説明

低減した変色を示す植物材料の同定方法、このように同定した植物および低減した変色を示す市販の作物の生産のための同定した植物の使用

本発明は、対照植物または植物部分と比較して低減または消失した損傷誘発性表面変色を示す植物または植物部分の試験方法であって:遺伝子変異を示す植物群から、特に遺伝子バンクから植物または植物部分を得ること;所望により、植物または植物部分に損傷表面を作成すること;植物または植物部分またはそこに作成された損傷表面をインキュベートして、その中またはその上に変色を生じさせること;植物または植物部分の内部またはその上の変色を観察すること;観察された変色を、対照植物または植物部分において観察された変色と比較して、植物または植物部分が変色を示すか否か、あるいは対照植物または植物部分と比較して低減した変色を示すか否かを評価すること;および、変色を示さないか、または対照植物または植物部分と比較して低減した変色を示す植物または植物部分を、低減した損傷誘発性表面変色形質を持つ植物として同定することを含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対照植物と比較して低減した変色、特に損傷誘発性表面変色を示すものに存在する植物材料の同定方法に関する。
さらに、本発明は、このように同定された植物材料、改良におけるその使用およびそれにより得られた植物に関する。
【背景技術】
【0002】
農産物の収穫および続く加工、包装および貯蔵は、一般的に最終製品の質の急速な低下を誘導する植物材料の強い損傷応答を引き起こす。この点における質は、新鮮さのような顧客により認識される、色、味、臭い、みずみずしさのようないくつかの特性を意味する。
【0003】
加工に対する農作物の応答は、しおれ、変色および老化を生じる、物理的、生化学的および生理学的性質の組み合わせであり得る。加工された農作物の質を改善するために、加工の結果としての劣化が低レベルである植物種の開発が、ますます重要になるだろう。
【0004】
レタスは、現在、加工、すなわち、カットし、洗浄され、包装された形態での顧客への提供が増加している生鮮製品の1つである。このようなすぐに食べられる製品は、顧客の利便性に貢献するが、加えて、異なる葉または他の種の野菜の混合物のような新たな製品が開発されている。
【0005】
レタスの加工および貯蔵の間に生じる最も重要な課題は、損傷による表面変色である。この障害は、カットした葉の損傷表面にピンクまたは褐色の変色として現れる。特に、中肋部位は、この点で強い染色を示し得る。ピンクまたは褐色の変色を有する包装されたレタスは、劣化した製品として顧客に認識されるので、このネガティブな品質形質は、加工の間にコントロールすべき最も重要な形質である。
【0006】
制御された環境下での包装のような収穫後の処理は、変色を防止でき、カットされ、包装されたレタスの質を改善するが、遺伝的解決法が望ましい。その理由は、これらの処理に拘わらず、依然として、例えば包装の破損などが生じることにより製品の本質的な部分は損なわれる。また、開封後の寿命も非常に短い。そして、重要なことに、コストが高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、改善した加工形質、特に低減した表面変色を有するレタスの改良は、レタス加工産業にとって最も重要なものである。同じことが、他の植物材料、例えばチコリおよびナスの加工にも言える。
【0008】
かくして、本発明の態様は、収穫後の劣化の傾向が小さい作物の生産において用いるための、低減した表面変色を有する植物材料の迅速かつ効率的な同定を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
損傷誘発性変色プロセスは、病原体、害虫または物理的因子(風、雨、干ばつ、低温、熱等)により生じる表面の損傷によるダメージに対して植物が自身を守るための手段である。したがって、自然の選抜による損傷誘発性変色の自然変異は存在しないと考えられる。外的脅威に対して自身を守ることができない植物は、弱く、したがって、このような脅威から生き延びるチャンスが少ない。
【0010】
それにもかかわらず、意外にも、本発明によれば、遺伝子バンク材料が、変色、特に損傷誘発性変色に有意な変異を含んでいることを見出した。本発明者等は、対照植物または植物部分と比較して変色が低減または消失した植物または植物部分の試験方法であって:
a)遺伝子変異を示す植物群から、特に遺伝子バンクから植物または植物部分を得ること;
b)所望により、植物または植物部分に損傷表面を作成すること;
c)植物または植物部分またはそこに作成された損傷表面をインキュベートして、その中またはその上に変色を生じさせること;
d)植物または植物部分の内部またはその上の変色を観察すること;
e)観察された変色を、対照植物または植物部分において観察された変色と比較して、植物または植物部分が変色を示すか否か、あるいは対照植物または植物部分と比較して低減した変色を示すか否かを評価すること;および
f)変色を示さないか、または対照植物または植物部分と比較して低減した変色を示す植物または植物部分を、低減した損傷誘発性表面変色形質を持つ植物として同定すること;
を含む方法を用いることにより、これを示した。
【0011】
この方法において、変色は、内在性基質の変化の結果である。かかる変色は、所定の時間、所定の環境下で、植物または植物部分をインキュベーションすることにより、自然に生じる。この場合の変色は、損傷誘発性である。本発明は、特に、天然に生じる酵素的ピンク化および褐変反応に関する。本発明の方法は、この反応を示さない、または対照と比較して低減した反応を示す植物を同定することを目的とする。
【0012】
別方として、変色に関する変異は、対照植物または植物部分と比較して表面変色が低減または消失した植物または植物部分の試験方法であって:
a)遺伝子変異を示す植物群から、特に遺伝子バンクから植物または植物部分を得ること;
b)その中または上に変色を生じさせることができる色素に変換され得る基質と植物または植物部分をインキュベートすること;
c)植物または植物部分の内部またはその上の変色を観察すること;
d)観察された変色を、対照植物または植物部分において観察された変色と比較して、植物または植物部分が変色を示すか否か、あるいは対照植物または植物部分と比較して低減した変色を示すか否かを評価すること;および
e)変色を示さないか、または対照植物または植物部分と比較して低減した変色を示す植物または植物部分を、低減した変色形質を持つ植物として同定すること;
を含む方法を用いることにより、検出することができる。
【0013】
第2の方法において、変色は、植物において反応が起こった場合に現れる着色基質に変換され得る外的に加えた基質の変換により生じる。かかる着色反応は、損傷誘発性であってもなくてもよい。例えば、損傷を受けていない種子皮においても生じる。本発明のスクリーニング法は、この反応を示さないか、あるいは対照と比較して低減した反応を示す植物を同定することを意図する。
【0014】
低減した変色形質、特に低減した損傷誘発性表面変色形質を有する適当な植物材料がこれらの方法の1つで同定されると、本発明に従って、かかる植物材料は、この形質を市販の作物に導入するために用いられる。このように改善された作物もまた、本発明の一部である。
【0015】
かくして、本発明は、試験された植物材料の特定源の使用に基づく。着色基質は、変色に関してほとんど変異がない。意外にも、反対に、遺伝子バンクで見出された遺伝資源、例えば受託植物が、変色、特に損傷表面誘発性表面変色の有意な変異を有することが見出された。受託植物は、特定のローカリティーを有する種の一の標本である。受託植物は、例えば、遺伝子バンクまたは研究所に貯蔵されている。
【0016】
本発明の好ましい具体例において、上記した変色アッセイは、作物種において天然に生じる遺伝的変異のスクリーニングの効果的な道具として用いられる。本発明は、例えば、Lactuca sativa種由来のレタス遺伝資源ならびにLactuca seriola、Lactuca virosa等の関連種を試験するのに特に有用である。
【0017】
また、本発明は、葉または茎を目的に栽培される作物(エンダイブ、チコリ)、根または根茎を目的に栽培される作物(ジャガイモ、サツマイモ、根セロリ)、果実部分を目的に栽培される作物(ナス、リンゴ、バナナ、アボガド、モモ、西洋梨、アンズ、マンゴー)、花または花部分を目的に栽培される作物(チョウセンアザミ、ガーベラ、キク)およびキノコに用いることができる。
【0018】
変色、特にレタスの損傷誘発性表面変色を検出する他のアッセイ、例えば異なる成熟段階での加工レタスの視覚的評価は、この点において同様に用いることができる。
【0019】
このようなアッセイを用いることにより、特に葉の損傷誘発性表面変色の有意な変異を有する異なるLactuca種の受託植物が同定される。本発明の方法により同定された低減または消失した損傷誘発性変色を有する個々の植物は、それらの収穫後加工特性、特に損傷表面変色に関して改善されたレタス植物の開発のための改良に用いられる。かかる品種は、コンビニエンス市場に特に有用である。
【0020】
加えて、ナスの遺伝子バンク受託のスクリーニングによっても、低減した変色を有する受託植物が明らかになる。低減した変色を有するナスの開発におけるこれらの受託植物の使用もまた、本発明の一部である。
【0021】
本発明は、さらに、低減した損傷誘発性表面変色形質の源としての、本発明の方法により同定された植物の使用に関する。この源は、有利な交配における親植物としてまたはこの形質の基礎となる遺伝物質のドナーとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、Lactuca受託植物の葉片ピンク化アッセイの結果を示す。
【図2】図2は、低減した変色を有するアイスバーグレタス(07V.67586)および通常の変色を有する培養品種「シルビナス(Silvinas)の写真を示す。
【図3】図3は、フレッシュカットナスの褐色化応答の結果を示す。
【図4】図4は、ナスのカットスライスおよび褐色化応答の結果を示す。
【図5】図5は、4mMのL−DOPAを含有する溶液中で種子をインキュベーションした場合のナス種子の黒色変色を示す。
【図6】図6は、種子とPPO基質L−DOPAとのインキュベーションに基づく、種子−関連PPO活性のばらつきに関するナスの遺伝物質のスクリーニングを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
改良による、植物、最終的には低減した損傷表面変色を有する植物の品種の開発は、最初に、この形質に関する遺伝的変異の同定を必要とする。本発明は、この最初の同定ステップ、およびこの形質を市販の作物に導入するさらなるステップに関する。この所望の形質を与える第1の親植物を一旦同定すると、植物品種の開発は当業者にとって容易となる。
【0024】
損傷誘発性表面変色は、カットまたは他の機械的な損傷された場合の、損傷の治癒および病原性侵襲に対する防御を目的とする植物の応答である。
【0025】
損傷応答は、局所的ならびに全身的に現れる物理的な傷に対する植物の複雑な生物学的応答である。局所応答は、主に、表面のカット時またはその直後での細胞の局所壊死により生じる損傷表面を閉じることを目的とする。多くの植物種において、植物体と環境の間の有効な新規絶縁壁を誘導する損傷表面で木質化またはコルク化が観察され得る。
【0026】
これらの可視的影響に加えて、呼吸またはエチレン産生の増加のような他の応答が誘発されることが知られている。生化学レベルでの研究により、損傷が、とりわけポリフェノールまたはリグニンの産生を必要とするフェニルプロパノイド経路の誘導を誘発し得ることが示されている。
【0027】
このパスウェイに関する主要な酵素は、損傷時の少なくとも1つのPALアイソフォームの遺伝子発現の誘導により増強される、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)である。この応答は、ポリフェノールオキシダーゼ(PPO)により酸化されるポリフェノールの形成を誘発する。PPOは色素体に存在し、放出され、損傷部位で活性化される。ポリフェノールの酸化は、高反応性キノンの形成を誘発する。これらのキノンはアミノ酸または蛋白質と反応し、ピンク、褐色変色または時には黒色変色を誘発する。
【0028】
レタスにおいて、この応答は同様に観察することができる。カットレタスの葉をプラスチックバックで空気中で貯蔵した場合、カット表面は、損傷表面でピンク色の区画が進行し始め、これはやがて、長期貯蔵後に褐色に変化する。詳細な生化学アッセイにより、この応答が、酸化され、その後の反応を誘発し、損傷表面でピンクまたは褐色変色として最終的に観察され得る、ポリフェノールのデボノ合成を必要とすることが示された。
【0029】
開発されてきた収穫後処理およびレタス加工産業に現在適用されている処理は、この特定の反応に反対に作用する。本発明は、損傷誘発性変色に対する収穫後の処理を減少または除くために適用され得る、この特定の応答に対抗する遺伝子学的手法を提供する。
【0030】
改善された加工の特性を有する作物の開発のために、本発明により、損傷カット作物、特にレタスの収穫後の変色に関する特徴的な表面変色の効果的な検出を可能にする方法が用いられる。
これらの方法は、同時係属出願のPCT/EP2007/000226およびPCT/EP2007/000230に記載されている。
【0031】
好ましい具体例において、レタス植物の葉片を採取し、湿った濾紙の間でインキュベートする。インキュベーションにおいて、加工レタスの損傷誘発性ピンク化および褐色化の特徴である、ピンクの変色が進行するだろう。したがって、かかる方法により、低減した損傷表面変色を有し、それ故に改善された加工特性を有する遺伝的変異の存在を検出するために、遺伝的変異性が存在するレタスの群の非常に効果的なスクリーニングが可能になる。
【0032】
このような個々の植物の同定の成功により、これらは、改善されたレタス植物の改良、および最終的に特に加工に有用なレタスの品種の開発に用いることができる。
【0033】
低減した損傷誘発性表面変色形質を有する植物を同定するために、天然の遺伝子変異を利用する。天然の遺伝子変異は、その種の生殖質内に生じ、複製および胚芽細胞のDNA内の保持の間のエラーの結果である、DNAの一次構造における変異である。
【0034】
群におけるこのような遺伝的多様性の出現は、所定の遺伝的背景ならびに環境により強いられる選抜における自然突然変異の適応度により測定される。
【0035】
レタスに関して、この自然変異は、Lactuca sativa種に存在するが、他のLactuca種、例えばLactuca serriola、Lactuca salignaまたはLactuca virosaには存在しない。かくして、本発明により同定された植物は、それらの種においても同定され得、低減した損傷誘発性表面変色を有するレタスの生産に用いることができる。天然の種間を隔てるバリアが絶対的なものではなく、必要に応じて、当業者に公知の技術、例えば胚救出により解消されることが、その根本的な理由である。
【0036】
天然の変異は、遺伝子バンクのような会社または協会に種子の形態で存在する植物材料にも生じる。低減した損傷表面変色を有する変異の存在を確認するために、植物材料を、通常の条件、例えば温室または野外で育てる。若い段階の植物、例えば葉片を個々の植物から回収し、上記の方法の1つを用いて変色の存在を確認する。損傷誘発性変色に関して低減したこのレタスまたは他の作物の同定のアプローチは、作物を、成熟させ、収穫し、加工し、加工品質を評価する方法に対して、より有効である。
【0037】
加えて、栽培されたレタスの野生類は、比較分析があまり知られていない完全に異なる方法で開発され得る。ピンク表面変色として現れる葉片応答が、収穫後変色の兆候であることが見出されたので、本発明の方法は、レタスまたは他の作物の収穫後の特性を改善するのに用いることができる生化学的反応に基づいて、初期発育段階で植物を同定することができる。
【0038】
このアプローチは、より簡単で、より信頼性のある異なる植物タイプの比較を可能にする。意外にも、Lactuca属において、損傷誘発性変色についての有意な変異が観察され得ることを見出した。
【0039】
本発明により見出された損傷誘発性変色のレベルが低減した、または変色が存在しないレタス植物は、加工産業の要求に応じる品種を開発するための通常の改良プログラムに用いることができる。このような改良プログラムにおいて、損傷誘発性変色の低減したレベルと、病原体および害虫耐性、抽薹およびチップバーンがない等の栽培レタスの他の所望の特性を組み合わせるために、育種家は、通常のよく知られた改良法、例えばQTL−マッピング、マーカー利用選抜、および戻し交配を用いることができる。
【0040】
本発明は、さらに、低減した損傷誘発性表面変色を示す植物の生産方法であって、工程:
a)低減した損傷誘発性表面変色を有する第一の親植物を、第2の親植物と交配させて、F1種子を得ること;
b)F1種子からF1植物を育て、F1植物を自殖させて、F2−種子を得ること;
c)損傷誘発性表面変色のレベルについて、少なくとも第2の親植物のレベルよりも低いF2植物を低減した損傷誘発性表面変色形質を有する植物として選抜すること;
を含む方法に関する。低減した損傷誘発性表面変色形質を有するこれらの植物およびその子孫は、本発明の植物である。
【0041】
好ましくは、第2の親植物は、農学的に許容される特性を有する培養親植物、特にレタスである。
好ましい具体例において、第1の親は、表2に記載の植物から選択される。
【0042】
第2の親はいずれのレタスであってもよいが、好ましくは、栽培レタス、例えばアイスバーグレタス シルビナスRZである。
本明細書において、「低減した損傷誘発性表面変色形質」と称される形質は、実施例1に記載のピンク化試験のスコアが3未満、好ましくは2未満、より好ましくは1未満である場合に植物に存在する。
【0043】
天然の群において見出されたが、これはまた突然変異により誘発され得るものであることが示されている。このことは、これまでにない低レベルの損傷誘発性変色を生み出す異なる変異源を組み合わせることを可能にする。低減した損傷誘発性変異の異なる源の組み合わせは、それらの交配により行うことができ、1種またはそれ以上のハイブリッド種子が得られる。それらの種子のなかの1つからのハイブリッド植物が、より低減した損傷誘発性変色を示していれば、それは実際に直接用いることができる。
【0044】
いずれの場合にも、ハイブリッド植物は、自殖して、F2−群を与える。このF2−群は、対立性(すなわち、両方の源が同じ遺伝子座で対立性の低減した変色を与える)についての試験に用いることができる。対立性の欠如している場合、正常、高レベルのF2−個体、ならびに両親よりもより低レベルの損傷表面変色を有するF2−個体を見出すことが可能である。後者のF2−植物は、両親からの低減した変色に関する対立遺伝子の組み合わせを有し、さらなる改良のために用いることができる。
【0045】
低減した変色に関する対立遺伝子の組み合わせ方法は、分子マーカー、例えばAFLPs、SFPs等によりサポートされている。異なるレベルの低減した変色を区別するためのさらなる方法、例えば貯蔵、成長した植物のカット葉の視覚的評価を、異なる源からの対立遺伝子の組み合わせの結果得られた損傷表面変色が高度に低減した症物を同定するために用いることができる。
【0046】
本発明を、単に説明目的のための実施例においてさらに説明する。実施例において、参考として以下の図を用いる:
【0047】
図1:Lactuca受託植物の葉片ピンク化アッセイ。異なる程度のピンク変色として現れる応答のばらつきが、受託植物間で観察される。
図2:低減した変色を有するアイスバーグレタス(07V.67586)および通常の変色を有する培養品種「シルビナス(Silvinas)の写真。
図3:フレッシュカットナスの褐色化応答。左側に、カットしてから室温での貯蔵後数時間の果実組織を示す。右側に、室温で24時間インキュベートした果実組織を示す。種子の褐色化を明確に観察することができる。
【0048】
図4:ナスのカットスライスおよび褐色化応答。左側に、室温で24時間、50mMのmesバッファー(pH=5.5)でインキュベートした2つのハーフスライスを示す。右側に、10mMのL−システインを添加した以外同条件でインキュベートしたハーフスライスを示す。
図5:4mMのL−DOPAを含有する溶液中で種子をインキュベーションした場合のナス種子の黒色変色。ウェル1:陰性対照(バッファーのみ)、ウェル2−6:4mMのL−DOPA、ウェル3〜6:それぞれ、0.1、1.0、5.0および10mML−システインの添加。
【0049】
図6:種子とPPO基質L−DOPAとのインキュベーションに基づく、種子−関連PPO活性のばらつきに関するナスの遺伝物質のスクリーニング。カラム2、4および6のウェルは、4mMのL−DOPAを含有し、一方、カラム1、3および5は、バッファーのみを含有する。ナス種子の形態において異なる遺伝物質を、このプレートでアッセイする。位置A1およびA2、A3およびA4、A5およびA6、B1およびB2、B3およびB4、B5およびB6、C1およびC2、C3およびC4、C5およびC6、D1およびD2、D3およびD4、D5およびD6で、L−DOPAの有無で比較して、種子の個々のバッチを分析する。位置C5およびC6、D1およびD2、D3およびD4、D5およびD6のバッチが、最も高い種子−関連PPO活性を示す。
【実施例】
【0050】
実施例1
低減した損傷表面変色についてのLactuca群のスクリーニング
レタスの受託植物を、損傷誘発性変色を示す潜在能力についてスクリーニングした。種子を、標準的な条件を用いて室温内の鉢植え用の土を含むトレイにおいて発芽させ、レタスを成長させた。3〜4枚の本葉が成長した若い植物を、コルク穿孔器を用いてサンプリングした。このように得られた葉片を、6℃で容器中湿った濾紙の間でインキュベートした。約1週間後、ピンク変色を、1〜5の範囲で採点した。1は検出可能なピンク変色が無いことを意味し、5は非常に明確な最大レベルのピンク変色を意味する。結果を表1に示す。この表は、整理番号および個々のスコアを示す。低減したピンク変色を有することが確認された受託植物が以下のように同定された。
【0051】
ピンク化葉片アッセイを用いて異なる受託植物において観察されたピンク化反応の違いの例を図1に示す。
意外にも、いくつかの受託植物が低減した変色を示すことが見出された。変色を与えるプロセスは損傷部位にかかる不利な生物的および非生物的ストレス因子に対する植物の防御であると考えられ、この形質は、自然および栽培条件下では不利であると考えられるので、この結果は予想外であった。
【0052】
この試験結果から最も興味深い受託植物を、上記と同じプロトコールに従って、再び植え付け、再試験した。低減されたピンク化が、651968番(L.virosa;plotnr.366,NCIMB41489)で確認された。さらなる受託植物を、上記と同様のプロトコールで試験し、確認の再試験を行った。低減されたピンク化が、650147番(L.saligna;NCIMB41485)において見つかり、確認された。低減された損傷誘発性表面変色を示すことが見出された受託植物を表2に示す。
よく知られた受託植物、例えば「アイスバーグ(Iceberg)」および「サリナス(Salinas)」が、この試験において低減したピンクのサインを示していなかった。
【0053】
表2
損傷表面の低減した変色を有する受託植物の概要
【表1】

【0054】
651968番、650147番および07V.67586番の種子を、NCIMB Ltd(Ferguson Building,Craibstone Estate,Bucksburn,Aberdeen,Scotland,AB21 9YA,UK)に寄託した。
【0055】
表1
異なるLactuca受託植物のピンク化スコア。各々のフィールド番号は、個々の受託植物を意味する。受託植物あたり2つの植物をサンプリングした。スコアは、ピンク化のレベル:1=ピンク化なし〜5=強いピンク化を示す。2つの植物のピンク化が異なる場合、2つのスコアを示す。1つのスコアが示されている場合、2つの植物は、この試験で同じように反応している。
【表2】

【0056】
実施例2
野外スクリーニング
野外スクリーニングを、カットクリスプヘッド(crisphead)結球レタスの視覚的評価により行った。1つの受託植物において、低減した損傷表面の変色が観察された(図2)。この受託植物は、07V.67586番であった。続く野生試験での視覚的評価により再試験し、低減した変色を有することが確認された。この視覚的評価は、カットした翌日に行った。意外にも、実施例1に記載のプロトコールによる追試では、低減したピンク化を示さなかった。これは、07V.67586番の低減した変色の遺伝的原因が、実施例1に記載の他の受託植物とは異なっていることを示している。
【0057】
実施例3
ナスの低減した変色
ナスの果実のカットおよび包装の後、急速な褐変反応が観察され得る。このカット果実組織の損傷表面は、すぐに褐色に変化し、製品の質が低下する。より重要には、果実内にある種子は強い褐色化を示し、図3に示されるように、周囲に対して目立っている。
【0058】
フレッシュカットナスの産業利用のため、または生鮮食品としてのナスの使用のため、種子の褐色化を防止する必要がある。カットナス果実の褐色化の生化学的性質を測定するために、ポリフェノールオキシダーゼ(PPO)の強い阻害剤であるL−システインの有無での褐変反応を観察した。この分析の結果を図4に示す。
【0059】
図4に示される結果は、褐変反応が、外的に補足されたPPO阻害剤L−システインにより阻害され得ることを示している。したがって、褐色化応答は、明確に、PPO−介在性である。
【0060】
遺伝子的アプローチを用いる、種子により起こるナスの褐色化の防止のために、遺伝物質を、種子−関連PPO活性の変化をスクリーニングした。この目的のために、基質、例えばL−DOPAの着色色素、例えばメラニンへの変化による方法を用いた。
PPO基質としてのジヒドロキシフェニルアラニン(L−DOPA)を含有する溶液中でのナス種子のインキュベーション後、メラニン形成が明確に黒色変色として確認された。図5に示されるように、L−システインにより完全に阻害されるので、この黒色変色はPPO−介在性である。
【0061】
ナスのL−DOPA介在種子変色を、低減した種子−関連PPO活性を有する遺伝物質の同定に用いる。このスクリーニングにより、種子−関連PPO活性の有意な減少を示す遺伝物質を同定した。このスクリーニングの結果は、図6において説明される。
このスクリーニング法により得られ、種子−関連PPO活性の強い低減を示すナスを、表3に示す。
【0062】
このスクリーニングにおいて、いくつかの改良株が、種子−関連PPO活性の相当な減少を示したが(13、14、42、49)、一方で、他は強い褐色化を示した(7、27、34、47)。
【0063】
【表3】

【0064】
種子−関連PPO活性の低減を示す2つの株間の交配を行うことにより、より産業的およびフレッシュマーケットでの用途に適したハイブリッドが得られる。さらに、野生の受託植物は、ナス(19)と近縁であるか、(22、24、25)とより遠縁であり、非常に強い種子−関連PPO活性の低減を示すことが見出された。これらの受託植物は、フレッシュマーケットの目的のような産業になおさら適している改良株およびハイブリッドを与える戻し交配プログラムの出発材料として用いられる。戻し交配プロセスにおいて、上記したスクリーニング方法は、種子−関連PPO活性の最も強い低減の選抜に役に立つ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対照植物または植物部分と比較して低減または消失した損傷誘発性表面変色を示す植物または植物部分の試験方法であって:
a)遺伝子変異を示す植物群から、特に遺伝子バンクから植物または植物部分を得ること;
b)所望により、植物または植物部分に損傷表面を作成すること;
c)植物または植物部分またはそこに作成された損傷表面をインキュベートして、その中またはその上に変色を生じさせること;
d)植物または植物部分の内部またはその上の変色を観察すること;
e)観察された変色を、対照植物または植物部分において観察された変色と比較して、植物または植物部分が変色を示すか否か、あるいは対照植物または植物部分と比較して低減した変色を示すか否かを評価すること;および
f)変色を示さないか、または対照植物または植物部分と比較して低減した変色を示す植物または植物部分を、低減した損傷誘発性表面変色形質を持つ植物として同定すること;
を含む方法。
【請求項2】
植物が、葉または茎部分のために栽培される野菜植物である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
植物がレタス、エンダイブおよびチコリから選択される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
植物が、根または根茎部分のために栽培される野菜植物である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
植物が、ジャガイモ、サツマイモおよび根セロリから選択される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
植物が果実部分のために栽培される結実植物である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
植物が、ナス、リンゴ、バナナ、アボガド、モモ、西洋梨、アンズおよびマンゴーから選択される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
植物が花または花部分のために栽培される顕花植物である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
植物が、チョウセンアザミ、ガーベラおよびキクから選択される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
植物がキノコである、請求項1記載の方法。
【請求項11】
植物が、キク科、特にアキノノゲシ属、より具体的にはレタス種に属する、請求項1〜3いずれか一項記載の方法。
【請求項12】
植物が、キクニガナ属、特にチコリ種およびチコリ・エンダイヴ種に属する、請求項1〜3いずれか一項記載の方法。
【請求項13】
植物部分が、葉、頭状花序、シュート、根、塊茎、茎、花、果実、種子、発芽種子、またはそれらの断片および細胞から選択される、請求項1〜12いずれか一項記載の方法。
【請求項14】
植物部分が葉片である、請求項11または12記載の方法。
【請求項15】
植物部分が中肋組織由来の断片である、請求項11または12記載の方法。
【請求項16】
インキュベーションが水性環境下で行われる、請求項1〜15いずれか一項記載の方法。
【請求項17】
水性環境が湿らせた濾紙を含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
水性環境が水または水溶液を含む、請求項16記載の方法。
【請求項19】
水性環境が、L−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン、クロロゲン酸、イソクロロゲン酸、L−チロシンおよびカテコールから選択される化合物を含有する、請求項17または18記載の方法。
【請求項20】
植物がリンゴであり、水性環境が、クロロゲン酸(葉肉試験用)、カテコール、カテキン(皮試験用)、カフェ酸、フラボノール配糖体類、3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)、3,4−ジヒドロキシ安息香酸、p−クレゾール、4−メチルカテコール、ロイコシアニジン、p−クマル酸から選択される化合物を含有する、請求項17または18記載の方法。
【請求項21】
植物がアンズであり、水性環境が、イソクロロゲン酸、カフェ酸、4−メチルカテコール、クロロゲン酸、カテキン、エピカテキン、ピロガロール、カテコール、フラボノール類、p−クマル酸誘導体から選択される化合物を含有する、請求項17または18記載の方法。
【請求項22】
植物がアボガドであり、水性環境が、4−メチルカテコール、ドーパミン、ピロガロール、カテコール、クロロゲン酸、カフェ酸、DOPAから選択される化合物を含有する、請求項17または18記載の方法。
【請求項23】
植物がバナナであり、水性環境が、3,4−ジヒドロキシフェニルエチルアミン(ドーパミン)、ロイコデルフィニジン、ロイコシアニジンから選択される化合物を含有する、請求項17または18記載の方法。
【請求項24】
植物がナスであり、水性環境が、クロロゲン酸、カフェ酸、クマル酸、および桂皮酸誘導体から選択される化合物を含有する、請求項17または18記載の方法。
【請求項25】
植物がレタスであり、水性環境が、チロシン、カフェ酸、クロロゲン酸誘導体から選択される化合物を含有する、請求項17または18記載の方法。
【請求項26】
植物がマンゴーであり、水性環境が、ドーパミン−HCl、4−メチルカテコール、カフェ酸、カテコール、カテキン、クロロゲン酸、チロシン、DOPA、およびp−クレゾールから選択される化合物を含有する、請求項17または18記載の方法。
【請求項27】
植物がキノコであり、水性環境が、チロシン、カテコール、DOPA、ドーパミン、アドレナリン、およびノルアドレナリンから選択される化合物を含有する、請求項17または18記載の方法。
【請求項28】
植物がモモであり、水性環境が、クロロゲン酸、ピロガロール、4−メチルカテコール、カテコール、カフェ酸、没食子酸、カテキン、およびドーパミンから選択される化合物を含有する、請求項17または18記載の方法。
【請求項29】
植物が西洋梨であり、水性環境クロロゲン酸、カテコール、カテキン、カフェ酸、DOPA、3,4−ジヒドロキシ安息香酸、およびp−クレゾールから選択される化合物を含有する、請求項17または18記載の方法。
【請求項30】
植物がジャガイモであり、水性環境が、クロロゲン酸、カフェ酸、カテコール、DOPA、p−クレゾール、p−ヒドロキシフェニル、プロピオン酸、p−ヒドロキシフェニルピルビン酸、およびm−クレゾールから選択される化合物を含有する、請求項17または18記載の方法。
【請求項31】
植物がサツマイモであり、水性環境が、クロロゲン酸、カフェ酸、およびカフェイルアミドから選択される化合物を含有する、請求項17または18記載の方法。
【請求項32】
対照植物が、7日間5℃において2枚の湿らせた濾紙の間でインキュベートした場合、縁の辺りがピンク色に変色する葉片の植物体である、請求項1〜31いずれか一項記載の方法。
【請求項33】
対照植物または植物部分と比較して低減または消失した表面変色を示す植物または植物部分の試験方法であって:
a)遺伝子変異を示す植物群から、特に遺伝子バンクから植物または植物部分を得ること;
b)その中または上に変色を生じさせることができる色素に変換され得る基質と植物または植物部分をインキュベートすること;
c)植物または植物部分の内部またはその上の変色を観察すること;
d)観察された変色を、対照植物または植物部分において観察された変色と比較して、植物または植物部分が変色を示すか否か、あるいは対照植物または植物部分と比較して低減した変色を示すか否かを評価すること;および
e)変色を示さないか、または対照植物または植物部分と比較して低減した変色を示す植物または植物部分を、低減した損傷誘発性表面変色形質を持つ植物として同定すること;
を含む方法。
【請求項34】
基質が請求項20〜31に記載の化合物から選択される、請求項33記載の方法。
【請求項35】
化合物がL−DOPAである、請求項34記載の方法。
【請求項36】
植物または植物部分が、基質とインキュベーションする前に損傷され、該損傷または損傷付近の変色を観察する、請求項33、34または35記載の方法。
【請求項37】
植物部分が、種子、発芽種子または葉片である、請求項33〜36いずれか一項記載の方法。
【請求項38】
変色が、L−システインにより阻害または逆転し得る、請求項1〜37いずれか一項記載の方法。
【請求項39】
低減した変色、特に低減した損傷誘発性表面変色および農学的に許容される特性を示す作物の生産において、低減した変色形質、特に低減した損傷誘発性表面変色形質の源としての、請求項1〜38いずれか一項記載の方法により得ることができる植物の使用。
【請求項40】
農学的に許容される特性を示す植物が市販の作物である、請求項39記載の使用。
【請求項41】
低減した変色形質、特に低減した損傷誘発性表面変色形質の源である植物が、L.virosaaccession 651968(NCIMB 41489)、L.saligna accession 650147(NCIMB 41485)およびL.sativa accession 07V.67586(NCIMB 41569)から選択される、請求項39または40記載の使用。
【請求項42】
低減した変色、特に低減した損傷誘発性表面変色および農学的に許容される特性を示す作物が、改良および選抜により生産され、該選抜が請求項1〜38いずれか一項記載の方法により行われる、請求項39〜41いずれか一項記載の使用。
【請求項43】
低減した変色、特に低減した損傷誘発性表面変色および農学的に許容される特性を示す作物が、遺伝子組み換えを受容植物に導入する手段により元の植物から得ることができる、低減した変色形質、特に低減した損傷誘発性表面変色形質を形質導入することにより生産される、請求項39〜41いずれか一項記載の使用。
【請求項44】
低減した変色、特に低減した損傷誘発性表面変色を示す農学的に許容される植物の生産方法であって、工程:
a)低減した損傷誘発性表面変色を有する第一の親植物を、第2の親植物と交配させて、F1種子を得ること;
b)F1種子からF1植物を育て、F1植物を自殖させて、F2−種子を得ること;
c)変色、特に損傷誘発性表面変色のレベルについて、少なくとも第2の親植物のレベルよりも低いF2植物を低減した変色形質、特に低減した損傷誘発性表面変色形質を有する植物として選抜すること;
を含む方法。
【請求項45】
請求項44記載の方法により得ることができる、低減した変色を示す、特に、低減した損傷誘発性表面変色を示す植物。
【請求項46】
ナスである請求項45記載の植物。
【請求項47】
請求項44〜46いずれか一項記載植物の子孫。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−532175(P2010−532175A)
【公表日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515394(P2010−515394)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【国際出願番号】PCT/EP2008/005491
【国際公開番号】WO2009/007066
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(500502222)ライク・ズワーン・ザードテールト・アン・ザードハンデル・ベスローテン・フェンノートシャップ (19)
【Fターム(参考)】