を合成し得ない場合)、該微生物における少なくとも1つの異種酵素の存在を招く遺伝的操作によるものであることが更に好ましい。
【0128】
したがって、製造方法(1)の標的化合物が1,5-ジアミノペンタン(カダベリン)である実施形態(1)の方法の態様においては、該方法を行うための特に好ましい微生物は、低下したICD活性を有するだけでなく、更に、リシンデカルボキシラーゼをも含む。該デカルボキシラーゼは、好ましくは、異種(組換え)リシンデカルボキシラーゼである。該微生物は、リシンを産生する及びそれをカダベリンに変換する能力を有する。
【0129】
より好ましくは、該リシンデカルボキシラーゼは、WO 2007/113127に記載されている異種リシンデカルボキシラーゼである。リシンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.18)はカダベリンへのL-リシンの脱炭酸を触媒する。リシンデカルボキシラーゼ活性を有する大腸菌(E. coli.)からの酵素はcadA(配列番号10)遺伝子産物(配列番号11; Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes, Entry b4131)およびldcC(配列番号12)遺伝子産物(配列番号13; Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes, Entry JW0181)である。
【0130】
大腸菌(E. coli.)リシンデカルボキシラーゼをコードするDNA分子は、配列番号11または13のアミノ酸配列から逆翻訳されたヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドプローブでcDNAまたはゲノムライブラリーをスクリーニングすることにより得られうる。
【0131】
あるいは、大腸菌(E. coli.)リシンデカルボキシラーゼ遺伝子は、相互プライミング・ロング・オリゴヌクレオチドまたはPCRを用いてDNA分子を合成することにより得られうる。DNA合成に関しては、例えば、Ausubelら, (編), CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, 8.2.8〜8.2.13ページ (1990), Wosnickら, Gene 60:115 (1987); Ausubelら (編), SHORT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, 3rd Edition, 8-8〜8-9ページ, John Wiley & Sons, Inc. (1995)、およびWO 2007/113127に記載されている更なる引用文献(それらを参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい。
【0132】
親酵素と比較した場合の前記の保存的アミノ酸変化を含有する大腸菌(E. coli.)リシンデカルボキシラーゼの変異体も使用されうる。WO 2007/113127も参照されたい。大腸菌(E. coli.)リシンデカルボキシラーゼにおける保存的アミノ酸変化は、配列番号10または12に挙げられているヌクレオチドについてヌクレオチドを置換することにより導入されうる。そのような「保存的アミノ酸」変異体は、例えばオリゴヌクレオチド-定方向突然変異誘発、リンカースキャニング突然変異誘発、ポリメラーゼ連鎖反応を用いる突然変異誘発などにより得られうる。Ausubelら, 前掲, 8.0.3-8.5.9ページ; Ausubelら (編), SHORT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, 3rd Edition, 8-10〜8-22ページ (John Wiley & Sons, Inc. 1995)。また、全般的には、McPherson (編), DIRECTED MUTAGENESIS: A PRACTICAL APPROACH, IRL Press (1991)も参照されたい。L-リシンをカダベリンに変換するそのような変異体の能力は、標準的な酵素活性アッセイ、例えば、WO 2007/113127に記載されているアッセイを用いて決定されうる。
【0133】
本発明の文脈における好ましいリシンデカルボキシラーゼは、大腸菌(E. coli.)由来のリシンデカルボキシラーゼ、およびそのホモログであり、それらは、対応する「元の」遺伝子産物に対して80%まで、好ましくは90%、最も好ましくは95%または98%の配列同一性(アミノ酸配列に基づく場合)を有し、リシンデカルボキシラーゼの生物活性を尚も有する。これらの相同遺伝子は、当技術分野で公知の方法によりヌクレオチドの置換、欠失または挿入を導入することにより容易に構築されうる。また、大腸菌(E. coli.)のリシンデカルボキシラーゼ(配列番号11および13)は、Corynebacterium glutamicumのコドン使用頻度を適用することによりDNAへ再翻訳されうる。これらのリシンデカルボキシラーゼポリヌクレオチド配列は、Corynebacterium属の微生物、特にC. glutamicumにおけるリシンデカルボキシラーゼの発現に有用である。
【0134】
1,5-ジアミノペンタンの製造のための、より一層特に好ましい微生物は、低下したICD活性を有しリシンデカルボキシラーゼを含むだけでなく、WO 2007/113127に記載されているとおりリシンの生合成において中心的役割を果たす酵素をコードする少なくとも1つの追加的なアップまたはダウンレギュレーションされる遺伝子をも含む。WO 2007/113127に詳細に記載されており、本発明の実施に必要な低下したICD活性を更に有する微生物が、カダベリンの製造に最も好ましい。特に好ましい態様においては、遺伝子ジアミンアセチルトランスフェラーゼがダウンレギュレーションされる。すなわち、該遺伝子が完全に不活性化されるか、または該遺伝子活性が低下される。ジアミンアセチルトランスフェラーゼの配列はWO 2007/113127に記載されている。
【0135】
標的化合物がβ-リシンである、実施形態(1)の方法の態様においては、該方法を実施するための特に好ましい微生物は、低下したICD活性を有するだけでなく、さらに、リシン-2,3-アミノムターゼをも含む。該アミノムターゼは、好ましくは、異種(組換え)リシン-2,3-アミノムターゼである。該微生物は、リシンを産生する及びそれをβ-リシンに変換する能力を有する。
【0136】
より好ましくは、リシン-2,3-アミノムターゼは、WO 2007/101867に記載されている異種リシン-2,3-アミノムターゼである。リシン2,3-アミノムターゼはβ-リシンへのL-リシンの可逆的異性化を触媒する。Clostridium subterminale株SB4から単離された酵素は、拡散および沈降係数から決定された285,000の分子量を有する、見掛け上は同一のサブユニットの六量体タンパク質である(Chirpichら, J. Biol. Chem. 245:1778 (1970); Aberhartら, J. Am. Chem. Soc. 105:5461 (1983); Changら, Biochemistry 35:11081 (1996))。該クロストリジウム酵素は、鉄-硫黄クラスター、コバルトおよび亜鉛ならびにピリドキサール5'-リン酸を含有し、それはS-アデノシルメチオニンにより活性化される。典型的なアデノシルコバラミン依存性アミノムターゼとは異なり、該クロストリジウム酵素はいずれの種のビタミンB12補酵素をも含有せず、また、それを要しない。クロストリジウムのリシン2,3-アミノムターゼのヌクレオチドおよび推定アミノ酸配列(配列番号14および16)はUS 6,248,874 B1に開示されている。
【0137】
クロストリジウムのリシン2,3-アミノムターゼをコードするDNA分子は、配列番号16のアミノ酸配列から逆翻訳されたヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドプローブで、または配列番号14に基づくヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドプローブで、cDNAまたはゲノムライブラリーをスクリーニングすることにより得られうる。例えば、適当なライブラリーは、Clostridium subterminale株SB4(ATCC No. 29748)からゲノムDNAを得、標準的な方法に従いライブラリーを構築することにより調製されうる。例えば、Ausubelら (編), SHORT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, 3rd Edition, 2-1〜2-13および5-1〜5-6ページ (John Wiley & Sons, Inc. 1995)を参照されたい。
【0138】
あるいは、該リシン2,3-アミノムターゼ遺伝子は、相互プライミング・ロング・オリゴヌクレオチドまたはPCRを用いてDNA分子を合成することにより得られうる。DNA合成に関しては、例えば、Ausubelら, (編), CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, 8.2.8〜8.2.13ページ (1990), Wosnickら, Gene 60:115 (1987); Ausubelら (編), SHORT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, 3rd Edition, 8-8〜8-9ページ, John Wiley & Sons, Inc. (1995)、ならびにWO 2007/113127およびWO 2007/101867に記載されている更なる引用文献(それらを参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい。
【0139】
親酵素と比較した場合の前記の保存的アミノ酸変化を含有するリシン2,3-アミノムターゼの変異体も使用されうる。WO 2007/113127も参照されたい。該リシン2,3-アミノムターゼにおける保存的アミノ酸変化は、配列番号14に挙げられているヌクレオチドについてヌクレオチドを置換することにより導入されうる。そのような「保存的アミノ酸」変異体は、例えばオリゴヌクレオチド-定方向突然変異誘発、リンカースキャニング突然変異誘発、ポリメラーゼ連鎖反応を用いる突然変異誘発などにより得られうる。Ausubelら, 前掲, 8.0.3-8.5.9ページ; Ausubelら (編), SHORT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, 3rd Edition, 8-10〜8-22ページ (John Wiley & Sons, Inc. 1995)。また、全般的には、McPherson (編), DIRECTED MUTAGENESIS: A PRACTICAL APPROACH, IRL Press (1991)も参照されたい。L-リシンをβ-リシンに変換するそのような変異体の能力は、標準的な酵素活性アッセイ、例えば、WO 2007/101867に記載されているアッセイを用いて決定されうる。
【0140】
Clostridium subterminale以外の他の起源、例えばBacillus subtilisまたはEscherichia coliに由来するリシン-2,3-アミノムターゼはUS 6,248,874 B1に開示されている。リシン-2,3-アミノムターゼの単離、配列番号および発現を取り扱っているこの米国特許の部分を明示的に参照により本明細書に組み入れることとする。
【0141】
本発明での使用のための好ましいリシン-2,3-アミノムターゼはClostridium subterminale、Bacillus subtilisおよびEscherichia coli由来のリシン-2,3-アミノムターゼ、ならびにそれらのホモログであり、それらは、対応する天然アミノ酸配列に対して80%まで、好ましくは90%、最も好ましくは95%または98%の配列同一性(アミノ酸配列に基づく場合)を有し、リシン2,3-アミノムターゼの生物活性を尚も有する。これらのホモログは、当技術分野で公知の方法によりヌクレオチドの置換、欠失または挿入を導入することにより容易に構築されうる。
【0142】
もう1つの好ましいリシン-2,3-アミノムターゼは、Corynebacterium glutamicumのコドン使用頻度を適用することによりDNAへ再翻訳されたClostridium subterminale由来のリシン-2,3-アミノムターゼ(US 6,248,874 B1の配列番号2)である(配列番号15)。このリシン-2,3-アミノムターゼポリヌクレオチド配列は、Corynebacterium属の微生物、特にC. glutamicumにおけるリシン2,3-アミノムターゼの発現に有用である。
【0143】
β-リシンの製造のための、より一層特に好ましい微生物は、低下したICD活性を有しリシン-2,3-アミノムターゼを含むだけでなく、WO 2007/101867に記載されているとおりリシンの生合成において中心的役割を果たす酵素をコードする少なくとも1つの追加的なアップまたはダウンレギュレーションされる遺伝子をも含む。WO 2007/101867に詳細に記載されており、本発明の実施に必要な低下したICD活性を更に有する微生物が、β-リシンの製造に最も好ましい。
【0144】
標的化合物がジピコリナートである、実施形態(1)の方法の態様においては、該方法を実施するための特に好ましい微生物は、低下したICD活性を有するだけでなく、さらに、ジピコリン酸シンテターゼをも含む。該ジピコリン酸シンテターゼは、好ましくは、異種(組換え)ジピコリン酸シンテターゼである。該微生物は、2,3-ジヒドロピコリナートを産生する及びそれをジピコリナートに変換する能力を有する。
【0145】
より好ましくは、該ジピコリン酸シンテターゼは、EP 08151031.5に記載されている異種ジピコリン酸シンテターゼである。
【0146】
本出願の実施形態(1)の方法によるDPAの発酵製造は、低下したICD活性を有し、かつジアミノピメリン酸(DAP)経路を経由して、ジヒドロジピコリナート、特にL-2,3-ジヒドロジピコリナートを中間産物としてリシンを産生する能力を有し、かつ更に、ジヒドロジピコリナート、特にL-2,3-ジヒドロジピコリナートがDPAに変換されるよう異種ジピコリン酸シンテターゼを発現する能力を有する組換え微生物の培養を含む。特に、該親微生物はリシン産生細菌、好ましくはコリネフォルム細菌である。特に、該親微生物はCorynebacterium属の細菌、例えばCorynebacterium glutamicumである。
【0147】
該異種ジピコリン酸シンテターゼは原核生物または真核生物由来である。例えば、該異種ジピコリン酸シンテターゼは、Bacillus属の細菌、特にBacillus subtilisに由来しうる。該Bacillus酵素は、EP 08151031.5に記載されているとおりアルファおよびベータサブユニットから構成される。本発明の方法のもう1つの実施形態においては、該異種ジピコリン酸シンテターゼは、EP 08151031.5の配列番号2のアミノ酸配列またはそれに対して少なくとも80%の同一性、例えば少なくとも85、90、92、95、96、97、98または99%の配列同一性を有する配列を有する少なくとも1つのアルファサブユニットと、EP 08151031.5の配列番号3のアミノ酸配列またはそれに対して少なくとも80%の同一性、例えば少なくとも85、90、92、95、96、97、98または99%の配列同一性を有する配列を有する少なくとも1つのベータサブユニットとを含む。
【0148】
ジピコリン酸シンテターゼ活性を有する酵素は、リシンを産生する能力を有する親微生物のコドン使用頻度に適合化された核酸配列によりコードされうる。例えば、ジピコリン酸シンテターゼ活性を有する酵素は、
a)配列番号17(EP 08151031.5の配列番号1)のspoVF遺伝子配列、あるいは
b)EP 08151031.5の配列番号4の実質的に残基193〜残基1691のコード配列を含む合成spoVF遺伝子配列、あるいは
c)ジピコリン酸シンテターゼまたは前記のそのアルファおよび/もしくはベータサブユニットをコードするいずれかのヌクレオチド配列
を含む核酸配列によりコードされうる。
【0149】
該ジピコリン酸シンテターゼをコードするDNA分子は、配列番号19もしくは20のアミノ酸配列から逆翻訳されたヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドプローブで、または配列番号17に基づくヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドプローブで、cDNAまたはゲノムライブラリーをスクリーニングすることにより得られうる。あるいは、該ジピコリン酸シンテターゼ遺伝子は、相互プライミング・ロング・オリゴヌクレオチドまたはPCRを用いてDNA分子を合成することにより得られうる。DNA合成に関しては、例えば、Ausubelら, (編), CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, 8.2.8〜8.2.13ページ (1990), Wosnickら, Gene 60:115 (1987); Ausubelら (編), SHORT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, 3rd Edition, 8-8〜8-9ページ, John Wiley & Sons, Inc. (1995)、ならびにWO 2007/113127およびWO 2007/101867に記載されている更なる引用文献(それらを参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい。
【0150】
親酵素と比較した場合の前記の保存的アミノ酸変化を含有するジピコリン酸シンテターゼの変異体も使用されうる。EP 08151031.5も参照されたい。該ジピコリン酸シンテターゼにおける保存的アミノ酸変化は、配列番号17に挙げられているヌクレオチドについてヌクレオチドを置換することにより導入されうる。そのような「保存的アミノ酸」変異体は、例えばオリゴヌクレオチド-定方向突然変異誘発、リンカースキャニング突然変異誘発、ポリメラーゼ連鎖反応を用いる突然変異誘発などにより得られうる。Ausubelら, 前掲, 8.0.3-8.5.9ページ; Ausubelら (編), SHORT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, 3rd Edition, 8-10〜8-22ページ (John Wiley & Sons, Inc. 1995)。また、全般的には、McPherson (編), DIRECTED MUTAGENESIS: A PRACTICAL APPROACH, IRL Press (1991)も参照されたい。2,3-ジヒドロジピコリン酸をDPAに変換するそのような変異体の能力は、標準的な酵素活性アッセイを用いて決定されうる。
【0151】
もう1つの好ましいジピコリン酸シンテターゼは、Corynebacterium glutamicumのコドン使用頻度を適用することによりDNAへ再翻訳されたB. subtilis由来のジピコリン酸シンテターゼである(配列番号18)。このジピコリン酸シンテターゼポリヌクレオチド配列は、Corynebacterium属の微生物、特にC. glutamicumにおけるジピコリン酸シンテターゼの発現に有用である。
【0152】
ジピコリナートの製造のための、より一層特に好ましい微生物は、低下したICD活性を有しジピコリン酸シンテターゼを含むだけでなく、EP 08151031.5に記載されているとおりリシンの生合成において中心的役割を果たす酵素をコードする少なくとも1つの追加的なアップまたはダウンレギュレーションされる遺伝子をも含む。特に、ジヒドロジピコリナートの下流の酵素の1以上、特に、ジヒドロジピコリナートを変換する酵素自体がダウンレギュレーションされた微生物が好ましい。なぜなら、これらの微生物においては、ジヒドロジピコリナートから出発する天然リシン生合成への炭素損失が減少して、ジピコリナートの炭素収量が増加するからである。EP 08151031.5に詳細に記載されており、本発明の実施に必要な低下したICD活性を更に有する微生物が、ジピコリナートの製造に最も好ましい。
【0153】
本発明に従い製造されたジピコリナートは、ポリエステルまたはポリアミド型の共重合体の合成における単量体;ピリジン合成のための前駆体;過酸化物および過酸、例えばt-ブチルペルオキシド、ジメチル-シクロヘキサノンペルオキシド、ペルオキシ酢酸およびペルオキシ-一硫酸の安定剤;金属表面の研磨溶液の成分;微量の金属イオンの存在により劣化され易い有機物質の安定剤(金属イオン封鎖作用);エポキシ樹脂の安定剤;および写真溶液または乳剤の安定剤(特に、カルシウム塩の沈殿を防ぐことによるもの)として使用されうる。
【0154】
本発明に従い製造された1,5-ジアミノペンタンは、ポリアミドまたはポリウレタンの合成における単量体として、あるいはピペリジン合成のための前駆体として使用されうる。
【0155】
本発明に従い製造されたベータ-リシンは、カプロラクタムの合成のために、またはポリアミドの合成における単量体として使用されうる。
【0156】
本発明の方法(1)および微生物(2)の好ましい実施形態においては、該微生物の内因性生合成経路におけるICD活性以外の1以上の他の酵素活性が改変されて、標的化合物の炭素収量の増加がもたらされる。好ましくは、アスパラギン酸からリシン、メチオニンまたはイソロイシンへの生化学的変換を触媒する酵素の1以上がアップまたはダウンレギュレーションされる。
【0157】
好ましくは、Corynebacterium酵素および特にC. glutamicum酵素の活性がアップまたはダウンレギュレーションされる。
【0158】
好ましくは、該改変は、該酵素をコードするヌクレオチド配列の改変により達成される。
【0159】
第1の好ましい態様においては、すなわち、リシン生合成が改変される場合、すなわち、リシン、その誘導体または前駆体の1つが実施形態(1)の方法における中間体または最終産物として産生される場合には、該改変酵素および/またはヌクレオチド配列は、好ましくはアップレギュレーションまたは好ましくはダウンレギュレーションされる以下の遺伝子産物をコードする配列よりなる群から選択されうる。好ましくはアップレギュレーションされる遺伝子産物(すなわち、それらの活性が野生型微生物と比べて増加したものであるべきである)は以下の群から選択される:アスパラギン酸キナーゼ、アスパラギン酸-セミアルデヒド-デヒドロゲナーゼ、ジヒドロジピコリン酸シンテターゼ、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ、ジアミノピメリン酸-デカルボキシラーゼ、リシン-エクスポーター、ピルビン酸カルボキシラーゼ、ホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシラーゼ、グルコース-6-リン酸-デヒドロゲナーゼ、6-ホスホ-グルコノラクトナーゼ、6-ホスホグルコン酸-デヒドロゲナーゼ、リボース-5-リン酸-イソメラーゼ、リボース-リン酸エピメラーゼ、トランスケトラーゼ、トランスアルドラーゼ、グルコースリン酸-イソメラーゼ、転写レギュレーターLuxR、転写レギュレーターLysR1、転写レギュレーターLysR2、リンゴ酸-キノン-オキシドレダクターゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、グリセロアルデヒド-リン酸デヒドロゲナーゼ、ホスホグリセリン酸キナーゼ、ホスホグリセリン酸ムターゼ、エノラーゼ、ピルビン酸キナーゼ、アルギニル-t-RNA-シンテターゼ、タンパク質OpcA、1-ホスホフルクトキナーゼ、6-ホスホフルクトキナーゼ、ビオチン-リガーゼ、イソクエン酸リアーゼ、リンゴ酸シンターゼ、テトラヒドロピコリン酸-スクシニラーゼ、スクシニル-アミノケトピメリン酸-アミノトランスフェラーゼ、スクシニル-ジアミノピメリン酸-デスクシニラーゼ、ジアミノピメリン酸-エピメラーゼ、アスパラギン酸-トランスアミナーゼおよびリンゴ酸-酵素、PTS糖取り込み系の成分、accBC(アセチルCoAカルボキシラーゼ)、accDA(アセチルCoAカルボキシラーゼ)、aceA(イソクエン酸-リアーゼ)、acp(アシルキャリアタンパク質)、asp(アスパルターゼ)、atr61(ABCトランスポーター)、ccsB(シトクロムc合成タンパク質)、cdsA(ホスファチジン酸-シチジリルトランスフェラーゼ)、citA(2-成分系のセンサーキナーゼ)、cls(カルジオリピンシンターゼ)、cma(シクロプロパン-ミオール酸シンターゼ)、cobW(コバラミン合成関連タンパク質)、cstA(炭素飢餓タンパク質A)、ctaD(シトクロムaa3オキシダーゼUE1)、ctaE(シトクロムaa3オキシダーゼUE3)、ctaF,4(シトクロムaa3オキシダーゼのサブユニット)、cysD(スファート-アデノシルトランスフェラーゼ)、cysE(セリン-アセチルトランスフェラーゼ)、cysH、cysK(システインシンターゼ)、cysN(硫酸-アデノシルトランスフェラーゼ)、cysQ(輸送タンパク質)、dctA(C4ジカルボン酸輸送タンパク質)、dep67(コバラミン合成関連タンパク質)、dps(DNA保護タンパク質)、dtsR(プロピオニル-CoAカルボキシラーゼ)、fad15(アシル-CoA-シンターゼ)、ftsX(細胞分裂タンパク質)、glbO(HB様タンパク質)、glk(グルコキナーゼ)、gpmB(ホスホグリセリン酸キナーゼII)、hemD hemB(ウロポルフィリノーゲン-II-シンターゼ、デルタ-アミノレブリン酸デヒドラターゼ)、lldd2(乳酸デヒドロゲナーゼ)、metY(O-アセチルホモセリン-スルフヒドリラーゼ)、msiK(糖輸入タンパク質)、ndkA(ヌクレオシド二リン酸キナーゼ)、nuoU(NADH-デヒドロゲナーゼサブユニットU)、nuoV(NADH-デヒドロゲナーゼサブユニットV)、nuoW(NADH-デヒドロゲナーゼサブユニットW)、oxyR(転写レギュレーター)、pgsA2(CDP-ジアシルグリセロール-3-P-3-ホスファチジルトランスフェラーゼ)、pknB(プロテインキナーゼB)、pknD(プロテインキナーゼD)、plsC(1-アシル-SN-グリセロール-3-P-アシルトランスフェラーゼ)、poxB gnd(ピルビン酸オキシダーゼ、6-ホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼ)、ppgK(ポリリン酸グルコキナーゼ)、ppsA(PEPシンターゼ)、qcrA(Rieske Fe-S-タンパク質)、qcrA(Rieske Fe-S-タンパク質)、qcrB(シトクロムB)、qcrC(シトクロムC)、rodA(細胞分裂タンパク質)、rpe(リブロースリン酸イソメラーゼ)、rpi(ホスホペントースイソメラーゼ)、sahH(アデノシルホモシステイナーゼ)、sigC(シグマ因子C)、sigD(転写因子シグマDのアクチベーター)、sigE(シグマ因子E)、sigh(シグマ因子H)、sigM(シグマ因子M)、sod(スーパーオキシドディスムターゼ)、thyA(チミジル酸シンターゼ)、truB(tRNAプソイドウリジン55シンターゼ)およびzwa1(PS1-タンパク質)。
【0160】
これらのうち、アップレギュレーションには以下のものが好ましい:アスパラギン酸キナーゼ、アスパラギン酸セミアルデヒド-デヒドロゲナーゼ、ジヒドロジピコリン酸シンテターゼ、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ、ジアミノピメリン酸-デカルボキシラーゼ、リシン-エクスポーター、ピルビン酸カルボキシラーゼ、ホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシラーゼ、グルコース-6-リン酸-デヒドロゲナーゼ、6-ホスホ-グルコノラクトナーゼ、6-ホスホグルコン酸-デヒドロゲナーゼ、リボース-5-リン酸-イソメラーゼ、リボース-リン酸エピメラーゼ、トランスケトラーゼ、トランスアルドラーゼ、イソクエン酸リアーゼ、リンゴ酸シンターゼ、テトラヒドロピコリン酸-スクシニラーゼ、スクシニル-アミノケトピメリン酸-アミノトランスフェラーゼ、スクシニル-ジアミノピメリン酸-デスクシニラーゼ、ジアミノピメリン酸-エピメラーゼ。
【0161】
この第1の好ましい態様における、好ましくはダウンレギュレーションされる遺伝子産物(すなわち、それらの活性が野生型微生物と比べて低下したものであるべきである)は、以下の群から選択される:ホスホエノールピルビン酸-カルボキシキナーゼ、ピルビン酸-オキシダーゼ、ホモセリン-キナーゼ、ホモセリン-デヒドロゲナーゼ、トレオニン-エクスポーター、トレオニン-流出、アスパラギナーゼ、アスパラギン酸-デカルボキシラーゼ、トレオニン-シンターゼ、クエン酸シンターゼ、アコニターゼ、イソクエン酸-デヒドロゲナーゼ、アルファ-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ、スクシニル-CoA-シンターゼ、コハク酸-デヒドロゲナーゼ、フマラーゼ、リンゴ酸-キノンオキシドレダクターゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ピルビン酸キナーゼ、リンゴ酸酵素トレオニン-デヒドラターゼ、ホモセリン-O-アセチルトランスフェラーゼ、O-アセチルホモセリン-スルフヒドリラーゼ、alr(アラニンラセマーゼ)、atr43(ABCトランスポーター)、ccpA1(カタボライト制御タンパク質a)、ccpA2(カタボライト制御タンパク質)、chrA(2成分応答レギュレーター)、chrS(ヒスチジンキナーゼ)、citB(転写レギュレーター)、citE(シトラトリアーゼE)、citE(クエン酸リアーゼE)、clpC(プロテアーゼ)、csp1、ctaF(シトクロムaa3オキシダーゼの4.サブユニット)、dctA(C4-ジカルボン酸輸送タンパク質)、dctQ sodit(C4-ジカルボン酸輸送タンパク質)、dead(DNA/RNAヘリカーゼ)、def(ペプチドデホルミラーゼ)、dep33(多剤薬物耐性タンパク質B)、dep34(流出タンパク質)、fda(フルクトースビスリン酸アルドラーゼ)、gorA(グルタチオンレダクターゼ)、gpi/pgi(グルコース-6-P-イソメラーゼ)、hisC2(ヒスチジノールリン酸アミノトランスフェラーゼ)、hom(ホモセリンデヒドロゲナーゼ)、lipA(リポ酸シンターゼ)、lipB(リポタンパク質-リガーゼB)、lrp(ロイシン応答レギュレーター)、luxR(転写レギュレーター)、luxS(感覚情報変換プロテインキナーゼ)、lysR1(転写レギュレーター)、lysR2(転写レギュレーター)、lysR3(転写レギュレーター)、mdhA(リンゴ酸デヒドロゲナーゼ)、menE(O-スクシニル安息香酸CoAリガーゼ)、mikE17(転写因子)、mqo(リンゴ酸-キノンオキシドレダクターゼ)、mtrA mtrB(感覚タンパク質cpxA、感覚の調節成分)、nadA(キノリン酸シンターゼA)、nadC(ニコチン酸ヌクレオチドピロリン酸)、otsA(トレハロース-6-P-シンターゼ)、otsB、trcY、trcZ(トレハロースホスファターゼ、マルトオリゴシル-トレハロースシンターゼ マルトオリゴシル-トレハローストレハロヒドロラーゼ)、pepC(アミノペプチダーゼI)、pepCK(PEP-カルボキシキナーゼ)、pfKA pfkB(1および6-ホスホフルクトキナーゼ)、poxB(ピルビン酸オキシダーゼ)、poxB gnd(ピルビン酸オキシダーゼ、6-ホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼ)、pstC2(膜結合リン酸輸送タンパク質)、rplK(PS1-タンパク質)、sucC sucD(スクシニルCoAシンテターゼ)、sugA(糖輸送タンパク質)、tmk(チミジル酸キナーゼ)、zwa2、metK metZ、glyA(セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ)、sdhC sdhA sdhB(コハク酸DH)、smtB(転写レギュレーター)、cgl1(転写レギュレーター)、hspR(転写レギュレーター)、cgl2(転写レギュレーター)、cebR(転写レギュレーター)、cgl3(転写レギュレーター)、gatR(転写レギュレーター)、glcR(転写レギュレーター)、tcmR(転写レギュレーター)、smtB2(転写レギュレーター)、dtxR(転写レギュレーター)、degA(転写レギュレーター)、galR(転写レギュレーター)、tipA2(転写レギュレーター)、malI(転写レギュレーター)、cgl4(転写レギュレーター)、arsR(転写レギュレーター)、merR(転写レギュレーター)、hrcA(転写レギュレーター)、glpR2(転写レギュレーター)、lexA(転写レギュレーター)、ccpA3(転写レギュレーター)、degA2(転写レギュレーター)、メチルマロニル-CoA-ムターゼ。
【0162】
これらのうち、ダウンレギュレーションには以下のものが好ましい:ホスホエノールピルビン酸-カルボキシキナーゼ、ピルビン酸-オキシダーゼ、ホモセリン-キナーゼ、ホモセリン-デヒドロゲナーゼ、スクシニル-CoA-シンターゼ、リンゴ酸-キノンオキシドレダクターゼおよびメチルマロニル-CoA-ムターゼ。
【0163】
産生されるリシン誘導体がジアミノペンタンである場合、遺伝子ジアミンアセチルトランスフェラーゼが優先的にダウンレギュレーションされる。すなわち、該遺伝子は完全に不活性化されるか、または該遺伝子活性は低下する。ジアミンアセチルトランスフェラーゼの配列はWO 2007/113127に記載されている。
【0164】
第2の好ましい態様においては、すなわち、メチオニン生合成が改変される場合、すなわち、メチオニン、その誘導体または前駆体の1つが実施形態(1)の方法における中間体または最終産物として産生される場合には、好ましくはダウンレギュレーションされる改変酵素および/またはヌクレオチド配列は、ホモセリン-キナーゼ、トレオニン-デヒドラターゼ、トレオニン-シンターゼ、メソ-ジアミノピメリン酸D-デヒドロゲナーゼ、ホスホエノールピルビン酸-カルボキシキナーゼ、ピルビン酸-オキシダーゼ、ジヒドロジピコリン酸-シンターゼ、ジヒドロジピコリン酸-レダクターゼおよびジアミノピコリン酸-デカルボキシラーゼをコードする配列よりなる群から選択されうる。好ましくは、該酵素はダウンレギュレーションされる。これらのうち、ダウンレギュレーションには以下のものが好ましい:ホモセリン-キナーゼ、ホスホエノールピルビン酸-カルボキシキナーゼおよびジヒドロジピコリン酸-シンターゼ。
【0165】
この第2の好ましい態様において好ましくはアップレギュレーションされる遺伝子産物は以下の群から選択される:シスタチオニンシンターゼ、シスタチオニンリアーゼ、ホモセリン-O-アセチルトランスフェラーゼ、O-アセチルホモセリン-スルフヒドリラーゼ、ホモセリン-デヒドロゲナーゼ、アスパラギン酸-キナーゼ、アスパラギン酸-セミアルデヒド-デヒドロゲナーゼ、グリセリンアルデヒド-3-リン酸-デヒドロゲナーゼ、3-ホスホグリセリン酸-キナーゼ、ピルビン酸-カルボキシラーゼ、トリオースリン酸-イソメラーゼ、トランスアルドラーゼ、トランスケトラーゼ、グルコース-6-リン酸-デヒドロゲナーゼ、ビオチン-リガーゼ、タンパク質OpcA、1-ホスホフルクトキナーゼ、6-ホスホフルクトキナーゼ、フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ、6-ホスホグルコン酸-デヒドロゲナーゼ、ホモセリン-デヒドロゲナーゼ、ホスホグリセリン酸-ムターゼ、ピルビン酸-キナーゼ、アスパラギン酸-トランスアミナーゼ、補酵素B12依存性メチオニン-シンターゼ、補酵素B12非依存性メチオニン-シンターゼおよびリンゴ酸-酵素。
【0166】
第3の好ましい態様においては、すなわち、トレオニン生合成が改変される場合、すなわち、トレオニン、その誘導体または前駆体の1つが実施形態(1)の方法における中間体または最終産物として産生される場合には、好ましくはダウンレギュレーションされる改変酵素および/またはヌクレオチド配列は、ホモセリンO-アセチルトランスフェラーゼ、セリン-ヒドロキシメチルトランスフェラーゼ、O-アセチルホモセリン-スルフヒドリラーゼ、メソ-ジアミノピメリン酸D-デヒドロゲナーゼ、ホスホエノールピルビン酸-カルボキシキナーゼ、ピルビン酸-オキシダーゼ、ジヒドロジピコリン酸-シンターゼ、ジヒドロジピコリン酸-レダクターゼ、アスパラギナーゼ、アスパラギン酸-デカルボキシラーゼ、リシン-エクスポーター、アセト乳酸-シンターゼ、ケトール-エイド(aid)-レダクトイソメラーゼ、分枝鎖アミノトランスフェラーゼ、補酵素B12依存性メチオニン-シンターゼ、補酵素B12非依存性メチオニン-シンターゼ、ジヒドロキシ酸デヒドラターゼおよびジアミノピコリン酸-デカルボキシラーゼをコードする配列よりなる群から選択されうる。好ましくは、該酵素はダウンレギュレーションされる。
【0167】
この第3の好ましい態様において好ましくはアップレギュレーションされる遺伝子産物は以下の群から選択される:トレオニン-デヒドラターゼ、トレオニンシンターゼ、ホモセリン-デヒドロゲナーゼ、アスパラギン酸-キナーゼ、アスパラギン酸-セミアルデヒド-デヒドロゲナーゼ、グリセリンアルデヒド-3-リン酸-デヒドロゲナーゼ、3-ホスホグリセリン酸-キナーゼ、ピルビン酸-カルボキシラーゼ、トリオースリン酸-イソメラーゼ、トランスアルドラーゼ、トランスケトラーゼ、グルコース-6-リン酸-デヒドロゲナーゼ、ビオチン-リガーゼ、タンパク質OpcA、1-ホスホフルクト-キナーゼ、6-ホスホフルクト-キナーゼ、フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ、6-ホスホグルコン酸-デヒドロゲナーゼ、ホスホグリセリン酸-ムターゼ、ピルビン酸-キナーゼ、アスパラギン酸-トランスアミナーゼおよびリンゴ酸-酵素。好ましくは、該酵素はアップレギュレーションされる。
【0168】
実施形態(1)は更に、標的化合物(ファインケミカル)を回収する工程を含みうる。「回収」なる語は、培地から該化合物を抽出、収穫、単離または精製することを含む。該化合物の回収は、当技術分野で公知のいずれかの通常の単離または精製法、例えば、通常の樹脂(例えば、アニオンまたはカチオン交換樹脂、非イオン吸着樹脂など)での処理、通常の吸着剤(例えば、活性炭、ケイ酸、シリカゲル、セルロース、アルミナなど)での処理、pHの変更、溶媒抽出(例えば、通常の溶媒、例えばアルコール、酢酸エチル、ヘキサンなどによるもの)、蒸留、透析、濾過、濃縮、結晶化、再結晶、pH調整、凍結乾燥など(これらに限定されるものではない)により行われうる。例えば、標的化合物は、まず、微生物を除去することにより、培地から回収されうる。ついで残存ブロスをカチオン交換樹脂中または上に通して、望ましくないカチオンを除去し、ついでアニオン交換樹脂中または上に通して、望ましくない無機アニオンおよび有機酸を除去する。
【0169】
本発明の実施形態(2)は組換え微生物に関する。該微生物は、前記で詳細に記載されている微生物のいずれかであることが可能であり、好ましいものは、前節で示されているものと同じである。特定の態様においては、それはC. glutamicumであり、好ましくは、フィードバック抵抗性アスパルトキナーゼを有するC. glutamicum ATCC13032誘導体であり、特に、ATCC13032lysCfbrまたはATCC13286、あるいはLU11424のような該株の誘導体である(実施例1を参照されたい)。LU11424が特に好ましい。
【0170】
実施形態(2)の微生物は、実施形態(1)の製造方法において使用される微生物に関して前記で記載されている特徴のいずれかを有しうる。ただし、それは、PCT/EP2007/061151に既に開示されている或る微生物を除外するために、実施形態(2)に含められている条件の基準を満たさなければならない。PCT/EP2007/061151に記載されているコドン使用頻度法の適用により低下したICD活性を有する微生物は、該微生物がPCT/EP2007/061151に開示されている場合には、実施形態(2)の微生物から除外される。この条件は、ICD発現の低下が、該微生物の天然icd配列に代えて、該宿主細胞のコドン使用頻度に従った場合により低い使用頻度のコドンにより未改変ヌクレオチド配列の少なくとも1つのコドンが改変icd配列において置換されるよう該改変icdコード化配列は未改変icd配列から誘導されている改変ICDコード化ヌクレオチド配列(icd配列)の発現によるものではない微生物を除外するものではない。言い換えると、ICD発現の低下がPCT/EP2007/061151に記載の改変コドン使用頻度によるものではなく、PCT/EP2007/061151に記載されている微生物ではない微生物は、本発明の実施形態(2)から除外されない。
【0171】
この条件は更に、ICD発現がPCT/EP2007/061151に記載の改変コドン使用頻度により低下している微生物であって、該ファインケミカル合成の非天然標的化合物への該微生物の内因性生合成中間体または最終産物の変換を触媒する異種酵素(前記を参照されたい)を更に含む微生物を除外しない。好ましくは、該異種酵素は、ファインケミカルの合成または生合成における、特に、リシンから又はアスパラギン酸の下流のその生化学的前駆体から酵素的変換により誘導可能なファインケミカルの合成または生合成における1以上の工程を触媒する酵素よりなる群から選択される。より好ましくは、それは、脱炭酸、脱アミノ化、アミノ基転移、有機分子に沿ったアミノ基の転位、酸化および/または環化反応を触媒する酵素である。より一層好ましくは、それは、ジピコリン酸シンターゼ、リシンデカルボキシラーゼおよびリシン2,3-アミノムターゼよりなる群から選択される。特に好ましいのは、異種ジピコリン酸シンターゼ、リシンデカルボキシラーゼまたはリシン2,3-アミノムターゼを含む微生物である。言い換えると、この特に好ましい実施形態においては、該微生物は、PCT/EP2007/061151に記載されている改変コドン使用頻度により低下したICD活性を有することが可能であり、さらには、PCT/EP2007/061151に記載されている微生物であることが可能であるが、更に異種ジピコリン酸シンターゼ、リシンデカルボキシラーゼまたはリシン2,3-アミノムターゼを含むものである。
【0172】
実施形態(2)の微生物は、実施形態(1)の方法を行うのに特に適している。それは、好ましくは、Corynebacterium、好ましくはC. glutamicumにおける、より低いICD発現を招くベクターおよび/またはヌクレオチド配列を含む。好ましい態様においては、そのようなより低いICD発現は、イソクエン酸デヒドロゲナーゼをコードするヌクレオチド配列の開始コドンとしてのATGの置換、好ましくは、GTGでのATGの置換によるものである。
【0173】
実施形態(2)の特に好ましい微生物は、部分的または完全に低下したイソクエン酸デヒドロゲナーゼ活性が、イソクエン酸デヒドロゲナーゼをコードするヌクレオチド配列の開始コドンとしてのATGの置換、好ましくは、GTGでのATGの置換によるものであるLU11424である。
【0174】
特に、実施形態(2)の組換え微生物は、実施形態(1)の文脈において前記で詳細に記載されている他のファインケミカルへとアスパラギン酸ファミリーのアミノ酸またはその生化学的前駆体の1つを変換しうる異種酵素を更に含む。該酵素は、好ましくは、リシンを、またはアスパラギン酸の下流のその生化学的前駆体の1つを、他のファインケミカルに変換しうる。
【0175】
そのような特定の実施形態においては、該異種酵素は、好ましくは、リシンデカルボキシラーゼ、リシン-2,3-アミノムターゼおよびジピコリン酸シンテターゼよりなる群から選択される。
【0176】
微生物(2)の使用(3)は、実施形態(1)に関して記載されている方法における使用を含む。
【0177】
実施形態(4)においては、本発明は、実施形態(1)の方法により製造されたファインケミカルから製造される産物の製造方法を提供する。実施形態(4)の好ましい態様は、
(i)1,5-ジアミノペンタンが中間産物であるポリアミド、ポリウレタンまたはピペリジン、
(ii)β-リシンが中間産物であるカプロラクタムまたはポリアミド、あるいは
(iii)ジピコリナートが中間産物であるポリエステルまたはポリアミドまたは安定剤の製造方法であって、実施形態(1)に関して前記で記載されている方法により該中間産物を製造する工程を含む製造方法である。
【0178】
実施形態(4)の特定の態様においては、該方法はポリアミド(例えば、ナイロン(登録商標))の製造方法であり、実施形態(1)によるカダベリンの製造および該カダベリンとジカルボン酸との反応を含む。該カダベリンをジ-、トリ-またはポリカルボン酸と公知方法で反応させてポリアミドを得る。好ましくは、該カダベリンを、4〜10個の炭素を含有するジカルボン酸、例えばコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などと反応させる。該ジカルボン酸は、好ましくは遊離酸である。
【0179】
実施形態(4)のもう1つの特定の態様においては、該方法はβ-アミノ-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタムまたはε-アミノカプロン酸の製造方法であり、実施形態(1)によるβ-リシンの製造を含む。β-リシンの該変換の1つの態様においては、本発明は、β-リシンの製造のための実施形態(1)による方法を1つの工程として含むβ-アミノ-ε-カプロラクタムの製造方法を提供する。ついでβ-リシンは分子内環化を受けてβ-アミノ-ε-カプロラクタムを与える。この環化反応は、該β-リシンの単離および/または精製の直前に、または単離されたβ-リシンを使用して行われうる。β-リシンの該変換の第2の態様においては、本発明は、β-リシンの製造のための実施形態(1)による方法を1つの工程として含むε-カプロラクタムの製造方法を提供する。前記のとおり、β-リシンは更に分子内環化を受けてβ-アミノ-ε-カプロラクタムを与え、これを選択的に脱アミノ化してε-カプロラクタムを得ることが可能である。この脱アミノ化方法は当技術分野で公知である。β-リシンの該変換の第3の態様においては、本発明は、β-リシンの製造のための実施形態(1)による方法を1つの工程として含み、それに続く脱アミノ化によるβ-リシンのβ-アミノ官能基の除去を含むアミノカプロン酸の製造方法を提供する。得られたε-アミノカプロン酸はε-カプロラクタムに、あるいは該ラクタムへの環化を伴うことなく直接的にポリアミドに公知重合技術により変換されうる。ε-カプロラクタムはポリアミド、特にPA6の製造のための非常に重要な単量体である。
【0180】
実施形態(4)のもう1つの特定の態様においては、該方法はポリエステルまたはポリアミド(例えば、ナイロン(登録商標))共重合体の製造方法であり、実施形態(1)によるジピコリナートの製造、該ジピコリナートの単離、およびそれに続く、ポリオールおよびポリアミンから選択される少なくとも1つの他の多価コモノマーとの該ジピコリナートの重合を含む。該ジピコリナートを公知方法でジ-、トリ-またはポリアミンと反応させてポリアミドを得、あるいはジ-、トリ-またはポリオールと反応させてポリエステルを得る。好ましくは、該ジピコリナートを、4〜10個の炭素原子を含有するポリアミンまたはポリオールと反応させる。
【0181】
当業者は、例えば、あるポリペプチドをコードする遺伝子または内因性ヌクレオチド配列を改変ヌクレオチド配列で置換するための方法を熟知している。これは、例えば、適当な構築物(複製起点を含有しないプラスミド、複製起点を含有しない線状DNA断片)をエレクトロポレーション、化学的形質転換、コンジュゲート化または他の適当な形質転換方法により達成されうる。これに次いで、例えば、内因性天然配列の代わりに該改変ヌクレオチド配列を含有する細胞のみが特定されることを保証する選択マーカーを使用する相同組換えを行う。他の方法は、内因性染色体遺伝子座の遺伝子破壊、および例えばプラスミドからの該改変配列の発現を含む。さらに他の方法は、例えば遺伝子転移を含む。使用されうるベクターおよび宿主細胞に関する更なる情報を以下に記載する。
【0182】
一般に、大腸菌(E. coli.)およびC. glutamicumのような微生物におけるポリペプチドの発現を駆動するためのベクターのような構築物を設計することは、当業者によく知られている。大腸菌(E. coli.)およびC. glutamicumのような微生物の培養条件、ならびにファインケミカル、例えばアミノ酸、特にリシン、メチオニンおよびトレオニンを前記微生物から集め精製するための方法も当業者によく知られている。これらの態様の幾つかを以下に更に詳細に説明する。
【0183】
元の未改変ヌクレオチド配列を、同一アミノ酸のポリペプチドをコードするが異なる核酸配列を有する改変ヌクレオチド配列へと変化させるのを可能にする技術も当業者によく知られている。これは、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応に基づく突然変異誘発技術、一般的に公知のクローニング法、化学合成などにより達成されうる。組換えDNA技術および分子生物学の標準的な技術は種々の刊行物、例えばSambrookら (2001), Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press、またはAusubelら (編) Current protocols in molecular biology (John Wiley & Sons, Inc. 2007)、Ausubelら, Current Protocols in Protein Science, (John Wiley & Sons, Inc. 2002)、Ausubelら (編), SHORT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, 3rd Edition (John Wiley & Sons, Inc. 1995)に記載されている。C. glutamicumのための具体的な方法はEggelingおよびBott (編) Handbook of Corynebacterium (Taylor and Francis Group, 2005)に記載されている。これらの方法の幾つかは後記および「実施例」の節において記載される。
【0184】
以下においては、微生物、例えば大腸菌(E. coli.)および特にCorynebacterium glutamicumにおける遺伝的操作がどのように行われうるかを詳細に説明し記載する。
【0185】
ベクターおよび宿主細胞
本明細書中で用いる「ベクター」なる語は、それに連結された別の核酸を運搬しうる核酸分子を意味する。
【0186】
1つのタイプのベクターは「プラスミド」であり、これは、追加的DNAセグメントが連結されうる環状二本鎖DNAループを意味する。もう1つのタイプのベクターはウイルスベクターであり、この場合、そのウイルスゲノム内に追加的DNAセグメントが連結されうる。
【0187】
あるベクターは、それが導入される宿主細胞における自律的複製能を有する(例えば、細菌複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム哺乳類ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳類ベクター)は宿主細胞内への導入に際して宿主細胞のゲノム内に組込まれ、それにより宿主ゲノムと共に複製される。さらに、あるベクターは、それが機能的に連結されている遺伝子の発現を導きうる。
【0188】
そのようなベクターは本明細書においては「発現ベクター」と称される。
【0189】
一般に、組換えDNA技術において使用される発現ベクターは、しばしば、プラスミドの形態である。プラスミドは、最も一般的に使用されるベクター形態であるため、本明細書においては「プラスミド」および「ベクター」は互換的に用いられうる。しかし、本発明は、同等の機能を果たすウイルスベクター(例えば、複製欠損型レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)のような他の形態の発現ベクターを含むと意図される。
【0190】
本発明の組換え微生物の複製に適した組換え発現ベクターは、宿主細胞におけるそれぞれの核酸の発現に適した形態で前記の異種核酸を含みうる。これは、該組換え発現ベクターが、発現されるべき核酸配列に機能的に連結された、発現に使用される宿主細胞に基づいて選択される1以上の調節配列を含むことを意味する。
【0191】
組換え発現ベクターにおいては、「機能的に連結(される)」は、関心のあるヌクレオチド配列が、(例えば、in vitro転写/翻訳系、またはベクターが宿主細胞内に導入される場合には該宿主細胞において)該ヌクレオチド配列の発現を可能にする様態で調節配列に連結されることを意味すると意図される。「調節配列」なる語は、プロモーター、リプレッサー結合部位、アクチベーター結合部位、エンハンサーおよび他の発現制御要素(例えば、ターミネーター、ポリアデニル化シグナル、またはmRNA二次構造の他の要素)を含むと意図される。そのような調節配列は、例えばGoeddel; Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)に記載されている。調節配列には、多数のタイプの宿主細胞におけるヌクレオチド配列の構成的発現を導くもの、および或る宿主細胞のみにおけるヌクレオチド配列の発現を導くものが含まれる。好ましい調節配列としては、例えばプロモーター、例えばcos-、tac-、trp-、tet-、trp-、tet-、lpp-、lac-、lpp-lac-、lacIq-、T7-、T5-、T3-、gal-、trc-、ara-、SP6-、arny、SP02、e-Pp- ore PL、SOD、EFTu、EFTs、GroEL、MetZ(C. glutamicumからの最後の5つ)(これらは、好ましくは、細菌において使用される)が挙げられる。他の調節配列としては、例えば酵母および真菌由来のプロモーター、例えばADC1、MFa、AC、P-60、CYC1、GAPDH、TEF、rp28、ADH、植物由来のプロモーター、例えばCaMV/35S、SSU、OCS、lib4、usp、STLS1、B33、nosまたはユビキチン-もしくはファセオリン-プロモーターが挙げられる。人工的プロモーターを使用することも可能である。該発現ベクターの設計は、形質転換すべき宿主細胞の選択、所望のタンパク質の発現のレベルなどのような要因に左右されうる、と当業者に理解されるであろう。該発現ベクターを宿主細胞内に導入し、それにより、融合タンパク質またはペプチドを含むタンパク質またはペプチドを産生させることが可能である。
【0192】
宿主細胞、好ましくはCorynebacterium、特に好ましくはC. glutamicumにおける改変ヌクレオチド配列の発現を導くのに適したいずれかのベクターが、これらの宿主細胞におけるICDの量を減少させるために使用されうる。そのようなベクターは、例えば、コリネフォルム細菌において自律的に複製可能であるプラスミドベクターでありうる。具体例としては、pZ1(Menkelら (1989), Applied and Environmental Microbiology 64:549-554)、pEKEx1(Eikmannsら (1991), Gene 102:93-98)、pHS2-1(Sonnenら (1991), Gene 107:69-74)が挙げられる。これらのベクターは潜在プラスミドpHM1519、pBL1またはpGA1に基づく。他の適当なベクターとしては、pClik5MCS(WO 2005/059093)、またはpCG4(US-A 4,489,160)もしくはpNG2(Serwold-Davisら (1990), FEMS Microbiology Letters 66:119-124)もしくはpAG1(US-A 5,158,891)に基づくベクターが挙げられる。他の適当なベクターの具体例はHandbook of Corynebacterium, Chapter 23(EggelingおよびBott編, ISBN 0-8493-1821-1, 2005)において見出されうる。
【0193】
組換え発現ベクターは原核生物または真核生物細胞における特異的ヌクレオチド配列の発現のために設計されうる。例えば、ヌクレオチド配列は、細菌細胞、例えばC. glutamicumおよび大腸菌(E. coli.)、昆虫細胞(バキュロウイルス発現ベクターを使用する)、酵母および他の真菌細胞(Romanos, M. A.ら (1992), Yeast 8:423-488; van den Hondel, C. A. M.J. J.ら (1991) in: More Gene Manipulations in Fungi, J. W. Bennet & L. L. Lasure編, p. 396-428, Academic Press: San Diego; およびvan den Hondel, C. A. M. J. J. & Punt, P. J. (1991) in: Applied Molecular Genetics of Fungi, Peberdy, J. F.ら編, p. 1-28, Cambridge University Press: Cambridge)、藻類および多細胞植物細胞(Schmidt, R.およびWillmitzer, L. (1988) Plant Cell Rep.:583-586を参照されたい)において発現されうる。適当な宿主細胞はGoeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)に更に詳細に記載されている。あるいは、該組換え発現ベクターは、例えばT7プロモーター調節配列およびT7ポリメラーゼを使用して、in vitroで転写され翻訳されうる。
【0194】
原核生物におけるタンパク質の発現は、十中八九、融合または非融合タンパク質の発現を導く構成的または誘導性プロモーターを含有するベクターを使用して行われる。
【0195】
融合ベクターは、それにコードされているタンパク質に幾つかのアミノ酸を付加し、それらを通常は該組換えタンパク質のアミノ末端に付加するが、C末端にも付加し、又は該タンパク質内の適当な領域内に該幾つかのアミノ酸を融合することもある。そのような融合ベクターは、典型的には、以下の4つの目的を果たす:1)該組換えタンパク質の発現を増強する;2)該組換えタンパク質の溶解度を増加させる;3)アフィニティ精製におけるリガンドとして作用することにより該組換えタンパク質の精製を補助する;および4)該タンパク質の後続の検出のための「タグ」を提供する。しばしば、融合発現ベクターにおいては、融合タンパク質の精製の後に融合部分から組換えタンパク質を分離するのを可能にするために、該融合部分と該組換えタンパク質との結合部にタンパク質切断部位が導入される。そのような酵素およびそれらの対応認識配列には、因子Xa、トロンビンおよびエンテロキナーゼが含まれる。
【0196】
典型的な融合発現ベクターには、pGEX(Pharmacia Biotech Inc; Smith, D. B.およびJohnson, K. S. (1988) Gene 67:31-40)、pMAL(New England Biolabs, Beverly, MA)およびpRIT5(Pharmacia, Piscataway, NJ)が含まれ、これらは、それぞれ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合タンパク質またはプロテインAを融合する。
【0197】
適当な誘導性非融合大腸菌(E. coli.)発現ベクターの具体例には、pTrc(Amannら, (1988) Gene 69: 301-315)、pLG338、pACYC184、pBR322、pUC18、pUC19、pKC30、pRep4、pHSl、pHS2、pPLc236、pMBL24、pLG200、pUR290、pIN-III113-Bl、egtll、pBdClおよびpET lld(Studierら, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, California (1990) 60-89; およびPouwelsら編 (1985) Cloning Vectors. Elsevier: New York, ISBN 0 444 904018)が含まれる。pTrcベクターからの標的遺伝子発現はハイブリッドtrp-lac融合プロモーターからの宿主RNAポリメラーゼ転写に基づく。pETlldベクターからの標的遺伝子発現は、共発現ウイルスRNAポリメラーゼ(T7gnl)により媒介されるT7 gnlO-lac融合プロモーターからの転写に基づく。このウイルスポリメラーゼは、lacUV5プロモーターの転写制御下でT7gnal遺伝子を含有する常在性Xプロファージから宿主株BL21(DE3)またはHMS174(DE3)により供給される。他の種々の細菌の形質転換のために、適当なベクターが選択されうる。例えば、プラスミドpIJ101、pIJ364、pIJ702およびpIJ361は、Streptomycesを形質転換するのに有用であることが公知であり、一方、プラスミドpUB110、pC194またはpBD214はBacillus種の形質転換に適している。Corynebacterium内への遺伝的情報の導入に有用な幾つかのプラスミドには、pHM1519、pBLl、pSA77またはpAJ667(Pouwelsら編 (1985) Cloning Vectors. Elsevier: New York ISBN 0 444 904018)が含まれる。
【0198】
適当なC. glutamicumおよび大腸菌(E. coli.)シャトルベクターの一例は例えばpClik5aMCS(WO 2005/059093)であり、あるいはEikmannsら ((1991) Gene 102:93-8)に見出されうる。
【0199】
Corynebacteriaを操作するための適当なベクターの具体例はHandbook of Corynebacterium(EggelingおよびBott編, ISBN 0-8493-1821-1, 2005)において見出されうる。大腸菌(E. coli.)-C. glutamicumシャトルベクターの一覧(表23.1)、大腸菌(E. coli.)-C. glutamicumシャトル発現ベクターの一覧(表23.2)、C. glutamicum染色体内へのDNAの組込みのために使用されうるベクターの一覧(表23.3)、C. glutamicum染色体内への組込みのための発現ベクターの一覧(表23.4)、およびC. glutamicum染色体内への部位特異的組込みのためのベクターの一覧(表23.6)が見出されうる。
【0200】
もう1つの実施形態においては、該発現ベクターは酵母発現ベクターである。酵母S. cerevisiaeにおける発現のためのベクターの具体例には、pYepSecl(Baldariら, (1987) Embo J. 6:229-234)、2i、pAG-1、Yep6、Yepl3、pEMBLYe23、pMFa(KurjanおよびHerskowitz, (1982) Cell 30:933-943)、pJRY88(Schultzら, (1987) Gene 54:113-123)およびpYES2(Invitrogen Corporation, San Diego, CA)が含まれる。他の真菌、例えば糸状菌における使用に適したベクターおよびベクター構築方法には、van den Hondel、C. A. M. J. J. & Punt, P. J. (1991) in: Applied Molecular Genetics of Fungi、J. F. Peberdyら編, p. 1-28, Cambridge University Press: Cambridge、およびPouwelsら編 (1985) Cloning Vectors. Elsevier: New York (ISBN 0 444 904018)に詳細に記載されているものが含まれる。
【0201】
本発明の目的においては、機能的連結は、調節要素のそれぞれがコード配列の発現の際にその決定に応じてその機能を満足しうるような、プロモーター(リボソーム結合部位(RBS)を含む)、コード配列、ターミネーターおよび場合によっては他の調節要素の連続的配置であると理解される。
【0202】
もう1つの実施形態においては、異種ヌクレオチド配列は、単細胞植物細胞(例えば、藻類)において又は高等植物(例えば種子植物、例えば作物植物)の植物細胞において発現されうる。植物発現ベクターの具体例には、Becker, D., Kemper, E., Schell, J.およびMasterson, R. (1992) Plant Mol. Biol. 20:1195-1197; ならびにBevan, M. W. (1984) Nucl. Acid. Res. 12:8711-8721に詳細に記載されているものが含まれ、pLGV23、pGHlac+、pBINl9、pAK2004およびpDH51(Pouwelsら編 (1985) Cloning Vectors. Elsevier: New York ISBN 0 444 904018)が含まれる。
【0203】
原核生物および真核生物細胞の両方のための他の適当な発現系に関しては、Sambrook, J.ら Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 2003, 第16章および第17章を参照されたい。
【0204】
もう1つの実施形態においては、組換え発現ベクターは、特定の細胞型、例えば植物細胞において優先的に核酸の発現を導きうる(例えば、該核酸を発現させるために、組織特異的調節要素が使用される)。組織特異的調節要素は当技術分野で公知である。
【0205】
本発明のもう1つの態様は、組換え発現ベクターまたは核酸が導入された生物または宿主細胞に関する。得られた細胞または生物は、それぞれ組換え細胞または生物である。そのような用語は、当該特定の対象細胞だけでなく、そのような細胞の後代または潜在的後代(該後代が該組換え核酸を含んである場合)をも意味すると理解される。突然変異または環境的影響により或る改変が後続世代において生じうるため、そのような後代は実際には親細胞と同一ではないかもしれないが、該後代が該組換えタンパク質を尚も発現し又は発現しうる限り、本明細書で用いられる該用語の範囲内に尚も含まれる。
【0206】
ベクターDNAは通常の形質転換またはトランスフェクション技術により原核生物または真核生物細胞内に導入されうる。本明細書中で用いる「形質転換」および「トランスフェクション」、「接合」および「形質導入」なる語は、外来核酸(例えば、線状DNAもしくはRNA(例えば、ベクターを伴わない単独の遺伝子構築物または線状化ベクター)またはベクター(例えば、プラスミド、ファージ、ファスミド、ファジミド、トランスポゾンまたは他のDNA)の形態の核酸)を宿主細胞内に導入するための当技術分野で認識されている種々の技術を意味すると意図され、リン酸カルシウムまたは塩化カルシウム共沈、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、リポフェクション、自然受容、接合、化学媒介導入またはエレクトロポレーションを包含する。宿主細胞を形質転換またはトランスフェクションするための適当な方法は、Sambrookら(Molecular Cloning : A Laboratory Manual. 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 2003)および他の実験マニュアルにおいて見出されうる。
【0207】
これらの組込み体を特定し選択するために、選択マーカー(例えば、抗生物質に対する耐性)をコードする遺伝子が、関心のある遺伝子と共に宿主細胞内に一般に導入される。好ましい選択マーカーには、薬物、例えばG418、ヒグロマイシン、カナマイシン、テトラサイクリン、アンピシリンおよびメトトレキセートに対する耐性を付与するものが含まれる。選択マーカーをコードする核酸は、前記改変ヌクレオチド配列をコードするものと同じベクター上で宿主細胞内に導入されることが可能であり、あるいは別々のベクター上で導入されることが可能である。導入核酸で安定にトランスフェクトされた細胞は薬物選択により特定されうる(例えば、選択マーカー遺伝子を取り込んだ細胞は生存し、その他の細胞は死亡するであろう)。
【0208】
複製起点を伴わないプラスミドおよび2つの異なるマーカー遺伝子を使用する場合(例えば、pClik int sacB)、該ゲノム内に挿入されたインサートの部分を有するマーカー非含有株を作製することも可能である。これは、相同組換えの2つの連続的事象により達成される(Beckerら, APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY, 71 (12), p. 8587-8596; EggelingおよびBott (編) Handbook of Corynebacterium (Taylor and Francis Group, 2005)も参照されたい)。プラスミドpClik int sacBの配列はWO 2005/059093において配列番号24として見出されうる(それにおいては該プラスミドはpCISと称される)。
【0209】
もう1つの実施形態においては、導入遺伝子の調節発現を可能にする選択系を含有する組換え微生物が製造されうる。例えば、lacオペロンの制御下にヌクレオチド配列が配置されるよう、ベクター上に該ヌクレオチド配列を追加すると、IPTGの存在下でのみ、該遺伝子の発現を可能とすることができる。そのような調節系は当技術分野でよく知られている。
【0210】
大腸菌およびCorynebacterium glutamicumの増殖 - 培地および培養条件
1つの実施形態においては、該方法は、ファインケミカルの製造のために適当な培地内で該微生物を培養することを含む。もう1つの実施形態においては、該方法は更に、該ファインケミカルを該培地または該宿主細胞から単離することを含む。
【0211】
一般的な微生物、例えばC. glutamicumおよびE. coliの培養は当業者によく知られている。したがって、以下に、E. coliおよびC. glutamicumの培養に関する一般的な教示を示す。追加的な情報はE. coliおよびC. glutamicumに関する標準的なテキストから得られうる。
【0212】
大腸菌(E. coli.)株は、通常、それぞれMBおよびLBブロス内で増殖させる(Follettieら (1993) J. Bacteriol. 175:4096-4103)。大腸菌(E. coli.)のための最少培地は、それぞれM9および改変MCGC(Yoshihamaら (1985) J. Bacteriol. 162:591-597)である。グルコースが1%の最終濃度で加えられうる。抗生物質は以下の量(マイクログラム/ミリリットル)で加えられうる:アンピシリン, 50;カナマイシン, 25;ナリジクス酸, 25。アミノ酸、ビタミンおよび他の補足物は以下の量で加えられうる:メチオニン, 9.3mM;アルギニン, 9.3mM;ヒスチジン, 9.3mM;チアミン, 0.05mM。大腸菌(E. coli.)細胞は、通常、それぞれ、37℃で増殖させる。
【0213】
遺伝的には、改変Corynebacteriaは、典型的には、合成または天然増殖培地内で培養される。Corynebacteriaのための多数の異なる増殖培地がよく知られており、容易に入手可能である(Lieblら (1989) Appl.Microbiol. Biotechnol., 32:205-210; von der Ostenら (1998) Biotechnology Letters, 11:11-16; Patent DE 4,120,867; Liebl (1992) "The Genus Corynebacterium”, in: The Procaryotes, Volume II, Balows, A.ら編, Springer-Verlag)。Handbook of Corynebacterium(EggelingおよびBott編, ISBN 0-8493-1821-1, 2005)にも説明が見出されうる。
【0214】
これらの培地は、1以上の炭素源、窒素源、無機塩、ビタミンおよび微量元素よりなる。好ましい炭素源は糖、例えば単糖類、二糖類または多糖類である。例えば、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、リボース、ソルボース、ラクトース、マルトース、スクロース、グリセロール、ラフィノース、デンプンまたはセルロースは非常に良好な炭素源として働く。
【0215】
複合化合物、例えば糖蜜または糖精製からの他の副産物により糖を培地に供給することも可能である。種々の炭素源の混合物を供給することも有利でありうる。他の考えられうる炭素源としては、アルコールおよび有機酸、例えばメタノール、エタノール、酢酸または乳酸が挙げられる。窒素源は、通常、有機または無機窒素化合物、あるいはこれらの化合物を含有する物質である。典型的な窒素源には、アンモニアガスまたはアンモニア塩、例えばNH4C1または(NH4)2SO4、NH4OH、硝酸塩、尿素、アミノ酸または複合窒素源、例えばコーンスティープリッカー、ダイズ粉、ダイズタンパク質、酵母エキス、肉エキスなどが含まれる。
【0216】
種々の硫黄源を使用して、メチオニンの過剰産生が可能である。硫酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、そしてまた、より還元された硫黄源、例えばH2Sおよびスルフィドおよび誘導体が使用されうる。また、メチルメルカプタン、チオグリコラート、チオシアナートおよびチオ尿素のような有機硫黄源、システインのような硫黄含有アミノ酸ならびに他の硫黄含有化合物が、効率的なメチオニン産生のために使用されうる。ホルマートも補足物として可能であり、同様に、他のC1源、例えばメタノールまたはホルムアルデヒドも可能でありうる。
【0217】
培地内に含まれうる無機塩化合物には、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、コバルト、モリブデン、カリウム、マンガン、亜鉛、銅および鉄の塩化物-、リン-または硫酸-塩が含まれる。金属イオンを溶解状態に維持するために、キレート化合物が培地に加えられうる。特に有用なキレート化合物には、ジヒドロキシフェノール、例えばカテコールまたはプロトカテクアート、あるいは有機酸、例えばクエン酸が含まれる。培地が他の増殖因子、例えばビタミンまたは増殖促進因子をも含有するのが典型的であり、それらの具体例には、ビオチン、リボフラビン、チアミン、葉酸、ニコチン酸、パントテナートおよびピリドキシンが含まれる。増殖因子および塩は、しばしば、複合培地成分、例えば酵母エキス、糖蜜、コーンスティープリッカーなどに由来する。培地化合物の厳密な組成は直接的な実験に強く左右され、それぞれの具体的な場合に応じて個々に決定される。培地の最適化に関する情報はテキスト“Applied Microbiol. Physiology, A Practical Approach”(P. M. Rhodes, P.F. Stanbury編, IRL Press (1997) pp. 53-73, ISBN 0 19 963577 3)において入手可能である。スタンダード(standard)1(Merck)またはBHI(グレインハートインフュージョン, DIFCO)などのように、商業的供給業者から増殖培地を選択することも可能である。
【0218】
本発明の文脈における好ましい培地の具体例は後記の実施例の節において記載されている。
【0219】
全ての培地成分は加熱(1.5barおよび121℃で20分間)または滅菌濾過により滅菌されるべきである。該成分は一緒に滅菌されることが可能であり、あるいは必要に応じて別々に滅菌されることが可能である。
【0220】
全ての培地成分は増殖の開始時に存在することが可能であり、あるいはそれらは場合によっては連続的に又はバッチで加えられることが可能である。培養条件は各実験に関して別々に定められる。
【0221】
温度は、使用される微生物に左右され、通常、15℃〜45℃の範囲であるべきである。該温度は一定に維持されることが可能であり、あるいは実験中に変化されることが可能である。培地のpHは5〜8.5の範囲、好ましくは約7.0であることが可能であり、培地へのバッファーの添加により維持されうる。この目的のための典型的なバッファーはリン酸カリウムバッファーである。合成バッファー、例えばMOPS、HEPES、ACESなどが代替的または同時に使用されうる。増殖中にNaOHまたはNH4OHの添加により一定の培養pHを維持することも可能である。複合成分、例えば酵母エキスが使用される場合、追加的バッファーの必要性は軽減されうる。なぜなら、多数の複合化合物は高い緩衝能を有するからである。また、該微生物を培養するために発酵槽が使用される場合、気体アンモニアを使用してpHが制御されうる。
【0222】
インキュベーション時間は、通常、数時間〜数日間の範囲である。この時間は、最大量の産物がブロス内に蓄積するのが可能となるよう選択される。開示されている増殖実験は、種々の容器、例えば、種々のサイズのマイクロタイタープレート、ガラス管、ガラスフラスコまたはガラスもしくは金属発酵槽において行われうる。多数のクローンをスクリーニングするためには、該微生物は、マイクロタイタープレート、ガラス管または振とうフラスコ(バッフルを伴う又は伴わないもの)において培養されるべきである。好ましくは、100mlの振とうフラスコが使用され、10%(容量)の必要な増殖培地で満たされる。該フラスコは、100〜300rpmの速度範囲を用いて回転振とう器(ロータリーシェーカー)(振幅25mm)上で振とうされるべきである。蒸発損失は多湿雰囲気の維持により軽減されることが可能であり、あるいは蒸発損失に関する数学的補正が行われるべきである。
【0223】
好ましい培養条件の具体例は後記の実施例の節に記載されている。
【0224】
遺伝的に改変されたクローンを試験する場合、未改変対照クローン(例えば、親株)またはいずれのインサートをも伴わない基礎プラスミドを含有する対照クローンをも試験すべきである。培地は、30℃でインキュベートされたCMプレート(10g/1 グルコース、2,5g/1 NaCl、2g/1 尿素、10g/1 ポリペプトン、5g/l 酵母エキス、5g/1 肉エキス、22g/1 NaCl、2g/1 尿素、10g/1 ポリペプトン、5g/1 酵母エキス、5g/1 肉エキス、22g/1 寒天; 2M NaOHでpH 6.8)のような寒天培地上で増殖させた細胞を使用して、0.5〜1.5のOD600まで接種される。該培地への接種は、CMプレートからのC. glutamicum細胞の塩類懸濁液の導入またはこの細菌の液体前培養の添加により達成される。
【0225】
アミノ酸およびそれらの中間体の定量
アミノ酸およびそれらの中間体の定量は、当業者に公知のいずれかの典型的方法により行われうる。以下においては、該定量はメチオニンの定量により例示される。定量の更なる例示は実施例の節に記載されている。本発明の文脈においては後者が好ましい。
【0226】
該分析は、ガードカートリッジおよびSynergi 4μmカラム(MAX-RP 80オングストローム, 150 * 4.6 mm)(Phenomenex, Aschaffenburg, Germany)を使用するHPLC(Agilent 1100, Agilent, Waldbronn, Germany)により行う。注入前に、還元剤としてのメルカプトエタノール(2-MCE)およびo-フタルジアルデヒド(OPA)を使用してアナライトを誘導体化する。また、スルフヒドリル基をヨード酢酸で保護する。極性相としての40 mM NaH2PO4(溶離液A, pH=7.8, NaOHで調節)および無極性相としてのメタノール水混合物(100/l)(溶離液B)を使用して1ml/分の流速で分離を行う。以下の勾配を適用する:開始0% B; 39分 39% B; 70分 64% B; 100% Bで3.5分間; 2分 0% B(平衡化のため)。後記のとおりに室温での誘導体化を自動化する。まず、ビシン(0.5M, pH 8.5)中の0.5μlの0.5% 2-MCEを0.5μlの細胞抽出物と混合する。ついでビシン(0.5M, pH 8.5)中の1.5μlの50mg/ml ヨード酢酸を加え、ついで2.5μlのビシンバッファー(0.5M, pH 8.5)を加える。1/45/54 v/v/vの2-MCE/MeOH/ビシン(0.5M, pH 8.5)中に溶解された0.5μlの10mg/ml OPA試薬を加えることにより、誘導体化を行う。最後に、該混合物を32μlのH2Oで希釈する。前記ピペッティング工程のそれぞれの間に、1分間の待機時間が存在する。ついで37.5μlの合計容量を該カラム上に注入する。サンプル調製の途中(例えば、待機時間内)および後で自動サンプル採取針を定期的に清掃すると、分析結果が有意に改善されうる。蛍光検出器(340nm励起, 発光450nm, Agilent, Waldbronn, Germany)により検出を行う。定量には、内部標準としてα-アミノ酪酸(ABA)が使用される。
【0227】
C. glutamicumのための組換え法
以下においては、上昇したファインケミカル産生効率を有するC. glutamicumの株が、特定の組換え法を用いてどのようにして構築されうるかを記載する。本明細書中で用いる「キャンベル・イン(Campbell in)」は、環状二本鎖DNA分子の第1 DNA配列に相同である染色体の第1 DNA配列内への該環状DNA分子の線状化体の挿入を有効に引き起こす単一相同組換え事象(クロスイン(cross-in)事象)により該環状二本鎖DNA分子全体(例えば、pClik int sacBに基づくプラスミド)が染色体内に組込まれる元の宿主細胞の形質転換を意味する。「キャンベルド・イン(Campbelled in)」は、「キャンベル・イン(Campbell in)」形質転換体の染色体内に組込まれた線状化DNA配列を意味する。「キャンベル・イン(Campbell in)」は第1相同DNA配列の重複を含有し、その各コピーは該相同組換え交差点のコピーを含み包囲する。該名称は、この種の組換えを最初に提示したアラン・キャンベル(Alan Campbell)教授に由来する。
【0228】
本明細書中で用いる「キャンベル・アウト(Campbell out)」は、「キャンベルド・イン(Campbelled in)」DNAの線状化挿入DNA上に含有される第2 DNA配列と、該線状化インサートの該第2 DNA配列に相同である、染色体由来の第2 DNA配列との間の第2相同組換え事象(クロスアウト(cross out)事象)が生じた「キャンベル・イン(Campbell in)」形質転換体に由来する細胞を意味し、ここで、該第2組換え事象は該組込みDNA配列の部分の欠失(投棄(jettisoning))を引き起こすが、重要なことに、染色体内に残存する組込みキャンベルド・インDNAの部分(これは僅か1塩基でありうる)をも与え、その結果、元の宿主細胞と比べて、「キャンベル・アウト(Campbell out)」細胞は染色体内に1以上の意図的変化(例えば、単一の塩基置換、複数の塩基置換、異種遺伝子またはDNA配列の挿入、相同遺伝子または改変相同遺伝子の追加的コピーの挿入、あるいは前記で挙げたこれらの前記具体例の2以上を含むDNA配列の挿入)を含有する。
【0229】
「キャンベル・アウト(Campbell out)」細胞または株は、必ずしもそうであるわけではないが通常は、約5%〜10% スクロースの存在下で増殖させた細胞において発現されると致死的である例えばBacillus subtilis sacB遺伝子のような「キャンベルド・イン(Campbelled in)」DNA配列の部分(投棄したい点)に含有される遺伝子に対する対抗選択により得られる。対抗選択を伴って又は伴わずに、いずれかのスクリーニング可能な表現型(限定的なものではないが例えば、コロニーの形態的特徴、コロニーの色、抗生物質耐性の存在または非存在、ポリメラーゼ連鎖反応による或る与えられたDNA配列の存在または非存在、栄養要求性の存在または非存在、酵素の存在または非存在、コロニー核酸ハイブリダイゼーション、抗体スクリーニングなど)を用いて所望の細胞に関してスクリーニングすることにより、所望の「キャンベル・アウト(Campbell out)」細胞が得られ又は特定されうる。「キャンベル・イン(Campbell in)」および「キャンベル・アウト(Campbell out)」なる語は、前記の方法またはプロセスを表すために種々の時制で動詞としても用いられうる。
【0230】
「キャンベル・イン(Campbell in)」または「キャンベル・アウト(Campbell out)」を招く相同組換え事象は相同DNA配列内のDNA塩基の或る領域にわたって生じうると理解され、該相同配列はこの領域の少なくとも一部に関して互いに同一であるため、どこで乗換え事象が生じたのかを厳密に特定することは通常は不可能である。言い換えると、どの配列が該挿入DNAに由来するのか、およびどれが染色体DNAに由来するのかを、厳密に特定することは不可能である。さらに、第1相同DNA配列および第2相同DNA配列は、通常、部分的に非相同性の領域により分離されており、「キャンベル・アウト(Campbell out)」細胞の染色体内に配置されたままであるのは、非相同のこの領域である。
【0231】
実用上は、C. glutamicumにおいては、典型的な第1および第2相同DNA配列は少なくとも約200塩基対長であり、数千塩基対長まででありうるが、より短い又はより長い配列で該方法が機能するようにすることが可能である。例えば、第1および第2相同配列の長さは約500〜2000塩基の範囲であることが可能であり、「キャンベル・イン(Campbell in)」から「キャンベル・アウト(Campbell out)」の入手は、第1および第2相同配列がほぼ同じ長さ、好ましくは200塩基未満の差となるようそれらを配置することにより促進され、最も好ましくは、塩基対において、それらの2つのうちの短いほうは長いほうの長さの少なくとも70%である。「キャンベル・イン(Campbell In)およびアウト(-Out)法」はWO 2007/012078ならびにEggelingおよびBott (編) Handbook of Corynebacterium (Taylor and Francis Group, 2005), Chapter 23に記載されている。
【0232】
C. glutamicumのための好ましい組換え法は実施例の節に記載されている。
【0233】
本発明は、以下の実施例を参照して更に詳細に説明される。これらの実施例は単に例示を目的としたものであると理解されるべきであり、本発明を限定するものと解釈されるべきではない。
【0234】
(実施例)
以下の実施例においては、種々の刊行物(例えば、Sambrookら (2001), Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press、またはAusubelら (2007), Current Protocols in Molecular Biology, Current Protocols in Protein Science, 2002年版, Wiley Interscience)に記載されている組換えDNA技術および分子生物学の標準的な技術を用いた。特に示されていない限り、全ての細胞、試薬、装置およびキットは、それらの製造業者の説明に従い使用した。
【0235】
コドン使用頻度によるICDの低下およびメチオニンの産生に対するその効果に関するPCT/EP2007/061151の実施例(具体例)を参照により本明細書に組み入れることとする。
【実施例1】
【0236】
イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(icd)の発現の低下ならびにリシンおよびトレハロース産生に対するその効果
1.1 低下したICD活性を有するCorynebacterium glutamicum株の構築
イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(GenbankアクセッションコードX71489)の活性を低下させるために、コドン使用頻度における変化を施した。元の開始コドンATGをGTGにより置換した。該操作はCorynebacterium glutamicumのicd遺伝子の染色体コピー上でのみ行った。ICD活性の後続の測定は該効果の読取りを直接的に可能にする。
【表2】

【0237】
ICD ATG-GTGの配列はPCT/EP2007/061151の図2a)に記載されている。この突然変異をicdコード領域の染色体コピー内に導入するために、2つの連続的相同組換え事象によるマーカーフリー操作を可能にするプラスミドを構築した。
【0238】
この目的のために、以下の要素を含有するプラスミドであるベクターpClik int sacB(Beckerら (2005), Applied and Environmental Microbiology, 71 (12), p.8587-8596)内にICD ATG-GTGの配列をクローニングした:
・カナマイシン耐性遺伝子、
・陽性選択マーカーとして使用されうるSacB-遺伝子(なぜなら、この遺伝子を含有する細胞はスクロース含有培地上では増殖できないからである)、
・大腸菌(E. coli.)のための複製起点、
・マルチクローニング部位(MCS)。
【0239】
このプラスミドはC. glutamicumのゲノム遺伝子座における配列の組込みを可能にする。
【0240】
プラスミドpClik int sacB ICD ATG - GTGの構築
鋳型としてATCC 13032のゲノムDNAを使用するPCRにより、該インサートを増幅した。以下のオリゴヌクレオチドを使用する融合PCRにより、該コード領域の改変を達成した。表は、使用したプライマーおよび鋳型DNAを示す。
【表3】

【0241】
該融合PCRの産物を精製し、XhoIおよびMluIで消化し、再び精製し、同じ制限酵素で線状化されたpClik int sacB内に連結した。該インサートの完全性を配列決定により確認した。
【0242】
最適化配列ICD ATG→GTGのコード配列はPCT/EP2007/061151の図2(PCT/EP2007/061151の配列番号2; 本配列表の配列番号4)に示されている。得られたプラスミドはpClik int sacB ICD ATG - GTGと称される。
【0243】
改変ICD発現レベルを有する株の構築
ついでプラスミドpClik int sacB ICD ATG - GTGを使用して、icd遺伝子の天然コード領域を、改変開始コドンを有するコード領域により置換した。使用した株はLU11424であった。
【0244】
2つの連続的組換え事象(それぞれ上流および下流領域のそれぞれにおける1つずつ)は、該コード配列を変化させるのに必要である。該内因性遺伝子を該最適化遺伝子で置換するための方法は、原理的には、Beckerら(前掲)による刊行物に記載されている。最も重要な工程を以下に示す。すなわち、
・エレクトロポレーションによる該株内への該プラスミドの導入。該工程は、例えばDE 10046870(株内へのプラスミドの導入がそれに開示されている場合、それを参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。
・該ゲノム内への第1相同組換え事象の後に該プラスミドを成功裏に組込んだクローンの選択。この選択はカナマイシン含有寒天プレート上の増殖により達成される。その選択工程に加えて、コロニーPCRにより、組換えの成功が確認されうる。該ゲノム内の該プラスミドの存在を確認するために使用したプライマーを以下に示す:BK1776 (AACGGCAGGTATATGTGATG) (PCT/EP2007/061151の配列番号12)およびOLD 450 (CGAGTAGGTCGCGAGCAG) (PCT/EP2007/061151の配列番号13)。該陽性クローンは約600bpのバンドを与える。
・カナマイシン非含有培地内で陽性クローンをインキュベートすることにより、第2組換え事象を生じさせる。
・第2組換え事象によりベクターバックボーンが成功裏に除去されたクローンをスクロース含有培地上の増殖により特定する。SacB遺伝子を含むベクターバックボーンを喪失したクローンのみが生存するであろう。
・ついで、それらの2つの組換え事象が天然idhコード領域の成功裏の置換を引き起こしたクローンを、関連領域にわたるPCR産物の配列決定、およびICD活性の測定により特定した。該PCR産物は、鋳型としての個々のクローンのゲノムDNAならびにプライマーOLD 441およびOLD 442を使用して得た。該PCR産物を精製し、Old 471(GAATCCAACCCACGTTCAGGC)(PCT/EP2007/061151の配列番号14)で配列決定した。
【0245】
icdの内因性コピーを置換するためには、種々のC. glutamicum株を使用することが可能である。しかし、C. glutamicumリシン産生株、例えばLU11424、またはATCC13032、ATCC12032lysCfbrもしくはATCC13286の他の誘導体を使用することが好ましい。LU11424が特に好ましい。
【0246】
LU11424は、ATCC13032から出発する遺伝的操作の幾つかの連続的工程により構築されたものであった。LU11424は以下の改変を含有する。すなわち、
・フィードバック抵抗性酵素を与える突然変異lysC遺伝子(アスパルトキナーゼをコードする)。この目的のために、生じるタンパク質が311位にトレオニンの代わりにイソロイシンを含有するよう、該lysC遺伝子内にヌクレオチド置換を導入した。そのような株の詳細な構築はWO 2005/059093に記載されている。該lysC遺伝子のアクセッション番号はP26512である。
・破壊されたpepCK遺伝子(ホスホエノールカルボキシキナーゼをコードする)。pepCKのアクセッション番号はAB115091である。
・重複ddh遺伝子(ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼをコードする)。ddhのアクセッション番号はY00151である。
・Psod発現単位により制御される増強されたdapB遺伝子(ジヒドロピコリン酸レダクターゼをコードする)。dapBのアクセッション番号はX67737である。
・重複argSlysAオペロン(アルギニル-tRNAシンテターゼおよびジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼをコードする)。argS lysAオペロンのアクセッション番号はX54740である。
・PsoD発現単位により制御される増強されたlysC遺伝子。
・アミノ酸59位にバリンの代わりにアラニンを含有するタンパク質を与える突然変異体hom遺伝子(ホモセリンデヒドロゲナーゼをコードする)。homのアクセッション番号はY00546である。
・アミノ酸458位にプロリンの代わりにセリンを含有するタンパク質を与える点突然変異を含有し発現単位PsoDにより制御される増強され突然変異したpycA遺伝子(ピルビン酸カルボキシラーゼをコードする)。pycAのアクセッション番号はAF038548である。
・アミノ酸243位にアラニンの代わりにトレオニンを含有するタンパク質を与える突然変異zwf遺伝子(グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼをコードする)。zwfのアクセッション番号はBA000036.3, nt. 1667860-1669404である。
【0247】
発現単位Psod(リボソーム結合部位を含むプロモーター)はWO 2005/059144に記載されている。Psod配列は(5’から3’へ)以下のとおりである。

【0248】
前記改変は全て、icd遺伝子の操作と同様の方法を用いて(すなわち、前記の「キャンベル・イン(Campbell in)/キャンベル・アウト(Campbell out)」法により)導入した。該操作に使用したプラスミドは全て、pClik int sacB(前記)またはpK19mobsacB(配列番号21)に基づくものであった。
【0249】
icd開始コドンをATGからGTGへと変化させることによりICD活性が低下したリシン産生株LU11424をICD ATG-GTG(ICD ATG→GTGと同義)と命名した。
【0250】
1.2 ICD活性、リシン産生およびトレハロース産生に対する効果
icd遺伝子の操作の効果を、一連の2つの独立した試験において確認した。これらの一連の試験の第1試験においては、ICD活性およびリシン産生を測定した。第2試験は更に、トレハロース産生の測定を含んでいた。
【0251】
1.2.1 第1試験:ICD活性およびリシン産生
ICD活性に対する効果
初期株LU11424と比較した場合の株ICD ATG-GTGのICD酵素活性の測定により、icd遺伝子の操作の成功を確認した。イソクエン酸デヒドロゲナーゼの活性の測定のために、一晩培養物から無細胞抽出物を調製した。寒天プレートからの単細胞が接種された37g/L BHI(Bacto(商標) Brain Heart Infusion)を含有する複合培地内で細胞を増殖させた。細胞を遠心分離(13.000×g, 5分, Centrifuge 5415 R, Eppendorf, Hamburg, Germany)により回収し、反応バッファー(100 mM Tris-HCl, pH 7.8)で洗浄し、細胞をリボライザー(ribolyser)(Schwingmuhle, Retsch, Haan, Germany)内のガラスビーズで破壊した。細胞残渣を遠心分離(13.000×g, 15分, Centrifuge 5415 R, Eppendorf, Hamburg, Germany)により除去し、無細胞抽出物を使用してタンパク質含量および酵素活性を決定した。Bio-Rad(Quick Start(商標) Bradford Due Reagent, Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA, United States)からのブラッドフォード(Bradford)試薬を使用するブラッドフォードの方法により、タンパク質濃度を測定した。340nmの吸光度の増加を追跡することにより、酵素活性を決定した。該反応は、100mM Tris/HCl、10mM MgCl2、0.5mM NADP、1mM イソクエン酸および50μlの該粗細胞抽出物を含有するpH 7.8の1mlの合計容量中で行った。それぞれ、イソクエン酸を伴わない又は細胞抽出物を伴わない陰性対照を実施した。該酵素の比活性はmU/mg タンパク質(1U = 1μmol/分(30℃))として表される。
【表4】

【0252】
該データは、株ICD ATG→GTGにおけるICD活性が初期株LU11424より有意に低いことを示している。
【0253】
リシン産生に対する効果
リシン産生に対する低下したICD活性の効果を分析するために、作製された株を親株と比較した。
【0254】
該株の増殖のための条件は以下のとおりであった。
【0255】
培地:第1前培養物は、5 g L-1 グルコース、5 g L-1 酵母エキス、10 g L-1 トリプトファンおよび5 g L-1 NaClを含有する複合培地内で増殖させた。18 g L-1の寒天を加えることにより寒天プレートを調製した。第2前培養および本培養は、55mM グルコースを含有する最少培地内で行った。該最少培地は1リットル当たりに以下のものを更に含有していた:0.055 g CaCl2 ・ 2H2O, 0.2 g MgSO4 ・ H2O, 1 g NaCl, 25 g K2HPO4, 7,7 g KH2PO4, 15 g (NH4)2SO4, 0.5 mg ビオチン, 1 mg Ca-パンテトン酸, 1 mg チアミン ・ HCl, 20 mg FeSO4, 30 mg 3,4-ジヒドロキシ安息香酸および10 mlの100×微量元素溶液。該微量元素溶液は1リットル当たりに以下のものを含有していた:200 mg FeCl3 ・ H2O, 200 mg MnSO4 ・ H2O, 50 mg ZnSO4 ・ 7 H2O, 20 mg CuCl2 ・ 2 H2O, 20 mg NaB4O7 ・ 10 H2Oおよび10 mg (NH4)6Mo7O24 ・ 4 H2O。それをpH 1に調整した。
【0256】
培養:寒天プレートからの単コロニーを使用して、第1前培養に接種し、それを500mL バッフル付きフラスコ内の50mLの複合培地内で8時間インキュベートした。ついで細胞を遠心分離(8,800×g, 2分, 4℃)により回収し、無菌0.9% NaClで洗浄し、第2前培養(250ml バッフル付きフラスコ内の25ml 最少培地)のための接種物として使用した。本培養を500mlバッフル付きフラスコ内の50ml培地内で行い、第2前培養からの指数関数的に増殖している細胞をそれに接種した。全ての培養実験は、ロータリーシェーカー(振とう直径5 cm, Multitron, Infors AG, Bottmingen, Switzerland)上、30℃および230rpmで行った。該培養時間にわたりpHは7.1±0.2の範囲であった。18時間後、細胞濃度、基質消費および産物形成を分析するために、指数関数的に増殖している培養からサンプルを採取した。660nmでの光学濃度の測定(Spectrophotometer, Libra S11, Biochrom, Cambridge, UK)により細胞濃度を決定した。必要に応じて、0.05〜0.3の吸光度値を得るために、分析用化学てんびん(CP255D, Sartorius, Gottingen, German)上でサンプルを希釈した。Boehringer Mannheimからのグルコースキットでグルコースの濃度を決定した。リシン校正曲線を用いて、光学的酵素試験によりリシン濃度を決定した。該反応は1mlの容量中で行われ、0.9 ml 100 mM Tris-HCl (pH 8.0)、1 mg ABTS、80 mU リシンオキシダーゼ、400 mU ペルオキシダーゼを含有していた。100μlの培養上清を加えることにより、該反応を開始させた。6分後、436nmにおける吸光度を測定した。必要に応じて、該校正曲線の範囲内の吸光度値を得るために、該培養上清を希釈した。
【表5】

【0257】
低下したICD活性を有する株は、より高いリシン収率を有する(初期株より1.3倍以上高い)ことが、容易に理解されうる。
【0258】
1.2.2 第2試験:ICD活性、リシンおよびトレハロースの産生
再び、初期株LU11424と比較した場合の株ICD ATG→GTGのICD酵素活性の測定、およびリシン産生の測定により、icd遺伝子の操作の成功を確認した。また、トレハロースの産生を測定した。
【0259】
培地組成:寒天プレートおよび第1前培養に使用した複合培地は、それぞれ、18 g L-1 寒天の存在下または非存在下、10 g L-1 ペプトン、5 g L-1 牛肉エキス、5 g L-1 酵母エキス、2.5 g L-1 NaCl、10 g L-1 グルコースおよび2 g L-1 尿素を含有していた。以下のものを含有する最少培地内で第2前培養および本培養を行った:(A) 500 mL 塩溶液 (1 g NaCl, 55 mg MgCl2・7H2Oおよび200mg CaCl), (B) 100 mL 基質溶液 (それぞれ100g L-1 グルコースまたはフルクトース), (C) 100 mL バッファー溶液 (2 M リン酸カリウム, pH 7.8), (D) 100mL 溶液B (150 g L-1 (NH4)2SO4, pH 7.0), (E) 20 mL ビタミン溶液 (25mg L-1 ビオチン, 50 mg L-1 チアミンHClおよび50 mg L-1 パントテン酸), (F) 10 mL FeSO4-溶液 (2 g L-1 FeSO4, pH 1.0), (G) 10 ml 100×微量要素 (Vallino, J. J.およびG. Stephanopoulos, Biotechnol Bioeng 67:872-85 (1993)においてBiotechnol Bioeng 41:633-646 (1993)から転載) および(H) 1 mL DHB-溶液 (0.3 M NaOH中の30mg mL-1 3,4-ジヒドロキシ安息香酸)(milliQ精製水で1Lの調節)。高圧滅菌(A-D)または濾過(E-H)により溶液を別々に滅菌した。使用前に新たにそれらの種々の培地化合物を室温で一緒にした。
【0260】
培養および増殖条件:-80℃で保存されたグリセロールストック(10% グリセロール, 50 mg L-1 ラクトース)からの細胞を寒天プレート上に広げ、30℃で48時間インキュベートした。第1前培養物を、ロータリーシェーカー(Multitron, Infors AG, Bottmingen, Switzerland)上、25ml 複合培地(250ml バッフル付き振とうフラスコ)内で30℃および230rpmで10時間増殖させた。遠心分離(3分, 7000×g, Biofuge stratos, Heraeus, Hanau, Germany)後、細胞を無菌0.9% NaClで洗浄し、第2前培養(500mlバッフル付きフラスコ内の50ml)のための接種物として使用した。中期指数関数増殖期において、細胞を回収し、前記のとおりに洗浄し、それを使用して本培養に接種した。これは、200mlの培地と共に2Lバッフル付きフラスコを使用して、3重反復して行った。該培養中、pHは7.1±0.1の範囲内で一定のままであり、十分な酸素供給が確保された。
【0261】
基質および産物の分析
グルコース、リシンおよび他の産物の濃度を1:10希釈培養上清において決定した。生化学的分析装置(YSI 2700 Select, Kreienbaum, Langenfeld, Germany)を使用してグルコースを定量した。Aminex HPX-87Hカラム(300×7.8; Bio-Rad, Hercules, California)上、オートサンプラーL-2200、ポンプL-2130、UV検出器L-2400、RI検出器L-24900およびカラムオーブンL-2350(Hitachi, VWR, Darmstadt, Germany)よりなるLaChrome HPLCシステム(45℃;移動相として10 mM H2SO4を使用;0.5 ml/分の流速;屈折率(糖)または210nmのUV吸光度(有機酸)による検出)により、有機酸およびトレハロースの濃度を決定した。アミノ酸の定量のためのプロトコールは、o-フタルアルデヒド(OPA)でのプレカラム誘導体化、および記載されているとおり(Kromer, J. O.ら, Anal Biochem 340:171-3 (2005))のC18カラム(Gemini5u, Phenomenex, Aschaffenburg, Germany)上の分離を含んでいた。測定時間を短縮するために、勾配プロファイルを変化させ、溶離液Bを4% 分-1で加えた。660nmでの光度計(Libra S11, Biochrome, Cambridge, UK)において、または細胞乾燥質量(CDM)としての重量分析(CP225D, Sartorius, Goettingen, Germany)により、細胞濃度を決定した。後者の場合、15mLの培養ブロスからの細胞を遠心分離(10分, 9800×g, Biofuge stratos, Heraeus, Hanau, Germany)により回収し、水で3回洗浄し、ついで80℃で3日間乾燥させた。OD660(Libra S11, Biochrome, Cambridge, UK)とCDMとの間の相関係数は1 OD = 0.258 (g CDM) L-1.と決定された。
【0262】
細胞破壊
50mlの本培養容量(500mlバッフル付き振とうフラスコ)で前記のとおりに細胞を増殖させた。細胞を指数関数的増殖相において遠心分離(5分, 9800×g, 4℃, Biofuge stratos, Heraeus, Hanau, Germany)により回収し、破壊バッファー(100mM TrisHCl, pH 7.8)で洗浄し、ついで10mlの同じバッファーに再懸濁させた。ガラスビーズを含有する2mlエッペンドルフチューブ内で750μlの量で細胞懸濁液をアリコート化した。リボライザー(ribolyzer)(MM301, Retsch, Haan, Germany)において30Hz(2×5分; 5分間隔)で破壊を行った。粗細胞抽出物を13000×gで10分間の遠心分離(Centrifuge 5415R, Eppendorf, Hamburg, Germany)により得、酵素活性およびタンパク質含量の決定のために使用した。後者は、BioRadからの試薬溶液(Quick Start Bradford Dye, BioRad, Hercules, USA)を使用するブラッドフォード(Bradford)(Anal Biochem 72:248-54 (1976))の方法により定量した。
【0263】
イソクエン酸デヒドロゲナーゼ活性
ICDのin vitro活性の分析はChenら(Chen, R.およびH. Yang, Arch Biochem Biophys 383:238-45 (2000))のプロトコールに基づくものであった。該反応は、1.5ml ポリスチレンキュベット内で1mlの容量中、pH 7.8および30℃で行った。該アッセイ混合物は100 mM Tris/HCl (pH 7.8)、10 mM MgCl2、1 mM イソシトラート、0.5 mM NADPおよび25μlの粗細胞抽出物を含有していた。NADPH生成による340nmにおける吸光度の変化をオンラインでモニターした(Specord 40, Analytik Jena, Jena, Germany)。それぞれ、イソシトラートを伴うことなく又は細胞抽出物を伴うことなく、陰性対照を行った。炭素源としてのグルコースを含有する最少培地内で増殖させたC. glutamicum LU11424およびICD ATG→GTGの粗細胞抽出物におけるICDの比活性を下記の表に示す。1 U = 1μmol/分(30℃); NADPHのモル吸光係数 = 6.22 L mmol-1 cm-1
【表6】

【0264】
該データは、株ICD ATG→GTGにおけるICD活性が初期株LU11424の場合より有意に低いことを示している。
【0265】
リシンおよびトレハロース産生
グルコースを用いたときのリシン産生C. glutamicum LU11424およびICD ATG→GTGの産生特性を下記の表に示す。表に示す収率は生物量収率(YX/S)、リシン収率(YLys/S)およびトレハロース収率(YTre/S)(すべて、消費グルコース(S)当たり)であり、3つの並行培養実験からの平均値および対応偏差を表す。該収率は、産物生成および基質消費をプロットした場合の直線ベストフィットの傾きとして決定された。
【表7】

【0266】
低下したICD活性を有する株が、より高いリシンおよびトレハロース収率を有する(初期株より1.3倍以上高い)ことが、容易に理解されうる。
【実施例2】
【0267】
メチオニン産生のための株の構築およびメチオニン産生性に対する効果
PCT/EP2007/061151に記載されているもう1つの実験においては、開始コドンにおいて前記ATG-GTG突然変異を含有するイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(実施例1.1と比較されたい)を前記のとおりにpClik内にクローニングしてpClik int sacB ICD(ATG-GTG)(PCT/EP2007/061151の配列番号15、本配列表の配列番号5は該ベクターインサートを示す)を得た。ついで、プラスミドpClik int sacB ICD (ATG-GTG)(PCT/EP2007/061151の配列番号15)を株OM469のゲノム内にキャンベル・インおよびキャンベル・アウトすることにより、株M2620を構築した。株OM469はWO 2007/012078に記載されている。
【0268】
WO 2007/020295に記載されているとおりに該株を増殖させた。30℃で48時間のインキュベーションの後、該サンプルを糖消費に関して分析した。該株は全ての加えられた糖を消費していたことが判明した。このことは、全ての株が同じ量の炭素源を使用していたことを意味する。前記のとおり及びWO 2007/020295に記載されているとおりに、HPLCにより合成メチオニンを測定した。
【表8】

【0269】
上記表におけるデータから、ICD遺伝子の変更された開始コドンを有し従って変更されたICD活性を有する株M2620は、より高いメチオニン産生性を有することが理解されうる。全ての炭素源は48時間後に消費されるため、この株においては産生メチオニンに関する炭素収量(消費された糖当たりの生成産物の量)がより高いことも、直接的に理解することが可能である。
【実施例3】
【0270】
ジアミノペンタン産生における低下したICD発現レベルを有する株の使用
改変されたICD発現レベルを有する株の構築
宿主株と比較して改変されたICD発現レベルを有するジアミノペンタン産生株の構築のために、プラスミドpClik int sacB ICD ATG→GTG(実施例1.1を参照されたい;同義語:pClik int sacB ICD (ATG-GTG)、pClik int sacB ICD ATG-GTG、ベクターインサート;配列番号5を参照されたい)を使用する。使用した親株は、アスパルトキナーゼ遺伝子(NCgl 0247)内への点突然変異T311Iの取り込み、ならびにそれに続く、強力プロモーターPsodの付加による遺伝子量の増幅、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(NCgl 2528)の重複、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子(NGgl 2765)の破壊、および大腸菌(E. coli.)リシンデカルボキシラーゼ遺伝子(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes, Entry JW0181)の染色体組込みにより、C. glutamicum野生型株ATCC 13032から誘導された1,5-ジアミノペンタン(1,5-DAP)産生体である。ATCC 13032への該改変のそれぞれは、組換えDNA技術の一般的に公知の方法を適用することにより行う。1,5-DAP産生体親株を確立するために使用したプラスミドの配列を配列番号21〜24に示す。配列番号21はpepCK遺伝子(デルタpepCK)の欠失のために使用されうる。配列番号22はddh遺伝子の重複(2×ddh)のために使用されうる。配列番号23は、ask遺伝子の上流のPsodプロモーターの組込み(Psodk ask)によるask遺伝子量の増幅のために使用されうる。配列番号24は、C. glutamicumリシン産生体のbioD領域内の大腸菌(E. coli.)ldcCの組込みによるジアミノペンタン産生株の構築のために使用されうる。ついで、pClick int sacB ICD ATG→GTGまたは組込まれると宿主細胞におけるICD活性の低下を招くいずれかの他のプラスミドが、リシン産生体に関して実施例1において「改変されたICD発現レベルを有する株の構築」に記載されている方法により、親株内に導入されうる。
【0271】
コドン使用頻度が補正されたIDH ATG-GTGの効果を分析するためには、リシン産生体に関して実施例1において「ICD活性の測定」に記載されているとおりに、該最適化株を親株の1,5-DAP産生性と比較する。
【0272】
1,5-DAP産生性に対する効果
1,5-DAP産生性に対するICDの改変発現の効果を分析するためには、該最適化株を親株の1,5-DAP産生性と比較する。
【0273】
この目的には、該株をCM-プレート(10% スクロース、10 g/l グルコース、2,5 g/l NaCl、2 g/l 尿素、10 g/l Bacto Pepton、10 g/l 酵母エキス、22 g/l 寒天)上、30℃で2日間増殖させる。ついで細胞を該プレートから擦り取り、塩類液に再懸濁させる。本培養のために、100ml エーレンマイヤー(Erlenmeyer)フラスコ内の10mlの生産培地(40 g/l スクロース、60 g/l 糖蜜(100%糖含量として算出)、50 g/l (NH4)2SO4、0.6 g/l KH2PO4、0.4 g/l MgSO4・7H2O、2 mg/l FeSO4・7H2O、2 mg/l MnSO4・H2O、0.3 mg/l チアミンHCl、1 mg/l ビオチン)および0.5 gの高圧滅菌CaCO3を該細胞懸濁液と共に1.5のOD600までインキュベートする。ついで該細胞をInfors AJ118(Infors, Bottmingen, Switzerland)のタイプの振とう器上、220rpmで72時間増殖させる。
【0274】
ついで、該培地内に隔離された1,5-DAPの濃度を測定する。これは、Agilent 1100 Series LC系HPLC上のHPLCを用いて行う。オルト-フタルアルデヒドでのプレカラム誘導体化は、生成した1,5-DAPの定量を可能にする。該混合物の分離はGemini C18カラム(Phenomenex)上で行われうる。溶離液Aは40 mM NaH2PO4・H2O(pH7.8)であり、溶離液Bはアセトニトリル:メタノール:H2O 45:45:10である。検出は、蛍光検出器により行う。
【0275】
低下したICD活性を有する株はより高いリシン産生性を有するため、低下したICD活性を有する株はより高い1,5-DAP産生性を有する、というのが妥当と思われる。
【実施例4】
【0276】
icdのノックアウト
icdコード領域を欠失させるために、icdコード領域の下流の300-600の連続的ヌクレオチドに直接的に融合したicdコード配列の上流の約300-600の連続的ヌクレオチドを含有する欠失カセットをpClik int sacB内に挿入する。得られたプラスミドはpClik int sacBデルタicd(配列番号8)と称される。ついで該プラスミドを標準的な方法、例えばエレクトロポレーションによりC. glutamicum内に形質転換する。形質転換のための方法は、例えば、Thierbachら (Applied Microbiology and Biotechnology 29:356-362 (1988))、Dunican und Shivnan (Biotechnology 7:1067-1070 (1989))、Tauchら (FEMS Microbiological Letters 123,343-347 (1994))およびDE 10046870において見出される。
【0277】
2つの連続的組換え事象(それぞれ上流および下流領域のそれぞれにおける1つずつ)は、全コード配列を欠失させるのに必要である。プラスミドpClik int sacBを使用して該内因性遺伝子を該欠失カセットで置換するための方法は、原理的には、Beckerら(前掲)による刊行物に記載されている。最も重要な工程を以下に示す。すなわち、
・該ゲノム内への第1相同組換え事象の後における、該プラスミドを成功裏に組込んだクローンの選択。この選択はカナマイシン含有寒天プレート上の増殖により達成される。その選択工程に加えて、コロニーPCRにより、組換えの成功が確認されうる。
【0278】
・カナマイシン非含有培地内で陽性クローンをインキュベートすることにより、第2組換え事象を生じさせる。
【0279】
・第2組換え事象によりベクターバックボーンが成功裏に除去されたクローンをスクロース含有培地上の増殖により特定する。SacB遺伝子を含むベクターバックボーンを喪失したクローンのみが生存することとなる。
【0280】
・ついで、それらの2つの組換え事象が天然idhコード領域の欠失を引き起こしたクローンをPCR特異的プライマーで又はサザンブロット法により特定する。
【0281】
適当なプライマー(5'から3'へ)は以下のとおりである。すなわち、
ICD 上流: GAACAGATCACAGAATCCAACC
ICD 下流: TGGCGATGCACAATTCCTTG。
【0282】
ICDの全コード領域が除去された株は約440塩基対(より厳密には442bp)のPCR産物を与えるはずであり、野生型icd遺伝子を有する親株は約2660塩基対のバンドを示すはずである。
【0283】
欠失の成功は更に、サザンブロット法またはICD活性の測定により確認されうる。
【0284】
icdコード領域の完全な欠失を含有する得られた株はデルタicdと称される。この株はICD活性を欠き、したがってグルタマートを合成し得ないため、豊富な培地上でこの株を増殖させること、または最少培地上で増殖させる場合にはグルタマートを供給することが有用である。
【0285】
C. glutamicumにおける遺伝子をどのように欠失させるのかに関するより詳細な方法はEggelingおよびBott (編) “Handbook of Corynebacterium” (Taylor and Francis Group, 2005) Chapter 23.8にも記載されている。
【0286】
リシン、メチオニン、ベータ-リシン、ジアミノペンタン、ジピコリナートの産生性に対するicd欠失の効果は、前記のとおりに及びWO 2007/101867、WO 2007/113127に記載のとおりにモニターされうる。
【0287】
一般に、いずれの標的ファインケミカルの製造の場合にも、WO 2005/059139に記載されているとおりのリシン製造の場合と同じ培地および条件を用いることが可能である。該株をCM寒天上、30℃で一晩、前培養する。培養細胞を、1.5mlの0.9% NaClを含有するマイクロチューブ内に回収し、ボルテックス後に610nmでの吸光度により細胞密度を決定する。本培養のためには、0.5gのCaCO3を含有する高圧滅菌された100mlのエーレンマイヤー(Erlenmeyer)フラスコに含有された10mlの生産培地(WO 2005/059139においては培地Iと称される)内に、懸濁細胞を、1.5の初期ODに達するよう接種する。本培養を、ロータリーシェーカー(Infors AJ118, Bottmingen, Switzerland)上、200rpm、30℃で48〜78時間行う。細胞増殖の測定のために、0.1mlの培養ブロスを0.9mlの1N HClと混合してCaCO3を消失させ、適当な希釈の後、610nmの吸光度を測定する。該産物および残存糖(グルコース、フルクトースおよびスクロース)の濃度をHPLC法(Agilent 1100 Series LC系)により測定する。
【実施例5】
【0288】
より低い比活性を有する変異体での天然icdコード領域の置換
つぎに、より低いICD活性を有する突然変異配列により元のicd配列を置換するための1つの考えられうる方法に関して、更なる実験的詳細を説明する。
【0289】
1.より低い活性を有するicd突然変異体の作製および選択
第1工程において、C. glutamicumでありうる宿主細胞内で機能するプロモーター、RBSおよびターミネーター配列のような全ての調節配列を含有する複製性プラスミド内にicdコード配列をクローニングする。理想的には、大腸菌(E. coli.)およびC. glutamicumにおいて複製されうるシャトルプラスミドを使用する。そのようなシャトルベクターの一例はpClik5aMCS(WO 2005/059093)である。より適当なシャトルベクターはEikmannsら (Gene (1991) 102:93-8) または“Handbook of Corynebacterium”(EggelingおよびBott編, ISBN 0-8493-1821-1, 2005)において見出されうる。それらにおいては、E. coli - C. glutamicumシャトルベクターの一覧(表23.1)およびE. coli - C. glutamicumシャトル発現ベクターの一覧(表23.2)が見出されうる。後者は、クローン化遺伝子の発現を導く適当なプロモーターを既に含有するため、後者が好ましい。
【0290】
分子生物学の標準的な方法、例えば、PCRによる増幅を含むクローニング、制限酵素での消化、連結、形質転換は当業者に公知であり、標準的なプロトコール書、例えばAusubelら (編) Current protocols in molecular biology. (John Wiley & Sons, Inc. 2007)、Sambrookら, MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989)、およびAusubelら (編), SHORT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, 3rd Edition (John Wiley & Sons, Inc. 1995)において見出されうる。
【0291】
icdコード配列の突然変異体の一群は部位特異的突然変異誘発により作製される。突然変異誘発のための方法はGlickおよびPasternak MOLECULAR BIOTECHNOLOGY. PRINCIPLES AND APPLICATIONS OF RECOMBINANT DNA; 2nd edition (American Sicienty for Microbiology, 1998), Chapter 8: Directed Mutagenensis and Protein Engineering、およびAusubelら (編) Current protocols in molecular biology. (John Wiley & Sons, Inc. 2007). Chapter 8において見出されうる。
【0292】
icd変異体のライブラリーをコードする得られる一群のプラスミドは、通常、大腸菌(E. coli.)において作製される。
【0293】
ついで該ライブラリーは、標準的な方法、例えばエレクトロポレーションにより、C. glutamicum内に形質転換されうる。形質転換のための方法は、例えばThierbachら (Applied Microbiology and Biotechnology 29:356-362 (1988))、Dunican und Shivnan (Biotechnology 7:1067-1070 (1989))、Tauchら (FEMS Microbiological Letters 123:343-347 (1994))またはEggelingおよびBott (編) Handbook of Corynebacterium” (Taylor and Francis Group, 2005) ISBN 0-8493-1821-1において見出される。
【0294】
ついで、得られたクローンは、ICD活性に関して試験されるべきである。粗細胞抽出物からのICD酵素活性を測定するための方法は実施例1に記載されている。
【0295】
対照として、icd変異体ライブラリーと同じプラスミド内にクローニングされた野生型icd遺伝子を並行して決定する。
【0296】
これらの結果に基づいて、野生型icd遺伝子と比較して低い活性を有するICD変異体が選択されうる。
【0297】
より低いICD活性を与える突然変異体は、より低い比活性を有する(例えば、各タンパク質分子はより低い活性を有する)ことが可能であり、あるいはより低い効率で転写または翻訳されることが可能であり、あるいはより低い安定性を有することが可能である。
【0298】
2.より低いICD活性を有する突然変異体での野生型icd遺伝子の置換
より低いICD活性を有する変異体により野生型icdコード領域を置換するために、2工程法を適用することが可能である。第1工程においては、野生型icd遺伝子のコード領域をゲノムから完全に欠失させる。破壊されたicdを有する細胞が生存可能であることを記載している文献が存在する(Eikmannsら (1995) J Bacteriol (1995) 177(3):774-782)。
【0299】
a)野生型icdの欠失
icdの欠失の方法は実施例4に記載されている。得られた株はデルタicdと称される。
【0300】
b)突然変異体icd配列の挿入
第2工程においては、変異体icdコード配列をデルタicd株内に挿入する。それを行うために、突然変異体icd配列を、適当な組込みプラスミド、例えば、実施例4における欠失構築物に使用された同じ約300-600の上流および下流ヌクレオチドに隣接したpClik int sacB(前記を参照されたい)内にクローニングする。突然変異体icdを含有するこのプラスミドをC. glutamicum内に形質転換したら、相同組換えの2つの連続的工程の後でicd遺伝子座内に突然変異体icdコード領域が挿入されたクローンを前記と同様の方法により特定することが可能である。突然変異体ICDコード領域に特異的なPCRプライマーを使用して、デルタicd株と陽性クローンとを識別することが可能である。
【0301】
突然変異体icdコード領域により野生型icdコード領域が成功裏に置換されたクローンは以下においては「icd(mut)」と称される。
【0302】
3.ICD活性の測定
株「icd(mut)」のICD活性は、野生型icd遺伝子を含有する親株の活性と比較されるべきである。このための方法は実施例1に記載されている。
【0303】
4.ファインケミカルの製造に関する効果の分析
突然変異体icdによる野生型icdの前記置換は、発酵により種々の化学物質を産生する株において行われうる。
【0304】
適当な株には、以下の化学物質を産生するよう操作されたC. glutamicumが含まれる(生産株として使用されうる株に関する参考文献が括弧内に示されている):
・リシン(例えば、LU11424, ATCC 13032 lysC(fbr); ATCC13287, 21300, 21513; 例えばEggelingおよびBott (編) Handbook of Corynebacterium” (Taylor and Francis Group, 2005) Chapter 20に記載されている)、
・メチオニン(例えば、WO 2007/012078, WO 2007/020295に記載されている)、
・ジアミノペンタン(WO 2007/113127, 実施例3)、
・ベータ-リシン(WO 2007/101867)、
・ジピコリナート(EP 08151031.5)、
・トレオニン(Colonら (1995) Appl Environ Microbiol 61:71-78; Eikmannsら (1991) Appl Micorbiol Biotechnol 34:617-622; Ishidaら (1994) Biosci Biotechnol Biochem 57:1755-1756; Kaseら (1974) Agric Biol Chem 38:993-1000)、
・イソロイシン(Morbachら (1996) Appl Environ Microbiol 62:4345-4351; Ishidaら (1993) Biosci Biotechnol Biochem 57:1755-1756)。
【0305】
リシン、メチオニンおよびジアミノペンタンの産生のための培養および検出は他の実施例に記載されている。一般に、いずれの標的ファインケミカルの製造の場合にも、WO 2005/059139に記載されているとおりのリシン製造の場合と同じ培地および条件を用いることが可能である。株をCM寒天上、30℃で一晩、前培養する。培養細胞を、1.5mlの0.9% NaClを含有するマイクロチューブ内に回収し、ボルテックス後に610nmでの吸光度により細胞密度を決定する。本培養のためには、0.5gのCaCO3を含有する高圧滅菌された100mlのエーレンマイヤー(Erlenmeyer)フラスコに含有された10mlの生産培地(WO 2005/059139においては培地Iと称される)内に、懸濁細胞を、1.5の初期ODに達するよう接種する。本培養を、ロータリーシェーカー(Infors AJ118, Bottmingen, Switzerland)上、200rpm、30℃で48〜78時間行う。細胞増殖の測定のために、0.1mlの培養ブロスを0.9mlの1N HClと混合してCaCO3を消失させ、適当な希釈の後、610nmの吸光度を測定する。該産物および残存糖(グルコース、フルクトースおよびスクロース)の濃度をHPLC法(Agilent 1100 Series LC系)により測定する。
【0306】
標的産物の蓄積は、ICD活性が低下した株においては、より高いと予想される。
【実施例6】
【0307】
上流配列を変化させることによるicd転写/翻訳の低下
a)適当な上流配列(プロモーター + RBS)の特定
まず、天然icdプロモーターより弱い上流配列を特定する必要がある。該新規上流配列はCorynebacteriumまたは他の生物から誘導されうる。細菌、より具体的にはコリネフォルム細菌において機能する幾つかのプロモーター(RBSを含む)が特定されている。そのようなプロモーターの具体例はDE-A-44 40 118、Reinscheidら, Microbiology 145:503 (1999)、Patekら, Microbiology 142:1297 (1996)、WO 02/40679、DE-A-103 59 594、DE-A-103 59 595、DE-A-103 59 660およびDE-A-10 2004 035 065に記載されている。
【0308】
また、icdプロモーターの置換のために、天然icdプロモーターより弱い他の上流領域が使用されうる。
【0309】
上流領域の強度は、レポーター系(例えば、Patekら (1996) Promoters from corynebacterium glutamicum: cloning, molecular analysis and search for a consensus motif. Microbiology 142:1297-1309に記載されているもの)を用いて測定されうる。
【0310】
あるいは、天然上流配列内に突然変異を導入し、ついでその転写活性を分析することが可能である。好ましくは、icd開始コドンの83nt上流配列を使用する。なぜなら、この領域内には、他の遺伝子のコード領域が存在しないからである。該上流領域の配列は後記に示されている(太字)。
【0311】
プロモーター配列を含むDNA配列を突然変異誘発するための方法は当業者によく知られており、例えばBernard R. Glick, Jack J. Pasternak: Molecular Biotechnology: Principles and Applications of Recombinant DNA. 2nd edition. 1998. ISBN 1-55581-136-1; Chapter 8: Directed Mutagenesis and Protein engineeringにも記載されている。ついで適当なプロモーター配列を選択することが可能である。
【0312】
ICD発現を導く元のプロモーターを置換するために、より低い転写または翻訳活性を有する上流領域を使用すべきである。厳密には、置換は、前記実施例に記載されているicdコード領域の置換と同じ方法による、2つの連続的な相同組換え事象により行われうる。得られる株は、低下したICD活性を有するであろう。産生性に対する影響は実施例5に記載のとおりに分析されうる。
【0313】
500ntの上流および下流領域を含むICD遺伝子の配列(配列番号2)
推定プロモーター領域(上流領域):太字
下線無しの太字:icdの上流に位置する該遺伝子の(部分的)3'コード領域
下線付きの太字:いずれのコード領域をも伴わない83nt
コード領域:イタリック体
下流領域:標準文字


【配列表フリーテキスト】
【0314】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対応する初期微生物と比較して部分的または完全に低下したイソクエン酸デヒドロゲナーゼ活性を有する微生物を使用する、ファインケミカルの製造方法。
【請求項2】
部分的または完全に低下したイソクエン酸デヒドロゲナーゼ活性を有する微生物が組換え微生物である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
イソクエン酸デヒドロゲナーゼ発現の部分的または完全な低下によりイソクエン酸デヒドロゲナーゼ活性が低下している、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
イソクエン酸デヒドロゲナーゼ活性の部分的または完全な低下が、イソクエン酸デヒドロゲナーゼコード化ヌクレオチド配列の開始コドンとしてのATGの置換、好ましくは、GTGによるATGの置換によるものである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
該微生物がCorynebacterium glutamicum、好ましくはC. glutamicum ATCC13032、ATCC13032lysCfbrもしくはATCC13286またはこれらの株の1つの誘導体、好ましくはLU11424である、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
該微生物がLU11424であり、そのイソクエン酸デヒドロゲナーゼ活性の部分的または完全な低下が、イソクエン酸デヒドロゲナーゼコード化ヌクレオチド配列の開始コドンとしてのATGの置換、好ましくは、GTGによるATGの置換によるものである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
アスパラギン酸ファミリーのアミノ酸およびそれらの生化学的前駆体よりなる群から選択される化合物を中間体または最終産物として製造する、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
該化合物が中間産物であり、ついで、有機アミン、有機酸またはアミノ酸へと酵素的または非酵素的に変換される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
該中間産物がリシンであるか、またはアスパラギン酸の下流のその生化学的前駆体の1つであり、最終産物が、好ましくは、該中間産物の非天然誘導体である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
該微生物が、該中間体から該最終産物への後続の変換における反応工程を触媒する少なくとも1つの異種酵素を含む、請求項7〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
該異種酵素が、ファインケミカルの生合成における、好ましくは、リシンから又はアスパラギン酸の下流のその生化学的前駆体から合成されるファインケミカルの生合成における1以上の工程を触媒する酵素よりなる群から選択される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
該異種酵素が、リシンデカルボキシラーゼ、リシン-2,3-アミノムターゼ、ジピコリン酸シンテターゼよりなる群から選択される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
該ファインケミカルが、
(i)アスパラギン酸ファミリーのアミノ酸、
(ii)アスパラギン酸の下流の生化学的経路におけるそれらの生化学的前駆体、
(iii)アミノ酸(i)および前駆体(ii)の誘導体
よりなる群から選択される、請求項1〜12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
該ファインケミカルが、リシン、メチオニン、トレオニン、イソロイシン、ジアミノペンタン、β-リシンおよびジピコリナートよりなる群から選択される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項記載の方法であって、該ファインケミカルが、リシン、トレオニンおよびメチオニンよりなる群から選択される場合には、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ発現の低下が、微生物の天然イソクエン酸デヒドロゲナーゼコード化ヌクレオチド配列の代わりの改変イソクエン酸デヒドロゲナーゼコード化ヌクレオチド配列の発現によるものではなく、ここで該改変イソクエン酸デヒドロゲナーゼコード化ヌクレオチド配列とは、該微生物のコドン使用頻度に従った場合に、より低い使用頻度のコドンにより、未改変ヌクレオチド配列のコドンの少なくとも1つが、該改変イソクエン酸デヒドロゲナーゼコード化ヌクレオチド配列において置換されるよう、該改変イソクエン酸デヒドロゲナーゼコード化ヌクレオチド配列が未改変イソクエン酸デヒドロゲナーゼコード化ヌクレオチド配列から誘導されているものである、前記方法。
【請求項16】
該ファインケミカルが、1,5-ジアミノペンタン、β-リシンおよびジピコリナートよりなる群から選択される化合物である、請求項14または15記載の方法。
【請求項17】
1,5-ジアミノペンタンを製造する、請求項16記載の方法。
【請求項18】
該組換え微生物が異種リシンデカルボキシラーゼを含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
該組換え微生物におけるジアミンアセチルトランスフェラーゼがダウンレギュレーションまたは不活性化されている、請求項17または18記載の方法。
【請求項20】
β-リシンを製造する、請求項16記載の方法。
【請求項21】
該組換え微生物が異種リシン-2,3-アミノムターゼを含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
ジピコリナートを製造する、請求項16記載の方法。
【請求項23】
該組換え微生物が異種ジピコリン酸シンテターゼを含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
トレハロースを中間体または最終産物として製造する、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項25】
対応する初期微生物と比較して部分的または完全に低下したイソクエン酸デヒドロゲナーゼ活性を有する組換え微生物であって、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ発現の低下が、該微生物の天然イソクエン酸デヒドロゲナーゼコード化ヌクレオチド配列の代わりの改変イソクエン酸デヒドロゲナーゼコード化ヌクレオチド配列の発現によるものではなく、ここで該改変イソクエン酸デヒドロゲナーゼコード化ヌクレオチド配列とは、該宿主細胞のコドン使用頻度に従った場合に、より低い使用頻度のコドンにより、未改変ヌクレオチド配列のコドンの少なくとも1つが、該改変イソクエン酸デヒドロゲナーゼコード化ヌクレオチド配列において置換されるよう、該改変イソクエン酸デヒドロゲナーゼコード化ヌクレオチド配列が未改変イソクエン酸デヒドロゲナーゼコード化ヌクレオチド配列から誘導されているものである、該組換え微生物。
【請求項26】
該微生物がC. glutamicum、好ましくはC. glutamicum ATCC13032、ATCC13032lysCfbrもしくはATCC13286またはこれらの株の1つの誘導体、好ましくはLU11424である、請求項25記載の組換え微生物。
【請求項27】
該組換え微生物がLU11424であり、その部分的または完全に低下したイソクエン酸デヒドロゲナーゼ活性が、イソクエン酸デヒドロゲナーゼコード化ヌクレオチド配列の開始コドンとしてのATGの置換、好ましくは、GTGによるATGの置換によるものである、請求項26記載の組換え微生物。
【請求項28】
アスパラギン酸ファミリーのアミノ酸またはその生化学的前駆体の1つを他のファインケミカルに変換しうる異種酵素、好ましくは、リシンを又はアスパラギン酸の下流のその生化学的前駆体の1つを他のファインケミカルに変換しうる異種酵素を更に含む、請求項25〜27のいずれか1項記載の組換え微生物。
【請求項29】
該異種酵素が、リシンデカルボキシラーゼ、リシン-2,3-アミノムターゼおよびジピコリン酸シンテターゼよりなる群から選択される、請求項25〜28のいずれか1項記載の組換え微生物。
【請求項30】
該異種酵素がリシンデカルボキシラーゼであり、該組換え微生物におけるジアミンアセチルトランスフェラーゼがダウンレギュレーションまたは不活性化されており、それがリシンを1,5-ジアミノペンタンに変換しうる、請求項29記載の組換え微生物。
【請求項31】
請求項1〜24のいずれか1項記載の方法に適している、請求項25〜30のいずれか1項記載の組換え微生物。
【請求項32】
ファインケミカル、好ましくは、請求項7〜9、13、14、16、17、20および22のいずれか1項記載のファインケミカルを製造するための、請求項25〜31のいずれか1項記載の微生物の使用。
【請求項33】
(i)1,5-ジアミノペンタンが中間産物であるポリアミド、ポリウレタンまたはピペリジン、
(ii)β-リシンが中間産物である、カプロラクタムまたはポリアミド、あるいは
(iii)ジピコリナートが中間産物であるポリエステルまたはポリアミドまたは安定剤の製造方法であって、
請求項1〜23のいずれか1項記載の方法により該中間産物を製造する工程を含む方法。
【請求項34】
請求項1〜19のいずれか1項記載の1,5-ジアミノペンタンの製造、および該1,5-ジアミノペンタンとジカルボン酸との反応を含む、ポリアミドの方法である、請求項33記載の方法。
【請求項35】
請求項1〜16、20および21のいずれか1項記載のβ-リシンの製造を含む、β-アミノ-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタムまたはε-アミノカプロン酸の製造方法である、請求項33記載の方法。
【請求項36】
請求項1〜16、22および23のいずれか1項記載のジピコリナートの製造、該ジピコリナートの単離、ならびにそれに続く、ポリオールおよびポリアミンから選択される少なくとも1つの他の多価コモノマーとの該ジピコリナートの重合を含む、ポリエステルまたはポリアミド共重合体の製造方法である、請求項33記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2011−518571(P2011−518571A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506693(P2011−506693)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【国際出願番号】PCT/EP2009/055146
【国際公開番号】WO2009/133114
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】