説明

低温液体用フィルターモジュールおよびその完全性試験方法

【課題】弾性部材による補助シーリングによって寿命を長く維持できる低温液体用フィルターモジュールの弾性部材の効果を評価できる完全性試験方法を提供する。
【解決手段】フィルターエレメントと、ハウジングと、フィルターエレメントの周縁部をシールする2つのフッ素樹脂製ガスケットと、2つのフッ素樹脂製ガスケットを保持する2つのサポートと、ハウジングを上流側および下流側でそれぞれ低温液体の配管に接続する接続部材と、ハウジング内でサポートおよびフッ素樹脂製ガスケットを押圧する弾性部材を有する低温液体用フィルターモジュールに対し、フィルターエレメントに液体を供給してフィルターエレメントのポアを液体で充填し、フィルターモジュール中の圧力を増加させながらガスを供給してフィルターエレメントを透過したガスを計量することによりバブルポイントを検出する完全性試験方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温液体中の粒子または微生物などを除去するための低温液体用フィルターモジュールおよびその完全性試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬品工業や食品工業においては、薬品や食品を急冷する目的またはその他の目的で、低温液体たとえば液体窒素が用いられる。このような急冷処理に用いられる低温液体が粒子または微生物で汚染されていると、食品や薬品に付着する。また、流通過程で付着した微生物が増殖することがあるので好ましくないことは明らかである。
【0003】
このため、液体窒素などの液化ガスを、フィルターを通してろ過することによって除菌処理するための装置が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
しかし、液体窒素などの液化ガスを、フィルターを通してろ過する場合には、シール構造を工夫しないと、激しい温度変化の間にもれが生じ、シーリング材に依存してフィルターの寿命が制限されることがわかった。
【特許文献1】特開2000−185710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、弾性部材による補助シーリングによって寿命を長く維持できる低温液体用フィルターモジュールを提供するとともに、低温液体用フィルターモジュールの弾性部材の効果を評価できる完全性試験方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る低温液体用フィルターモジュールは、長さ方向に沿ってフィルター孔が設けられた筒状のフィルターエレメントと、前記フィルターエレメントを収容するハウジングと、前記フィルターエレメント両端面の周縁部をシールするための2つのフッ素樹脂製ガスケットと、前記2つのフッ素樹脂製ガスケットをそれぞれフィルターエレメントの端面に接触させた状態で保持し、一方の端部においてフィルターエレメント−ハウジング間の間隙と外部とを液体流通させ、他方の端部においてフィルターエレメントのフィルター孔と外部とを液体流通させるように構成された2つのサポートと、前記ハウジングを上流側および下流側でそれぞれ低温液体の配管に接続するための接続部材と、前記ハウジングの上流側および下流側の少なくとも一方で前記接続部材とサポートの端面との間に設けられ、前記サポートおよびフッ素樹脂製ガスケットを前記フィルターエレメントの方向へ押圧する弾性部材とを有することを特徴とする。
【0007】
本発明の他の態様に係る低温液体用フィルターモジュールの完全性試験方法は、上記のフィルターモジュール中のフィルターエレメントに液体を供給してフィルターエレメントのポアを前記液体で充填し、前記フィルターモジュール中に圧力を増加させながらガスを供給してフィルターエレメントを透過したガスを計量することによりバブルポイントを検出し、弾性部材の効果を評価することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のフィルターモジュールにおいては、弾性部材(たとえばスプリング)を設けることによりサポートを介してフッ素樹脂製ガスケットをフィルターエレメントの方向へ押圧しているので、低温下においても良好なシール性を維持することができる。したがって、フィルターモジュールにおける低温液体のもれを防止することができ、低温液体中の微生物や粒子を効果的にろ過できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明のフィルターモジュールによるろ過の対象となる低温液体としては、例えば液体窒素などが挙げられる。
【0010】
本発明において用いられるフィルターエレメントは、長さ方向に沿ってフィルター孔が設けられた筒状の形状をなすものである。低温液体のろ過効率を上げるためには、複数のフィルター孔(チャンネル)を有するマルチチャンネルタイプのフィルターエレメントであることが好ましい。フィルターエレメントは、滅菌時には高温にさらされ低温液体との接触時には低温にさらされるという温度サイクルを経験する。したがって、フィルターエレメントは低温および高温に対して耐久性を示すセラミックスなどの材質からなっていることが好ましい。セラミックスとしてはα−アルミナなどが挙げられる。なお、低温液体から微生物を有効にろ過するには、フィルターエレメントのポア径は約0.2μm以下であることが好ましい。
【0011】
本発明において用いられるガスケットの材料としては、フッ素樹脂、たとえばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が挙げられる。PTFEは、使用温度範囲が200℃〜−200℃と広く、例えば液体窒素温度でも使用できるが、温度サイクルによりクリーピング現象が生じやすくなり、寿命が短くなる。以下においては、フッ素樹脂をPTFEで代表させて説明する。
【0012】
図1に本発明の実施形態に係るフィルターモジュール10を示す。ハウジング11はステンレス製であり、フィルターエレメント収容部と、上流側および下流側でそれぞれ液体窒素の配管に接続される、フィルターエレメント収容部より径の小さい接続部とを有する。フィルターエレメント12はα−アルミナ製で筒状の形状を有し、その長さ方向に沿って複数のフィルター孔(チャンネル)12aが設けられたマルチチャンネルタイプのものである。フィルターエレメント12は、フィルターエレメント12の端面とハウジング11のフィルターエレメント収容部の内側端面との間にPTFEガスケット13およびサポート14を介在させた状態で、ハウジング11内に収容されている。2つのPTFEガスケット13はフィルターエレメント12の両端面の周縁部をシールするために設けられている。上流側のサポート14は、フィルターエレメント12のフィルター孔12aへの液体流通を阻止するプレート面を有し、かつプレート面に対して上流側に複数の切欠部を設けたリング状の突出部を有する。下流側のサポート14は、フィルターエレメント12のフィルター孔12aと液体流通するように中心部に開口が設けられたリング状の形状をなしている。したがって、上流配管からハウジング内に入った液体窒素は上流側のサポート14の切欠部を通してフィルターエレメント12−ハウジング11間の間隙に入り、フィルターエレメント12によりろ過され、フィルター孔12aから下流側のサポート14を通して下流配管へと流通する。ハウジング11の上流側の接続部にはワッシャ15を介してボルト16が取り付けられており、ワッシャ15と上流側のサポート14の端面との間にスプリング17が設けられ、サポート14およびPTFEガスケット13をフィルターエレメント12の方向へ押圧している。
【0013】
本発明のフィルターモジュールでは、ハウジング11の上流側において、接続部材であるボルト16(ワッシャ15)とサポート14の端面との間に弾性部材としてスプリング17を設け、サポート14およびPTFE13をフィルターエレメント12の方向へ押圧しているので、周囲温度にかかわらずPTFEガスケット13に適切な弾性歪みを発生させ、長期間にわたってシール性を維持し低温液体のもれを防止できる。なお、ハウジングの上流側および下流側の両方において、接続部材とサポート14の端面との間にスプリングを設けてもよい。
【0014】
次に、図2を参照して、本発明の実施形態に係るフィルターモジュール10の完全性試験(integrity test)について説明する。この完全性試験は、フィルターエレメントのポアを液体で充填した後、フィルターモジュール中に圧力を増加させながらガスを供給してフィルターエレメントを透過したガスを計量することによりバブルポイントを検出するものである。なお、完全性試験を実施するために用いる液体としては、たとえばエタノールが適していることがわかっているが、エタノールに限定されるわけではない。また、完全性試験を実施するために用いるガスとしては、たとえば窒素が用いられるが、窒素に限定されるわけではない。
【0015】
図2の装置構成を概略的に説明する。すなわち、フィルターモジュール10の上流にバルブ21(V3)を介してエタノールの供給系統を接続し、かつバルブ31(V2)を介して窒素ガスの供給系統を接続する。また、フィルターモジュール10の下流にチューブ41を接続し、このチューブ41を容器42内に設置されたビュレット43内に挿入する。この装置構成において、以下のような手順で完全性試験を実施する。
【0016】
(1)まず、全てのバルブを閉じる。
【0017】
(2)バルブ21(V3)を開き、ロータリーポンプ22を作動させて、エタノールを液体フィルター23、ロータリーポンプ22、バルブ21(V3)を通してフィルターモジュール10内に10分間以上供給し、フィルターエレメント12を十分にぬらしてフィルターエレメント12のポアをエタノールで充填する。その後、バルブ21(V3)を閉じる。
【0018】
(3)レギュレーター34を閉じ、バルブ32(V1)を開いて排気する。その後、バルブ32(V1)を閉じる。
【0019】
(4)バルブ31(V2)を開き、レギュレーター34を作動させて、窒素ガスをガスフィルター35、レギュレーター34、圧力センサー33、バルブ31(V2)を通してフィルターモジュール10内に供給する。このとき、レギュレーター34により窒素ガスの圧力を段階的に増加させ、圧力を増加させるたびにフィルターエレメント12を透過した窒素ガスをガス洗瓶42を通した後、マスフローメーター43で計量する。バブルポイントは以下のような手法によって検出する。
【0020】
図3に、ポア径0.1μmのフィルターエレメント12に対して完全性試験を実施したときに、上記(4)の操作で得られた窒素ガスの圧力とマスフローメーターで計量された窒素ガスの流量との関係を示す。図3に示されるように、圧力の増加とともに流量は徐々に増加するが、圧力がある程度以上に高くなると流量の増加が急になる。したがって、図3の曲線は、傾きの緩やかな直線および傾きの急峻な直線の2つの直線によって近似できる。本明細書では、図3に示すように、これら2つの直線の交点における圧力をバブルポイントと定義している。
【0021】
図4に、スプリングを設けたフィルターモジュール(本発明)とスプリングを設けていないフィルターモジュール(比較例)について、長期間使用後のバブルポイントを比較して示す。なお、これらの2つのフィルターモジュールは、新品の時にはバブルポイントに差がなかった。
【0022】
図4からわかるように、スプリングを設けてサポートおよびPTFEガスケットをフィルターエレメントの方向へ押圧するようにした本発明のフィルターモジュールのバブルポイントは約0.35MPaであり、スプリングを設けていない比較例のフィルターモジュールのバブルポイント(約0.15MPa)よりも高くなっている。このことから、本発明のフィルターモジュールは、液体窒素がもれにくいことがわかる。
【0023】
また、定期的にフィルターモジュールの完全性試験を実施し、バブルポイントの初期値(上記の例では約0.35MPa)より低いバブルポイントが検出された場合には、PTFEガスケットの近傍からもれが生じていると判定することができるので、スプリングの交換時期またはフィルターモジュール全体の交換時期を適切に判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る低温液体用フィルターモジュールの断面図。
【図2】本発明の一実施形態に係る低温液体用フィルターモジュールの完全性試験を行うための装置構成を示す図。
【図3】完全性試験における、窒素ガスの圧力と窒素ガスの流量との関係を示す図。
【図4】スプリングを設けたフィルターモジュールとスプリングを設けていないフィルターモジュールについて、バブルポイントを示す図。
【符号の説明】
【0025】
10…フィルターモジュール、11…ハウジング、12…フィルターエレメント、12a…フィルター孔(チャンネル)、13…PTFEガスケット、14…サポート、15…ワッシャ、16…ボルト、17…スプリング、21…バルブV3、22…ロータリーポンプ、23…液体フィルター、31…バルブV2、32…バルブV1、33…圧力センサー、34…レギュレーター、35…ガスフィルター、41…チューブ、42…ガス洗瓶、43…マスフローメーター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ方向に沿ってフィルター孔が設けられた筒状のフィルターエレメントと、前記フィルターエレメントを収容するハウジングと、前記フィルターエレメント両端面の周縁部をシールするための2つのフッ素樹脂製ガスケットと、前記2つのフッ素樹脂製ガスケットをそれぞれフィルターエレメントの端面に接触させた状態で保持し、一方の端部においてフィルターエレメント−ハウジング間の間隙と外部とを液体流通させ、他方の端部においてフィルターエレメントのフィルター孔と外部とを液体流通させるように構成された2つのサポートと、前記ハウジングを上流側および下流側でそれぞれ低温液体の配管に接続するための接続部材と、前記ハウジングの上流側および下流側の少なくとも一方で前記接続部材とサポートの端面との間に設けられ、前記サポートおよびフッ素樹脂製ガスケットを前記フィルターエレメントの方向へ押圧する弾性部材とを有する低温液体用フィルターモジュールの完全性試験方法であって、前記フィルターモジュール中のフィルターエレメントに液体を供給してフィルターエレメントのポアを前記液体で充填し、前記フィルターモジュール中の圧力を増加させながらガスを供給してフィルターエレメントを透過したガスを計量することによりバブルポイントを検出することを特徴とする低温液体用フィルターモジュールの完全性試験方法。
【請求項2】
バブルポイントに基づいて、前記フィルターモジュールの弾性部材の効果を評価することを特徴とする請求項1に記載の低温液体用フィルターモジュールの完全性試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−246482(P2008−246482A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−147280(P2008−147280)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【分割の表示】特願2003−426870(P2003−426870)の分割
【原出願日】平成15年12月24日(2003.12.24)
【出願人】(591036572)レール・リキード−ソシエテ・アノニム・プール・レテュード・エ・レクスプロワタシオン・デ・プロセデ・ジョルジュ・クロード (438)
【Fターム(参考)】