説明

低収縮性メタ型全芳香族ポリアミド繊維およびその製造方法

【課題】 高温下での熱収縮特性に優れた低収縮性メタ型全芳香族ポリアミド繊維を提供すること。
【解決手段】 メタ型全芳香族ポリアミド重量を基準として、塩素含有率が63重量%以上の後塩素化ポリ塩化ビニルを1〜20重量%配合し、かつ弛緩熱処理を施して最大熱収縮率を2%以下とした低収縮性メタ型全芳香族ポリアミド繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮特性の改善されたメタ型全芳香族ポリアミド繊維に関するものである。さらに詳しくは、後塩素化ポリ塩化ビニルを配合した、高温の炎や火の玉に接触した際の収縮を抑制することができる低収縮性メタ型全芳香族ポリアミド繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジハライドとから製造される全芳香族ポリアミドは耐熱性および難燃性に優れていることは周知であり、また、これらの全芳香族ポリアミドはアミド系極性溶媒に可溶で、該重合体溶液から乾式紡糸、湿式紡糸、半乾半湿式紡糸などの方法により繊維となし得ることもよく知られている。
【0003】
かかる全芳香族ポリアミドのうち、ポリメタフェニレンイソフタルアミドで代表されるメタ型全芳香族ポリアミド(以下メタアラミドと称することがある)の繊維は、耐熱・難燃性繊維として特に有用なものである。これらの特性を発揮して、例えばフィルター、電子部品等の産業用途や、耐熱性、防炎性、耐炎性が重視される防護衣等の防災安全衣料用途に用いられている。
【0004】
従来ガラス繊維、石綿繊維、フェノール樹脂繊維等が主に用いられていた防護衣は、溶鉱炉、電気炉、焼却炉等の高温炉前で着用する防護衣、消火作業に従事する人のための消防衣料、高温火花を浴びる溶接作業用の溶接防護衣、引火性の強い薬品を取り扱う人のための難燃作業服等として幅広く使用されている。
【0005】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維はその優れた耐熱性、難燃性、自己消化性に加えて一般の糸質が衣料用繊維、例えば綿、羊毛等の天然繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリル等の合成繊維によく似ているため、加工性、着心地、洗濯性、衣裳性等の面で、従来使用されていたガラス繊維、石綿繊維、フェノール樹脂繊維、金属箔コーティング素材より防護衣素材として優れていることが認められている。しかしながら、さらに防護衣素材としての使用用途を拡大するためには、高温の炎または火の玉に接触した際の素材の収縮、さらには穴あき現象を抑制することが望まれている。
【0006】
従来、全芳香族ポリアミド繊維の耐炎性・低収縮性を改善するため、有機リン化合物、含リンフェノール樹脂、ハロゲン化合物等を添加する方法が提案されており、ハロゲン原子含有の有機リン化合物を配合して低収縮性を改善する方法も提案されている(特許文献1)。しかし、これらは低分子量の有機化合物であるため、繊維成型加工時に繊維中に含有されず一部が排出されてしまう、また防護衣素材としての用途拡大を図る上で、十分な低収縮性が発現されていない等の問題点を有する。
【0007】
また別の方法として、ハロゲン基を含有する高分子として塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体を配合して染色性および耐光性を向上させる方法が提案されている(特許文献2)。これは、ポリ塩化ビニルとポリメタフェニレンイソフタルアミドとの相溶性が低いため、アクリロニトリルを共重合して相溶性を改善するというもので、かかる方法により熱収縮安定性が改善されるかについての記載は一切ない。
【0008】
【特許文献1】特開昭53−122817号公報
【特許文献2】特開昭51−93955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記を背景になされたもので、その目的は、高温下での熱収縮特性に優れた低収縮性メタ型全芳香族ポリアミド繊維およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らの研究によれば、上記の第1の目的は、「メタ型全芳香族ポリアミド重量を基準として、塩素含有率が63重量%以上の後塩素化ポリ塩化ビニルを1〜20重量%含有するメタ型全芳香族ポリアミド繊維であって、その最大熱収縮率が2%以下である低収縮性メタ型全芳香族ポリアミド繊維。」により達成できることが見いだされた。
【0011】
また別の目的は、「上記の低収縮性メタ型全芳香族ポリアミド繊維を製造するに際し、(1)メタ型全芳香族ポリアミド重量を基準として塩素含有率が63重量%以上の後塩素化ポリ塩化ビニルを1〜20重量%含有するメタ型全芳香族ポリアミドのアミド系極性溶媒溶液を、水、アミド系極性溶媒と水、または、アミド系極性溶媒と無機塩と水からなる凝固浴中に吐出して凝固せしめ、(2)該凝固糸を水、アミド系極性溶媒と水、または、アミド系極性溶媒と無機塩と水からなる湿式延伸浴中で2.0〜10倍に延伸し、(3)次いで該延伸糸を温度100〜500℃で0.5〜1.0倍に弛緩熱処理する低収縮性メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。」により達成できることが見いだされた。
【発明の効果】
【0012】
本発明の低収縮性全芳香族ポリアミド繊維は、塩素化率が63重量%以上の後塩素化ポリ塩化ビニルが特定量配合されているので高温での熱収縮性が極めて低く、耐熱性に優れた各種繊維製品を提供することができる。特に防護衣料用途への素材展開について極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明におけるメタ型全芳香族ポリアミドは、メタ型芳香族ジアミンとメタ型芳香族ジカルボン酸ハライドとを原料として、例えば溶液重合や界面重合させることにより製造されるポリアミドであるが、本発明の目的を阻害しない範囲内で、例えばパラ型等の他の共重合成分を共重合したものであってもよい。
【0014】
上記メタ型芳香族ジアミンとしては、メタフェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフエニルスルホン等、およびこれらの芳香環にハロゲン、炭素数1〜3のアルキル基等の置換基を有する誘導体、例えば2,4−トルイレンジアミン、2,6−トルイレンジアミン、2,4−ジアミノクロルベンゼン、2,6−ジアミノクロルベンゼン等を使用することができる。なかでも、メタフェニレンジアミンまたはメタフェニレンジアミンを70モル%以上含有する上記の混合ジアミンが好ましい。
【0015】
またメタ型芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、イソフタル酸クロライド、イソフタル酸ブロマイド等のイソフタル酸ハライド、およびこれらの芳香環にハロゲン、炭素数1〜3のアルコキシ基等の置換基を有する誘導体、例えば3−クロルイソフタル酸クロライド、3−メトキシイソフタル酸クロライドを使用することができる。なかでも、イソフタル酸クロライドまたはイソフタル酸クロライドを70モル%以上含有する上記の混合カルボン酸ハライドが好ましい。
【0016】
上記ジアミンとジカルボン酸ハライド以外で使用し得る共重合成分としては、芳香族ジアミンとしてパラフェニレンジアミン、2,5−ジアミノクロルベンゼン、2,5−ジアミノブロムベンゼン、アミノアニシジン等のベンゼン誘導体、1,5−ナフチレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルケトン、4,4’−ジアミノジフェニルアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン等が挙げられ、一方、芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、テレフタル酸クロライド、1,4−ナフタレンジカルボン酸クロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸クロライド、4,4’−ビフェニルジカルボン酸クロライド、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸クロライド等が挙げられる。これらの共重合成分の共重合量は、あまりに多くなりすぎるとメタ型全芳香族ポリアミドの特性が低下しやすいので、好ましくはポリアミドの全酸成分を基準として20モル%以下が適当である。
【0017】
好ましく使用されるメタ型全芳香族ポリアミドは、全繰返し単位の80モル%以上がメタフェニレンイソフタルアミド単位からなるポリアミドであり、特にポリメタフェニレンイソフタルアミドが好ましい。
【0018】
かかるメタ型全芳香族ポリアミドの重合度は、30℃の濃硫酸を溶媒として測定した固有粘度(IV)が1.3〜3.0の範囲が適当である。
【0019】
次に本発明で用いられる後塩素化ポリ塩化ビニルは、従来公知の方法でポリ塩化ビニルを後塩素化することにより得られたものであって、後塩素化に使用するポリ塩化ビニルは懸濁重合で製造したものであっても乳化重合で製造したものであってもよい。
【0020】
かかる後塩素化ポリ塩化ビニルは、その塩素含有率が63重量%以上であることが肝要である。該塩素含有率が63重量%未満の場合には、その詳細な理由は未だ不明であるが、得られる繊維の熱収縮特性が低下して本発明の目的を達成することができなくなる。なお、該塩素含有率は高い程熱収縮特性は良好となるが、あまりに塩素含有率が高くなりすぎると後塩素化ポリ塩化ビニル自体が構造的に不安定となるので、安定に存在し得る範囲内で高塩素含有率の後塩素化ポリ塩化ビニルを用いることが好ましい。通常、該塩素含有率の上限は %程度である。
【0021】
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、上記のメタ型全芳香族ポリアミドと後塩素化ポリ塩化ビニルとの組成物からなるが、メタ型全芳香族ポリアミド重量を基準として該後塩素化ポリ塩化ビニルを1〜20重量%含有している必要がある。該後塩素化ポリ塩化ビニルの含有量が1重量%未満の場合には、本発明の目的とする熱収縮特性の改善効果が認められない。一方、20重量%を超える場合には、メタ型全芳香族ポリアミド繊維が本来有する優れた特性が悪化するので好ましくない。
【0022】
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、上記の要件に加えて、その最大熱収縮率が2%以下、好ましくは1.5%以下である必要がある。該最大熱収縮率が2%を越える場合には、最終的に得られる繊維製品の耐熱性が不十分となり、高温の炎や火の玉に接触すると穴あきなどの問題が発生しやすくなり、本発明の目的を達成することができなくなる。なお、ここでいう最大熱収縮率とは、以下の方法により測定されるものである。すなわち、総繊度を約200dtexとし、熱機械分析装置を用いて測定試料長10mm、負荷荷重0.5cN、昇温速度2℃/分で25℃から450℃まで昇温し、各温度での繊維試料初期長に対する収縮率を測定する。得られた温度/収縮率のグラフより収縮率が最大となる点を求め、最大熱収縮率とする。
【0023】
上述に説明した本発明の低収縮性メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、例えば以下の方法により製造することができる。すなわち、(1)メタ型全芳香族ポリアミド重量を基準として塩素含有率が63重量%以上の後塩素化ポリ塩化ビニルを1〜20重量%含有するメタ型全芳香族ポリアミドのアミド系極性溶媒溶液(以下、紡糸用ドープと称することがある)を、水、アミド系極性溶媒と水、または、アミド系極性溶媒と無機塩と水からなる凝固浴中に吐出して凝固せしめ、(2)該凝固糸を水、アミド系極性溶媒と水、または、アミド系極性溶媒と無機塩と水からなる湿式延伸浴中で2.0〜10倍に延伸し、(3)次いで該延伸糸を温度200〜400℃で0.5〜1.0倍に弛緩熱処理することにより製造することができる。
【0024】
ここでアミド系極性溶媒溶液に使用される溶媒としては、該メタ型全芳香族ポリアミドおよび後塩素化ポリ塩化ビニルを溶解および/または分散させることができれば任意のものを使用することができる。例えばN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルフォルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルイミダゾリジノン等を挙げることができ、なかでもNMPまたはDMAcが該溶液の安定性の観点から好ましい。
【0025】
また紡糸用ドープ中のメタ型全芳香族ポリアミドの濃度(以下、ポリマー濃度と称することがある)は、15〜25重量%、特に15〜22重量%の範囲が適当である。該濃度が25重量%を超える場合には、該ポリアミドの溶解性が不十分となって正常な紡糸をすることが困難になる。一方15重量%未満の場合には、湿式紡糸時の凝固性が低下して安定に紡糸することが困難になる。
【0026】
なお、上記の紡糸用ドープには、本発明の目的を阻害しない範囲で水、塩化カルシウム等の無機塩を含んでいてもよい。このような水や無機塩は必要に応じて添加することもあるが、溶液調製プロセス(例えば重合体製造プロセス)で必然的に生成するものであってもかまわない。ここで水の含有量は、メタ型全芳香族ポリアミド重量を基準として高々70重量%であり、好ましくは50重量%以下、特に15重量%以下である。また、無機塩の含有量は該メタ型全芳香族ポリアミド重量を基準として45重量%程度(溶液重合で通常副生される塩化カルシウムの量)以下である。
【0027】
メタ型全芳香族ポリアミド、後塩素化ポリ塩化ビニルおよび溶媒からなる紡糸用ドープの調整方法はにんいであり、例えば以下の方法を例示することができる。
(A)メタ型全芳香族ポリアミドの溶液に後塩素化ポリ塩化ビニルを加える方法
(B)メタ型全芳香族ポリアミドの溶液と後塩素化ポリ塩化ビニルの溶液とを混合する方法
(C)後塩素化ポリ塩化ビニルの溶液にメタ型全芳香族ポリアミドを添加し溶解する方法
【0028】
なお、上記メタ型全芳香族ポリアミドの溶液としては、溶液重合等で得られたメタ型全芳香族ポリアミドを含むアミド系極性溶媒溶液をそのまま用いてもよいし、溶液重合、界面重合等で得られたメタ型全芳香族ポリアミドを含む溶液から該メタ型全芳香族ポリアミドを単離し、これをアミド系極性溶媒に溶解したものであってもよい。
【0029】
上記の如く調整された紡糸用ドープを凝固浴中に吐出する場合、紡糸口金としては多ホールのものを用いることができる。ホール数としては約50000個以下、好ましくは500〜30000個の範囲が適当である。
【0030】
本発明における凝固液は、水、アミド系極性溶媒と水(HO)との2成分、または、はアミド系極性溶媒と水(HO)と無機塩との3成分から実質的に構成される。この凝固液において、アミド系極性溶媒としては、メタ型全芳香族ポリアミドを溶解し、水と良好に混和するものであれば任意のものを使用することができるが、特にN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドを好適に用いることができる。なかでも、溶媒の回収等を考慮すると、紡糸用ドープ中のアミド系極性溶媒と同じものが好ましい。
【0031】
これらの適当な混合比は、紡糸用ドープの条件および凝固液の種類によって異なるが、実質的にアミド系極性溶媒と水とから構成される凝固液においては、アミド系極性溶媒の割合が30〜70重量%の範囲が適当である。一方、実質的にアミド系極性溶媒と無機塩と水とから構成される凝固液では、アミド系極性溶媒+無機塩の割合は30〜70重量%の範囲が適当である。
【0032】
凝固浴の適当な温度範囲は、凝固液組成と密接な関係があるが、20〜135℃の範囲が適当である。好ましくは、凝固液中のアミド系極性溶媒の割合が15重量%以下の場合には30〜90℃の範囲、アミド系極性溶媒の割合が15〜25重量%の場合には40〜125℃、アミド系極性溶媒の割合が30〜70重量%の場合には20〜70℃の範囲が適当である。
【0033】
凝固糸を凝固浴から引出す速度は5〜25m/分の範囲が適当であるが、生産性を向上させる観点からは10〜25m/分の範囲とするのが好ましい。凝固液中への凝固糸の浸漬時間は0.1〜30秒の範囲が適当であり、該浸漬時間が短くなりすぎると糸条物の形成が不十分となり断糸が発生するおそれがある。
【0034】
凝固液から引き出された凝固糸は、必要に応じて洗浄工程、可塑化工程を経た後に湿式延伸工程で延伸され、さらに必要に応じて洗浄工程、熱処理工程を経た後に弛緩熱処理が施される。この際、可塑化浴はアミド系極性溶媒と水、または、アミド系極性溶媒と無機塩と水から構成される。
【0035】
洗浄工程は湿式延伸工程の後のみとしても構わないが、湿式延伸される前に洗浄される場合を例として説明する。洗浄工程は20〜95℃の温度で多段で行なうのが好ましい。該洗浄浴に補充される水量および該水洗水中の溶媒濃度、並びに洗浄浴中への繊維の浸漬時間は、好ましくは水洗工程を出る繊維中の残留溶媒量がポリマー対比5〜40重量%の範囲となるように制御することが好ましい。この値が5重量%未満の場合には、延伸時の単糸切れが発生しやすくなり、一方、40重量%を越える場合には、水洗工程を出る繊維中の残留溶媒量を下げることが困難となる。
【0036】
洗浄工程で残留溶媒量および無機塩の量が調整された繊維は、湿式延伸工程で2.0〜10倍、特に2.0〜6.0倍に延伸しながら、残留する溶媒および塩を洗浄除去する。なお、湿式延伸としてアミド系極性溶媒と水、または、アミド系極性溶媒と無機塩と水から構成される可塑化浴で可塑延伸を行わない場合には、通常2.0〜5.0倍の範囲で延伸することが好ましい。
【0037】
延伸された繊維は、必要に応じて再度洗浄工程にて残留する溶媒および塩をさらに洗浄除去する。この際の洗浄工程は20〜95℃の温度にて行うのが好ましい。次いで、必要に応じて、一旦100℃以上の温度で乾燥する。
【0038】
乾燥された繊維は、引続いて弛緩熱処理工程にて100〜500℃の温度で0.5倍〜1.0倍に弛緩熱処理される。この際の弛緩熱処理は、熱板上、乾熱雰囲気下もしくは蒸気雰囲気下のいずれの条件で行ってもよい。この際、蒸気中には水以外にアミド系極性溶媒が含まれてもよい。該熱処理温度が500℃を超える場合には、得られる繊維は激しく劣化し、着色し、場合によっては断糸する場合があり、一方、100℃未満の場合には、繊維が十分に弛緩されず、本発明の目的とする繊維の低収縮化は達成できない。なお、熱板にて弛緩処理する場合には、200〜400℃、特に250〜350℃の範囲の温度が好ましい。また、乾熱雰囲気下の場合には250〜500℃、蒸気雰囲気下の場合には100〜400℃が好ましい。
【0039】
以上の如くして得られる後塩素化ポリ塩化ビニルを含有するメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、必要に応じてトウとして収缶したり、巻き取ったり、直接後工程に送り必要な場合は捲縮を付与した後にカットして短繊維としたりして後工程に提供される。
【実施例】
【0040】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中における各物性値は下記の方法で測定した。
<固有粘度(IV)>
ポリマーを97%濃硫酸に溶解し、オストワルド粘度計を用い30℃で測定した。
<繊度>
JIS−L−1015に準じ、測定した。
<強度、伸度>
JIS−L−1015に準じ、試料長20mm、初荷重0.44mN/dtex、伸張速度20mm/分で測定した。
<最大熱収縮率>
測定には(株)島津製作所製の熱機械分析装置TMA−50を用いた。繊維サンプルを200dtexに分繊し、これをチャックに挟み測定試料とした。この時の測定試料長は10mmとした。測定条件は25℃〜450℃までの昇温速度2℃/分の等温昇速とし、繊維の繊維試料に0.5cNの負荷荷重を与えた状態で各温度での試料繊維初期長に対する収縮率を測定した。得られた各温度の収縮率結果より、収縮率が最大となる温度での収縮率を求め、どれを最大熱収縮率とした。
【0041】
[実施例1]
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)4.0重量部に塩素含有率が69重量%である後塩素化塩化ビニルを1.0重量部添加し、攪拌して透明なポリマー溶液Aを得た。
特公昭47−10863号公報記載の方法に準じた界面重合法により製造したIV=1.9のポリメタフェニレンイソフタルアミド粉末20.0重量部を、−10℃に冷却したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)73.0重量部中に懸濁させ、スラリー状にした後、60℃まで昇温して溶解させ、透明なポリマー溶液Bを得た。
【0042】
得られたポリマー溶液Aとポリマー溶液Bを混合攪拌後、さらにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)2.0重量部を加え攪拌してポリメタフェニレンイソフタルアミド20.0重量部、重合度470-塩素含有率69%の後塩素化ポリ塩化ビニル1.0重量部、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)79.5重量部のポリマー溶液Cを得た。
【0043】
このポリマー溶液を85℃に加温して紡糸原液とし、孔径0.07mm、孔数3000の紡糸口金から85℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。この凝固浴の組成は、塩化カルシウムが40重量%、NMPが5重量%、残りの水が55重量%であり、浸漬長(有効凝固浴長)100cmにて糸速7.0m/分で通過させた後、いったん空気中に引き出した。この凝固糸条を第1〜第3水性洗浄浴にて水洗し、この際の総浸漬時間は50秒とした。なお、第1〜第3水性洗浄浴としては温度30℃の30%NMP水溶液を用いた。次に、この洗浄糸条を70℃の温水中にて2.4倍に延伸し、引続き70℃の温水中に48秒浸漬した。次いで、表面温度130℃のローラーに巻き回して乾燥処理した後、表面温度340℃の熱板にて0.90倍に弛緩熱処理して、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。
【0044】
得られた繊維は、繊度1.85dtex、強度4.21cN/dtex、伸度29.3%であり、最大熱収縮率は330℃にて1.0%であった。
【0045】
[実施例2〜3、比較例1〜2]
実施例1において、後塩素化ポリ塩化ビニルの含有量を表1記載のとおり変更する以外は実施例1と同様の条件で紡糸、延伸、弛緩熱処理した。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0046】
[実施例4、比較例3]
実施例1において、後塩素化ポリ塩化ビニルの塩素含有率を表1記載のとおり変更する以外は実施例1と同様の条件で紡糸、延伸、弛緩熱処理した。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0047】
[比較例4]
実施例1において、湿式延伸に変えて表面温度340℃の熱板にて1.75倍に延伸する以外は、実施例1と同様の条件で紡糸・弛緩熱処理した。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0048】
[比較例5]
実施例1において、後塩素化ポリ塩化ビニルに変えて重合度470のポリ塩化ビニルをもちいる以外は、実施例1と同様の条件で紡糸、延伸、弛緩熱処理した。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の低収縮性全芳香族ポリアミド繊維は、高温での熱収縮特性が極めて良好なので、高温の炎や火の玉に接触しても穴あきなどの問題が発生しがたい繊維製品を提供することができ、特に防護衣料用途の素材として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタ型全芳香族ポリアミド重量を基準として、塩素含有率が63重量%以上の後塩素化ポリ塩化ビニルを1〜20重量%含有するメタ型全芳香族ポリアミド繊維であって、その最大熱収縮率が2%以下であることを特徴とする低収縮性メタ型全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項2】
請求項1記載の低収縮性メタ型全芳香族ポリアミド繊維を製造するに際し、(1)メタ型全芳香族ポリアミド重量を基準として塩素含有率が63重量%以上の後塩素化ポリ塩化ビニルを1〜20重量%含有するメタ型全芳香族ポリアミドのアミド系極性溶媒溶液を、水、アミド系極性溶媒と水、または、アミド系極性溶媒と無機塩と水からなる凝固浴中に吐出して凝固せしめ、(2)該凝固糸を水、アミド系極性溶媒と水、または、アミド系極性溶媒と無機塩と水からなる湿式延伸浴中で2.0〜10倍に延伸し、(3)次いで該延伸糸を温度100〜500℃で0.5〜1.0倍に弛緩熱処理することを特徴とする低収縮性メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【請求項3】
アミド系極性溶媒が、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミドおよびジメチルホルムアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒である請求項2記載の低収縮性メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。