説明

低周波超音波による急速冷凍野菜及び果物の解凍品質の改良方法

素材となる果物や野菜を選択、洗浄、切断して、熱湯による酵素不活性化、冷却、冷凍・超音波補助凍結、包装を行う急速冷凍野菜及び果物の急速冷凍工程において、超音波補助凍結を採用することを特徴とする低周波超音波による急速冷凍野菜及び果物の解凍品質の改良方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明に係る低周波超音波による急速冷凍野菜及び果物の解凍品質の改良方法は、野菜及び果物食品の加工技術の分野に属し、野菜及び果物の急速冷凍加工及び超音波技術に関する。
【背景技術】
【0002】
食品冷凍保存は、食品の品質を良好に保持するのみならず、食品の汚染を回避することができる効率的な食品保存方法として、国内外で広く適用されている。しかし、如何に食品を有効に凍結させ、また食品を凍結・解凍させた後でも良好な品質を保持させることができるかは、広く注目される主な課題の一つである。
【0003】
冷凍野菜及び果物食品の品質は冷凍技術に制限され、冷凍速度及び最終冷凍温度により野菜及び果物食品の品質を最適にすることができない。冷凍工程において、氷の比熱容量が水より約9%大きいので、凍結する際に巨大な冷凍応力が発生し、冷凍品組織に不可逆的な変質や破壊が生じることになる。熱抵抗の存在により、冷凍工程に長い時間が必要となり、特に、氷晶が比較的大きな氷粒子に成長するので、最大氷晶形成域である0℃〜5℃を通過する時間が長すぎる。外部により凝固潜熱を転移する凍結工程が瞬間的に終了することが不可能で、生成された氷晶の分布にばらつきがあり、氷晶粒子も比較的大きいので、凍結品の品質がまだ徹底的に改良されていない。
【0004】
さらに、野菜及び果物の含水率が一般的な冷凍食品より高いので、一般的な急速冷凍の冷却工程において氷晶が多く生成され、氷晶体が大きくなりすぎて、細胞質と細胞壁とが分離し、組織構造がひどく破壊されることになる。また、解凍する際にジュースが多く流失し、数種の酵素システムが活性化され、褐変・黄変現象が発生しやすくなる。
【0005】
超音波は食品工業において主に次の3つの面で適用されている。先ずは、食品に対して非破壊検査を行うこと。次は、超音波による抽出の補助、超音波による洗浄、超音波による食品加工の促進、例えば、超音波による生物化学反応コースの促進など。最後は、超音波により処理対象の組織及び構造を破壊すること、例えば、システムの均一化、殺菌、酵素不活性化などの処理。周如金などは、周波数25kHz、電力300Wの超音波により強化してくるみ油の抽出を行った結果、時間が短く、温度が低く、品質がよいという特徴をもっていることを発見した。華南理工大学の天然溶液研究室の音化学研究グループが超音波破壁技術について検討し実験した結果、この方法ではその他の従来方法に比べると、時間が短縮され、操作が簡単になり、破壁率が30%以上も向上されることが明らかになった。Riera Eなどは、超音波で超臨界CO流体を強化して杏の実の種核から油脂を抽出することについて検討した。その結果から、超臨界COに超音波を付与する場合は、超音波を付与しない場合に比べると、同じ抽出率では、杏仁油の抽出時間が30%短縮され、同じ抽出時間では、抽出率が20%向上されることが分かった。
【0006】
ActonとMorris(特許文献1,米国特許)は1992年に、25kHzのパルス超音波により、冷凍された蔗糖溶液に10min当たり30s作用するようにしたが、固液界面における枝状氷晶の先端が砕けたとともに、小さな氷晶体が凍結されていない液体の間に分散されて氷晶核となったことが認められた。氷晶体が砕けたことにより、蔗糖溶液における氷晶体のサイズが小さくなった。50mm以上の直径の氷晶は32%しかないが、超音波処理が行われなかった冷凍結晶が77%もある。
【0007】
Bing LiとDa−Wen Sunは2003年に、25KHz、電力15.85Wの超音波を浸漬冷凍と組み合わせる技術により、ポテトチップスを冷凍した(当該電力は、超音波エネルギー変換器を介して実際の電力を、超音波が媒体を伝播する時の実際の作用電力に換算したものである)。冷凍時間は、一般的な浸漬冷凍に比べると著しく短縮された。ポテトチップスの冷凍切片から見ると、氷晶のサイズや分布による細胞への機械的損害が低減された。
【0008】
Maria Patrick Aなどは2004年に、超音波によりオリーブ油の結晶を補助し、結晶時間が短縮され、オリーブ油の結晶品質が改良された。しかし、例えば、脂肪のような素材は、味が非常に変わりやすい。特に、超音波が導入された場合、超音波によるキャビテーション効果で、フリーラジカルが発生しやすく、この場合、不飽和脂肪や油脂が極めて容易に酸化され、変質される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第99/20420号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、浸漬冷凍と超音波とを組み合わせた急速冷凍野菜及び果物の加工方法を利用し、種々の野菜及び果物の急速冷凍加工に用いられる、低周波超音波による急速冷凍野菜及び果物の解凍品質の改良方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、素材となる果物や野菜を選択、洗浄、切断して、熱湯による酵素不活性化、冷却、冷凍・超音波補助凍結、包装を行う急速冷凍野菜及び果物の急速冷凍工程において、超音波補助凍結を採用し、
上記冷凍・超音波補助凍結は、温度が−20〜−18℃である二次冷媒を冷凍媒体として浸漬・冷凍処理を行い、素材となる果物や野菜と二次冷媒との重量/体積の比が(l:30〜1:40)g/mLであり、野菜及び果物食品の中心温度が0℃以下に下がると、超音波周波数20〜24KHz、電力40〜80W、超音波パルスモード(すなわち、超音波の作用時間が全体時間に占める比率)40%〜60%、全体時間0.8〜2minという条件で超音波補助凍結を行い、また45〜50%のグリコール水溶液を二次冷媒として用い、二次冷媒の温度が−20℃、反応する素材と液体との比が1:10になることを特徴とする低周波超音波による急速冷凍野菜及び果物の解凍品質の改良方法である。冷却システムは主に送風急速冷凍機であり、急速冷凍装置においてファンで強制的に対流を実現することにより、箱内における定温、または、プログラムによる降温・昇温を実現することができる。マイクロウェーブにより解凍された後、試料の自由液滴の比率が3%〜5%である。
【0012】
急速冷凍野菜及び果物製品の包装は、−5℃より低い低温環境において急速に包装する。
【0013】
超音波による熱効果も無視できない問題である。超音波電力、超音波作用時間、及び超音波パルスモードは超音波による熱効果に正比例し、超音波周波数は超音波の熱効果に反比例する。従って、超音波補助浸漬凍結の超音波プロセスのパラメータは、適当に選択しなければならない。
【0014】
低周波強力超音波が食品の凍結工程に利用されると、食品の凍結品質及び凍結速度を著しく向上させることができる。超音波技術を食品の凍結プロセスと組み合わせることにより、超音波による物理的効果(キャビテーション効果)のため、氷晶核の形成を促進するだけでなく、超音波のキャビテーション効果による微泡が水の不均一核形成の氷晶核となることができ、食品中の水の核形成温度が変化され、また、氷晶の急速核形成が促進され、食品の過冷却度が低減される。このような核形成技術はその他の核形成技術に比べると、作用がより直接で、試料に接触する必要がなく、試料を汚染することがないなどの利点がある。
【0015】
低周波強力超音波は比較的大きい氷晶体を砕く機能がある。また、キャビテーション効果によるマイクロガス化作用や、超音波により液体媒体に生じた渦巻きのような激しい攪拌は、急速冷凍食品の物質移動、熱伝達を加速させて、食品の凍結速度を加速させることができ、形成された氷晶が小さく、分布が均一になり、植物細胞への損害が弱くなるので、冷凍品の品質がより良く得られる。これで、急速凍結が実現されるのみならず、冷凍品の品質が有効に向上し、本当の「急速冷凍」が実現される。
【0016】
低周波超音波補助冷凍技術は、周波数適用範囲が20〜25KHzである。低周波超音波を既存の冷凍機器と組み合わせることにより、超音波が種々の冷凍方式を補助することができる。超音波補助冷凍の形式は主に2つの種類に分けられる。その一つは直接に作用すること。例えば、浸漬冷凍方式と組み合わせること。冷凍機器と組み合わせる場合、超音波プローブヘッドを二次冷媒に直接に作用させてもよく、または、超音波エネルギー変換器を浸漬冷凍のステンレス製外槽の壁に設置してもよい。もう一つは超音波を送風冷凍器などの冷凍機器と組み合わせて、空気伝導を利用すること。後者の超音波による効果は、前者のような組み合わせ方法より低い。超音波補助冷凍技術は主に、低脂肪素材、例えば、果物や野菜素材、蔗糖、MSG(monosodium glutamate;味の素(登録商標))などの結晶溶液に適用されて、冷凍野菜及び果物食品の全体的品質が改善され、すなわち、解凍後の野菜及び果物が栄養成分を最大限に保留し、ジュースの流失を低減させることができ、また、蔗糖などの溶液の結晶時間が短縮され、所望の結晶形が得られ、結晶後の緻密性が向上し、その他の結晶種類の添加が低減される。超音波は物理的に作用するものであるので、その他の結晶種類より、微生物の制御において一定の優位性があり、さらに環境保護に寄与し、健康に良いのである。
【0017】
本発明は、低周波超音波を浸漬冷凍方法と組み合わせて急速冷凍を行い、超音波が二次冷媒に直接作用し、超音波によるキャビテーション効果の促進作用がさらに著しくなり、また、浸漬冷凍方式における二次冷媒の熱伝導、物質移動の効率が著しく高くなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、野菜及び果物の浸漬凍結工程において超音波処理のプロセスを組み合わせることにより、急速冷凍野菜及び果物の解凍品質が改善され、また、冷凍時間が短縮され、初期形状が良く、ランニングコストが低いなどの特徴をもっている。
【0019】
超音波補助浸漬冷凍法は、急速冷凍野菜及び果物の冷凍速度を最大限に向上させるほか、省エネルギーの目的を達成することができる。従来の一般的な冷凍技術における冷凍時間が長いという欠点やエネルギー消費が大きいという欠点が解消される。この方法は、急速冷凍の効果が優れ、作用時間が短く、急速冷凍食品の品質が良く、ランニングコストが低いという特徴を有する。
【0020】
要するに、背景技術に比べると、本発明は、超音波技術で冷凍技術を補助することにより素材の冷凍時間を低減させ、凍結野菜及び果物食品の全体的品質を向上させる。解凍後の自由液滴(冷凍試料の保水力)は5%以下となるものである。参照試料(超音波がかけられていない一般的な浸漬冷凍試料)に対し、栄養成分であるビタミンCの品質採点が2倍近く向上する。ビタミンC及びクロロフィルの保持率は85%以上に達する。野菜及び果物の硬度はその新鮮な野菜及び果物の80%以上である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施例1:超音波による枝豆の浸漬冷凍の補助方法
枝豆40gを選択、洗浄、熱湯による酵素不活性化(100℃、1分間)して、氷水で2時間冷却し、予冷された試料を金属反応容器に入れ、二次冷媒である50%のグリコール水溶液1500mLを加入し、超音波を組み合わせて枝豆の浸漬・凍結処理を行った。超音波処理の条件は、周波数20〜24KHz、電力80W、パルスモードが50%、全体時間1min、二次冷媒の温度が−20℃、枝豆の中心温度が−18℃になることを凍結終点とするものであった。冷凍時間が3.1minであった。試料は低温で包装された(温度−5℃、電力40W)。最終試料を必要に応じて高密度ポリエチレン袋(99.99%純度)で包装し、急速冷凍枝豆製品を得た。−18℃にして低温で冷凍貯蔵した。マイクロウェーブによる解凍後、冷凍枝豆の自由液滴比率が3%以下になる。
【0022】
実施例2:超音波によるジャガイモの浸漬冷凍の補助方法
素材となるジャガイモ50gを選択、洗浄し、皮削り、70mm×15mm×15mmの細長い形に切り、熱湯による酵素不活性化して(100℃、1分間)、氷水で2時間冷却し、予冷された試料を金属反応容器に入れ、二次冷媒である50%のグリコール水溶液150OmLを加入し、熱電対で温度制御を行った。ポテトチップスの中心温度が0℃以下に下がった後、超音波を組み合わせて浸漬凍結処理を行った。超音波処理の条件は、周波数25KHz、電力40W、パルスモードが60%、全体時間2min、二次冷媒の温度−20℃、ポテトチップスの中心温度−18℃になることを凍結終点とするものであった。冷凍時間は14minであった。試料は低温で包装された(温度−5℃)。最終試料を必要に応じて高密度ポリエチレン袋(99.99%純度)で包装し、急速冷凍ポテトチップス製品を得た。−18℃にして低温で冷凍貯蔵した。マイクロウェーブによる解凍後、冷凍ジャガイモ試料の自由液滴比率が4%以下になる。
【0023】
実施例3:超音波によるキーウィフルーツ切れの浸漬冷凍の補助方法
素材となるキーウィフルーツ45gを選択し、皮を削り、厚さ1cmのキーウィフルーツ切れに切り、また皮を削り、中心部を取り除き、熱湯による酵素不活性化して(100℃、15s)、低温の着色防止液に入れる同時に着色防止と予冷を2時間行い、予冷された試料を金属反応容器に入れ、二次冷媒である50%のグリコール水溶液1500mLを加入し、熱電対で温度制御を行った。キーウィフルーツ切れの中心温度が0℃以下に下がった後、超音波を組み合わせて浸漬凍結処理を行った。超音波処理の条件は、周波数25KHz、電力40W、パルスモードが40%、全体時間2min、二次冷媒の温度−20℃、キーウィフルーツ切れの中心温度−18℃になることを凍結終点とするものであった。冷凍時間は7.5minであった。試料は低温で包装された(温度−5℃)。最終試料を必要に応じて高密度ポリエチレン袋(99.99%純度)で包装し、急速冷凍キーウィフルーツ切れ製品を得た。−18℃にして低温で冷凍貯蔵した。超音波により氷晶の形成を加速させたので、結晶による細胞への破壊が低減され、キーウィフルーツの栄養成分及び色が良好に保持された。参照試料(超音波がかけられていない一般的な浸漬冷凍試料)に対し、栄養成分であるビタミンCの品質採点が2倍近く向上した。マイクロウェーブによる解凍後、冷凍キーウィフルーツ試料の自由液滴比率が5%以下になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素材となる果物や野菜を選択、洗浄、切断して、熱湯による酵素不活性化、冷却、冷凍・超音波補助凍結、包装を行う急速冷凍野菜及び果物の急速冷凍工程において、超音波補助凍結を採用し、
前記冷凍・超音波補助凍結は、温度が−20〜−18℃である二次冷媒を冷凍媒体として浸漬・冷凍処理を行い、素材となる果物や野菜と二次冷媒との重量/体積の比が(l:30〜1:40)g/mLであり、野菜及び果物食品の中心温度が0℃以下に下がると、超音波周波数20〜24KHz、電力40〜80W、超音波パルスモード40%〜60%、全体時間0.8〜2minという条件で超音波補助凍結を行い、また45〜50%のグリコール水溶液を二次冷媒として用い、マイクロウェーブによる解凍後の試料の自由液滴の比率が3%〜5%になることを特徴とする低周波超音波による急速冷凍野菜及び果物の解凍品質の改良方法。
【請求項2】
急速冷凍野菜及び果物製品の包装は、−5℃より低い低温環境において急速に包装することを特徴とする請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2010−538663(P2010−538663A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−525179(P2010−525179)
【出願日】平成19年11月23日(2007.11.23)
【国際出願番号】PCT/CN2007/003325
【国際公開番号】WO2009/049448
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(509332408)海通食品集▲団▼股▲ふん▼有限公司 (1)
【出願人】(509332419)江南大学 (2)
【Fターム(参考)】