説明

低温用急硬性セメント混和材及び低温用急硬性セメント組成物

【課題】混和したセメント組成物の材料温度及び環境温度が5℃であっても、混練したセメント組成物の可使時間が60分以上と優れ、材齢3時間における圧縮強度が5N/mm以上且つ材齢24時間における圧縮強度が30N/mm以上である低温用急硬性セメント混和材を提供すること。また、材料温度及び環境温度が5℃であっても、可使時間が60分以上と優れ、材齢3時間における圧縮強度が5N/mm以上且つ材齢24時間における圧縮強度が30N/mm以上である低温用急硬性セメント組成物を提供すること。
【手段】ガラス化率が特定割合のカルシウムアルミネート類、石膏、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ金属炭酸塩及び凝結遅延剤を含有する。更に、カルシウムアルミネート類が、結晶質カルシウムアルミネート類及び非晶質カルシウムアルミネート類からなるものであると好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温用急硬性セメント混和材に関する。詳しくは、混和したセメント組成物の材料温度及び環境温度が5℃であっても、材齢3時間における圧縮強度が5N/mmを超え且つ材齢24時間における圧縮強度が30N/mm以上であるにも拘らず可使時間が長い低温用急硬性セメント混和材に関する。また、本発明は、低温用急硬性セメント組成物に関する。詳しくは、材料温度及び環境温度が5℃であっても、材齢3時間における圧縮強度が5N/mmを超え且つ材齢24時間における圧縮強度が30N/mm以上であるにも拘らず可使時間が長い低温用急硬性セメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、補修工事や緊急工事等の建設現場において、急硬性のモルタルや急硬性のコンクリート等の急硬性セメント組成物が使用されることも多い。ところで、10℃の低温環境下においても使用可能な急硬性セメント組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、冬季に材料温度を10℃まで上げるには、ジェットヒーター等のヒーターにより多量の灯油を燃やすことで加熱しなければならなかった。材料温度を10℃で良好な流動性及び急硬性が得られる急硬性高流動セメント組成物を、より温度が低い5℃の材料温度及び環境温度で練り混ぜる場合に、流動性が得られず又急硬性も不充分であった。
【0003】
ところで、5℃の低温環境下においても使用可能な急硬性セメント組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、特許文献2で云う低温環境下とは養生温度又は各試験の試験時の環境温度のことで、材料温度のことではないと思われる。特許文献2の実施例において、作製したモルタルの流動性、可使時間、初期膨張率、圧縮強度、長さ変化率の測定は5℃環境下で行った記載はある([0045]段落)が、材料温度及びモルタルの作製を5℃環境下で行ったとの記載は一切なく、実験No.3−19では、可使時間が35分もあるにも拘わらず材齢1時間における圧縮強度が20.1N/mmに達していることから、材料温度及びモルタルの作製を5℃環境下で行ったとは到底考えられない。
【0004】
ところで、可使時間が30分程度では、一度に打設できる急硬性セメント組成物の量が制限されるか、打設に用いるミキサやポンプ等の装置が特殊なものを用いなければならなかった。そこで、より可使時間が長いにも拘らず、材料温度及び環境温度が5℃であっても、材齢3時間における圧縮強度が5N/mmを超え且つ材齢24時間における圧縮強度が30N/mm以上である低温用急硬性セメント組成物及びそのための低温用急硬性セメント混和材が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−197267号公報
【特許文献2】特開2007−197268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記問題の解決、即ち、本発明は、混和したセメント組成物の材料温度及び環境温度が5℃であっても、混練したセメント組成物の可使時間が60分以上と優れ、材齢3時間における圧縮強度が5N/mm以上且つ材齢24時間における圧縮強度が30N/mm以上である低温用急硬性セメント混和材を提供することを目的とする。また、本発明は、材料温度及び環境温度が5℃であっても、可使時間が60分以上と優れ、材齢3時間における圧縮強度が5N/mm以上且つ材齢24時間における圧縮強度が30N/mm以上である低温用急硬性セメント組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題解決のため鋭意検討した結果、ガラス化率が特定割合のカルシウムアルミネート類、石膏、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ金属炭酸塩及び凝結遅延剤を含有することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は、以下の(1)又は(2)で表す低温用急硬性セメント混和材、及び(3)で表す低温用急硬性セメント組成物である。
(1)カルシウムアルミネート類、石膏、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ金属炭酸塩及び凝結遅延剤を含有し、前記カルシウムアルミネート類のガラス化率が15〜55質量%である低温用急硬性セメント混和材。
(2)上記カルシウムアルミネート類が、結晶質カルシウムアルミネート類及び非晶質カルシウムアルミネート類からなるものである上記(1)の低温用急硬性セメント混和材。
(3)セメントと、セメントに対し上記(1)又は(2)の低温用急硬性セメント混和材10〜100質量部を含有する低温用急硬性セメント組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、混和したセメント組成物の材料温度及び環境温度が5℃であっても、混練したセメント組成物の可使時間が60分以上と優れ、材齢3時間における圧縮強度が5N/mm以上且つ材齢24時間における圧縮強度が30N/mm以上である低温用急硬性セメント混和材が得られる。また、本発明によれば、材料温度及び環境温度が5℃であっても、可使時間が60分以上と優れ、材齢3時間における圧縮強度が5N/mm以上且つ材齢24時間における圧縮強度が30N/mm以上である低温用急硬性セメント組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は凝結試験結果のグラフである。
【図2】図2は圧縮強度試験結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の低温用急硬性セメント混和材に用いるカルシウムアルミネート類は、CaOをC、AlをA、NaOをN、及びFeをFとして表したとき、CA、CA、C12、C、CA、C、又はCA等と表示される鉱物組成を有するカルシウムアルミネート、CAF及びCAF等と表示されるカルシウムアルミノフェライト、カルシウムアルミネートにハロゲンが固溶又は置換したC・CaFやC11・CaF等と表示されるカルシウムフロロアルミネートを含むカルシウムハロアルミネート、CNAやC等と表示されるカルシウムナトリウムアルミネート、カルシウムリチウムアルミネート、アルミナセメント、太平洋セメント社製「ジェットセメント」(商品名)や住友大阪セメント社製「ジェットセメント」(商品名)等の超速硬セメント、並びにこれらにSiO、KO、Fe、TiO等が固溶又は化合したものを総称するものである。このカルシウムアルミネート類は、結晶質のもの、非結晶質のもの及び非晶質と結晶質が混在したもののいずれも使用可能であり、前記カルシウムアルミネート類のうち一種又は二種以上を使用することが可能である。本発明において、結晶質カルシウムアルミネート類とはガラス化率が20質量%以下のカルシウムアルミネート類をいい、非晶質カルシウムアルミネート類とはガラス化率が80質量%以上のカルシウムアルミネート類をいう。結晶質カルシウムアルミネート類としてはガラス化率が10質量%以下のものがより好ましく、非晶質カルシウムアルミネート類としてはガラス化率が90質量%以上のものがより好ましい。結晶質カルシウムアルミネート類は、CaO原料、Al原料及びその他の原料を溶融しその後100℃以下まで徐冷する方法、CaO原料、Al原料及びその他の原料をロータリーキルンや電気炉等の炉で高温焼成する方法等により得られる。また、非晶質カルシウムアルミネート類は、CaO原料、Al原料及びその他の原料を溶融し、水や空気等で急冷することにより得られる。用いるCaO原料としては、例えば石灰石、貝殻、生石灰、消石灰等が挙げられる。また、用いるAl原料としては、ボーキサイト、石油化学工業等より排出される廃アルミナ触媒等のアルミナ廃棄物、アルミ鉱滓(アルミドロス)やその精錬過程で発生するアルミ残灰、アルミニウム切削屑等の廃金属アルミニウム、アルミニウム粉末等が挙げられる。
【0011】
尚、カルシウムアルミネート類のガラス化率の測定は、含まれるカルシウムアルミネート類の結晶が一種類の場合(例えばCAのみの場合やCAのみの場合)では、粉末X線回折(内部標準法)により当該カルシウムアルミネート類の結晶相の量(含有率)を求め、残部をガラス相とみなしてガラス化率を算出する。また、含まれるカルシウムアルミネート類の結晶が二種類以上の場合(例えばCAとCAが共存する場合)は、粉末X線回折により各結晶の結晶生成量(含有率)を求めた後、これを電気炉により1000℃で3時間加熱し、炉内で溶融温度から100℃以下となるまで12時間以上かけて徐冷することで全相を実質的に結晶化させ、粉末X線回折で各結晶の生成量(含有率)を求める。この徐冷後の結晶の含有率と再溶融前の結晶の含有率との差を、各結晶のガラス化率として算出する。含まれるカルシウムアルミネート類の各結晶のガラス化率の和を、当該カルシウムアルミネート類のガラス化率として算出する。
【0012】
本発明の低温用急硬性セメント混和材に含まれるカルシウムアルミネート類のガラス化率は、15〜55質量%とする。カルシウムアルミネート類のガラス化率が15質量%より低いと5℃の材料温度及び環境温度において、混和したセメント組成物の加水から材齢3時間における圧縮強度が5N/mm以上とならないため、急硬性が不足する。圧縮強度が5N/mm以上とならないと、当該セメント組成物の混練物を用いた柱、壁、梁の側面等の型枠の取り外しができないため、施工時間が長時間となる。また、カルシウムアルミネート類のガラス化率が55質量%を超えると5℃の材料温度及び環境温度において混和したセメント組成物の加水から材齢24時間における圧縮強度が30N/mm以上とならないため、急硬性が不足する。従来は、急硬性を高めるためには、カルシウムアルミネート類のガラス化率をより高めることが好ましいものと考えられてきたが、必ずしもそれが正しいわけではないことを見出した。本発明の低温用急硬性セメント混和材に含まれるカルシウムアルミネート類のガラス化率は、15〜55質量%とし、強度発現性の点で好ましくは20〜50質量%、更に好ましくは23〜45質量%とする。この好ましい範囲(20〜50質量%)とすることで、5℃の材料温度及び環境温度において、混和したセメント組成物の加水から材齢6時間における圧縮強度が20N/mm以上とすることができ、更に好ましい範囲(23〜45質量%)とすることで更に材齢24時間における圧縮強度が35N/mm以上とすることができ、強度発現性がより優れより急硬性とすることができる。
【0013】
本発明の低温用急硬性セメント混和材に含まれるカルシウムアルミネート類のガラス化率を上記の範囲にするために、ガラス化率が異なる二種以上のカルシウムアルミネート類を用いた方が、一種類のカルシウムアルミネート類のみを用いる場合に比べて、目的とするガラス化率とし易いことから好ましい。本発明に用いるカルシウムアルミネート類は、結晶質カルシウムアルミネート類及び非晶質カルシウムアルミネート類からなる、即ち、結晶質カルシウムアルミネート類と非晶質カルシウムアルミネート類を合わせたものからなると、ガラス化率を上記範囲にし易いことから好ましい。ガラス化率が異なる二種以上のカルシウムアルミネート類を用いる場合は、各カルシウムアルミネート類のガラス化率と、全カルシウムアルミネート類中の当該カルシウムアルミネート類の配合割合との積を求め、それらの和から、低温用急硬性セメント混和材に含まれるカルシウムアルミネート類のガラス化率を算出する。例えば、低温用急硬性セメント混和材に含まれるカルシウムアルミネート類が、ガラス化率がR及びRの二種類のカルシウムアルミネート類を用い、それらの配合割合がそれぞれC及びCのとき(このときCとCの合計は1)、低温用急硬性セメント混和材に含まれるカルシウムアルミネート類のガラス化率Rは下式(1)により求まる。
=R×C+R×C (1)
【0014】
本発明の低温用急硬性セメント混和材に含まれるカルシウムアルミネート類は、粉末度がブレーン比表面積で3500cm/g以上とすると、添加量が少ない場合においても急硬性が得られ易いことから好ましい。より好ましい粉末度はブレーン比表面積で4000cm/g以上とする。また、本発明の低温用急硬性セメント混和材に含まれるカルシウムアルミネート類は、JIS R5202に規定される強熱減量が0.2〜4.0%であるものが好ましい。強熱減量が0.2%未満であると凝結試験の始発時間から終結時間までの時間が長くなり、4.0%を超えると低温用急硬性セメント混和材が凝集し易くなり、混和したセメント組成物を練り混ぜるときに通常よりも混合時間を長くするなどより念入りに練り混ぜないと、低温用急硬性セメント混和材が混練物中で偏在する虞がある。より好ましくは、強熱減量が0.5〜2.0%のものとする。
【0015】
本発明の低温用急硬性セメント混和材においてカルシウムアルミネート類の含有率は、40〜70質量%の範囲が好ましい。40質量%未満では、過度な膨張により強度が低下する虞があり、また、70を超えると中長期における強度の伸びが小さくなる。中長期を含めて高い強度が得られ中長期における強度の伸びも期待できることから、カルシウムアルミネート類の含有率は45〜60質量%が更に好ましい。
【0016】
本発明の低温用急硬性セメント混和材に含まれる石膏は、無水石膏、二水石膏又は半水石膏を主成分とする粉末であれば特に限定されないが、強度増進作用の観点からII型無水石膏を主成分とするものが好ましい。石膏は、セメント中のアルミネート相や低温用急硬性セメント混和材中のカルシウムアルミネート類等と反応しエトリンガイト(3CaO・Al・3CaSO・32HO)を生成させ、これにより混和したセメント組成物の硬化体の収縮を抑制することができるとともに、初期強度を高める。使用する石膏の粉末度はブレーン法による比表面積で3000cm/g以上のものが、反応活性が得られるので好ましい。より好ましくは粉末度が4000cm/g以上の石膏が良い。粉末度の上限は特に制限されないが、粉末度を高めるとコスト及び労力が嵩む割にはその効果が鈍化することから概ね15000cm/g以下とすることが適当である。
【0017】
本発明の低温用急硬性セメント混和材において石膏の含有量は、カルシウムアルミネート類100質量部に対し20〜145質量部が好ましい。20質量部未満では自己収縮が大きくなるとともに強度が不足する。145質量部を超えると、コンシステンシーが得られ難くなり、必要なコンシステンシーを確保するために水量を増加させると強度が不足する。強度が高く且つコンシステンシーが得られることから、石膏の含有量をカルシウムアルミネート類100質量部に対し60〜120質量部とすることがより好ましい。
【0018】
本発明の低温用急硬性セメント混和材に含まれるアルカリ金属硫酸塩としては、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸リチウム、重硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、カリミョウバン、クロムミョウバン、及び鉄ミョウバン等が挙げられ、これらのうちの一種又は二種以上が使用可能である。アルカリ金属硫酸塩は、結晶水を含まないもの、即ち無水品が添加量を少なくできることから好ましい。
【0019】
本発明の低温用急硬性セメント混和材においてアルカリ金属硫酸塩の含有量は、カルシウムアルミネート類100質量部に対し2〜10質量部が好ましい。2質量部未満では初期強度が不足する虞がある。10質量部を超えると、コンシステンシーが得られ難くなり、必要なコンシステンシーを確保するために水量を増加させると強度が不足する。初期強度が高く且つコンシステンシーが得られることから、アルカリ金属硫酸塩の含有量をカルシウムアルミネート類100質量部に対し3〜7質量部とすることがより好ましい。
【0020】
本発明の低温用急硬性セメント混和材に含まれるアルカリ金属炭酸塩は、混練物のコンシステンシーの確保及び可使時間の確保に重要な役割を果たす。本発明においてアルカリ金属炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム及び重炭酸リチウム等が挙げられ、これらのうちの一種又は二種以上が使用可能である。アルカリ金属硫酸塩としてリチウム塩を用いることが、より少量で効果が高いことから好ましい。
【0021】
本発明の低温用急硬性セメント混和材においてアルカリ金属炭酸塩の含有量は、カルシウムアルミネート類100質量部に対し1〜10質量部が好ましい。1質量部未満では、コンシステンシー及び可使時間を確保するために、低温用急硬性セメント混和材の混和量がより多く必要となる。10質量部を超えると、コンシステンシーが得られ難くなり、必要なコンシステンシーを確保するために水量を増加させると強度が不足する。コンシステンシー及び可使時間を確保し易いことから、アルカリ金属炭酸塩の含有量をカルシウムアルミネート類100質量部に対し2〜7質量部とすることがより好ましい。
【0022】
本発明の低温用急硬性セメント混和材に含まれる凝結遅延剤は、セメントの水和反応を遅延させることにより、混練物のコンシステンシーの確保及び可使時間の確保に重要な役割を果たす。本発明に用いる凝結遅延剤としては、3CaO・SiO(CS)の水和反応を遅延させるものであれば何れも使用可能であるが、短時間における強度発現性に優れることから、オキシカルボン酸又はオキシカルボン酸塩から選ばれる一種又は二種以上を用いることが好ましい。これらのオキシカルボン酸及びオキシカルボン酸塩としては、例えばクエン酸、クエン酸塩、グルコン酸、グルコン酸塩、酒石酸、酒石酸塩、ヘプトン酸、ヘプトン酸塩等を挙げられる。
【0023】
本発明の低温用急硬性セメント混和材において凝結遅延剤の含有量は、カルシウムアルミネート類100質量部に対し0.2〜10質量部が好ましい。0.2質量部未満では、コンシステンシー及び可使時間を確保するために、低温用急硬性セメント混和材の混和量がより多く必要となる。10質量部を超えると、強度が不足する虞がある。コンシステンシー及び強度を確保し易いことから、凝結遅延剤の含有量をカルシウムアルミネート類100質量部に対し0.5〜5質量部とすることがより好ましい。
【0024】
本発明の低温用急硬性セメント混和材には、上記のカルシウムアルミネート類、石膏、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ金属炭酸塩及び凝結遅延剤以外に、他の混和材料の一種又は二種以上を本発明の効果を実質損なわない範囲で併用することができる。このような混和材料としては、例えば減水剤,AE減水剤,高性能減水剤,高性能AE減水剤,流動化剤等のセメント分散剤、増粘剤、膨張材、収縮低減剤、セメント用ポリマー、防水材、防錆剤、凍結防止剤、保水剤、顔料、繊維、撥水剤、白華防止剤、急結剤(材)、上記以外の急硬性混和材(剤)、発泡剤、消泡剤、シリカフューム等のポゾラン微粉末、高炉スラグ微粉末、石灰石微粉末等の石粉、撥水剤、表面硬化剤等が挙げられる。
【0025】
本発明の低温用急硬性セメント混和材は、V型混合機や可傾式コンクリートミキサ等の重力式ミキサ、ヘンシェル式ミキサ、リボンミキサ等のミキサにより、所定量の上記各材料を予め混合する方が、添加後のセメント組成物において材料の偏在が抑えられることから好ましい。このとき用いるミキサは、連続式ミキサでもバッチ式ミキサでも良い。各材料のミキサ内への投入順序は特に限定されない。一種ずつ添加してもよく、一部又は全部を同時に添加してもよい。また、袋やポリエチレン製容器等の容器に各材料を計り取り投入する方法により、本発明の低温用急硬性セメント混和材を製造することもできる。
【0026】
本発明の低温用急硬性セメント混和材は、コンクリート製造工場等におけるセメント組成物の混練時のミキサに投入しても良いし、当該セメント組成物の混練物であるコンクリート、モルタル又はセメントペーストの打設現場おけるトラックアジテータや現場設置型のアジテータ等の撹拌機或いは現場に設置してあるミキサに投入することでセメントグラウトに添加しても良い。また、上記の低温用急硬性セメント混和材は、セメントグラウト組成物の製造時、セメント組成物の混練時及び/又は混練物の打設時において、二以上に分けて添加しても良い。
【0027】
本発明の低温用急硬性セメント組成物は、上記の低温用急硬性セメント混和材及びセメントを含有するものである。
【0028】
本発明で使用するセメントとしては、普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、エコセメント、並びにこれらポルトランドセメント又はエコセメントに、フライアッシュ、高炉スラグ、シリカフューム又は石灰石微粉末等を混合した各種混合セメント等が挙げられ、これらを一種単独で又は二種以上併用して用いることができる。ここで云うセメントは、カルシウムアルミネート類等の急硬成分を主体とするセメント、例えばアルミナセメント並びに太平洋セメント社製「ジェットセメント」(商品名)や住友大阪セメント社製「ジェットセメント」(商品名)等の超速硬セメントは含まれず、これらは前記カルシウムアルミネート類に含まれる。混練物の初期強度を得るための低温用急硬性セメント混和材の添加量が比較的少なくできることから、本発明に用いるセメントとして普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント又はエコセメント或いはこれらのうちの二種以上を混合したものが好ましい。
【0029】
本発明の低温用急硬性セメント組成物中に含む上記の低温用急硬性セメント混和材の量は、セメント100質量部に対し10〜100質量部とすることが好ましい。10質量部未満では初期強度が得難く、10質量部未満において所定の初期強度を得るためには、水セメント比を低くしなければならないため、混練物のコンシステンシーが低下する。また、100質量部を超えると可使時間が得難く、100質量部を超えて所定の可使時間とするためには、水セメント比を高くしなければならないため、混練物の長期強度が低下する。混練物の初期強度及び可使時間のバランス等から、本発明の低温用急硬性セメント組成物中に含む上記の低温用急硬性セメント混和材の量を、セメント100質量部に対し20〜80質量部とすることが更に好ましく、最も好ましくは40〜70質量部とする。
【0030】
本発明の低温用急硬性セメント組成物には、セメント及び上記の低温用急硬性セメント混和材以外に、その他の混和材料及び骨材の一種又は二種以上を本発明の効果を損なわない範囲で併用することができる。このような混和材料としては、例えばセメント用ポリマー、発泡剤、起泡剤、防水材、防錆剤、収縮低減剤、保水剤、顔料、繊維、撥水剤、白華防止剤、膨張材(剤)、急結剤(材)、上記以外の急硬性混和材(剤)、消泡剤、石膏、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、石粉、シリカフューム、表面硬化剤等が挙げられる。また、骨材としては、例えば川砂、海砂、山砂、砕砂、人工細骨材、スラグ細骨材、再生細骨材、珪砂、川砂利、陸砂利、砕石、人工粗骨材、スラグ粗骨材、再生粗骨材等が挙げられる。
【0031】
本発明の低温用急硬性セメント組成物を製造する方法は、特に限定されず、例えば、V型混合機や可傾式コンクリートミキサ等の重力式ミキサ、ヘンシェル式ミキサ、リボンミキサ等のミキサにより、本発明の低温用急硬性セメント組成物の各材料の所定量を混合することで製造することができる。このとき用いるミキサは、連続式ミキサでもバッチ式ミキサでも良い。また、各材料のミキサ内への投入順序は特に限定されず、一種ずつ添加してもよく、一部又は全部を同時に添加してもよい。また、袋やポリエチレン製容器等の容器に各材料を計り取り投入する方法により、本発明の低温用急硬性セメント組成物を製造することもできる。
【0032】
本発明の低温用急硬性セメント組成物は、水と混練して用いる。このときの水量は特に限定されるものではないが、セメントと低温用急硬性セメント混和材の合計100質量部に対し25〜45質量部が好ましく、30〜40質量部が更に好ましい。
水と混練する方法は特に限定されず、例えば水に本発明の低温用急硬性セメント組成物を全量加え混練する方法、水に本発明の低温用急硬性セメント組成物を混練しながら加え更に混練する方法、本発明の低温用急硬性セメント組成物に水を全量加え混練する方法、本発明の低温用急硬性セメント組成物に水を混練しながら加え更に混練する方法、水及び本発明の低温用急硬性セメント組成物のそれぞれ一部ずつを2以上に分けて混練し、混練したものを合わせて更に混練する方法等がある。また、混練に用いる器具や混練装置も特に限定されないが、ミキサを用いることが量を多く混練できるので好ましい。用いることのできるミキサとしては連続式ミキサでもバッチ式ミキサでも良く、例えばパン型コンクリートミキサ、パグミル型コンクリートミキサ、重力式コンクリートミキサ、グラウトミキサ、ハンドミキサ、左官ミキサ等が挙げられる。
【実施例】
【0033】
[実施例1]
次に示す非晶質カルシウムアルミネート類(カルシウムアルミネート類A)と結晶質カルシウムアルミネート類(カルシウムアルミネート類B)を、表1に示す配合割合で混合し、6種類のカルシウムアルミネート類(CA1〜CA6)を作製した。各カルシウムアルミネート類のJIS R5202に規定される強熱減量の測定結果を表1に合わせて示した。作製した各カルシウムアルミネート類48.5質量%、石膏45.0質量%、アルカリ金属硫酸塩3.2質量%、アルカリ金属炭酸塩3.2質量%及び凝結遅延剤0.1質量%からなる低温用急硬性セメント混和材を6種類(AD1〜AD6)作製した。CA1を用いた低温用急硬性セメント混和材がAD1、同様にCA2〜CA6を用いた低温用急硬性セメント混和材を、それぞれAD2〜AD6とした。セメント、骨材及び減水剤を含めて、使用材料を以下に示した。
<使用材料>
・カルシウムアルミネート類A
ガラス化率;95質量%、
ブレーン比表面積5250cm
C/Aモル比;1.39(CaOをC、AlをA)
粉末X線回折により同定された結晶;CA

・カルシウムアルミネート類B
ガラス化率;5%、
ブレーン比表面積;4000cm
C/Aモル比;1.25(CaOをC、AlをA、SiOをS)
粉末X線回折により同定された結晶;CA、C12及びCAS

・石膏
ブレーン比表面積7500cmのII型無水石膏

・アルカリ金属硫酸塩
硫酸ナトリウム(試薬、関東化学社製)

・アルカリ金属炭酸塩
炭酸リチウム(試薬、関東化学社製)

・凝結遅延剤
クエン酸ナトリウム(試薬、関東化学社製)

・セメント
普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)

・骨材
JIS R 5201規定のセメント強さ試験用標準砂

・減水剤
ポリカンルボン酸塩系高性能減水剤(商品名「NF−200」、太平洋マテリアル社製)
【0034】
【表1】

【0035】
作製した各低温用急硬性セメント混和材100質量部に対してセメント230質量部及び減水剤0.264質量部、即ちセメント100質量部に対して低温用急硬性セメント混和材43.5質量部及び減水剤0.115質量部を混合し、急硬性セメントを6種類作製した。作製した急硬性セメント900g、骨材1350g及び水道水330gを、内容積5リットルのホバートミキサ(ホバート社製)に全量投入した後、3分間混練することでモルタルを6種類作製した。練り混ぜ前の各材料温度は5℃となるように調整し、混練は5℃、湿度80%以上の恒温室内で行った。
【0036】
作製したモルタルの品質試験として、以下に示す通り、凝結時間並びに材齢3時間,6時間及び24時間の圧縮強度を測定した。これらの結果を表2、図1及び図2に示した。作業性の評価は以下に示す通りである。尚、圧縮強度試験における試験体の養生及び凝結試験は、何れも5℃、湿度80%以上の恒温室内で行った。
<品質試験方法>
・圧縮強度試験
土木学会基準JSCE−G 505−1999「円柱供試体を用いたモルタルまたはセメントペーストの圧縮強度試験方法」に準じ、各材齢の圧縮強度を測定した。このとき供試体は、試験直前まで型枠のまま5℃の恒温室内で養生し、試験直前に脱型し、最大荷重を測定し圧縮強度を求めた。尚、供試体の作製には、内径50mm、高さ100mmの型枠を用いた。
・凝結試験
JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」8.凝結時間に準じて、始発時間及び終結時間を測定し、始発時間を可使時間の指標とした。
【0037】
【表2】

【0038】
本発明の実施例に当たるモルタルは、何れも材料温度及び環境温度が5℃であっても、可使時間(始発時間)が60分以上と優れ、材齢3時間における圧縮強度が5N/mm以上且つ材齢24時間における圧縮強度が35N/mm以上と初期強度発現性も優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、5℃の材料温度及び環境温度であっても、可使時間が60分以上と優れ、材齢3時間における圧縮強度が5N/mm以上且つ材齢24時間における圧縮強度が30N/mm以上である低温用急硬性セメント組成物が得られるので、低温環境下における補修工事や緊急性の高い工事等に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムアルミネート類、石膏、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ金属炭酸塩及び凝結遅延剤を含有し、前記カルシウムアルミネート類のガラス化率が15〜55質量%である低温用急硬性セメント混和材。
【請求項2】
上記カルシウムアルミネート類が、結晶質カルシウムアルミネート類及び非晶質カルシウムアルミネート類からなるものである請求項1に記載の低温用急硬性セメント混和材。
【請求項3】
セメントと、セメントに対し請求項1又は請求項2に記載の低温用急硬性セメント混和材10〜100質量部を含有する低温用急硬性セメント組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−140293(P2012−140293A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−294226(P2010−294226)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】