説明

低速射出金型鋳造用の水性離型剤

【課題】 離型剤使用時の作業環境が良好であることは勿論、金型溶湯に対する保温性に優れており、更に離型剤が金型キャビティ面に薄く均一に広がって付着するいわゆる付着性が十分に高く、しかも離型剤が金型キャビティ面に厚く堆積して付着するいわゆる堆積性が十分に低いという優れた性能を有する低速射出金型鋳造用の水性離型剤を提供すること。
【解決手段】 (A)セピオライト、パリゴルスカイト、スメクタルト、ベントナイト及びアタパルジャイトからなる群より選ばれる少なくとも1種のチクソトロピー性を有する粘土鉱物、(B)ポリエチレン系、ポリプロピレン系、パラフィン系、ポリスチレン系、アクリル系、酢酸ビニル系、エチレン系、ブタジエン系からなる群より選ばれる少なくとも1種の高分子量有機化合物、(C)イオン的反発効果を有する分散剤、及び(D)水を含有することを特徴とする低速射出金型鋳造用の水性離型剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低速射出金型鋳造用の水性離型剤に関し、より詳しくは、スクイズキャスティング等のように溶湯の鋳込み速度が遅く、金型末端に達する前に溶湯が冷えて固まり易いいわゆる低速射出金型鋳造において使用することができる水性離型剤に関する。
【背景技術】
【0002】
低速射出金型鋳造には、スクイズキャスティング、層流充填ダイカスト法、竪型加圧鋳造法等があり、具体的には、溶湯を低速(例えば0.05〜2.00m/s)で金型内部に鋳込み、プランジャーや加圧ピンで高圧(例えば100〜1500kg/cm)をかけた状態で凝固させるといった鋳造法である。このように溶湯の鋳込み速度が遅い低速射出金型鋳造法は、金型内に溶湯を鋳込む際に空気やガスを巻き込みにくく、強度の高い鋳造品が得られるため、特にアルミニウム化により軽量化が進む自動車保安部品の製造の際に採用されている。そして、このような低速射出金型鋳造法においては、より品質の高い鋳造品を得るために従来より種々の離型剤が提案されてきている。
【0003】
例えば、特開平7−256389号公報(特許文献1)では、セピオライト等の無機化合物と付着性を有する有機化合物とを使用した粉体又は顆粒状の低圧鋳造用粉体塗型剤が提案されている。しかしながら、このような粉体又は顆粒状の離型剤においては、金型キャビティ面に薄く均一に供給することが困難であるという問題、その形状のために離型剤による金型の冷却が得られないという問題、シリコーンエマルション等の水性成分との併用ができないという問題、離型剤の濃度を容易に調整できないという問題、並びに特別な設備が必要であるという問題等を有していた。
【0004】
一方、特開平5−7978号公報(特許文献2)では、このような粉体又は顆粒状の離型剤とはタイプの異なる水性離型剤として、黒鉛粉末の水分散物を利用する溶湯鍛造用黒鉛離型剤が提案されている。しかしながら、このような黒鉛系の離型剤においては、黒色であることから周囲の作業環境を汚染してしまうという問題が生じ、更に金型溶湯に対する保温性が低く、湯廻り性の向上及び鋳肌平滑性の向上に限度があるという問題もあった。
【0005】
また、特開平9−66340号公報(特許文献3)では、タルク、雲母等の無機粉体を分散液にした白色系のスクイズキャスティング用離型剤原料、及びその無機粉体分散液にワックスエマルションを組み合わせたスクイズキャスティング用離型剤原料が提案されている。また、特開平6−114494号公報(特許文献4)では、ワックス及び比表面積が40m/g以上の多孔質合成珪酸化合物からなる離型剤粒子を水中に懸濁させて使用する金型鋳造用離型剤が提案されている。しかしながら、このような無機粉体系の成分を含む水性離型剤にあっては、離型剤が金型キャビティ面に薄く均一に広がって付着するいわゆる付着性が必ずしも十分なものではないため離型剤の使用量の低減に限度があり、また離型剤が金型キャビティ面に厚く堆積して付着するいわゆる堆積性が高いため金型を研掃して堆積物を除去するのに時間を要して生産性の低下を招くという問題があった。
【特許文献1】特開平7−256389号公報
【特許文献2】特開平5−7978号公報
【特許文献3】特開平9−66340号公報
【特許文献4】特開平6−114494号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、離型剤使用時の作業環境が良好であることは勿論、金型溶湯に対する保温性に優れており、更に離型剤が金型キャビティ面に薄く均一に広がって付着するいわゆる付着性が十分に高く、しかも離型剤が金型キャビティ面に厚く堆積して付着するいわゆる堆積性が十分に低いという優れた性能を有する低速射出金型鋳造用の水性離型剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、チクソトロピー性を有する特定の粘土鉱物と特定の高分子量有機化合物とを組み合わせて使用し、そこにイオン的反発効果を有する分散剤を水と共に配合することにより、高保温性、高付着性及び低堆積性を同時に高水準で達成することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の低速射出金型鋳造用の水性離型剤は、
(A)セピオライト、パリゴルスカイト、スメクタルト、ベントナイト及びアタパルジャイトからなる群より選ばれる少なくとも1種のチクソトロピー性を有する粘土鉱物、
(B)ポリエチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレン、ポリプロピレンオキサイド、パラフィン、ポリスチレン、アクリル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、アクリルエステル系樹脂、アクリル−ポリオール系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル−アクリル系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、エチレンビニルエステル系樹脂及びエチレン−酢酸ビニル−アクリル系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の高分子量有機化合物、
(C)イオン的反発効果を有する分散剤、及び
(D)水を含有することを特徴とするものである。
【0009】
本発明の水性離型剤においては、(A)チクソトロピー性を有する粘土鉱物が0.001〜50質量部、(B)高分子量有機化合物が0.0005〜30質量部、(C)分散剤が0.00005〜30質量部、(D)水が1〜100質量部含有されていることが好ましい。
【0010】
また、本発明の水性離型剤においては、シリコーン、鉱物油、油脂及び金属石鹸からなる群より選ばれる少なくとも1種が0.005〜30質量部更に含有されていることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明の水性離型剤に用いられる(C)分散剤としては、ポリカルボン酸、スルホン酸、燐酸エステル、硫酸エステル及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
なお、本発明の低速射出金型鋳造用の水性離型剤によって、高保温性、高付着性及び低堆積性が同時に高水準で達成されるようになる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明において用いられるセピオライト等のチクソトロピー性を有する特定の粘土鉱物は、潤滑性に優れていると共に、ポリエチレンワックス等の特定の高分子量有機化合物と組み合わせて使用するとそれらの相乗作用によって高水準の保温性が達成されるようになる。また、このような特定の粘土鉱物と特定の高分子量有機化合物と共にイオン的反発効果を有する分散剤を水に配合するようにすると、粘土鉱物に分散剤が吸着し、そのイオン的反発効果(静電気的反発効果及び立体的反発効果を含む)によって粘土鉱物同士の凝集(粉体間の会合結合)が抑制されて分散状態が安定化し、原液及びその希釈液において粘度の低下及び粘土鉱物の沈降が抑制されるため、離型剤が金型キャビティ面に厚く堆積して付着するいわゆる堆積性を十分に低下させることが可能となる。さらに、本発明において用いられる分散剤が有する極性基(極性効果)により金属との配向性が向上するため、得られる水性離型剤の金型キャビティー面に対する濡れ性が向上し、離型剤が金型キャビティ面に薄く均一に広がって付着するいわゆる付着性も十分に向上することとなるものと本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来の黒鉛系離型剤を用いた場合のように周囲の作業環境を汚染してしまうことなく、金型溶湯に対する保温性に優れており、更に離型剤が金型キャビティ面に薄く均一に広がって付着するいわゆる付着性が十分に高く、しかも離型剤が金型キャビティ面に厚く堆積して付着するいわゆる堆積性が十分に低いという優れた性能を有する低速射出金型鋳造用の水性離型剤を提供することが可能となる。
【0014】
したがって、本発明の水性離型剤を用いた低速射出金型鋳造によれば、離型剤が潤滑性と共に保温性にも優れているため、金属溶湯の冷却速度を遅らせることが可能となり、湯廻りが良好となると共にプランジャの終圧や加圧ピンの効果が末端まで行き渡るようになり、鋳肌平滑性の向上が達成される。また、前記特定の粘土鉱物には吸着性もあるため、上記効果と相まって、空気の巻き込み巣や鋳巣等の欠陥の発生をより確実に防止することも可能となる。さらに、本発明の水性離型剤は高付着性を有しているため、鋳造時における離型剤の使用量を低減(低濃度使用)することが可能となり、同時に低堆積性も有しているため金型を研掃して堆積物を除去するための金型洗浄回数を大幅に削減して生産性を向上させることも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の低速射出金型鋳造用の水性離型剤をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0016】
本発明の低速射出金型鋳造用の水性離型剤において用いられる(A)チクソトロピー性を有する粘土鉱物は、セピオライト、パリゴルスカイト、スメクタルト、ベントナイト及びアタパルジャイトからなる群より選ばれる少なくとも1種のものであり、中でも高い潤滑性が達成される傾向にあるという観点から、セピオライトが特に好ましい。前述のように、このような特定の粘土鉱物を特定の高分子量有機化合物及び特定の分散剤と組み合わせて使用することにより、それらの相乗作用によって高保温性、高付着性及び低堆積性が同時に高水準で達成されるようになる。なお、ここでいうチクソトロピー性とは、応力による物体の軟化現象のうち回復を伴う性質(揺変性)をいう。
【0017】
本発明の低速射出金型鋳造用の水性離型剤において用いられる(B)高分子量有機化合物は、ポリエチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレン、ポリプロピレンオキサイド、パラフィン、ポリスチレン、アクリル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、アクリルエステル系樹脂、アクリル−ポリオール系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル−アクリル系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、エチレンビニルエステル系樹脂及びエチレン−酢酸ビニル−アクリル系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の高分子量有機化合物であり、中でも付着性及び潤滑性という観点からポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル系樹脂がより好ましい。前述のように、このような特定の高分子量有機化合物を特定の粘土鉱物及び特定の分散剤と組み合わせて使用することにより、それらの相乗作用によって高保温性、高付着性及び低堆積性が同時に高水準で達成されるようになる。なお、本発明にかかる(B)高分子量有機化合物は、1種を単独で用いることも、2種以上を混合して用いることも可能である。
【0018】
また、本発明にかかる(B)高分子量有機化合物の分子量は特に制限されないが、水に分散させて用いるという観点から、一般的には分子量が1000〜200000程度のものが好ましく、例えばポリエチレンワックス、ポリエチレンオキサイドワックス、ポリプロピレンワックス、ポリプロピレンオキサイドワックス、パラフィンワックス、ポリスチレンワックスのようなワックス状のものが好適に使用される。
【0019】
さらに、本発明にかかる(B)高分子量有機化合物は、水に分散させ易いように、予めエマルション化(又はラテックス化)したものを用いることが好ましい。このような(B)高分子量有機化合物のエマルション(又はラテックス)を構成する分散媒は特に制限されないが、用いる高分子量有機化合物に応じて適宜選択された非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤等の成分を含有する水溶液が好適に使用される。また、このようなエマルション(又はラテックス)を構成する分散質(高分子量有機化合物)の含有量も特に制限されないが、一般的には20〜70質量%程度のものが好ましい。
【0020】
本発明の低速射出金型鋳造用の水性離型剤において用いられる(C)イオン的反発効果を有する分散剤は、カルボキシメチルセルロース等のように増粘性によって分散性を向上せしめる分散剤ではなく、前述の(A)粘土鉱物に吸着し、そのイオン的反発効果(静電気的反発効果及び立体的反発効果を含む)によって粘土鉱物同士の凝集を抑制して分散状態を安定化せしめるものである。このような(C)イオン的反発効果を有する分散剤としては、ポリカルボン酸、スルホン酸、燐酸エステル、硫酸エステル及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、中でも粘土鉱物粒子の分散状態をより安定化せしめるという観点から、ポリアクリル酸塩、ポリマレイン酸塩、ポリスチレンマレイン酸塩、ポリスルホン酸塩が特に好ましい。なお、このようなポリカルボン酸塩、スルホン酸塩、燐酸エステル塩又は硫酸エステル塩を構成する塩成分は特に制限されないが、例えば、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩が挙げられる。また、本発明にかかる(C)分散剤は、1種を単独で用いることも、2種以上を混合して用いることも可能である。
【0021】
本発明の低速射出金型鋳造用の水性離型剤は、前述の(A)チクソトロピー性を有する特定の粘土鉱物と、(B)特定の高分子量有機化合物と、(C)イオン的反発効果を有する分散剤と、(D)水とを含有する水分散系のものであり、本発明にかかる(D)水は分散媒の役割を果たすものである。
【0022】
本発明の低速射出金型鋳造用の水性離型剤における前記(A)〜(D)成分の含有量は、目的とする水性離型剤の用途や使用時の希釈率(通常、希釈なし(原液のまま)〜50倍希釈程度)等に応じて適宜選択されるが、(A)チクソトロピー性を有する特定の粘土鉱物が0.001〜50質量部(より好ましくは水性離型剤中5〜35質量%)、(B)特定の高分子量有機化合物が0.0005〜30質量部(より好ましくは水性離型剤中2〜20質量%)、(C)イオン的反発効果を有する分散剤が0.00005〜30質量部(より好ましくは水性離型剤中0.1〜10質量%)、及び(D)水が1〜100質量部(より好ましくは水性離型剤中40〜90質量%)であることが好ましい。
【0023】
(A)チクソトロピー性を有する特定の粘土鉱物の含有量が前記上限を超えると粘度が高くなり、剤形化が困難となる傾向にあり、他方、前記下限未満では特に潤滑性及び保温性が低下する傾向にある。なお、本発明においては、(A)粘土鉱物に(C)分散剤が吸着し、そのイオン的反発効果によって粘土鉱物同士の凝集が抑制されて粘度の低下及び粘土鉱物の沈降が十分に抑制されるため、(A)粘土鉱物を従来より多く添加することが可能となる。このような観点から、(A)チクソトロピー性を有する特定の粘土鉱物の含有量が水性離型剤中5〜35質量%であることがより好ましい。
【0024】
また、(B)特定の高分子量有機化合物の含有量が前記上限を超えると堆積性が高くなる傾向にあり、他方、前記下限未満では特に付着性が低下する傾向にある。
【0025】
さらに、(C)イオン的反発効果を有する分散剤の含有量が前記上限を超えると離型効果が得られなくなる傾向にあり、他方、前記下限未満では特に付着性が低下すると共に堆積性が高くなる傾向にある。
【0026】
また、(D)水の含有量が前記上限を超えると特に潤滑性及び保温性が低下する傾向にあり、他方、前記下限未満では特に付着性が低下すると共に堆積性が高くなる傾向にある。
【0027】
本発明の低速射出金型鋳造用の水性離型剤においては、より高い潤滑性を得るという観点から、前記(A)〜(D)成分と共に、シリコーン、鉱物油、油脂及び金属石鹸からなる群より選ばれる少なくとも1種を付加成分として0.005〜30質量部(より好ましくは水性離型剤中1〜20質量%)含有していることが好ましい。このような付加成分の含有量が前記上限を超えると粘度が高くなり、堆積性も高くなる傾向にあり、他方、前記下限未満では付加成分の添加による十分な潤滑性向上効果が得られない傾向にある。
【0028】
なお、本発明に好適なシリコーンとしては、ジメチルシリコーン、α−オレフィン変性シリコーン等のアルキル変性シリコーン、フェニル変性シリコーン、アラルキル変性シリコーン、アルキル−アラルキル変性シリコーン等が挙げられる。また、本発明に好適な鉱物油としては、タービン油、マシン油、シリンダー油、パラフィン油、ギヤ油等が挙げられ、本発明に好適な油脂としては、大豆油、菜種油、パーム油等の植物油、牛脂、ラノリン、ラード等の動物油が挙げられる。さらに、本発明に好適な金属石鹸としては、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、ラウリン酸、セバシン酸等の脂肪酸のナトリウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩が挙げられる。なお、このような金属石鹸の中でも、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムが潤滑性の観点からより好ましい。
【0029】
また、本発明の低速射出金型鋳造用の水性離型剤において前記の付加成分を含有させる場合、付加成分と水との親和性をより向上させるために界面活性剤を更に含有させることが好ましい。このような界面活性剤及びその含有量は特に制限されないが、例えば、高級アルコールのエチレンオキサイド付加物、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのブロック又はランダム付加物等の非イオン性界面活性剤等が挙げられ、その含有量としては一般的には0.00005〜10質量部(より好ましくは水性離型剤中0.2〜3質量%)程度が好ましい。
【0030】
本発明の低速射出金型鋳造用の水性離型剤を製造する方法は特に制限されないが、例えば、(D)水に(C)分散剤を溶解させた溶液に(A)粘土鉱物を加えて均一に混合し、更に(B)高分子量有機化合物を加えて均一に混合することによって好適に製造することができる。
【0031】
また、本発明の低速射出金型鋳造用の水性離型剤を適用する具体的な鋳造法は特に制限されず、例えば、スクイズキャスティング、層流充填ダイカスト法、竪型加圧鋳造法等の鋳造法に用いることができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
(実施例1)
混合容器中の水30gに、ポリカルボン酸塩系の分散剤(日華化学(株)製、商品名:ディスパテックスSMA)1gを溶かした水溶液を得た後、前記水溶液を高速で攪拌しながらセピオライト(昭和鉱業(株)製、商品名:ミルコンSP)15gを加えて混合した。その後、得られた分散液が均一に混合されたところで、ポリエチレンワックスエマルション(アライドシグナル社製、商品名:629)を固形分として5g、アクリル樹脂エマルション(大日本インキ化学工業(株)製、商品名:トークリルW−265)を固形分として5g、及びシリコーンエマルション(GE東芝シリコーン(株)製、商品名:TSM6353)を固形分として5gそれぞれ加えて均一に混合した後、水を加えて総量100gとなるように調整して水性離型剤を得た。
【0034】
(実施例2〜5及び比較例1〜2)
表1に示す成分をそれぞれ表1に示す配合比となるように配合した以外は実施例1と同様にして、実施例2〜5及び比較例1〜2の水性離型剤を得た。なお、タルクとしては丸尾カルシウム(株)製の商品名:LMS#200を用い、また、界面活性剤としてはラウリルアルコールのエチレンオキサイド9モル付加物を用いた。
【0035】
(比較例3)
ポリカルボン酸塩系の分散剤(日華化学(株)製、商品名:ディスパテックスSMA)に代えて、カルボキシメチルセルロース(重合度500)を使用した以外は実施例1と同様にして水性離型剤を得たが、粘度が高く、ペースト状となり、スプレー噴霧はできなかった。
【0036】
[水性離型剤の評価]
実施例1〜5及び比較例1〜2で得られた水性離型剤について、以下の方法で付着性、堆積性及び保温性の評価を行った。
【0037】
付着性
各実施例及び各比較例で得られた水性離型剤を用いて、以下のようにして付着性(少量の離型剤を金型キャビティ面に塗布した際に薄く均一に広がって付着する性質)の評価を行った。すなわち、各実施例及び各比較例で得られた水性離型剤を水で30倍に希釈したものを使用し、約400℃に加熱した鋼板(材質S45C、縦100mm×横80mm×厚さ6mm)に希釈した水性離型剤10mLをスプレー噴霧し、鋼板の表面に離型剤固形分が付着している部分の面積(付着面積)を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0038】
堆積性
各実施例及び各比較例で得られた水性離型剤を用いて以下のようにして堆積性(多量の離型剤を金型キャビティ面に塗布した際に厚く堆積して付着する性質)の評価を行った。すなわち、各実施例及び各比較例で得られた水性離型剤を水で10倍に希釈したものを使用し、約200℃に加熱した鋼板(材質SPCC−B、縦120mm×横120mm×厚さ1.6mm)に希釈した水性離型剤5mL(2秒間噴射)をインターバル58秒間で40回繰り返してスプレー噴霧し、鋼板上からこぼれずに鋼板の表面に付着(堆積)した(広がりの良いものは、鋼板の表面より広がりこぼれる。)離型剤固形分の質量(付着質量)を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0039】
保温性
各実施例及び各比較例で得られた水性離型剤を用いて以下のようにして保温性の評価を行った。すなわち、各実施例及び各比較例で得られた水性離型剤の水分を蒸発させて作製した錠剤(半径6mm×厚さ3mm)を400℃のホットプレート上に置き、錠剤表面の温度が250℃に達するまでの時間を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示した結果からも明らかな通り、実施例1〜5で得られた水性離型剤を用いた場合はいずれも、付着面積は広く(高付着性)、付着質量は少なく(低堆積性)、保温性にも優れている(高保温性)ことが確認された。これに対して、比較例1〜2で得られた水性離型剤を用いた場合は、実施例1〜5で得られた水性離型剤を用いた場合に比較して付着性、堆積性及び保温性が劣っており、特に比較例2で得られた水性離型剤は保温性が低いことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上説明したように、本発明によれば、離型剤使用時の作業環境が良好であることは勿論、金型溶湯に対する保温性に優れており、更に離型剤が金型キャビティ面に薄く均一に広がって付着するいわゆる付着性が十分に高く、しかも離型剤が金型キャビティ面に厚く堆積して付着するいわゆる堆積性が十分に低いという優れた性能を有する低速射出金型鋳造用の水性離型剤を提供することが可能となる。
【0043】
したがって、本発明の低速射出金型鋳造用の水性離型剤によれば、鋳造時の離型剤の使用量を少量(低濃度使用)とすることが可能となると同時に金型の洗浄回数も大幅に削減することができ、生産性を向上させることが可能となる。また、本発明の低速射出金型鋳造用の水性離型剤を用いれば、その優れた保温性によって湯廻りが良好となり、鋳肌平滑性を向上させることが可能となる。そのため、本発明の低速射出金型鋳造用の水性離型剤は、スクイズキャスティング、層流充填ダイカスト法、竪型加圧鋳造法等の各種鋳造法に非常に有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)セピオライト、パリゴルスカイト、スメクタルト、ベントナイト及びアタパルジャイトからなる群より選ばれる少なくとも1種のチクソトロピー性を有する粘土鉱物、(B)ポリエチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレン、ポリプロピレンオキサイド、パラフィン、ポリスチレン、アクリル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、アクリルエステル系樹脂、アクリル−ポリオール系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル−アクリル系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、エチレンビニルエステル系樹脂及びエチレン−酢酸ビニル−アクリル系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の高分子量有機化合物、(C)イオン的反発効果を有する分散剤、及び(D)水を含有することを特徴とする低速射出金型鋳造用の水性離型剤。
【請求項2】
(A)チクソトロピー性を有する粘土鉱物を0.001〜50質量部、(B)高分子量有機化合物を0.0005〜30質量部、(C)分散剤を0.00005〜30質量部、及び(D)水を1〜100質量部含有することを特徴とする請求項1に記載の水性離型剤。
【請求項3】
シリコーン、鉱物油、油脂及び金属石鹸からなる群より選ばれる少なくとも1種を0.005〜30質量部更に含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の水性離型剤。
【請求項4】
(C)分散剤が、ポリカルボン酸、スルホン酸、燐酸エステル、硫酸エステル及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の水性離型剤。

【公開番号】特開2006−15366(P2006−15366A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−195240(P2004−195240)
【出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】