説明

低pH廃水に含まれる第一鉄イオンのバクテリア酸化方法

【課題】バクテリア着床体のコストを増加させることがなく、また硫酸イオン濃度の高い廃水であっても安定して酸化できると共に、鉄酸化バクテリアの最適条件で第一鉄の酸化を行えるようにした第一鉄イオンのバクテリア酸化方法を提供する。
【解決手段】バクテリア酸化槽と中和槽とバクテリア回収槽からなる酸化系を構成する。バクテリア酸化槽には廃水を導くと共に、バクテリア回収槽で回収したバクテリア泥を環流させ、廃水に含まれる第一鉄イオンを酸化する。バクテリア酸化槽で酸化した廃水を中和槽に供給し、そこで酸化によって生成して第二鉄イオンを中和した鉄酸化バクテリアの着床体となる鉄殿物を生成する。その後、中和槽で中和した廃水をバクテリア回収槽に供給し、固液分離を行ってバクテリア泥を回収してバクテリア酸化槽に循環供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性で且つ第一鉄イオンを含有する鉱山廃水や工場排水などの水処理方法に関し、特に鉄酸化バクテリアを利用して廃水等に含まれる第一鉄イオンを酸化する酸化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属鉱山等から排出される酸性廃水の無公害化処理に際し、廃水中に多量の第一鉄イオン(Fe2+)が存在する場合には、このFe2+を予め酸化処理することが有効である。特許文献1では、酸化処理によって生成される鉄酸化物を鉄酸化バクテリアの着床体として使用し、バクテリアが着床した鉄酸化物を一部再循環させて、廃水中の第一鉄イオンの酸化を行なうとともにバクテリアの増殖も同時に行なう方法を提案している。しかしこの方法はある程度廃水のpHが高い酸性域の場合においては有益な方法であるが、塩基性塩をほとんど生じない低pH(例えばpH<2.5)の領域の廃水では、鉄酸化物が処理対象水に溶解するので、鉄酸化バクテリアの着床体の役目を果たせなくなる。
【0003】
これに対し、特許文献2には、図1に示すような酸化系10を構成して酸化処理を行う方法が開示されており、低pH領域の廃水に対しては、鉄酸化バクテリアの着床体となる珪藻土粒子をバクテリア酸化槽11に添加し、そこで酸化した処理済懸濁液を給送管12でバクテリア回収槽13に送り、バクテリア回収槽13で固液分離させて底部に沈積したバクテリア泥(バクテリアの着床した珪藻土)を回収して、循環管14により再びその一部をバクテリア酸化槽11に戻す方法が提案されている。これによると、鉄酸化バクテリアの着床体となる珪藻土は循環再利用されるので、低pH領域の廃水であっても酸化処理が可能である。
【0004】
また特許文献3には、図2に示すような酸化系20を構成して酸化処理と中和処理を同時に行う方法(以下、この方法を「酸化・中和法」という。)が開示されている。この酸化・中和法は、酸化中和槽21において、循環管24を介して鉄酸化バクテリアの着床したバクテリア泥を循環補給しながら廃水中の第一鉄イオンを酸化すると同時に、この酸化中和槽21に炭酸カルシウムを加え、該槽内のpHを3.7〜5.0の間に維持して中和する。酸化中和槽21で生成される中和水は給送管22を介してバクテリア回収槽23に送られ、バクテリア泥は沈降分離して回収される。これによると、廃水処理において酸化と中和を同一工程で行えるという利点がある。
【0005】
【特許文献1】特公昭47−38981号公報
【特許文献2】特公昭57−44393号公報
【特許文献3】特公平2−28390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献2及び3の従来技術には次のような課題がある。第一に、特許文献2の方法では、系外から酸化系10内へバクテリアの着床体となる珪藻土などを加える必要があるので、水処理で発生する中和殿物の量が増加するし、着床体のコストが増加するという問題がある。
【0007】
第二に、特許文献3の酸化・中和法では、廃水に含有される硫酸イオン濃度が高い場合に石膏が析出するという問題がある。例えば、北海道の幌別硫黄鉱山の坑廃水は、pHが約1.8、Fe2+濃度が300mg/L以上で、硫酸イオン濃度は約2600mg/Lである。特許文献3の酸化・中和法では、このような廃水を酸化中和槽21へ導き入れ、バクテリア酸化と炭酸カルシウム中和を同時に行なう。一方、二水石膏の溶解度は約2.5g/Lであり、二水石膏の飽和溶液の硫酸イオン濃度は約1400mg/Lである。そのため、幌別硫黄鉱山の坑廃水のように硫酸イオン濃度が約2600mg/Lの場合には、酸化中和槽21で石膏が析出する。ところで、塩基性塩の大きさは数μmであるが、石膏はこれより大きく数十〜百μmになる。鉄酸化バクテリアの着床体としては、表面積が大きくなく、粒子の小さい塩基性塩が適していて、これに石膏が混じると着床体の質が低下し、引いては酸化系20における第一鉄の酸化能力自体が悪化する。そのため、硫酸イオン濃度が、石膏が析出しない程度含有している廃水に対しては酸化・中和法も有効な方法であるが、硫酸イオン濃度の高い廃水に対しては、上記のように石膏が析出して酸化能力が低下するという問題がある。
【0008】
また酸化・中和法では第一鉄の酸化が不安定になるという問題がある。図3は幌別硫黄鉱山の坑廃水(pH=1.8)を対象として酸化・中和法による第一鉄の酸化試験を行った結果を示す図である。図示の如く、幌別硫黄鉱山の坑廃水のように低pHの原水に対して酸化・中和法によるバクテリア酸化を行うと、第一鉄の酸化が不安定になり、酸化率が大きく変動するという結果が得られた。これは、鉄酸化バクテリアの酸化活性が低下していることに起因するものと考えられる。酸化・中和法では酸化中和槽21のpHが3.7〜5.0に調整されるが、一般には鉄酸化バクテリアの第一鉄酸化活性はpHに影響され、pH=2.5が最適で、これより酸性側に下がるほど、またアルカリ側に上がるほど酸化活性が下がり、且つ、酸性側よりアルカリ側に外れるほど活性の下がり方の激しいことが知られている(例えば、今井和民、杉尾剛、安原照男、田野達男、バクテリアによる鉄の酸化、日本鉱業会誌/88、P.879−883、(1972))。したがって、酸化・中和法では、酸化中和槽21のpH条件が鉄酸化バクテリアの最適条件に調整されないので、第一鉄の酸化が不安定になると考えられる。
【0009】
本発明は、上記従来の問題点を解決することを目的としてなされたものであり、着床体のコストを増加させることがなく、また硫酸イオン濃度の高い廃水であっても安定して酸化できると共に、鉄酸化バクテリアの最適条件で第一鉄の酸化を行えるようにしたバクテリア酸化方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的達成のため、本発明者らが、鋭意検討したところによると、酸化・中和法において石膏が析出するのは、酸化中和槽で酸化と中和を同時に行い、しかもそれらを完了する必要があることから、酸化中和槽での廃水の滞留時間が長期化し、廃水中のカルシウム濃度の高い状態が長く続くことが一因であることを見いだすと共に、酸化系をバクテリア酸化槽、中和槽及びバクテリア回収槽の3槽から成る構成とし、バクテリア酸化槽で廃水中の第一鉄イオンを酸化して中和槽に導き、中和槽で炭酸カルシウムを添加して中和を行うこととして、工程全体における廃水中のカルシウム濃度が高くなる時間を短縮することにより石膏析出の問題が解消されるという知見を得た。また酸化系を上記3槽構成とすると、中和槽で生成される鉄殿物を鉄酸化バクテリアの着床体として利用でき、これをバクテリア回収槽で回収してバクテリア酸化槽に循環供給すれば、系外から珪藻土などの着床体を添加する必要がないことも確認できた。
【0011】
それ故、本発明が解決手段として採用したところは、廃水に含まれる第一鉄イオンを鉄酸化バクテリアにより酸化するバクテリア酸化方法において、バクテリア酸化槽と中和槽とバクテリア回収槽からなる酸化系を構成し、前記バクテリア酸化槽には廃水を導くと共に、前記バクテリア回収槽で回収したバクテリア泥を環流させ、廃水に含まれる第一鉄イオンを酸化する工程と、前記バクテリア酸化槽で酸化した廃水を前記中和槽に供給し、酸化によって生成する第二鉄イオンを中和して鉄酸化バクテリアの着床体となる鉄殿物を生成する工程と、前記中和槽で中和した廃水を前記バクテリア回収槽に供給し、固液分離を行ってバクテリア泥を回収する工程を有する点にある。
【0012】
また本発明者らの更なる検討によると、バクテリア酸化槽に循環供給する鉄酸化バクテリアの着床した鉄殿物(バクテリア泥)の量を調節することにより、バクテリア酸化槽のpHを制御でき、バクテリア酸化槽では鉄酸化バクテリアの最適条件の下で第一鉄の酸化を行えるという知見を得た。そのため、本発明が更なる解決手段として採用したところは、前記バクテリア回収槽で回収したバクテリア泥を前記バクテリア酸化槽に環流させる際、バクテリア泥の量を調整することにより前記バクテリア酸化槽のpHを所定範囲内に制御することである。この場合、バクテリア酸化槽のpHは1.5〜3.5の範囲内とすることが好ましく、より好ましくは最適条件であるpH=2.5である。
【0013】
また本発明の方法においては、中和槽に炭酸カルシウムを添加することにより、酸化系に現存する鉄酸化バクテリアの着床体となる鉄殿物を過不足なく生成することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のバクテリア酸化方法によれば、中和槽で生成される鉄殿物を鉄酸化バクテリアの着床体として循環利用するので、系外から着床体を添加する必要はなく、着床体にかかるコストを抑えることができる。また中和槽では、酸化・中和法に比べてカルシウム濃度が高くなる時間が短くなるので、硫酸イオン濃度の高い廃水であっても石膏が析出するという問題は解消される。更にバクテリア酸化槽では、廃水に含まれる第一鉄イオンの酸化のみを行うので、バクテリア酸化槽を鉄酸化バクテリアの活性に最適となる条件とすることができ、安定した酸化処理が可能になる。
【0015】
またバクテリア回収槽で回収したバクテリア泥をバクテリア酸化槽に循環供給する際、その供給量を調整すれば、バクテリア酸化槽のpHが所定範囲内となるように制御でき、バクテリア酸化槽の環境が鉄酸化バクテリアの活性に適したものとなる。
【0016】
更に中和槽に炭酸カルシウムを添加して中和すれば、廃水に溶解しない鉄殿物が得られ、その鉄殿物を鉄酸化バクテリアの着床体として有効に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下図面に基づいて本発明の好ましい実施形態を詳述する。図4は本発明による酸化系1を示す図であり、この酸化系1はバクテリア酸化槽2と中和槽3とバクテリア回収槽4の3槽から成る。バクテリア酸化槽2へは廃水とバクテリア回収槽4で回収したバクテリア泥を供給し、そこで鉄酸化バクテリアによる廃水中の第一鉄イオンの酸化を行う。酸化した廃水は供給路5を通ってバクテリア酸化槽2から中和槽3に導かれる。
【0018】
中和槽3では炭酸カルシウムを添加し、酸化処理で生成した第二鉄イオンを中和して鉄を固形物化する。このとき、第二鉄イオンは水酸化鉄、塩基性硫酸鉄および硫酸鉄になり、それらは鉄酸化バクテリアの着床体となる。中和槽3では廃水中の鉄を全量中和してもよいし、一部を中和して残部を酸化系1よりも後段の工程で中和してもよい。即ち、酸化系1内の中和槽3で行なう中和(脱鉄)は、廃水処理の全体フローの中で必要となる中和量の全量を行うものであっても良いし、そのうちの一部のみを行うものであってもよい。但し、中和槽3では、現存する鉄酸化バクテリアの着床体を酸化系1に対して過不足なく供給するだけの鉄の固形物化を行えるようにする。中和槽3では、鉄を完全に中和しようとするほどpHは高くなる。また廃水の水質によって中和pHの範囲は異なるが、中和槽のpHはおよそ2.5〜4.5の範囲内に調整することが好ましい。そして中和した廃水は供給路6を通って中和槽3からバクテリア回収槽4に導かれる。
【0019】
バクテリア回収槽4では中和槽3で生成する鉄殿物を固液分離し、上澄水は供給路8に溢流させて次工程に導く一方、槽内に沈積した濃縮殿物の一部はポンプP等の循環供給手段によって循環路7に回収してバクテリア泥としてバクテリア酸化槽2へ再循環する。このときバクテリア回収槽4からバクテリア酸化槽2へのバクテリア泥の供給量を調整することにより、バクテリア酸化槽2のpHを鉄酸化バクテリアの酸化活性に適した所定範囲内に制御する。望ましくは鉄酸化バクテリアの酸化活性に最適なpH=2.5であるが、この近傍値であっても問題ない。バクテリア酸化槽2のpHの好ましい範囲は1.5〜3.5である。
【0020】
上記のような酸化系1では、バクテリア酸化槽2における鉄酸化バクテリアの酸化活性が良好であり、その環境下で酸化を行うことにより、安定した酸化率で廃水中の第一鉄イオンを酸化できる。また中和槽3では水酸化鉄、塩基性硫酸鉄、硫酸鉄等の鉄酸化バクテリアの着床体が生成されるので、酸化系1の外部から珪藻土などの着床体を添加する必要がなく、しかも二水石膏が析出するという問題も解消される。
【実施例】
【0021】
幌別硫黄鉱山の坑廃水を、図4に示した本発明による方法、及び図2に示した従来の酸化・中和法で連続酸化処理試験を行い比較した。試験条件及び結果は次の通りである。
【0022】
(試験条件)
原水(坑廃水)を3L/min、バクテリア泥を0.3L/minの条件で連続通水した。本発明におけるバクテリア酸化槽2の水理学的滞留時間(以下、「HRT」という。)は60minとし、中和槽3のHRTは60minとした。酸化・中和法における酸化中和槽21のHRTは120minとした。
【0023】
(試験結果1)
本発明の方法による酸化系1で、坑廃水、バクテリア酸化槽2、中和槽3及びバクテリア回収槽4のそれぞれのpHの変化を測定し、かつ、酸化・中和法による酸化系20で、坑廃水、酸化中和槽21及びバクテリア回収槽23のそれぞれのpHの変化を測定した結果を図5に示す。本発明の方法によると、バクテリア酸化槽2のpHは、坑廃水(pH=1.8)とバクテリア泥(pH=3.5)を混合するだけで鉄酸化バクテリアの活性化に最適なpH=2.5に極めて近いpH=2.7となった。またバクテリア酸化槽2のpHは、次の反応の組み合わせで変化したものと理解できた。
【0024】
(1)pHの上昇に寄与する反応
a)バクテリア泥に残存、酸化系1を循環する炭酸カルシウムが原水のH+を中和する。
CaCO3+H2SO4→H2O+Ca2++SO42-+CO2
b)バクテリア泥が原水のH+を中和する。
Fe(OH)3+H2SO4→Fe(OH)SO4+2H2
c)バクテリア酸化で原水のH+を消費する。
4FeSO4+2H2SO4+O2→2Fe2(SO43+2H2
(2)pHの低下に寄与する反応
a)溶解性Fe3+の殿物化
Fe2(SO43+2H2O→2Fe(OH)SO4+H2SO4
【0025】
尚、対照となる酸化・中和法では、炭酸カルシウムを加えて酸化中和槽21のpHを3.5〜3.7に調整した。
【0026】
(試験結果2)
本発明の方法による酸化系1で、坑廃水、バクテリア酸化槽2、中和槽3及びバクテリア回収槽4のそれぞれの第一鉄濃度の変化を測定し、かつ、酸化・中和法による酸化系20で、坑廃水、酸化中和槽21及びバクテリア回収槽23のそれぞれの第一鉄濃度の変化を測定した結果を図6に示す。本発明の方法によると、バクテリア酸化槽2の出口で99%以上酸化されている。また対照となる酸化・中和法でもこの例では99%以上酸化している。
【0027】
(試験結果3)
本発明と酸化・中和法のそれぞれで得られたバクテリア泥のX線回折チャートを図7に示す。この結果によると、本発明のバクテリア泥からは低結晶性鉄(III)酸化水酸化硫酸塩であるシュベルトマナイトが検出された(図7(a))。これに対し、酸化・中和法のバクテリア泥からは二水石膏が検出された(図7(b))。
【0028】
(試験結果4)
本発明と酸化・中和法のそれぞれで得られたバクテリア泥の走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)を図8に示す。この結果によると、酸化・中和法で得られたバクテリア泥には、石膏の結晶が存在する(図8(b))。また本発明で得られたバクテリア泥(図8(a))と、酸化・中和法で得られたバクテリア泥(図8(b))の粒子を比較すると、本発明による粒子は酸化・中和法による粒子に比べて小さいことがわかる。
【0029】
(試験結果5)
本発明と酸化・中和法のそれぞれで得られたバクテリア泥の粒度分布を図9に示す。この結果からも、本発明によるバクテリア泥の粒子は、酸化・中和法によるバクテリア泥の粒子に比べて小さいことがわかる。
【0030】
(試験結果6)
本発明と酸化・中和法のそれぞれで得られたバクテリア泥を組成分析して得られた組成を表1に示す。酸化・中和法によるバクテリア泥には、本発明によるバクテリア泥に比べて石膏が多く含まれていることがわかる。
【0031】
【表1】

【0032】
(試験結果7)
本発明と酸化・中和法のそれぞれで得られたバクテリア泥に現存するバクテリア数を計数した結果を図10に示す。この結果によると、本発明で得られたバクテリア泥には、酸化・中和法によるバクテリア泥に比べて全菌数、生菌数が共により多く存在していることがわかる。
【0033】
(評価)
X線回折チャート、走査型電子顕微鏡写真、粒度分布図、組成分析の結果から明らかなように、本発明によるバクテリア泥に含まれる石膏は微量であるのに対し、酸化・中和法によるバクテリア泥にはより多くの石膏が含まれている。また酸化・中和法によるバクテリア泥は粒度が大きくなりつつあると考えられる。したがって、本発明によるバクテリア泥の方が、酸化・中和法のバクテリア泥に比べ、粒子が小さいという点で鉄酸化バクテリアの着床体に適していると言える。
【0034】
酸化・中和法において石膏が析出するのは、原水(坑廃水)が最初に導水される酸化中和槽21に対して炭酸カルシウムを添加しているため、水中のカルシウム濃度の高い状態が長く続くことが一因であると考えられるが、本発明では原水を酸化した後の中和槽3に炭酸カルシウムを添加しており、しかも中和槽3では中和のみを行うので中和槽3のHRTを比較的短時間に設定できるので石膏析出には至らないと考えられる。
【0035】
また本発明によるバクテリア泥の菌数は、酸化・中和法のバクテリア泥より多いことからも、本発明の方法は酸化・中和法に比べてバクテリア酸化に適した環境が整っていると言える。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】従来のバクテリア酸化方法における酸化系を示す図である。
【図2】従来のバクテリア酸化方法(酸化・中和法)における酸化系を示す図である。
【図3】幌別硫黄鉱山の坑廃水を対象として従来の酸化・中和法による第一鉄の酸化試験を行った結果を示す図である。
【図4】本発明によるバクテリア酸化方法の酸化系を示す図である。
【図5】幌別硫黄鉱山の坑廃水を対象として、本発明による方法と従来の酸化・中和法をそれぞれ行った際の各槽でのpHの変化を示す図である。
【図6】幌別硫黄鉱山の坑廃水を対象として、本発明による方法と従来の酸化・中和法をそれぞれ行った際の各槽での第一鉄濃度の変化を示す図である。
【図7】幌別硫黄鉱山の坑廃水を対象として、本発明による方法と従来の酸化・中和法をそれぞれ行って得られたバクテリア泥のX線回折チャートを示す図である。
【図8】幌別硫黄鉱山の坑廃水を対象として、本発明による方法と従来の酸化・中和法をそれぞれ行って得られたバクテリア泥の走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)を示す図である。
【図9】幌別硫黄鉱山の坑廃水を対象として、本発明による方法と従来の酸化・中和法をそれぞれ行って得られたバクテリア泥の粒度分布を示す図である。
【図10】幌別硫黄鉱山の坑廃水を対象として、本発明による方法と従来の酸化・中和法をそれぞれ行って得られたバクテリア泥に現存するバクテリア数の計数結果を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1 酸化系
2 バクテリア酸化槽
3 中和槽
4 バクテリア回収槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃水に含まれる第一鉄イオンを鉄酸化バクテリアにより酸化するバクテリア酸化方法において、
バクテリア酸化槽と中和槽とバクテリア回収槽からなる酸化系を構成し、
前記バクテリア酸化槽には廃水を導くと共に、前記バクテリア回収槽で回収したバクテリア泥を環流させ、廃水に含まれる第一鉄イオンを酸化する工程と、
前記バクテリア酸化槽で酸化した廃水を前記中和槽に供給し、酸化によって生成する第二鉄イオンを中和して鉄酸化バクテリアの着床体となる鉄殿物を生成する工程と、
前記中和槽で中和した廃水を前記バクテリア回収槽に供給し、固液分離を行ってバクテリア泥を回収する工程とを有することを特徴とする第一鉄イオンのバクテリア酸化方法。
【請求項2】
前記バクテリア回収槽で回収したバクテリア泥を前記バクテリア酸化槽に環流させる際、バクテリア泥の量を調整することにより前記バクテリア酸化槽のpHを所定範囲内に制御する請求項1記載の第一鉄イオンのバクテリア酸化方法。
【請求項3】
前記中和槽には炭酸カルシウムを添加することを特徴とする請求項1又は2記載の第一鉄イオンのバクテリア酸化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−6384(P2008−6384A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−180167(P2006−180167)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構、研究テーマ「平成17年度殿物減容化技術調査研究」に関する委託研究、産業再生法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000224787)DOWAテクノエンジ株式会社 (7)
【Fターム(参考)】