説明

作動軸の逆転防止機構

【課題】 一の回転方向、及び一の回転方向とは逆方向の他の回転方向の両回転方向において作動軸の逆転を防止できる逆転防止機構を提供する。
【解決手段】 作動軸2に少なくとも一部が円弧をなすラチェット板3を同軸かつ一体的に結合し、このラチェット板3の円弧部分に、所定の角度範囲にわたって、複数の山形のラチェット爪4、4を列設すると共に、このラチェット爪列の両端に円弧状の凹陥部6、6を形成し、一方、上記ラチェット板の外側に、作動軸の半径方向に延在し中央部を回動自在に支承された係止爪7を設け、外力が作用しない常態においてこの係止爪の自由端が作動軸の中心を向くように付勢し、他方、上記係止爪の自由端が凹陥部と角度的に整合したとき、係止爪の自由端が凹陥部内で自由に回動できるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、押釦錠の操作部材等の作動軸における逆転防止機構(以下単に逆転防止機構という)に係り、特に、時計方向あるいは反時計方向の一方である一の回転方向、及び一の回転方向とは逆方向の他の回転方向の両回転方向において逆転を防止できる逆転防止機構に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、先に、下記特許文献1により、暗証番号を任意に設定できる押釦錠を提案した。
【0003】
この押釦錠は、細長い杆体である釦軸及びこの釦軸の外端に一体的に結合された押釦からなる押釦ユニットの複数を、外ケース内において一定の展開パターンで配設し、各押釦ユニットを、押釦を外ケースの表面から突出させた状態で、釦軸の長さ方向に移動可能に案内すると共に、押釦が外ケース表面から突出する方向に付勢し、一方、各釦軸の内端部に解錠切欠を同じ向きで形成し、他方、押釦ユニットの押釦を押し下げたとき、その押し下げられた釦軸の位置を各別に保持すると共に、リセット時押し下げられた全押釦ユニットを同時に解放するストッパー機構を設け、選択された押釦を押し下げたとき、全釦軸の解錠切欠が解錠レベルに位置するようにしたものにおいて、全釦軸を同じ長さにすると共に、長さ方向における一定の箇所を横断する切断面により、押釦と一体の釦軸Aと解錠切欠を形成した釦軸Bとに分断し、各釦軸Aに、向きを同じくして、押釦に近い方の第1係合切欠及び釦軸Bに近い方の第2係合切欠を、釦軸Bに第1及び第2係合切欠と同じ向きの第3係合切欠を夫々形成し、上記第1及び第2係合切欠の間隔を、上記選択された押釦の押し下げ量と同じに設定し、一方、上記釦軸A、Bに垂直で、全押釦ユニットの展開パターンを覆うことができる厚板ブロック状の止め板ホルダーを外ケース内に設け、この止め板ホルダーに、押釦ユニット群と同じ展開パターンで釦軸A、Bが挿通する案内孔を形成し、他方、各案内孔に連接して止め板収納孔を形成し、各止め板収納孔に、上記係合切欠と係合可能な係合突起の一対を形成した止め板を押釦ユニットに近接し或いは離間する方向に移動可能に収納すると共に、上記一対の係合突起の間隔を、夫々が選択されて押し下げられた釦軸Aの第1係合切欠と釦軸Bの第3係合切欠とに係合したとき、釦軸Bの解錠切欠が上記解錠レベルになるように設定し、また、全止め板に同時に係合する止め板制御体及びこれと重合する態様で止め板制御体に連結されたキャリアーを止め板の移動方向と同じ方向に移動可能に案内すると共に、第1ばね部材により、止め板制御体を上記係合突起が押釦ユニットの係合切欠に係合する方向に付勢し、更にまた、上記第1ばね部材より大きい弾力の第2はね部材を、止め板制御体に関して第1ばね部材とは反対側において、止め板制御体とキャリアーとの間に弾装し、以て、暗証番号変更時、サムターン等の押釦錠操作部材の操作により、操作部材により制御される駆動機構、キャリアー、第2ばね部材及び止め板制御体を介して全止め板を押釦ユニットから離間する方向に駆動すると共に、ストッパー機構により全釦軸Aを解放してそれまでの暗証番号をキャンセルし、この状態で新しく選択された押釦を押し下げ、操作部材の操作及び第1ばね部材の弾力により、キャリアー及びこれに連結された止め板を係合突起が係合切欠に係合する方向に移動させることにより新しい暗証番号を設定し、加えて、切替え装置の操作で止め板制御体を固定することにより、設定された暗証番号を固定できるようにしたことを特徴とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特願2008−183216
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した構成の押釦錠は、1回の解錠及び再施錠毎に異なる暗証番号を設定できるものであるが(所謂ワンタイムモード)、サムターン摘み等の操作部材(以下作動軸という)を解錠方向に回して解錠状態にしてから新しい暗証番号を設定する。
【0006】
具体的には、解錠後選択された押釦を押し、或いは押されたものをそのまま残して作動軸を施錠方向に回す。
【0007】
すると、新しい暗証番号が設定されると同時に押釦錠が施錠される。つまり、作動軸の解錠方向への回動、或いは施錠方向への回動により暗証番号の切替機構が作動して暗証番号の設定及び消去が行われる。
【0008】
なお、上記押釦錠の構成及び作動等はこの発明の要旨とは関係がないので更に詳細な説明は省略する。
【0009】
上記押釦錠は、作動軸の回動を利用して暗証番号の設定、消去を機械的に行うので、作動軸を所定の角度回さないと機構が途中までしか動かず、その結果種々の不都合が生じる。
【0010】
上記不都合の具体的な内容はこの発明と関係が無いので、更に詳細な説明を省略する。
【0011】
この発明は、一の回転方向、及び一の回転方向とは逆方向の他の回転方向の両回転方向において作動軸の逆転を防止できる逆転防止機構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、作動軸に少なくとも一部が円弧をなすラチェット板を同軸かつ一体的に結合し、このラチェット板の円弧部分に、所定の角度範囲にわたって、複数の山形のラチェット爪を列設すると共に、このラチェット爪列の両端に円弧状の凹陥部を形成し、一方、上記ラチェット板の外側に、作動軸の半径方向に延在し中央部を回動自在に支承された係止爪を設け、外力が作用しない常態においてこの係止爪の自由端が作動軸の中心を向くように付勢し、他方、上記係止爪の自由端が凹陥部と角度的に整合したとき、係止爪の自由端が凹陥部内で自由に回動できるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上記のように構成されたこの発明の一実施例による逆転防止機構は、係止爪と一の凹陥部が角度的に整合する作動軸の一の基準角度位置から、他の凹陥部が係止爪に近接する方向の一の回転方向に作動軸が回動を始めると、係止爪の自由端が一の凹陥部に隣接する最初のラチェット爪に乗りあがり、更に作動軸が一の回転方向に回動を続けると、上記自由端が最初のラチェット爪の頂上を乗り越えて最初のラチェット爪と2番目のラチェット爪との間の谷間に落ちる。
【0014】
このときには、ラチェット爪の自由端はその弾力に抗して最初のラチェット爪に突っ張るように係合し、作動軸及び制御板が他の回転方向に戻らないようにする。
【0015】
以下同様にして、ラチェット爪が他の凹陥部と角度的に整合するまで作動軸が逆転を阻止された状態で一の方向に回動を続ける。
【0016】
機構の対称性により、上記作動軸の逆転防止機能は作動軸が他の回転方向に回動するときにも保障され、したがって、時計方向及び反時計方向の両回転方向において作動軸の逆転防止を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の一実施例による逆転防止機構の平面図で、係止爪の自由端が一の凹陥部に係入している解錠状態を示す。
【図2】図1と同様の平面図で、作動軸が施錠方向に少し回動し、係止爪の自由端が上記一の凹陥部に連なる最初のラチェット爪に乗り上がった状態を示す。
【図3】図1と同様の平面図で、作動軸が施錠方向に更に回動し、係止爪の自由端が最初のラチェット爪の頂上を乗り越えて最初のラチェット爪と2番目のラチェット爪との間の谷間に落ちた状態を示す。
【図4】図1と同様の平面図で、係止爪の自由端が2番目のラチェット爪と3番目のラチェット爪との間の谷間に落ちた状態を示す。
【図5】作動軸が解錠方向の回動の終端に近づき、係止爪の自由端が他の凹陥部に連なるラチェット爪と、これに連なるラチェット爪との間の谷間に落ちた状態を示す。
【図6】図1と同様の平面図で、作動軸が施錠角度位置にまで回動し、係止爪の自由端が他の凹陥部に係入している施錠状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
作動軸に少なくとも一部が円弧をなすラチェット板を同軸かつ一体的に結合し、このラチェット板の円弧部分に、所定の角度範囲にわたって、複数の山形のラチェット爪を列設すると共に、このラチェット爪列の両端に円弧状の凹陥部を形成し、一方、上記ラチェット板の外側に、作動軸の半径方向に延在し中央部を回動自在に支承された係止爪を設け、外力が作用しない常態においてこの係止爪の自由端が作動軸の中心を向くように付勢し、他方、上記係止爪の自由端が凹陥部と角度的に整合したとき、係止爪の自由端が凹陥部内で自由に回動できるようにする、という簡単な構成で、往復動する作動軸の両方向の回動に対し逆転防止を可能にした。
【実施例1】
【0019】
図1において符号1は押釦錠を、符号2は押釦錠1の操作部材としての作動軸を夫々示し、作動軸2の紙面方向において手前側にはサムターン等の操作摘みが装着されている(図示せず)。
【0020】
この作動軸2には少なくとも一部が円弧をなすラチェット板(図示の実施例では円板)3が同軸かつ一体的に結合されている。
【0021】
このラチェット板3の円弧部分に、所定の角度範囲にわたって、複数の山形のラチェット爪4、4が列設されている。
【0022】
通常のラチェット板においては、ラチェット爪4は円周方向において時計方向、或いは反時計方向に傾いていて鋸歯形であるが、この発明におけるラチェット爪4は左右対称の山形、換言すればラチェット板3の半径5に関し左右対称に成形されている。
【0023】
また、このラチェット爪列4、4の両端には円弧状の凹陥部6、6が形成されている。
【0024】
図示の実施例では、上記一対の凹陥部6、6の角度間隔は90度に設定されているが、この90度の角度間隔はこの発明の必須の構成ではない。
【0025】
一方、上記ラチェット板3の外側には、作動軸2の半径方向に延在する係止爪7が中央部を回動自在に支承されている。
【0026】
この係止爪7は、外力が作用しない常態においては、図1における上端と押釦錠の地板との間に弾装された引っ張りコイルばね8の弾力により、図1における下端である自由端が作動軸2の中心を向くように付勢されている。
【0027】
そして、上記係止爪7の自由端の回動半径は、係止爪7が凹陥部6と角度的に整合したとき、係止爪7の自由端が凹陥部6内で自由に回動できるように、換言すれば、係止爪7の自由端の回動半径の軌跡が凹陥部6より少し小さくなるように設定されている。
【0028】
上記のように構成されたこの発明の一実施例による逆転防止機構は、前記発明の効果の項、及び図1乃至図6に記載した通り作動し、前記発明の効果の項後段に記載したように、作動軸2の時計方向及び反時計方向の両回転方向において逆転防止を施すことができる。
【実施例2】
【0029】
図示の実施例では押釦錠の操作部材としての作動軸に本発明を適用するものとしたが、本発明は、図示の実施例に限定されず、回動角度範囲が一定であり、その時計方向、反時計方向の双方の回動方向において逆転防止を要求される作動軸に適用できることは勿論である。
【符号の説明】
【0030】
1 押釦錠
2 作動軸
3 ラチェット板
4 ラチェット爪
5 ラチェット板の半径
6 凹陥部
7 係止爪
8 ばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動軸に少なくとも一部が円弧をなすラチェット板を同軸かつ一体的に結合し、このラチェット板の円弧部分に、所定の角度範囲にわたって、複数の山形のラチェット爪を列設すると共に、このラチェット爪列の両端に円弧状の凹陥部を形成し、一方、上記ラチェット板の外側に、作動軸の半径方向に延在し中央部を回動自在に支承された係止爪を設け、外力が作用しない常態においてこの係止爪の自由端が作動軸の中心を向くように付勢し、他方、上記係止爪の自由端が凹陥部と角度的に整合したとき、係止爪の自由端が凹陥部内で自由に回動できるようにしたことを特徴とする作動軸の逆転防止機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−102464(P2011−102464A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256729(P2009−256729)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(390037028)美和ロック株式会社 (868)