説明

住宅の傾斜矯正工法

【課題】 工事が容易であり、矯正後も構造的に安全であるとともに、傾斜の矯正時及び矯正後に床組みに歪みやずれ等が生じることを防止する住宅の傾斜矯正工法を提供する。
【解決手段】 本住宅の傾斜矯正工法は、必要箇所において鋼製土台2を外周基礎1に固定しているアンカーボルト18からナット19を取り外し、間仕切基礎用柱脚金物6を間仕切基礎5に固定しているアンカーボルト18からナット19を取り外すとともに、大引8の鋼製束11及び/又は大引支持金具9からの拘束を解く固定解除工程と、鋼製土台2、間仕切基礎用柱脚金物6、及び大引8をジャッキ50により持ち上げるジャッキアップ工程と、鋼製土台2を介設材100を介して外周基礎1に固定し、間仕切基礎用柱脚金物6を介設材100を介して間仕切基礎5上に固定するとともに、鋼製束11及び/又は大引支持金具9を調整して大引8の中間部を再度支持する再固定工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤の不同沈下等により住宅に傾斜が生じた場合にその傾斜を矯正する住宅の傾斜矯正工法に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅が建つ地盤に不同沈下等が発生した場合、住宅に傾斜が生じることがある。住宅に傾斜が生じると、建具の開閉不良や床の傾斜などさまざまな不具合の発生につながり、さらに傾斜が深刻な状況になると、住宅の倒壊にも到りかねない。そこで、住宅に生じた傾斜の矯正が必要となる。
【0003】
従来、住宅の傾斜を矯正する工法として、種々の矯正工法が用いられている。そのうちの一つの矯正工法として、基礎下の地盤を掘削してジャッキを設置し、基礎ごと住宅を持ち上げて矯正する工法がある。また、他の矯正工法として、住宅の低くなった側の基礎コンクリートをはつって土台等の構造部材と基礎を緊結するアンカーボルトを露出し、該アンカーボルトを切断して、基礎より上部の構造部材をジャッキにより持ち上げて矯正する工法がある。
【0004】
さらに他の矯正工法として、基礎上に鋼製土台がアンカーボルトを介して固定された住宅の傾斜矯正工法がある(例えば、特許文献1参照)。この矯正工法は、矯正時に、基礎上に鋼製土台を固定しているアンカーボルトからナットを外し、アンカーボルト上に接続ナットを介してボルトを継ぎ足すようにし、鋼製土台の必要箇所を持ち上げて、基礎と鋼製土台の間に介設材を介装し、継ぎ足したボルトにナットを締め付けて持ち上げた鋼製土台を再び基礎に固定することにより傾斜を矯正している。
【特許文献1】特開平10−331180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した住宅の基礎下の地盤を掘削してジャッキを設置し、基礎ごと住宅を持ち上げて矯正する工法においては、地盤の掘削は、基本的に人力で行われるため、非常に重労働であり時間もかかる。また、通常、床組みを解体することが必要となるため、居住者の仮住まい等が必要となる。さらに、住宅街などの狭小地においては、工事スペースが限定される場合があり、掘削土の仮置き場所の確保など工事が困難になるという問題がある。
【0006】
また、上記した住宅の低くなった側の基礎コンクリートをはつり、基礎と土台等の上部構造を緊結するアンカーボルトを切断して、上部構造を持ち上げて矯正する工法においては、矯正後、切断したアンカーボルトを繋ぐように鉄筋を溶接したり、基礎をはつった部分にコンクリートを打設したりして補修を行うが、一旦基礎コンクリートをはつってアンカーボルトを切断するため、構造的に万全であるとは言い難く、そのため、施主の理解も得られ難い。
【0007】
また、特許文献1の矯正工法においては、鋼製土台を持ち上げることによって鋼製土台に接続された大引に撓みが生じ、該大引に支持された床組みにも歪みやずれ等が生じることが懸念される。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、工事が容易であり、矯正後も構造的に安全であるとともに、傾斜の矯正時及び矯正後において床組みに歪みやずれが生じることを防止する住宅の傾斜矯正工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1記載の住宅の傾斜矯正工法は、基礎上に配設された構造部材に大引の端部が支持固定された住宅の傾斜を矯正する工法であって、必要箇所において前記構造部材を基礎に固定しているアンカーボルトからナットを取り外す固定解除工程と、前記構造部材と前記大引とをそれぞれジャッキにより略同時に持ち上げるジャッキアップ工程と、前記基礎と前記構造部材との間に形成された空間内部に介設材を介装してから、前記アンカーボルトに前記ナットを締め付けて、前記構造部材を前記介設材を介して前記基礎上に固定する再固定工程と、を含むことを特徴としている。
【0010】
請求項2記載の住宅の傾斜矯正工法は、外周基礎上に配設された鋼製土台同士がつなぎ材により接続され、大引の端部が前記鋼製土台、間仕切基礎上に配設された間仕切基礎用柱脚金物、又は前記つなぎ材に支持固定され、前記大引の中間部が鋼製束及び/又は前記間仕切基礎上に高さ調節可能に配設された大引支持金具により支持された住宅の傾斜を矯正する工法であって、必要箇所において前記鋼製土台を外周基礎に固定しているアンカーボルトからナットを取り外し、前記間仕切基礎用柱脚金物を間仕切基礎に固定しているアンカーボルトからナットを取り外すとともに、前記大引の前記鋼製束及び/又は大引支持金具からの拘束を解く固定解除工程と、前記鋼製土台、前記間仕切基礎用柱脚金物、及び前記大引とをそれぞれジャッキにより略同時に持ち上げるジャッキアップ工程と、前記鋼製土台と前記外周基礎との間に形成された空間内部と、前記間仕切基礎用柱脚金物と間仕切基礎との間に形成された空間内部とに介設材を介装してから、前記アンカーボルトに前記ナットを締め付けて、前記鋼製土台を前記介設材を介して前記外周基礎に固定し、前記間仕切基礎用柱脚金物を前記介設材を介して間仕切基礎上に固定するとともに、前記鋼製束及び/又は大引支持金具を調整して持ち上げられた前記大引の中間部を再度支持する再固定工程と、を含むことを特徴としている。
【0011】
請求項3記載の住宅の傾斜矯正工法は、請求項2記載の住宅の傾斜矯正工法において、前記ジャッキアップ工程において、前記大引の前記大引支持金具に支持された部分の両側近傍を前記ジャッキで持ち上げることを特徴としている。
【0012】
請求項4記載の住宅の傾斜矯正工法は、請求項2又は3記載の住宅の傾斜矯正工法において、前記大引支持金具は、前記間仕切基礎を跨ぐようにして該間仕切基礎の天端に嵌装される基礎抱持部と、該基礎抱持部の上面に立設された2枚の垂直板と該2枚の垂直板の上端を連結するとともにボルト挿通孔が穿設された天板とを有するボルト支持部と、前記ボルト挿通孔に挿通された支持ボルトと、前記支持ボルトの前記天板よりも上側に螺合された上ナットと、前記支持ボルトの前記天板よりも下側に螺合された下ナットと、前記支持ボルトの上部に水平回動自在に取り付けられた大引受け部と、を具備することを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の請求項1の住宅の傾斜矯正工法によれば、基礎上に配設された構造部材と略同時に大引もジャッキにより持ち上げられるため、大引に撓みが発生せず、傾斜の矯正時及び矯正後において、大引上に形成された床組みに歪みやずれが生じることを防止できる。また、地盤を掘削したり、基礎コンクリートをはつったり、アンカーボルトを切断する必要がないため、工事が容易である。さらに、矯正後も構造部材が介設材を介して基礎上にアンカーボルトにより固定されるため、構造的に安全である。
【0014】
請求項2の住宅の傾斜矯正工法によれば、鋼製土台及び柱脚金物と略同時に大引もジャッキにより持ち上げられるため、大引に撓みが発生せず、傾斜の矯正時又は矯正後において、大引上に形成された床組みに歪みやずれが生じることを防止できる。また、地盤を掘削したり、基礎コンクリートをはつったり、アンカーボルトを切断する必要がないため、工事が容易でありる。さらに、矯正後も鋼製土台が介設材を介して外周基礎上に固定され、また、間仕切基礎用柱脚金物が介設材を介して間仕切基礎上にアンカーボルトにより固定されるため、構造的に安全である。
【0015】
請求項3の住宅の傾斜矯正工法によれば、請求項2記載の住宅の傾斜矯正工法の効果に加えて、大引の大引支持金具に支持された部分の両側近傍をジャッキで持ち上げるため、矯正作業時に大引の大引支持金具に支持されている部分の片側のみをジャッキで持ち上げることによって大引支持金具が支点となり、大引支持金具に許容を越える過剰な力が加わることを防止できる。
【0016】
請求項4の住宅の傾斜矯正工法によれば、請求項2又は3記載の住宅の傾斜矯正工法の効果に加えて、大引支持金具は、上ナットと下ナットの間隔を開けることによって支持ボルトが上下方向に移動可能となるため、矯正作業時に下ナットをゆるめて下方に移動し支持ボルトを上方に移動自由な状態にしておくことができ、矯正時に大引受け部を大引に固定した締着具や、基礎抱持部を間仕切基礎に固定した締着具を取り外すことなく大引の拘束を解くことができる。また、大引をジャッキにより持ち上げた後に上ナット及び下ナットをそれぞれ互いの方向に締めて天板を挟持することにより支持ボルトを天板に固定でき、容易に大引を再度支持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る住宅の床構造について図面に基づいて説明する。
図1は、図中左側が地盤の不同沈下等により沈下して傾斜が生じた住宅の1階床部分の概略構成を示すものである。この住宅では、住宅の外周部分に配設された外周基礎1上に鋼製土台2及び柱脚金物3を介して構造用集成材からなる柱材4が立設され、屋内部分に配設された間仕切基礎5上に間仕切基礎用柱脚金物6を介して柱材4が立設されている。外周基礎1上に固定された鋼製土台2同士は、図2に示すように、つなぎ材7により接続されており、このつなぎ材7上には、図示しないが、窓枠等が配置されている。鋼製土台2、間仕切基礎用柱脚金物6、及びつなぎ材7には、図1及び図3に示すように、鋼製の大引8の端部が接続されており、大引8の中間部は間仕切基礎5上に配設された大引支持金具9や土間コンクリート10上に立設された鋼製束11により支持されている。大引8の上には、図1に示すように、合板12、根太13、及び断熱材14からなる床パネル15が載置されている。また、外周部分に立設された柱材4の外側には構造用合板16や外壁ボード17が設置されている。
【0018】
鋼製土台2は、外周基礎1上に配設される構造部材であり、図4に示すように、上板20、下板21、中央板22、背面板23、側方板24、及びスチフナ25を具備している。所定の厚さを有する長方形の鋼板からなる上板20と下板21は、側方板24、中央板23、背面板24、及びスチフナ25を介して上下方向に所定の距離を隔てて結合されている。上板20は、その上面において柱脚金物3を受止するものであり、柱脚金物3を固定するためのボルト孔26が穿設されている。下板21は、上板20と略同一の大きさに形成されるとともに、外周基礎1に埋め込まれたアンカーボルト18の上端部分を挿通させる複数のボルト挿通孔27が穿設されている。中央板22は、上板20の下面と下板21の上面の長手方向略中央に接合されており、屋外側にボルト孔28が穿設されている。背面板23は、上板20の下面と下板21の上面の屋内側端部に接合され、中央板22の屋内側端部がその長手方向中央に垂直に接合されており、また、大引8の端部を接続するためのボルト孔28が穿設されている。側方板24は、上板20の下面と下板21の上面の長手方向端部に接合され、スカラップを備える座屈防止用のスチフナ25が垂直に接合されており、また、つなぎ材7を接続するためのボルト孔28が穿設されている。
【0019】
このように構成される鋼製土台2は、アンカーボルト18がボルト挿通孔27を挿通するように下板21が外周基礎1上に載置され、アンカーボルト18にナット19が締結されて外周基礎1上に設置されている。なお、配設される外周基礎1の形状に応じて、例えば、図5(a)に示すように、出隅部用の鋼製土台2aや、図5(b)に示すように、入隅用の鋼製土台2b等がそれぞれ配設されるが、それら鋼製土台2aや鋼製土台2b等の主たる構成は鋼製土台2と同様である。
【0020】
柱脚金物3は、鋼製土台2上に配設される構造部材であり、図6に示すように、上板30、下板31、連結部32、及び直立片33を具備している。所定の厚さを有する略正方形の鋼板からなる上板30と下板31は、板状部材を接合することにより平面視十字状に接合された連結部32を介して上下方向に所定の距離を隔てて結合されている。上板30は、柱材4の下端面全面と接して支持しうる大きさに形成されており、その上面において柱材4の下端面を受止するものである。下板31は、上板30と略同一の大きさに形成されるとともに、鋼製土台2の上板20とボルト接合できるように、ボルト孔34が穿設されている。直立片33は、上板30の幅に相当する横幅を有する板状体であり、上板30の上面に立設されている。この直立片33には、複数の取付孔35が穿設されている。
【0021】
このように構成される柱脚金物3は、下板31を鋼製土台2の上板20上に載置され、ボルト接合されて鋼製土台2上に設置されている。また、柱材4の下端部に設けられたスリット40へ直立片33を嵌入して柱材4を上板30の上面に立設するとともに、柱材4の側面に直立片33の取付孔35に対応して設けられたピン挿通孔41にドリフトピンを嵌入して柱材4を柱脚金物3上に設置している。
【0022】
間仕切基礎用柱脚金物6は、間仕切基礎5上に配設された構造部材であり、図7に示すように、上板60、下板61、連結部62、及び直立片63を具備している。所定の厚さを有する略正方形の鋼板からなる上板60と下板61は、連結部62を介して上下方向に所定の距離を隔てて結合されるが、この距離は、図8に示すように、矯正作業時に上板60の下面側にジャッキ50を当接して持ち上げることができるようにジャッキ50を上板60と下板61の間に設置するのに十分な距離として設定されている。上板60は、柱材4の下端面と接して支持しうる大きさに形成されており、その上面において柱材4の下端面を受止するものである。下板61は、上板60より大きく形成されるとともに、間仕切基礎5に埋め込まれたアンカーボルト18の上端部分を挿通させる複数のボルト挿通孔64が穿設されている。連結部62は、板状部材を接合することにより平面視十字状を形成しており、その十字を形成するそれぞれの板状部材にボルト孔65が穿設されている。直立片63は、上板60の幅に相当する横幅を有する板状体であり、上板60の上面側に立設されている。この直立片63には、複数の取付孔66が穿設されている。
【0023】
このように構成される間仕切基礎用柱脚金物6は、アンカーボルト18がボルト挿通孔64を挿通するように下板61が間仕切基礎5上に載置され、アンカーボルト18にナット19が締結されて間仕切基礎5上に設置されている。また、柱脚金物3の場合と同様に、柱材4の下端部に設けられたスリット40へ直立片63を嵌入して柱材4を上板60の上面に立設するとともに、柱材4の側面に直立片63の取付孔66に対応して設けられたピン挿通孔41にドリフトピンを嵌入して柱材4を間仕切基礎用柱脚金物6上に設置している。
【0024】
つなぎ材7は、図2及び図9に示すように、断面略コ字形状をした溝形鋼70の長手方向両端部に補強板71が溶接固定され、且つ、中間部に1又は複数の補強板71が溶接固定されて形成されている。補強板71には、ボルト孔72が穿設されており、該ボルト孔72において鋼製土台2の側方板24とボルト接合されて溝形鋼70の溝が屋外側を向くように配設されている。すなわち、外周基礎1上に配設された鋼製土台2同士は、つなぎ材7により接続されている。また、溝形鋼70の上面73には、通気スペーサー52を配設するためのボルト孔74が穿設されており、また、垂直面75には、大引8の端部を接続するためのボルト孔76が穿設されている。このつなぎ材7により外周基礎1上の鋼製土台2同士が接続されているため、鋼製土台2をジャッキ50により持ち上げることにより住宅の外周部分の外周基礎1より上に配設されている構造を一体として持ち上げることができる。
【0025】
つなぎ材7の下方には、外周基礎1の天端との間に隙間53が形成されており、床下換気口の機能を果たしている。隙間53には、図3に示すように、虫が侵入しないようにステンレス製のメッシュ材54が配設されている。また、つなぎ材7は、外周基礎1に接していないため、コンクリートのアルカリ成分に腐食されないようにつなぎ材7にメッキ加工したり防腐食塗料を塗布する必要がなく、外周基礎1上全体に鋼製土台2を直接載置する場合と比べてメッキ加工や防腐食塗料の塗布にかかるコストを抑えることができる。また、つなぎ材7の上方には、図2に示すように、通気スペーサー52がボルト接合されて配設されており、この通気スペーサー52により隙間55が形成され、床下換気口の機能を果たしている。
【0026】
また、鋼製土台2の中央板22とつなぎ材7の補強板71には、図2及び図3に示すように、カバー受金具56が適宜間隔を設けてボルト接合されており、該カバー受け金具56に鋼製のカバー57が着脱自在に支持されている。また、該カバー57の上方に水切りプレート58が取り付けられている。
【0027】
大引8は、図10及び図11に示すように、鋼製の大引であって、断面略長方形の角管状に形成されており、両側面の上部及び下部に材長方向に連続する凹溝80が平行して形成されている。この大引8の端部は、大引受金具81に受止されており、該大引受金具81が仲介金具82に接続され、該仲介金具82が鋼製土台2のボルト孔29、間仕切基礎用柱脚金物6のボルト孔65又はつなぎ材7のボルト孔76においてボルト接合されている。
【0028】
大引支持金具9は、図10及び図11に示すように、間仕切基礎5上に高さ調節可能に配設されて大引8の中間部を支持するものであって、間仕切基礎5を跨ぐようにして間仕切基礎5の天端に嵌装される基礎抱持部90と、該基礎抱持部90の上面に立設された2枚の垂直板91とその2枚の垂直板の上端を連結するとともにボルト挿通孔920が穿設された天板92とを有するボルト支持部93と、該ボルト挿通孔920に挿通された支持ボルト94と、支持ボルト94の天板92よりも上側に螺合された上ナット95と、支持ボルト94の天板92よりも下側に螺合された下ナット96と、支持ボルト94上部に水平回動自在に取り付けられた大引受け部97とから構成されるものである。
【0029】
基礎抱持部90は、間仕切基礎5の天端に載置される水平板900と、この水平板900の一対の対辺からそれぞれ垂下した垂下片901とにより形成されている。水平板900の長さは、間仕切基礎5の幅よりもやや長く形成されている。また、垂下片901は、その中間部付近から下方ほど互いの対向間隔を狭くするようにそれぞれ内側に湾曲されて間仕切基礎5をその両側から付勢状態で挟持する挟持部902が形成されるとともに、下縁部が外側に折り返されて間仕切基礎5に嵌装しやすくなされている。垂下片901の挟持部902には、ねじ孔903が設けられており、基礎抱持部90は、そのねじ孔903においてねじ等の締着具により間仕切基礎5に固定されている。
【0030】
ボルト支持部93は、基礎抱持部90の上面に設けられており、水平板900の垂下片901が垂下した対辺の他方の対辺の端縁部から上方に垂直に立ち上げられた2枚の垂直板91と、その2枚の垂直板91の上端を連結するように設けられた天板92とによって下向きの溝形に形成されている。天板92の略中央には、支持ボルト94を挿通するためのボルト挿通孔920が穿設されている。
【0031】
支持ボルト94は、雄ねじ部940と、該雄ねじ部940の上部に拡径して形成された頭部941とからなる。上ナット95は、ボルト挿通孔920に挿通された支持ボルト94の天板92よりも上側に螺合されている。一方、下ナット96は、支持ボルト94の天板92よりも下側に螺合されており、この上ナット95及び下ナット96をそれぞれ互いの方向に締めて天板92を挟持することにより支持ボルト94がボルト支持部93に固定されている。すなわち、支持ボルト94は、下ナット96をゆるめて下方に移動させることにより、ボルト支持部93に対して上方向に移動自由となる。
【0032】
大引受け部97は、平面視略矩形の底板970と、この底板970の一対の対辺からそれぞれ上方に垂直に立ち上げられた2枚の側面板971とによって上向きの溝形に形成されている。底板970の中央部には、支持ボルト94の頭部941を嵌め込むための凹部972が形成され、該凹部972の中央にボルト挿通孔973が穿設されており、支持ボルト94が上方から該ボルト挿通孔973に挿通されている。底板970の上面には、ゴムパッキンなどの緩衝材974が貼設されており、大引8を緩衝しつつ支持しうるようになされている。側面板971は、大引8の外形幅に相当する間隔を設けて2枚平行に立ち上げられるとともに、その上縁部が対向間隔を拡幅するようにそれぞれやや外側に傾斜して大引8を嵌装しやすくなされている。また、各側面板971には、側面視略凹字形の切り込み975がそれぞれ2箇所ずつ設けられて下方に垂下する小片が形成され、この小片がそれぞれ内側方向にやや湾曲するように押し出されて大引係合爪976となされており、この大引係合爪976が大引8の凹溝80に係合している。また、大引係合爪976の上部付近には、ねじ孔977が設けられており、側面板971の外側から大引8を締着具により固定して拘束している。この大引受け部97は、支持ボルト94上部で回動自在となされているため、大引8の支持方向を間仕切基礎5の延設方向にも直交方向にも向けることができる。
【0033】
なお、本実施の形態に係る住宅の床構造では、このように構成される大引支持金具9を用いるため、大引8の位置に合わせて大引支持金具9を間仕切基礎5上に配設でき、大引8の位置が現場で変更されることがあっても大引支持金具9の位置を間仕切基礎5の延長方向に移動させることで柔軟に対応することができる。また、鋼製土台を間仕切基礎5上に配設して該鋼製土台に大引8を支持させる場合と比較すると、住宅1軒あたりの鋼材使用量が格段に少なく、コストを大幅に抑えることができる。
【0034】
鋼製束11は、ターンバックルにより上下に伸縮しうる脚部110と、この脚部110の上に回転自在に固定され、大引支持金具9の大引受け部97と同様に構成される大引受け部111とからなるものである。この鋼製束11は、脚部110が土間コンクリート10に締着具により固定されており、大引受け部111が大引8に締着具により固定されて大引9を拘束している。
【0035】
以下、上記のように1階床部分が構成された住宅の傾斜矯正工法について説明する。この工法は、固定解除工程と、ジャッキアップ工程と、再固定工程とからなる。
【0036】
〔固定解除工程〕
まず、矯正の必要な箇所、すなわち傾斜により低くなってる箇所に設置してあるカバー57、水切りプレート58、及びメッシュ材54を取り外す。そして、図8に示すように、矯正の必要な箇所に配設された鋼製土台2を外周基礎1に固定しているナット19をアンカーボルト18から取り外す。同様に、矯正の必要な箇所に配設された間仕切基礎用柱脚金物6を間仕切基礎5に固定しているナット19をアンカーボルト18から取り外す。また、図12(a)に示すように、上ナット95と共にボルト支持部93の天板92を挟持して支持ボルト94を天板92に固定している下ナット96をゆるめて下方に移動することにより、大引8の大引支持金具9による拘束を解く。さらに、鋼製束11の脚部110を土間コンクリート10に固定する締着具を取り外すことにより、大引8の鋼製束11による拘束を解く。
【0037】
〔ジャッキアップ工程〕
次に、ナット19を取り外した鋼製土台2及び間仕切基礎用柱脚金物6と、矯正の必要な大引8にジャッキ50を配置する。このジャッキ50を配置するにあたって、外周基礎1上に配設された鋼製土台2には、図8に示すように、安全且つ容易に鉛直方向に持ち上げることが可能なように矯正用治具51を用いてもよい。該矯正用治具51は、例えば、板状の基台510上に金属製で円柱状の支柱511が垂直方向に立設され、この支柱511に水平方向に延びるアーム512が支柱511に嵌合される円筒部513を介して上下動自在に取り付けられたものである。この矯正用治具51を用いる場合は、アーム512の上下位置を調節し、アーム512の先端部の上面を柱脚金物3の上板30の下面に当接させるように配置する。このとき、基台510を地盤上に直接載置してもよいが、好ましくは、地盤上に木製の板材514を配置し、その上に支持部材515を配置し、その上に基台510を載置する。そして、ジャッキ50を矯正用治具51の基台510とアーム512との間に垂直に配置する。
【0038】
間仕切基礎5上に配設された間仕切基礎用柱脚金物6には、斜台59を用いてジャッキ16を斜めに配置して間仕切基礎用柱脚金物6の上板60の下面に当接させる。また、大引8には、大引8の大引支持金具9に支持されている部分の両側近傍の下面にジャッキ50を当接させるように垂直に配置する。これにより、矯正作業時に大引8の大引支持金具9に支持されている部分の片側のみをジャッキ50で持ち上げることによって、大引支持金具9が支点となり、大引支持金具9に許容を越える過剰な力が加わることを防止する。ジャッキ50の配置後、配置した複数のジャッキ50を操作して鋼製土台2、間仕切基礎用柱脚金物6、及び大引8をそれぞれジャッキ50により略同時に上方へ進度を合わせながら徐々に持ち上げて1階床レベルを水平にする。
【0039】
〔再固定工程〕
鋼製土台2、間仕切基礎用柱脚金物6、及び大引8が所定量上方へ持ち上げられて住宅の傾斜が矯正されると、図13に示すように、鋼製土台2と外周基礎1の天端との間に形成された空間内部と、間仕切基礎用柱脚金物6と間仕切基礎5の天端との間に形成された空間内部にライナー鉄板等の介設材100を介装する。介設材100の介装後、それぞれアンカーボルト18にナット19を締結して、鋼製土台2を介設材100を介して外周基礎15上に固定し、間仕切基礎用柱脚金物6を介設材100を介して間仕切基礎5上に固定する。また、図12(b)に示すように、大引支持金具9の上ナット95及び下ナット96を締めて天板92を挟持して支持ボルト94を固定することにより、大引8を再度支持する。さらに、鋼製束11の脚部110のターンバックルを回転させて高さを調整して大引8を再度支持するようにし、鋼製束11の脚部110を締着具により土間コンクリート10に再度固定する。そして、ジャッキ50をそれぞれ下降方向へ操作し、ジャッキ50及び矯正用治具51を撤去するとともに、メッシュ材54、カバー57及び水切りプレート58をそれぞれ装着して、矯正作業を終了する。
【0040】
以上の説明より明らかなように、本発明の実施の形態に係る住宅の傾斜矯正工法によれば、矯正作業時に鋼製土台2及び間仕切基礎用柱脚金物6と略同時に大引8もジャッキ50により持ち上げられるため、大引8に撓みが発生せず、傾斜の矯正時又は矯正後において床パネル15に歪みやずれが生じることを防止できる。また、地盤を掘削したり、外周基礎1や間仕切基礎5のコンクリートをはつったり、アンカーボルト18を切断する必要がないため、工事が容易である。さらに、矯正後も鋼製土台2が介設材100を介して外周基礎15上にアンカーボルト18にナット19を締結することにより固定され、間仕切基礎用柱脚金物6が介設材100を介して間仕切基礎5上にアンカーボルト18にナット19を締結することにより固定されるため、構造的に安全である。
【0041】
また、大引支持金具9は、上ナット95と下ナット96の間隔を開けることによって支持ボルト94が上下動可能となるため、矯正作業時に下ナット96をゆるめて下方に移動して支持ボルト94を上方に移動自由な状態にすることができ、矯正時に大引受け部97を大引8に固定した締着具や、基礎抱持部90を間仕切基礎5に固定した締着具を取り外すことなく大引8の拘束を解くことができる。さらに、大引8をジャッキ50により持ち上げた後に上ナット95及び下ナット96をそれぞれ互いの方向に締めて天板92を挟持することにより支持ボルト94を天板92に固定でき、容易に大引8を再度支持することができる。
【0042】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、本実施の形態では、外周基礎1上に鋼製土台2を配設し、鋼製土台2同士をつなぎ材7により接続しているが、鋼製土台2が外周基礎1上全体に配設されていてもよく、大引8は、間仕切基礎5上で大引支持金具9により支持されているが、間仕切基礎5上全体に鋼製土台2が配設され、該鋼製土台2に大引8が支持されていてもよい。この場合、大引8の端部は、鋼製土台2に接続されており、必要箇所において鋼製土台2を外周基礎1又は間仕切基礎5に固定しているアンカーボルト18からナット19を取り外し、鋼製土台2と大引8をそれぞれジャッキ50により略同時に持ち上げ、鋼製土台2と外周基礎1又は間仕切基礎5との間に形成された空間内部に介設材100を介装してから、アンカーボルト18にナット19を締め付けて、鋼製土台2を介設材100を介して外周基礎1又は間仕切基礎5に固定することにより住宅の傾斜を矯正する。
【0043】
また、外周基礎1上の鋼製土台2には矯正用治具51を設置してジャッキ50を配置する場合を説明し、間仕切基礎5上の間仕切基礎用柱脚金物6には斜台59を用いてジャッキ50を斜めに配置するようにしたが、勿論、これらの方法に限らず、鋼製土台2及び間仕切基礎用柱脚金物6をジャッキ50により持ち上げるのに適した方法を用いてよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、地盤の不同沈下等により住宅に傾斜が生じた場合にその傾斜を矯正する場合に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施形態に係る傾斜が生じた住宅の床構造の概略構成を示す断面図(図2のB断面図)である。
【図2】構造用合板、外壁ボード、カバー、水切りプレート、及びメッシュ材を図示しない図1のA矢視図である。
【図3】図2のC断面図である。
【図4】鋼製土台の一例を示す斜視図である。
【図5】出隅部及び入隅部における鋼製土台の一例を示す斜視図である。
【図6】柱脚金物の一例を示す斜視図である。
【図7】間仕切基礎用柱脚金物の一例を示す斜視図である。
【図8】鋼製土台、柱脚金物、及び大引にジャッキを配置した状態を示す断面図である。
【図9】つなぎ材の一例を示す斜視図である。
【図10】大引支持金具の一側面を示す側面図である。
【図11】大引支持金具の他側面を示す側面図である。
【図12】大引への大引支持金具からの拘束を解いた状態及び再度支持した状態を示す側面図である。
【図13】住宅の傾斜矯正後の状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 外周基礎
2 鋼製土台
5 間仕切基礎
6 間仕切基礎用柱脚金物
7 つなぎ材
8 大引
9 大引支持金具
11 鋼製束
18 アンカーボルト
19 ナット
50 ジャッキ
90 基礎抱持部
91 垂直板
92 天板
93 ボルト支持部
94 支持ボルト
95 上ナット
96 下ナット
97 大引受け部
100 介設材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎上に配設された構造部材に大引の端部が支持固定された住宅の傾斜を矯正する工法であって、
必要箇所において前記構造部材を基礎に固定しているアンカーボルトからナットを取り外す固定解除工程と、
前記構造部材と前記大引とをそれぞれジャッキにより略同時に持ち上げるジャッキアップ工程と、
前記基礎と前記構造部材との間に形成された空間内部に介設材を介装してから、前記アンカーボルトに前記ナットを締め付けて、前記構造部材を前記介設材を介して前記基礎上に固定する再固定工程と、
を含むことを特徴とする住宅の傾斜矯正工法。
【請求項2】
外周基礎上に配設された鋼製土台同士がつなぎ材により接続され、大引の端部が前記鋼製土台、間仕切基礎上に配設された間仕切基礎用柱脚金物、又は前記つなぎ材に支持固定され、前記大引の中間部が鋼製束及び/又は前記間仕切基礎上に高さ調節可能に配設された大引支持金具により支持された住宅の傾斜を矯正する工法であって、
必要箇所において前記鋼製土台を外周基礎に固定しているアンカーボルトからナットを取り外し、前記間仕切基礎用柱脚金物を間仕切基礎に固定しているアンカーボルトからナットを取り外すとともに、前記大引の前記鋼製束及び/又は大引支持金具からの拘束を解く固定解除工程と、
前記鋼製土台、前記間仕切基礎用柱脚金物、及び前記大引とをそれぞれジャッキにより略同時に持ち上げるジャッキアップ工程と、
前記鋼製土台と前記外周基礎との間に形成された空間内部と、前記間仕切基礎用柱脚金物と間仕切基礎との間に形成された空間内部とに介設材を介装してから、前記アンカーボルトに前記ナットを締め付けて、前記鋼製土台を前記介設材を介して前記外周基礎に固定し、前記間仕切基礎用柱脚金物を前記介設材を介して間仕切基礎上に固定するとともに、前記鋼製束及び/又は大引支持金具を調整して持ち上げられた前記大引の中間部を再度支持する再固定工程と、
を含むことを特徴とする住宅の傾斜矯正工法。
【請求項3】
前記ジャッキアップ工程において、前記大引の前記大引支持金具に支持された部分の両側近傍を前記ジャッキで持ち上げることを特徴とする請求項2記載の住宅の傾斜矯正方法。
【請求項4】
前記大引支持金具は、
前記間仕切基礎を跨ぐようにして該間仕切基礎の天端に嵌装される基礎抱持部と、
該基礎抱持部の上面に立設された2枚の垂直板と該2枚の垂直板の上端を連結するとともにボルト挿通孔が穿設された天板とを有するボルト支持部と、
前記ボルト挿通孔に挿通された支持ボルトと、
前記支持ボルトの前記天板よりも上側に螺合された上ナットと、
前記支持ボルトの前記天板よりも下側に螺合された下ナットと、
前記支持ボルトの上部に水平回動自在に取り付けられた大引受け部と、
を具備することを特徴とする請求項2又は3記載の住宅の傾斜矯正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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