説明

低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理装置および処理方法

【課題】第1に、過酸化水素が浪費されず、効率的で無駄がなくランニングコストに優れると共に、第2に、後処理コストにも優れ、第3に、薬品添加量制御が容易であり、第4に、処理安定性,イニシャルコスト,スペース面等にも優れた、低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理装置および処理方法を提案する。
【解決手段】この処理装置2および処理方法は、被処理水3に含有された低濃度のポリ塩素化ビフェニル1を、フェントン法で酸化,分解する。そして過酸化水素添加手段6が、処理槽4のに供給された処理水3に、反応当初に過酸化水素の水溶液を全量添加し、鉄イオン添加手段7が、処理槽4の被処理水3に2価の鉄イオン溶液を分割添加する。そしてpH調整手段8が、供給される被処理水3、および供給された被処理水3に対し鉄イオン溶液の分割添加の都度、pH調整剤を添加して、被処理水3をpH4程度に維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理装置および処理方法に関する。すなわち、低濃度のポリ塩素化ビフェニルを、フェントン法に基づき酸化,分解する、処理装置および処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
《技術的背景》
ポリ塩素化ビフェニル(PCB)は、ビフェニルの芳香環の水素原子を塩素原子で置換した有機化合物の総称であり、置換塩素の原子数や位置により多くの異性体が存在する。
そしてポリ塩素化ビフェニルは、その物理的性質や化学的安定性に鑑み、熱媒体や絶縁油等として1950年頃より広く使用されていたが、1970年代に至り、強い毒性が認識され、製造禁止,輸入禁止,使用中止となっている。
このようにポリ塩素化ビフェニルは、環境ホルモン,有機汚染物質のひとつとなっており、分解されずに残留し易く、大きな社会問題化している。特に、その製造禁止,使用中止等以来、事業者サイドに順次回収,保管されており、環境汚染リスクが懸念され、その確実な処理技術が切望されている。
【0003】
《従来技術》
このようなポリ塩素化ビフェニルの処理技術は、各種検討されつつあるが、例えば次のような技術が開発されていた。
まず、吸着・脱離法が開発されていた。すなわち、ポリ塩素化ビフェニルを、活性炭等の吸着剤に吸着された後、ジクロロメタンやアセトン等の脱離溶媒に脱離させてから、回収タンクに脱離液を回収して、酸化剤,オゾン,紫外線照射等により酸化,分解する処理技術が、開発されていた。
又、オゾン・過酸化水素・紫外線法も開発されていた。すなわち、ポリ塩素化ビフェニルの含有水を、凝集剤やアルカリを添加した後、オゾン・過酸化水素・紫外線照射等にて生成されたOHラジカルにより、酸化,分解する処理技術も開発されていた。
【0004】
《先行技術文献情報》
吸着・離脱法としては、次の特許文献1に示されたものが挙げられる。又、オゾン・過酸化水素・紫外線法としては、次の特許文献2に示されたものが挙げられる。
【特許文献1】特開2003−10842号公報
【特許文献2】特開2001−129569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
《問題点について》
ところで、このような従来のポリ塩素化ビフェニルの処理技術については、次の問題が指摘されていた。
すなわち、処理性能,イニシャルコスト,ランニングコスト,設置スペース等に問題が指摘され、これらの点が、ポリ塩素化ビフェニルの大規模処理,大容量処理へのスケールアップ適用、つまり実用化への大きなネックとなっていた。
例えば、吸着・脱離法に関しては、活性炭等の破過による処理能力ダウン,処理の安定性,活性炭等の交換コスト,タンク等の設備設置スペース等に、問題が指摘されていた。又、オゾン・過酸化水素・紫外線法に関しては、OHラジカル生成効率の悪さ,設備過大化,電力消費コスト,UVランプ劣化等に、問題が指摘されていた。
その他のこの種従来例の処理技術に関しても、これらに準じた問題が指摘されていた。特に、過酸化水素にてOHラジカルを生成して、ポリ塩素化ビフェニルを酸化,分解する技術に関しては、過酸化水素がOHラジカルを生成することなく、水と酸素に分解され浪費されてしまう比率が高かった。
この点をカバーすべく、予め極めて多量の過酸化水素を過剰なまでに添加使用することも行われていたが、その分、効率が悪く,無駄が多く,ランニングコストが嵩む、という難点があった。更に、処理後の廃液中の過酸化水素の残存含有量が多くなり、中和処理のための後処理コストが嵩む、という指摘もあった。
【0006】
《本発明について》
本発明の低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理装置および処理方法は、このような実情に鑑み、上記従来例の課題を解決すべくなされたものである。
そして本発明は、第1に、過酸化水素が浪費されず、効率的で無駄がなくランニングコストに優れると共に、第2に、後処理コストにも優れ、第3に、薬品添加量制御が容易であり、第4に、処理安定性,イニシャルコスト,スペース面等にも優れた、低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理装置および処理方法を提案することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
《請求項について》
このような課題を解決する本発明の技術的手段は、次のとおりである。まず、請求項1については次のとおり。
請求項1の低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理装置は、被処理水に含有された低濃度のポリ塩素化ビフェニルを、フェントン法で酸化,分解する。そして処理槽と、該処理槽に付設された処理水供給手段,過酸化水素添加手段,鉄イオン添加手段,pH調整手段とを、備えている。
該処理水供給手段は、該処理槽に低濃度のポリ塩素化ビフェニルを含有した被処理水を供給する。該過酸化水素添加手段は、該処理槽の被処理水に過酸化水素を添加する。該鉄イオン添加手段は、該処理槽の被処理水に2価の鉄イオンを添加する。
該pH調整手段は、該処理水供給手段から該処理槽に供給される被処理水、および該処理槽の被処理水にpH調整剤を添加して、被処理水を所定弱酸性に維持すること、を特徴とする。
【0008】
請求項2については、次のとおり。請求項2の低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理装置では、請求項1において、該過酸化水素添加手段は、反応当初に過酸化水素の水溶液を全量添加する。該鉄イオン添加手段は、過酸化水素の添加後に間欠的に複数サイクル繰り返して、2価の鉄イオン溶液を分割添加する。
該pH調整手段は、過酸化水素の添加前には酸pH調整剤を添加し、過酸化水素の添加後においては鉄イオン溶液の添加毎に、アルカリpH調整剤を添加すること、を特徴とする。
請求項3については、次のとおり。請求項3の低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理装置では、請求項2において、該鉄イオン添加手段は、硫酸第一鉄の水溶液を添加する。該pH調整手段は、例えば硫酸又はカセイソーダを添加し、もって該処理槽内の被処理水をpH4程度に維持して、添加される過酸化水素の水と酸素への分解反応を抑制すること、を特徴とする。
請求項4については、次のとおり。請求項4の低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理装置では、請求項2において、該処理槽内では、全量添加された過酸化水素が、触媒として分割添加される2価の鉄イオンにて、分割添加の都度還元されてOHラジカルを生成する。
これと共に、被処理水に含有されたポリ塩素化ビフェニルが、このOHラジカルにて酸化,分解され、もって水や炭酸ガス等の低分子化合物に無機化されること、を特徴とする。
【0009】
請求項5については、次のとおり。請求項5の低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理方法では、被処理水に含有された低濃度のポリ塩素化ビフェニルを、フェントン法の処理プロセスに基づき酸化,分解する。
そして、低濃度のポリ塩素化ビフェニルを含有した被処理水に対し、過酸化水素と2価の鉄イオンとpH調整剤とが、添加される。過酸化水素は、反応当初に全量添加される。2価の鉄イオンは、過酸化水素の添加後に間欠的に複数サイクル繰り返して、分割添加される。
pH調整剤は、過酸化水素の添加前は酸pH調整剤が添加され、過酸化水素の添加後は鉄イオン溶液の添加毎にアルカリpH調整剤が添加され、もって被処理水を所定弱酸性に維持すること、を特徴とする。
【0010】
請求項6については、次のとおり。請求項6の低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理方法では、請求項5において、2価の鉄イオンとしては、硫酸第一鉄の水溶液が添加される。
これと共に、pH調整剤としては、例えば硫酸又はカセイソーダが添加され、もって被処理水をpH4程度に維持して、添加される過酸化水素の水と酸素への分解反応を抑制すること、を特徴とする。
請求項7については、次のとおり。請求項7の低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理方法では、請求項5において、水溶液として全量添加された過酸化水素が、触媒として分割添加される2価の鉄イオンにて、分割添加の都度還元されてOHラジカルが生成される。そこで、被処理水に含有されたポリ塩素化ビフェニルが、このOHラジカルにて酸化,分解されて、水や炭酸ガス等の低分子化合物に無機化されること、を特徴とする。
請求項8については、次のとおり。請求項8の低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理方法では、請求項7において、更に、過酸化水素の還元反応にて生成された水酸化イオンが、2価の鉄イオンの酸化反応にて生成された3価の鉄イオンにて酸化されて、OHラジカルが生成される。そこで、被処理水に含有されたポリ塩素化ビフェニルが、このOHラジカルにて酸化,分解されて、水や炭酸ガス等の低分子化合物に無機化されること、を特徴とする。
【0011】
《作用等について》
本発明は、このような手段よりなるので、次のようになる。
(1)低濃度のポリ塩素化ビフェニルを含有した被処理水は、処理装置に供給され、もってフェントン法の処理プロセスに基づく処理方法により、ポリ塩素化ビフェニルが酸化,分解される。
(2)まず、この処理装置は、処理水供給手段,処理槽,後処理槽を備えている。処理槽には、過酸化水素添加手段,鉄イオン添加手段,pH調整手段等が、付設されている。
(3)そこで、被処理水は処理槽に供給されるが、その前に、pH調整手段から硫酸等が添加されて、pH4程度の弱酸性とされる。
(4)処理槽では被処理水に対して、まず、過酸化水素添加手段から過酸化水素が、全量添加される。
(5)それから、鉄イオン添加手段から2価の鉄イオン溶液が、分割添加されるが、その分割添加毎に、pH調整手段からカセイソーダ等が添加され、被処理水の弱酸性が維持される。
(6)さてそこで、鉄イオンを触媒として、過酸化水素がOHラジカルを生成する。そして、このOHラジカルの生成反応は、まず、鉄イオンが分割添加されるのでOHラジカルを消費する反応が起こる虞もなく、更に、弱酸性雰囲気なので鉄イオンの触媒機能が促進されると共に、過酸化水素が水と酸素に分解,浪費されることも回避され、もって効率良く実施される。
(7)OHラジカルは、前記反応にて生成された3価の鉄イオンと水酸化イオンとの反応によっても、生成される。
(8)そして処理槽では、OHラジカルの強力な酸化力により、被処理水中のポリ塩素化ビフェニルは酸化,分解されて、水や炭酸ガス等の低分子化合物に無機化される。
(9)しかる後、なお被処理水は、後処理槽において所定の後処理が行われて、外部排水される。
(10)ところで、この処理装置および処理方法では、その薬品添加量が反応理論値から容易に算出されると共に、その構成も比較的簡単であり、安定的な処理が可能である。
(11)さてそこで、本発明のポリ塩素化ビフェニルの処理装置および処理方法は、次の効果を発揮する。
【発明の効果】
【0012】
《第1の効果》
第1に、過酸化水素が浪費されず、OHラジカルが効率的に無駄なく生成される等、ランニングコストに優れている。
本発明の処理装置および処理方法に係るフェントン法では、被処理水が、例えばpH4程度の弱酸性に維持されている。そして、全量添加される過酸化水素と分割添加される2価の鉄イオンにより、OHラジカルの生成が、所期のとおり効率良く,浪費等されることもなく促進され、もって、有毒なポリ塩素化ビフェニルが確実に酸化,分解,除去される。更にOHラジカルは、3価の鉄イオンと水酸化イオンとが反応することによっても、生成される。
従って、前述したこの種従来例のポリ塩素化ビフェニルの処理技術のように、過剰に多量の過酸化水素を添加する必要もなく、薬品使用コストが低減される。
これらにより、本発明によるフェントン法は、低濃度ポリ塩素化ビフェニルの大規模処理,大容量処理へのスケールアップ適用、つまり実用化が容易である。
【0013】
《第2の効果》
第2に、過酸化水素の残存含有量が極めて少なく、もって中和剤による後処理コストも、低減される。
本発明の処理装置および処理方法に係るフェントン法では、上述したように、過酸化水素にて所期の通り効率良くOHラジカルが生成されて、低濃度ポリ塩素化ビフェニルが酸化,分解,除去される。従って、この種従来例の処理技術のように、過酸化水素が過剰添加されることもなく、もって被処理水は、処理後の過酸化水素の残存含有量が極めて少なく、中和剤による後処理コストが大きく低減される。
そこで、本発明によるフェントン法では、この面からも、薬品使用コストが低減され、低濃度ポリ塩素化ビフェニルの大規模処理,大容量処理へのスケールアップ適用、つまり実用化への道が開かれる。
【0014】
《第3の効果》
第3に、薬品添加制御も容易である。本発明の処理装置および処理方法に係るフェントン法は、薬品の添加量制御が容易かつ確実である。
すなわち、被処理水中のポリ塩素化ビフェニルの含有量に対応した過酸化水素の添加量や、過酸化水素の添加量に見合った2価の鉄イオンの添加量や、見合ったpH調整剤の添加量等は、反応理論値から容易に算出され必要モル数が得られる。もって、過不足のない適量の薬品を添加可能となり、これらの自動制御も容易である。
2価の鉄イオンについて、定量性が確保できずに余剰に残存したり不足したりする事態は発生せず、処理性能の不安定化も回避される。
そこで、本発明によるフェントン法は、この面からも、低濃度ポリ塩素化ビフェニルの大規模処理,大容量処理へのスケールアップ適用、つまり実用化が容易である。
【0015】
《第4の効果》
第4に、処理安定性,イニシャルコスト,ランニングコスト,スペース面等にも、優れている。
本発明の処理装置および処理方法に係るフェントン法は、前述したこの種従来例のポリ塩素化ビフェニルの処理技術、例えば吸着・脱離法や、オゾン・過酸化水素・紫外線法等等に比し、処理安定性,イニシャルコスト,ランニングコスト,設置スペース等に、優れている。
すなわち、経時使用による処理能力ダウン,活性炭等の交換コスト,設備設置スペース,OHラジカル生成効率,設備過大化,電力浪費コスト,UVランプ劣化等々、この種従来例の処理技術で指摘されていた問題は、解消される。
そこで、本発明によるフェントン法は、これらの面からも、低濃度ポリ塩素化ビフェニルの大規模処理,大容量処理へのスケールアップ適用、つまり実用化が裏付けられる。
このように、この種従来例に存した課題がすべて解決される等、本発明の発揮する効果は、顕著にして大なるものがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
《図面について》
以下、本発明の低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理装置および処理方法を、図面に示した発明を実施するための最良の形態に基づいて、詳細に説明する。
図1は、本発明を実施するための最良の形態の説明に供し、構成フロー図である。
【0017】
《ポリ塩素化ビフェニル1について》
まず、本発明の処理装置や処理方法の処理対象である、ポリ塩素化ビフェニル1について、説明する。
ポリ塩素化ビフェニル(PCB)1は、ビフェニル(分子式C1210,構造式C−C)の2つの芳香環について、10個ある水素原子(H)の任意の1個〜10個を、塩素原子(Cl)で置換した、有機化合物の総称である。置換塩素の原子数や置換位置により、100種類以上の異性体があり、2,6−ジクロロビフェニル、2,2’ジクロロビフェニル、2,3,5−トリクロロビフェニル等が、代表的である。
そして、耐熱安定性や電気絶縁性に優れており、熱媒体,絶縁油,トランス油,コンデンサー等に用いられていた。しかし、人体や環境に対する毒性が強いと共に、焼却するとダイオキシン発生の虞もあることに鑑み、製造が禁止され使用が中止された。現在は、その難分解性,残留性が問題となっており、環境ホルモン,有機汚染物質として知られ、環境汚染リスクが懸念される状況にある。
ビフェニルは、水に対し不溶であることが知られているが、ポリ塩素化ビフェニル1は、塩素原子による置換量に応じ水に対し微溶であり、低濃度・水分散のポリ塩素化ビフェニル1の存在が可能となる。
本発明は、このような低濃度のポリ塩素化ビフェニル1を、処理対象とする。つまり、微量のポリ塩素化ビフェニル1を薄く含有した水を、処理対象とする。具体的には、数100ppm程度までのポリ塩素化ビフェニル1を含有した水、特に、約100ppm程度までのポリ塩素化ビフェニル1を含有した水を処理対象とし、例えば、数10ppmのポリ塩素化ビフェニル1を含有した水を、処理対象とする。
本発明は、このような低濃度のポリ塩素化ビフェニル1を、処理対象とする。
【0018】
《処理装置2および処理方法の概要》
本発明の処理装置2および処理方法は、被処理水3に含有された低濃度のポリ塩素化ビフェニル1を、改良したフェントン法の処理プロセスに基づいて、酸化,分解する。
すなわち、本発明の処理装置2および処理方法は、低濃度のポリ塩素化ビフェニル1の含有水を、被処理水3とする。そして、含有されたポリ塩素化ビフェニル1を、フェントン試薬の過酸化水素(H)と2価の鉄イオン(Fe2+)を用いて生成されたOHラジカルにて酸化し、もって無機の水(HO)や炭酸ガス(CO)に、分解する。本発明は、このようなフェントン法の処理プロセスを、改良したものである。
そして、本発明の処理装置2および処理方法は、処理槽4と、処理槽4に付設された処理水供給手段5,過酸化水素添加手段6,鉄イオン添加手段7,pH調整手段8とを、備えている。
以下、これらについて詳細に説明する。
【0019】
《処理水供給手段5等について》
まず、この処理装置2や処理方法で用いられる処理水供給手段5等について、説明する。処理水供給手段5は、処理槽4に対し、低濃度のポリ塩素化ビフェニル1を含有した被処理水3を、処理対象として供給する。
すなわち、処理水供給手段5の処理水槽9には、被処理水3が導入されており、この処理水槽9を経由して、処理槽4に被処理水3が供給される。処理水槽9に導入される被処理水3は、必要に応じ予め、粉塵汚泥除去,生物処理等の前処理が施される。
図示例では、被処理水3がpH調整槽10を経由して、処理槽4に供給される。pH調整槽10では、付設されたpH調整手段8から、pH調整剤が添加される。すなわちpH調整手段8は、処理水供給手段5の処理水槽9から処理槽4に供給される途中の被処理水3に対し、pH調整剤を添加して、被処理水3を所定弱酸性に調整してから、処理槽4に供給する。
処理水槽9からの被処理水3は、例えばpH6以上であることが多いので、これをpH5〜pH3程度、例えばpH4程度に調整すべく、pH調整剤として硫酸等の酸pH調整剤が用いられる。このように事前にpH調整しておく理由は、後述するように、過酸化水素と2価の鉄イオンによるOHラジカルの生成反応が、所期の通り効率良く行われるようにする為である。
なお、このようなpH調整槽10は、例えば、被処理水3の大規模な大容量処理や、連続処理や、低濃度ではあるものの比較的濃度が高目のポリ塩素化ビフェニル1の処理、等の場合に使用される。これに対し、pH調整槽10を使用せず、処理水槽9において代用的,兼用的に、上述したpH調整を実施することも可能である。
処理水供給手段5等は、このようなっている。
【0020】
《過酸化水素添加手段6について》
次に、この処理装置2や処理方法で用いられる、処理槽4に付設された過酸化水素添加手段6について、説明する。
過酸化水素添加手段6は、処理槽4の被処理水3に対し、その反応当初において、過酸化水素(H)の水溶液を全量添加する。過酸化水素はOHラジカルの発生源となり、このOHラジカルが、ポリ塩素化ビフェニル1を酸化,分解することになる。
過酸化水素の一回の反応当たりの添加量は、その被処理水3中に含有された低濃度のポリ塩素化ビフェニル1の具体的含有量,具体的濃度次第であるが、その反応理論値を基準として算出されたより多い実際必要量(必要モル数)が、反応当初に一度に全量添加される。次回の添加は、処理槽4の被処理水3中から過酸化水素がなくなった時、つまり次の反応時であり、同様にその全量が添加される。このように、この明細書において全量添加とは、反応に必要な薬剤量を1回に全量一括添加すること、を意味する。
このように過酸化水素添加手段6から、過酸化水素が全量添加される。
【0021】
《鉄イオン添加手段7について》
次に、この処理装置や処理方法で用いられる、処理槽4に付設された鉄イオン添加手段7について、説明する。
鉄イオン添加手段7は、上述により過酸化水素が添加された後の処理槽4の被処理水3に対し、間欠的に複数サイクル繰り返して、2価の鉄イオン(Fe2+)溶液を分割添加する。
すなわち、液中で2価の鉄イオンを生じる物質、例えば硫酸第一鉄7水和物(FeSO・7HO)が、このような鉄塩として代表的に使用されるが、その他の無水塩や含水塩、例えば塩化鉄(FeCl)やその水和物も使用可能である。2価の鉄イオンは、過酸化水素のOHラジカル生成反応の触媒として機能する。
この鉄イオンの1回の反応当たりの添加量は、反応理論値を基準として、より多い実際必要量が算出されるが、例えば、過酸化水素の1モルに対し0.5モル程度とされる。
又、この鉄イオンは、複数回に分けて分割添加される。すなわち、1回の反応についての必要量が、全量添加されずに3〜7回程度に分けて、例えば5回に分けて順次添加される。各回毎の添加タイミングは、前回添加したものがなくなった段階で、次回分が添加される。このように、この明細書において分割添加とは、反応に必要な薬剤量を複数回に分けて添加すること、を意味する。
分割添加の理由は、次のa,b,cのとおり。まずa.もしも全量添加すると、後述する化学反応において、過酸化水素を反応物質とする原系から、OHラジカルを生成物質とする生成系へと向かう所期の正反応と同時に、OHラジカルを消費する無駄な反応、つまり余ったOHラジカルが水に戻る反応が起こり易くなり、ロスが生じる。もってOHラジカル生成のために使用した鉄イオンが、無駄に消費されることになる。これに対し分割添加すると、このような反応が抑制され、鉄イオンの無駄も解消される。
又b.OHラジカルは、反応が激しいだけに存在時間が瞬間的であり、全量添加より分割添加した方が、その都度OHラジカルが生成されると共に隅々まで行き渡るようになり、ポリ塩素化ビフェニル1の酸化,分解が、より確実化,効率化,迅速化される。
更にc.分割添加すると、全量添加に比し残存する過酸化水素が少なくなるので、その分、中和剤による後処理コストも低減される。
このように鉄イオン添加手段7から、2価の鉄イオン(Fe2+)等が、分割添加される。
【0022】
《pH調整手段8について》
次に、この処理装置2や処理方法で用いられる、処理槽4に付設されたpH調整手段8について、説明する。
pH調整手段8は、前述したように処理水供給手段5から処理槽4に供給される前の被処理水3、および処理槽3に供給された後の被処理水3に対し、pH調整剤を添加して、被処理水3を例えばpH4程度の所定弱酸性に維持する。
すなわちpH調整手段8は、過酸化水素の添加前には、硫酸等の酸pH調整剤を添加し、過酸化水素の添加後は、上述した鉄イオンの添加毎に事後、カセイソーダ等のアルカリpH調整剤を添加する。
被処理水3を、pH3〜pH5程度代表的にはpH4程度に維持することは、まずa.後述するように、所期の反応を阻害する過酸化水素の水と酸素への無駄な分解反応を、抑制すべく機能する。これと共にb.鉄イオンの過酸化水素への電子供与を、促進すべく機能する。このa,bに基づき、OHラジカルの生成が、所期のとおり効率良く進行するようになる。
これに対し、処理水供給手段5の処理水槽9からの被処理水3は、例えばpH6以上であることが多いので、前述したように、予めpH調整手段8から例えば硫酸が添加されて、例えば4程度にpH調整される。そして事後、鉄イオンが添加されると、そのままでは被処理水3のpHが低下するので、鉄イオンの分割添加毎にその都度、例えばカセイソーダが添加されて、例えばpH4程度に被処理水3がpH調整される。
pH調整手段8は、このようになっている。
【0023】
《処理槽4における反応(その1)について》
次に、処理槽4内における化学反応(その1)について、説明する。この処理装置2や処理方法の処理槽4内では、まず第1に、被処理水3が攪拌,流下されると共に、添加された過酸化水素(H)が、触媒として添加された2価の鉄イオン(Fe2+)にて還元されて、OHラジカル(・OH)を生成する。
更に第2に、処理槽4内では、上記第1のようにOHラジカルが生成されると共に、過酸化水素の還元反応にて生成された水酸化イオン(OH)が、2価の鉄イオン(Fe2+)の酸化反応にて生成された3価の鉄イオン(Fe3+)にて酸化されて、OHラジカルを生成することになる。
このようなフェントン法の処理プロセスに基づく、OHラジカルの生成について、更に詳述する。
第1に、処理槽4内では、次の化1,化2の化学反応式により、OHラジカルが生成される。
【化1】

【化2】

【0024】
すなわち、化1の反応式において、鉄イオン添加手段7から順次分割添加される2価の鉄イオン(Fe2+)は、被処理水3が例えばpH4程度の弱酸性雰囲気に維持されているので容易に、触媒として化2の反応式の過酸化水素に順次電子(e)を供与すると共に、自己は酸化して3価の鉄イオン(Fe3+)となる。
そこで、化2の反応式において、過酸化水素添加手段6から最初に全量添加された過酸化水素(H)は、化1の反応式に基づき電子(e)が順次供与され、もってその都度、OHラジカル(・OH)と水酸化イオン(OH)が生成される。
ところで、このような反応に際し、前述したように被処理水3が弱酸性雰囲気に維持されているので、過酸化水素が水と酸素に分解され、浪費されてしまうことは抑制される。これに対し、もしも弱酸性雰囲気に維持されないとすると、次の化3の反応式により、過酸化水素が、発生期の酸素(O)を発生しつつ水分子(HO)になり、所期の化2の反応式によりOHラジカルを生成することなく浪費されてしまうことになる。なお、このような発生期の酸素(O)は、その酸化対象がない場合、酸素分子(O)となって系外にでることになる。
【化3】

【0025】
第2に、次の化4,化5の反応式によっても、OHラジカル(・OH)の生成が可能である。すなわち、処理槽4内では、まず第1に、上述した化1,化2の反応式によりOHラジカルが生成されるが、これと共に更に第2に、次の反応式によってもOHラジカルを生成可能である。
【化4】

【化5】

【0026】
すなわち、化1の反応式で生成された3価の鉄イオン(Fe3+)は、化2の反応式で生成された水酸化イオン(OH)から、化4,化5の反応式により、電子(e)を奪ってOHラジカル(・OH)を生成させ、自らは2価の鉄イオン(Fe2+)に戻る。
このように、化1,化2の反応式のみならず化4,化5の反応式が、連鎖的にバランス良く起こるようにすると、OHラジカルが極めて効率的に生成される。
処理槽4内では、このようにOHラジカルが生成される。
【0027】
《処理槽4における反応(その2)について》
次に、処理槽4内における化学反応(その2)について、説明する。処理槽4内では、被処理水3に含有された低濃度のポリ塩素化ビフェニル1が、このように生成されたOHラジカルにて酸化,分解されて、無機化される。
これらについて、更に詳細に説明する。まず、OHラジカルつまりヒドロキシラジカル(・OH)は、周知のごとく強力な酸化力を備えている。つまり、活性酸素種として他に類を見ない極めて強力な電子(e)の奪取力,酸化力,つまり活性力,分解力を有しており、ラジカルで反応性に富んでいる。
そしてOHラジカルは、過酸化水素への鉄イオンの添加毎に生成されるが、反応が激しいだけに存在時間が瞬間的であり、寿命の短い化学種である。
さてそこで、水相分散したOHラジカルは、被処理水3中に含有された低濃度のポリ塩素化ビフェニル1を酸化し、遂には分解してしまう。すなわちOHラジカルは、ポリ塩素化ビフェニル1の有機構造について、例えばその芳香環の二重結合のπ電子,塩素原子Clの隣の水素原子Hのπ電子,炭素原子C,その他を対象とし、これをOH基で付加や置換する。そして、これらに基づき、ポリ塩素化ビフェニル1の炭素連鎖,有機結合,分子結合を、順次切断,分解,分断する連鎖プロセスを辿り、もってポリ塩素化ビフェニル1を、最終的には無機の水(HO)や炭酸ガス(CO)へと、酸化,分解,無機化する。
なお、塩素ガス(Cl)は、極めて微量,低濃度で分解,生成されるので(例えば、後述する例では水32モル,炭酸ガス12モルに対し、1モルに過ぎない)、特に後処理等は不要である。そして処理槽4内では、酸性のため塩酸(HCl)として存在し、pH調整手段8からカセイソーダが添加されると塩化ナトリウム(NaCl)を生成するが、次に述べる後処理槽11においても特に固液分離されることなく、そのまま外部放流される。
処理槽4内では、このように低濃度のポリ塩素化ビフェニル1が酸化,分解,無機化される。
【0028】
《後処理槽11について》
次に、後処理槽11について説明する。処理槽4には、後処理槽11が付設されており、前述によりポリ塩素化ビフェニル1が酸化,分解された後の被処理水3が排出され、必要な後処理が施された後、外部排水される。
このような後処理槽11について、更に詳述する。図示例の後処理槽11は、中和槽12,沈殿槽13,凝集沈殿槽14,濾過槽15,pH調整槽16,処理水槽17等を、下流に向け順に備えている。
まず、処理槽4からは、ポリ塩素化ビフェニル1の酸化,分解処理が済んだ被処理水3が、後処理槽11の中和槽12に排出される。中和槽12では、このような被処理水3に対し、カセイソーダ等のpH調整剤が添加され、もって無機凝集剤への最適pHへと調整される。被処理水3中に僅かでも過酸化水素が残留している場合は、水質汚濁を回避すべく、カタラーゼ等の中和剤が添加される。
次に沈殿槽13では、中和槽12から流入した被処理水3中に残留物として含有されている鉄分とのコロイド状錯体が固液分離されて、下部に沈殿,除去される。
凝集沈殿槽14では、沈殿槽13上部から流入した被処理水3に対し、無機凝集剤として、例えばポリ塩化アルミニウム(PAC,Al(OH)Cl6−n)が、添加されて攪拌される。もって、沈殿槽13で沈殿されることなく被処理水3中に残存していた上記コロイド状錯体が、凝集化され固液分離されて、沈殿,除去される。
なお必要に応じ、この凝集沈殿槽14の次に貯留沈殿槽を設けて、高分子凝集剤として例えばアニオンを添加し、もって上記コロイド状錯体の一層の凝集化,ブロック化,固液分離化、そして沈殿,除去を図るようにしてもよい。
それから被処理水3は、後処理槽11の濾過槽15,pH調整槽16,処理水槽17を順次経由し、もって更に浄化されると共に、外部排水に適したpHに調整された後、処理水槽17から外部排水され、放流される。
後処理槽11は、このようになっている。
【0029】
《作用等》
本発明の低濃度ポリ塩素化ビフェニル1の処理装置2および処理方法は、以上説明したように構成されている。そこで、以下のようになる。
(1)低濃度のポリ塩素化ビフェニル1を含有した被処理水3は、処理装置2へと供給される。処理装置2は、フェントン法の処理プロセスに基づく処理方法により、ポリ塩素化ビフェニル1を酸化,分解し、被処理水3を浄化する。
【0030】
(2)この処理装置2は、処理水供給手段5の処理水槽9,pH調整槽10,処理槽4,後処理槽11等を、順に備えている。
pH調整槽10には、pH調整手段8が付設されており、処理槽4には、過酸化水素添加手段6,鉄イオン添加手段7,pH調整手段8等が、付設されており、過酸化水素,2価の鉄イオン,pH調整剤等を添加可能となっている。
【0031】
(3)さてそこで、被処理水3は、処理水供給手段5の処理水槽9から、処理槽4に供給される。
なお被処理水3は、処理槽4に供給される前に、図示例ではpH調整槽10において、pH調整手段8から例えば硫酸等の酸pH調整剤が添加され、もって例えばpH4程度の所定弱酸性とされる。
【0032】
(4)処理槽4に供給された被処理水3は、まず、過酸化水素添加手段6から過酸化水素の水溶液が、添加される。過酸化水素は、反応当初に全量添加される。
【0033】
(5)処理槽4では、このように過酸化水素が添加された後、被処理水3に対して、鉄イオン添加手段7から2価の鉄イオン溶液が、添加される。2価の鉄イオンは、過酸化水素添加後の反応中において、分割添加により、複数回に分けて間欠的に、複数サイクル繰り返して添加される。
そして、このような鉄イオンの分割添加毎に、pH調整手段8から例えばカセイソーダ等のアルカリpH調整剤が添加され、もって被処理水3は常時、pH4程度の所定弱酸性を維持する。2価の鉄イオンとしては、例えば硫酸第一鉄の水溶液が添加される。
【0034】
(6)さてそこで、処理槽4内では、上述により全量添加されていた過酸化水素が、触媒として分割添加される2価の鉄イオンにて、分割添加の都度還元されて、OHラジカルを生成する。すなわち、前記化1,化2の反応式により、2価の鉄イオンが、過酸化水素に電子を供与して3価の鉄イオンになると共に、電子を供与された過酸化水素が、OHラジカルを生成する。
OHラジカルは、鉄イオンが分割添加されるので、OHラジカルを消費する反応が起こる虞もなく、分割添加の都度、無駄なく効率良く生成される。
しかも、このOHラジカルの生成反応は、例えばpH4程度の弱酸性雰囲気下に維持されていることによっても、所期の通り効率良く確実に実施される。すなわち、所定弱酸雰囲気下であることにより、まず、2価の鉄イオンの電子供与が促進されると共に、更に過酸化水素が、前記化3の化学式により水と酸素に分解,浪費される反応が抑制,回避され、能力いっぱいのOHラジカルを生成するようになる。
【0035】
(7)OHラジカルは、これに加え更に処理槽4内で、2価の鉄イオンの酸化反応にて生成された3価の鉄イオンにて、過酸化水素の還元反応にて生成された水酸化イオンが、酸化されることによっても、生成される。すなわち、前記化1,化2の反応式で生成された3価の鉄イオンと水酸化イオンとによって、前記化4,化5の反応式によっても生成される。
そこでこの面からも、OHラジカルが効率的に生成される。そして、このOHラジカルの生成も、鉄イオンの分割添加の都度、連鎖的にそれぞれ生成される。
【0036】
(8)さて、このように生成されたOHラジカルは、極めて強力な酸化力を備えている。そこで処理槽4では、被処理水3中に低濃度で含有されたポリ塩素化ビフェニル1は、このOHラジカルにて酸化され、もって水や炭酸ガス等の低分子化合物へと、無機化されてしまう。
【0037】
(9)被処理水3は、含有されていたポリ塩素化ビフェニル1が、このようにして水,塩素ガス,炭酸ガスへと無機化され、もって処理槽4から後処理槽11へと排出される。図示の後処理槽11は、中和槽12,沈殿槽13,凝集沈殿槽14,濾過槽15,pH調整槽16,処理水槽17等を備えている。
なお過酸化水素は、前述によりOHラジカル生成に無駄なく有効使用されるので、処理後の残存量は僅かであり、中和槽12における中和剤の使用も、極く僅か又は皆無となる(例えば、残存過酸化物イオン濃度は、使用過酸化水素の0〜3%以下程度となる)。
そして被処理水3は、後処理槽11を経由することにより、排水可能な状態に調整されて、外部排水される。
【0038】
(10)この処理装置2および処理方法では、上述したように、フェントン法の処理プロセスに基づき、被処理水3に含有された有毒な有機化合物であるポリ塩素化ビフェニル1を、低分子化合物へと無機化するが、これは簡単容易に実現される。
すなわち、過酸化水素,2価の鉄イオン,pH調整剤等の薬品添加量は、反応理論値から実際必要量が容易に算出される。反応理論値より多目の例えば数倍程度が、実際必要量として添加され、もって添加量の最適化が実現される。
又、この処理装置2は、処理槽4を中心に、処理水槽9や後処理槽11が配設されると共に、過酸化水素添加手段6,鉄イオン添加手段7,pH調整手段8等が付設された構成よりなる。つまり、この処理方法は、比較的簡単な構成の処理装置2を用いることにより、安定処理が可能である。
本発明の作用等は、このようになっている。
【0039】
《酸化,分解反応の1例について》
以下、本発明の処理装置2および処理方法に関し、その1例を説明する。すなわち、処理槽4内におけるポリ塩素化ビフェニル1の酸化,分解反応の1例(つまり、処理槽4における反応その2と題して前述した所の1例)について、その理論的裏付を説明しておく。
この例は、ポリ塩素化ビフェニル1として、対称体であるビフェニル(C−C)について、2個の水素原子(H)を、2個の塩素原子(Cl)で置換したC(Cl)−C(Cl)を、対象とする。なお、塩素原子の置換位置は、共に対称で内側とする。
さてそこで、この例のポリ塩素化ビフェニル1は、芳香環として2モルの塩化フェニル基(C(Cl)−)を、有する。そこでまず、そのいずれか片側の塩化フェニル基(C(Cl)−)について、OHラジカルによる酸化,分解反応を、検証する。
まず、酸化,分解反応が、次の化6の各反応式に示した連鎖プロセス(1),(2),(3),(4),(5)を辿って、順次進行する。
【化6】

【0040】
上記化6の反応式については、次のとおり。化6の各反応式の連鎖プロセス(1)〜(5)を順次辿ることにより、それぞれ、所定のOHラジカルによる酸化,分解が進行する。
すなわち、塩化フェニル基(C(Cl)−)よりなる出発物質は、(1)C(Cl)(OH)-、→(2)2価の環状ケトンC(Cl)(O)-、→(3)2価のカルボン酸HOOC−C(Cl)=C※−CH=CH−COOH、→(4)活性炭素原子団−C(Cl)=C※−CH=CH−、→(5)OH-C(Cl)(OH)-C※(OH)-CH(OH)-CH(OH)-OH、→そして、C(Cl)(OH)-C※(OH)-CH(OH)-CH(OH)となって、アルコール化される。
そして、このような連鎖プロセス中において、水(HO)や炭酸ガス(CO)が、随伴的に分解,生成される。OHラジカルは、多くの場合は反応により水に帰す。
なお、プロセス(3),(4),(5)中、C※は、この例のポリ塩素化ビフェニル1の対称体であるC(Cl)−C(Cl)において、他方の塩化フェニル基(C(Cl))と結合している炭素原子である(なお、後述する化7の各反応式中においても同様)。
【0041】
さて、この例では、このような化6の各反応式の連鎖プロセス(1)〜(5)の次に、次の化7の各反応式の連鎖プロセス(6)〜(11)を辿る。
【化7】

【0042】
上記化7の反応式については、次のとおり。前述した連鎖プロセス(5)のアルコールから、上述した化7の各反応式の連鎖プロセス(6)又は(7)〜(11)を順次辿ることにより、それぞれ、所定のOHラジカルによる酸化,分解が進行する。
まず、(5)のアルコールは(6)で分断され、活性水素HがOHラジカルにより水に帰すので、プロセス(6)の反応式はプロセス(7)の反応式としても、書き直して表わされる。それから、→(7)OC-CHO、→(8)2価のアルデヒドOCH-OC-CO-CHO、→(9)2価のカルボン酸HOOC-OC-CO-COOH、→(10)しゅう酸HOOC-COOHとなって、→(11)最終的に、炭酸ガスと水に帰すことになる。
そして、このような連鎖プロセス中においても、水や炭酸ガスが、随伴的に分解,生成される。
【0043】
結論として、ポリ塩素化ビフェニル1の1例について、その対称体である片側の塩化フェニル基(C(Cl)−)は、このような化6,化7の反応式に示した連鎖プロセス(1)〜(11)を辿ることにより、理論上すべて、水や炭酸ガスに酸化,分解されてしまう。その対称体である残りの塩化フェニル基(−C(Cl))も、全く同様に酸化,分解される。
そこで、以上説明した所を総括すると、次の化8の総括反応式が得られる。すなわち、連鎖プロセス(1)〜(5)の各反応式と、連鎖プロセス(7)〜(11)の各反応式とを、合算して2倍すると(片側分に残りの片側分を合算すると)、次のようになる。
【化8】

【0044】
この化8の総括反応式については、次のとおり。化8の反応式のように、1モルのポリ塩素化ビフェニル1の1例であるC(Cl)-C(Cl)は、理論上は、56モルのOHラジカルにより、1モルの塩素ガスと、12モルの炭酸ガスと、32モルの水とに、酸化,分解される。但し、塩素ガスは殆んど発生しない。
OHラジカルは、この例では、反応理論値として56モルを予め準備すれば良いが、実際必要量は大目に準備される。勿論、OHラジカルの生成物質である過酸化水素や2価の鉄イオン等についても、同様である。
酸化,分解反応の1例は、このようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理装置および処理方法について、発明を実施するための最良の形態の説明に供し、構成フロー図である。
【符号の説明】
【0046】
1 ポリ塩素化ビフェニル
2 処理装置
3 被処理水
4 処理槽
5 処理水供給手段
6 過酸化水素添加手段
7 鉄イオン添加手段
8 pH調整手段
9 処理水槽
10 pH調整槽
11 後処理槽
12 中和槽
13 沈殿槽
14 凝集沈殿槽
15 濾過槽
16 pH調整槽
17 処理水槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に含有された低濃度のポリ塩素化ビフェニルを、フェントン法で酸化,分解する処理装置であって、処理槽と、該処理槽に付設された処理水供給手段,過酸化水素添加手段,鉄イオン添加手段,pH調整手段とを、備えており、
該処理水供給手段は、該処理槽に低濃度のポリ塩素化ビフェニルを含有した被処理水を供給し、該過酸化水素添加手段は、該処理槽の被処理水に過酸化水素を添加し、該鉄イオン添加手段は、該処理槽の被処理水に2価の鉄イオンを添加し、
該pH調整手段は、該処理水供給手段から該処理槽に供給される被処理水、および該処理槽の被処理水にpH調整剤を添加して、被処理水を所定弱酸性に維持すること、を特徴とする、低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載した低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理装置において、該過酸化水素添加手段は、反応当初に過酸化水素の水溶液を全量添加し、該鉄イオン添加手段は、過酸化水素の添加後に間欠的に複数サイクル繰り返して、2価の鉄イオン溶液を分割添加し、
該pH調整手段は、過酸化水素の添加前には酸pH調整剤を添加し、過酸化水素の添加後においては鉄イオン溶液の添加毎に、アルカリpH調整剤を添加すること、を特徴とする、低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載した低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理装置において、該鉄イオン添加手段は、硫酸第一鉄の水溶液を添加し、
該pH調整手段は、例えば硫酸又はカセイソーダを添加し、もって該処理槽内の被処理水をpH4程度に維持して、添加される過酸化水素の水と酸素への分解反応を抑制すること、を特徴とする、低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理装置。
【請求項4】
請求項2に記載した低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理装置において、該処理槽内では、全量添加された過酸化水素が、触媒として分割添加される2価の鉄イオンにて、分割添加の都度還元されてOHラジカルを生成すると共に、
被処理水に含有されたポリ塩素化ビフェニルが、このOHラジカルにて酸化,分解され、もって水や炭酸ガス等の低分子化合物に無機化されること、を特徴とする、低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理装置。
【請求項5】
被処理水に含有された低濃度のポリ塩素化ビフェニルを、フェントン法の処理プロセスに基づき酸化,分解する処理方法であって、
低濃度のポリ塩素化ビフェニルを含有した被処理水に対し、過酸化水素と2価の鉄イオンとpH調整剤とが添加され、過酸化水素は、反応当初に全量添加され、2価の鉄イオンは、過酸化水素の添加後に間欠的に複数サイクル繰り返して分割添加され、
pH調整剤は、過酸化水素の添加前は酸pH調整剤が添加され、過酸化水素の添加後は鉄イオン溶液の添加毎にアルカリpH調整剤が添加され、もって被処理水を所定弱酸性に維持すること、を特徴とする、低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理方法。
【請求項6】
請求項5に記載した低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理方法において、2価の鉄イオンとしては、硫酸第一鉄の水溶液が添加されると共に、
pH調整剤としては、例えば硫酸又はカセイソーダが添加され、もって被処理水をpH4程度に維持して、添加される過酸化水素の水と酸素への分解反応を抑制すること、を特徴とする、低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理方法。
【請求項7】
請求項5に記載した低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理方法において、水溶液として全量添加された過酸化水素が、触媒として分割添加される2価の鉄イオンにて、分割添加の都度還元されてOHラジカルが生成され、
もって、被処理水に含有されたポリ塩素化ビフェニルが、このOHラジカルにて酸化,分解されて、水や炭酸ガス等の低分子化合物に無機化されること、を特徴とする、低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理方法。
【請求項8】
請求項7に記載した低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理方法において、更に、過酸化水素の還元反応にて生成された水酸化イオンが、2価の鉄イオンの酸化反応にて生成された3価の鉄イオンにて酸化されて、OHラジカルが生成され、
もって、被処理水に含有されたポリ塩素化ビフェニルが、このOHラジカルにて酸化,分解されて、水や炭酸ガス等の低分子化合物に無機化されること、を特徴とする、低濃度ポリ塩素化ビフェニルの処理方法。


【図1】
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【公開番号】特開2009−11982(P2009−11982A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−179245(P2007−179245)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(500561931)三井造船プラントエンジニアリング株式会社 (41)
【出願人】(507141066)株式会社ニクス (10)
【Fターム(参考)】