説明

体積測定装置

【課題】水分が蒸発しやすい性質を有する被測定物であっても高い測定精度が得られる体積測定装置を提供する。
【解決手段】被測定物2を収めた状態で密閉空間を形成することが可能な密閉空間形成手段3と、密閉空間の容積を変化させる容積変化手段4と、密閉空間内の圧力を測定する圧力測定手段5と、容積変化手段4によって密閉空間の容積を変化させる前後に得られる圧力測定値を基にして被測定物2の体積値を決定する体積決定部74とを備えたものであって、容積変化手段4によって密閉空間の容積を変化させる前に行う圧力測定と、変化させた後に行う圧力測定との間における被測定物2からの水分蒸発量を記憶しておく水分蒸発量記憶部82と、水分蒸発量記憶部82から得た水分蒸発量のデータを基にして体積決定部74が決定した体積値の補正を行う体積補正部81とを備えるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物を入れた密閉容器の容積を変化させ、その際の内部の圧力変化を検出することで被測定物の体積を測定する体積測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、野菜や果物等の品質評価を行うための指標の一つとして密度が用いられている。こうした密度を測定するための方法として、被測定物を液体に浸けて浮力の程度を評価するアルキメデスの方法がある。
【0003】
しかしながら、この方法を用いる場合には、液体量の管理を行うため測定に時間がかかることや、測定後に被測定物の表面に付着した液体を拭き取るために手間がかかること、あるいは被測定物の種類によっては腐敗等の品質低下が生じやすくなること等が問題になる。
【0004】
そのため、液体を用いることなく密度を得るための手法として、被測定物の体積と質量を各々求めて密度を算出することが考えられる。例えば、下記特許文献1においては、液体を用いることなく、気体の圧力変化を利用して被測定物の体積を求める方法が開示されている。
【0005】
このものは、容積一定である測定容器内に存在する固体または液体の体積を測定するため、実質的に密閉状態で気体を測定容器内に挿入または除去することで生じる圧力変化に基づいて固体または液体の体積を測定する方法と、その方法を実現するための測定装置について述べたものである。この装置によれば、簡単な構成でありながら被測定物を液体に浸けることなく体積の測定が可能となり、別途重量を測定すれば密度を求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−26906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1にかかる体積測定装置を現実に使用した場合、被測定物の種類によっては、測定誤差が大きくなるとの欠点がある。すなわち、この体積測定装置では密閉状態とした測定容器内で被測定物より放出される物質があり、内部の気体の物質量が増加する点を考慮していないため、これに伴う測定容器内の圧力変化による誤差を含むことになってしまう。
【0008】
そのため、金属ブロック等の測定は可能であっても、野菜や果物、魚、液体など空気中に水分を蒸発しやすい性質を有するものにおいては、精度の良い測定を行うことができない。
【0009】
本発明は、このような課題を有効に解決することを目的としており、具体的には、水分を蒸発しやすい性質を有する被測定物であっても、高精度で体積測定が可能な体積測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0011】
すなわち、本発明の体積測定装置は、被測定物を内部に収めた状態で密閉空間を形成することが可能な密閉空間形成手段と、前記密閉空間の容積を変化させる容積変化手段と、前記密閉空間内の気体の圧力を測定する圧力測定手段と、前記容積変化手段によって前記密閉空間の容積を変化させる前と変化させた後に前記圧力測定手段によって得られる圧力測定値を基にして前記被測定物の体積値を決定する体積決定部とを備えたものであって、前記容積変化手段によって前記密閉空間の容積を変化させる前に行う圧力測定と、変化させた後に行う圧力測定との間における前記被測定物からの水分蒸発量を記憶しておく水分蒸発量記憶部と、当該水分蒸発量記憶部から得た水分蒸発量のデータを基にして前記体積決定部が決定した体積値の補正を行う体積補正部とを備えることを特徴とする。
【0012】
このように構成すると、被測定物から蒸発する水分による密閉空間内での気体の物質量の増加の影響を修正して、精度良く被測定物の体積を測定することが可能となる。
【0013】
また、より簡単に体積値の補正を行うことができるようにするためには、測定中の被測定物の質量の減少量を水分蒸発量として補正を行うことが好ましく、前記被測定物の質量を測定する質量測定手段を備えており、前記密閉空間の容積を変化させる前と変化させた後に行う圧力測定の際の質量測定値を前記質量測定手段より得て、前記質量測定値の差より得られる質量減少量を前記水分蒸発量として前記水分蒸発量記憶部が記憶するように構成することが好適である。
【0014】
さらに、測定の効率を向上させるとともに装置をコンパクトに構成可能とするためには、体積値の決定のための圧力測定と、被測定物の質量測定とを同時に行うことができるようにすることが好ましいため、前記質量測定手段が前記密閉空間の内部に設けられ被測定物を載置するための台座と一体化して構成することが好適である。
【0015】
また、被測定物の特性を表す指標として重要である密度を素早く演算してその結果を伝達させることができるようにするためには、前記体積補正部により得られる補正後の体積値と、前記質量測定手段により得られる質量値とを基にして前記被測定物の密度を演算する密度演算部を有するように構成することが好適である。
【0016】
さらに、被測定物に関するデータを測定者より利用しやすいようにするためには、前記体積補正部により得られる補正後の体積値と、前記質量測定手段により得られる質量値と、前記密度演算部により得られる密度値の少なくともいずれかを表示する表示部または記憶する測定データ記憶部を有するように構成することが好適である。
【0017】
また、オフラインでの質量測定結果を基にして、体積測定値の補正を行うことができるようにするためには、前記被測定物の質量を測定したデ−タを入力するための質量測定データ入力部を備えており、当該質量測定データ入力部より入力された質量データが前記水分蒸発量として前記水分蒸発量記憶部に記憶されるように構成することが好適である。
【発明の効果】
【0018】
以上説明した本発明によれば、測定作業を効率良く進めることができる上に、測定精度の高い体積測定装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態に係る体積測定装置のシステム構成図。
【図2】同体積測定装置を構成する容器の内部に被測定物を収める際の模式図。
【図3】同体積測定装置を用いて測定を行う際の動作を示す模式図。
【図4】同体積測定装置を用いて測定を行う際の容器内の気体の圧力変化の例を示したグラフ。
【図5】同体積測定装置を用いて体積測定を行う被測定物の水分蒸発に伴う質量変化の一例を示したグラフ。
【図6】同体積測定装置を用いて得た補正前と補正後の体積値とアルキメデスの方法により得た体積値とを比較したグラフ。
【図7】本発明の第2実施形態に係る体積測定装置のシステム構成図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
<第1実施形態>
【0021】
図1に示すように、この実施形態の体積測定装置1は、大きくは機器部11と、機器部11の動作を制御するとともに機器部11によって得られた測定データを基にして体積値の演算を行う制御部12から構成されている。また、制御部12には、測定者との間で情報を授受するための入力部70および表示部75、並びに測定データを記憶するための測定データ記憶部84が接続されている。
【0022】
そして、機器部11は、被測定物2を収めた状態で密閉空間を形成する密閉空間形成手段3と、その密閉空間の内部の容積を変化させる容積変化手段4と、密閉空間内の気体である空気13の圧力を測定するための圧力測定手段5と、密閉空間の内部で被測定物2の質量を測定する質量測定手段としての質量測定器61とから構成されている。
【0023】
さらに、密閉空間形成手段3は、プレート状に構成された閉止部材としてのベース32と、ベース32の上に設けられたシール部材33と、直方体状に構成され被測定物2に被せるようにして設けられた容器31とから構成される。
【0024】
図2に示したように、体積の測定のため被測定物2を機器部11の内部に収める際には、被測定物2をベース32の上面32aの上に設けた質量測定器61の上に載置させた状態で、下側に開口部31aを形成された容器31を上側より被せていき、シール部材33を介してベース32の上面32aに当接させた状態とする。容器31には容積変化手段4および圧力測定手段5が連結するようにして設けられているために、これらは一体化された状態となって移動できるように構成されている。
【0025】
また、シール部材33はシリコンゴム等の弾性体によって形成されるとともに、容器31の開口部31aの全周に渡って密着できる形状とされていることで、ベース32と合わせて容器31の開口部31a全体を閉止することができるように構成されている。そのため、上記のようにして容器31をベース32の上面32aに、シール部材33を介して当接させるようにすることで、ベース32はシール部材33を介して容器31の開口部31aを閉止するための閉止部材として機能して、内部に気体としての空気13を閉じ込めた密閉空間が形成される。
【0026】
図1にもどって、機器部11の構成要素としての容積変化手段4は、シリンダ41と、そのシリンダ41を構成するピストンを往復動させるためのモータ42と、シリンダ41の内部と容器31の内部とを連通するシリンダ用配管43とから構成されている。モータ42にはステッピングモータが用いられ、制御部12からの指令によって動作し、シリンダ41のピストンを動かして細かくシリンダ41の内容積を変更することができるようになっている。シリンダ41はシリンダ用配管43を通じて容器31の内部と連通された状態となっているため、シリンダ41を動かすことによって、容器31の内部に空気13を送り込んだり、容器31の内部より空気13を吸引したりすることが可能となっている。
【0027】
さらに、機器部11の構成要素としての圧力測定手段5は圧力計51と、その圧力計51と容器31の内部とを連通する圧力計用配管52とから構成されている。圧力計51は容器31の内部の空気13の圧力を測定することができるように構成されており、図示しない電源部より電源を供給されるとともに、アナログもしくはデジタルの電気信号で圧力の測定値を制御部12に向けて出力できるようにされている。
【0028】
質量測定器61は、被測定物2を安定して載置するための台座と一体化して機能するとともに、図示しない電源部より電源を供給されるとともに、被測定物2の質量測定値をアナログもしくはデジタルの電気信号で制御部12に向けて出力できるようになっている。この質量測定器61からの制御部12に向けて出力する電気信号は、有線ケーブルで伝達するように構成しても、電磁波を利用した無線手段によって伝達するように構成しても差し支えない。被測定物2を台座に載せたままベルトコンベヤ等の搬送手段によって搬送させ、ラインの途中に設置した体積測定装置1によって測定を行うように構成する場合には、複数の台座を準備してそれらの台座ごとに質量測定器61としての機能を持たせるように構成しても良い。
【0029】
上述したように、容器31の開口部31a(図2参照)が閉止部材としてのベース32によって閉止されている状態となった場合に密閉空間が形成されるが、詳細には、ここでいう密閉空間とは容器31とベース32との間で形成される空間に、シリンダ41、シリンダ用配管43、圧力計51および圧力計用配管52の内容積を加えたものになる。これらのうちシリンダ用配管43、圧力計51および圧力計用配管52の内容積は、ほぼ一定値とみることができるが、シリンダ41の内容積は上記の通りピストンの動作によって変更されるものであるため、その分密閉空間の内容積は変更されることになる。
【0030】
なお、本発明において述べる密閉空間とは、上記のようにして形成される空間そのものをいい、完全に外部との遮断がなされて真の意味での密閉が実現できているか否かを問題とするものではない。
【0031】
本体積測定装置1は、上述のように容器31等によって形成された密閉空間の容積を、容積変化手段を構成するシリンダ41の動作によって変化させ、その容積変化の前後における容器31内部の空気13の圧力を測定することによって、内部の被測定物2の体積を測定しようとするものである。
【0032】
そのため、入力部70から与えられる測定者からの命令に基づいて、上記の機器部11を動作させるとともに、測定値から適宜演算を行った結果を出力するため、制御部12は次のように構成されている。
【0033】
まず制御部12と接続されている入力部70を通じて、適宜動作モード変更にかかる指令や、測定や演算に必要な情報および具体的な動作命令が基本指令部71に与えられる。基本指令部71では、入力部70より与えられた指令に基づき、校正モードまたは測定モードのいずれかの動作モードで、各部に対して動作命令や、測定値に基づく演算、表示を行わせる命令を与えるように構成されている。校正モードと測定モードの選択は測定者によって行い、入力部70を通じて指定することができるように構成されており、基本指令部71ではモードに応じた動作指令を各部に与える。
【0034】
校正モードとは、実際の体積測定に先駆けて、室温、大気圧、湿度、機器部11の経時変化等の要因による影響分を把握して、測定誤差を排除するためのものであり、圧力測定値と被測定物の体積値との関係が機器特性や環境に応じた所定の関係とするための校正用データを得ることを目的とした動作モードということができる。
【0035】
この校正モードを使用する場合には、容器31の内部に被測定物2を入れない状態、あるいは、被測定物2の代わりに既知の体積値を有するアルミブロックで形成した校正用部材を入れた状態で、体積測定時と同様の動作および測定を行わせることによって校正用データを作成する。測定者は、内部に収容させる対象物がない場合にはその旨、校正用部材を収容させる場合には、その体積値を入力部70より入力する。なお、使用する校正用部材が限定されている場合には、それらの体積値を内部メモリに保存しておき、その中から選択して呼び出すようにして構成しても良い。
【0036】
測定モードにおける体積測定にあたっては、基本指令部71からは密閉空間内の容積を変化させるためにモータ制御部72に命令を出力する。モータ制御部72はその命令に合致するように具体的な指令値を定めてモータ42の動作を制御する。
【0037】
また、基本指令部71からは、圧力測定が必要となるタイミングでもって圧力測定部73に対して命令を出力し、圧力測定部73においてはその際に得られた圧力計51による圧力測定値を体積決定部74に対して出力できるようになっている。
【0038】
体積決定部74は、圧力測定部73より入力された圧力測定値に加えて、基本指令部71から与えられる容積変化量のデータおよび校正用データ記憶部79に記憶された校正用データを与えられて、被測定物2の体積値を演算して決定し、出力できるように構成されている。なお、演算を行わせることなく、圧力測定値に応じてデータテーブルから選択するようにして被測定物2の体積値を決定するように構成することも可能である。
【0039】
表示部75では、体積決定部74より得られる体積値や、基本指令部71からの得られる種々の動作状況を表示できるように構成されている。
【0040】
校正用データを取得する際には、入力部70より校正モード実行の命令が与えられ、基本指令部71よりそれに合致した命令が各部に出力されるとともに、校正用データ作成部78に対して必要なデータを取り込んで校正用データを作成するように命令される。この際にも、通常の体積測定と同様に、モータ制御部72によってモータ42を通じてシリンダ41が動作され、その時の圧力測定結果が圧力測定部73を通じて校正用データ作成部78に対して入力される。
【0041】
校正用データ作成部78は、基本指令部71から得られる校正用部材の体積データと、圧力測定部73を通じて得られた圧力測定値を基にして、校正用データを作成する。質量の異なる校正用部材を用いて同様の測定を繰り返すことによって、より精度の高い校正用データを作成する場合もある。
【0042】
上記のようにして作成された校正用データは校正用データ記憶部79に出力されて、ここで記憶される。校正用データは上述したように実際の体積測定の際に体積決定部74より呼び出されて使用されることで、より高精度に体積値を求めることができるようになっている。
【0043】
また、本実施形態では、制御部12は質量測定器61からのインターフェイスとして質量測定値を入力され、これを変換して出力する質量測定部80を有しており、基本指令部71からの命令に従って質量測定部80から入力される質量値の時間経過に伴う変化量を算出し、水分蒸発量として記憶する水分蒸発量記憶部82を有している。
【0044】
さらに、上述したように体積決定部81によって決定された体積値を補正するための体積補正部81を有しており、体積補正部81では、基本指令部71からの命令に基づいて、上記水分蒸発量記憶部82に記憶されている水分蒸発量データに基づいて被測定物2の体積値を補正する。
【0045】
さらには、本実施形態では、制御部12は質量測定部80より得られる質量値と、体積補正部より得られる補正後の体積値とを入力され、被測定物2の密度を演算する密度演算部83を備えている。
【0046】
体積補正部81より得られる補正後の体積値、質量測定部80より得られる質量値および密度演算部83より得られる密度値は、表示部75に出力されて測定者によって即座に確認ができるよう表示されるとともに、測定データ記憶部84に対しても出力されて記憶される。必要な場合に応じて、ここから測定データを取り出すことが可能となっている。
【0047】
なお、表示部75では、基本指令部71より入力される情報を基にして、種々の動作状況も表示できるように構成されている。
【0048】
ここで、上記のように気体の圧力の変化を利用して、被測定物2の体積を測定する原理について説明する。
【0049】
まず、図3(a)のように内容積がV0である密閉空間の中に、体積Vxの被測定物2を収容させた状態とする。このとき、密閉空間内に閉じ込められる空気13の体積は(V0−Vx)で表される。また、この際の密閉空間内の空気13の圧力はP0で表され、圧力計51によって測定される。
【0050】
この後、図3(b)のようにシリンダ41を動作させ密閉空間内の内容積をV1に増加させる。このとき、密閉空間内に閉じ込められる空気13の体積は(V1−Vx)で表される。このような内容積の変化によって、内部での気圧は図4のように減少する。図中のA点よりシリンダ41(図3(b)参照)を動作させ、B点でその動作が終わっている。B点に達した直後には多少気圧が変動するため、B点よりt1時間経過するのを待ち、安定した状態となってから気圧の測定を行うようにしている。この際の密閉空間内の空気13の圧力はP1で表される。
【0051】
このようにして、密閉空間内の容積が変化した際において、容器31の内部の密閉状態が完全に保たれて外部との空気の授受がないものであり、かつ、温度変化が無いとの条件では、一般によく知られているボイルの法則より次の関係が導かれる。
P0(V0−Vx)=P1(V1−Vx) ………………………………数式(1)
【0052】
さらに、密閉空間内の容積の増加量は、シリンダ41の内容積の増加量ΔVaとしてモータ42を駆動することで正確に与えることができるため、
V1=V0+ΔVa …………………………………………………………数式(2)
の関係がある。
【0053】
以上の数式(1)、数式(2)より、下記の関係式が得られる。
P0(V0−Vx)=P1(V0+ΔVa−Vx) ……………………数式(3)
【0054】
これを変形することで次のようにして、Vxが求められる。
Vx=V0−ΔVa・P1/(P0−P1) ……………………………数式(4)
【0055】
なお、上述した校正モードによって校正用の計算式を事前に得ている場合には、V1、ΔVaのデータを入力することなく、さらに精度良く体積Vxを求めることが可能である。
【0056】
すなわち、理想状態の式である数式(4)を基にして、実際の気温、大気圧、湿度、密閉空間の内容積の誤差、シリンダ内容積の誤差、および各部の変形を考慮した現実の式として、次のように近似することができる。
Vx=a+b・P1/(P0−P1) ……………………………………数式(5)
ここで、aおよびbはそれぞれ、校正モードによって求めることが必要な係数である。
【0057】
上述したように、校正モードでは被測定物を挿入しない状態、あるいは、既知の体積値を有するアルミブロックで形成した校正用部材を被測定物のかわりに用いた状態で複数回測定動作を行わせて、数式(5)における係数a、bを求める。このようにして、事前にa、bの係数を求めておけば、同じ動作を再現させてP0、P1を測定するのみで、数式(5)により体積Vxを求めることが可能となる。
【0058】
また、数式(5)よりも、さらに精度が要求される際には、次のようにP1に比例する項を増やした近似式を用いることも考えられる。
Vx=a+b・P1/(P0−P1)+c・P1…………………………数式(6)
【0059】
ここで、a〜cは校正モードによって求めることが必要な係数である。
【0060】
この場合には、未知の係数が数式(5)の場合に比べて多いために、校正モードで要する時間が長くなるとの短所があるものの、係数a〜cが決定された後には、より精度の高い測定ができるとの長所がある。
【0061】
なお、上述の校正モードによる測定は、実際の測定と同じ動作とすることが高い精度を得るために必要である。そのため、実際の測定と同じ体積変化を行わせるためにシリンダ41への制御指令を同一にし、圧力値の測定タイミングも同じようにすることが肝要である。
【0062】
上記のようにして、図1におけるシリンダ41の内容積を変化させて、それによる体積変化の前後における密閉容器内の圧力をそれぞれ測定して、その圧力測定値を用いた演算を行うことで精度良く被測定物2の体積Vxを求めることができる。
【0063】
上記のようにして求める体積Vxは、図1における体積決定部74によって求めるものであり、容積変化前後の圧力測定値を基にして、校正用データを用いることで高精度に被測定物2の体積値を求めることが可能となっている。ただし、発明者らの知見によれば、被測定物2が水分を多く含むものである場合には、圧力P0の測定から圧力P1の測定の間に被測定物2より蒸発した水分によって、密閉空間内の気体の物質量が増加するために、体積測定値に誤差が生じることがある。
【0064】
その原因について以下に詳細に説明する。
【0065】
上述したボイルの法則を発展させたボイル・シャルルの法則として、以下の関係式が一般に知られている。
P・V=n・R・T …………………………………………………………数式(7)
【0066】
ここで、Pは気体の圧力(Pa)、Vは体積(m)、nは気体の物質量(mol)、Tは温度(K)、Rは気体定数8.314472(J・mol−1・K−1)である。
【0067】
この式を用いた場合、上述した密閉空間内の気体の体積変化の前で測定する密閉空間内の圧力値P0(Pa)と、体積値V0(m)、その際の密閉空間内の気体の物質量n0(mol)との間には、次の関係があることが分かる。
P0・(V0−Vx2)=n0・R・T …………………………………数式(8)
【0068】
ここで、Vx2は気体の物質量を考慮した場合の被測定物の体積、Tは密閉容器内の気体の温度(K)である。
【0069】
同様に、密閉空間内の気体の体積変化の後で測定する密閉空間内の圧力値P1(Pa)と、体積値V1(m)と、その際の密閉空間内の気体の物質量n1(mol)との間には、次の関係があることが分かる。
P1・(V1−Vx2)=n1・R・T …………………………………数式(9)
【0070】
ここで、密閉容器内の気体の温度T(K)は一定のものとして扱っている。
【0071】
上述したように、V1=V0+ΔVaの関係があり、圧力測定中の水分蒸発に伴う密閉空間内の気体物質量の増加量をΔn(mol)として、n1=n0+Δnの関係があるとすれば、数式(9)は次のように変形できる。
P1・(V0+ΔVa−Vx2)=(n0+Δn)・R・T …………数式(10)
【0072】
すると、数式(10)および数式(8)より、以下の関係が導かれる。
Vx2=V0−ΔVa・P1/(P0−P1)+Δn・R・T/(P0−P1) ……………………………………………………………………………………………数式(11)
【0073】
さらに、数式(11)と、数式(4)を比較すれば次のようになる。
Vx2=Vx+Δn・R・T/(P0−P1) …………………………数式(12)
【0074】
すなわち、体積測定のために必要な体積変化前後の2回の圧力測定の間に密閉空間内の気体物質量がΔn増加するとすれば、Δn・R・T/(P0−P1)の補正を行わなければならず、これを行わないとその分体積値が実際よりも小さく測定されることになる。なお、この大小関係は、本実施形態のように体積の測定を、密閉空間内の容積を増大させる方向に変化させつつ行うものであってP0がP1よりも大きくなる場合に当てはまり、逆に容積を減少させる方向で変化させつつ体積測定を行う場合には大小関係は逆になる。
【0075】
また、発明者らの知見によれば、上記の密閉空間内の物質量の増加値は、多くの場合被測定物からの水分蒸発量によるものであり、この水分蒸発量は圧力測定の間の質量の減少量にほぼ対応するものであることが分かっている。
【0076】
例えば、被測定物2をトマトとした場合には、このトマトの質量を厳密に測定すると、時間に応じて、図5のようにして減少していくことが分かっている。この質量変化は、図1における質量測定器61によって測定を行った結果である。この中でも、実際の体積測定を行っている間の質量減少量は、図中横軸の20〜30secに対応する部分となっている。
【0077】
このような体積測定中の質量減少量をΔm(g)として、これが全て水分の蒸発量と一致すると仮定すると、水1molの質量は18gであるから、このときの増加量Δn(mol)は次式で求められる。
Δn=Δm/18 ……………………………………………………………数式(13)
【0078】
このように、密閉空間内で質量測定器61によって質量減少量を測定して、これを数式(13)によって気体物質量の増加量に変換し、その値を用いて数式(12)によって体積値の補正を行うことができる。
【0079】
本実施形態の体積測定装置1においては、容積変化手段4によって行われる体積変化の前後で圧力測定手段5によって密閉空間内の圧力測定が行われ圧力測定部73に出力される。そして、そのデータを基に体積決定部74により、まずは水分蒸発量を考慮しない体積値Vxが求められる。この際にも、事前にアルミブロックで形成した校正用部材を用いて作成され、校正用データ記憶部79に記憶されている校正用データを使用して、機器の特性や環境の影響による誤差を排除しつつ体積値Vxの決定がなされる。
【0080】
さらに、本実施形態における体積測定装置1では、質量測定器61より質量測定部80を介して質量値が水分蒸発量記憶部82に入力されるようになっており、ここで1回目の圧力測定の際の質量値と2回目の圧力測定の際の質量値が記憶されるようになっている。
【0081】
そして、体積補正部81では、上記体積値Vxに対して水分蒸発量を考慮した補正を加えるため、水分蒸発量記憶部82より質量値のデータを得て圧力測定中の質量減少量Δmを算出するとともに、上記体積決定部74より補正前の体積値Vxを得て、これらより上記数式(12)および数式(13)を用いて、補正後の体積値Vx2を求めることになる。なお、計算に際して必要となる温度Tは、事前に入力部70より入力し、基本指令部71を通じて体積補正部81に対して与えられるように構成してある。これを質量測定器61と同様に、密閉空間内の温度データを自動的に測定できるようにして、その測定値を体積補正部81に入力できるように構成しても差し支えない。
【0082】
具体的な演算結果を示す例として、被測定物2をトマトとして本体積測定装置1によって測定を行い、上述のような水分蒸発量による補正を加えた場合、補正を行わなかった場合の体積値を比較して図6に示す。この図は、横軸に前述したアルキメデスの方法により測定した体積値を、縦軸に本体積測定装置1より得られた体積値をとってプロットしたものである。なお、本図でいう補正前の体積値とは体積決定部74からの出力値をそのまま取り出したものであり、補正後の体積値とは体積補正部81からの出力値を取り出したものである。
【0083】
同図より分かるように、補正前の体積値は、実際の体積に比べて低く現れる傾向にあり、質量変化量を基にして水分蒸発量の影響を補正した後の体積値は、実際の体積とほぼ一致する。
【0084】
以上のように、本実施形態の体積測定装置1は、被測定物2を内部に収めた状態で密閉空間を形成することが可能な密閉空間形成手段3と、前記密閉空間の容積を変化させる容積変化手段4と、前記密閉空間内の気体の圧力を測定する圧力測定手段5と、前記容積変化手段4によって前記密閉空間の容積を変化させる前と変化させた後に前記圧力測定手段5によって得られる圧力測定値を基にして前記被測定物2の体積値を決定する体積決定部74とを備えたものであって、前記容積変化手段4によって前記密閉空間の容積を変化させる前に行う圧力測定と、変化させた後に行う圧力測定との間における前記被測定物2からの水分蒸発量を記憶しておく水分蒸発量記憶部82と、当該水分蒸発量記憶部82から得た水分蒸発量のデータを基にして前記体積決定部74が決定した体積値の補正を行う体積補正部81とを備えることを特徴とするものである。
【0085】
このようにして構成されているため、被測定物2が水分を含むものである場合に生じる密閉空間内の気体の物質量の増加に伴う体積測定値の誤差を修正して、精度良く被測定物の体積を測定することが可能となる。
【0086】
さらに、前記被測定物2の質量を測定する質量測定手段61を備えており、前記密閉空間の容積を変化させる前と変化させた後に行う圧力測定の際の質量測定値を前記質量測定手段61より得て、前記質量測定値の差より得られる質量減少量を前記水分蒸発量として前記水分蒸発量記憶部82が記憶するように構成しているため、被測定物の質量測定結果より得られる質量減少量を水分蒸発量として補正を行い、より簡単に上記の体積の補正を行うことができる。
【0087】
また、前記質量測定手段61が前記密閉空間の内部に設けられ被測定物2を載置するための台座と一体化して構成されているため、装置をコンパクトに構成できるとともに、被測定物2を密閉空間内に収納させるのみで質量の測定と気体の圧力の測定も同時に行うことができるため、測定の効率が向上する。
【0088】
また、前記体積補正部82により得られる補正後の体積値と、前記質量測定手段61により得られる質量値とを基にして前記被測定物2の密度を演算する密度演算部83を有するように構成しているため、被測定物2の特性を表す指標として重要である密度を、素早く演算してその結果を測定者に伝達することができるようになる。
【0089】
さらに、前記体積補正部81により得られる補正後の体積値と、前記質量測定手段61により得られる質量値と、前記密度演算部83により得られる密度値の少なくともいずれかを表示する表示部75または記憶する測定データ記憶部84を有しているため、被測定物2のデータを素早く表示すること、または、記憶して必要な際に取り出すことができるようになるため、測定をより簡便かつ速やかに行うことや、測定データを簡単にまとめることができるようになる。
<第2実施形態>
【0090】
第2実施形態における体積測定装置を図7に示す。上述した第1実施形態の体積測定装置1と共通する部分については同じ符号を付して説明を省略する。
【0091】
この実施形態における体積測定装置201は、図1で示した第1実施形態の場合と比べて、密閉容器31の内部の質量測定器62および制御部12の中の質量測定部80を有していない点が大きく異なる。
【0092】
そして、図7で示した第2実施形態の体積測定装置201では、外部より被測定物2にかかる質量測定データを入力することができる質量測定データ入力部285を備えており、ここから入力された質量データは、第1実施形態において質量測定部80(図1参照)を通じて得られた質量データと同様に、水分蒸発量記憶部282において記憶されるとともに、密度演算部283で密度の演算に使用されたり、体積値や密度値データとともに表示部275において表示されたり、測定データ記憶部284で記憶されたりすることができるようになっている。
【0093】
この場合においても、第1実施形態と同様に体積補正部81によって、被測定物2からの水分蒸発量を基にした体積値の補正を行うことができるようになっている。
【0094】
本実施形態においては、第1実施形態の場合と比べて、機器部211の構成を簡略化したものとすることができ、機器部の軽量化、製作コストの削減を図ることができる。しかしながら、質量測定器を備えていないために、体積値を測るための圧力測定と同時に質量減少量を測定することはできない。そのために、密閉空間形成手段3の外部で別に質量測定器を準備しておき、これを用いてオフラインで測定したデータを質量測定データ入力部285より入力し、当該データより得られる質量減少量を水分蒸発量として用いて水分蒸発に伴う誤差の補正を行うことが可能となっている。
【0095】
具体的には、ある一定時刻における被測定物2の質量値と、この時刻より体積測定装置201内で圧力測定をする際にかかる時間分が経過した際の質量値とを各々測定し、これらの差を質量減少量として、水分蒸発量記憶部282に対して入力して記憶させる。こうすることによって、この実施形態の水分蒸発量記憶部282も上述の第1実施形態の場合とほぼ同様にデータを取り扱い、体積値の補正のための演算に使用することができる。
【0096】
また、このような構成に代えて、水分蒸発量記憶部282に対して、単位時間あたりに質量が減少する割合を入力しておき、当該データと実際の圧力測定に要した時間データから、水分蒸発量記憶部282が圧力測定の間における水分蒸発量を演算して記憶するように構成することも可能である。
【0097】
以上のように、本実施形態の体積測定装置201は、前記被測定物2の質量を測定したデ−タを入力するための質量測定データ入力部285を備えており、当該質量測定データ入力部285より入力された質量データが前記水分蒸発量として前記水分蒸発量記憶部282に記憶されることを特徴とするものである。
【0098】
このようにして構成されているため、オフラインでの質量測定結果を基にして、体積測定値の補正を行うことができるようになるため、装置構成が簡単になる。

なお、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0099】
例えば、本発明が意図する効果は、上述したような密閉空間内の容積を増加させつつ圧力測定を行い、その圧力測定値の変化より体積値を決定する場合には限定されず、密閉空間内の容積を減少させつつ圧力測定を行い、その圧力測定値の変化を基にして体積値を決定する場合であっても変わらずに得ることができる。
【0100】
また、上述の実施形態では、容積変化の前後での圧力測定結果を基にして、即座に水分蒸発の影響による誤差を補正した体積値が出力できるように構成していたが、質量減少量をオフラインの測定によって求める場合には、これを圧力測定の後に求めて、体積決定のために必要な圧力測定を全て終えた後で入力して、後から体積値の補正ができるようにすることも可能である。
【0101】
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0102】
1…体積測定装置
2…被測定物
3…密閉空間形成手段
4…容積変化手段
5…圧力測定手段
11…機器部
12…制御部
31…容器
32…ベース(閉止部材)
33…シール部材
41…シリンダ
42…モータ
43…シリンダ用配管
51…圧力計
52…圧力計用配管
61…質量測定器(質量測定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物を内部に収めた状態で密閉空間を形成することが可能な密閉空間形成手段と、
前記密閉空間の容積を変化させる容積変化手段と、
前記密閉空間内の気体の圧力を測定する圧力測定手段と、
前記容積変化手段によって前記密閉空間の容積を変化させる前と変化させた後に前記圧力測定手段によって得られる圧力測定値を基にして前記被測定物の体積値を決定する体積決定部とを備えた体積測定装置であって、
前記容積変化手段によって前記密閉空間の容積を変化させる前に行う圧力測定と、変化させた後に行う圧力測定との間における前記被測定物からの水分蒸発量を記憶しておく水分蒸発量記憶部と、
当該水分蒸発量記憶部から得た水分蒸発量のデータを基にして前記体積決定部が決定した体積値の補正を行う体積補正部とを備えることを特徴とする体積測定装置。
【請求項2】
前記被測定物の質量を測定する質量測定手段を備えており、
前記密閉空間の容積を変化させる前と変化させた後に行う圧力測定の際の質量測定値を前記質量測定手段より得て、
前記質量測定値の差より得られる質量減少量を前記水分蒸発量として前記水分蒸発量記憶部が記憶することを特徴とする
請求項1に記載の体積測定装置。
【請求項3】
前記質量測定手段が前記密閉空間の内部に設けられ被測定物を載置するための台座と一体化して構成されていることを特徴とする請求項2に記載の体積測定装置。
【請求項4】
前記体積補正部により得られる補正後の体積値と、前記質量測定手段により得られる質量値とを基にして前記被測定物の密度を演算する密度演算部を有することを特徴とする請求項2または3のいずれかに記載の体積測定装置。
【請求項5】
前記体積補正部により得られる補正後の体積値と、前記質量測定手段により得られる質量値と、前記密度演算部により得られる密度値の少なくともいずれかを表示する表示部または記憶する測定データ記憶部を有していることを特徴とする請求項4に記載の体積測定装置。
【請求項6】
前記被測定物の質量を測定したデ−タを入力するための質量測定データ入力部を備えており、当該質量測定データ入力部より入力された質量データが前記水分蒸発量として前記水分蒸発量記憶部に記憶されることを特徴とする請求項1に記載の体積測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−36752(P2013−36752A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170376(P2011−170376)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)