説明

作業機の表示装置

【課題】運転室前方を視認しながらフロント先端と施工目標位置との位置関係をオペレータに容易に認識させることを目的とする。
【解決手段】本発明の作業機の表示装置18は、油圧ショベル1の運転室4の前窓に取り付けられ、油圧ショベル1のフロント先端のバケット9の左位置および右位置と施工目標位置との位置関係に基づいて、油圧ショベル1に対して水平方向に形成される直線状の固定ライン27に対して相対的に移動する直線状の可動ライン28を備えている。オペレータが作業を行うときの視野となる運転室4の前窓に表示装置18を取り付けることで、オペレータの視線を切り替えることなく、容易にバケット9と施工目標面との位置関係を容易に認識させることができるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベルやブルドーザ等の作業機により掘削、仕上げ、敷き均し作業を行うときに、作業機のフロント先端と施工目標位置との距離を表示する作業機の表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
土砂のかきおこしや盛土、整地に用いるために、油圧ショベルやブルドーザ等の作業機が用いられる。作業機としての油圧ショベルは、走行手段としての下部走行体を有しており、この下部走行体に旋回装置を介して上部旋回体が設けられる。上部旋回体には俯抑動作可能に連結したブームを設けており、このブームの先端に上下方向に回動可能に連結したアームを備えている。アームの先端にはフロントアタッチメントとしてバケットを装着可能に構成している。
【0003】
作業機を用いて掘削、仕上げ、敷き均し作業等により法面形成を行うときには、施工目標位置とフロント先端(バケットやブレード等)との間の距離を認識する必要がある。このために、丁張りや水糸を施工目標位置近傍に配置して、丁張りや水糸を目印として作業を行うようにしている。この点、全ての面に丁張りや水糸を配置することは物理的に困難であるため、作業機を操作するオペレータが丁張り間や水糸間を感覚的に補間することで、施工を行っていた。
【0004】
従って、オペレータが丁張り間や水糸間を補間する必要があるため、オペレータの技量に依存する度合いが高くなる。この問題に対する技術が特許文献1に開示されている。特許文献1では、現在のバケットの位置に対応する目標地形を示す交線の位置をバケットの位置との関係で表示している。これにより、掘削すべき地形の形状が異なる3次元地形を精度よく掘削するようにしている。
【0005】
特許文献1の技術では、表示画面上にバケットと交線とをグラフィック表示しているが、液晶モニタ等の表示画面に情報を表示するのではなく、運転席前方のフロントウィンドウの内面(ヘッドアップディスプレイ)に所定の情報を表示する技術が特許文献2に開示されている。この技術では、ヘッドアップディスプレイに燃料表示や回転数表示、水温表示を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−98585号公報
【特許文献2】特開昭59−220780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、特許文献1の技術では、表示画面にバケットと交線とをグラフィック表示して、表示画面に表示された情報をオペレータが認識することにより、掘削等の作業を行うときの目印としている。表示画面は通常、運転室の所定位置に設けたディスプレイに表示される画面である。オペレータは基本的には運転室前方を視認して油圧ショベルの操作を行うものであり、オペレータは運転室前方とディスプレイの表示画面との両者を見比べて作業を行う必要がある。
【0008】
このために、オペレータはディスプレイの表示画面と運転室前方とで視線を切り替える必要がある。この視線の切り替え作業を要することから、オペレータの視認性が低下する。これにより、オペレータの疲労が増大し、精度の良い作業を行うことができなくなる。特許文献2のようにヘッドアップディスプレイに情報を表示することで視線を切り替える必要がなくなるが、作業内容によって、前方のガラスを跳ね上げて使用することもあり、このような場合にはヘッドアップディスプレイに所定の情報を表示することができなくなる。
【0009】
そこで、本発明は、運転室前方を視認しながらフロント先端と施工目標位置との距離をオペレータに容易に認識させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題を解決するため、本発明の作業機の表示装置は、作業機の運転室の前窓に取り付けられ、前記作業機のフロント先端の左位置および右位置と施工目標位置との位置関係に基づいて、前記作業機に対して水平方向に形成される直線状の固定ラインに対して相対的に移動する直線状の可動ラインを備えていることを特徴とする。
【0011】
この作業機の表示装置によれば、可動ラインを視認することで、作業機のフロント先端と施工目標位置との位置関係を認識することができる。表示装置は運転室の前窓に取り付けられており、オペレータが作業機のフロントを視認する視野の範囲内に入っており、前方を視野とする場合と表示装置を視認する場合とで視線を切り替える必要がなくなる。このために、オペレータはフロント先端と施工目標位置との位置関係を容易に認識することができる。
【0012】
また、前記左位置に連動して昇降動作を行う前記可動ラインの左端に接続される左側可動部と、前記右位置に連動して昇降動作を行う前記可動ラインの右端に接続される右側可動部と、前記左位置および前記右位置と前記施工目標位置との位置関係に基づいて、前記左側可動部と前記右側可動部とを独立に昇降動作させる駆動部と、を備えていることを特徴とする。
【0013】
可動ラインの両端に設けられる左側可動部と右側可動部との両者を、フロント先端と施工目標位置との位置関係に基づいて独立して動作させることで、フロント先端と施工目標位置との相対的な位置関係を認識することができると共に、施工目標位置に対するフロント先端の角度を直感的に認識することができる。
【0014】
また、前記作業機の上部旋回体の位置を検出するGPSと前記作業機のフロントの角度を検出する角度センサとに基づいて前記左位置および前記右位置を検出する位置検出部と、予め記憶された前記施工目標位置の位置情報と前記位置検出部が検出する前記左位置および前記右位置との間隔に基づいて前記駆動部を駆動させるコントローラと、を備えていることを特徴とする。
【0015】
フロント作業機の左位置および右位置を検出するために、GPSおよび角度センサを用いることができる。フロント先端にバケットを装着した場合には、ブームの角度センサ、アームの角度センサ、バケットの角度センサおよび上部旋回体の傾きを計測する傾斜センサ、並びにGPSを用いることにより、フロント先端の左位置および右位置を検出することができる。
【0016】
また、前記左側可動部および前記右側可動部の移動量に応じて前記左側可動部および前記右側可動部の移動速度を変化させることを特徴とする。
【0017】
左側可動部および右側可動部の移動量に応じて移動速度を変化させている。移動量が多いときには移動速度を高速にして、移動量が少ないときには移動速度を低速にする。これにより、表示装置の表示を安定的に行うことができる。
【0018】
また、前記固定ラインと前記可動ラインとの距離に応じて前記左側可動部および前記右側可動部の移動速度を変化させることを特徴とする。
【0019】
固定ラインと可動ラインとの距離に応じて移動速度を変化させることもできる。固定ラインと可動ラインとの距離が長い場合には移動速度を高速にし、短い場合には移動速度を低速にすることができる。これにより、表示装置の表示を安定的に行うことができる。
【0020】
また、前記コントローラは、前記フロント先端と前記施工目標位置との距離を表示させる距離表示モードと、前記可動ラインと前記固定ラインとが平行であるか否かに基づいて前記作業機の姿勢が水平であるか否かを判定する水平器モードとを切り替え可能に構成したことを特徴とする。
【0021】
可動ラインと固定ラインとを用いることにより、作業機の姿勢が水平面に平行であるか否かを認識する水平器モードとしても使用することができる。水平器モードとして使用するときも、オペレータは運転室前面を視認しながら表示装置を確認することで、作業機の姿勢を確認できる。これにより、視線を切り替えることがなくなることから、オペレータの視認性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】油圧ショベルの全体構成図である。
【図2】表示装置の全体構成を示す図である。
【図3】コントローラおよびこれに接続される各部を説明するブロック図である。
【図4】実施形態の動作を示すフローチャートである。
【図5】バケットと施工目標位置とに応じた可動ラインと固定ラインとを示す図である。
【図6】可動ラインを移動するときの移動速度を説明するための図である。
【図7】水平器モードを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。ここでは、作業機として、フロント先端にバケットを装着した油圧ショベルを例示して説明するが、油圧ショベルには限定されない。例えば、ブレードを装着したブルドーザや整地に用いられるグレーダ等を作業機として適用することができる。また、フロント先端にはバケット以外を装着してもよい。作業機が行う作業としては、掘削、仕上げ、敷き均し等がある。
【0024】
図1は作業機としての油圧ショベル1を示している。油圧ショベル1はクローラ式走行体からなる下部走行体2を有しており、下部走行体2には上部旋回体3が設けられている。上部旋回体3にはオペレータが搭乗して機械の操作を行うための運転室4が設置されている。また、掘削等の作業を行うためのフロント作業機5が設けられている。上部旋回体3には、運転室4およびフロント作業機5の後方位置に建屋等が設けられており、最後端部にはカウンタウェイト6が設けられている。
【0025】
フロント作業機5はブーム7とアーム8とフロント先端としてのバケット9とを設けて構成している。ブーム7は、その基端部が上部旋回体3のフレームに連結ピンにより軸支されて俯抑動作可能に構成している。ブーム7の先端にはアーム8が上下方向に回動可能に連結されており、さらにアーム8の先端にはバケット9が回動可能に連結されている。ブーム7の俯抑動作はブームシリンダ7aを駆動することにより行われる。アーム8はアームシリンダ8aにより、バケット9はバケットシリンダ9aにより駆動される。
【0026】
上部旋回体3には、この上部旋回体3の位置情報を取得するためのRTK−GPS(Real Time Kinematic Global Positioning System)計測を行うための装置が設けられている。このRTK−GPSを使用するために、上部旋回体3に2本のGPSアンテナ10、11を設けている。また、上部旋回体3には無線機12が設けられている。この無線機12は電子基準点(基準局GPS)からの補正データを無線で取得する。これにより、GPSアンテナ10、11から得られるGPS情報の補正を行って、正確な位置情報を取得する。
【0027】
フロント作業機5としてのブーム7、アーム8、バケット9には、それぞれの角度を検出するブーム角度センサ13、アーム角度センサ14、バケット角度センサ15が設けられている。ブーム角度センサ13は上部旋回体3に対するブーム7の角度を検出している。アーム角度センサ14はブーム7に対するアーム8の角度を検出している。バケット角度センサ15はアーム8に対するバケット9の角度を検出している。また、上部旋回体3の前後左右の傾斜を検出する傾斜センサ16が上部旋回体3に設けられている。
【0028】
運転室4にはブーム7、アーム8、バケット9、そして上部旋回体3を操作する操作レバーが設けられている。また、運転室4にはGPSアンテナ10、11、無線機12、各種角度センサ13、14、15および傾斜センサ16からの情報を取得して、予め記憶されている情報に基づいて、所定の演算を行う演算装置17(後述する)が設けられている。そして、この演算装置17に接続される表示装置18が運転室4の前窓に取り付けられている。
【0029】
図2は表示装置18を示している。表示装置18は台座21とストッパ22と左側ボールネジ23Lと右側ボールネジ23Rと左側ガイド24Lと右側ガイド24Rと左側モータ25Lと右側モータ25Rと左側可動部26Lと右側可動部26Rと固定ライン27と可動ライン28とを備えて構成している。
【0030】
台座21はL字形状をしており、表示装置18の全体の台座となる。台座21は表示装置18の下部を固定しており、表示装置18の上部はストッパ22により固定される。従って、表示装置18は台座21とストッパ22とにより運転室4の前窓のガラス面やピラー、ルーフ、フレーム等に固定される。
【0031】
左側ボールネジ23Lは左側モータ25Lにより駆動される。左側モータ25Lを駆動することで、左側ボールネジ23Lの駆動力が伝達されて、左側可動部26Lが左側ガイド24Lに沿って昇降動作(上下動)を行う。同様に右側ボールネジ23Rは右側モータ25Rにより駆動される。右側モータ25Rを駆動することで、右側ボールネジ23Rの駆動力が伝達されて、右側可動部26Rが右側ガイド24Rに沿って昇降動作(上下動)を行う。左側モータ25Lと右側モータ25Rとはそれぞれ独立して駆動を行っており、左側可動部26Lと右側可動部26Rとはそれぞれ独立に昇降動作を行う。
【0032】
L字状の台座21の上部位置、例えば左側可動部26Lおよび右側可動部26Rの可動範囲内の中間点近傍に固定ライン27が設けられている。固定ライン27は台座21に取り付けられたバーであり、左側可動部26L、右側可動部26Rが昇降動作する方向と直交する方向(水平面方向)に直線状に設けられている。
【0033】
左側可動部26Lの中央部分と右側可動部26Rの中央部分との間を直線状に接続するように可動ライン28を設けている。可動ライン28は伸縮自在な弾性体であり、例えばゴム等を使用することができる。可動ライン28は常に張力が作用している状態となっており、左側可動部26Lと右側可動部26Rとが同じ高さ位置にあるとき、つまり可動ライン28が最も短いときでも張力が作用して直線状を維持している。そして、左側可動部26Lと右側可動部26Rとの高さ位置が異なる場合には、さらに張力が作用して、直線状を維持する。
【0034】
従って、固定ライン27と可動ライン28とは直線状のラインを形成するが、固定ライン27と可動ライン28とは前後にずれた方向に位置するようにしている。左側可動部26L、右側可動部26Rが昇降動作することにより可動ライン28は上下動するが、固定ライン27と前後にずれた位置に配置しているため、可動ライン28と固定ライン27とが干渉することはない。
【0035】
図3は、左側モータ25Lおよび右側モータ25Rの駆動制御を行っているコントローラ30を示している。コントローラ30はCPU31とメモリ32と入力ポート33と通信ポート34と左側出力ポート35と右側出力ポート36とを備えている。このコントローラ30の入力ポート33にモード選択スイッチ37が接続され、左側出力ポート35に左側モータ駆動ドライバ38が接続され、右側出力ポート36に右側モータ駆動ドライバ39が接続されている。また、通信ポート34には演算装置17が接続されている。
【0036】
モード選択スイッチ37は距離表示モードと水平器モードとの2つのモードを選択できるスイッチである。選択されたスイッチの情報は入力ポート33からコントローラ30に入力される。演算装置17は所定の演算を行い、演算結果は通信ポート34を介してコントローラ30に入力される。
【0037】
コントローラ30のCPU31は入力ポート33から入力したモードの情報と通信ポート34から入力した演算結果の情報とに基づいて、左側モータ25Lおよび右側モータ25Rの駆動量を制御する。この駆動量の情報は左側出力ポート35から左側モータ駆動ドライバ38に出力され、左側モータ駆動ドライバ38が左側モータ25Lを駆動する。また、コントローラ30から出力された駆動量の情報は右側出力ポート36から右側モータ駆動ドライバ39に出力され、右側モータ駆動ドライバ39が右側モータ25Rを駆動する。よって、コントローラ30と左側モータ駆動ドライバ38と右側モータ駆動ドライバ39と左側モータ25Lと右側モータ25Rとにより駆動部が構成される。
【0038】
コントローラ30は左側モータ25Lおよび右側モータ25Rの駆動量だけでなく、これらのモータの駆動速度を設定している。この設定した駆動量および駆動速度で左側モータ25Lおよび右側モータ25Rを駆動して、左側可動部26Lおよび右側可動部26Rの移動量および移動速度が制御される。ここでは、左側可動部26Lおよび右側可動部26Rの可動範囲のうち0%〜100%(0%が最も低い位置であり、100%が最も高い位置である)を設定することで、移動量を制御する。また、移動速度も0%〜100%(0%が最も遅く、100%が最も速い)で制御を行う。
【0039】
次に、図4のフローチャートを参照して、以上の構成の動作について説明する。最初に、オペレータはモード選択スイッチ37を使用して、距離表示モードと水平器モードとのうち何れかのモードを選択する(ステップS1)。距離表示モードが選択された場合には、ステップS2に移行し、水平器モードが選択された場合には、ステップS11に移行する。
【0040】
距離表示モードは作業機のフロント先端、つまりバケット9の位置と施工目標位置との位置関係を表示装置18で表示するモードである。この距離表示モードが選択されたときには、コントローラ30は通信ポート34を介して、演算装置17に対して距離情報を取得するように要求する(ステップS2)。
【0041】
前述したように、演算装置17には位置検出部としての、2本のGPSアンテナ10、11、無線機12、ブーム角度センサ13、アーム角度センサ14、バケット角度センサ15および傾斜センサ16が接続されている。GPSアンテナ10、11および無線機12により油圧ショベル1の上部旋回体3の位置情報が取得される。
【0042】
よって、GPSアンテナ10、11および無線機12により得られる位置情報に対して、ブーム角度センサ13、アーム角度センサ14、バケット角度センサ15および傾斜センサ16の情報を付加することで、バケット9の3次元の位置情報を取得することができる。ここでは、バケット9のうち左位置と右位置との位置情報を取得する。左位置はバケット9の左端部に設定し、右位置はバケット9の右端部に設定することができる。勿論、端部ではなく、任意の位置を左位置、右位置とすることができる。これにより、演算装置17はバケット9の左位置および右位置の3次元の位置情報を取得することができる。
【0043】
一方、演算装置17には予め施工目標位置の情報が記憶されている。この施工目標位置の情報は、掘削等の作業を行うときに目標となる面の情報である。この施工目標位置の情報はGPSアンテナ10、11および無線機12により得られる3次元の位置情報の中における目標となる面の情報である。
【0044】
従って、演算装置17はバケット9の左位置および右位置の位置情報と施工目標位置の情報との位置関係を認識することができる。このときの施工目標位置からバケット9の左位置までの距離情報をLL、施工目標位置からバケット9の右位置までの距離情報をLRとして演算装置17が演算する。
【0045】
距離情報LL、LRが正の値となるときには、施工目標位置よりもバケット9が高く位置していることになる。一方、距離情報LL、LRが負の値となるときには、施工目標位置よりもバケット9が低く位置していることになる。通常は、施工目標位置よりもバケット9は高く位置しているため、距離情報LL、LRは正の値になる。
【0046】
コントローラ30は演算装置17から距離情報LL、LRを取得するまでは、距離情報の取得要求を演算装置17に対して出力し続ける(ステップS3)。通信ポート34を介して、演算装置17からコントローラ30に距離情報LL、LRが入力されたときに、コントローラ30のCPU31は距離情報LL、LRをメモリ32に記憶させる(ステップS4)。
【0047】
コントローラ30のCPU31はメモリ32に記憶されている距離情報LL、LRに基づいて、以下の式(1)および(2)の演算を行う。
HL=50+100×LL/La・・・(式1)
HR=50+100×LR/La・・・(式2)
HLは距離情報LLに基づいた左側可動部26Lの位置、HRは距離情報LRに基づいた右側可動部26Rの位置を示している。Laは左側可動部26Lおよび右側可動部26Rの可動範囲を示している。つまり、式(1)において、左側可動部26Lの可動範囲Laのうち50%を境界として、距離情報LLを表示装置18の可動範囲Laに換算したときの左側可動部26Lの位置になる。同様に、式(2)は50%を境界として、距離情報LRを表示装置18の可動範囲Laに換算したときの右側可動部26Rの位置になる。なお、位置情報HL、HRは0〜100%の範囲内であるものとする。
【0048】
このときに、演算装置17は左側可動部26L、右側可動部26Rの位置情報HL、HRだけでなく、このHL、HRに左側可動部26L、右側可動部26Rを移動させるときの移動速度を演算する。この演算は以下の式(3)および(4)により行う。
VL=(LL1−LL)/K・・・式(3)
VR=(LL2−LL)/K・・・式(4)
ただし、VLおよびVRは式(3)および(4)の右辺の絶対値であるものとする。また、Kは係数である。さらに、移動速度VL、VRは共に10%〜100%の範囲内であるものとする。
【0049】
左側可動部26Lおよび右側可動部26Rの駆動は一定の周期で行われている(例えば、500msec)。そこで、コントローラ30のメモリ32には前回の演算周期(つまり、前回に左側可動部26L、右側可動部26Rを移動させたとき)における距離情報を記憶している。この前回の距離情報のうち左側可動部26Lの距離情報が式(3)のLL1、右側可動部26Rの距離情報が式(4)のLR1である。CPU31はメモリ32からLL1、LL2を読み出して、前記の式(3)および(4)の演算を行う(ステップS5)。
【0050】
式(3)および(4)から、前回の距離情報LL1、LL2と今回の距離情報LL1、LL2との差分が大きくなると、移動量が大きくなる。この場合には、左側可動部26L、26Rを移動させるときの移動速度VL、VRを高速にする。一方、前回の距離情報LL1、LL2と今回の距離情報LL1、LL2との差分が小さい場合、つまり移動量が少ない場合には、左側可動部26L、26Rを移動させるときの移動速度VL、VRは低速にする。なお、Kは係数であり、このKの値を適宜に設定することで、移動速度VL、VRを全体的な速度のコントロールができる。
【0051】
コントローラ30のCPU31は左側出力ポート35を介して、左側モータ駆動ドライバ38に対して、位置情報HLと移動速度VLとを出力する(ステップS6)。左側モータ駆動ドライバ38は左側モータ25Lに対して、左側可動部26Lが可動範囲LaのうちHLに位置するように駆動制御を行う。つまり、可動範囲Laのうち50%を境界として、式(1)で示される0%〜100%までのうち位置情報HLに応じた位置に左側可動部26Lを位置させる。これにより、左側モータ25Lが駆動することにより、左側ボールネジ23Lが回転し、左側可動部26Lが昇降動作を行う。そして、位置情報HLの位置に到達するまで左側可動部26Lを移動させる。
【0052】
このときに、移動速度VLで左側可動部26Lが移動するように左側モータ25Lが駆動制御を行う。移動速度VLが高速なときには左側モータ25Lを高速に駆動し、移動速度VLが低速なときには左側モータ25Lを低速に駆動する。これにより、左側可動部26Lは移動速度VLでHLの位置まで移動する。
【0053】
同様に、コントローラ30のCPU31は右側出力ポート36を介して、右側モータ駆動ドライバ39に対して、位置情報HRと移動速度VRとを出力する。右側モータ駆動ドライバ39は右側モータ25Rに対して、右側可動部26Rが可動範囲LaのうちHRに位置するように駆動制御を行う。つまり、可動範囲Laのうち50%を境界として、式(2)で示される0%〜100%までの位置情報HRに応じた位置に右側可動部26Rを位置させる。これにより、右側モータ25Rが駆動することにより、右側ボールネジ23Rが回転し、右側可動部26Rが昇降動作を行う。そして、位置情報HRの位置に到達するまで右側可動部26Rを移動させる。
【0054】
このときに、移動速度VRで右側可動部26Rが移動するように右側モータ25Rが駆動制御を行う。移動速度VRが高速なときには右側モータ25Rを高速に駆動し、移動速度VRが低速なときには右側モータ25Rを低速に駆動する。これにより、右側可動部26Rは移動速度VRでHRの位置まで移動する。
【0055】
以上のようにして、左側可動部26Lおよび右側可動部26Rが昇降動作を行う。前述したように、距離情報LL、LRはバケット9の左位置、右位置と施工目標位置との間の距離になる。そして、当該距離情報LL、LRを式(1)および(2)により、表示装置18の可動範囲Laの中での相対的な高さ位置(0%〜100%)をHL、HRとして演算している。このHL、HRは実際のバケット9と施工目標位置との位置関係を示しており、当該HL、HRに基づいて左側可動部26L、右側可動部26Rを移動させることで、実際の距離情報LL、LRに基づいた高さ位置HL、HRに左側可動部26L、右側可動部26Rを位置させることができる。
【0056】
可動範囲Laの50%の位置に固定ライン27が設けられている。この固定ライン27に対して、左側可動部26L、右側可動部26Rが昇降動作を行う。左側可動部26Lと右側可動部26Rとの間は直線状の弾性体である可動ライン28により結ばれている。左側可動部26L、右側可動部26Rが昇降動作を行うことで、可動ライン28も変化する。
【0057】
固定ライン27と可動ライン28とは、施工目標位置とバケット9との相対的な位置関係を示している。図5(a)は実際のバケット9と施工目標位置との関係を示しており、同図(b)は固定ライン27と可動ライン28との位置関係を示している。バケット9が施工目標位置に対して傾きを有している場合、つまり距離情報LLと距離情報LRとに差を有している場合には、同図(b)に示すように、固定ライン27と可動ライン28との間にも傾きを生じる。
【0058】
つまり、固定ライン27と可動ライン28とは施工目標位置とバケット9との相対的な位置関係を示しており、表示装置18の固定ライン27と可動ライン28とを視認するだけで、実際のバケット9と施工目標位置との相対的な位置関係を直感的に且つ正確に把握することができる。また、施工目標位置に対してバケット9が傾きを生じていれば、固定ライン27と可動ライン28とを視認することにより、前記の傾きを視覚的に認識することができる。
【0059】
表示装置18は運転室4の前窓に取り付けられている。運転室4に搭乗しているオペレータは運転室4の前窓から前方を視野として作業を行う。このときに、運転室4の前窓に表示装置18を取り付けることで、オペレータが作業を行うときの視野の範囲に表示装置18が入ることになる。従って、オペレータは視線を切り替えることなく、掘削等の作業と表示装置18の確認とを行うことができる。これにより、オペレータの視認性を良好にして、施工目標位置とバケット9との位置関係を容易に認識することができる。
【0060】
可動ライン28は実際のバケット9と施工目標位置との距離(距離情報LL、LR)に基づいて、一定周期ごとに距離情報LL、LRを反映している。よって、固定ライン27を基準として可動ライン28を参照することで、実際のバケット9と施工目標位置との間隔を認識することが可能になる。
【0061】
可動ライン28と固定ライン27とが平行になっていないときには、オペレータは運転室4の前窓の表示装置18の固定ライン27と可動ライン28とが平行となるように、油圧ショベル1を操作する。オペレータが上部旋回体3の旋回操作を行ったとき、或いは下部走行体2の走行操作を行ったときには、バケット9と施工目標位置との位置関係が変化する。この変化に伴い、固定ライン27に対して可動ライン28が変位する。従って、オペレータは油圧ショベル1の操作を行って、固定ライン27と可動ライン28とが平行になる状態、つまりバケット9と施工目標位置とが平行となるような状態にする。そして、この状態にした後に、掘削等の作業を行う。
【0062】
また、前述したように、左側可動部26L、右側可動部26Rが昇降動作を行う速度は移動速度VH、VLとして制御がされている。つまり、左側可動部26L、右側可動部26Rの移動量が多いときには移動速度VH、VLを高速に移動させ、移動量が少ないときには移動速度VH、VLを低速に移動させる。図6は、移動速度VH、VLを説明した図である。
【0063】
同図(a)に示すように、左側可動部26L、右側可動部26Rの移動量が多い場合、つまり施工目標位置に対してバケット9を大きく移動させる場合には、短時間で高速に移動させるようにしている。これは、停止位置誤差等との関係から直ちに目標となる位置に可動ライン28を移動させるためである。同図においては、0.1秒後に可動ライン28を目標位置にまで移動させている。
【0064】
一方、同図(b)に示すように、左側可動部26L、右側可動部26Rの移動量が少ない場合、つまり施工目標位置に対してバケット9をそれほど移動させない場合には、長時間をかけて低速に移動させるようにしている。これは、可動ライン28の動作が誤差範囲内の動きとなることなり、微細な制御が要求されるためである。同図においては、0.3秒後に可動ライン28を目標位置にまで移動させている。これにより、ブーム角度センサ13、アーム角度センサ14、バケット角度センサ15といった各種センサに検出誤差を生じたとしても、その誤差の影響を抑制することができる。このため、安定的な左側可動部26L、右側可動部26Rの移動を実現することができる。
【0065】
左側モータ25L、右側モータ25Rを駆動して、左側可動部26L、右側可動部26Rを変位させた後に、処理を終了する。これにより、距離表示モードが終了する。前述したように、距離表示は一定の周期で行われるため、距離表示モードが選択されているときには、一定周期ごとに左側可動部26Lおよび右側可動部26Rを駆動する。
【0066】
一方、ステップS1において、モード選択スイッチ37により水平器モードが選択された場合には水平器モードに移行する。水平器モードに移行したときには、コントローラ30は演算装置17に対して左右の傾斜情報を要求する(ステップS11)。この要求はコントローラ30が演算装置17から傾斜情報が取得されるまで行われる(ステップS12)。演算装置17には傾斜センサ16が接続されており、傾斜センサ16から上部旋回体3の左右傾斜角度αが演算装置17に出力される。コントローラ30はこの左右傾斜角度αの情報を演算装置17から取得する。
【0067】
コントローラ30は演算装置17から取得した左右傾斜角度αの情報に基づいて、以下の式(5)および(6)の演算を行う。
HL1=50×(1−(Lb/La)×tanα))・・・式(5)
HR1=50×(1+(Lb/La)×tanα))・・・式(6)
式(5)および(6)のうち、Laは前述したように左側可動部26Lおよび右側可動部26Rの可動範囲を示している。一方、Lbは水平距離を示しており、可動ライン28が水平方向になったときの左側可動部26Lと右側可動部26Rとの距離を示している。
【0068】
図7(a)〜(c)は油圧ショベル1の水平面に対する傾斜状態およびそのときの可動ライン28と固定ライン27との関係を示している。同図(a)のように油圧ショベル1が傾斜している場合は、傾斜センサ16より演算装置17から左右傾斜角度αが取得される。この左右傾斜角度αに基づいて、コントローラ30は式(5)および(6)の演算を行う。
【0069】
そして、位置情報HL1を左側モータ駆動ドライバ38に出力し、位置情報HR1を右側モータ駆動ドライバ39に出力する。左側モータ駆動ドライバ38は左側モータ25Lを駆動して、左側可動部26Lの位置がHL1となるように制御する。右側モータ駆動ドライバ39は右側モータ25Rを駆動して、右側可動部26Rの位置がHR1となるように制御する(ステップS13)。なお、左側可動部26Lおよび右側可動部26Rの移動速度は任意に設定してよく、例えば100%の速度で移動させることができる。
【0070】
位置情報HL1およびHR1は、実際の油圧ショベル1の左右傾斜角度αを反映した左側可動部26Lおよび右側可動部26Rの位置になる。よって、式(5)および式(6)で演算した分だけ左側可動部26Lおよび右側可動部26Rを移動させることで、実際の油圧ショベル1の傾きを表示装置18の表示系で表示することができる。つまり、可動ライン28と固定ライン27とにより、水平面に対する油圧ショベル1の傾きを再現することができる。これが水平器として使用される。
【0071】
前述したように、オペレータは運転室4の前窓から前方を視野としており、この視野の範囲内に表示装置18が設けられている。よって、表示装置18を視認することにより、オペレータの視線を切り替えることなく、油圧ショベル1が水平面に対してどの程度傾斜しているかを直感的に認識することができる。
【0072】
そして、水平器モードが終了したときに、全体の処理を終了する。水平器モードと距離表示モードとはそれぞれ独立して使用することができるが、例えば水平器モードとして使用した後に距離表示モードとして使用することができる。まず、水平器モードを選択して、表示装置18を視認することで、油圧ショベル1の傾斜状態を認識する。
【0073】
油圧ショベル1が水平面に対して傾斜している場合には、操作レバーを用いて油圧ショベル1を平坦な地面の位置まで前進或いは後進させる等して、油圧ショベル1が水平面に対して平行な状態となるようにする。これにより、可動ライン28と固定ライン27とが平行になる。この可動ライン28と固定ライン27とを視認しながら油圧ショベル1の操作を行うことで、図7(a)或いは(b)のような傾斜状態であったものが、同図(c)のように水平面に対して平行な状態になる。
【0074】
この状態で、次に距離表示モードに切り替える。つまり、油圧ショベル1が水平面に対して平行な状態で距離表示モードに切り替える。距離表示モードでは、バケット9と施工目標位置との距離が表示される。運転室4に搭乗しているオペレータは、運転室4の前窓に取り付けられた表示装置18の可動ライン28と固定ライン27とを視認することにより、バケット9と施工目標位置との位置関係を認識する。これにより、オペレータは油圧ショベル1を水平面に平行な状態にして、表示装置18を視認しながら、掘削等の作業を行うことができる。
【0075】
以上において、本実施形態では、可動ライン28を左側可動部26Lおよび右側可動部26Rを用いて移動させているが、左側可動部26Lと右側可動部26Rとのうち何れか1つを設けて、その可動部に回動機構を設けるようにしてもよい。この場合には、可動ライン28は弾性力を有しないバーを用いるようにする。可動ライン28は固定ライン27に対して変位させるものであり、固定ライン27に対して可動ライン28を上下動させて、その傾きを可動部に設けた回動機構により表現することで、施工目標位置とバケット9との位置関係を表現することができる。
【0076】
また、コントローラ30は一定周期ごとに左側可動部26Lおよび右側可動部26Rを駆動させることにより可動ライン28を変位させているが、オペレータの制御により可動ライン28の動作を停止させるようにしてもよい。例えば、施工目標位置とバケット9とが平行になれば掘削作業を開始できるため、固定ライン27と可動ライン28とが平行になった後には、可動ライン28を移動させないように制御してもよい。
【0077】
また、可動ライン28は運転室前面のガラス窓に接触するような位置に設けてもよいし、接触しないよう位置に設けてもよい。ガラス窓に接触する位置と接触しない位置とに台座21を変位させるような構成としてもよい。また、図2の表示装置18の構成では、台座21とストッパ22とを分離した構成としているが、台座21とストッパ22とを一体の構成として、全体を取り囲むような枠体として構成してもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 油圧ショベル
3 上部旋回体
4 運転室
5 フロント作業機
10、11 GPSアンテナ
12 無線機
13 ブーム角度センサ
14 アーム角度センサ
15 バケット角度センサ
16 傾斜センサ
17 演算装置
18 表示装置
25L 左側モータ
25R 右側モータ
26L 左側可動部
26R 右側可動部
27 固定ライン
28 可動ライン
30 コントローラ
37 モード選択スイッチ
38 左側モータ駆動ドライバ
39 右側モータ駆動ドライバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機の運転室の前窓に取り付けられ、前記作業機のフロント先端の左位置および右位置と施工目標位置との位置関係に基づいて、前記作業機に対して水平方向に形成される直線状の固定ラインに対して相対的に移動する直線状の可動ラインを備えていること
を特徴とする作業機の表示装置。
【請求項2】
前記左位置に連動して昇降動作を行う前記可動ラインの左端に接続される左側可動部と、
前記右位置に連動して昇降動作を行う前記可動ラインの右端に接続される右側可動部と、
前記左位置および前記右位置と前記施工目標位置との位置関係に基づいて、前記左側可動部と前記右側可動部とを独立に昇降動作させる駆動部と、
を備えていることを特徴とする請求項1記載の作業機の表示装置。
【請求項3】
前記作業機の上部旋回体の位置を検出するGPSと前記作業機のフロントの角度を検出する角度センサとに基づいて前記左位置および前記右位置を検出する位置検出部と、
予め記憶された前記施工目標位置の位置情報と前記位置検出部が検出する前記左位置および前記右位置との間隔に基づいて前記駆動部を駆動させるコントローラと、
を備えていることを特徴とする請求項2記載の表示装置。
【請求項4】
前記左側可動部および前記右側可動部の移動量に応じて前記左側可動部および前記右側可動部の移動速度を変化させること
を特徴とする請求項3記載の作業機の表示装置。
【請求項5】
前記固定ラインと前記可動ラインとの距離に応じて前記左側可動部および前記右側可動部の移動速度を変化させること
を特徴とする請求項3記載の作業機の表示装置。
【請求項6】
前記コントローラは、前記フロント先端と前記施工目標位置との距離を表示させる距離表示モードと、前記可動ラインと前記固定ラインとが平行であるか否かに基づいて前記作業機の姿勢が水平であるか否かを判定する水平器モードとを切り替え可能に構成したこと
を特徴とする請求項3記載の作業機の表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−87577(P2013−87577A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231578(P2011−231578)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】