説明

低温車両試験室

【課題】低温環境において車輪を停止させた状態にある車両の性能試験を効率的に行うことのできる低温車両試験室を提供する。
【解決手段】低温車両試験室1は、自動車Mを乗り入れ可能なハウジング2と、ハウジング2内の空気を冷却可能な空調機11とを備えている。ハウジング2の床面2bには、空調機11にて冷却された低温空気がハウジング2内に吹き出される吹出し口25が設けられている。そして、吹出し口25の上方にエンジンルームが位置するように自動車Mを配置することで、自動車Mのオイルパンに対し、吹出し口25から吹き出される低温空気が吹付けられるようになっている。これにより、エンジンオイルを積極的に冷却することができ、エンジンオイルが設定温度となるまでに要する時間を短縮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温環境において車輪を停止させた状態にある車両の性能試験を行うための低温車両試験室に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の性能試験には、低温環境下において車輪を停止させた状態で行われる試験がある。当該試験としては、例えば、アイドリング中やエンジンを空吹かしした時の排出ガスを分析する試験等が挙げられる。また、当該試験は、一般に、図4に示すような試験室51において行われる。図4に示す試験室51は、試験室51内を冷房可能な空調機52を備えており、試験室51内及び自動車Mの温度がともに設定温度となったところで試験が開始されることとなる。
【0003】
ところで、空調機52にて冷却された空気は、一般に、試験室51の天壁部51aに設けられた給気口53から試験室51内に供給される。これにより、試験室51内の空気が冷却されるとともに、試験室51内の冷却された空気により自動車Mが冷却されることとなる。しかしながら、この場合、自動車Mを冷却するために、試験室51内を全体的に冷房しなければいけないため、自動車Mの冷却効率が悪く、自動車Mが設定温度となるまでに多大な時間を要してしまうおそれがある。
【0004】
これに対し、中空部を有し、自動車の周囲に配設されるシート状の本体部と、本体部の中空部に低温空気を給気可能な給気装置とを具備する冷却装置を用いて自動車を冷却するといった技術がある(例えば、特許文献1参照)。当該冷却装置を用いることにより自動車を効率的に冷却することができ、自動車の冷却時間の短縮や省エネルギー化等を図ることができる。
【特許文献1】特開2004−44977号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エンジンルームの内部(エンジンルームの下部)に設けられているオイルパンに貯留されたエンジンオイルに関しては、冷却された車体により二次的に冷却されることとなるため、エンジンオイルが設定温度となるまでに比較的多くの時間を要するおそれがある。特に、自動車が試験室内まで実走してきた場合には、エンジンオイルが比較的高温(80℃程度)となっているため、かかる不具合が顕著なものとなる。
【0006】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、低温環境において車輪を停止させた状態にある車両の性能試験を効率的に行うことのできる低温車両試験室を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記目的を解決するのに適した各手段につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する手段に特有の作用効果等を付記する。
【0008】
手段1.車両を乗り入れ可能なハウジングと、
前記ハウジング内の空気を冷却可能な空調手段とを備え、
車輪を停止させた状態で車両の性能試験を行うための低温車両試験室であって、
前記ハウジングの床面には、前記空調手段にて冷却された低温空気が前記ハウジング内に吹き出される吹出し口が設けられ、
前記吹出し口の上方にエンジンルームが位置するように車両を配置することで、車両のオイルパンに対し、前記吹出し口から吹き出される低温空気が吹付けられることを特徴とする低温車両試験室。
【0009】
手段1によれば、空調手段にて冷却された低温空気をオイルパンに直接吹付け、エンジンオイルを積極的に冷却することができる。従って、比較的簡単な構成を採用しつつ、エンジンオイルが設定温度となるまでに要する時間を短縮することができる。結果として、車両の性能試験を効率的に行うことができる。
【0010】
また、例えば、空調手段にて冷却された低温空気が吹き出されるフレキシブルダクトを設け、低温空気がオイルパンに当たるようにフレキシブルダクトを設置するような場合、毎回の性能試験に際し、フレキシブルダクトの設置、除去作業を行う必要がある。これに対し、本手段によれば、基本的に、吹出し口の上方にエンジンルームが位置するようにして車両をハウジングに乗入れ、試験が終ったら車両に乗ってハウジングから車両を搬出するだけなので、性能試験に際し上記のような煩わしい作業を行わなくても済み、性能試験を効率的に行うことができる。
【0011】
加えて、例えば、ハウジング内部に低温空気が供給される箇所が、ハウジングの天壁部に形成された給気開口部のみである場合、エンジンオイルの冷却速度を極力速めるべく、車両の下側に風を送るために比較的大きな送風手段を設けたり、給気開口部から供給される空気の温度を設定温度よりも大幅に低くしたりすることが考えられるが、消費エネルギーや設備コストの増加を招く割に、それほどの効果をあげることができないおそれがある。これに対し、本手段のように、オイルパンに直接低温空気が吹付けられるように構成することで、上記のような対策を講じなくても、確実にエンジンオイルの冷却速度を速めることができ、消費エネルギーや設備コストの増加を抑制することができる。
【0012】
手段2.前記吹出し口から低温空気が吹き出され、前記吹出し口の上方に位置する車両のオイルパンに低温空気が吹付けられる第1の状態と、前記第1の状態よりも前記吹出し口から吹き出される低温空気の風量が少ない第2の状態との間で前記ハウジング内の空調状態を切替可能な状態切替手段を備えていることを特徴とする手段1に記載の低温車両試験室。
【0013】
手段2によれば、エンジンオイルを冷却する際には、吹出し口の上方に位置する車両のオイルパンに低温空気が吹付けられる程度に吹出し口から低温空気を吹き出し、例えば、エンジンオイルが設定温度にまで冷却された場合(試験中を含む)には、吹出し口から吹き出される低温空気の風量を少なくすることができる。従って、試験中においてエンジンオイルが必要以上に冷却されてしまい、正確な(自然な)データが取れないといった事態を回避することができる。
【0014】
手段3.前記ハウジングの天壁部又は側壁部に設けられ、前記空調手段にて冷却された空気を前記ハウジング内部に供給する給気開口部と、
前記給気開口部と前記空調手段とを連通させる給気側連通路において前記給気開口部へと向かう空気流を生起させる第1送風手段と、
前記吹出し口と前記空調手段とを連通させる吹出し側連通路において前記吹出し口へと向かう空気流を生起させる第2送風手段とを備え、
低温環境下における車両の性能試験を行うべく、前記ハウジング内の空気及び車両を冷却する際には、前記第1送風手段及び前記第2送風手段が作動され、
前記ハウジング内の空気、車両の車体、及びエンジンオイルが設定温度となり、性能試験を開始する際には、前記第2送風手段の作動が停止されることを特徴とする手段1又は2に記載の低温車両試験室。
【0015】
手段3によれば、比較的簡単な構成を採用しつつ、基本的に上記手段2と同様の作用効果が奏される。また、吹出し口からの低温空気の供給を停止しても、給気開口部から低温空気を供給することで、試験中においてハウジング内の温度を設定温度に保つことができる。
【0016】
手段4.前記ハウジングは複数台の車両を収容可能な大きさに構成されるとともに、前記ハウジングに収容された車両の数に対応して、低温空気が吹き出される前記吹出し口の数を増減させることができることを特徴とする手段1乃至3のいずれかに記載の低温車両試験室。
【0017】
手段4によれば、複数台の車両をハウジングに収容して同時に試験する場合であっても、各車両に対して個別に吹出し口を設置することができるため、上記作用効果が確実に奏されることとなる。また、例えば、同時に試験される車両の数よりも、低温空気の吹き出される吹出し口の数が多いことに起因して、エネルギー効率の低下を招いてしまうといった事態を回避することができる。特に、全ての吹出し口が連通している場合には、使用する吹出し口の数が少なければ、吹出し口から吹出される低温空気の風量が大きくなるため、冷却効率をより高めることができる。従って、ハウジング内に搬入されて同時に試験される車両の台数が増減しても柔軟に対応することができ、低温車両試験室の汎用性を向上させることができる。尚、吹出し口は試験対象である車両よりも幅狭に構成されることとしてもよい。
【0018】
手段5.前記ハウジングの床面に沿って前記吹出し口の位置を調節可能に構成されていることを特徴とする手段1乃至4のいずれかに記載の低温車両試験室。
【0019】
手段5によれば、車両と吹出し口との相対位置関係に関して、車両を移動させるだけでは行えないような調節(例えば、車両を車幅方向に動かせない場合には吹出し口の位置を車幅方向に調節すること)が可能となり、吹出し口から吹き出される低温空気を的確にオイルパンに吹付けることができる。
【0020】
手段6.前記吹出し口の開口形状及び開口面積を調節可能に構成されていることを特徴とする手段1乃至5のいずれかに記載の低温車両試験室。
【0021】
手段6によれば、車種によりオイルパンの形状や大きさが異なる場合であっても、これに対応して吹出し口の開口形状や開口面積を変更することで、吹出し口から吹き出される低温空気を的確にオイルパンに吹付けることができる。また、吹出し口の開口面積が必要以上に大きいことに起因して、吹出し口から吹出される低温空気のうちオイルパンの冷却に(ほとんど)寄与しない低温空気の割合が多くなってしまい、エネルギー効率の低下を招いてしまうといった事態を抑制することができる。
【0022】
手段7.前記吹出し口の上下位置を調節可能に構成されていることを特徴とする手段1乃至6のいずれかに記載の低温車両試験室。
【0023】
手段7によれば、吹出し口とオイルパンとの距離を調節することができることから、車輪の接地面から車体までの距離が大きい車両に関しても、吹出し口から吹き出される低温空気を的確にオイルパンに吹付けることができ、エンジンオイルの冷却速度が遅くなってしまうといった事態を防止することができる。
【0024】
尚、吹出し口の高さ位置を変更しなくても、吹出し口から吹き出される低温空気の風速や温度を変更することでも、車輪の接地面から車体までの距離が大きい車両に関して冷却速度が遅くなってしまうといった事態を防止することができるのではあるが、省エネルギー化を図る上では、吹出し口の高さ位置を変更する方法を採用することが望ましい。
【0025】
手段8.前記ハウジングの床面に形成され、上方に開口する溝状のピットチャンバーと、
前記ピットチャンバーと前記空調手段とを連通させる吹出しダクトとを備え、
前記ピットチャンバーの開口部には、開口孔が形成された有孔蓋と開口孔のない閉塞蓋とが設けられ、
前記ピットチャンバーのうち、試験に際して車両が設置される部位に対応して前記有孔蓋が配置され、それ以外の部位に対応して前記閉塞蓋が配置されていることを特徴とする手段1乃至7のいずれかに記載の低温車両試験室。
【0026】
手段8によれば、空調手段にて冷却された低温空気が吹出しダクト及びピットチャンバーを介して有孔蓋の開口孔(吹出し口)から吹出される。このため、有孔蓋の上方に車両のエンジンルームを位置させることで、オイルパンに対し低温空気が吹付けられることとなる。従って、比較的簡単な構成を採用しつつ、上記手段1の作用効果が奏される低温車両試験室を得ることができる。また、有孔蓋及び閉塞蓋を着脱及び位置換え可能に構成することにより、比較的簡単な構成を採用しつつ、上記手段4、5の作用効果が奏される低温車両試験室を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に、低温車両試験室の一実施の形態について図面を参照しつつ説明する。図1及び図2は低温車両試験室の構成を示す模式断面図である。図3は吹出しダクト及びピットチャンバー等を示す部分斜視図である。
【0028】
図1等に示すように、車両としての自動車Mの性能試験が行われる低温車両試験室1は、複数台(例えば4台)の自動車Mを収容可能な大きさを有するハウジング2と、ハウジング2の空気を閉回路状に循環させる空調機構3とを備えている。図2に示すように、ハウジング2には、自動車Mを乗入れ可能な搬入口5が設けられているとともに、搬入口5を開閉するシャッタ6が設けられている。
【0029】
空調機構3は、空気を冷却可能な空調手段としての空調機11と、ハウジング2の天壁部2aに設けられた給気開口部12及び還気開口部13と、空調機11と給気開口部12とを連通させる給気側連通路としての給気ダクト14と、空調機11と還気開口部13とを連通させる還気ダクト15とを備えている。
【0030】
また、給気ダクト14の内部には、給気ダクト14内に給気開口部12へと向かう空気流を生起させる第1送風手段としての給気ファン16が設けられている。そして、給気ファン16が作動することにより、空調機11にて冷却された低温空気が給気ダクト14を通じて給気開口部12からハウジング2内に吹き出されるとともに、ハウジング2内の空気が還気として還気開口部13に吸い込まれるようになっている。
【0031】
さて、本実施形態では、低温車両試験室1は、ハウジング2の床面2bに形成され、上方に開口する溝状のピットチャンバー21と、ピットチャンバー21と空調機11とを連通させる吹出しダクト22とを備えている。ピットチャンバー21には、ピットチャンバー21内の結露の発生を抑制するべく、内壁面に沿って図示しない断熱材が配設されている。また、ピットチャンバー21の開口部には、ピットチャンバー21の長手方向に並ぶようにして、格子状の開口孔(以下、吹出し口25と称する)が形成された有孔蓋としての格子蓋(グレーチング)24と、開口孔のない閉塞蓋26とが設けられている。
【0032】
本実施形態では、ピットチャンバー21のうち、試験に際して自動車Mが設置される部位に対応して格子蓋24が配置され、それ以外の部位に対応して閉塞蓋26が配置されている。具体的に、格子蓋24は、試験対称である自動車Mよりも幅狭に構成されるとともに、ハウジング2に搬入されて同時に試験されることとなる自動車Mの台数と同じ数(例えば、自動車Mの数が4台なら格子蓋24は4つ)だけ設置されている。さらに、格子蓋24は、ピットチャンバー21の長手方向において自動車Mの幅よりも広い間隔をとるようにして所定間隔毎に配置されている。加えて、ピットチャンバー21の長手方向において、閉塞蓋26の幅は格子蓋24の幅の1/2となっている。
【0033】
また、格子蓋24及び閉塞蓋26は、ピットチャンバー21の内壁面に形成された一対の段差部に載置されているだけ(簡易固定してもよい)であり、比較的容易に格子蓋24及び閉塞蓋26の着脱、及び、位置換えを行うことができるようになっている。尚、本実施形態では、吹出しダクト22及びピットチャンバー21が吹出し側連通路に相当する。
【0034】
さらに、吹出しダクト22の内部には、吹出しダクト22内にピットチャンバー21へと向かう空気流を生起させる第2送風手段、状態切替手段としての吹出しファン28が設けられている(図1参照)。そして、吹出しファン28が作動することにより、空調機11にて冷却された低温空気が、吹出しダクト22及びピットチャンバー21を通じて格子蓋24の吹出し口25からハウジング2内に吹出されるようになっている。尚、本実施形態では、給気ダクト14及び吹出しダクト22は空調機11側の端部が共通化されており、途中から給気ダクト14と吹出しダクト22とに分岐されている。
【0035】
尚、図2に示すように、自動車Mの排気管(マフラー)31には、ハウジング2の側壁部を貫通して設けられる排気ダクト32が取付けられており、排出ガスがハウジング2の外部に排出されるよう構成されている。また、排気ダクト32は、排出ガスを分析する図示しない排出ガス分析装置に接続されている。
【0036】
ここで、自動車Mの性能試験を開始するまでの手順について簡単に説明する。まず、自動車Mをハウジング2に乗り入れて、自動車Mのエンジンルームが、格子蓋24の上方に位置するように配置する。尚、複数台の自動車Mをハウジング2に搬入する場合には、自動車Mがピットチャンバー21の長手方向に沿って横向きで並ぶように配置する。次に、自動車Mのエンジンを停止するとともに、自動車Mの排気管31に排気ダクト32を接続する。そして、空調機11、給気ファン16、及び吹出しファン28を作動させ、空調機11にて冷却された低温空気(例えば−40℃)を、給気開口部12、及び格子蓋24の吹出し口25からハウジング2内に供給する。給気開口部12から吹き出される低温空気によりハウジング2内が全体的に冷却される。また、吹出し口25から吹き出される低温空気が自動車Mのオイルパンに吹付けられ、エンジンオイルが重点的に冷却される。ハウジング2内、自動車Mの車体、及びエンジンオイルが設定温度(例えば−35℃)になった場合には、吹出しファン28の作動を停止して、吹出し口25から低温空気がほとんど吹き出されないように(オイルパンに低温空気が吹付けられないように)する。尚、空調機11及び給気ファン16に関しては、試験中においてハウジング2内が設定温度に保たれるように引き続き作動される。以上のようにして低温環境を整えた後、車輪を停止させた状態で行われる自動車Mの性能試験が開始される。
【0037】
以上詳述したように、本実施形態では、ハウジング2の天壁部2aに設けられた給気開口部12とは別に、ハウジング2の床面2bにおいて、空調機11にて冷却された低温空気が吹き出される吹出し口25が設けられている。このため、吹出し口25(格子蓋24)の上方にエンジンルームが位置するようにして自動車Mを配置することで、オイルパンに対し、吹出し口25から吹き出される低温空気が吹付けられることとなる。このように、低温空気をオイルパンに直接吹付けることで、エンジンオイルを積極的に冷却することができ、比較的簡単な構成を採用しつつ、エンジンオイルが設定温度となるまでに要する時間を短縮することができる。結果として、自動車Mの性能試験を効率的に行うことができる。
【0038】
さらに、ハウジング2内の空気及び自動車Mの車体が設定温度となるまでに要する時間と、エンジンオイルが設定温度となるまでに要する時間とに開きが生じてしまうといった事態を抑制することができる。つまり、ハウジング2内の空気及び自動車Mの車体が設定温度となってから性能試験を開始するまで(エンジンオイルが設定温度になるまで)の時間を短縮することができることから、ハウジング2内の空気及び車体が設定温度となってから性能試験を開始するまでの間に、ハウジング2内の空気や車体を設定温度に維持するためのエネルギーを余分に消費してしまうといった事態を抑制することができる。結果として、性能試験を開始するまでの冷却効率(エネルギー効率)の向上を図ることができる。
【0039】
また、例えば、空調機11にて冷却された低温空気が吹き出されるフレキシブルダクトを設け、低温空気がオイルパンに当たるようにフレキシブルダクトを設置するような場合、毎回の性能試験に際し、排気管31と排気ダクト32とを着脱する作業の他に、フレキシブルダクトの設置、除去作業を行う必要がある。これに対し、本実施形態によれば、基本的に、吹出し口25の上方にエンジンルームが位置するようにして自動車Mをハウジング2に乗入れて排気管31と排気ダクト32とを接続し、試験が終ったら排気管31から排気ダクト32を取外し、自動車Mに乗ってハウジング2から自動車Mを搬出するだけなので、性能試験に際し上記のような煩わしい作業を行わなくても済み、性能試験を効率的に行うことができる。
【0040】
加えて、例えば、ハウジング2内に低温空気が供給される箇所が、給気開口部12のみである場合、エンジンオイルの冷却速度を極力速めるべく、自動車M(車体)の下側に風を送るために給気ダクト14の径を大きくして大型の給気ファン16を設けたり、給気開口部12から供給される空気の温度を設定温度よりも大幅に低くしたりすることが考えられるが、消費エネルギーや設備コストの増加を招く割に、それほどの効果をあげることができないおそれがある。これに対し、本実施形態のように、オイルパンに直接低温空気が吹付けられるように構成することで、上記のような対策を講じなくても、確実にエンジンオイルの冷却速度を速めることができ、消費エネルギーや設備コストの増加を抑制することができる。
【0041】
また、吹出しファン28を作動することで吹出し口25から低温空気が勢いよく吹き出される状態(第1の状態)とし、吹出しファン28の作動を停止させることで、吹出し口25から低温空気がほとんど吹き出されない状態(第2の状態)とすることができる。従って、試験前のエンジンオイルを冷却する際には吹出しファン28を作動させることで、エンジンオイルの冷却速度を速めることができ、エンジンオイルが設定温度にまで冷却された場合(試験中)には、吹出しファン28の作動を停止させることにより、試験中においてエンジンオイルが必要以上に冷却されることに起因して、正確な(自然な)データが取れないといった事態を回避することができる。尚、本実施形態では、試験中においても給気開口部12からの低温空気の供給は継続されるため、試験中のハウジング2内の温度を設定温度に保つことができる。
【0042】
加えて、本実施形態では、格子蓋24及び閉塞蓋26は着脱及び入換え可能になっている。このため、互いに隣接する格子蓋24と閉塞蓋26を入れ換えることで、吹出し口25の位置を変更することができる。このように吹出し口25の位置を調節可能とすることで、自動車Mと吹出し口25との相対位置関係に関して、自動車Mを移動させるだけでは行えないような調節(例えば、ハウジング2内において互いに接触しないように複数台の大型の自動車を配置すると、互いに隣接する吹出し口25の間隔が詰まっていて、オイルパンと吹出し口25との位置がずれてしまう場合に、吹出し口25の位置を車幅方向にずらすといったような調節)が可能となり、吹出し口25から吹き出される低温空気を的確にオイルパンに吹付けることができる。従って、オイルパンに吹出し口25から吹き出される低温空気が的確に吹付けられないことに起因して、エンジンオイルの冷却速度が遅くなってしまうといった事態を防止することができる。
【0043】
また、本実施形態では、ハウジング2に収容された自動車Mの数に対応して、比較的容易に吹出し口25の数を増減させることができる。すなわち、例えば、格子蓋24に代えて予備の閉塞蓋26(本例では、閉塞蓋26の幅が格子蓋24の幅の1/2であるため1枚の格子蓋24につき2枚の閉塞蓋26が必要)を設置すれば、吹出し口25の数を減らすことができる。また、例えば、格子蓋24の吹出し口25を覆う蓋(鉄板等)を設置したり、該蓋を外したりすることでも吹出し口25の数を増減させることができる。
【0044】
従って、複数台の自動車Mをハウジング2に収容して同時に試験する場合であっても、各自動車Mに対して個別に吹出し口25を設置することができ、自動車Mの性能試験を効率的に行うことができるといった上記作用効果が確実に奏されることとなる。また、例えば、同時に試験される自動車Mの数よりも、吹出し口25の数が多いことに起因して、エネルギー効率の低下を招いてしまうといった事態を回避することができる。特に、本実施形態では、全ての吹出し口25が連通しているため、吹出し口25の数が少なくなることによって、吹出し口25から吹出される低温空気の風量が大きくなり、冷却効率をより高めることができる。従って、ハウジング2内に搬入されて同時に試験される自動車Mの台数が増減しても柔軟に対応することができ、低温車両試験室1の汎用性を向上させることができる。ちなみに、閉塞蓋26の幅が格子蓋24の幅の1/2であるため、格子蓋24に代えて予備の閉塞蓋26を設置しても隙間が生じることなく、低温空気が吹出し口25以外の部位(オイルパンに対応しない部位)から漏れ出すことに起因するエネルギー効率の低下を防止することができる。
【0045】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0046】
(a)上記実施形態におけるハウジング2の大きさは特に限定されるものではなく、様々な大きさに構成することができる。また、例えば、4台の自動車Mの性能試験を同時に行い得る低温車両試験室1において、必ずしも4台の自動車Mを搬入して同時に性能試験を行う必要はなく、1〜3台の自動車Mを搬入して性能試験を行うこととしてもよい。
【0047】
(b)上記実施形態において、吹出し口25の開口形状や開口面積を調節可能に構成してもよい。例えば、格子蓋24の吹出し口25の一部を閉塞可能なシャッタを設け、シャッタをスライドさせることで吹出し口25の開口形状や開口面積を変更することとしてもよい。また、上記実施形態においても、吹出し口25の形状や大きさの異なる予備の格子蓋24を用意しておくことで、吹出し口25の開口形状や開口面積を変更することができる。このように、吹出し口25の開口形状や開口面積を調節可能とすることで、オイルパンの形状や大きさが異なる場合であっても、吹出し口25の開口形状や開口面積を変更することで、吹出し口25から吹き出される低温空気を的確にオイルパンに吹付けることができる。従って、オイルパンに吹出し口25から吹き出される低温空気が的確に吹付けられないことに起因して、エンジンオイルの冷却速度が遅くなってしまうといった事態を防止することができる。また、吹出し口25の開口面積が必要以上に大きいことに起因して、吹出し口25から吹出される低温空気のうちオイルパンの冷却に(ほとんど)寄与しない低温空気の割合が多くなってしまい、エネルギー効率の低下を招いてしまうといった事態を抑制することができる。
【0048】
尚、格子蓋24の吹出し口25の一部を閉塞可能なシャッタを設け、シャッタをスライドさせることで吹出し口25の位置を変更することもできる。また、上記実施形態では、ピットチャンバー21の長手方向において閉塞蓋26の幅が格子蓋24の幅の1/2であったが、特にこのような構成に限定されるものではなく、例えば、ピットチャンバー21の長手方向において閉塞蓋26の幅を格子蓋24の幅の1/3、1/4、1/5としてもよい。この場合、格子蓋24と閉塞蓋26とを入れ換えることによって、吹出し口25の位置をより細かく調節することができる。
【0049】
(c)上記実施形態において、吹出し口25の上下位置を調節可能に構成してもよい。例えば、格子蓋24を上下方向に伸縮可能に構成してもよい。また、上記実施形態においても、高さの異なる予備の格子蓋24を用意しておくことで、吹出し口25の上下位置を変更することができる。このように、吹出し口25の上下位置を調節可能とすることで、吹出し口25とオイルパンとの距離を調節することができ、車輪の接地面から車体までの距離が大きい自動車に関しても、吹出し口25から吹き出される低温空気を的確にオイルパンに吹付けることができる。従って、エンジンオイルの冷却速度が遅くなってしまうといった事態を防止することができる。
【0050】
また、吹出し口25の高さ位置を変更しなくても、吹出し口25から吹き出される低温空気の風速や温度を変更することでも、車輪の接地面から車体までの距離が大きい自動車に関して冷却速度が遅くなってしまうといった事態を防止することができるのではあるが、省エネルギー化を図る上では、吹出し口25の高さ位置を変更する方法を採用することが望ましい。
【0051】
(d)上記実施形態において吹出しダクト22を2つ設け、ピットチャンバー21の長手方向両端部にそれぞれ吹出しダクト22を接続することとしてもよい。当該構成を採用することにより、格子蓋24(吹出し口25)が複数設置されている場合において、格子蓋24毎に吹出し口25から吹き出される低温空気の風量が大きく異なってしまうといった事態を抑制することができる。尚、吹出しダクト22を2つ以上設け、ピットチャンバー21の両端部及び中間位置に吹出しダクト22を接続することとしてもよい。
【0052】
(e)上記実施形態では、吹出しファン28を作動させたり作動を停止させたりすることで、吹出し口25から低温空気が勢いよく吹き出される状態と、ほとんど吹き出されない状態とに切替えているが、特にこのような構成に限定されるものではなく、例えば、吹出しダクト22を開閉する状態切替手段としてのダンパを設けることとしてもよい。尚、当該構成を採用する場合、給気ダクト14及び吹出しダクト22に個別に対応して給気ファン16及び吹出しファン28を設ける必要はなく、例えば、給気ダクト14及び吹出しダクト22が共通化されている部位において、給気ダクト14及び吹出しダクト22に給気開口部12及びピットチャンバー21へと向かう空気流を生起させるファンを1つ設けることとしてもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、給気ファン16及び吹出しファン28が給気ダクト14及び吹出しダクト22の内部に設けられているが、例えば、給気ファン16及び吹出しファン28を空調機11に内蔵したり、吹出しファン28をピットチャンバー21内に設けたりすることとしてもよい。また、各格子蓋24に対応して送風機を設けることとしてもよい。
【0054】
さらに、給気ダクト14に低温空気を供給するための空調機とは別に、ピットチャンバー21に低温空気を供給するための空調機を設けることとしてもよい。また、上記実施形態では、給気開口部12及び還気開口部13と空調機11との間を、給気ダクト14及び還気ダクト15により連通させているが、特にこのような構成に限定されるものではなく、例えば、天井内の空間を天井チャンバとして還気ダクト15の代わりに利用してもよい。加えて、給気ダクト14や還気ダクト15を省略し、空調機をハウジング2の天壁部2aに形成された開口部に臨むようにして設けることとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】一実施形態における低温車両試験室を示す断面図である。
【図2】低温車両試験室を示す断面図である。
【図3】吹出しダクト及びピットチャンバー等を示す部分斜視図である。
【図4】従来技術における低温車両試験室を示す断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1…低温車両試験室、2…ハウジング、11…空調機、12…給気開口部、14…給気側連通路としての給気ダクト、16…第1送風手段としての給気ファン、21…吹出し側連通路を構成するピットチャンバー、22…吹出し側連通路を構成する吹出しダクト、24…有孔蓋としての格子蓋、25…吹出し口、26…閉塞蓋、28…第2送風手段、状態切替手段としての吹出しファン、M…車両としての自動車。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を乗り入れ可能なハウジングと、
前記ハウジング内の空気を冷却可能な空調手段とを備え、
車輪を停止させた状態で車両の性能試験を行うための低温車両試験室であって、
前記ハウジングの床面には、前記空調手段にて冷却された低温空気が前記ハウジング内に吹き出される吹出し口が設けられ、
前記吹出し口の上方にエンジンルームが位置するように車両を配置することで、車両のオイルパンに対し、前記吹出し口から吹き出される低温空気が吹付けられることを特徴とする低温車両試験室。
【請求項2】
前記吹出し口から低温空気が吹き出され、前記吹出し口の上方に位置する車両のオイルパンに低温空気が吹付けられる第1の状態と、前記第1の状態よりも前記吹出し口から吹き出される低温空気の風量が少ない第2の状態との間で前記ハウジング内の空調状態を切替可能な状態切替手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の低温車両試験室。
【請求項3】
前記ハウジングの天壁部又は側壁部に設けられ、前記空調手段にて冷却された空気を前記ハウジング内部に供給する給気開口部と、
前記給気開口部と前記空調手段とを連通させる給気側連通路において前記給気開口部へと向かう空気流を生起させる第1送風手段と、
前記吹出し口と前記空調手段とを連通させる吹出し側連通路において前記吹出し口へと向かう空気流を生起させる第2送風手段とを備え、
低温環境下における車両の性能試験を行うべく、前記ハウジング内の空気及び車両を冷却する際には、前記第1送風手段及び前記第2送風手段が作動され、
前記ハウジング内の空気、車両の車体、及びエンジンオイルが設定温度となり、性能試験を開始する際には、前記第2送風手段の作動が停止されることを特徴とする請求項1又は2に記載の低温車両試験室。
【請求項4】
前記ハウジングは複数台の車両を収容可能な大きさに構成されるとともに、前記ハウジングに収容された車両の数に対応して、低温空気が吹き出される前記吹出し口の数を増減させることができることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の低温車両試験室。
【請求項5】
前記ハウジングの床面に沿って前記吹出し口の位置を調節可能に構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の低温車両試験室。
【請求項6】
前記吹出し口の開口形状及び開口面積を調節可能に構成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の低温車両試験室。
【請求項7】
前記吹出し口の上下位置を調節可能に構成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の低温車両試験室。
【請求項8】
前記ハウジングの床面に形成され、上方に開口する溝状のピットチャンバーと、
前記ピットチャンバーと前記空調手段とを連通させる吹出しダクトとを備え、
前記ピットチャンバーの開口部には、開口孔が形成された有孔蓋と開口孔のない閉塞蓋とが設けられ、
前記ピットチャンバーのうち、試験に際して車両が設置される部位に対応して前記有孔蓋が配置され、それ以外の部位に対応して前記閉塞蓋が配置されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の低温車両試験室。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−222447(P2009−222447A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65028(P2008−65028)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000001834)三機工業株式会社 (316)