説明

体動検出装置、体動検出方法及び体動検出プログラム

【課題】高精度に体動を検出すること。
【解決手段】体動検出装置は、入力された音響信号を周波数成分に変換する周波数変換部と、所定帯域毎に周波数成分の電力変動を算出する電力変動算出部と、電力変動が第1閾値より小さい所定帯域数が第2閾値以上の場合の継続時間を算出する継続時間算出部と、所定帯域毎の電力変動の類似性を示す値を算出する類似値算出部と、継続時間及び電力変動の類似性を示す値に基づき、体動を検出する体動検出部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力された音響信号に基づいて体動を検出する体動検出装置、体動検出方法及び体動検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠中の体動は、ユーザの睡眠状態を把握するのに適していることが知られている。例えば、体動の頻度が低い場合は眠りが深く、体動の頻度が高い場合は眠りが浅い、又は覚醒していると定義されている。
【0003】
所定のセンサを用いて睡眠中の体動を検出する技術が知られている。例えば、赤外線センサを用いて、ユーザ方向に向けた赤外線センサの値が体動で変化することによって体動を検出する技術がある。
【0004】
また、圧力センサを用いて、寝床に設置した圧力センサの値が体動で変化することによって体動を検出する技術がある。
【0005】
また、加速度センサを用いて、ユーザの腕に装着した加速度センサの値が体動で変化することによって体動を検出する技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−289660号公報
【特許文献2】特開2008−301951号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】中村栄純他 「アクチグラフによる睡眠・覚醒判定の基礎的検討」、石川看護雑誌、Vol.3(2),2006、P.31−37
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、前述した従来技術では、いずれも高額の専用センサが必要となり、コストがかかるという問題があった。ここで、低コストのセンサを利用する方法としては、マイクを利用する方法が考えられる。例えば、マイクにより入力された音響信号において一定以上の音量箇所を体動として定義することも可能である。
【0009】
しかしながら、この方法では、家電や外の騒音などによる外乱ノイズを含む体動以外の音も体動として検出してしまうため、体動の検出性能が悪いという問題がある。
【0010】
そこで、開示の技術は、上記課題に鑑みてなされたものであり、体動音の音響的な特徴量を用いることにより、高精度に体動を検出することができる体動検出装置、体動検出方法及び体動検出プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
開示の一態様における体動検出装置は、入力された音響信号を周波数成分に変換する周波数変換部と、所定帯域毎に前記周波数成分の電力変動を算出する電力変動算出部と、前記電力変動が第1閾値より小さい所定帯域数が第2閾値以上の場合の継続時間を算出する継続時間算出部と、前記所定帯域毎の電力変動の類似性を示す値を算出する類似値算出部と、前記継続時間及び前記電力変動の類似性を示す値に基づき、体動を検出する体動検出部と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
開示の技術によれば、体動音の音響的な特徴量を用いることにより、高精度に体動を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】体動音の発生モデルを説明するための図。
【図2】実施例1における体動検出装置の構成の一例を示すブロック図。
【図3】体動音の周波数の一例を示す図。
【図4】所定の周波数帯域での電力変動の一例を示す図。
【図5】電力変動の相関値の頻度を示す図。
【図6】2つの帯域での電力変動の一例を示す図。
【図7】体動の検出を説明するための図。
【図8】水道音の周波数スペクトルの一例を示す図。
【図9】水道音の特徴を説明するための図。
【図10】電車の走行音の周波数スペクトルの一例を示す図。
【図11】電車の走行音の特徴を説明するための図。
【図12】実施例1における体動検出処理の一例を示すフローチャート。
【図13】実施例2における体動検出装置の構成の一例を示すブロック図。
【図14】類似値算出部による相関値を算出する区間を示す図。
【図15】実施例2における体動検出処理の一例を示すフローチャート。
【図16】携帯端末装置のハードウェアの一例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、体動音の特徴について説明する。体動音は、睡眠中のユーザが体動することによって、布団・衣類などで生じる摩擦の振動が空気中に伝わることで生じる。発明者らは、この体動音の特徴として、多くの周波数帯域で、電力変動が小さいこと、各周波数帯域の電力変動同士が類似していることを見出した。この2つの特徴が体動音の特徴となる根拠について説明する。
【0015】
(体動音の発生モデル)
図1は、体動音の発生モデルを説明するための図である。図1に示すXは、ユーザの体、Yは、衣類、布団の繊維とする。ここで、図1(A)に示す矢印方向に、Xが動く場合を考える。
【0016】
図1(A)に示すように、Xが矢印方向に動くと、XとYとの摩擦力により、YはXと共に動く。しかし、図1(B)に示すように、Yの変位が一定以上になると、Yが元の位置に戻ろうとする力(以下、復元力ともいう)が摩擦力よりも大きくなり、Yが元の位置に戻っていく。図1(C)に示すように、Yの変位が一定未満になると、Yの復元力が摩擦力よりも小さくなり、Yは再びXと共に動き出す。
【0017】
この図1(B)と(C)とが繰り返されることで、Yは振動する。この振動が空気に伝わって体動音が聞こえる。ここで、Yの振動の周波数が体動音の周波数になり、Yの振動の振幅が体動音の大きさになる。この理由は、次の通りである。
【0018】
(体動音の周波数)
Y(繊維など)の振動の周波数は、図1の(B)と(C)とが繰り返される周期によって決まる。運動方程式を解くと、振動の周波数は次の式(1)になる(国技、実用機械振動学、理工学社、1990 http://www.mech-da.co.jp/mechnews/95-1/1995-1-1.html)。
【0019】
【数1】

f:周波数
m:Yの質量
k:Yの復元力(いわゆるバネ定数)
β:摩擦係数によって一意に決まる係数
布団や衣類の繊維などの柔らかい素材は、形状や動きの向きにより、k、βが様々な値をとるため、布団、衣類全体では、式(1)により、各繊維が様々な周波数で振動することになる。よって、体動音は、広い帯域の周波数成分を持つ。また、式(1)により、振動の周波数fは、体(X)や繊維(Y)の速度に依存しないことが分かる。
【0020】
(体動音の振幅)
体動音の周波数で述べたように、体動による繊維(Y)の振動周波数は、繊維の速度によらず一定となる。よって、繊維の速度によらず周波数が一定となるので、繊維の速度が大きくなるほど、振幅が大きくなる。
【0021】
ここで、繊維は、体動との摩擦力により体動と共に動くから、繊維の速度は体動の速度によって決まる。fを振動周波数、Vを体動の速度とすると、繊維の振動の振幅Aは、次の式(2)によって求められる。
【0022】
【数2】

式(2)に示すように、繊維の振幅(体動音の大きさ)は、体動の速度に比例することが分かる。
【0023】
(体動音の特徴)
以上をまとめると、体動音は、布団や衣類の繊維が摩擦することにより振動することで発生する。また、各繊維の周波数は、体動の速度によらず一定であり、摩擦係数などにより様々な周波数をとる。また、各繊維の振幅(体動音の大きさ)は、体動の速度に比例する。
【0024】
ここで、体動は、開始直後、終了直前を除けば、体動の速度変化は小さいと考えられる。よって、体動の速度変化が小さいということは、各繊維の振幅の変化が小さいということであり、また、体動音の各周波数の電力変動が小さいことを意味する。
【0025】
また、体動の速度変化は小さいが、体動の速度は変化するため、各繊維の振幅が体動の速度変化に合わせて同様に変化することになり、体動音の各周波数帯域の電力変動同士が類似することになる。
【0026】
よって、体動音は、多くの周波数帯域で電力変動が小さいこと、各周波数帯域の電力変動同士が類似していることという2つの特徴を有する。以下、この2つの特徴を用いて体動を検出する実施例について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
[実施例1]
<構成>
図2は、実施例1における体動検出装置10の構成の一例を示すブロック図である。体動検出装置10は、時間・周波数変換部101、電力算出部102、電力変動算出部103、記憶部104、継続時間算出部105、類似値算出部106、体動検出部107を有する。
【0028】
時間・周波数変換部101は、マイクなどから入力された音響信号に対し、時間・周波数変換を行う。例えば、離散フーリエ変換、ウェーブレット変換などがあるが、ここでは、時間・周波数変換について、離散フーリエ変換を例にして説明する。
【0029】
時間・周波数変換部101は、次の式(3)により、音響信号を周波数領域の信号(周波数成分)に変換する。
【0030】
【数3】


S(n,k):信号列s(n,j)のk番目の周波数帯域のフーリエ変換結果
離散フーリエ変換の点数(フレーム長)は、例えば、音響信号のサンプリング周波数が16kHzの時は256点(16ミリ秒)などとする。変換されたS(n,k)は、電力算出部102に出力される。
【0031】
S(n,k)は、式(4)のように実部と虚部に分けて表すことができる。
【0032】
【数4】

S_re(n,k):S(n,k)の実部
S_im(n,k):S(n,k)の虚部
電力算出部102は、第nフレーム、k番目の周波数帯域のパワースペクトルを、式(5)により求める。
【0033】
【数5】

pow(n,k):第nフレーム、k番目の周波数帯域のパワースペクトル(電力)
電力算出部102は、式(5)により、周波数成分の実部と虚部との自乗和を算出することで求めた各周波数帯域の電力pow(n,k)を電力変動算出部103に出力する。
【0034】
電力変動算出部103は、電力pow(n,k)を取得し、周波数帯域毎に、前フレームn−1の電力pow(n−1,k)と現フレームnの電力pow(n,k)との差分を電力変動として式(6)により求める。
【0035】
【数6】

pow_diff(n,k):第nフレーム、k番目の周波数帯域の電力変動
電力変動算出部103は、求めた電力変動pow_diff(n,k)を継続時間算出部105に出力する。また、電力変動算出部103は、求めた電力変動を記憶部104に記憶する。
【0036】
記憶部104は、電力変動算出部103が求めた電力変動を記憶する。記憶部104は、メモリ領域を考慮して、最新の所定時間分の電力変動を記憶しておくようにしてもよい。
【0037】
継続時間算出部105は、電力変動の絶対値が閾値TH_POW未満の周波数帯域数が閾値TH_NUM以上の場合、継続時間を1フレーム加算する。また、継続時間算出部105は、電力変動の絶対値が閾値TH_POW未満の周波数帯域数が閾値TH_NUM未満の場合、継続時間をリセットする。
【0038】
以上の内容を式(7)〜(9)で表す。
【0039】
【数7】

pow_diff_func(n,k):電力変動の絶対値がTH_POW未満の場合に1、それ以外で0を返す関数
num_pow_diff(n):電力変動の絶対値がTH_POW未満の周波数帯域数
duration(n):電力変動の絶対値がTH_POW未満の周波数帯域数がTH_NUM以上のフレームの継続時間
TH_POWは、例えば3dBとし、TH_NUMは、例えば周波数帯域数の1/2とする。例えば、周波数帯域数が128帯域であれば、TH_NUMは64とする。継続時間算出部105は、求めた継続時間を体動検出部107に出力する。
【0040】
類似値算出部106は、記憶部104から、所定時間の電力変動を取得し、電力変動の周波数帯域毎の電力変動同士の類似性を示す値(以下、類似値)を算出する。所定時間は、例えば2秒(サンプリング周波数16kHz、1フレーム16ミリ秒の場合、125フレーム)などとする。これは、体動は一般的に2秒以上であることによる。
【0041】
類似値算出部106は、例えば、類似値として相関値の総和を用いたり、電力変動の符号関数により求められる値を用いたりする。
【0042】
(相関値の総和)
類似値算出部106は、相関値の総和を用いる場合、式(10)、(11)により、全周波数帯域総当りで相関を算出した結果の総和をとる。
【0043】
【数8】

pow_diff_ave(k):電力変動の平均値
corr(n−1,k,l):周波数帯域kとlの電力変動間の相関
corr_all(n−1):全周波数帯域の相関値の総和
類似値算出部106は、相関値の総和を算出した後、corr_all(n−1)を周波数帯域の総当りの組み合わせ数で除算して0〜1の値で正規化を行ってもよい。以下、corr_all(n−1)は、正規化が行われているとして説明する。類似値算出部106は、算出した相関値の総和corr_all(n−1)を類似値として体動検出部107に出力する。
【0044】
(符号関数)
まず、体動の場合、多くの周波数帯域で電力変動が類似していることを考慮すると、多くの周波数帯域で、電力変動の符号が同じになっていると考えられる。例えば、電力が減少しているか、増加しているかが同じになっている。
【0045】
そこで、電力変動の符号関数を用いた以下のパラメータを、各周波数帯域の電力変動の類似値に用いる。類似値算出部106は、電力変動の符号関数を用いる場合、式(12)〜(15)により、符号関数のパラメータを算出する。
【0046】
【数9】

sign(x):xが正の時に1、それ以外の時に0を返す関数
powdiff_sign_p(n):フレームnで電力変動が正となる周波数帯域の個数
powdiff_sign_m(n):フレームnで電力変動が0以下となる周波数帯域の個数
powdiff_sign(n):powdiff_sign_p(n)とpowdiff_sign_m(n)のうち大きい方の値
類似値算出部106は、powdiff_sign(n)が閾値TH_SIGN以上の場合、電力変動が類似する時間(以下、類似時間ともいう)を1フレーム加算する。閾値TH_SIGNは、128帯域の場合、例えば80とする。類似値算出部106は、類似値として類似時間を体動検出部107に出力する。
【0047】
体動検出部107は、継続時間算出部105により算出された継続時間及び類似値算出部106により算出された類似値に基づき、体動を検出する。
【0048】
(類似値が相関値の総和の場合)
体動検出部107は、例えば、継続時間が閾値TH_TIME以上である場合、かつ相関値の総和が閾値TH_COR以上である場合、その継続時間に対して体動ありと判定して体動を検出する。ここで、閾値TH_TIMEは、例えば2秒以上の値とし、閾値TH_CORは、例えば0.5とする。体動の電力変動の相関値は、後述するように0.5以上となる場合が多く、その総和を正規化した場合、正規化後の総和が0.5以上であれば体動であると判定してもよいからである。
【0049】
(類似値が類似時間の場合)
体動検出部107は、例えば、継続時間及び類似時間が閾値TH_TIME以上である場合、その継続時間に対して体動ありと判定して体動を検出する。
【0050】
なお、体動検出部107は、体動を検出した場合、体動始めと体動終わりとの時刻をメモリなどに記憶するようにしておけばよい。これにより、睡眠状態の把握などに用いることができる。
【0051】
<具体例>
次に、各部の具体的な処理について、類似値として相関値の総和を用いる場合を例にして、図を用いながら説明する。
【0052】
図3は、体動音の周波数の一例を示す図である。図3に示すW1の範囲で体動が生じている場合、時間・周波数変換部101により体動音が周波数成分に変換されると、各周波数帯域で電力が大きくなる。図3に示すような特徴を持つ体動音が、数秒から数十秒継続する。
【0053】
電力算出部102により算出された電力に対し、電力変動算出部103が、電力変動を算出する。図4は、所定の周波数帯域での電力変動の一例を示す図である。図4(A)は、音声の電力変動の一例を示し、図4(B)は、体動音の電力変動の一例を示す。
【0054】
図4(A)に示すように、音声の電力変動は大きく、図4(B)に示すように、体動音の電力変動は小さい。電力変動が小さいことは、前述したように、体動音の特徴の一つである。これにより、電力変動が小さい周波数帯域数が多ければ、その音響信号は体動音である可能性がある。
【0055】
次に、類似値算出部106は、例えば電力変動の相関値の総和を算出する。図5は、電力変動の相関値の頻度を示す図である。図5に示す例では、相関値の頻度は、相関値の割合を示す。図5に示すように、非体動であれば、相関値はおおよそ0.5以下に出現し、体動であれば、相関値はおおよそ0.5以上で出現する。
【0056】
このように、体動音は、相関値がおおよそ0.5以上で分布するため、相関値の総和を正規化した値が0.5以上であれば、体動音である可能性がある。
【0057】
図6は、2つの帯域での電力変動の一例を示す図である。図6(A)は、5kHzと7kHzの背景雑音の電力変動の一例を示す。図6(A)に示すように、5kHzの電力変動と7kHzの電力変動は類似していない(相関がない)といえる。
【0058】
図6(B)は、5kHzと7kHzの体動音の電力変動の一例を示す。図6(B)に示すように、5kHzと7kHzの電力変動は類似している(相関がある)といえる。電力変動が類似することは、前述したように、体動音の特徴の一つである。
【0059】
図7は、体動の検出を説明するための図である。図7(A)は、電力変動が小さい周波数帯域数を示す。図7(A)に示す閾値1は、閾値TH_NUMである。図7(A)に示すように、体動が生じているW1の範囲で、周波数帯域数は、閾値1以上となる。図7(B)は、電力変動の各周波数帯域の相関値の総和(正規化後の総和)を示す。図7(B)に示す閾値2は、閾値TH_CORである。図7(B)に示すように、体動が生じているW1の範囲で、総和は閾値2以上となる。
【0060】
図7(C)は、検出された体動を示す。図7(C)に示す例では、体動検出部107は、周波数帯域数が閾値1以上であり、かつ、相関値の総和が閾値2以上である時間が閾値TH_TIME以上である場合に、体動を検出する。
【0061】
よって、体動検出部107は、電力変動が小さい周波数帯域数が閾値以上の継続時間及び各周波数帯域での電力変動の類似性を示す値に基づき、体動を検出する。
【0062】
ここで、体動を検出するのに、電力変動が小さいことと、各周波数帯域で電力変動が類似することの2つの特徴を用いることについて説明する。いずれか1つの特徴だけを使って体動を検出すると、他の信号を誤検出する可能性が高くなる。
【0063】
なぜなら、電力変動が小さいことだけを用いると、空調や暗騒音なども電力変動が小さいため、これらの信号を誤検出してしまう。また、各周波数帯域での電力変動が類似することだけを用いると、楽音や自動車走行音なども電力変動に類似性がある可能性があるため、これらの信号を誤検出してしまう。
【0064】
図8は、水道音の周波数スペクトルの一例を示す図である。図8に示すW2の範囲で水道の音が生じている。
【0065】
図9は、水道音の特徴を説明するための図である。図9(A)は、電力変動が小さい周波数帯域数を示す。図9(A)に示す閾値1は、閾値TH_NUMである。図9(A)に示すように、水道音が生じているW2の範囲で、周波数帯域数は、閾値1以上となる。
【0066】
図9(B)は、電力変動の各周波数帯域の相関値の総和(正規化後の総和)を示す。図9(B)に示す閾値2は、閾値TH_CORである。図9(B)に示すように、水道の音が生じているW2の全ての範囲で、総和は閾値2以上となるとは限らない。
【0067】
図9(C)は、体動検出の結果を示す。図9(C)に示す例では、体動検出部107は、体動を検出しない。なぜなら、周波数帯域数が閾値1以上であり、相関値の総和が閾値2以上である時間は、閾値TH_TIME未満であるからである。
【0068】
次に、図10は、電車の走行音の周波数スペクトルの一例を示す図である。図10に示すW3の範囲で電車の走行音が生じている。
【0069】
図11は、電車の走行音の特徴を説明するための図である。図11(A)は、電力変動が小さい周波数帯域数を示す。図11(A)に示す閾値1は、閾値TH_NUMである。図11(A)に示すように、電車の走行音が生じているW3の全ての範囲で、周波数帯域数は、閾値1以上となるとは限らない。
【0070】
図11(B)は、電力変動の各周波数帯域の相関値の総和(正規化後の総和)を示す。図11(B)に示す閾値2は、閾値TH_CORである。図11(B)に示すように、電車の走行音が生じているW3の範囲で、総和は閾値2以上となる。
【0071】
図11(C)は、体動検出の結果を示す。図11(C)に示す例では、体動検出部107は、体動を検出しない。なぜなら、周波数帯域数が閾値1以上であり、相関値の総和が閾値2以上である時間は、閾値TH_TIME未満であるからである。
【0072】
このように、実施例で説明した体動検出装置10では、体動音の2つの特徴を用いて、体動を検出するため、高精度で体動を検出することができる。
【0073】
<動作>
次に、実施例1における体動検出装置10の動作について説明する。図12は、実施例1における体動検出処理の一例を示すフローチャートである。図12に示す処理は、1フレーム毎の処理を示すフローである。
【0074】
ステップS101で、時間・周波数変換部101は、マイクなどから入力された音響信号を周波数変換し、周波数領域の信号を生成する。
【0075】
ステップS102で、電力算出部102は、時間・周波数変換部101から取得した周波数領域の信号を用いて電力を算出する。
【0076】
ステップS103で、電力変動算出部103は、電力算出部102により算出された電力の変動を算出する。
【0077】
ステップS104で、類似値算出部106は、電力変動算出部103により算出された電力変動を用いて、各周波数帯域の相関値の総和を算出する。相関値の総和は正規化しておく。
【0078】
ステップS105で、継続時間算出部105は、電力変動が閾値TH_POW未満の周波数帯域数が閾値TH_NUM以上であるか否かを判定する。周波数帯域数が閾値TH_NUM以上であれば(ステップS105−YES)ステップS106に進み、周波数帯域数が閾値TH_NUM未満であれば(ステップS105−NO)ステップS107に進む。
【0079】
ステップS106で、継続時間算出部105は、継続時間に1フレームを加算し、このフレームの処理を終了する。
【0080】
ステップS107で、体動検出部107は、前フレームまでの継続時間が閾値TH_TIME以上であるか否かを判定する。継続時間が閾値TH_TIME以上であれば(ステップS107−YES)ステップS109に進み、継続時間が閾値TH_TIME未満であれば(ステップS107−NO)ステップS108に進む。
【0081】
ステップS108で、体動検出部107は、その継続時間に対して体動なしと判定し、このフレームの処理を終了する。
【0082】
ステップS109で、体動検出部107は、正規化後の相関値の総和が閾値TH_COR以上であるか否かを判定する。相関値の総和が閾値TH_COR以上であれば(ステップS109−YES)ステップS110に進み、相関値の総和が閾値TH_COR未満であれば(ステップS109−NO)ステップS108に進む。
【0083】
ステップS110で、体動検出部107は、その継続時間に対して体動ありと判定し、このフレームの処理を終了する。
【0084】
以上、実施例1によれば、体動音の音響的な特徴量を用いることにより、高精度に体動を検出することができる。また、実施例1によれば、高価な専用のセンサを用いる必要がなく、体動を検出することができる。また、実施例1によれば、体動音を入力できる位置に体動検出装置10があればよいため、特定の位置に設置しなければならないなどの位置の制約がない。
【0085】
[実施例2]
次に、実施例2における体動検出装置20について説明する。実施例2では、体動検出装置20は、電力変動の類似性を示す値を必要なときに算出し、省電力を実現可能とする。
【0086】
<構成>
図13は、実施例2における体動検出装置20の構成の一例を示すブロック図である。図13に示す構成において、図2に示す構成と同様のものは同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0087】
図13に示す類似値算出部201は、継続時間算出部105から電力変動が小さい周波数帯域数が閾値TH_NUM以上の継続時間を取得する。このとき、類似値算出部201は、継続時間が閾値TH_NUM未満になったときに、前フレームまでの継続時間が閾値TH_TIME以上であるか否かを判定する。
【0088】
類似値算出部201は、継続時間が閾値TH_TIME未満であればその旨を体動検出部202に通知する。類似値算出部201は、継続時間が閾値TH_TIME以上であれば、類似値を算出する。実施例2では、類似値として電力変動の相関値の総和を用いるとする。なお、類似値算出部201は、相関値の総和を正規化しておくとよい。
【0089】
図14は、類似値算出部201による相関値を算出する区間を示す図である。図14に示す例では、前フレームまでの継続時間が閾値TH_TIME以上である場合、その間のフレームに対して電力変動の相関値の総和を算出する。
【0090】
これにより、類似値算出部201は、前フレームまでの継続時間が閾値TH_TIME未満であれば、電力変動の相関値の総和を算出しない。よって、実施例2では、体動を検出する際、省電力を実現することができる。類似値算出部201は、算出した相関値の総和を体動検出部202に出力する。
【0091】
体動検出部202は、類似値算出部201から取得した相関値の総和が閾値TH_COR以上であるか否かを判定する。体動検出部202は、相関値の総和が閾値TH_CORであれば、その継続時間は体動ありと判定して体動を検出し、相関値の総和が閾値TH_CORであれば、その継続時間は体動なしと判定する。また、体動検出部202は、類似値算出部201から継続時間が閾値TH_TIME未満である旨を通知されると、その継続時間について体動なしと判定する。
【0092】
体動検出部202は、実施例1同様、体動を検出した場合、検出したときの時間をメモリなどに記憶するようにしておけばよい。これにより、睡眠状態の把握などに用いることができる。
【0093】
<動作>
次に、実施例2における体動検出装置20の動作について説明する。図15は、実施例2における体動検出処理の一例を示すフローチャートである。図15に示す処理は、1フレーム毎の処理を示すフローである。
【0094】
ステップS201で、時間・周波数変換部101は、マイクなどから入力された音響信号を周波数変換し、周波数領域の信号を生成する。
【0095】
ステップS202で、電力算出部102は、時間・周波数変換部101から取得した周波数領域の信号を用いて電力を算出する。
【0096】
ステップS203で、電力変動算出部103は、電力算出部102により算出された電力の変動を算出する。
【0097】
ステップS204で、継続時間算出部105は、電力変動が閾値TH_POW未満の周波数帯域数が閾値TH_NUM以上であるか否かを判定する。周波数帯域数が閾値TH_NUM以上であれば(ステップS204−YES)ステップS205に進み、周波数帯域数が閾値TH_NUM未満であれば(ステップS204−NO)ステップS206に進む。
【0098】
ステップS205で、継続時間算出部105は、継続時間に1フレームを加算し、このフレームの処理を終了する。
【0099】
ステップS206で、類似値算出部201は、前フレームまでの継続時間が閾値TH_TIME以上であるか否かを判定する。継続時間が閾値TH_TIME以上であれば(ステップS206−YES)ステップS208に進み、継続時間が閾値TH_TIME未満であれば(ステップS206−NO)ステップS207に進む。
【0100】
ステップS207で、体動検出部202は、類似値算出部201から継続時間が閾値TH_TIME未満である旨を通知された場合、その継続時間に対して体動なしと判定し、このフレームの処理を終了する。また、ステップS207で、体動検出部202は、類似値算出部201から相関値の総和が閾値TH_COR未満である旨を通知された場合、その継続時間に対して体動なしと判定し、このフレームの処理を終了する。
【0101】
ステップS208で、類似値算出部201は、電力変動算出部103により算出された電力変動を用いて、各周波数帯域の相関値の総和を算出する。相関値の総和は正規化しておく。
【0102】
ステップS209で、体動検出部202は、正規化後の相関値の総和が閾値TH_COR以上であるか否かを判定する。相関値の総和が閾値TH_COR以上であれば(ステップS209−YES)ステップS210に進み、相関値の総和が閾値TH_COR未満であれば(ステップS209−NO)ステップS207に進む。
【0103】
ステップS210で、体動検出部202は、その継続時間に対して体動ありと判定し、このフレームの処理を終了する。
【0104】
以上、実施例2によれば、実施例1同様の効果を有しつつ、さらに省電力を実現することができる。
【0105】
次に、各実施例で説明した体動検出装置を含む携帯端末装置30のハードウェアについて説明する。図16は、携帯端末装置30のハードウェアの一例を示すブロック図である。図16に示す携帯端末装置30は、アンテナ301、無線部302、ベースバンド処理部303、制御部304、端末インタフェース部305、マイク306、スピーカ307、主記憶部308、補助記憶部209を有する。
【0106】
アンテナ301は、送信アンプで増幅された無線信号を送信し、また、基地局から無線信号を受信する。無線部302は、ベースバンド処理部303で拡散された送信信号をD/A変換し、直交変調により高周波信号に変換し、その信号を電力増幅器により増幅する。無線部302は、受信した無線信号を増幅し、その信号をA/D変換してベースバンド処理部303に伝送する。
【0107】
ベースバンド部303は、送信データの誤り訂正符号の追加、データ変調、拡散変調、受信信号の逆拡散、受信環境の判定、各チャネル信号の閾値判定、誤り訂正復号などのベースバンド処理などを行う。
【0108】
制御部304は、制御信号の送受信などの無線制御を行う。また、制御部304は、補助記憶部309などに記憶されている体動検出プログラムを実行し、各実施例における体動検出処理を行う。
【0109】
主記憶部308は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などであり、制御部304が実行する基本ソフトウェアであるOSやアプリケーションソフトウェアなどのプログラムやデータを記憶又は一時保存する記憶装置である。
【0110】
補助記憶部309は、HDD(Hard Disk Drive)などであり、アプリケーションソフトウェアなどに関連するデータを記憶する記憶装置である。
【0111】
端末インタフェース部305は、データ用アダプタ処理、ハンドセットおよび外部データ端末とのインタフェース処理を行う。
【0112】
マイク306は、音を電気信号に変換する機器である。マイク205は、例えば、ユーザの睡眠中の音を音響信号に変換する。
【0113】
スピーカ307は、電気信号を物理振動に変えて、音楽や音声などの音を生み出す機器である。
【0114】
なお、各実施例で説明した体動検出装置の各部は、体動検出プログラムを実行することで、例えば制御部304やワークメモリとしての主記憶部308により実現されうる。
【0115】
これにより、携帯端末装置30において、ユーザが睡眠中に体動を検出することが可能になり、ユーザの睡眠状態を自動記録することができるようなる。
【0116】
また、開示の技術は、携帯端末装置30に限らず、音を入力するためのマイクを有する情報処理端末、又はマイクを外付けで設置可能な情報処理端末などにも実装することができる。
【0117】
また、前述した各実施例で説明した体動検出処理を実現するためのプログラムを記録媒体に記録することで、各実施例での体動検出処理をコンピュータに実施させることができる。例えば、このプログラムを記録媒体に記録し、このプログラムが記録された記録媒体をコンピュータや携帯端末装置に読み取らせて、前述した体動検出処理を実現させることも可能である。
【0118】
なお、記録媒体は、CD−ROM、フレキシブルディスク、光磁気ディスク等の様に情報を光学的,電気的或いは磁気的に記録する記録媒体、ROM、フラッシュメモリ等の様に情報を電気的に記録する半導体メモリ等、様々なタイプの記録媒体を用いることができる。
【0119】
以上、実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した各実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
【0120】
なお、以上の各実施例に関し、さらに以下の付記を開示する。
(付記1)
入力された音響信号を周波数成分に変換する時間周波数変換部と、
所定帯域毎に前記周波数成分の電力変動を算出する電力変動算出部と、
前記電力変動が第1閾値より小さい所定帯域数が第2閾値以上の場合の継続時間を算出する継続時間算出部と、
前記所定帯域毎の電力変動の類似性を示す値を算出する類似値算出部と、
前記継続時間及び前記電力変動の類似性を示す値に基づき、体動を検出する体動検出部と、
を備える体動検出装置。
(付記2)
前記類似性算出部は、
前記継続時間が第3閾値以上の場合に、前記電力変動の類似性を示す値を算出し、
前記体動検出部は、
前記類似性を示す値が第4閾値以上の場合に、体動があると判定する付記1記載の体動検出装置。
(付記3)
前記類似性を示す値は、各所定帯域の電力変動同士の相関値の総和を用いる付記1又は2記載の体動検出装置。
(付記4)
前記類似性を示す値は、前記電力変動の符号関数により求められる値を用いる付記1又は2記載の体動検出装置。
(付記5)
前記電力変動の符号関数により求められる値は、電力変動が正となる所定帯域数と、電力変動が0以下となる所定帯域数との大きい方である付記4記載の体動検出装置。
(付記6)
入力された音響信号を周波数成分に変換し、
所定帯域毎に前記周波数成分の電力変動を算出し、
前記電力変動が第1閾値より小さい所定帯域数が第2閾値以上の場合の継続時間を算出し、
前記所定帯域毎の電力変動の類似性を示す値を算出し、
前記継続時間及び前記電力変動の類似性を示す値に基づき、体動を検出する
処理をコンピュータが実行する体動検出方法。
(付記7)
入力された音響信号を周波数成分に変換し、
所定帯域毎に前記周波数成分の電力変動を算出し、
前記電力変動が第1閾値より小さい所定帯域数が第2閾値以上の場合の継続時間を算出し、
前記所定帯域毎の電力変動の類似性を示す値を算出し、
前記継続時間及び前記電力変動の類似性を示す値に基づき、体動を検出する
処理をコンピュータに実行させる体動検出プログラム。
【符号の説明】
【0121】
10、20 体動検出装置
30 携帯端末装置
101 時間・周波数変換部
102 電力算出部
103 電力変動算出部
104 記憶部
105 継続時間算出部
106、201 類似値算出部
107、202 体動検出部
301 アンテナ
302 無線部
303 ベースバンド処理部
304 制御部
305 端末インタフェース部
306 マイク
307 スピーカ
308 主記憶部
309 補助記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された音響信号を周波数成分に変換する周波数変換部と、
所定帯域毎に前記周波数成分の電力変動を算出する電力変動算出部と、
前記電力変動が第1閾値より小さい所定帯域数が第2閾値以上の場合の継続時間を算出する継続時間算出部と、
前記所定帯域毎の電力変動の類似性を示す値を算出する類似値算出部と、
前記継続時間及び前記電力変動の類似性を示す値に基づき、体動を検出する体動検出部と、
を備える体動検出装置。
【請求項2】
前記類似値算出部は、
前記継続時間が第3閾値以上の場合に、前記電力変動の類似性を示す値を算出し、
前記体動検出部は、
前記類似性を示す値が第4閾値以上の場合に、体動があると判定する請求項1記載の体動検出装置。
【請求項3】
前記類似性を示す値は、各所定帯域の電力変動同士の相関値の総和を用いる請求項1又は2記載の体動検出装置。
【請求項4】
前記類似性を示す値は、前記電力変動の符号関数により求められる値を用いる請求項1又は2記載の体動検出装置。
【請求項5】
入力された音響信号を周波数成分に変換し、
所定帯域毎に前記周波数成分の電力変動を算出し、
前記電力変動が第1閾値より小さい所定帯域数が第2閾値以上の場合の継続時間を算出し、
前記所定帯域毎の電力変動の類似性を示す値を算出し、
前記継続時間及び前記電力変動の類似性を示す値に基づき、体動を検出する
処理をコンピュータが実行する体動検出方法。
【請求項6】
入力された音響信号を周波数成分に変換し、
所定帯域毎に前記周波数成分の電力変動を算出し、
前記電力変動が第1閾値より小さい所定帯域数が第2閾値以上の場合の継続時間を算出し、
前記所定帯域毎の電力変動の類似性を示す値を算出し、
前記継続時間及び前記電力変動の類似性を示す値に基づき、体動を検出する
処理をコンピュータに実行させる体動検出プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図3】
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【図8】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−245062(P2012−245062A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117286(P2011−117286)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】