説明

低糖質発酵麦芽飲料およびその製造方法

【課題】ビールとしての味わいを保ちつつ、糖質が低減された発酵麦芽飲料の製造方法の提供。
【解決手段】発酵麦芽飲料の製造方法であって、糖化工程中で麦汁濾過を行うことを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低糖質発酵麦芽飲料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、肥満が原因となるメタボリックシンドロームに対する認識が高まり、糖や脂質の過剰摂取への対策に消費者の関心が高まっている。そのため、嗜好品である醸造酒においても、低糖質という付加価値を付与した商品の市場が拡大している。例えば、ビール風飲料である第3のビールや発泡酒では、100mLあたり糖質0.5g未満の低糖質性飲料が開発されている。健康増進法の栄養表示基準(厚生労働省告示第(176)号)に基づき、100mLあたり糖質0.5g未満の低糖質性飲料は、糖質ゼロと表示することが可能であるので、特に消費者の支持を得ている。
【0003】
糖質を低減する方法としては、酵母に資化される糖質を多く含む液糖を使用して酵母による資化性を高めることにより糖質を低減する方法や、糖質含有量の少ない仕込み原料を混合して用いる方法等が従来行われている。しかし、これらのビール風飲料は、すっきりしすぎて飲み応えやボディ感が減少し、水っぽくなってしまうという問題があった。このような背景から、液糖などに頼らずに、ビールとしての本格的な味わいを持つ麦芽を用いて糖質が低減されたビールを作る技術が求められている。
【0004】
非特許文献1には、澱粉をグルコアミラーゼで分解する際の副生成物について記載されている。具体的には、非特許文献1には、澱粉濃度が高いほど、グルコアミラーゼの逆反応(縮合反応)が促進され、イソマルトース等のα−1,6結合を持つ分岐オリゴ糖、すなわち酵母によって資化できない非資化性糖の生成が増大することが記載されている。しかし、引用文献1には、β−アミラーゼが共存する麦芽をグルコアミラーゼで酵素分解処理する場合の副生成物の挙動についてや、仕込み液中の麦芽原料濃度と非資化性糖の生成、ひいては最終外観発酵度(AAL)との関係については記載されておらず、ましてや、発酵麦芽飲料の製造において、糖化工程中で麦汁濾過を行うことにより、糖質が低減された発酵麦芽飲料を製造できることについては開示されていない。
【0005】
また、非特許文献2には、低カロリービールを製造するためにグルコアミラーゼ処理工程を別に設けることが記載されている。しかしながら、発酵麦芽飲料の製造において、糖化工程中で麦汁濾過を行うことにより、糖質が低減された発酵麦芽飲料を製造できることについては開示されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Biotechnology and Bioengineering, Vol. 34, pp. 694-704 (1989)
【非特許文献2】酵素利用技術大系 基礎・解析から改変・高度機能化・産業利用まで(小宮山 眞 監修、株式会社エヌ・ティー・エス (2010年))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、麦芽を原料として用いることによりビールとしての味わいを保ちつつ、糖質が低減された発酵麦芽飲料とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、発酵麦芽飲料の製造において、通常、糖化工程終了後に行っている麦汁濾過を糖化工程中に行うことにより製造された発酵麦芽飲料が、ビールとしての味わいを保ちつつ、糖質が低減されることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)発酵麦芽飲料の製造方法であって、糖化工程中で麦汁濾過を行うことを特徴とする、製造方法。
(2)第一の糖化工程と第二の糖化工程との間で麦汁濾過を行うことを特徴とする、(1)に記載の製造方法。
(3)少なくとも第一の糖化工程において、グルコアミラーゼが用いられ、かつ、第一の糖化工程が、50〜70℃で行われる、(2)に記載の製造方法。
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の方法で製造された発酵麦芽飲料。
(5)発酵麦芽飲料中の2糖および3糖の非資化性糖の合計含量が、0.16g/100ml以下である、(4)に記載の発酵麦芽飲料。
【0010】
本発明によれば、ビールとしての味わいを保ちつつ、糖質が低減された、すなわち低カロリーの発酵麦芽飲料を提供できる。本発明の製造方法によれば、第一の濾過工程で添加されたグルコアミラーゼを失活させることなく濾過麦汁後の第二の糖化工程で継続して使用することができるため、酵素の追加添加を行う場合であっても添加量を削減できる点で有利である。また、本発明の製造方法によれば、工業生産の大規模スケールでは糖化液の温度低下が少ないため、濾過中にも酵素反応は進行し、トータルの糖化時間を短縮できる点で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】麦芽原料割合と最終外観発酵度との関係を示した図である。
【図2】糖化工程中で麦汁濾過を行うことによる糖質低減効果について検討した結果を示した図である。
【図3】糖化工程中で麦汁濾過を行うことによる糖質低減効果について検討した結果を示した図である。
【図4】工業化可能性について検討した結果を示した図である。
【図5】糖化工程中で麦汁濾過を行うことによる糖質低減効果と非資化性糖の合計含量との関係を示した図である。
【図6】非資化性糖の合計含量と最終外観発酵度との関係を示した図である。
【発明の具体的説明】
【0012】
定義
本発明において「発酵麦芽飲料」とは、炭素源、窒素源および水などを原料として酵母により発酵させた飲料であって、原料として少なくとも麦芽を使用した飲料を意味する。
例えば、ビール酵母により発酵された飲料であるビール、発泡酒、リキュール(例えば、酒税法上、「リキュール(発泡性)(1)」に分類される飲料)が挙げられる。「発酵麦芽飲料」は、好ましくは、ビールまたは発泡酒であり、より好ましくは、ビールであり、さらに好ましくは、オールモルトビール(醸造用水を除く全原料の重量に対する麦芽原料の重量の割合が100%であるビール)である。
【0013】
本発明において「糖質が低減された発酵麦芽飲料」とは、常法により製造された発酵麦芽飲料の糖質の量と比較して、糖質が低減されている発酵麦芽飲料を意味する。「糖質が低減された発酵麦芽飲料」としては、例えば、糖質が1.4g/100ml以下の発酵麦芽飲料とすることができる。
【0014】
本発明において「ビールとしての味わい」とは、通常にビールを製造した場合、すなわち、ビール酵母による発酵に基づいて麦芽や大麦等の使用比率が高いビールを製造した場合に得られるビール特有の味わいや飲み応えをいう。
【0015】
本発明の発酵麦芽飲料の製造方法
本発明の製造方法では、糖化工程中で麦汁濾過を行う。糖化工程中で麦汁濾過を行うことにより、ビールとしての味わいを保ちつつ、糖質が低減された発酵麦芽飲料を製造することができる。
【0016】
本発明の製造方法では、具体的には、第一の糖化工程と第二の糖化工程との間で麦汁濾過を行う。
【0017】
[第一の糖化工程]
第一の糖化工程は、麦芽粉砕物(麦芽原料)と水の混合物を糖化することにより行うことができる。
【0018】
麦芽粉砕物は、大麦、例えば二条大麦を、常法により発芽させ、これを乾燥後、所定の粒度に粉砕したものを用いることができる。
【0019】
麦芽粉砕物と水の混合物には、麦芽以外に、未発芽の麦類(例えば、未発芽大麦(エキス化したものを含む)、未発芽小麦(エキス化したものを含む));米、とうもろこし、こうりゃん、馬鈴薯、でんぷん、糖類(例えば、液糖)等の酒税法で定める副原料;タンパク質分解物や酵母エキス等の窒素源;香料、色素、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤等のその他の添加物をさらに添加することができる。
【0020】
発酵麦芽飲料を構成する麦芽粉砕物、水、その他の添加物の割合は適宜決定することができるが、発酵麦芽飲料の糖度が6〜14%、好ましくは、8〜12%となるように麦芽粉砕物、水およびその他の添加物の割合を決定してもよい。麦芽粉砕物、水、その他の添加物の割合は、例えば、麦芽粉砕物100重量部に対して、水300〜800重量部、その他の添加物0〜500重量部、好ましくは、水300〜500重量部、その他の添加物0〜400重量部とすることができる。
【0021】
第一の糖化工程は、グルコアミラーゼを使用して行うことができる。第一の糖化工程においては、グルコアミラーゼは単独で使用することもできるし、他の糖化酵素と組み合わせて使用することもできる。他の糖化酵素と組み合わせて使用する場合は、グルコアミラーゼの使用量を減らすことができる。他の糖化酵素としては、例えば、プルラナーゼ、イソアミラーゼ等が挙げられるが、好ましくは、プルラナーゼである。グルコアミラーゼの使用量および処理時間は、糖化工程を進行できる範囲で適宜決定することができる。
【0022】
第一の糖化工程は、70℃以下、好ましくは、65℃以下で行うことができる。第一の糖化工程を70℃以下で行うことにより、使用されたグルコアミラーゼが失活せず、よって、第二の糖化工程においても使用することができる。第一の糖化工程は、また、50℃以上で行うことができる。第一の糖化工程を50℃以上で行うことにより、グルコアミラーゼを好適に作用させることができる。第一の糖化工程は、好ましくは、50〜70℃、より好ましくは、50〜65℃で行うことができる。
【0023】
第一の糖化工程における時間は、10分〜1.5時間、好ましくは、30分〜1時間とすることができる。ただし、第一の糖化工程と第二の糖化工程との合計時間は、2〜5時間とすることができる。
【0024】
第一の糖化工程の開始時点における仕込み液は、重量比を、麦芽原料:水=1:3〜1:8、好ましくは、麦芽原料:水=1:3〜1:6、より好ましくは、麦芽原料:水=1:3〜1:5とすることができる。
【0025】
上記以外の糖化の条件については常法に従って適宜決定することができる。
【0026】
[麦汁濾過]
麦汁濾過は、糖化工程完了後に行わずに、第一の糖化工程と第二の糖化工程との間で行う以外は常法に従って実施することができる。
【0027】
麦汁濾過は、公知の濾過装置を用いて行うことができる。
【0028】
麦汁濾過は、70℃以下、好ましくは、65℃以下で行うことができる。麦汁濾過を70℃以下で行うことにより、第一の糖化工程で使用されたグルコアミラーゼが失活せず、よって、第二の糖化工程においても使用することができる。麦汁濾過は、また、50℃以上で行うことができる。麦汁濾過を50℃以上で行うことにより、濾過中も、糖化反応を進行させることができる。麦汁濾過は、好ましくは、50〜70℃、より好ましくは、50〜65℃で行うことができる。
【0029】
麦汁濾過における時間は、10分〜1時間とすることができる。
【0030】
麦汁濾過の後に、歩留まりを上げるために湯でもろみを洗浄する「撒き湯」を行うこともできる。ここで「撒き湯」とは、糖化したもろみの上から、糖化時と同様の低温の湯を撒く事によってもろみ中のエキス分を回収することを意味する。
【0031】
[第二の濾過工程]
第二の糖化工程は、麦汁濾過工で得られた濾過麦汁をさらに糖化することにより行うことができる。
【0032】
第二の糖化工程では、濾過麦汁は、そのまま使用することもできるし、希釈して使用することもできる。濾過麦汁を希釈してから糖化工程に供することにより、非資化性糖(特に、イソマルトース)の生成を抑制することができる。従って、糖質が低減された発酵麦芽飲料を製造する観点から、好ましくは、濾過麦汁は、希釈して使用する。
【0033】
第二の糖化工程の開始時点における濾過麦汁は、重量比を、麦芽原料:水=1:3〜1:8、好ましくは、麦芽原料:水=1:5〜1:7とすることができる。なお、濾過麦汁における麦芽原料と水との重量比は、濾過麦汁の麦芽原料の重量を、麦汁濾過前の麦芽原料(すなわち、仕込み液の麦芽原料)の重量として算出することができる。
【0034】
第二の糖化工程は、70℃以下、好ましくは、65℃以下で行うことができる。第二の糖化工程は、また、50℃以上で行うことができる。第二の糖化工程を50℃以上で行うことにより、グルコアミラーゼを好適に作用させることができる。第二の糖化工程は、好ましくは、50〜70℃、より好ましくは、50〜65℃で行うことができる。
【0035】
第一の糖化工程および麦汁濾過工程が70℃以下で行われた場合は、第一の糖化工程で使用されたグルコアミラーゼが失活しないため、第一の糖化工程で使用されたグルコアミラーゼを継続して第二の糖化工程においても使用することができるが、第二の糖化工程において、グルコアミラーゼをさらに添加することもできる。濾過麦汁が希釈された場合であっても、グルコアミラーゼをさらに添加することにより、酵素活性を補うことができる。第二の糖化工程においては、グルコアミラーゼは単独で使用することもできるし、他の糖化酵素と組み合わせて使用することもできる。他の糖化酵素と組み合わせて使用する場合は、グルコアミラーゼの使用量を減らすことができる。他の糖化酵素としては、例えば、プルラナーゼ、イソアミラーゼ等が挙げられるが、好ましくは、プルラナーゼである。
【0036】
第二の糖化工程における時間は、1.5〜4.5時間とすることができるが、第一の糖化工程における時間よりも長くすることが好ましい。ただし、第一の糖化工程と第二の糖化工程との合計時間は、2〜5時間とすることができる。
【0037】
本発明による製造方法は、糖化工程中で麦汁濾過工程を行う以外は、通常の発酵麦芽飲料の製造手順に従って実施することができる。すなわち、上記第二の糖化工程により得られた麦汁にホップを加えて煮沸し、冷却後、酵母を添加して発酵を行い、発酵麦芽飲料を製造することができる。得られた発酵麦芽飲料は、低温にて貯蔵した後、ろ過工程により酵母を除去することができる。濾過の後、通常のビールまたは発泡酒の製造において行われる工程、例えば、脱気水などによる最終濃度の調節、炭酸ガスの封入、低温殺菌(パストリゼーション)、容器(例えば樽、壜、缶)への充填(パッケージング)、容器のラベリングなど、を適宜行うことができる。濾過の後、通常のビールまたは発泡酒の製造において行われる工程、例えば、脱気水などによる最終濃度の調節、炭酸ガスの封入、低温殺菌(パストリゼーション)、容器(例えば樽、壜、缶)への充填(パッケージング)、容器のラベリングなどを適宜行うことができる。
【0038】
本発明の好ましい態様によれば、発酵麦芽飲料の製造方法であって、第一の糖化工程と第二の糖化工程との間で麦汁濾過を行うことを特徴とし、少なくとも第一の糖化工程において、グルコアミラーゼが用いられ、かつ、第一の糖化工程が、50〜70℃で行われ、第一の糖化工程の開始時点における仕込み液の重量比が麦芽原料:水=1:3〜1:5であり、第二の糖化工程の開始時点における濾過麦汁の重量比が麦芽原料:水=1:5〜1:7である製造方法が提供される。
【0039】
[本発明の発酵麦芽飲料]
本発明によれば、本発明の製造方法によって製造された発酵麦芽飲料が提供される。本発明の発酵麦芽飲料は、ビールとしての味わいを保ちつつ、糖質が低減されている。
【0040】
本発明において、糖質が低減されたか否かは、外観最終発酵度(AAL)を用いて確認することができる。
外観最終発酵度は次式で算出することができる。
[数1]
外観最終発酵度(%)=((E―e)/E)×100
E:初糖度(゜P)
e:最終糖度(゜P)
【0041】
初糖度および最終糖度は、公知の方法に従って測定することができる(「ビール醸造技術」(1999)、食品産業新聞社、292頁)。
【0042】
通常の方法(すなわち、麦汁濾過工程を糖化工程後に行う方法)で製造された発酵麦芽飲料のAAL値と比較して、AAL値が上昇した場合に、対象の発酵麦芽飲料の糖質が低減されたと判断することができる。
【0043】
本発明の発酵麦芽飲料は、また、非資化性糖が低減されている。後記実施例5に記載されるように、2糖および3糖の非資化性糖の合計含量とAAL値との間には強い負の相関が示されたことから、本発明の発酵麦芽飲料においては、発酵麦芽飲料中の非資化性糖が低減されることにより、糖質の低減が実現されたと考えられる。
【0044】
本発明において「非資化性糖」とは、酵母によって資化できない糖を意味し、α−1,6結合を持つ分岐オリゴ糖が挙げられ、特には、2糖または3糖の糖である。2糖の非資化性糖としては、例えば、ニゲロース、イソマルトース等が挙げられる。3糖の非資化性糖としては、例えば、イソマルトトリオース、パノース、イソパノース等が挙げられる。2糖および3糖の非資化性糖は、好ましくは、ニゲロース、イソマルトース、イソマルトトリオース、パノースである。
【0045】
本発明において「非資化性糖が低減されている」とは、常法により製造された発酵麦芽飲料中の非資化性糖の量と比較して、非資化性糖の量が低減されていることを意味する。
【0046】
本発明の発酵麦芽飲料中の2糖および3糖の非資化性糖の合計含量は、0.16g/100ml以下とすることができ、好ましくは、0.15g/100ml以下である。
【実施例】
【0047】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0048】
実施例1:麦芽原料割合の最終外観発酵度に対する影響
北米産二条大麦麦芽を常法を用いて粉砕し、これに水を加え、重量比が麦芽原料:水=1:3〜1:8となるように調整した。これにグルコアミラーゼ(グルクザイムNLP;アマノエンザイム社)、プルラナーゼ(プルラナーゼ・アマノ3;アマノエンザイム社)を、それぞれ表1に示した濃度で添加した後、64℃にて表1に示す時間で糖化を行った。その後14分間で78℃まで昇温して5分間保持し、麦汁濾過した後、10分間煮沸した。7℃に冷却後、濾過を行い、糖度を6.0重量%に調整した後、常法に従い、ビール醸造用酵母3%(w/v)加え、20℃にて2日間発酵させた。発酵前後で糖度計(アントンパール社)を用いて糖度を測定し、最終外観発酵度(AAL)を算出した。
【表1】

その結果、AAL値は、麦芽原料:水=1:3のときと比較して、麦芽原料:水=1:4〜8のときに1.3〜3.2%高いことが確認された(図1)。この結果から、β−アミラーゼが共存する麦芽糖化液中であっても、麦芽原料割合を増加させると、グルコアミラーゼの逆反応が促進され、非資化性糖の生成が増加することが示唆された。また、麦芽原料割合を下げると、グルコアミラーゼの逆反応が抑制され、最終外観発酵度を上昇させることができることが示唆された。
【0049】
実施例2:糖化工程中で麦汁濾過を行うことによる糖質低減効果の確認(1)
北米産二条大麦麦芽を常法にて粉砕し、これに水を加え、重量比が麦芽原料:水=1:4となるように仕込み液を調整した。実験区は、仕込み液に、表2に示すとおりにグルコアミラーゼを添加し、64℃にて糖化を行った。その後、同温度にて、濾紙濾過法を使用して麦汁濾過を行った後、麦芽原料:水=1:6(麦汁濾過前の麦芽原料の重量に基づいて算出)となるよう同温度の湯で濾過麦汁の希釈を行った。さらに同温度にて糖化を継続し、合計で2または5時間糖化を行った。対照区は、表2に示すとおりにグルコアミラーゼを添加し、64℃にて2または5時間糖化を行った後に、同温度で麦汁濾過したものとした。なお、プルラナーゼはいずれの試験区も麦下ろし時のみ2.0g/kg原料で添加した。このようにして得られた糖化液(実験区および対照区)を10分間煮沸し、7℃に冷却して、濾過を行い、糖度を6.0重量%に調整した後、常法に従い、ビール醸造用酵母3%(w/v)加え、20℃にて2日間発酵させた。発酵前後で糖度を測定し、AALを算出した。
【表2】

その結果、麦芽原料:水=1:4で糖化を開始し、1時間または30分後に濾過を行った後、麦芽原料:水=1:6となるよう水で希釈して再度糖化を行った場合(実験区)、糖化工程中に麦汁濾過を行わない対照区と比較して、AALが0.9〜2.1%向上することが確認された(図2)。また、糖化開始から1時間後に濾過を行うよりも30分後に濾過を行なった方がよりAALが高いことが確認された(図2)。
【0050】
実施例3:糖化工程中で麦汁濾過を行うことによる糖質低減効果の確認(2)
北米産二条大麦麦芽を常法にて粉砕し、これに水を加え、重量比が麦芽原料:水=1:4となるように仕込み液を調整した。実験区は、仕込み液に、表3に示すとおりにグルコアミラーゼを添加し、64℃にて糖化を行った。30分後に同温度にて麦汁濾過し、麦芽原料:水=1:6(麦汁濾過前の麦芽原料の重量に基づいて算出)となるよう同温度の湯で、洗浄(撒き湯)を行った。さらに同温度にて糖化を継続し、合計で2または5時間糖化を行った。対照区は、表3に示すとおりにグルコアミラーゼを添加し、64℃にて2または5時間糖化を行った後に、同温度で麦汁濾過したものとした。なお、プルラナーゼはいずれの試験区も麦下ろし時のみに2.0g/kg原料を添加した。このようにして得られた糖化液(実験区および対照区)を10分間煮沸し、7℃に冷却して、濾過を行い、糖度を6.0重量%に調整した後、常法に従い、ビール醸造用酵母3%(w/v)加え、20℃にて2日間発酵させた。発酵前後で糖度を測定し、AALを算出した。
【表3】

その結果、麦芽原料:水=1:4で糖化を開始し、30分後に濾過を行った後、撒き湯によって濾過麦汁が麦芽原料:水=1:6となるよう希釈して再度糖化を行った場合(実験区)、実施例2と同様に、対照区と比較してAALが1.3〜1.9%向上すること、また、撒き湯に加え、グルコアミラーゼを追加添加した場合、AALは2.2〜3.1%とさらに向上することが確認された(図3)。
【0051】
実施例4:工業化可能性の確認
北米産二条大麦麦芽を常法にて粉砕し、これに水を加え、重量比が麦芽原料:水=1:4となるように仕込み液を調整した。実験区は、50℃にて糖化を開始し、50分後に1℃/1分の速度で温度を64℃まで上昇させ、さらに64℃で10分間糖化を行った。その後、同温度にて麦汁濾過し、麦芽原料:水=1:6(麦汁濾過前の麦芽原料の重量に基づいて算出)となるよう同温度の湯で濾過麦汁の希釈を行った。さらに同温度にて60分間糖化を継続し、合計で2.25時間糖化を行った。対照区は、上記の温度経過と同様に、50℃にて糖化を開始し、50分後に1℃/1分の速度で温度を64℃まで上昇させ、さらに64℃で70分間糖化を行い、合計2.25時間糖化を行った後に、同温度で麦汁濾過したものとした。なお、プルラナーゼはいずれの試験区も麦下ろし時のみに2.0g/kg原料を添加した。このようにして得られた糖化液(実験区および対照区)を10分間煮沸し、7℃に冷却して、濾過を行い、糖度を6.0重量%に調整した後、常法に従い、ビール醸造用酵母3%(w/v)加え、20℃にて2日間発酵させた。発酵前後で糖度を測定し、AALを算出した。
【表4】

その結果、50℃で糖化を開始して64℃にて10分間糖化を行った後に濾過を行った場合においても、実施例2と同様に対照区と比較してAALは1.3%向上することが確認された(図4)。従って、本願発明による方法は工業化が可能であることが示された。
【0052】
実施例5:発酵後の非資化性糖の分析
実施例2における酵母発酵液について、ダイオネクス社製のイオンクロマト装置(カラム:CarboPac PA1 4×250mm)を用いて、2糖および3糖の非資化性糖の分析を行った。α1,6結合を持つ非資化性糖の標準品としてイソマルトース、イソマルトトリオース、パノース、ニゲロースを用いた。分析値は、発酵前の糖度として12.0重量%の場合に換算して求めた。
【表5】

その結果、実験区においては、糖化工程中に麦汁濾過を行わない対照区と比較して、2糖および3糖の非資化性糖の合計含量が低くなっていることが確認された(表5、図5)。また、非資化性糖の合計含量とAAL値との間に強い負の相関が示されることが確認された(表5、図6)。従って、糖化工程中で麦汁濾過を行うことによる糖質低減効果は、非資化性糖の合計含量の低下によるものであることが示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵麦芽飲料の製造方法であって、糖化工程中で麦汁濾過を行うことを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
第一の糖化工程と第二の糖化工程との間で麦汁濾過を行うことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
少なくとも第一の糖化工程において、グルコアミラーゼが用いられ、かつ、第一の糖化工程が、50〜70℃で行われる、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法で製造された発酵麦芽飲料。
【請求項5】
発酵麦芽飲料中の2糖および3糖の非資化性糖の合計含量が、0.16g/100ml以下である、請求項4に記載の発酵麦芽飲料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−147780(P2012−147780A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−289245(P2011−289245)
【出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)