説明

低代謝回転骨症の治療又は予防剤

球形活性炭を有効成分とする低代謝回転骨症の治療又は予防剤を開示する。前記低代謝回転骨症としては、低代謝回転骨に起因する腎性骨異栄養症又は無形成骨症を挙げることができ、前記無形成骨症としては、保存期慢性腎不全における無形成骨症、あるいは、透析患者での腎性骨異栄養症を挙げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、球形活性炭を有効成分とする、低代謝回転骨に起因する疾病、すなわち、低代謝回転骨症の治療又は予防剤に関する。
【背景技術】
従来、慢性腎不全、特に血液透析に伴う骨病変は、腎性骨異栄養症(ROD)として知られており、二次性副甲状腺機能亢進症(2HPT)に起因する繊維性骨炎、あるいは、アルミニウム蓄積に起因する骨軟化症などの骨形成及び骨吸収が盛んに起こる高代謝回転骨に起因する病態として認識され、その治療用薬剤、並びに治療法及び予防法が開発されてきた。
しかしながら、最近、慢性腎不全、特に血液透析に伴う腎性骨異栄養症に関して、むしろ低代謝回転骨に起因する症例の増加が報告されるようになり、更に、この病態が進展すると無形成骨症に移行することも明らかにされている(非特許文献1及び非特許文献2)。すなわち、腎性骨異栄養症には、異なる発症メカニズムに基づく種々の疾病(例えば、低代謝回転骨に起因する腎性骨異栄養症、あるいは、高代謝回転骨に起因する腎性骨異栄養症など)が含まれていることが明らかにされてきている。
このような低代謝回転骨に起因する腎性骨異栄養症及び無形成骨症の病態生理は未だ不明な点が多く、その治療薬、並びに治療法及び予防法の研究及び開発が待たれていた。
本発明者らは、低代謝回転骨に起因する各種疾病の病態生理の研究及びその治療方法の開発を進めており、後述するように、低代謝回転骨症の病態を動物で発現することに成功し、既に特許出願(特願2002−311101号)を行っている。
【非特許文献1】緒方ら,「クリニカル・カルシウム(CLINICAL CALCIUM)」,(日本),2001年,第11巻,第8号,p.999−1004
【非特許文献2】横山ら,「クリニカル・カルシウム(CLINICAL CALCIUM)」,(日本),2001年,第11巻,第8号,p.1005−1013
【発明の開示】
本発明の課題は、低代謝回転骨に起因する疾病、すなわち、低代謝回転骨症の治療又は予防剤を提供することにある。
本発明者は、前記課題を解決するため、鋭意研究を行なった結果、副甲状腺を摘出又は機能喪失させ、副甲状腺ホルモンの血中濃度を生理量又はそれ以下にして、二次性副甲状腺機能亢進症を避けた状態で、且つ腎臓不全を起こすことにより、低代謝回転骨症の病態を動物で発現することができるという知見を得た。そして、前記知見に基づき、低代謝回転骨症の病態モデル動物、すなわち、副甲状腺が摘出又は機能喪失され、しかも、投与により血液中の副甲状腺ホルモンが生理量以下に維持され、更に、腎臓の一部が切除され、あるいは、腎動脈分枝結紮されていることを特徴とする、病態モデル動物を得た。本発明者は、前記病態モデル動物を用いて、抗低代謝回転骨作用を有する物質のスクリーニングを行ったところ、球形活性炭が前記薬理効果を有することを見出し、前記課題を解決することができるという知見を得ることができた。本発明はこうした知見に基づくものである。
本発明は、球形活性炭を有効成分とする、低代謝回転骨症の治療又は予防剤に関する。
また、本発明は、球形活性炭と、薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる担体又は希釈剤とを含有する、低代謝回転骨症の治療又は予防用医薬組成物に関する(以下、本発明の低代謝回転骨症の治療又は予防剤と、本発明の低代謝回転骨症の治療又は予防用医薬組成物とを併せて、本発明の「医薬製剤」と称する)。
本発明の医薬製剤の好ましい態様によれば、低代謝回転骨症が、腎性骨異栄養症(特には、低代謝回転骨に起因する腎性骨異栄養症)又は無形成骨症(より好ましくは、保存期慢性腎不全における無形成骨症、あるいは、透析患者での腎性骨異栄養症)である。
本発明の医薬製剤の別の好ましい態様によれば、球形活性炭の粒径が0.01〜2mmである。
また、本発明は、球形活性炭を、低代謝回転骨症の治療又は予防が必要な対象に、有効量で投与することを含む、低代謝回転骨症を治療又は予防する方法に関する。
本発明の治療又は予防方法の好ましい態様によれば、低代謝回転骨症が、腎性骨異栄養症(特には、低代謝回転骨に起因する腎性骨異栄養症)又は無形成骨症(より好ましくは、保存期慢性腎不全における無形成骨症、あるいは、透析患者での腎性骨異栄養症)である。
本発明の治療又は予防方法の別の好ましい態様によれば、球形活性炭の粒径が0.01〜2mmである。
更に、本発明は、球形活性炭の、低代謝回転骨症の治療若しくは予防剤又は低代謝回転骨症の治療若しくは予防用医薬組成物を製造するための使用に関する。
本発明の使用の好ましい態様によれば、低代謝回転骨症が、腎性骨異栄養症(特には、低代謝回転骨に起因する腎性骨異栄養症)又は無形成骨症(より好ましくは、保存期慢性腎不全における無形成骨症、あるいは、透析患者での腎性骨異栄養症)である。
本発明の使用の別の好ましい態様によれば、球形活性炭の粒径が0.01〜2mmである。
【図面の簡単な説明】
図1は、病態モデルラットにおける骨形成率を示すグラフである。
図2は、病態モデルラットにおける球形活性炭の効果を、骨形成率で示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の医薬製剤、本発明の治療又は予防方法、及び本発明の使用について、本発明の医薬製剤を例にとって説明するが、以下の説明は、本発明の医薬製剤、本発明の治療又は予防方法、及び本発明の使用についてもそのまま当てはまる。
本発明の医薬製剤の有効成分である、球形活性炭としては、医療用に使用することが可能な球形活性炭である限り、特に限定されるものではないが、経口投与用球形活性炭、すなわち、医療用に内服使用することが可能な球形活性炭が好ましい。前記球形活性炭の粒径は、0.01〜2mmであることが好ましく、0.05〜2mmであることがより好ましく、0.05〜1mmであることが更に好ましい。
前記球形活性炭としては、例えば、特開平11−292770号公報又は特開2002−308785号公報に記載の球形活性炭を用いることができる。以下、特開平11−292770号公報に記載の球形活性炭について説明し、続いて、特開2002−308785号公報に記載の球形活性炭について説明する。
特開平11−292770号公報に記載の球形活性炭は、好ましくは直径0.05〜2mm、より好ましくは0.1〜1mmの球形活性炭である。また、好ましくは比表面積が500〜2000m/g、より好ましくは700〜1500m/gの球形活性炭である。また、好ましくは細孔半径100〜75000オングストロームの空隙量が0.01〜1mL/g、より好ましくは0.05〜0.8mL/gの球形活性炭である。なお、上記の比表面積は、自動吸着量測定装置を用いたメタノール吸着法により測定した値である。空隙量は、水銀圧入ポロシメータにより測定した値である。前記の球形活性炭は、粉末活性炭に比べ、服用時に飛散せず、しかも、連続使用しても便秘を惹起しない点で有利である。
球形活性炭の形状は、重要な因子の1つであり、実質的に球状であることが重要である。球形活性炭の中では、後述の石油系ピッチ由来の球形活性炭が真球に近いため特に好ましい。
特開平11−292770号公報に記載の球形活性炭の製造には、任意の活性炭原料、例えば、オガ屑、石炭、ヤシ殻、石油系若しくは石炭系の各種ピッチ類又は有機合成高分子を用いることができる。球形活性炭は、例えば、原料を炭化した後に活性化する方法によって製造することができる。活性化の方法としては、水蒸気賦活、薬品賦活、空気賦活又は炭酸ガス賦活などの種々の方法を用いることができるが、医療に許容される純度を維持することが必要である。
特開平11−292770号公報に記載の球形活性炭としては、炭素質粉末からの造粒活性炭、有機高分子焼成の球形活性炭及び石油系炭化水素(石油系ピッチ)由来の球形活性炭などがある。
炭素質粉末からの造粒活性炭は、例えば、タール、ピッチ等のバインダーで炭素質粉末原料を小粒球形に造粒した後、不活性雰囲気中で600〜1000℃の温度に加熱焼成して炭化し、次いで、賦活することにより得ることができる。賦活方法としては、水蒸気賦活、薬品賦活、空気賦活又は炭酸ガス賦活などの種々の方法を用いることができる。水蒸気賦活は、例えば、水蒸気雰囲気中、800〜1100℃の温度で行われる。
有機高分子焼成の球形活性炭は、例えば、特公昭61−1366号公報に開示されており、次のようにして製造することが可能である。縮合型又は重付加型の熱硬化性プレポリマーに、硬化剤、硬化触媒、乳化剤などを混合し、攪拌下で水中に乳化させ、室温又は加温下に攪拌を続けながら反応させる。反応系は、まず懸濁状態になり、更に攪拌することにより熱硬化性樹脂球状物が出現する。これを回収し、不活性雰囲気中で500℃以上の温度に加熱して炭化し、前記の方法により賦活して有機高分子焼成の球形活性炭を得ることができる。
石油系ピッチ由来の球形活性炭は、直径が好ましくは0.05〜2mm、より好ましくは0.1〜1mm、比表面積が好ましくは500〜2000m/g、より好ましくは700〜1500m/g、細孔半径100〜75000オングストロームの空隙量が好ましくは0.01〜1mL/gである。この石油系ピッチ由来の球形活性炭は、例えば、以下の2種の方法で製造することができる。
第1の方法は、例えば、特公昭51−76号公報(米国特許第3917806号明細書)及び特開昭54−89010号公報(米国特許第4761284号明細書)に記載されているように、まず、溶融状態で小粒球形状としたピッチ類を酸素により不融化した後、不活性雰囲気中で600〜1000℃の温度に加熱焼成して炭化し、次いで、水蒸気雰囲気中で850〜1000℃の温度で賦活する方法である。第2の方法は、例えば、特公昭59−10930号公報(米国特許第4420433号明細書)に記載されているように、まず、溶融状態で紐状としたピッチ類を破砕した後、熱水中に投入して球状化し、次いで、酸素により不融化した後、上記の第1の方法と同様の条件で炭化、賦活する方法である。
本発明において有効成分の球形活性炭としては、(1)アンモニア処理などを施した球形活性炭、(2)酸化及び/又は還元処理を施した球形活性炭なども使用することができる。これらの処理を施すことのできる球形活性炭は、前記の石油系ピッチ由来の球形活性炭、炭素質粉末の造粒活性炭、有機高分子焼成の球形活性炭の何れであってもよい。
前記のアンモニア処理とは、例えば、球形活性炭を、1〜1000ppmのアンモニアを含有するアンモニア水溶液で、アンモニア水溶液と球形活性炭の容量比を2〜10として、10〜50℃の温度で、0.5〜5時間処理することからなる。前述の石油系ピッチ由来の球形活性炭にアンモニア処理を施した活性炭としては、特開昭56−5313号公報(米国特許第4761284号明細書)に記載の球形活性炭を挙げることができる。例えば、アンモニア処理が施された球形活性炭としては直径が0.05〜2mm、好ましくは0.1〜1mm、比表面積が500〜2000m/g、好ましくは700〜1500m/g、細孔半径100〜75000オングストロームの空隙量が0.01〜1mL/g、pHが6〜8の球形活性炭を例示することができる。
前記の酸化処理とは、酸素を含む酸化雰囲気で高温熱処理を行なうことを意味し、酸素源としては、純粋な酸素、酸化窒素又は空気などを用いることができる。また、還元処理とは、炭素に対して不活性な雰囲気で高温熱処理を行なうことを意味し、炭素に対して不活性な雰囲気は、窒素、アルゴン若しくはヘリウム又はそれらの混合ガスを用いて形成することができる。
前記の酸化処理は、好ましくは酸素含有量0.5〜25容量%、より好ましくは酸素含有量3〜10容量%の雰囲気中、好ましくは300〜700℃、より好ましくは400〜600℃の温度で行われる。前記の還元処理は、好ましくは700〜1100℃、より好ましくは800〜1000℃の温度で不活性雰囲気中で行われる。
前述の石油系ピッチ由来の球形活性炭に酸化及び/又は還元処理を施した例としては、特公昭62−11611号公報(米国特許第4681764号明細書)に記載の球形活性炭を挙げることができる。
酸化及び/又は還元処理が施された球形活性炭としては、直径が0.05〜2mm、好ましくは0.1〜1mm、比表面積が500〜2000m/g、好ましくは700〜1500m/g、細孔半径100〜75000オングストロームの空隙量が0.01〜1mL/gである球形活性炭が好ましい。
特開2002−308785号公報に記載の球形活性炭は、直径が0.01〜1mmであり、BET法により求められる比表面積が700m/g以上であり、細孔直径20〜15000nmの細孔容積が0.04mL/g以上で0.10mL/g未満であり、全酸性基が0.30〜1.20meq/gであり、全塩基性基が0.20〜0.70meq/gである球形活性炭である。特開2002−308785号公報に記載の球形活性炭は、特定範囲の細孔容積を有する。すなわち、細孔直径20〜15000nmの細孔容積が0.04mL/g以上で0.10mL/g未満である。また、本発明においては、全塩基性基が0.20〜1.00meq/gである球形活性炭(特願2002−293906号又は特願2002−293907号参照)も使用することができる。
一方、前記特開平11−292770号公報に記載の球形活性炭は、細孔半径100〜75000オングストロームの空隙容積(すなわち、細孔直径20〜15000nmの細孔容積)が0.1〜1mL/gである。特開2002−308785号公報の記載によれば、細孔直径20〜15000nmの細孔容積を0.04mL/g以上で0.10mL/g未満に調整すると、毒性物質であるβ−アミノイソ酪酸に対する高い吸着特性を維持しつつ、有益物質であるα−アミラーゼに対する吸着特性が有意に低下する。球形活性炭の細孔直径20〜15000nmの細孔容積が大きくなればなるほど消化酵素等の有益物質の吸着が起こりやすくなるため、有益物質の吸着を少なくする観点からは、前記細孔容積は小さいほど好ましい。しかしながら、一方で、細孔容積が小さすぎると毒性物質の吸着量も低下する。従って、経口投与用吸着剤においては、毒性物質の吸着量(T)の有益物質の吸着量(U)に対する比(T/U)、すなわち、選択吸着率が重要である。例えば、球形活性炭の選択吸着率を、DL−β−アミノイソ酪酸(毒性物質)の吸着量(Tb)のα−アミラーゼ(有益物質)の吸着量(Ua)に対する比(Tb/Ua)として評価することができる。すなわち、選択吸着率は、例えば、以下の式:
A=Tb/Ua
(ここで、Aは選択吸着率であり、TbはDL−β−アミノイソ酪酸の吸着量であり、Uaはα−アミラーゼの吸着量である)
によって評価することができる。
特開2002−308785号公報に記載の球形活性炭は、細孔直径20〜15000nmの細孔容積が0.04mL/g以上で0.10mL/g未満の範囲内で優れた選択吸着率を示し、前記細孔容積が0.05mL/g以上で0.10mL/g未満の範囲内で一層優れた選択吸着率を示す。
特開2002−308785号公報に記載の球形活性炭は、直径が0.01〜1mmである。直径は、好ましくは0.02〜0.8mmである。なお、本明細書で「直径がDl〜Duである」という表現は、JIS K 1474に準じて作成した粒度累積線図(平均粒子径の測定方法に関連して後で説明する)において、ふるいの目開きDl〜Duの範囲に対応するふるい通過百分率(%)が90%以上であることを意味する。
特開2002−308785号公報に記載の球形活性炭は、BET法により求められる比表面積(以下「SSA」と省略することがある)が700m/g以上である。SSAが700m/gより小さい球形活性炭では、毒性物質の吸着性能が低くなるので好ましくない。SSAは、好ましくは800m/g以上である。SSAの上限は特に限定されるものではないが、嵩密度及び強度の観点から、SSAは、2500m/g以下であることが好ましい。
更に、特開2002−308785号公報に記載の球形活性炭では、官能基の構成において、全酸性基が0.30〜1.20meq/gであり、全塩基性基が0.20〜0.70meq/gである。官能基の構成において、全酸性基が0.30〜1.20meq/gであり、全塩基性基が0.20〜0.70meq/gの条件を満足しない球形活性炭では、上述した有毒物質の吸着能が低くなるので好ましくない。官能基の構成において、全酸性基は0.30〜1.00meq/gであることが好ましく、全塩基性基は0.30〜0.60meq/gであることが好ましい。その官能基の構成は、全酸性基が0.30〜1.20meq/g、全塩基性基が0.20〜0.70meq/g、フェノール性水酸基が0.20〜0.70meq/g、及びカルボキシル基が0.15meq/g以下の範囲にあり、且つ全酸性基(a)と全塩基性基(b)との比(a/b)が0.40〜2.5であり、全塩基性基(b)とフェノール性水酸基(c)とカルボキシル基(d)との関係〔(b+c)−d〕が0.60以上であることが好ましい。
特開2002−308785号公報に記載の球形活性炭は、例えば、以下の方法によって製造することができる。
最初に、石油ピッチ又は石炭ピッチ等のピッチに対し、添加剤として、沸点200℃以上の2環式又は3環式の芳香族化合物又はその混合物を加えて加熱混合した後、成形してピッチ成形体を得る。なお、前記の球形活性炭は経口投与用であるので、その原料も、安全上充分な純度を有し、且つ品質的に安定であることが必要である。
次に、70〜180℃の熱水中で、前記のピッチ成形体を撹拌下に分散造粒して微小球体化する。更に、ピッチに対して低溶解度を有し、かつ前記添加剤に対して高溶解度を有する溶剤で、ピッチ成形体から添加剤を抽出除去し、得られた多孔性ピッチを、酸化剤を用いて酸化すると、熱に対して不融性の多孔性ピッチが得られる。こうして得られた不融性多孔性ピッチを、更に炭素と反応性を有する気流(例えば、スチーム又は炭酸ガス)中で、800〜1000℃の温度で処理すると、多孔性炭素質物質を得ることができる。
こうして得られた多孔性炭素質物質を、続いて、酸素含有量0.1〜50vol%(好ましくは1〜30vol%、特に好ましくは3〜20vol%)の雰囲気下、300〜800℃(好ましくは320〜600℃)の温度で酸化処理し、更に800〜1200℃(好ましくは800〜1000℃)の温度下、非酸化性ガス雰囲気下で加熱反応による還元処理をすることにより、特開2002−308785号公報に記載の球形活性炭を得ることができる。
前記の製造方法において、特定量の酸素を含有する雰囲気としては、純粋な酸素、酸化窒素又は空気等を酸素源として用いることができる。また、炭素に対して不活性な雰囲気としては、例えば、窒素、アルゴン、又はヘリウム等を単独で用いるか、あるいはそれらの混合物を用いることができる。
前記の原料ピッチに対して、芳香族化合物を添加する目的は、原料ピッチの軟化点を降下させることにより流動性を向上させて微小球体化を容易にすること及び成形後のピッチ成形体からその添加剤を抽出除去させることにより成形体を多孔質とし、その後の工程の酸化による炭素質材料の構造制御並びに焼成を容易にすることにある。このような添加剤としては、例えば、ナフタレン、メチルナフタレン、フェニルナフタレン、ベンジルナフタレン、メチルアントラセン、フェナンスレン、又はビフェニル等を単独で、又はそれらの2種以上の混合物を用いることができる。ピッチに対する添加量は、ピッチ100重量部に対し芳香族化合物10〜50重量部の範囲が好ましい。
ピッチと添加剤との混合は、均一な混合を達成するために、加熱して溶融状態で行うのが好ましい。ピッチと添加剤との混合物は、得られる多孔性球状炭素質の粒径(直径)を制御するため、粒径約0.01〜1mmの粒子に成形することが好ましい。成形は溶融状態で行ってもよく、また混合物を冷却後に粉砕する等の方法によってもよい。
ピッチと添加剤との混合物から添加剤を抽出除去するための溶剤としては、例えば、ブタン、ペンタン、ヘキサン、又はヘプタン等の脂肪族炭化水素、ナフサ、又はケロシン等の脂肪族炭化水素を主成分とする混合物、あるいはメタノール、エタノール、プロパノール、又はブタノール等の脂肪族アルコール類等が好適である。
このような溶剤でピッチと添加剤との混合物成形体から添加剤を抽出することによって、成形体の形状を維持したまま、添加剤を成形体から除去することができる。この際に、成形体中に添加剤の抜け穴が形成され、均一な多孔性を有するピッチ成形体が得られるものと推定される。
なお、添加剤の抜け穴サイズ(すなわち、細孔容積)の制御は、常法、例えば、添加剤の量、ピッチ成形体の微小球体化工程における添加剤の析出温度(冷却温度)を制御することによって実施することができる。また、添加剤の抽出により生成した細孔容積は不融化条件によっても影響を受ける。例えば、不融化処理が強ければ熱処理による熱収縮が小さくなり、添加剤の抽出により得られた細孔が維持されやすい傾向にある。
こうして得られた多孔性ピッチ成形体を、次いで不融化処理、すなわち酸化剤を用いて、好ましくは常温から300℃までの温度で酸化処理することにより、熱に対して不融性の多孔性不融性ピッチ成形体を得ることができる。ここで用いる酸化剤としては、例えば、酸素ガス(O)、あるいは酸素ガス(O)を空気や窒素等で希釈した混合ガスを挙げることができる。
特開2002−308785号公報に記載の球形活性炭が有する各物性値、すなわち、平均粒子径、比表面積、細孔容積、全酸性基、及び全塩基性基は、以下の方法によって測定する。
(1)平均粒子径
球形活性炭についてJIS K 1474に準じて粒度累積線図を作成する。平均粒子径は、粒度累積線図において、横軸の50%の点の垂直線と粒度累積線との交点から、横軸に水平線を引いて交点の示すふるいの目開き(mm)を求めて、平均粒子径とする。
(2)比表面積
連続流通式のガス吸着法による比表面積測定器(例えば、MICROMERITICS社製「Flow Sorb II 2300」)を用いて、球形活性炭試料のガス吸着量を測定し、BETの式により比表面積を計算することができる。具体的には、試料である球形活性炭を試料管に充填し、その試料管に窒素30vol%を含有するヘリウムガスを流しながら以下の操作を行い、球形活性炭試料への窒素吸着量を求める。すなわち、試料管を−196℃に冷却し、球形活性炭試料に窒素を吸着させる。次に、試料管を室温に戻す。このとき球形活性炭試料から脱離してくる窒素量を熱伝導度型検出器で測定し、吸着ガス量(v)とする。
BETの式から誘導された近似式:
=1/(v・(1−x))
を用いて液体窒素温度における、窒素吸着による1点法(相対圧力x=0.3)によりvを求め、次式:
比表面積=4.35×v(m/g)
により試料の比表面積を計算する。前記の各計算式で、vは試料表面に単分子層を形成するのに必要な吸着量(cm/g)であり、vは実測される吸着量(cm/g)であり、xは相対圧力である。
(3)水銀圧入法による細孔容積
水銀ポロシメーター(例えば、MICROMERITICS社製「AUTOPORE 9200」)を用いて細孔容積を測定することができる。試料である球形活性炭を試料容器に入れ、2.67Pa以下の圧力で30分間脱気する。次いで、水銀を試料容器内に導入し、徐々に加圧して水銀を球形活性炭試料の細孔へ圧入する(最高圧力=414MPa)。このときの圧力と水銀の圧入量との関係から以下の各計算式を用いて球形活性炭試料の細孔容積分布を測定する。
具体的には、細孔直径15μmに相当する圧力(0.07MPa)から最高圧力(414MPa:細孔直径3nm相当)までに球形活性炭試料に圧入された水銀の体積を測定する。細孔直径の算出は、直径(D)の円筒形の細孔に水銀を圧力(P)で圧入する場合、水銀の表面張力を「γ」とし、水銀と細孔壁との接触角を「θ」とすると、表面張力と細孔断面に働く圧力の釣り合いから、次式:
−πDγcosθ=π(D/2)・P
が成り立つ。従って
D=(−4γcosθ)/P
となる。
本明細書においては、水銀の表面張力を484dyne/cmとし、水銀と炭素との接触角を130度とし、圧力PをMPaとし、そして細孔直径Dをμmで表示し、下記式:
D=1.27/P
により圧力Pと細孔直径Dの関係を求める。本発明における細孔直径20〜15000nmの範囲の細孔容積とは、水銀圧入圧0.07MPaから63.5MPaまでに圧入された水銀の体積に相当する。
(4)全酸性基
0.05規定のNaOH溶液50mL中に、200メッシュ以下に粉砕した球形活性炭試料1gを添加し、48時間振とうした後、球形活性炭試料をろ別し、中和滴定により求められるNaOHの消費量である。
(5)全塩基性基
0.05規定のHCl溶液50mL中に、200メッシュ以下に粉砕した球形活性炭試料1gを添加し、24時間振とうした後、球形活性炭試料をろ別し、中和滴定により求められるHClの消費量である。
本発明の医薬製剤は、低代謝回転骨症、すなわち、低代謝回転骨に起因する種々の疾病、例えば、腎性骨異栄養症(特には、低代謝回転骨に起因する腎性骨異栄養症)又は無形成骨症の治療又は予防に有用である。前記無形成骨症としては、例えば、保存期慢性腎不全における無形成骨症、あるいは、透析患者での腎性骨異栄養症を挙げることができる。
骨は、骨形成と骨吸収とのバランスをとりながら、全体の骨組織としての代謝が行われている。本明細書において、「低代謝回転骨」とは、骨形成が正常よりも低下しており、それに伴って骨吸収も正常よりも低下している状態を意味する。
また、本明細書において、「無形成骨症」とは、慢性腎不全の進行に伴い骨の代謝(骨代謝回転)が阻害され、腎不全の程度に依存して骨形成が極端に阻害されている状態を意味し、骨形成が全く起きていない状態と、骨形成が相当程度阻害されている状態の双方を含む。
本発明の医薬製剤における有効成分である、球形活性炭(好ましくは粒径0.01〜2mmの球形活性炭)は、それ単独で、あるいは、所望により薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる通常の担体又は希釈剤と共に、低代謝回転骨に起因する種々の疾病の治療又は予防が必要な対象[動物、好ましくは哺乳動物(特にはヒト)]に、有効量で投与することができる。本発明の医薬製剤は、好ましくは経口的に投与される。その投与量は、例えば、対象(哺乳動物、特にはヒト)、年齢、個人差、及び/又は病状などに依存する。例えば、ヒトの場合の1日当たりの投与量は、通常、球形活性炭量として0.2〜20gであるが、症状により、投与量を適宜増減してもよい。また、投与は1回又は数回に分けて行なってもよい。球形活性炭は、そのまま投与してもよいし、活性炭製剤として投与してもよい。球形活性炭をそのまま投与する場合、球形活性炭を飲料水などに懸濁したスラリーとして投与することもできる。
活性炭製剤における剤形としては、例えば、顆粒、錠剤、糖衣錠、カプセル剤、スティック剤、分包包装体、又は懸濁剤などの任意の剤形を採用することができる。カプセル剤の場合、通常のゼラチンカプセルの他、必要に応じ、腸溶性のカプセルを用いることもできる。顆粒、錠剤、又は糖衣錠として用いる場合は、体内で元の微小粒子に解錠されることが必要である。活性炭製剤中の球形活性炭の含有量は、通常1〜100%である。本発明において、好ましい活性炭製剤は、カプセル剤、スティック剤、又は分包包装体である。これらの製剤の場合、球形活性炭は、そのまま容器に封入される。
本発明の医薬製剤は、例えば、実施例で作成した病態モデル動物を用いることにより、その薬理活性を確認することができる。本発明の医薬製剤の評価に使用することのできる病態モデル動物は、例えば、以下の手順に従って作成することができる。
前記病態モデル動物は、低代謝回転骨症(例えば、無形成骨症、又は低代謝回転骨に起因する腎性骨異栄養症)の発症の成因や機序の解析が可能で、前記低代謝回転骨症に対する薬物作用の確認を行うことのできるものであれば特に限定されない。例えば、ラット、マウス、モルモット、ハムスター、ウサギ、イヌ、又はミニブタなどを挙げることができ、特にラットが好ましい。なお、ラットを用いる場合、3〜20週齢、特に8〜12週齢のラットを用いるのが好ましい。
病態モデル動物の作成における甲状腺及び副甲状腺の摘出は、例えば、前記動物の頚部顎下腺の部分を中心に正中線を切開し、気管に貼りついている甲状腺(副甲状腺は甲状腺上にあり、一体化している)を剥ぎ取ることにより行なう。なお、前記切除の代わりに、電気メス又はレーザなどで焼切し、あるいは、アルコール又はホルマリンなどによるタンパク質変性により機能を喪失させることもできる。なお、可能ならば甲状腺は残し、副甲状腺のみを摘出又は機能喪失させることが好ましい。甲状腺及び副甲状腺の摘出を行なった動物を、以下、TPTxと表記する。例えば、ラットを用いた場合、TPTxラットのように記載する。
前記病態モデル動物における、甲状腺ホルモンの血液中における正常な生理量は、ラットを例に取ると、甲状腺ホルモンで、T3:0.1〜1ng/mL,T4:1〜100ng/dL(好ましくは、T3:0.3〜0.8ng/mL,T4:10〜30ng/dL)であり、副甲状腺ホルモンで、生理量として、0〜1000pg/mL、好ましくは0〜150pg/mL(ELISA法による)である。
また、甲状腺ホルモンは、緩衝液又は生理食塩水の水溶液などの形態で投与することができ、副甲状腺ホルモンも、緩衝液又は生理食塩水の水溶液などの形態で投与することができる。なお、病態モデル動物作成後、血中濃度を、甲状腺ホルモンで、T3:0.1〜1ng/mL,T4:1〜100ng/dL(好ましくは、T3:0.3〜0.8ng/mL,T4:10〜30ng/dL)であり、副甲状腺ホルモンで、生理量又はそれ以下(0〜1000pg/mL)で、好ましくは0〜150pg/mL(ELISA法による)に維持する。
腎臓の一部切除は、例えば、次のように行なうことができる。ラットを背位に保定し、右下腹部に麻酔薬、例えば、ペントバルビタール酸ナトリウム[ネンブタール:大日本製薬(株)]を50mg/Kg.BW投与する。次いで、麻酔下、右腎摘出部及び切除を行なう左腎側の体毛を剃り、右腎摘出のため、右側面を術者に向けて保定し、切開部位を消毒の後胸部肋骨端約10mm脇の腹壁を肋骨に沿って約15mm切開する。右腎と腎周囲の脂肪及び副腎とを分離し、失血による腎重量の変化を防ぐ目的で腎血管及び尿管を二重結紮し、右腎を摘出する。右腎の湿重量を測定し、左腎を切除する際の基本重量とする。切開した腹壁及び皮膚を縫合する。
ラットの左側面を術者に向けて保定し、切開部位を消毒の後胸部肋骨端約10mm脇の腹壁を肋骨に沿って約15mm切開する。左腎と腎周囲の脂肪及び副腎とを分離し、止血の目的で腎動脈及び腎静脈を5−0の縫合糸を用いて挟み、腎切除用の型に入れ、型に沿って腎臓を切除する。切除の割合は、右腎重量と左腎重量が等しいと仮定し、摘出した右腎重量を基に算出する。腎切除後、切除面にトロンビン(SIGMA社製)2500Unit/mLを滴下し、止血を行う。
左腎を腹腔内に戻し、ペニシリン(GIBUCO社製)を一、二滴注入し、腹壁と皮膚を縫合する。左右の縫合部分には希ヨウドチンキ[吉田製薬(株)]を塗り、消毒を施す。モデル動物作成後2日目に体重、Cr(血清中のクレアチニン)、及びBUN(血清中の尿素窒素)を測定し、バラツキの大きいものを除外する。モデル動物作製後2〜6週目に、体重、Cr、BUN、Cr排泄量、Ccr(クレアチニンクリアランス)、蛋白排泄量、血圧、及び腎切除率を基に、群間で偏りの無いように仕分けを行なう。
次に、腎動脈分枝結紮法について説明する。左腎動脈分枝結紮の手順は、例えば、次のとおりである。ラットを背位に保定し、右下腹部にペントバルビタール酸ナトリウム[ネンブタール:大日本製薬(株)]を50mg/Kg.BW投与し、麻酔をかける。麻酔下、左腎側の体毛をバリカンで剃る。左側面を術者に向けて保定し、切開部位を消毒の後胸部肋骨端約10mm脇の腹壁を肋骨に沿って約15mm切開する。リングピンセットで切開部右側の腹筋層を持ち、左手で腎を軽く抑えながら体外に出す。小ハサミで腎周辺の脂肪を剥離する。マイクロサージャリーピンセットで血流を止め、残存させる腎動脈分枝を決定する。マイクロサージャリーピンセットを腎動脈と静脈の境界に挿入し、剥離する。残存させる腎動脈以外の動脈を7−0の縫合糸を用いて結紮する。剥離した腎臓周囲の脂肪組織を取り除き、腎臓を腹腔内に戻す。ペニシリン(GIBUCO社製)を一、二滴注入し、腹壁と皮膚を縫合する。左側面の縫合部分に希ヨウドチンキ[吉田製薬(株)]を塗り、消毒を施す。
右腎門部結紮の手順は、例えば、次のとおりである。腎門部結紮は、左腎分枝結紮から1週経過後に行う。ラットを背位に保定し、右下腹部にペントバルビタール酸ナトリウム[ネンブタール:大日本製薬(株)]を50mg/Kg.BW投与し、麻酔をかける。麻酔下、右腎側の体毛をバリカンで剃る。右側面を術者に向けて保定し、切開部位を消毒の後胸部肋骨端約10mm脇の腹壁を肋骨に沿って約15mm切開する。リングピンセットで切開部右側の腹筋層を持ち、左手で腎を軽く抑えながら体外に出す。右手人差し指と親指で皮膜の一部を破り、腎臓を皮膜から出す。鉗子で腎門部を止め、その下を1−0の縫合糸を用いて縛る。鉗子を外した後、右腎を腹腔内に戻し、ペニシリン(GIBUCO社製)を一、二滴注入し、腹壁と皮膚を縫合する。右側面の縫合部分に希ヨウドチンキ[吉田製薬(株)]を塗り、消毒を施す。
モデル作製後2日目に、体重、Cr、及びBUNを測定し、バラツキの大きいものを除外する。モデル作製後2〜6週目に、体重、Cr、BUN、Cr排泄量、Ccr、蛋白排泄量、及び血圧を基に群間で偏りの無いように仕分けを行なう。
なお、切除する腎臓の大きさは必要に応じて適宜決めることができるが、ラットを用いて病態モデル動物を作成する場合、例えば、左腎臓2/3及び右腎臓全部(5/6Nxと表記する)、左腎臓1/2及び右腎臓全部(3/4Nx)、又は右腎臓全部(1/2Nx)となるように切除することが好ましい。
本発明の医薬製剤の薬理活性評価は、例えば、以下の手順に従って実施することができる。
まず、作成した病態モデル動物を、骨形成率の有意な低下が起きるまで飼育する。病態モデル動物としてラットを使用する場合、腎臓の一部切除又は腎動脈分枝結紮から2〜8週間、特に4〜6週間経過後に、評価を開始するのが好ましい。なお、対照群として、腎臓をそのままにして、副甲状腺のみを摘出、あるいは、甲状腺及び副甲状腺を摘出した動物(TPTx)、あるいは、摘出していない動物を用いることができるが、TPTxで、腎臓切除と同じ開腹処置を行った、TPTx−sham群を用いるのが好ましい。
なお、前記評価方法では、対照群及び病態モデル動物に高カルシウム食を与える。通常、飼料中のカルシウム含有量が0.4〜2%、好ましくは1〜2%となるようにする。
【実施例】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
調製実施例1:球形活性炭の調製
石油系ピッチ(軟化点=210℃;キノリン不溶分=1重量%以下;H/C原子比=0.63)68kgと、ナフタレン32kgとを、攪拌翼のついた内容積300Lの耐圧容器に仕込み、180℃で溶融混合を行った後、80〜90℃に冷却して押し出し、紐状成形体を得た。次いで、この紐状成形体を直径と長さの比が約1〜2になるように破砕した。
0.23重量%のポリビニルアルコール(ケン化度=88%)を溶解して93℃に加熱した水溶液中に、前記の破砕物を投入し、攪拌分散により球状化した後、前記のポリビニルアルコール水溶液を水で置換することにより冷却し、20℃で3時間冷却し、ピッチの固化及びナフタレン結晶の析出を行い、球状ピッチ成形体スラリーを得た。
大部分の水をろ過により除いた後、球状ピッチ成形体の約6倍重量のn−ヘキサンでピッチ成形体中のナフタレンを抽出除去した。このようにして得た多孔性球状ピッチを、流動床を用いて、加熱空気を通じながら、235℃まで昇温した後、235℃にて1時間保持して酸化し、熱に対して不融性の多孔性球状酸化ピッチを得た。
続いて、多孔性球状酸化ピッチを、流動床を用い、50vol%の水蒸気を含む窒素ガス雰囲気中で900℃で170分間賦活処理して多孔性球状活性炭を得、更にこれを流動床にて、酸素濃度18.5vol%の窒素と酸素との混合ガス雰囲気下で470℃で3時間15分間、酸化処理し、次に流動床にて窒素ガス雰囲気下で900℃で17分間還元処理を行い、球形活性炭を得た。
得られた球形活性炭の特性は、SSAが1300m/gであり、細孔容積が0.08mL/gであり、平均粒子径が350μmであり、全酸性基が0.67meq/gであり、全塩基性基が0.54meq/gであった。なお、前記細孔容積は、水銀圧入法により求めた細孔直径20〜15000nmの範囲の細孔容積に相当する。
参考例1:慢性腎不全における無形成骨症病態モデル動物の作成
10週齢SD雄ラットに甲状腺及び副甲状腺摘出術(TPTx)を行い、血中濃度が正常濃度に保たれる量(生理量)の甲状腺ホルモン(T4:1〜10μg/Kg、週3回、皮下投与)と副甲状腺ホルモン(0.1μg/kg/hr、浸透圧ポンプによる持続的皮下投与)を投与した。
なお、副甲状腺ホルモン(PTH)は、小型の浸透圧ポンプを動物の皮下に入れ、体液がこのポンプを濡らすと、ポンプから薬液が押し出されるという様式(Infusion Pump法)で、時間当たりの一定の流出量となるように投与した。従って、1日当たりの投与量は、1日当たりの流出量中の薬剤の量として計算し、薬液の濃度を決めた。
その後、以下のとおり腎臓を切除し、腎不全病態モデル動物を作製した。
5/6Nx:左腎臓2/3及び右腎臓全部を摘出
3/4Nx:左腎臓1/2及び右腎臓全部を摘除
1/2Nx:右腎臓全部を摘除
本参考例では、正常ラット、TPTxラット(甲状腺及び副甲状腺摘除のみ)、並びに前記5/6Nx、3/4Nx、及び1/2Nxのそれぞれのラットでの骨形成について検討した。各群は、それぞれ10匹ずつとした。手術後、6週間飼育した後、骨形成の変化を、骨の石灰化部を蛍光標識する試薬カルセインを投与量8〜15mg/kgで中1週間おいて2回、皮下又は腹腔内投与し、屠殺後摘出した脛骨の非脱灰薄切標本により、画像処理による骨形態計測を実施し、骨形成率を計測することにより評価した。
下記の血清生化学検査から、作成した病態モデルラットの手術後6週目における腎機能は、5/6Nxが最も重篤で、次に3/4Nxであり、1/2Nxが最も軽度であった。

次いで、この手術後6週目の動物の脛骨における骨形成を比較した。結果を図1に示す。図1における記号「*」は、正常ラットに対して、p<0.05であることを示す。
その結果、図1に示すとおり、病態モデル動物の腎不全の程度が重篤になるにつれて、骨形成率が有意に低下していくことが明らかになった。従って、慢性腎不全の進行に伴い、骨代謝回転が阻害されて低下し、無形成骨症を発病することは明らかであり、本参考例において、低代謝回転骨症(特に、無形成骨症、又は低代謝回転骨に起因する腎性骨異栄養症)の病態モデル動物が作成可能であることが判明した。
実施例1:病態モデル動物を用いた球形活性炭の有効性評価
参考例1の無形成骨症の病態モデル動物を使用して副甲状腺ホルモンの治療効果を検討した。
実験は、参考例1で作成したTPTx−5/6Nxのラットを用い、骨形成率が有意に低下することが認められる施術後6週目から、調製実施例1で調製した球形活性炭を4g/kg投与となるように飼料中に混ぜ、混餌投与した。各実験群は、それぞれ10匹ずつとした。投与4週目の骨形成について、参考例1と同様な方法により評価検討した。
結果を図2に示す。図2における記号「*」は、TPTx−5/6Nxラットに対して、p<0.05であることを示す。図2に示すとおり、骨形成率は対照群に比べ、球形活性炭を投与することにより、症状が改善された。
【産業上の利用可能性】
本発明の医薬製剤によれば、低代謝回転骨に起因する種々の疾病、例えば、腎性骨異栄養症(特には、低代謝回転骨に起因する腎性骨異栄養症)又は無形成骨症(より好ましくは、保存期慢性腎不全における無形成骨症、あるいは、透析患者での腎性骨異栄養症)を治療又は予防することができる。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
球形活性炭を有効成分とする、低代謝回転骨症の治療又は予防剤。
【請求項2】
低代謝回転骨症が、腎性骨異栄養症又は無形成骨症である、請求項1に記載の低代謝回転骨症治療又は予防剤。
【請求項3】
無形成骨症が、保存期慢性腎不全における無形成骨症、あるいは、透析患者での腎性骨異栄養症における無形成骨症である、請求項2に記載の低代謝回転骨症治療又は予防剤。
【請求項4】
球形活性炭の粒径が0.01〜2mmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の低代謝回転骨症の治療又は予防剤。
【請求項5】
球形活性炭と、薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる担体又は希釈剤とを含有する、低代謝回転骨症の治療又は予防用医薬組成物。
【請求項6】
低代謝回転骨症が、腎性骨異栄養症又は無形成骨症である、請求項5に記載の低代謝回転骨症の治療又は予防用医薬組成物。
【請求項7】
無形成骨症が、保存期慢性腎不全における無形成骨症、あるいは、透析患者での腎性骨異栄養症における無形成骨症である、請求項6に記載の低代謝回転骨症の治療又は予防用医薬組成物。
【請求項8】
球形活性炭の粒径が0.01〜2mmである、請求項5〜6のいずれか一項に記載の低代謝回転骨症の治療又は予防用医薬組成物。
【請求項9】
球形活性炭を、低代謝回転骨症の治療又は予防が必要な対象に、有効量で投与することを含む、低代謝回転骨症を治療又は予防する方法。
【請求項10】
低代謝回転骨症が、腎性骨異栄養症又は無形成骨症である、請求項9に記載の低代謝回転骨症を治療又は予防する方法。
【請求項11】
無形成骨症が、保存期慢性腎不全における無形成骨症、あるいは、透析患者での腎性骨異栄養症における無形成骨症である、請求項10に記載の低代謝回転骨症を治療又は予防する方法。
【請求項12】
球形活性炭の粒径が0.01〜2mmである、請求項9〜11のいずれか一項に記載の低代謝回転骨症を治療又は予防する方法。
【請求項13】
球形活性炭の、低代謝回転骨症の治療若しくは予防剤又は低代謝回転骨症の治療若しくは予防用医薬組成物を製造するための使用。
【請求項14】
低代謝回転骨症が、腎性骨異栄養症又は無形成骨症である、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
無形成骨症が、保存期慢性腎不全における無形成骨症、あるいは、透析患者での腎性骨異栄養症における無形成骨症である、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
球形活性炭の粒径が0.01〜2mmである、請求項13〜15のいずれか一項に記載の使用。

【国際公開番号】WO2004/089384
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505265(P2005−505265)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004839
【国際出願日】平成16年4月2日(2004.4.2)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】