低重力スロッシングの減衰比予測方法、及び、低重力スロッシングの設計モデル作成方法
【課題】 低重力場に配されたタンクで生じるスロッシングの減衰比を理論的に求めることができるようにする。
【解決手段】 球形のタンク1内の液体2を非粘性と仮定し、非粘性流体の変分原理に基づき、表面張力の影響を受ける状態での非粘性スロッシングのモード方程式を求める。次に、ナビエ・ストークス方程式の粘性項にて、タンク壁面にできる粘性境界層内での仮想仕事をモード座標で表し、そのモード座標で表された粘性境界層内での仮想仕事を、先に求めた非粘性スロッシングのモード方程式に加えて、速度項に対応するモード座標の時間による1階微分項を含むモード方程式を求める。モード座標の時間による1階微分項の係数を基に、減衰比を算出させる。
【解決手段】 球形のタンク1内の液体2を非粘性と仮定し、非粘性流体の変分原理に基づき、表面張力の影響を受ける状態での非粘性スロッシングのモード方程式を求める。次に、ナビエ・ストークス方程式の粘性項にて、タンク壁面にできる粘性境界層内での仮想仕事をモード座標で表し、そのモード座標で表された粘性境界層内での仮想仕事を、先に求めた非粘性スロッシングのモード方程式に加えて、速度項に対応するモード座標の時間による1階微分項を含むモード方程式を求める。モード座標の時間による1階微分項の係数を基に、減衰比を算出させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙機のタンク等の低重力場に配置されるタンク内の貯蔵液体に生じるスロッシングの解析を行う際に必要とされるスロッシングのモード減衰比を予測するために用いる低重力タンク内スロッシングの減衰比予測方法、及び、該減衰比予測方法を用いる低重力スロッシングの設計モデル作成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、液体を貯蔵するタンクについてタンク構造設計する場合は、タンク内で生じる液体(貯蔵液体)のスロッシングに伴うスロッシング動液圧による荷重の正確な予測が必要不可欠である。そのために、上記のようなタンク内の液体のスロッシングについては、その粘性減衰比の予測が求められる。
【0003】
ところで、宇宙衛星等の宇宙機に搭載される推進薬タンクのような液体貯蔵用のタンクでは、該タンク内で液体のスロッシングが生じると、宇宙機自体の姿勢制御に影響を及ぼす虞がある。
【0004】
そのために、この種の宇宙機に搭載される液体貯蔵用のタンクにおいても、貯蔵された液体のスロッシングについての粘性減衰比の予測が求められる。
【0005】
なお、地表重力場に設けられたタンクにおいては、タンクに貯蔵された液体に働く表面張力は、該液体に作用する重力に比して大幅に小さいために、該タンク内の液体の液面はほぼフラットで、その外周縁部にわずかに表面張力の影響によるメニスカスが形成されるに過ぎない。よって、地表重力場におけるタンク内液体のスロッシングの減衰比を予測する場合は、該液体の表面張力はほぼ無視することができる。
【0006】
しかし、宇宙空間は低重力場であるため、宇宙機のタンク内に貯蔵された液体については、重力の影響が小さくなることに伴って表面張力の影響が大となり、形成されるメニスカスも大きくなる。そのため、宇宙機用のタンク等の宇宙空間という低重力場に配置されるタンクに貯蔵された液体については、該液体の表面張力を考慮した低重力スロッシングについての粘性減衰比の予測が重要になる。
【0007】
実際上は、タンク加振入力に対する液体の基本次モードが共振する場合が多くあり、このような共振下においては、タンク内で生じる液体の低重力スロッシングのモード減衰比を正確に知ることが、上記タンク内液体の低重力スロッシングによるスロッシング波高、タンクに作用する力、モーメントの計算に必要である。
【0008】
なお、上記のような低重力場に置かれるタンク内の低重力スロッシングについて、円筒タンク以外の一般軸対称タンクでは、非粘性スロッシングの場合でも解析的方法の適用は困難であるとされていたが、本発明者は、適切な球座標を導入することにより、一般軸対称タンクに関しても、ラプラス方程式を満たす速度ポテンシャルと液面変位を解析的に表すことができるようにした手法を提案している(たとえば、非特許文献1参照)。
【0009】
又、低重力スロッシングについて、減衰を含まない場合のマスばね設計モデルの作成法についても提案している(たとえば、非特許文献2参照)。
【0010】
更に、球形タンク及び楕円体形の底を有する円筒タンク内のモデル化された低重力スロッシングの減衰比に関しては、実験的研究によりいくつかの経験式が報告されている(たとえば、非特許文献3参照)。なお、上記非特許文献3におけるモデル化とは、実際に低重力宇宙で実験したわけではないが、地表でもタンクのサイズを小さくして重力に対して相対的な表面張力の効果を強めることができることを利用して、地表で小さいタンクを使って表面張力の効果が強くなる低重力環境をモデル化したということを意味するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】内海(Utsumi, M.),“軸方向に加振される軸対称容器内の低重力スロッシング(Low-gravity Sloshing in an Axisymmetrical Container Excited in the Axial Direction)”,アメリカン ソサイエティ オブ メカニカル エンジニアズ(ASME),ジャ−ナル オブ アプライド メカニクス(Journal of Applied Mechanics),Vol.67,2000年6月,pp.344−354
【非特許文献2】内海(M. Utsumi),“軸対称タンク内の低重力スロッシングのメカニカルモデル(A Mechanical Model for Low-Gravity Sloshing in an Axisymmetric Tank)”,アメリカン ソサイエティ オブ メカニカル エンジニアズ(ASME),ジャ−ナル オブ アプライド メカニクス(Journal of Applied Mechanics),Vol.71,2004年9月,pp.724−730
【非特許文献3】ドッジ(Dodge, F.T.),ガーザ(Garza, L.R.),“球形タンクおよび楕円体形の底を有する円筒タンク内の、モデル化された低重力スロッシング(Simulated Low-Gravity Sloshing in Spherical Tanks and Cylindrical Tanks with Inverted Ellipsoidal Bottoms)”,米国航空宇宙局(NASA),技術レポートNo6(Technical Report No.6),契約番号NAS8−20290(Contract NAS8-20290),1968年,pp.1−34
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが、上記非特許文献3に示されたように、タンク内液体の低重力スロッシングについて実験的研究を行う手法では、パラメータスタディのために多くの時間とコストが必要とされるため、不便である。
【0013】
なお、非特許文献1及び非特許文献2では、低重力場で表面張力が重要となるタンク内液体の低重力スロッシングの粘性減衰比の予測については特に触れておらず、又、低重力スロッシングに関して液体の粘性による減衰を含んだマスばね設計モデルについても特に触れていない。
【0014】
そこで、本発明は、宇宙機のタンク等の低重力場に配置されるタンク内に貯蔵された液体に生じるスロッシングについて、該液体の有する粘性に基づいて減衰が生じるときの減衰比を、理論的に且つ容易に予測することができるようにするために用いる低重力スロッシングの減衰比予測方法、及び、該減衰比予測方法で予測される減衰比を備えた低重力スロッシング系に対応した設計モデルを作成できるようにするための低重力スロッシングの設計モデル作成方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、一般軸対称タンクを球座標で表して、該一般軸対称タンクの内部の液体を非粘性と仮定して非粘性流体の表面張力を含む変分原理に基く非粘性スロッシングのモード方程式を求め、次に、ナビエ・ストークス方程式の粘性項にて、タンク壁面にできる粘性境界層内での仮想仕事をモード座標で表し、該モード座標で表された上記タンク壁面にできる粘性境界層内での仮想仕事を、上記非粘性スロッシングのモード方程式に加えて、速度項に対応するモード座標の時間による1階微分項を含むモード方程式を求めるタンク内スロッシングの減衰比予測方法とする。
【0016】
又、請求項2に対応して、一般軸対称タンクを球座標で表して、該一般軸対称タンクの内部の液体を非粘性と仮定して非粘性流体の表面張力を含む変分原理に基く非粘性スロッシングのモード方程式を求め、次に、ナビエ・ストークス方程式の粘性項にて、タンク壁面にできる粘性境界層内での仮想仕事をモード座標で表し、該モード座標で表された上記タンク壁面にできる粘性境界層内での仮想仕事を、上記非粘性スロッシングのモード方程式に加えて、速度項に対応するモード座標の時間による1階微分項を含むモード方程式を求め、次に、上記モード方程式の解として求まるモード座標を用いて、上記一般軸対称タンクの内部の液体の水平な一軸方向へのスロッシングが生じるとした場合のスロッシング系について、該スロッシングに伴って上記一般軸対称タンクに働く上記一軸方向の力と、水平面内で該一軸方向に直交する軸回りのモーメントを求めると共に、該スロッシング系における一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの加振加速度に対する応答を求め、一方、タンク内における或る高さ位置に固定マスを固定し、且つ別の或る高さ位置に配置した可動マスを、タンク壁面に、ばね要素とダンパを介して支持させてなる構成の仮の設計モデルを設定して、該設計モデルにおける上記可動マスの運動方程式より、該仮の設計モデルのタンクに作用する上記一軸方向の力と、それに直交する軸回りのモーメントを求めると共に、該設計モデルにおける一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの上記と同一の加振加速度に対する応答を求め、次いで、上記スロッシング系における上記一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの加振加速度に対する応答と、上記仮の設計モデルにおける上記一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの上記と同一の加振加速度に対する応答が任意の加振周波数について等しくなる条件の下で必要とされる減衰係数を求め、更に、上記スロッシング系における上記一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの加振加速度に対する応答と、上記仮の設計モデルにおけるx軸方向の力とy軸回りのモーメントの上記と同一の加振加速度に対する応答との差を補正するために必要な補正力と補正モーメントを求め、しかる後、タンク内に、可動マスを、上記一軸方向のばね要素とダンパを介して取り付けてなり、且つ上記ダンパによる力とモーメントが、上記補正力と補正モーメントと等価になるように、上記可動マスの質量とその取付位置とを定めて設計モデルを作成する低重力スロッシングの設計モデル作成方法とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)一般軸対称タンクを球座標で表して、該一般軸対称タンクの内部の液体を非粘性と仮定して非粘性流体の表面張力を含む変分原理に基く非粘性スロッシングのモード方程式を求め、次に、ナビエ・ストークス方程式の粘性項にて、タンク壁面にできる粘性境界層内での仮想仕事をモード座標で表し、該モード座標で表された上記タンク壁面にできる粘性境界層内での仮想仕事を、上記非粘性スロッシングのモード方程式に加えて、速度項に対応するモード座標の時間による1階微分項を含むモード方程式を求めるようにするタンク内スロッシングの減衰比予測方法としてあるので、液体の表面張力を考慮した変分原理より導かれる上記非粘性スロッシングのモード方程式に加えて速度項に対応するモード座標の時間による1階微分項を含むモード方程式を基に、液体の表面張力を考慮した低重力スロッシングの減衰解析を行うことができる。
(2)したがって、低重力場に配置される一般軸対称タンク内に貯留された液体に生じる低重力スロッシングの粘性に基づく減衰比を、理論的に求めることができる。このため、従来の実験的研究を行う手法に比して、低重力スロッシングの減衰比を求めるための解析を大幅に容易なものとすることができる。
(3)上記(1)と同様の手順で非粘性スロッシングのモード方程式に加えて速度項に対応するモード座標の時間による1階微分項を含むモード方程式を求め、次に、上記モード方程式の解として求まるモード座標を用いて、上記一般軸対称タンクの内部の液体の水平な一軸方向へのスロッシングが生じるとした場合のスロッシング系について、該スロッシングに伴って上記一般軸対称タンクに働く上記一軸方向の力と、水平面内で該一軸方向に直交する軸回りのモーメントを求めると共に、該スロッシング系における一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの加振加速度に対する応答を求め、一方、タンク内における或る高さ位置に固定マスを固定し、且つ別の或る高さ位置に配置した可動マスを、タンク壁面に、ばね要素とダンパを介して支持させてなる構成の仮の設計モデルを設定して、該設計モデルにおける上記可動マスの運動方程式より、該仮の設計モデルのタンクに作用する上記一軸方向の力と、それに直交する軸回りのモーメントを求めると共に、該設計モデルにおける一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの上記と同一の加振加速度に対する応答を求め、次いで、上記スロッシング系における上記一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの加振加速度に対する応答と、上記仮の設計モデルにおける上記一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの上記と同一の加振加速度に対する応答が任意の加振周波数について等しくなる条件の下で必要とされる減衰係数を求め、更に、上記スロッシング系における上記一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの加振加速度に対する応答と、上記仮の設計モデルにおける上記一軸方向の力と、それに直交する軸回りのモーメントの上記と同一の加振加速度に対する応答との差を補正するために必要な補正力と補正モーメントを求め、しかる後、タンク内に、可動マスを、上記一軸方向のばね要素とダンパを介して取り付けてなり、且つ上記ダンパによる力とモーメントが、上記補正力と補正モーメントと等価になるように、上記可動マスの質量とその取付位置とを定めて設計モデルを作成する低重力スロッシングの設計モデル作成方法とすることにより、実験等で求められた減衰比をそのまま設計モデルの減衰比として採用するようにしてある従来の一般的な考えに基づく設計モデルを修正して、低重力場に配置されたタンク内の液体に生じる低重力スロッシングの粘性による減衰比を良好に与えることが可能な低重力スロッシング設計モデルを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の低重力スロッシングの減衰比予測方法の実施の一形態として、球形のタンクに適用する場合の該タンクの球座標を示す図である。
【図2】図1の減衰比予測方法により決定されるモード減衰比(Damping ratio)のタンクの液体充填率(liquid filling level)による変化を示す図である。
【図3】図1の減衰比予測方法により決定されるモード減衰比より導かれる減衰係数(Damping coefficient)のタンクの液体充填率(liquid filling level)による変化を示す図である。
【図4】図1の減衰比予測方法により決定されるモード減衰比より導かれる質量パラメータ(Mass parameter)のタンクの液体充填率(liquid filling level)による変化を示す図である。
【図5】図1の減衰比予測方法により決定されるモード減衰比より導かれる減衰係数を質量パラメータで除した値のタンクの液体充填率(liquid filling level)による変化を示す図である。
【図6】図1の減衰比予測方法により決定されるモード減衰比より導かれる固有周期のタンクの液体充填率(liquid filling level)による変化を示す図である。
【図7】図1の減衰比予測方法により決定されるモード減衰比の有効性を検証するために用いる、液面のタンク壁面に対する接触線の半径のタンクの液体充填率(liquid filling level)による変化を示す図である。
【図8】図1の減衰比予測方法により決定されるモード減衰比の有効性を検証するために用いる、相関パラメータのタンクの液体充填率(liquid filling level)による変化を示す図である。
【図9】図1の減衰比予測方法により決定されるモード減衰比の有効性を検証するために用いる、メニスカスの面積のタンクの液体充填率(liquid filling level)による変化を示す図である。
【図10】図1の減衰比予測方法により決定されるモード減衰比の有効性を検証するために、非特許文献3の実験結果との比較を示すもので、(a)(b)はパラメータを変えた条件での結果を示す図である。
【図11】本発明の実施の他の形態として、低重力スロッシングの設計モデル作成方法を実施する過程で仮に設定する設計モデルを示す図である。
【図12】本発明の低重力スロッシングの設計モデル作成方法で作成した設計モデルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0020】
図1乃至図10(a)(b)は本発明の低重力スロッシングの減衰比予測方法の実施の一形態として、たとえば、低重力場に配置される一般軸対称タンクとしての図1に示す如き球形タンク1におけるタンク内に貯蔵された液体の低重力スロッシングの減衰比の予測に適用する場合を示すもので、以下のようにしてある。
【0021】
すなわち、一般に、液体は粘性を有するが、液体の表面張力を考慮した低重力スロッシングの減衰解析を行うには、予め、液体を非粘性と仮定した完全流体(非粘性流体)についての非粘性スロッシングのモード方程式を導く必要がある。そこで、先ず、完全流体(非粘性流体)の場合の変分原理にガレルキン法(モード展開法)を適用して、非粘性スロッシングのモード方程式を導出する方法を、1.1〜1.3節で説明する。なお、ここで変分原理を用いる必要性は、非粘性スロッシングのモード方程式に導入すべき減衰比を変分原理に基づき決定することから生じる。
【0022】
1.1 球座標の導入
図1のような低重力場に配置された一般軸対称タンクとしての球形のタンク1の場合を考える。図1において、メニスカスとは、上記タンク1内に貯留された液体2の静的平衡時の液面であり、表面張力のない場合にはz軸に垂直な平面であるが、表面張力のある場合には、図1のような軸対称な曲面となる。
【0023】
円筒タンク以外の一般軸対称タンクに対しても解析的な方法を適用可能とするため、メニスカスとタンク1壁面との接触交線でタンク壁面に接する円錐の頂点を原点Oとして、以下の球座標
【数1】
を導入し、静的液面(メニスカス)M、振動液面F、タンク壁面Wの半径座標を、角座標の関数として次のように表す。
【数2】
【0024】
上記において、球座標の原点Oが図1に示したようにタンク1の上側となるのは、メニスカスのタンク1壁面との接触線において、タンク1壁面のr座標のzに関する微分が負のときである。この微分が正のときは、球座標の原点Oはタンクの下側となる。
【0025】
円筒タンク以外の一般軸対称タンクでは、非粘性スロッシングの場合でも解析的方法の適用は困難であったが、前述した非特許文献1では、図1のような球座標
【数3】
を導入することにより解析的方法を開発している。
【0026】
1.2 変分原理
上記タンク1内の液体2について表面張力を考慮しない場合、液体2のラグランジュアン密度(単位体積当たりのラグランジュアン)は液圧に等しいので、変分原理は次式である。
【数4】
【0027】
上記式(1.4)における[ ]内がラグランジュアンである。表面張力を考慮する場合の変分原理は、ラグランジュアン=(運動エネルギ)−(ポテンシャルエネルギ)であること、したがって、気圧と界面張力によるポテンシャルエネルギを差し引く必要があること、によって次のようになる。
【数5】
【0028】
液圧plを、液体2の速度ポテンシャルで表すと、
【数6】
となる。
【0029】
上述した式(1.6)を式(1.5)に代入し、速度ポテンシャル、液面変位、任意時間関数について変分をとることより、次式を得る。
【数7】
【0030】
ここで、下記のように定義している。
【数8】
【0031】
上記において、速度ポテンシャル、液面変位、任意時間関数についての変分δφ、δζ、δGの任意独立性より、式(1.7)は下記のような支配方程式E1=0等を与え、これらの支配方程式系の物理的意味は下記の通りである。
E1=0:液体領域V内での連続条件(ラプラス方程式)。
E2=0:タンク1壁面Wでの運動学的境界条件(タンク1壁面を剛体とするため、流速 の液面の法線方向成分が0となる条件)。
E3=0:振動液面Fでの運動学的境界条件(流速と液面振動速度の、液面の法線方向の 成分が等しい条件)。
E4=0:振動液面Fでの力学的境界条件(液圧と気圧の差の、表面張力とのつりあい条 件)。
E5=0:接触線C(静的平衡時の液面ではなく運動する液面のタンク壁面との交線)で の界面張力間のつりあい条件。界面張力によって運動液面とタンク壁面との接 触角θC´が定まることを表すので、接触角条件という。
E6=0:液体2の非圧縮性に基づく液体2の体積一定条件(この条件は、他の運動学的 条件から導くことができる)。
【0032】
次に、上記式(1.7)を、前述の1.1節で導入した球座標で表す。すなわち、微分幾何の定理を用いて、法線ベクトルNF,NW;曲面要素dF,dW;線要素dC、及びcosθ´Cを、式(1.2)、式(1.3)のRF,RWで表す。更に、微小振幅線形理論の基で、液面での境界条件を線形近似し、メニスカスの形状を決定するために用いる静的つりあい条件を考慮することにより、上記変分原理の式(1.7)を球座標で次のように表す。
【数9】
【0033】
計算の便宜のため、下記の量を用いて無次元化を行う。
代表長さb*(タンク1の高さの半分、図1参照)
代表周波数ωch*(後述する式(1.12)で定義)
液体の密度ρf*
【0034】
すなわち、有次元量と無次元量の関係をつぎのように定義する。
【数10】
【0035】
なお、上記式(1.10)、式(1.11)のように、以降、有次元量には*を付することによって無次元量と区別する。
【0036】
上記式(1.11)で定義したBoは、重力g*と表面張力σ*の相対的強さを表す無次元数で、ボンド数と呼ばれる。ボンド数Boに応じて、代表周波数ωch*を以下の式(1.12)のように定義し、式(1.13)のような定数を導入する。
【数11】
【0037】
無次元表示の一般軸対称タンク内スロッシングの変分原理(式(1.9))は、下記のようになる。
【数12】
【0038】
1.3 非粘性スロッシングのモード方程式
前述の1.1節で導入したような球座標を用いることによって、一般軸対称タンクに関しても、ラプラス方程式を満たす速度ポテンシャルと液面変位を次のように解析的に表すことができる(非特許文献1参照)。
【数13】
【0039】
上記において、固有値λkを次の境界条件によって決定すれば、特性関数、特性指数が定められる。
【数14】
【0040】
液面のタンク壁面との接触線ではθ方向がタンク壁面の法線方向になるので、上記式(1.18)は、流速のタンク壁面法線方向成分が0になる境界条件である。
【0041】
そこで、下記の点が、本発明の低重力スロッシングの減衰比予測方法の特徴となる。
第1に、図1の円錐で定義される本発明で用いる球座標は、θの最大値が90度未満のため、前記式(1.17)の特性関数の解として陪ルジャンドル多項式を公式的に利用できず、無限級数解(ガウス超幾何級数)として新しく求める必要がある。
第2に、この無限級数は180度未満のθまで収束能力を有するが、上記したように、図1よりθは90度未満のため収束が速く、解析的手法による高速計算を助長する。
【0042】
上記式(1.14)に式(1.15)を用いてモード方程式を導くために、先ず、自由振動解析を行う。上記式(1.15)で
【数15】
とおいた式を上記式(1.14)に代入し、未定定数について変分をとることによって、次のような式を導く。
【数16】
【0043】
未定定数が全て0になる無意味な解以外の解が存在するためには、上記式(1.20)の係数行列式が0となる必要があり、この条件から固有振動数ωと固有モード(未定定数間の比)を求める。その結果を上記式(1.15)に代入した式を、式(1.14)に代入して、モード座標について変分をとることにより、次の形のモード方程式を導く。
【数17】
【0044】
1.4 減衰解析
上記1.1〜1.3節で導出された非粘性スロッシングのモード方程式(1.21)は、速度項に対応するモード座標q(t)の時間による1階微分項(qドットの項)を含まないため、減衰が生じることはない。
【0045】
よって、次に、上記非粘性スロッシングのモード方程式(1.21)を、粘性境界層を含む場合に拡張することにより、図1に示したタンク1内に貯留された液体2の低重力スロッシングの該液体2の粘性に起因する減衰を解析する。
【0046】
タンク1壁面に沿ってできる境界層の直ぐ外側(液体側)の、タンク1壁面の接線方向の流速成分を、式(1.15)の速度ポテンシャルから次式により計算し、モード座標q(t)の時間微分(qドット)で表す。
【数18】
【0047】
この際、ナビエ・ストークス(Navier-Stokes)方程式の粘性項の仮想仕事表示を得るためには、流速成分をナビエ・ストークス方程式が記述できるような曲線座標系で表す必要がある。
【0048】
なお、図1の球座標
【数19】
では、R方向と境界層のなす角が0度から90度まで大きく変わり得る。そこで、図1に示すように、タンク中心に原点を有する新たな球座標
【数20】
を導入する。
【0049】
タンク1壁面の法線方向に内向きにとった座標(無次元)を、タンク壁面を原点として次のように定義する。
【数21】
【0050】
境界層内流速のξに対する依存性は、境界層が非常に薄いため、スロッシング周波数ωに等しい振動数を有する平板に沿う振動流の流速で近似できる。したがって、境界層内流速の
【数22】
は、上記式(1.22)を次式に代入することによって求められる(タンク1壁面に垂直な流速成分が0であることを考慮している)。
【数23】
【0051】
無次元化した境界層厚さの尺度として、次のようなパラメータを導入する。
【数24】
【0052】
タンク1壁面にできる境界層内で、ナビエ・ストークス方程式の粘性項がなす仮想仕事は、以下のようになる。
【数25】
【0053】
上記式(1.28)で、無次元の粘性係数μは、前述の式(1.10)及び式(1.11)の無次元化により、粘性係数μ*と次の関係にある。
【数26】
【0054】
式(1.24)を式(1.27)に代入し、実部をとることにより、仮想仕事をモード座標(q(t))で次のように表す。
【数27】
ここで、CSは積分によって生じる定数である。
【0055】
上記式(1.31)を式(1.21)に加えて
【数28】
を導く。
【0056】
上記式(1.32)は、速度項に対応するモード座標q(t)の時間による1階微分項(qドットの項)を含むため、減衰が生じることになる。
【0057】
したがって、上記式(1.32)を基に、より具体的には、モード座標q(t)の時間による1階微分項(qドットの項)の係数を基に、次式によって低重力スロッシングにおける減衰比(モード減衰比)を求めることができる。
【数29】
【0058】
このように、本発明の低重力スロッシングの減衰比予測方法は、流体の仮想変位を考えるようにしてあり、このようにして仮想変位を考えることは、次の考えに基づく。すなわち、多くの流れの問題では、流体の変位は無限であるため考えることはできない。しかし、流体振動問題では、流体の変位を考えることができ、本発明では、タンク1内の液体2の粘性力の仮想仕事としての上記式(1.27)の評価に効果的に用いることができる。
【0059】
又、上記式(1.33)を導出する過程では、液体の表面張力を考慮した変分原理(式(1.5)参照)を用いるようにしてあるため、液体の表面張力を考慮した低重力スロッシングの減衰解析を行うことができる。
【0060】
したがって、本発明の低重力スロッシングの減衰比予測方法によれば、低重力場に配置される一般軸対称タンクとしての球形のタンク1内に貯留された液体2に生じる低重力スロッシングの粘性に基づく減衰比を、理論的に求めることができる。このため、非特許文献3に示された如きタンク内液体の低重力スロッシングについて実験的研究を行う手法で必要とされていたようなパラメータスタディのための多くの時間とコストが不要になることから、低重力スロッシングの減衰比を求めるための解析を大幅に容易なものとすることができる。
【0061】
次に、上記本発明の低重力スロッシングの減衰比予測方法の効果として、以上のようにして導かれた上記式(1.33)に基づいて求められるモード減衰比の妥当性を、数値例題を用いて検証した結果について説明する。
【0062】
2.1 減衰比の変動
図1に示した球形のタンク1内の液体2について、以下のようにパラメータを設定し、上記式(1.33)に基づいて低重力スロッシングの減衰比を計算した。
タンク1の半径a*=b*=0.2m(すなわち、一般軸対称タンクの典型例として半径0.2mの球形タンクとした場合)、液体2の液体密度ρf*=1000kg/m3、液体2の表面張力σ*=0.0725N/m、液体2の粘性係数μ*=0.0011Ns/m2
【0063】
又、この際、重力g*と表面張力σ*の相対的強さを表す無次元数であるボンド数Boを、1000、100、10、1にそれぞれ変化させた場合について低重力スロッシングの減衰比を計算した。
【0064】
上記したように、ボンド数Boは、重力g*と表面張力σ*の相対的強さを表しているものである。したがって、上記ボンド数Boの低下は、重力g*の低下に伴って表面張力σ*の効果(影響)が相対的に大きくなる状態、すなわち、より低重力な場の状態を示している。
【0065】
図2はその計算結果を示すもので、横軸をタンク1における液体充填率(Liquid filling level:液体2の体積/タンク1の体積)として、上記各ボンド数Bo毎に算出された減衰率(Damping ratio)について、液体充填率に対する依存性(以下、単に、液体充填率による変化、と記す。後述の図3乃至図10(a)(b)についても同様。)が示してある。
【0066】
上記図2より、ボンド数Boが低下すると(すなわち、重力g*の低下に伴って表面張力σ*の効果が相対的に大となると)、減衰比は増加することが分かる。
【0067】
この理由を考察するために、上記式(1.33)を有次元化した式を、
【数30】
と変形し、減衰係数(Damping coefficient)Cs*、質量パラメータ(Mass parameter)Ms*、Cs*/Ms*、及び、固有周期(Natural period)2π/ω*について、液体充填率(Liquid filling level)による変化を、図3、図4、図5及び図6にそれぞれ示す。なお、上記諸量に関しても、上記図2の場合と同様に、ボンド数Boを1000、100、10、1にそれぞれ変化させた場合について示してある。
【0068】
図3及び図4の結果より、ボンド数Boの低下による減衰係数Cs*と質量パラメータMs*の変化について、下記のことが分かる。
【0069】
すなわち、(1)低い液体充填率では、減衰係数Cs*は質量パラメータMs*ほど顕著には増加しない。又、(2)高い充填率では、減衰係数Cs*は質量パラメータMs*と異なり単調に減少する。
【0070】
したがって、Cs*/Ms*は、図5のように、充填率に関係なくボンド数Boの低下により減少する。しかし、図5と図6の結果より、上記のようにボンド数Boが低下した場合、Cs*/Ms*の減少(図5参照)よりも、固有周期2π/ω*の増加(図6参照)の方が著しい。
【0071】
その結果、これらの積に比例する上記式(2.1)の減衰比は、ボンド数Boが低下すると、図2に示したように増加する。
【0072】
このことは、ボンド数Boの低下による減衰比の増加は、固有周期2π/ω*の増加に起因することを意味する。このような固有周期2π/ω*の増加により、ボンド数Boの低下に伴い、図2の減衰比は、図3の減衰係数Cs*と異なり、単調に増加する。
【0073】
2.2 高い液体充填率での減衰係数のボンド数Bo依存性
図2と図3の結果において注目される点として、液体充填率が高いときに、ボンド数Boが低下すると、減衰比が増加するにもかかわらず(図2参照)、減衰係数は減少していることが挙げられる(図3参照)。この理由は、減衰係数と類似した変化を呈する相関パラメータを見い出すことによって、次のように説明される。
【0074】
減衰係数は、ナビエ・ストークス方程式の粘性項のなす仮想仕事(式(1.27)参照)から計算され、この仮想仕事は、タンク1壁面に沿って形成される粘性境界層内での、図1に示した球座標
【数31】
に関する体積積分によって計算される。球形のタンク1の場合、
【数32】
である。
【0075】
そこで、先ず、境界層の厚さ方向の積分の相関パラメータ(具体的には、似た変化を呈する、すなわち相関の高い、物理的に理解しやすいパラメータ)を見出す。境界層の厚さのオーダは、
【数33】
である。
【0076】
境界層は非常に薄いので、ナビエ・ストークス方程式の粘性項のうち、厚さ方向の2階微分が支配的となり、これを厚さ方向にR1積分したものは、次の量と相関する。
【数34】
【0077】
次に、
【数35】
の相関パラメータを見出す。この積分には、液面近くでの積分が大きく寄与する(タンク1壁面の接線方向の主流速度は液面近くで大きいため)。したがって、減衰係数は、液面とタンク1壁面との接触線の半径rc*と正の相関を有する。
【0078】
図7に上記接触線の半径(Contact line radius)rc*の液体充填率(Liquid filling level)による変化を示すと、実際に、図3及び図7より、液体充填率が高いとき、ボンド数Boが低下すると減衰係数及び接触線の半径rc*は共に減少する。この接触線の半径rc*の減少は、液体充填率が高いときに該液体充填率が一定のままボンド数Boが下がり、液面が表面張力で図1のように湾曲すると、接触線がタンク1の頂点に近づくことから理解される。
【0079】
以上に基づき、液体充填率が高いときの減衰係数のボンド数Bo依存性を説明する相関パラメータとして、上の2つの相関パラメータの積、すなわち、動粘性係数が一定の場合、接触線の半径rc*と、固有振動数の平方根との積が導入できる。図8にこの相関パラメータ(Correlation parameter)rc*(ω*/2π)1/2の液体充填率による変化を示す。図3及び図8より、上記相関パラメータrc*(ω*/2π)1/2と減衰係数の液体充填率が高い場合のBo依存性は、類似していることが分かる。
【0080】
2.3 質量パラメータMs*の相関パラメータ
次に、図4に示された質量パラメータMs*について考える。該質量パラメータMs*と関係する運動エネルギは、メニスカス液面M上での面積分
【数36】
として計算され、この積分値は、メニスカス液面の面積に大きく依存する。図9に、メニスカス液面の面積(Area of meniscus)の液体充填率による変化を示す。図4と図9の比較により、メニスカス液面の面積は、質量パラメータMs*と相関の強い指標であることが分かる。このように、減衰比に関係する質量パラメータMs*及び減衰係数の変動が、上記所定の相関パラメータの導入によって説明される。
【0081】
2.4 文献の実験との比較
本発明の低重力スロッシングの減衰比予測方法による減衰比予測結果を、非特許文献3のTable III(p.12,13)の実験の一部(液体としてアセトンを用いた場合のデータ)と比較した。該非特許文献3における実験では、地表重力場において小型実験モデルを用いることにより、ボンド数Boが小さくなる低重力環境を実現している。
【0082】
双方の結果(データ)を、図10(a)(b)に液体充填率(Liquid filling level)による変化として示す。
【0083】
図10(a)(b)について使用したパラメータは、以下の表1の通りである。
【表1】
【0084】
ここで、上記表1に示したパラメータのうちのガリレオ数Ga(無次元数)は、次式によって定義されるものである。
【数37】
【0085】
なお、非特許文献3では、平均の液深がhav=0.5a,a,1.5a(aは球形タンク半径)となる液体の体積について実験結果が与えられている。又、ボンド数Boを定義するために用いられた代表長さachは、本解析と異なり、z=havでのタンク壁面のr座標の2倍、すなわち、hav=0.5a,a,1.5aの場合に関して、それぞれ
【数38】
である。したがって、非特許文献3でのボンド数Boは、表1に示した本解析でのボンド数Bo(式(1.11)参照)の、それぞれ、3,4,3倍である。
【0086】
図10(a)(b)の結果より、本発明の低重力スロッシングの減衰比予測方法による減衰比の解析結果と、非特許文献3に示された実験値とは概ね一致することが確認できる。
【0087】
以上により、上記非特許文献3で経験的(実験的)に導かれた式の物理的意味、及び、理論的根拠が、本発明の低重力スロッシングの減衰比予測方法によって理論的に説明することができるようになる。
【0088】
なお、本発明者によれば、非特許文献1における固有振動数に関する実験との良好な一致を確認している。
【0089】
したがって、本発明の低重力スロッシングの減衰比予測方法によれば、低重力場に配置されたタンク1内で生じる液体2のスロッシングの減衰比について、地表重力場とは大きく異なる値を予測可能とし、又、その物理的原因を究明することが可能になる効果を得られることが明らかである。
【0090】
次に、図11及び図12は本発明の実施の他の形態として、上記図1乃至図10(イ)(ロ)に示した本発明の低重力スロッシングの減衰比予測方法を用いて行う、減衰を含む場合のマスばね設計モデルである低重力スロッシングの設計モデル作成方法を示すもので、以下のような手順としてある。
【0091】
なお、設計モデルを作成する、とは、後述するように仮に設定する図11のタンク1の設計モデルについて、下記の条件、
条件:タンク1に働くx軸方向の力とy軸回りのモーメントの、x軸方向のタンク加振加速度(fツードット(x))に対する周波数応答が、図1のスロッシング系と図11の設計モデルとで等しくなる。
が満たされるように、該図11の設計モデルにおける後述する各パラメータ(可動マス(スロッシングマス)、固定マス、これらのマスの取り付け高さ、ばね定数、減衰係数)を決定することを意味するものである。
【0092】
3.1 スロッシング系の周波数応答
すなわち、先ず、図11に示すように、水平面内で直交する2方向のx軸及びy軸と、鉛直なz軸とによって形成されるxyz座標空間内に、一般軸対称タンクとしての球形のタンク1を、該タンク1の底部の中心を上記該xyz座標空間における原点に一致させて配置した状態にて、該タンク1内に液体を貯留すると仮定した場合、該液体のx軸方向に沿う方向のスロッシングによってタンク1に働くx軸方向の力Fxと、y軸回りのモーメントMyは、前述の本発明の低重力スロッシングの減衰比予測方法で導いた式(1.32)の解として求まるモード座標q(t)を用いて、次の形に表される。
【数39】
【0093】
上記式(3.1)及び式(3.2)の右辺第3項と第4項は、低重力で重要になる表面張力によって生じている項である。
【0094】
更に、上記式(1.32)を次のように変形する。
【数40】
【0095】
次いで、加振加速度
【数41】
に対する上記式(3.3)の解を、
【数42】
として求め、該求められた解(式(3.6))を、上記式(3.1)及び式(3.2)に代入して、タンク1に作用する上記力FxとモーメントMyの加振加速度に対する応答を次のように求める。
【数43】
【0096】
3.2 設計モデルの周波数応答
次に、図11に示す如く、上記タンク1内におけるz軸上の高さl0の位置、すなわち、座標(0,0,l0)に、質量m0の固定マス3を配置して、該固定マス3をタンク1壁面に固定し、且つ、上記タンク1内におけるz軸上の高さl1の位置、すなわち、座標(0,0,l1)に、質量m1の可動マス(スロッシングマス)4を配置して、該可動マス4のx軸方向の両側部を、そのx軸方向の両側に位置するタンク1壁面に、x軸方向のばね要素5とダンパ6を介し取り付けて、該可動マス4が上記ばね要素5とダンパ6によってx軸方向に沿う方向に往復動可能に保持された設計モデル(メカニカルモデルとも称する)を仮に設定する。
【0097】
上記可動マス4とタンク1壁面との間のばね要素5のばね定数はk1、ダンパ6の減衰係数はc1とする。
【0098】
上記仮の設計モデルにおける可動マス4の運動方程式、及び、タンク1に作用するx軸方向の力Fx,mechとy軸回りのモーメントMy,mechの式は、次のように求められる。
【数44】
【0099】
上記式(3.9)のモーメントMy,mechの式における右辺第4項は、可動マス4のx軸方向変位による重力モーメントを表す。
【0100】
そこで、上記式(3.8)を、
【数45】
と変形し、上記式(3.10)における上記加振加速度(式(3.5)参照)に対する解である、
【数46】
を求めて、上記式(3.9)に代入することにより、上記力Fx,mechとモーメントMy,mech の周波数応答を求めると、
【数47】
となる。
【0101】
3.3 設計モデルのパラメータの決定
次いで、上記仮の設計モデルにおけるパラメータの決定について説明する。
【0102】
上記式(3.7)及び式(3.13)が任意の加振周波数ωfについて等しい条件を課す。先ず、双方の式の分子及び分母の実部が等しくなる条件
【数48】
より、上記仮の設計モデルにおけるパラメータを下記のようにして決定する。
【0103】
具体的には、上記条件における第1式、第2式、第4式から、上記仮の設計モデルの固有周波数ωmech、及び、固定マス3の質量m0とそのタンク1に対する取り付け位置l0を定める。
【0104】
次に、上記条件における第3式及び第5式を次のように変形して、可動マス4の質量m1とそのタンク1への取り付け位置l1を定める。
【数49】
【0105】
このようにして、上記仮の設計モデルについて、減衰以外のパラメータを下記のように決定する。
【数50】
【0106】
次に、上記式(3.7)及び式(3.13)における分母の虚数部が等しいという条件から、
【数51】
となり、したがって、上記仮の設計モデルの減衰係数が次式により定まる。
【数52】
【0107】
3.4 補正力、補正モーメント
従来、低重力スロッシングの減衰比は計算されていないが、もし実験等で求まれば、求まった減衰比をそのまま設計モデルの減衰比として採用するというのが従来の一般的な考えであった。
【0108】
これに対し、本発明は、このような一見妥当な従来の考えでは、前述の式(3.7)と式(3.13)の分子の虚数部の差から、図1に示したようなスロッシング系と、図11のような設計モデルとではタンクに働くx軸方向の力と、y軸回りのモーメントに次式で表される差異が生じることを示唆し、この差異の補正を行うことができるようにするための低重力スロッシング設計モデルを作成することを特徴とする。
【数53】
【0109】
この差異を補正(correct)すべきx軸方向の力Fcと、y軸回りのモーメントMcは、上記式(3.16)を基に、
【数54】
と変形される。更に変形するため、上記式(3.14)から得られる
【数55】
を用いると、次のように変形できる。
【数56】
【0110】
上記において、A4とC4の項は数値的検証により小さく、省略することができる。したがって、上記式(3.21)における補正すべきx軸方向の力Fcと、y軸回りのモーメントMcは、低重力で重要になる式(3.1)及び式(3.2)の表面張力項(A2,C2の項とA3,C3の項)、及び、式(3.9)のモーメントMy,mechの式の右辺第4項の可動マス4の水平変位による重力モーメント項に起因する。
【0111】
よって、本発明では、低重力で粘性減衰を考慮した低重力スロッシング設計モデルを作成する際に、上記したような表面張力による新たな力と、モーメントの補正を行うようにする。
【0112】
3.5 補正力、補正モーメントを発する設計モデルの作成
すなわち、本発明の低重力スロッシング設計モデルでは、ダンパによるx軸方向の力と、y軸回りのモーメントが、上記式(3.21)によって与えられる補正力Fcと、補正モーメントMcと等価になる設計モデル(メカニカルモデル)の構造として、図12に示す如き系を構成するものとする。
【0113】
具体的には、図12に示すように、図11に示したものと同様にxyz座標空間に配置したタンク1内におけるz軸上の高さlcの位置、すなわち、座標(0,0,lc)に、質量mcの可動マス(スロッシングマス)4Aを配置して、該可動マス4Aのx軸方向の両側部を、そのx軸方向の両側に位置するタンク1壁面に、x軸方向のばね要素5Aとダンパ6Aを介し取り付けて、該可動マス4Aが上記ばね要素5Aとダンパ6Aによってx軸方向に沿う方向に往復動可能に保持させた構成とする。
【0114】
更に、上記式(3.21)の分母より、系の減衰比はζd、固有振動数はωである。これにより、上記可動マス4Aとタンク1壁面との間に介装させるダンパ6Aの減衰係数はζd2(mckc)1/2となり、同様に、上記可動マス4Aとタンク1壁面との間に介装させるばね要素5Aのばね定数はkc=mcω2に設定する。
【0115】
この設定の下で、上記可動マス4Aの運動方程式は、次のようになる。
【数57】
【0116】
図12の系のダンパ6Aによるx軸方向の力Fdampと、y軸回りのモーメントMdampは、
【数58】
となる。
【0117】
上記式(3.22)の加振加速度(式(3.5))に対する解である
【数59】
を、上記式(3.24)に代入すると、
【数60】
となる。
【0118】
よって、上記式(3.26)おけるx軸方向の力Fdampと、y軸回りのモーメントMdampが、前述の式(3.21)における補正すべきx軸方向の力Fcと、y軸回りのモーメントMcに一致する条件より、図12に示した低重力スロッシング設計モデルの補正モデルにおける可動マス4Aの質量mcとその取り付け位置lcを次のように決定する。
【数61】
【0119】
このように、本発明の低重力スロッシング設計モデル作成方法によれば、新たな離散系を設定して、実験等で求められた減衰比をそのまま設計モデルの減衰比として採用するようにしてある従来の一般的な考えに基づく設計モデルを修正して、低重力(場)で重要になる表面張力項(式(3.1)及び式(3.2)のA2,C2の項とA3,C3の項参照)、及び、可動マス4Aの水平変位による重力モーメント項(式(3.9)のモーメントMy,mechの式の右辺第4項参照)を用いて、補正力、補正モーメントを加えるようにしてあるため、低重力場に配置されたタンク1内の液体2(図1参照)に生じる低重力スロッシングの粘性による減衰比を良好に与えることが可能な低重力スロッシング設計モデルを構築することができる。
【0120】
ここで、上記低重力スロッシング設計モデルにおける上記可動マス4Aの質量mcの物理的意味を考察する。
【0121】
前述の式(3.14)より、以下の式が導かれる。
【数62】
【0122】
ところで、非特許文献2における式(58)から2章の最後までの記述より、以下の二点が判明している。
(1)上記式(3.28)の右辺が液体の質量に等しいという質量保存則を満たす。
(2)−B1は、メニスカスのタンク壁面との接触線を含む平面(図1に二点鎖線で示す平面)と、タンク壁面とで囲まれた空間を占める液体の質量である。
【0123】
これら点に基づき、上記式(3.27a)のmcは、上記接触線を含む平面と、メニスカスとで囲まれた空間を満たす液体の質量という物理的意味をもつ。
【0124】
なお、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、上記各実施の形態では、球形のタンク1に適用する場合を示したが、球座標を用いてラプラス方程式を変数分離解法で解くことにより、式(1.15)と同様にして速度ポテンシャルと液体2の液面変位を解析的に表すことができれば、楕円体形タンクや、円筒形の胴部と該胴部の両端部に接続された半球形または半楕円体形の鏡板部を有するタンク等、球形以外のいかなる形式の一般軸対称タンクに付いて適用してもよい。
【0125】
又、低重力場で液体を貯蔵する形式のタンクであれば、宇宙機の推進薬タンク以外のいかなるタンクに適用してもよい。
【0126】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0127】
1 タンク(一般軸対称タンク)
2 液体
4A 可動マス
5A ばね要素
6A ダンパ
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙機のタンク等の低重力場に配置されるタンク内の貯蔵液体に生じるスロッシングの解析を行う際に必要とされるスロッシングのモード減衰比を予測するために用いる低重力タンク内スロッシングの減衰比予測方法、及び、該減衰比予測方法を用いる低重力スロッシングの設計モデル作成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、液体を貯蔵するタンクについてタンク構造設計する場合は、タンク内で生じる液体(貯蔵液体)のスロッシングに伴うスロッシング動液圧による荷重の正確な予測が必要不可欠である。そのために、上記のようなタンク内の液体のスロッシングについては、その粘性減衰比の予測が求められる。
【0003】
ところで、宇宙衛星等の宇宙機に搭載される推進薬タンクのような液体貯蔵用のタンクでは、該タンク内で液体のスロッシングが生じると、宇宙機自体の姿勢制御に影響を及ぼす虞がある。
【0004】
そのために、この種の宇宙機に搭載される液体貯蔵用のタンクにおいても、貯蔵された液体のスロッシングについての粘性減衰比の予測が求められる。
【0005】
なお、地表重力場に設けられたタンクにおいては、タンクに貯蔵された液体に働く表面張力は、該液体に作用する重力に比して大幅に小さいために、該タンク内の液体の液面はほぼフラットで、その外周縁部にわずかに表面張力の影響によるメニスカスが形成されるに過ぎない。よって、地表重力場におけるタンク内液体のスロッシングの減衰比を予測する場合は、該液体の表面張力はほぼ無視することができる。
【0006】
しかし、宇宙空間は低重力場であるため、宇宙機のタンク内に貯蔵された液体については、重力の影響が小さくなることに伴って表面張力の影響が大となり、形成されるメニスカスも大きくなる。そのため、宇宙機用のタンク等の宇宙空間という低重力場に配置されるタンクに貯蔵された液体については、該液体の表面張力を考慮した低重力スロッシングについての粘性減衰比の予測が重要になる。
【0007】
実際上は、タンク加振入力に対する液体の基本次モードが共振する場合が多くあり、このような共振下においては、タンク内で生じる液体の低重力スロッシングのモード減衰比を正確に知ることが、上記タンク内液体の低重力スロッシングによるスロッシング波高、タンクに作用する力、モーメントの計算に必要である。
【0008】
なお、上記のような低重力場に置かれるタンク内の低重力スロッシングについて、円筒タンク以外の一般軸対称タンクでは、非粘性スロッシングの場合でも解析的方法の適用は困難であるとされていたが、本発明者は、適切な球座標を導入することにより、一般軸対称タンクに関しても、ラプラス方程式を満たす速度ポテンシャルと液面変位を解析的に表すことができるようにした手法を提案している(たとえば、非特許文献1参照)。
【0009】
又、低重力スロッシングについて、減衰を含まない場合のマスばね設計モデルの作成法についても提案している(たとえば、非特許文献2参照)。
【0010】
更に、球形タンク及び楕円体形の底を有する円筒タンク内のモデル化された低重力スロッシングの減衰比に関しては、実験的研究によりいくつかの経験式が報告されている(たとえば、非特許文献3参照)。なお、上記非特許文献3におけるモデル化とは、実際に低重力宇宙で実験したわけではないが、地表でもタンクのサイズを小さくして重力に対して相対的な表面張力の効果を強めることができることを利用して、地表で小さいタンクを使って表面張力の効果が強くなる低重力環境をモデル化したということを意味するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】内海(Utsumi, M.),“軸方向に加振される軸対称容器内の低重力スロッシング(Low-gravity Sloshing in an Axisymmetrical Container Excited in the Axial Direction)”,アメリカン ソサイエティ オブ メカニカル エンジニアズ(ASME),ジャ−ナル オブ アプライド メカニクス(Journal of Applied Mechanics),Vol.67,2000年6月,pp.344−354
【非特許文献2】内海(M. Utsumi),“軸対称タンク内の低重力スロッシングのメカニカルモデル(A Mechanical Model for Low-Gravity Sloshing in an Axisymmetric Tank)”,アメリカン ソサイエティ オブ メカニカル エンジニアズ(ASME),ジャ−ナル オブ アプライド メカニクス(Journal of Applied Mechanics),Vol.71,2004年9月,pp.724−730
【非特許文献3】ドッジ(Dodge, F.T.),ガーザ(Garza, L.R.),“球形タンクおよび楕円体形の底を有する円筒タンク内の、モデル化された低重力スロッシング(Simulated Low-Gravity Sloshing in Spherical Tanks and Cylindrical Tanks with Inverted Ellipsoidal Bottoms)”,米国航空宇宙局(NASA),技術レポートNo6(Technical Report No.6),契約番号NAS8−20290(Contract NAS8-20290),1968年,pp.1−34
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが、上記非特許文献3に示されたように、タンク内液体の低重力スロッシングについて実験的研究を行う手法では、パラメータスタディのために多くの時間とコストが必要とされるため、不便である。
【0013】
なお、非特許文献1及び非特許文献2では、低重力場で表面張力が重要となるタンク内液体の低重力スロッシングの粘性減衰比の予測については特に触れておらず、又、低重力スロッシングに関して液体の粘性による減衰を含んだマスばね設計モデルについても特に触れていない。
【0014】
そこで、本発明は、宇宙機のタンク等の低重力場に配置されるタンク内に貯蔵された液体に生じるスロッシングについて、該液体の有する粘性に基づいて減衰が生じるときの減衰比を、理論的に且つ容易に予測することができるようにするために用いる低重力スロッシングの減衰比予測方法、及び、該減衰比予測方法で予測される減衰比を備えた低重力スロッシング系に対応した設計モデルを作成できるようにするための低重力スロッシングの設計モデル作成方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、一般軸対称タンクを球座標で表して、該一般軸対称タンクの内部の液体を非粘性と仮定して非粘性流体の表面張力を含む変分原理に基く非粘性スロッシングのモード方程式を求め、次に、ナビエ・ストークス方程式の粘性項にて、タンク壁面にできる粘性境界層内での仮想仕事をモード座標で表し、該モード座標で表された上記タンク壁面にできる粘性境界層内での仮想仕事を、上記非粘性スロッシングのモード方程式に加えて、速度項に対応するモード座標の時間による1階微分項を含むモード方程式を求めるタンク内スロッシングの減衰比予測方法とする。
【0016】
又、請求項2に対応して、一般軸対称タンクを球座標で表して、該一般軸対称タンクの内部の液体を非粘性と仮定して非粘性流体の表面張力を含む変分原理に基く非粘性スロッシングのモード方程式を求め、次に、ナビエ・ストークス方程式の粘性項にて、タンク壁面にできる粘性境界層内での仮想仕事をモード座標で表し、該モード座標で表された上記タンク壁面にできる粘性境界層内での仮想仕事を、上記非粘性スロッシングのモード方程式に加えて、速度項に対応するモード座標の時間による1階微分項を含むモード方程式を求め、次に、上記モード方程式の解として求まるモード座標を用いて、上記一般軸対称タンクの内部の液体の水平な一軸方向へのスロッシングが生じるとした場合のスロッシング系について、該スロッシングに伴って上記一般軸対称タンクに働く上記一軸方向の力と、水平面内で該一軸方向に直交する軸回りのモーメントを求めると共に、該スロッシング系における一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの加振加速度に対する応答を求め、一方、タンク内における或る高さ位置に固定マスを固定し、且つ別の或る高さ位置に配置した可動マスを、タンク壁面に、ばね要素とダンパを介して支持させてなる構成の仮の設計モデルを設定して、該設計モデルにおける上記可動マスの運動方程式より、該仮の設計モデルのタンクに作用する上記一軸方向の力と、それに直交する軸回りのモーメントを求めると共に、該設計モデルにおける一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの上記と同一の加振加速度に対する応答を求め、次いで、上記スロッシング系における上記一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの加振加速度に対する応答と、上記仮の設計モデルにおける上記一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの上記と同一の加振加速度に対する応答が任意の加振周波数について等しくなる条件の下で必要とされる減衰係数を求め、更に、上記スロッシング系における上記一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの加振加速度に対する応答と、上記仮の設計モデルにおけるx軸方向の力とy軸回りのモーメントの上記と同一の加振加速度に対する応答との差を補正するために必要な補正力と補正モーメントを求め、しかる後、タンク内に、可動マスを、上記一軸方向のばね要素とダンパを介して取り付けてなり、且つ上記ダンパによる力とモーメントが、上記補正力と補正モーメントと等価になるように、上記可動マスの質量とその取付位置とを定めて設計モデルを作成する低重力スロッシングの設計モデル作成方法とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)一般軸対称タンクを球座標で表して、該一般軸対称タンクの内部の液体を非粘性と仮定して非粘性流体の表面張力を含む変分原理に基く非粘性スロッシングのモード方程式を求め、次に、ナビエ・ストークス方程式の粘性項にて、タンク壁面にできる粘性境界層内での仮想仕事をモード座標で表し、該モード座標で表された上記タンク壁面にできる粘性境界層内での仮想仕事を、上記非粘性スロッシングのモード方程式に加えて、速度項に対応するモード座標の時間による1階微分項を含むモード方程式を求めるようにするタンク内スロッシングの減衰比予測方法としてあるので、液体の表面張力を考慮した変分原理より導かれる上記非粘性スロッシングのモード方程式に加えて速度項に対応するモード座標の時間による1階微分項を含むモード方程式を基に、液体の表面張力を考慮した低重力スロッシングの減衰解析を行うことができる。
(2)したがって、低重力場に配置される一般軸対称タンク内に貯留された液体に生じる低重力スロッシングの粘性に基づく減衰比を、理論的に求めることができる。このため、従来の実験的研究を行う手法に比して、低重力スロッシングの減衰比を求めるための解析を大幅に容易なものとすることができる。
(3)上記(1)と同様の手順で非粘性スロッシングのモード方程式に加えて速度項に対応するモード座標の時間による1階微分項を含むモード方程式を求め、次に、上記モード方程式の解として求まるモード座標を用いて、上記一般軸対称タンクの内部の液体の水平な一軸方向へのスロッシングが生じるとした場合のスロッシング系について、該スロッシングに伴って上記一般軸対称タンクに働く上記一軸方向の力と、水平面内で該一軸方向に直交する軸回りのモーメントを求めると共に、該スロッシング系における一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの加振加速度に対する応答を求め、一方、タンク内における或る高さ位置に固定マスを固定し、且つ別の或る高さ位置に配置した可動マスを、タンク壁面に、ばね要素とダンパを介して支持させてなる構成の仮の設計モデルを設定して、該設計モデルにおける上記可動マスの運動方程式より、該仮の設計モデルのタンクに作用する上記一軸方向の力と、それに直交する軸回りのモーメントを求めると共に、該設計モデルにおける一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの上記と同一の加振加速度に対する応答を求め、次いで、上記スロッシング系における上記一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの加振加速度に対する応答と、上記仮の設計モデルにおける上記一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの上記と同一の加振加速度に対する応答が任意の加振周波数について等しくなる条件の下で必要とされる減衰係数を求め、更に、上記スロッシング系における上記一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの加振加速度に対する応答と、上記仮の設計モデルにおける上記一軸方向の力と、それに直交する軸回りのモーメントの上記と同一の加振加速度に対する応答との差を補正するために必要な補正力と補正モーメントを求め、しかる後、タンク内に、可動マスを、上記一軸方向のばね要素とダンパを介して取り付けてなり、且つ上記ダンパによる力とモーメントが、上記補正力と補正モーメントと等価になるように、上記可動マスの質量とその取付位置とを定めて設計モデルを作成する低重力スロッシングの設計モデル作成方法とすることにより、実験等で求められた減衰比をそのまま設計モデルの減衰比として採用するようにしてある従来の一般的な考えに基づく設計モデルを修正して、低重力場に配置されたタンク内の液体に生じる低重力スロッシングの粘性による減衰比を良好に与えることが可能な低重力スロッシング設計モデルを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の低重力スロッシングの減衰比予測方法の実施の一形態として、球形のタンクに適用する場合の該タンクの球座標を示す図である。
【図2】図1の減衰比予測方法により決定されるモード減衰比(Damping ratio)のタンクの液体充填率(liquid filling level)による変化を示す図である。
【図3】図1の減衰比予測方法により決定されるモード減衰比より導かれる減衰係数(Damping coefficient)のタンクの液体充填率(liquid filling level)による変化を示す図である。
【図4】図1の減衰比予測方法により決定されるモード減衰比より導かれる質量パラメータ(Mass parameter)のタンクの液体充填率(liquid filling level)による変化を示す図である。
【図5】図1の減衰比予測方法により決定されるモード減衰比より導かれる減衰係数を質量パラメータで除した値のタンクの液体充填率(liquid filling level)による変化を示す図である。
【図6】図1の減衰比予測方法により決定されるモード減衰比より導かれる固有周期のタンクの液体充填率(liquid filling level)による変化を示す図である。
【図7】図1の減衰比予測方法により決定されるモード減衰比の有効性を検証するために用いる、液面のタンク壁面に対する接触線の半径のタンクの液体充填率(liquid filling level)による変化を示す図である。
【図8】図1の減衰比予測方法により決定されるモード減衰比の有効性を検証するために用いる、相関パラメータのタンクの液体充填率(liquid filling level)による変化を示す図である。
【図9】図1の減衰比予測方法により決定されるモード減衰比の有効性を検証するために用いる、メニスカスの面積のタンクの液体充填率(liquid filling level)による変化を示す図である。
【図10】図1の減衰比予測方法により決定されるモード減衰比の有効性を検証するために、非特許文献3の実験結果との比較を示すもので、(a)(b)はパラメータを変えた条件での結果を示す図である。
【図11】本発明の実施の他の形態として、低重力スロッシングの設計モデル作成方法を実施する過程で仮に設定する設計モデルを示す図である。
【図12】本発明の低重力スロッシングの設計モデル作成方法で作成した設計モデルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0020】
図1乃至図10(a)(b)は本発明の低重力スロッシングの減衰比予測方法の実施の一形態として、たとえば、低重力場に配置される一般軸対称タンクとしての図1に示す如き球形タンク1におけるタンク内に貯蔵された液体の低重力スロッシングの減衰比の予測に適用する場合を示すもので、以下のようにしてある。
【0021】
すなわち、一般に、液体は粘性を有するが、液体の表面張力を考慮した低重力スロッシングの減衰解析を行うには、予め、液体を非粘性と仮定した完全流体(非粘性流体)についての非粘性スロッシングのモード方程式を導く必要がある。そこで、先ず、完全流体(非粘性流体)の場合の変分原理にガレルキン法(モード展開法)を適用して、非粘性スロッシングのモード方程式を導出する方法を、1.1〜1.3節で説明する。なお、ここで変分原理を用いる必要性は、非粘性スロッシングのモード方程式に導入すべき減衰比を変分原理に基づき決定することから生じる。
【0022】
1.1 球座標の導入
図1のような低重力場に配置された一般軸対称タンクとしての球形のタンク1の場合を考える。図1において、メニスカスとは、上記タンク1内に貯留された液体2の静的平衡時の液面であり、表面張力のない場合にはz軸に垂直な平面であるが、表面張力のある場合には、図1のような軸対称な曲面となる。
【0023】
円筒タンク以外の一般軸対称タンクに対しても解析的な方法を適用可能とするため、メニスカスとタンク1壁面との接触交線でタンク壁面に接する円錐の頂点を原点Oとして、以下の球座標
【数1】
を導入し、静的液面(メニスカス)M、振動液面F、タンク壁面Wの半径座標を、角座標の関数として次のように表す。
【数2】
【0024】
上記において、球座標の原点Oが図1に示したようにタンク1の上側となるのは、メニスカスのタンク1壁面との接触線において、タンク1壁面のr座標のzに関する微分が負のときである。この微分が正のときは、球座標の原点Oはタンクの下側となる。
【0025】
円筒タンク以外の一般軸対称タンクでは、非粘性スロッシングの場合でも解析的方法の適用は困難であったが、前述した非特許文献1では、図1のような球座標
【数3】
を導入することにより解析的方法を開発している。
【0026】
1.2 変分原理
上記タンク1内の液体2について表面張力を考慮しない場合、液体2のラグランジュアン密度(単位体積当たりのラグランジュアン)は液圧に等しいので、変分原理は次式である。
【数4】
【0027】
上記式(1.4)における[ ]内がラグランジュアンである。表面張力を考慮する場合の変分原理は、ラグランジュアン=(運動エネルギ)−(ポテンシャルエネルギ)であること、したがって、気圧と界面張力によるポテンシャルエネルギを差し引く必要があること、によって次のようになる。
【数5】
【0028】
液圧plを、液体2の速度ポテンシャルで表すと、
【数6】
となる。
【0029】
上述した式(1.6)を式(1.5)に代入し、速度ポテンシャル、液面変位、任意時間関数について変分をとることより、次式を得る。
【数7】
【0030】
ここで、下記のように定義している。
【数8】
【0031】
上記において、速度ポテンシャル、液面変位、任意時間関数についての変分δφ、δζ、δGの任意独立性より、式(1.7)は下記のような支配方程式E1=0等を与え、これらの支配方程式系の物理的意味は下記の通りである。
E1=0:液体領域V内での連続条件(ラプラス方程式)。
E2=0:タンク1壁面Wでの運動学的境界条件(タンク1壁面を剛体とするため、流速 の液面の法線方向成分が0となる条件)。
E3=0:振動液面Fでの運動学的境界条件(流速と液面振動速度の、液面の法線方向の 成分が等しい条件)。
E4=0:振動液面Fでの力学的境界条件(液圧と気圧の差の、表面張力とのつりあい条 件)。
E5=0:接触線C(静的平衡時の液面ではなく運動する液面のタンク壁面との交線)で の界面張力間のつりあい条件。界面張力によって運動液面とタンク壁面との接 触角θC´が定まることを表すので、接触角条件という。
E6=0:液体2の非圧縮性に基づく液体2の体積一定条件(この条件は、他の運動学的 条件から導くことができる)。
【0032】
次に、上記式(1.7)を、前述の1.1節で導入した球座標で表す。すなわち、微分幾何の定理を用いて、法線ベクトルNF,NW;曲面要素dF,dW;線要素dC、及びcosθ´Cを、式(1.2)、式(1.3)のRF,RWで表す。更に、微小振幅線形理論の基で、液面での境界条件を線形近似し、メニスカスの形状を決定するために用いる静的つりあい条件を考慮することにより、上記変分原理の式(1.7)を球座標で次のように表す。
【数9】
【0033】
計算の便宜のため、下記の量を用いて無次元化を行う。
代表長さb*(タンク1の高さの半分、図1参照)
代表周波数ωch*(後述する式(1.12)で定義)
液体の密度ρf*
【0034】
すなわち、有次元量と無次元量の関係をつぎのように定義する。
【数10】
【0035】
なお、上記式(1.10)、式(1.11)のように、以降、有次元量には*を付することによって無次元量と区別する。
【0036】
上記式(1.11)で定義したBoは、重力g*と表面張力σ*の相対的強さを表す無次元数で、ボンド数と呼ばれる。ボンド数Boに応じて、代表周波数ωch*を以下の式(1.12)のように定義し、式(1.13)のような定数を導入する。
【数11】
【0037】
無次元表示の一般軸対称タンク内スロッシングの変分原理(式(1.9))は、下記のようになる。
【数12】
【0038】
1.3 非粘性スロッシングのモード方程式
前述の1.1節で導入したような球座標を用いることによって、一般軸対称タンクに関しても、ラプラス方程式を満たす速度ポテンシャルと液面変位を次のように解析的に表すことができる(非特許文献1参照)。
【数13】
【0039】
上記において、固有値λkを次の境界条件によって決定すれば、特性関数、特性指数が定められる。
【数14】
【0040】
液面のタンク壁面との接触線ではθ方向がタンク壁面の法線方向になるので、上記式(1.18)は、流速のタンク壁面法線方向成分が0になる境界条件である。
【0041】
そこで、下記の点が、本発明の低重力スロッシングの減衰比予測方法の特徴となる。
第1に、図1の円錐で定義される本発明で用いる球座標は、θの最大値が90度未満のため、前記式(1.17)の特性関数の解として陪ルジャンドル多項式を公式的に利用できず、無限級数解(ガウス超幾何級数)として新しく求める必要がある。
第2に、この無限級数は180度未満のθまで収束能力を有するが、上記したように、図1よりθは90度未満のため収束が速く、解析的手法による高速計算を助長する。
【0042】
上記式(1.14)に式(1.15)を用いてモード方程式を導くために、先ず、自由振動解析を行う。上記式(1.15)で
【数15】
とおいた式を上記式(1.14)に代入し、未定定数について変分をとることによって、次のような式を導く。
【数16】
【0043】
未定定数が全て0になる無意味な解以外の解が存在するためには、上記式(1.20)の係数行列式が0となる必要があり、この条件から固有振動数ωと固有モード(未定定数間の比)を求める。その結果を上記式(1.15)に代入した式を、式(1.14)に代入して、モード座標について変分をとることにより、次の形のモード方程式を導く。
【数17】
【0044】
1.4 減衰解析
上記1.1〜1.3節で導出された非粘性スロッシングのモード方程式(1.21)は、速度項に対応するモード座標q(t)の時間による1階微分項(qドットの項)を含まないため、減衰が生じることはない。
【0045】
よって、次に、上記非粘性スロッシングのモード方程式(1.21)を、粘性境界層を含む場合に拡張することにより、図1に示したタンク1内に貯留された液体2の低重力スロッシングの該液体2の粘性に起因する減衰を解析する。
【0046】
タンク1壁面に沿ってできる境界層の直ぐ外側(液体側)の、タンク1壁面の接線方向の流速成分を、式(1.15)の速度ポテンシャルから次式により計算し、モード座標q(t)の時間微分(qドット)で表す。
【数18】
【0047】
この際、ナビエ・ストークス(Navier-Stokes)方程式の粘性項の仮想仕事表示を得るためには、流速成分をナビエ・ストークス方程式が記述できるような曲線座標系で表す必要がある。
【0048】
なお、図1の球座標
【数19】
では、R方向と境界層のなす角が0度から90度まで大きく変わり得る。そこで、図1に示すように、タンク中心に原点を有する新たな球座標
【数20】
を導入する。
【0049】
タンク1壁面の法線方向に内向きにとった座標(無次元)を、タンク壁面を原点として次のように定義する。
【数21】
【0050】
境界層内流速のξに対する依存性は、境界層が非常に薄いため、スロッシング周波数ωに等しい振動数を有する平板に沿う振動流の流速で近似できる。したがって、境界層内流速の
【数22】
は、上記式(1.22)を次式に代入することによって求められる(タンク1壁面に垂直な流速成分が0であることを考慮している)。
【数23】
【0051】
無次元化した境界層厚さの尺度として、次のようなパラメータを導入する。
【数24】
【0052】
タンク1壁面にできる境界層内で、ナビエ・ストークス方程式の粘性項がなす仮想仕事は、以下のようになる。
【数25】
【0053】
上記式(1.28)で、無次元の粘性係数μは、前述の式(1.10)及び式(1.11)の無次元化により、粘性係数μ*と次の関係にある。
【数26】
【0054】
式(1.24)を式(1.27)に代入し、実部をとることにより、仮想仕事をモード座標(q(t))で次のように表す。
【数27】
ここで、CSは積分によって生じる定数である。
【0055】
上記式(1.31)を式(1.21)に加えて
【数28】
を導く。
【0056】
上記式(1.32)は、速度項に対応するモード座標q(t)の時間による1階微分項(qドットの項)を含むため、減衰が生じることになる。
【0057】
したがって、上記式(1.32)を基に、より具体的には、モード座標q(t)の時間による1階微分項(qドットの項)の係数を基に、次式によって低重力スロッシングにおける減衰比(モード減衰比)を求めることができる。
【数29】
【0058】
このように、本発明の低重力スロッシングの減衰比予測方法は、流体の仮想変位を考えるようにしてあり、このようにして仮想変位を考えることは、次の考えに基づく。すなわち、多くの流れの問題では、流体の変位は無限であるため考えることはできない。しかし、流体振動問題では、流体の変位を考えることができ、本発明では、タンク1内の液体2の粘性力の仮想仕事としての上記式(1.27)の評価に効果的に用いることができる。
【0059】
又、上記式(1.33)を導出する過程では、液体の表面張力を考慮した変分原理(式(1.5)参照)を用いるようにしてあるため、液体の表面張力を考慮した低重力スロッシングの減衰解析を行うことができる。
【0060】
したがって、本発明の低重力スロッシングの減衰比予測方法によれば、低重力場に配置される一般軸対称タンクとしての球形のタンク1内に貯留された液体2に生じる低重力スロッシングの粘性に基づく減衰比を、理論的に求めることができる。このため、非特許文献3に示された如きタンク内液体の低重力スロッシングについて実験的研究を行う手法で必要とされていたようなパラメータスタディのための多くの時間とコストが不要になることから、低重力スロッシングの減衰比を求めるための解析を大幅に容易なものとすることができる。
【0061】
次に、上記本発明の低重力スロッシングの減衰比予測方法の効果として、以上のようにして導かれた上記式(1.33)に基づいて求められるモード減衰比の妥当性を、数値例題を用いて検証した結果について説明する。
【0062】
2.1 減衰比の変動
図1に示した球形のタンク1内の液体2について、以下のようにパラメータを設定し、上記式(1.33)に基づいて低重力スロッシングの減衰比を計算した。
タンク1の半径a*=b*=0.2m(すなわち、一般軸対称タンクの典型例として半径0.2mの球形タンクとした場合)、液体2の液体密度ρf*=1000kg/m3、液体2の表面張力σ*=0.0725N/m、液体2の粘性係数μ*=0.0011Ns/m2
【0063】
又、この際、重力g*と表面張力σ*の相対的強さを表す無次元数であるボンド数Boを、1000、100、10、1にそれぞれ変化させた場合について低重力スロッシングの減衰比を計算した。
【0064】
上記したように、ボンド数Boは、重力g*と表面張力σ*の相対的強さを表しているものである。したがって、上記ボンド数Boの低下は、重力g*の低下に伴って表面張力σ*の効果(影響)が相対的に大きくなる状態、すなわち、より低重力な場の状態を示している。
【0065】
図2はその計算結果を示すもので、横軸をタンク1における液体充填率(Liquid filling level:液体2の体積/タンク1の体積)として、上記各ボンド数Bo毎に算出された減衰率(Damping ratio)について、液体充填率に対する依存性(以下、単に、液体充填率による変化、と記す。後述の図3乃至図10(a)(b)についても同様。)が示してある。
【0066】
上記図2より、ボンド数Boが低下すると(すなわち、重力g*の低下に伴って表面張力σ*の効果が相対的に大となると)、減衰比は増加することが分かる。
【0067】
この理由を考察するために、上記式(1.33)を有次元化した式を、
【数30】
と変形し、減衰係数(Damping coefficient)Cs*、質量パラメータ(Mass parameter)Ms*、Cs*/Ms*、及び、固有周期(Natural period)2π/ω*について、液体充填率(Liquid filling level)による変化を、図3、図4、図5及び図6にそれぞれ示す。なお、上記諸量に関しても、上記図2の場合と同様に、ボンド数Boを1000、100、10、1にそれぞれ変化させた場合について示してある。
【0068】
図3及び図4の結果より、ボンド数Boの低下による減衰係数Cs*と質量パラメータMs*の変化について、下記のことが分かる。
【0069】
すなわち、(1)低い液体充填率では、減衰係数Cs*は質量パラメータMs*ほど顕著には増加しない。又、(2)高い充填率では、減衰係数Cs*は質量パラメータMs*と異なり単調に減少する。
【0070】
したがって、Cs*/Ms*は、図5のように、充填率に関係なくボンド数Boの低下により減少する。しかし、図5と図6の結果より、上記のようにボンド数Boが低下した場合、Cs*/Ms*の減少(図5参照)よりも、固有周期2π/ω*の増加(図6参照)の方が著しい。
【0071】
その結果、これらの積に比例する上記式(2.1)の減衰比は、ボンド数Boが低下すると、図2に示したように増加する。
【0072】
このことは、ボンド数Boの低下による減衰比の増加は、固有周期2π/ω*の増加に起因することを意味する。このような固有周期2π/ω*の増加により、ボンド数Boの低下に伴い、図2の減衰比は、図3の減衰係数Cs*と異なり、単調に増加する。
【0073】
2.2 高い液体充填率での減衰係数のボンド数Bo依存性
図2と図3の結果において注目される点として、液体充填率が高いときに、ボンド数Boが低下すると、減衰比が増加するにもかかわらず(図2参照)、減衰係数は減少していることが挙げられる(図3参照)。この理由は、減衰係数と類似した変化を呈する相関パラメータを見い出すことによって、次のように説明される。
【0074】
減衰係数は、ナビエ・ストークス方程式の粘性項のなす仮想仕事(式(1.27)参照)から計算され、この仮想仕事は、タンク1壁面に沿って形成される粘性境界層内での、図1に示した球座標
【数31】
に関する体積積分によって計算される。球形のタンク1の場合、
【数32】
である。
【0075】
そこで、先ず、境界層の厚さ方向の積分の相関パラメータ(具体的には、似た変化を呈する、すなわち相関の高い、物理的に理解しやすいパラメータ)を見出す。境界層の厚さのオーダは、
【数33】
である。
【0076】
境界層は非常に薄いので、ナビエ・ストークス方程式の粘性項のうち、厚さ方向の2階微分が支配的となり、これを厚さ方向にR1積分したものは、次の量と相関する。
【数34】
【0077】
次に、
【数35】
の相関パラメータを見出す。この積分には、液面近くでの積分が大きく寄与する(タンク1壁面の接線方向の主流速度は液面近くで大きいため)。したがって、減衰係数は、液面とタンク1壁面との接触線の半径rc*と正の相関を有する。
【0078】
図7に上記接触線の半径(Contact line radius)rc*の液体充填率(Liquid filling level)による変化を示すと、実際に、図3及び図7より、液体充填率が高いとき、ボンド数Boが低下すると減衰係数及び接触線の半径rc*は共に減少する。この接触線の半径rc*の減少は、液体充填率が高いときに該液体充填率が一定のままボンド数Boが下がり、液面が表面張力で図1のように湾曲すると、接触線がタンク1の頂点に近づくことから理解される。
【0079】
以上に基づき、液体充填率が高いときの減衰係数のボンド数Bo依存性を説明する相関パラメータとして、上の2つの相関パラメータの積、すなわち、動粘性係数が一定の場合、接触線の半径rc*と、固有振動数の平方根との積が導入できる。図8にこの相関パラメータ(Correlation parameter)rc*(ω*/2π)1/2の液体充填率による変化を示す。図3及び図8より、上記相関パラメータrc*(ω*/2π)1/2と減衰係数の液体充填率が高い場合のBo依存性は、類似していることが分かる。
【0080】
2.3 質量パラメータMs*の相関パラメータ
次に、図4に示された質量パラメータMs*について考える。該質量パラメータMs*と関係する運動エネルギは、メニスカス液面M上での面積分
【数36】
として計算され、この積分値は、メニスカス液面の面積に大きく依存する。図9に、メニスカス液面の面積(Area of meniscus)の液体充填率による変化を示す。図4と図9の比較により、メニスカス液面の面積は、質量パラメータMs*と相関の強い指標であることが分かる。このように、減衰比に関係する質量パラメータMs*及び減衰係数の変動が、上記所定の相関パラメータの導入によって説明される。
【0081】
2.4 文献の実験との比較
本発明の低重力スロッシングの減衰比予測方法による減衰比予測結果を、非特許文献3のTable III(p.12,13)の実験の一部(液体としてアセトンを用いた場合のデータ)と比較した。該非特許文献3における実験では、地表重力場において小型実験モデルを用いることにより、ボンド数Boが小さくなる低重力環境を実現している。
【0082】
双方の結果(データ)を、図10(a)(b)に液体充填率(Liquid filling level)による変化として示す。
【0083】
図10(a)(b)について使用したパラメータは、以下の表1の通りである。
【表1】
【0084】
ここで、上記表1に示したパラメータのうちのガリレオ数Ga(無次元数)は、次式によって定義されるものである。
【数37】
【0085】
なお、非特許文献3では、平均の液深がhav=0.5a,a,1.5a(aは球形タンク半径)となる液体の体積について実験結果が与えられている。又、ボンド数Boを定義するために用いられた代表長さachは、本解析と異なり、z=havでのタンク壁面のr座標の2倍、すなわち、hav=0.5a,a,1.5aの場合に関して、それぞれ
【数38】
である。したがって、非特許文献3でのボンド数Boは、表1に示した本解析でのボンド数Bo(式(1.11)参照)の、それぞれ、3,4,3倍である。
【0086】
図10(a)(b)の結果より、本発明の低重力スロッシングの減衰比予測方法による減衰比の解析結果と、非特許文献3に示された実験値とは概ね一致することが確認できる。
【0087】
以上により、上記非特許文献3で経験的(実験的)に導かれた式の物理的意味、及び、理論的根拠が、本発明の低重力スロッシングの減衰比予測方法によって理論的に説明することができるようになる。
【0088】
なお、本発明者によれば、非特許文献1における固有振動数に関する実験との良好な一致を確認している。
【0089】
したがって、本発明の低重力スロッシングの減衰比予測方法によれば、低重力場に配置されたタンク1内で生じる液体2のスロッシングの減衰比について、地表重力場とは大きく異なる値を予測可能とし、又、その物理的原因を究明することが可能になる効果を得られることが明らかである。
【0090】
次に、図11及び図12は本発明の実施の他の形態として、上記図1乃至図10(イ)(ロ)に示した本発明の低重力スロッシングの減衰比予測方法を用いて行う、減衰を含む場合のマスばね設計モデルである低重力スロッシングの設計モデル作成方法を示すもので、以下のような手順としてある。
【0091】
なお、設計モデルを作成する、とは、後述するように仮に設定する図11のタンク1の設計モデルについて、下記の条件、
条件:タンク1に働くx軸方向の力とy軸回りのモーメントの、x軸方向のタンク加振加速度(fツードット(x))に対する周波数応答が、図1のスロッシング系と図11の設計モデルとで等しくなる。
が満たされるように、該図11の設計モデルにおける後述する各パラメータ(可動マス(スロッシングマス)、固定マス、これらのマスの取り付け高さ、ばね定数、減衰係数)を決定することを意味するものである。
【0092】
3.1 スロッシング系の周波数応答
すなわち、先ず、図11に示すように、水平面内で直交する2方向のx軸及びy軸と、鉛直なz軸とによって形成されるxyz座標空間内に、一般軸対称タンクとしての球形のタンク1を、該タンク1の底部の中心を上記該xyz座標空間における原点に一致させて配置した状態にて、該タンク1内に液体を貯留すると仮定した場合、該液体のx軸方向に沿う方向のスロッシングによってタンク1に働くx軸方向の力Fxと、y軸回りのモーメントMyは、前述の本発明の低重力スロッシングの減衰比予測方法で導いた式(1.32)の解として求まるモード座標q(t)を用いて、次の形に表される。
【数39】
【0093】
上記式(3.1)及び式(3.2)の右辺第3項と第4項は、低重力で重要になる表面張力によって生じている項である。
【0094】
更に、上記式(1.32)を次のように変形する。
【数40】
【0095】
次いで、加振加速度
【数41】
に対する上記式(3.3)の解を、
【数42】
として求め、該求められた解(式(3.6))を、上記式(3.1)及び式(3.2)に代入して、タンク1に作用する上記力FxとモーメントMyの加振加速度に対する応答を次のように求める。
【数43】
【0096】
3.2 設計モデルの周波数応答
次に、図11に示す如く、上記タンク1内におけるz軸上の高さl0の位置、すなわち、座標(0,0,l0)に、質量m0の固定マス3を配置して、該固定マス3をタンク1壁面に固定し、且つ、上記タンク1内におけるz軸上の高さl1の位置、すなわち、座標(0,0,l1)に、質量m1の可動マス(スロッシングマス)4を配置して、該可動マス4のx軸方向の両側部を、そのx軸方向の両側に位置するタンク1壁面に、x軸方向のばね要素5とダンパ6を介し取り付けて、該可動マス4が上記ばね要素5とダンパ6によってx軸方向に沿う方向に往復動可能に保持された設計モデル(メカニカルモデルとも称する)を仮に設定する。
【0097】
上記可動マス4とタンク1壁面との間のばね要素5のばね定数はk1、ダンパ6の減衰係数はc1とする。
【0098】
上記仮の設計モデルにおける可動マス4の運動方程式、及び、タンク1に作用するx軸方向の力Fx,mechとy軸回りのモーメントMy,mechの式は、次のように求められる。
【数44】
【0099】
上記式(3.9)のモーメントMy,mechの式における右辺第4項は、可動マス4のx軸方向変位による重力モーメントを表す。
【0100】
そこで、上記式(3.8)を、
【数45】
と変形し、上記式(3.10)における上記加振加速度(式(3.5)参照)に対する解である、
【数46】
を求めて、上記式(3.9)に代入することにより、上記力Fx,mechとモーメントMy,mech の周波数応答を求めると、
【数47】
となる。
【0101】
3.3 設計モデルのパラメータの決定
次いで、上記仮の設計モデルにおけるパラメータの決定について説明する。
【0102】
上記式(3.7)及び式(3.13)が任意の加振周波数ωfについて等しい条件を課す。先ず、双方の式の分子及び分母の実部が等しくなる条件
【数48】
より、上記仮の設計モデルにおけるパラメータを下記のようにして決定する。
【0103】
具体的には、上記条件における第1式、第2式、第4式から、上記仮の設計モデルの固有周波数ωmech、及び、固定マス3の質量m0とそのタンク1に対する取り付け位置l0を定める。
【0104】
次に、上記条件における第3式及び第5式を次のように変形して、可動マス4の質量m1とそのタンク1への取り付け位置l1を定める。
【数49】
【0105】
このようにして、上記仮の設計モデルについて、減衰以外のパラメータを下記のように決定する。
【数50】
【0106】
次に、上記式(3.7)及び式(3.13)における分母の虚数部が等しいという条件から、
【数51】
となり、したがって、上記仮の設計モデルの減衰係数が次式により定まる。
【数52】
【0107】
3.4 補正力、補正モーメント
従来、低重力スロッシングの減衰比は計算されていないが、もし実験等で求まれば、求まった減衰比をそのまま設計モデルの減衰比として採用するというのが従来の一般的な考えであった。
【0108】
これに対し、本発明は、このような一見妥当な従来の考えでは、前述の式(3.7)と式(3.13)の分子の虚数部の差から、図1に示したようなスロッシング系と、図11のような設計モデルとではタンクに働くx軸方向の力と、y軸回りのモーメントに次式で表される差異が生じることを示唆し、この差異の補正を行うことができるようにするための低重力スロッシング設計モデルを作成することを特徴とする。
【数53】
【0109】
この差異を補正(correct)すべきx軸方向の力Fcと、y軸回りのモーメントMcは、上記式(3.16)を基に、
【数54】
と変形される。更に変形するため、上記式(3.14)から得られる
【数55】
を用いると、次のように変形できる。
【数56】
【0110】
上記において、A4とC4の項は数値的検証により小さく、省略することができる。したがって、上記式(3.21)における補正すべきx軸方向の力Fcと、y軸回りのモーメントMcは、低重力で重要になる式(3.1)及び式(3.2)の表面張力項(A2,C2の項とA3,C3の項)、及び、式(3.9)のモーメントMy,mechの式の右辺第4項の可動マス4の水平変位による重力モーメント項に起因する。
【0111】
よって、本発明では、低重力で粘性減衰を考慮した低重力スロッシング設計モデルを作成する際に、上記したような表面張力による新たな力と、モーメントの補正を行うようにする。
【0112】
3.5 補正力、補正モーメントを発する設計モデルの作成
すなわち、本発明の低重力スロッシング設計モデルでは、ダンパによるx軸方向の力と、y軸回りのモーメントが、上記式(3.21)によって与えられる補正力Fcと、補正モーメントMcと等価になる設計モデル(メカニカルモデル)の構造として、図12に示す如き系を構成するものとする。
【0113】
具体的には、図12に示すように、図11に示したものと同様にxyz座標空間に配置したタンク1内におけるz軸上の高さlcの位置、すなわち、座標(0,0,lc)に、質量mcの可動マス(スロッシングマス)4Aを配置して、該可動マス4Aのx軸方向の両側部を、そのx軸方向の両側に位置するタンク1壁面に、x軸方向のばね要素5Aとダンパ6Aを介し取り付けて、該可動マス4Aが上記ばね要素5Aとダンパ6Aによってx軸方向に沿う方向に往復動可能に保持させた構成とする。
【0114】
更に、上記式(3.21)の分母より、系の減衰比はζd、固有振動数はωである。これにより、上記可動マス4Aとタンク1壁面との間に介装させるダンパ6Aの減衰係数はζd2(mckc)1/2となり、同様に、上記可動マス4Aとタンク1壁面との間に介装させるばね要素5Aのばね定数はkc=mcω2に設定する。
【0115】
この設定の下で、上記可動マス4Aの運動方程式は、次のようになる。
【数57】
【0116】
図12の系のダンパ6Aによるx軸方向の力Fdampと、y軸回りのモーメントMdampは、
【数58】
となる。
【0117】
上記式(3.22)の加振加速度(式(3.5))に対する解である
【数59】
を、上記式(3.24)に代入すると、
【数60】
となる。
【0118】
よって、上記式(3.26)おけるx軸方向の力Fdampと、y軸回りのモーメントMdampが、前述の式(3.21)における補正すべきx軸方向の力Fcと、y軸回りのモーメントMcに一致する条件より、図12に示した低重力スロッシング設計モデルの補正モデルにおける可動マス4Aの質量mcとその取り付け位置lcを次のように決定する。
【数61】
【0119】
このように、本発明の低重力スロッシング設計モデル作成方法によれば、新たな離散系を設定して、実験等で求められた減衰比をそのまま設計モデルの減衰比として採用するようにしてある従来の一般的な考えに基づく設計モデルを修正して、低重力(場)で重要になる表面張力項(式(3.1)及び式(3.2)のA2,C2の項とA3,C3の項参照)、及び、可動マス4Aの水平変位による重力モーメント項(式(3.9)のモーメントMy,mechの式の右辺第4項参照)を用いて、補正力、補正モーメントを加えるようにしてあるため、低重力場に配置されたタンク1内の液体2(図1参照)に生じる低重力スロッシングの粘性による減衰比を良好に与えることが可能な低重力スロッシング設計モデルを構築することができる。
【0120】
ここで、上記低重力スロッシング設計モデルにおける上記可動マス4Aの質量mcの物理的意味を考察する。
【0121】
前述の式(3.14)より、以下の式が導かれる。
【数62】
【0122】
ところで、非特許文献2における式(58)から2章の最後までの記述より、以下の二点が判明している。
(1)上記式(3.28)の右辺が液体の質量に等しいという質量保存則を満たす。
(2)−B1は、メニスカスのタンク壁面との接触線を含む平面(図1に二点鎖線で示す平面)と、タンク壁面とで囲まれた空間を占める液体の質量である。
【0123】
これら点に基づき、上記式(3.27a)のmcは、上記接触線を含む平面と、メニスカスとで囲まれた空間を満たす液体の質量という物理的意味をもつ。
【0124】
なお、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、上記各実施の形態では、球形のタンク1に適用する場合を示したが、球座標を用いてラプラス方程式を変数分離解法で解くことにより、式(1.15)と同様にして速度ポテンシャルと液体2の液面変位を解析的に表すことができれば、楕円体形タンクや、円筒形の胴部と該胴部の両端部に接続された半球形または半楕円体形の鏡板部を有するタンク等、球形以外のいかなる形式の一般軸対称タンクに付いて適用してもよい。
【0125】
又、低重力場で液体を貯蔵する形式のタンクであれば、宇宙機の推進薬タンク以外のいかなるタンクに適用してもよい。
【0126】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0127】
1 タンク(一般軸対称タンク)
2 液体
4A 可動マス
5A ばね要素
6A ダンパ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般軸対称タンクを球座標で表して、該一般軸対称タンクの内部の液体を非粘性と仮定して非粘性流体の表面張力を含む変分原理に基く非粘性スロッシングのモード方程式を求め、次に、ナビエ・ストークス方程式の粘性項にて、タンク壁面にできる粘性境界層内での仮想仕事をモード座標で表し、該モード座標で表された上記タンク壁面にできる粘性境界層内での仮想仕事を、上記非粘性スロッシングのモード方程式に加えて、速度項に対応するモード座標の時間による1階微分項を含むモード方程式を求めることを特徴とするタンク内スロッシングの減衰比予測方法。
【請求項2】
一般軸対称タンクを球座標で表して、該一般軸対称タンクの内部の液体を非粘性と仮定して非粘性流体の表面張力を含む変分原理に基く非粘性スロッシングのモード方程式を求め、次に、ナビエ・ストークス方程式の粘性項にて、タンク壁面にできる粘性境界層内での仮想仕事をモード座標で表し、該モード座標で表された上記タンク壁面にできる粘性境界層内での仮想仕事を、上記非粘性スロッシングのモード方程式に加えて、速度項に対応するモード座標の時間による1階微分項を含むモード方程式を求め、次に、上記モード方程式の解として求まるモード座標を用いて、上記一般軸対称タンクの内部の液体の水平な一軸方向へのスロッシングが生じるとした場合のスロッシング系について、該スロッシングに伴って上記一般軸対称タンクに働く上記一軸方向の力と、水平面内で該一軸方向に直交する軸回りのモーメントを求めると共に、該スロッシング系における一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの加振加速度に対する応答を求め、一方、タンク内における或る高さ位置に固定マスを固定し、且つ別の或る高さ位置に配置した可動マスを、タンク壁面に、ばね要素とダンパを介して支持させてなる構成の仮の設計モデルを設定して、該設計モデルにおける上記可動マスの運動方程式より、該仮の設計モデルのタンクに作用する上記一軸方向の力と、それに直交する軸回りのモーメントを求めると共に、該設計モデルにおける一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの上記と同一の加振加速度に対する応答を求め、次いで、上記スロッシング系における上記一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの加振加速度に対する応答と、上記仮の設計モデルにおける上記一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの上記と同一の加振加速度に対する応答が任意の加振周波数について等しくなる条件の下で必要とされる減衰係数を求め、更に、上記スロッシング系における上記一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの加振加速度に対する応答と、上記仮の設計モデルにおける上記一軸方向の力と、それに直交する軸回りのモーメントの上記と同一の加振加速度に対する応答との差を補正するために必要な補正力と補正モーメントを求め、しかる後、タンク内に、可動マスを、上記一軸方向のばね要素とダンパを介して取り付けてなり、且つ上記ダンパによる力とモーメントが、上記補正力と補正モーメントと等価になるように、上記可動マスの質量とその取付位置とを定めて設計モデルを作成することを特徴とする低重力スロッシングの設計モデル作成方法。
【請求項1】
一般軸対称タンクを球座標で表して、該一般軸対称タンクの内部の液体を非粘性と仮定して非粘性流体の表面張力を含む変分原理に基く非粘性スロッシングのモード方程式を求め、次に、ナビエ・ストークス方程式の粘性項にて、タンク壁面にできる粘性境界層内での仮想仕事をモード座標で表し、該モード座標で表された上記タンク壁面にできる粘性境界層内での仮想仕事を、上記非粘性スロッシングのモード方程式に加えて、速度項に対応するモード座標の時間による1階微分項を含むモード方程式を求めることを特徴とするタンク内スロッシングの減衰比予測方法。
【請求項2】
一般軸対称タンクを球座標で表して、該一般軸対称タンクの内部の液体を非粘性と仮定して非粘性流体の表面張力を含む変分原理に基く非粘性スロッシングのモード方程式を求め、次に、ナビエ・ストークス方程式の粘性項にて、タンク壁面にできる粘性境界層内での仮想仕事をモード座標で表し、該モード座標で表された上記タンク壁面にできる粘性境界層内での仮想仕事を、上記非粘性スロッシングのモード方程式に加えて、速度項に対応するモード座標の時間による1階微分項を含むモード方程式を求め、次に、上記モード方程式の解として求まるモード座標を用いて、上記一般軸対称タンクの内部の液体の水平な一軸方向へのスロッシングが生じるとした場合のスロッシング系について、該スロッシングに伴って上記一般軸対称タンクに働く上記一軸方向の力と、水平面内で該一軸方向に直交する軸回りのモーメントを求めると共に、該スロッシング系における一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの加振加速度に対する応答を求め、一方、タンク内における或る高さ位置に固定マスを固定し、且つ別の或る高さ位置に配置した可動マスを、タンク壁面に、ばね要素とダンパを介して支持させてなる構成の仮の設計モデルを設定して、該設計モデルにおける上記可動マスの運動方程式より、該仮の設計モデルのタンクに作用する上記一軸方向の力と、それに直交する軸回りのモーメントを求めると共に、該設計モデルにおける一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの上記と同一の加振加速度に対する応答を求め、次いで、上記スロッシング系における上記一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの加振加速度に対する応答と、上記仮の設計モデルにおける上記一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの上記と同一の加振加速度に対する応答が任意の加振周波数について等しくなる条件の下で必要とされる減衰係数を求め、更に、上記スロッシング系における上記一軸方向の力とそれに直交する軸回りのモーメントの加振加速度に対する応答と、上記仮の設計モデルにおける上記一軸方向の力と、それに直交する軸回りのモーメントの上記と同一の加振加速度に対する応答との差を補正するために必要な補正力と補正モーメントを求め、しかる後、タンク内に、可動マスを、上記一軸方向のばね要素とダンパを介して取り付けてなり、且つ上記ダンパによる力とモーメントが、上記補正力と補正モーメントと等価になるように、上記可動マスの質量とその取付位置とを定めて設計モデルを作成することを特徴とする低重力スロッシングの設計モデル作成方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−126196(P2012−126196A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277886(P2010−277886)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
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