説明

低発泡性界面活性剤

構造(I):


〔式中、Rは、水素、炭素数1〜3のアルキル基または基Rであり、Rは、直鎖、分枝または環状であってよく、飽和、モノオレフィン性不飽和またはポリオレフィン性不飽和であってもよい炭素数2〜22のアルキル基であり、Rは、炭素数1〜3の飽和アルキル基であり、このアルキル基は、1つの炭素原子において基−O−(CH−CHZ−O)−Hにより置換されており、X、YおよびZは、互いに独立に、水素またはメチル基であり、nおよびmは、互いに独立して、1〜45の範囲の数であり、pは、0〜45の数である(ただし、n+m+pの合計は、2〜70の範囲になければならない)〕
を有する新規化合物が存在する。この化合物(I)は、優れた低発泡性界面活性剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のアルコキシル化ウレタン、および低発泡性界面活性剤、とりわけ低発泡性湿潤剤としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウレタンはアルコールとイソシアネートの反応により調製されている。この種の化合物、すなわちウレタンの特性はウレタン基−O−CO−NH−である。ウレタン基の生成における代替手段は、環状炭酸エステルと第1級アミンの反応である。このウレタン合成手段の特徴は、原料としてイソシアネートを使用する必要がないことである。当業者は、環状炭酸エステルと第1級アミンの反応による合成経路を介して入手し得るウレタンを「非イソシアネート系ウレタン」(NIU)と呼ぶ。それらの遊離OH基に基づき、NIUをさらに化学的修飾することができる。例えば、NIUのアクリル酸誘導体によるエステル化またはエステル交換は既知である:例えば、米国特許第2005/0113594号、米国特許第2004/02236119号、米国特許第7045577号、米国特許第7329773号、米国特許第2007/0197820号を参照。これにより調製されたアクリル化合物は、架橋性コーティングとしての使用が見出されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第2005/0113594号明細書
【特許文献2】米国特許第2004/02236119号明細書
【特許文献3】米国特許第7045577号明細書
【特許文献4】米国特許第7329773号明細書
【特許文献5】米国特許第2007/0197820号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
界面活性剤に関する絶え間ない要求がある。発泡を迷惑とする様々な最終ユーザーにとって、界面活性剤が水系において泡をほとんど生じないことは利点である。本発明の課題は、低発泡性の界面活性剤を提供することであった。とりわけ、低発泡性湿潤剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
NIU型のウレタンの特定の誘導体が、本発明により取り組む課題を非常に優れた方法で達成できることがわかった。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明は、構造(I):
【化1】

〔式中、
は、水素、炭素数1〜3のアルキル基または基Rであり、
は、直鎖、分枝または環状であってよく、飽和、モノオレフィン性不飽和またはポリオレフィン性不飽和であってもよい炭素数2〜22のアルキル基であり、
は、炭素数1〜3の飽和アルキル基であり、このアルキル基は、1つの炭素原子において基−O−(CH−CHZ−O)−Hにより置換されており、
X、YおよびZは、互いに独立に、水素またはメチル基であり、
nおよびmは、互いに独立して、1〜45の範囲の数であり、pは、0〜45の数である(ただし、n+m+pの合計は、2〜70の範囲になければならない)〕
で示される化合物を提供する。
【0007】
さらに、本発明は、構造(I):
【化2】

で示される化合物の使用も提供する。式(I)中、
は、水素、炭素数1〜3のアルキル基または基Rであり、
は、直鎖、分枝または環状であってよく、飽和、モノオレフィン性不飽和またはポリオレフィン性不飽和であってもよい炭素数2〜22のアルキル基であり、
は、炭素数1〜3の飽和アルキル基であり、このアルキル基は、1つの炭素原子において基−O−(CH−CHZ−O)−Hにより置換されており、
X、YおよびZは、互いに独立に、水素またはメチル基であり、
nおよびmは、互いに独立して、1〜45の範囲の数であり、pは、0〜45の数である(ただし、n+m+pの合計は、2〜70の範囲になければならない)。
【0008】
構造(I)で示される化合物は、とりわけ、低発泡性湿潤剤として適する。
【0009】
〈EOおよび/またはPO単位〉
化合物(I)は、−(CH−CHX−O)−、−(CH−CHY−O)−、および−(CH−CHZ−O)−〔それぞれ、前記条件が適用される〕の構造単位を含む。
【0010】
使用する式注釈が、前記構造要素がエチレンオキシド(EO)またはプロピレンオキシド(PO)に由来するという事実を表すことを意図する点に留意されたい。実際に、論理的に指数m、nおよびpが0以外である限り、これらの単位は、EO若しくはPOの付加反応、またはエチレングリコール若しくはプロピレングリコール(n、m、p=1の場合)、あるいはEOおよび/またはPOの重付加、またはポリエチレングリコール若しくはポリプロピレングリコール、若しくは対応する混合EO−POコポリマー(n、m、pが2以上の場合)から合成的に生じる。さらに、これらの各構造要素が、(互いに独立して)EO単位のみおよびPO単位のみのいずれかにより構成されていてよいこと、およびEO単位とPO単位をブロック分布またはランダム分布の混合形態で含んでいてよいことを明確に留意されたい。したがって、前記構造単位に対して使用される定式の表現は、上述した可能性に対する省略表記を表し、それらは当業者にとって自明である。
【0011】
例えば、X=Hおよびn=5は、その構造要素が、−(O−CH−CH−)−部分に相当する互いに結合した5個のEO単位を含むことを意味し、また、X=CHおよびn=5は、その構造要素が、−(O−CH−CH(CH))−部分に相当する互いに結合した5個のPO単位を含み、この場合、(当業者が認識するように)構造要素内のメチル基の配置は、各PO単位に二通りあり得る、すなわち−(O−CH−CH(CH))−または−(OCH(CH)−CH)−であり得ることを意味する。
【0012】
本発明において、式(I)は、上述した構造要素(これは論理的に各指数が少なくとも2の数であることを前提とする)に含まれるEOおよびPO単位が同時に存在してもよいことを意味すると理解すべきである。したがって、「X、YおよびZは、互いに独立に、水素またはメチル基であり」の中の表現「互いに独立して」は、上述した異なる構造要素を表すだけでなく、全く同一の構造要素にも適用される。
【0013】
〈化合物(I)〉
基Rは、炭素数2〜22、好ましくは6〜14のアルキル基であり、このアルキル基は、
− 直鎖、分枝または環状、
− 飽和、モノオレフィン性不飽和またはポリオレフィン性不飽和
であってよい。
【0014】
その例として、以下のアルキル基Rが挙げられる:ラウリル(C12)、ミリスチル(C14)、セチル(C16)、ステアリル(C18)、2−エチルヘキシル。
【0015】
好ましい実施態様において、アルキル基Rは、飽和分枝アルキル基である。この場合、2−エチルヘキシル基が特に好ましい。
【0016】
一実施態様において、Rは水素である。
【0017】
一実施態様において、基Rは、炭素数1〜3のアルキル基である。
【0018】
一実施態様において、基X、YおよびZの全てが水素である。
【0019】
一実施態様において、n+m+pの合計は、5〜50の範囲にあり、とりわけ10〜25である。
【0020】
一実施態様において、nおよびmは互いに独立して、3〜45の範囲の数であり、とりわけ5〜45の範囲の数であり、好ましくは10〜45の範囲の数である。
【0021】
一実施態様において、以下の場合がある:基Rは水素であり;基Rは飽和分枝アルキル基であり;基X、YおよびZの全てが水素であり;n+m+pの合計は5〜50、とりわけ10〜25の範囲にある。論理的には、この実施態様で指数pは値0である。
【0022】
一実施態様において、以下の場合がある:基Rは基R〔Rは定義CHOHを意味する〕であり;基Rは飽和分枝アルキル基であり;基X、YおよびZの全てが水素であり;n+m+pの合計は5〜50、とりわけ10〜25の範囲にある。
【0023】
化合物(I)は界面活性特性により識別される。低発泡性界面活性剤としてのそれらの適合性は非常に優れている。用語「界面活性剤」は、当業者に既知である。すなわち、用語「界面活性剤」は、その分子が1つ以上の親油基と1つ以上の親水基を有する界面活性化合物の総称である。その両親媒性構造により、界面活性剤は界面に集まり、それにより、とりわけ、洗浄、湿潤、乳化、分散および清浄の過程における界面活性剤の作用を左右する多くの物理的現象を引き起こす。用語「界面活性剤」は、これらの化合物の上述した典型的な構造を表したい場合に使用されることが多く、一方、用語「湿潤剤」は、界面活性剤の特定の湿潤特性を特に強調した場合に使用される。これに関して、上述したように、用語「界面活性剤」は、一連の機能的特性(例えば、機能的観点から、原則として湿潤剤、乳化剤または分散剤である界面活性剤等)に用いられるため、例えば、用語「界面活性剤」は用語「湿潤剤」に対して上位語であると理解される。当然、界面活性剤の湿潤、乳化、分散等の量的範囲については何も言及しない。したがって、原則として、親水性および疎水性構造要素を有し、当業者が上記定義に従って望む特定構造から、当業者は界面活性剤を構造的に指定し、この構造の特定の活性特性を予測することはできない。例えば、界面活性剤は水の表面張力を低下させる。界面活性剤が表面張力を下げることのできる範囲は、それらの構造に大きく依存し、一般的に、複雑の分子の場合には明確に予測することはできない。例えば、メタノールおよび石鹸は、いずれも親水基(メタノールの場合はOH基、石鹸の場合はCOH基)および疎水基(メタノールの場合はCH基、石鹸の場合は長鎖アルキル基)を含む。したがって、構造的な用語においては、メタノールも石鹸も界面活性剤に属するが、それにもかかわらず両者には全く異なる物理的性質が存在し、その活性特性が不十分であるため、メタノールが湿潤剤や乳化剤として使用されることはほとんどない。
【0024】
本発明において用語「低発泡性」は、水性媒体における化合物(I)の発泡性が非常に低いことを意味すると理解される。以下に記載する発泡試験において、化合物(I)は25mlより低い泡高値を示す。発泡試験は以下のように適用されるべきである:250mlの広口ガラス容器中で、試験物質の0.25重量%濃度の完全な脱塩水中による溶液200gを調製する。15分の攪拌時間の後(攪拌は磁性攪拌プレートを用いて行う)、すり合わせを備える100mlメスシリンダーに試験溶液を75mlまで充填し、栓で密閉する。このシリンダーを10秒間振とうし、振とう直後に泡高をミリリットル(ml)単位で読み取る。
【0025】
化合物(I)は、とりわけ、この化合物が低発泡性であることにより識別される。用語「低発泡性」は上記の定義に従う。
【0026】
化合物(I)は、例えば以下のとおり調製することができる:環状炭酸エステル(1モル)を過剰量のアミン(1.01〜5モル、好ましくは1.05〜2.5モル)。この反応においては、とりわけアミンを約45℃で導入し、環状炭酸エステルに滴下して加えることが好ましい。反応の間の温度は、約90℃を越えるべきではない。この反応は、好ましくは60〜70℃の範囲の温度で行われる。反応終了後(反応終了は残留アミンの量が一定になることから明らかになる)、過剰のアミンを減圧下で除去する。上記により得られる中間体のエトキシル化および/またはプロポキシル化は、一般的な条件下(典型的にはKOH触媒を用いる)で行う。
【0027】
化合物(I)の一般的な合成方法の一例は、その後エチレンオキシドと反応させる中間体を形成するための、エチレンカーボネートと2−エチルヘキシルアミンの反応である。この反応の特定の実施は実施例により明らかにする。
【実施例】
【0028】
エチレンカーボネート(Huntsman)と2−エチルヘキシルアミンを反応させた。この反応を行うために、1.05モルの2−エチルヘキシルアミンを四口フラスコに投入し、溶液中に窒素の緩流を反応終了まで流し続けた。アミンが45℃に加熱された時に、このアミンに1モルのエチレンカーボネートを滴下漏斗から添加する(反応温度は60℃を超えない)。3.5時間の反応の間、反応温度を60℃に保持した。一定のアミン量(電位差滴定)に達したらすぐに、過剰のアミンを除去するために減圧する。得られたわずかに黄色の中間体を、KOH触媒を用いて加圧下で、下記のようにしてエトキシル化した:中間体(1.39モル)と2.22gのKOH(50重量%濃度)を投入した。窒素を流した後、この系を30mbar、100℃で30分間排出させた。この反応は、5barを越えない圧力下、170〜180℃で行った。反応終了後、5bar、170℃で30分間、攪拌を続けた。
【0029】
この生成物の表面張力は31mN/mであった。Brookfield RVT粘度計(50rpm/24℃/スピンドル3)を用いて粘度を測定した。粘度は160mPasであった。上述した発泡試験において、この生成物は11mlの値を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造(I)で示される化合物。
【化1】

〔式中、
は、水素、炭素数1〜3のアルキル基または基Rであり、
は、直鎖、分枝または環状であってよく、飽和、モノオレフィン性不飽和またはポリオレフィン性不飽和であってもよい炭素数2〜22のアルキル基であり、
は、炭素数1〜3の飽和アルキル基であり、このアルキル基は、1つの炭素原子において基−O−(CH−CHZ−O)−Hにより置換されており、
X、YおよびZは、互いに独立に、水素またはメチル基であり、
nおよびmは、互いに独立して、1〜45の範囲の数であり、pは、0〜45の数である(ただし、n+m+pの合計は、2〜70の範囲になければならない)。〕
【請求項2】
請求項1に記載の構造(I)で示される化合物の低発泡性界面活性剤としての使用。
【請求項3】
基Rが水素である請求項2に記載の使用。
【請求項4】
基Rが炭素数1〜3のアルキル基である請求項2に記載の使用。
【請求項5】
基X、YおよびZの全てが水素である請求項2に記載の使用。
【請求項6】
n+m+pの合計が10〜25の範囲にある請求項2〜5のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
基Rが水素であり;基Rが飽和分枝アルキル基であり;基X、YおよびZの全てが水素であり;n+m+pの合計(p=0の場合)が10〜25の範囲にある、請求項2に記載の使用。
【請求項8】
基Rが2−エチルヘキシル基である請求項7に記載の使用。
【請求項9】
基Rが基R〔RはCHOHを意味する〕であり;基Rが飽和分枝アルキル基であり;基X、YおよびZの全てが水素であり;n+m+pの合計が10〜25の範囲にある、請求項2に記載の使用。

【公表番号】特表2013−505306(P2013−505306A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529143(P2012−529143)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際出願番号】PCT/EP2010/005554
【国際公開番号】WO2011/032664
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(505066718)コグニス・アイピー・マネージメント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (191)
【氏名又は名称原語表記】Cognis IP Management GmbH
【Fターム(参考)】