説明

作業機械

【課題】角度検出器の破損を防止でき、しかも、アタッチメント姿勢を正確に演算することができる作業機械を提供する。
【解決手段】係合ピン(15)と第2連結ピン(22)と第4連結ピン(24)とを直線で結んで形成される三角形の内角のうち、係合ピンを頂点とする内角θを検出する角度検出手段(16)と、油圧シリンダ(9)のストローク位置が、前記三角形の第4連結ピンを頂点とする内角θが90度となる閾値より伸長側にあるか、それとも収縮側にあるかを判定するシリンダ駆動方向判定手段(31)と、前記内角θと、前記シリンダ駆動方向判定手段の判定結果とに基づいて、第1連結ピンと第2連結ピンと第3連結ピンと第4連結ピンとを直線で結んで形成される四角形の内角のうち、第1連結ピンを頂点とする内角θATTを演算するアタッチメント姿勢角度演算手段(32)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の作業機械に関し、特に、フロント作業機の一部であるアタッチメントの姿勢を演算する装置を備えた作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルに代表される作業機械にあっては、しばしば重量物をある個所から別の個所へと移送する作業を行う。このような作業において、これら重量物の荷重を計測するために荷重計測装置が使われている。また、油圧ショベルは、一般に、ブーム、アーム、およびアタッチメント(例えば、バケット)で構成されたフロント作業機を備えており、このフロント作業機を自動的に制御する制御装置を搭載しているものもある。この制御装置は、例えば、油圧シリンダの駆動速度を制御して、人間による操作では困難なアタッチメント先端が直線軌道を描く動作を実現している。また、油圧ショベルには、フロント作業機とキャブの接触を回避するための安全装置(運転監視装置)が設けられており、フロント作業機の先端がキャブ付近に近づくと安全装置が作動して警報が鳴り、さらに危険な状態になるとフロント作業機の動作が停止するようになっている。
【0003】
また、ブーム、アーム、およびアタッチメントにはそれぞれ角度検出器(例えば、ポテンショメータ)が取り付けられおり、制御装置は、これら角度検出器からの入力値に基づいて各種演算等を行うことにより、フロント作業機の動作を制御したり警報を発したりしていた。これらの角度検出器は、従来、ブーム、アーム、アタッチメントそれぞれの基部に配置されていた。しかし、特にアタッチメント姿勢の計測において、土砂等の作業対象物との接触によりアタッチメント基部に配置された角度検出器が破損する虞がある。例えば、アタッチメントとしてバケットを備えた油圧ショベルによる掘削作業では、バケット角度を検出する角度検出器が土砂や岩石と接触すると、破損につながることとなる。
【0004】
そこで、角度検出器をバケットシリンダ(油圧シリンダ)の駆動をアタッチメントに伝達する4節リンク機構付近に配置してアタッチメント基部から離すことで、破損を防ぐ角度検出器の配置が考案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3151018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の角度検出器の配置では、4節リンク機構やバケットシリンダ先端が地表面より下方に埋没するような深い掘削作業や、フロントが上向きになる建物の解体作業では、土砂と接触したり、建物の破片がアタッチメントやアームを伝わって降り注いだりすることで、4節リンク機構またはバケットシリンダ先端付近に取り付けられた角度検出器が破損する虞がある。また、角度検出器が破損すると、各種演算を正確に行うことが困難になるといった課題もあった。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、角度検出器の破損を防止でき、しかも、アタッチメント姿勢を正確に演算することができる作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、アームと、このアームの先端部に4節リンク機構を介して取り付けられたアタッチメントと、このアタッチメントを駆動する油圧シリンダと、この油圧シリンダに駆動指令を出力する操作装置と、を備え、前記4節リンク機構は、前記アームの先端部に設けられ、前記アタッチメントの回転中心となる第1連結ピンと、この第1連結ピンより後端側の前記アームに設けられた第2連結ピンと、一端が前記第1連結ピンと連結し、他端が前記第2連結ピンと対角の位置にある第3連結ピンと連結する前側リンクと、一端が前記第2連結ピンと連結し、他端が前記第1連結ピンと対角の位置にある第4連結ピンと連結する後側リンクと、一端が前記第3連結ピンと連結し、他端が前記第4連結ピンと連結する上側リンクとにより構成され、前記油圧シリンダは、その先端部が前記第4連結ピンと回動自在に連結すると共に、後端部が前記アームの後端部に設けられた係合ピンと回動自在に連結しており、前記油圧シリンダの伸縮動作に伴って前記第4連結ピンが可動することにより、前記アタッチメントが前記第1連結ピン回りに回動する作業機械において、前記係合ピンと前記第2連結ピンと前記第4連結ピンとを直線で結んで形成される三角形の内角のうち、前記係合ピンを頂点とする内角θ1を前記アームと前記油圧シリンダとの相対角度として検出する角度検出手段と、前記油圧シリンダのストローク位置が、前記三角形の前記第4連結ピンを頂点とする内角θ2が90度となる閾値より伸長側にあるか、それとも収縮側にあるかを判定するシリンダ駆動方向判定手段と、前記角度検出手段が検出した前記内角θ1と、前記シリンダ駆動方向判定手段の判定結果とに基づいて、前記第1連結ピンと前記第2連結ピンと前記第3連結ピンと前記第4連結ピンとを直線で結んで形成される四角形の内角のうち、前記第1連結ピンを頂点とする内角θATTを前記アタッチメントの前記アームに対する姿勢角度として演算するアタッチメント姿勢角度演算手段と、を備えたことを特徴としている。
【0009】
本発明によれば、アタッチメント姿勢角度演算手段がアタッチメントのアームに対する姿勢角度としての角度θATTを演算するにあたって、シリンダ駆動方向判定手段の判定結果を考慮しているから、油圧シリンダの伸縮動作に応じて正しいアタッチメントの姿勢角度を演算することができる。さらに、本発明では、内角θ1を入力できさえすれば、角度検出手段が設置される位置はどこであっても、アタッチメント姿勢角度θATTを演算することができる。よって、角度検出手段をアタッチメントから遠ざけた位置に取り付けることが可能となるから、作業機械が掘削作業等を行っていても、その作業中に角度検出器が破損する心配はなくなる。加えて、角度検出器の破損がなくなることにより、長期間に亘ってアタッチメントの姿勢角度を正しく測定することができる。
【0010】
また、上記構成において、前記シリンダ駆動方向判定手段は、前記油圧シリンダのロッド室およびボトム室のそれぞれに対応するパイロット圧を検出するための圧力センサから入力されたそれぞれの圧力値から、前記油圧シリンダのストローク位置が前記閾値より前記伸長側にあるか、それとも前記収縮側にあるかを判定するように構成すると良い。
【0011】
また、上記構成において、前記シリンダ駆動方向判定手段は、前記操作装置の操作レバーの角度を検出するための操作レバー角度検出手段から入力された前記操作レバーの傾斜角度に基づいて、前記油圧シリンダのストローク位置が前記閾値より前記伸長側にあるか、それとも前記収縮側にあるかを判定するように構成することもできる。この構成によれば、圧力センサを設ける必要がないといった利点がある。
【0012】
また、上記構成において、前記シリンダ駆動方向判定手段は、前記油圧シリンダのロッド室およびボトム室の各室内の作動油圧力を検出するための圧力センサから入力されたそれぞれの圧力値と、前記各室のシリンダ受圧面積との積から前記各室におけるシリンダ推力を演算し、その演算結果に基づいて、前記油圧シリンダのストローク位置が前記閾値より前記伸長側にあるか、それとも前記収縮側にあるかを判定するように構成しても構わない。
【0013】
また、上記構成において、前記シリンダ駆動方向判定手段は、前記油圧シリンダのロッド室およびボトム室の各室内に流れ込む作動油流量を検出するための流量計から入力されたそれぞれの流量値に基づいて、前記油圧シリンダのストローク位置が前記閾値より前記伸長側にあるか、それとも前記収縮側にあるかを判定するように構成することもできる。この構成によれば、圧力センサを設ける必要がないといった利点がある。
【0014】
また、上記構成において、前記アタッチメント姿勢角度演算手段は、前記内角θ1と内角θATTとが予め対応付けられて記憶されたデータテーブルを備え、前記データテーブルは、前記内角θ1が所定の角度範囲にある場合には、1つの前記内角θ1に対して前記シリンダ駆動方向判定手段の判定結果のそれぞれに対応する2つの前記内角θATTが記憶されて構成されるものであり、前記アタッチメント姿勢角度演算手段は、前記データテーブルを参照して、前記内角θ1と前記油圧シリンダのストローク位置とに対応する前記内角θATTを決定する構成としても良い。この構成によれば、予めデータテーブルを作成しておくだけで、アタッチメントの姿勢角度θATTを求めることができるため、演算処理が簡単になるといった利点がある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上記の構成を採用することにより、角度検出器の破損を防止できるうえ、アタッチメントの姿勢を長期間に亘って正確に演算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態例に係る油圧ショベルの側面図である。
【図2】図1に示す油圧ショベルのフロント作業機の要部拡大図である。
【図3】図1に示す油圧ショベルの電気的構成を示すブロック図である。
【図4】図2に示すフロント作業機の要部をモデル化した図である。
【図5】図4に示す角度θ1と角度θATTとの関係を示す図である。
【図6】図3に示す制御装置が行う演算処理の手順を示すフローチャートである。
【図7】図5に示す角度θ1と角度θATTとの関係をデータテーブル化した変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態例を、図面を参照して説明する。本発明に係る作業機械の一実施形態である油圧ショベルは、走行体1と、この走行体1上に配置される旋回体2と、この旋回体2に上下方向の回動可能に取付けられ、掘削作業等を行なうことができるフロント作業機3とを備えている。フロント作業機3は、旋回体2に俯仰動可能に取付けられるブーム4と、このブーム4の先端にピン17を介して回動可能に取り付けられるアーム5と、このアーム5の先端に4節リンク機構20を介して回動可能に取り付けられるバケット(アタッチメント)6と、ブーム4を駆動するブームシリンダ7と、アーム5を駆動するアームシリンダ8と、バケット6を駆動するバケットシリンダ(油圧シリンダ)9と、を備えている。バケットシリンダ9は、その先端部が4節リンク機構20と連結され、その後端部がアーム5の後端部に設けられた係合ピン15と連結されている。
【0018】
また、この係合ピン15には、バケットシリンダ9とアーム5との相対角度を検出するためのポテンショメータ(角度検出手段)16が取り付けられている。このポテンショメータ16は、より詳細に言えば、係合ピン15と第2連結ピン22と第4連結ピン24とを直線で結んで形成される三角形の内角のうち、係合ピン15を頂点とする内角θを検出している(図4参照)。
【0019】
キャブ10は、壁に囲まれたボックス形状をなしており、前側には走行操作レバー・ペダル(図示せず)、中央にはオペレータが着座する運転席(図示せず)、この運転席の両サイドには操作装置11が設けられている。この操作装置11は、コンソールボックス(図示せず)で覆われたユニット構造を成しており、そのコンソールボックス内には、操作レバー12の操作に応じて制御弁にパイロット圧を出力するパイロット弁(図示せず)、パイロット圧を検知する圧力センサ13,14などが収納されている。そして、操作装置11は、複数のパイロットホース(図示せず)によって制御弁(図示せず)と接続されており、操作レバー12を操作するとこの制御弁を介してフロント作業機3が作動するようになっている。なお、図1の圧力センサ13は、バケットシリンダ9のボトム室に対応するパイロット圧を検出するためのものであり、圧力センサ14は、バケットシリンダ9のロッド室に対応するパイロット圧を検出するためのものである。
【0020】
4節リンク機構20は、図2に示すように、アーム5の先端部5bに設けられた第1連結ピン21と、アーム5の先端部5bで、第1連結ピン21よりややアーム5の後端側の位置に設けられた第2連結ピン22と、一端が第1連結ピン21と連結し、他端が第3連結ピン23と連結する前側リンク25と、一端が第2連結ピン22と連結し、他端が第4連結ピン24と連結する後側リンク26と、一端が第3連結ピン23と連結し、他端が第4連結ピン24と連結する上側リンク27とにより構成されている。つまり、4節リンク機構20は、アーム5の先端部5bと、リンク25,26,27と、連結ピン21,22,23,24と、をその構成要素としている。
【0021】
なお、図2から明らかなように、第1連結ピン21と第4連結ピン24とは対角の位置にあり、第2連結ピン22と第3連結ピン23とは対角の位置にある。また、バケット6は、第1連結ピン21および第3連結ピン23と連結しており、バケットシリンダ9の先端部は、4節リンク機構20の第4連結ピン24と連結している。
【0022】
そして、バケットシリンダ9が伸縮動作すると、その動作に伴って、後側リンク26が第2連結ピン22回りに回動し、上側リンク27はバケットシリンダ9が伸張する方向または収縮する方向へ変位し、前側リンク25は第1連結ピン21回りに回動する。これにより、バケット6は、第1連結ピン21を中心として回動することとなる。なお、この動作原理については周知であるため、これ以上の詳しい説明は省略する。
【0023】
次に、バケット6の姿勢角度θATT(図4参照)を演算するための制御装置30について説明する。制御装置30は、キャブ10の室内に設置されており、ポテンショメータ16からの入力に基づいてバケット6の姿勢角度θATTを演算し、その演算結果を運転監視装置40に出力している。なお、運転監視装置40は、入力された角度θATTや、ブーム4やアーム5の角度等を用いて、バケット6がキャブ10に干渉しないか否か等の安全面の監視を行っている。
【0024】
制御装置30は、図3に示すように、バケット姿勢角度演算部(アタッチメント姿勢角度演算手段)32とシリンダ駆動方向判定部(シリンダ駆動方向判定手段)31とを備えて構成されている。
【0025】
シリンダ駆動方向判定部31は、バケットシリンダ9のストローク位置が、三角形ABC(図4参照)のうち、第4連結ピン24を頂点とする内角θ2が90度となる閾値より伸長側にあるか、それとも収縮側にあるかの判定を行うものである。より具体的には、シリンダ駆動方向判定部31は、バケットシリンダ9のストローク位置が、内角θ2=90度となる閾値と一致する時、圧力センサ13からの入力値と圧力センサ14からの入力値を比較し、高い方の入力値が予め定めた閾値以上であるか否かを判断する。そして、入力値が閾値以上となった場合には、その入力値が圧力センサ13からのものであるか、それとも圧力センサ14からのものであるかを判断する。
【0026】
圧力センサ13からの入力である場合には、圧力センサ13はバケットシリンダ9のボトム室に対応するパイロット圧を検出しているので、シリンダ駆動方向判定部31は、バケットシリンダ9のストローク位置が伸長側にあると判断する。これとは反対に、閾値以上となった入力値が圧力センサ14からの入力である場合には、圧力センサ14はバケットシリンダ9のロッド室に対応するパイロット圧を検出しているので、シリンダ駆動方向判定部31は、バケットシリンダ9のストローク位置が収縮側にあると判断する。このように、本実施形態では、シリンダ駆動方向判定部31は、操作レバー12の操作に基づく操作指令として出力されるパイロット圧から、バケットシリンダ9のストローク位置を判断している。
【0027】
続いて、バケット姿勢角度演算部32が行う演算処理について、詳しく説明する。バケット姿勢角度演算部32は、ポテンショメータ16が検出した内角θ1と、シリンダ駆動方向判定部31の判定結果とに基づいて、第1連結ピン21と第2連結ピン22と第3連結ピン23と第4連結ピン24とを直線で結んで形成される四角形の内角のうち、第1連結ピン21を頂点とする内角θATTを演算する処理を行っている。以下、この演算方法について、詳述する。
【0028】
図4に示すように、Aをバケットシリンダ9の基部、即ち、係合ピン15の位置、Bを後側リンク15とアーム5の先端部5aの結合点、即ち、第2連結ピン22の位置、Cをバケットシリンダ9と後側リンク26と上側リンク27との結合点、即ち、第4連結ピン24の位置、Dをアーム5の先端部5aとバケット6の結合点、即ち、第1連結ピン21の位置、Eをバケット6と上側リンク27と前側リンク25との結合点、即ち、第3連結ピン23の位置、Fをブーム4とアーム5の結合点であるブーム先端、即ち、ピン17の位置とする。
【0029】
また、図4に示すように、l1をBCの長さ、l2をABの長さ、l3をBDの長さ、l5をDEの長さ、l6をCEの長さとする。なお、l1、l2、l3、l5、l6は設計により予め定められた数値(寸法値)である。また、l4をCD間の距離とする。なお、l4は、バケットシリンダ9の伸縮動作によって変化する値である。さて、バケット6とアーム5のなす角BDE、即ち、バケット姿勢角度をθATTとおくと、θATTは、式(1)で表すことができる。
【数1】

【0030】
また、アーム5とバケットシリンダ9のなす角BACをθ1とおくと、θ1はポテンショメータ16により検出される角度であり、θATTをθ1から一意に求められれば、バケットシリンダ9の基部に配置したポテンショメータ16の検出値からバケット6の姿勢角度を演算により求めることができる。
【0031】
三角形ABCについて、正弦定理より、式(2)が成り立つ。
【数2】

【0032】
ここで、ポテンショメータ16により検出される角度θ1に対応する角度θ2は、三角形の1つの角であるから、角度θ2は、式(3)の関係にある。
【数3】

また、式(2)より、以下の式(4)の関係が成り立つ。
【数4】

【0033】
式(3)、(4)より、ポテンショメータ16により検出される角度θ1に対応する角度θ2の候補は、θ2が90度となる場合を除いて、0<θ2<π/2の範囲およびπ/2<θ2<πの範囲にそれぞれ1つずつ存在することになる。θ2がそれぞれの範囲に1つずつ存在するということは、角度θ1が同じであっても、求められる角度θATTが2つ存在する場合があるということになる。
【0034】
これについて、図5を参照しながら説明を補足する。図5は、油圧ショベルにおいて想定されるバケットシリンダ9の伸縮動作の範囲内において、角度θ1と角度θATTとの関係を示したものであり、横軸が角度θ1、縦軸が角度θATTである。この図5から明らかなように、角度θ1が範囲Rの外にある場合には、1つの角度θ1に対して1つの角度θATTしか存在しないが、角度θ1が範囲R内にある場合には、θ1=x13の場合を除いて、1つの角度θ1に対して2つの角度θATTが存在することとなる。例えば、θ1=x11の場合には、θATT=y11およびy15の2つの値が存在する。このことは、油圧ショベルにおいて、バケットシリンダ9とアーム5との間の相対角度が同じであっても、バケットシリンダ9のストローク位置如何で、バケット6の姿勢が異なる場合があるということである。
【0035】
したがって、角度θ1から最終的にバケット6の姿勢角度としてθATTを一意に求めるためには、θ2が存在する範囲が0<θ2<π/2およびπ/2<θ2<πのどちらであるかを明らかにする必要がある。
【0036】
そこで、本実施形態では、シリンダ駆動方向判定部31によって判定されるバケットシリンダ9のストローク位置から、θ2が存在する範囲を明らかにしているのである。具体的には、バケットシリンダ9のストローク位置が、θ2=π/2となる位置より伸長側にある場合には、θ2はπ/2より小さくなるため、θ2は0<θ2<π/2の範囲に存在するということが明らかになる。一方、バケットシリンダ9のストローク位置が、θ2=π/2となる位置より収縮側にある場合には、θ2はπ/2より大きくなるため、θ2はπ/2<θ2<πの範囲に存在するということが明らかになる。このように、バケットシリンダ9のストローク位置を判定することで、角度θ1に対応するθ2が一意に決まるのである。
【0037】
また、θ3については、式(5)から求めることができる。
【数5】

さらに、角ABDは、設計によって決まる既知の値αであるから、θ4は、式(6)から求めることができる。
【数6】

【0038】
θ2がθ1から一意に決まることから、式(5)により、θ3もθ1から一意に決まる。同様に、θ3がθ1から一意に決まることから、式(6)により、θ4もθ1から一意に決まる。
【0039】
また、三角形BCDについて、余弦定理より、式(7)の関係が成り立つ。
【数7】

【0040】
また、θ5は、式(8)から求めることができる。
【数8】

【0041】
また、三角形CDEについて、余弦定理より、θ6は、式(9)で表すことができる。
【数9】

【0042】
θ4がθ1から一意に決まることから、式(7)により、l4もθ1から一意に決まる。また、l4がθ1から一意に決まることから、式(8)により、θ5もθ1から一意に決まる。同様に、式(9)により、θ6もθ1から一意に決まる。さらに、式(1)により、θATTがθ5およびθ6によって決まることから、θATTもポテンショメータ16により検出される角度θ1から求めることができる。このように、本実施形態では、バケットシリンダ9の基部に配置したポテンショメータ16の検出値と、設計によって予め定められた各要素の寸法値とから演算によってバケット6の姿勢角度θATTを求めることができるのである。
【0043】
これらの演算の手順を示したフローチャートが図6である。図6に示すように、バケット6の姿勢角度θATTの演算処理が開始されると、まず、ステップS1にて、バケット姿勢角度演算部32が、ポテンショメータ16からθ1の入力値を取得すると共に、シリンダ駆動方向判定部31に対してシリンダ駆動方向の判定処理を要求する。判定処理の要求を受けたシリンダ駆動方向判定部31は、ステップS2にて、圧力センサ13および圧力センサ14からそれぞれパイロット圧の入力値を取得する。そして、ステップS3に進んで、シリンダ駆動方向判定部31は、バケットシリンダ9のストローク位置を判定する。具体的には、上述したように、シリンダ駆動方向判定部31は、取得したパイロット圧の入力値を比較し、高い方の入力値が予め定めた閾値以上であるか否かを判断する。そして、その入力値が閾値以上となった場合には、その入力値が圧力センサ13,14の何れのものかによって、バケットシリンダ9のストローク位置が伸長側にあるか、それとも収縮側にあるかを判断する。
【0044】
次いで、ステップS4にて、シリンダ駆動方向判定部31は、バケットシリンダ9のストローク位置が伸長側にあると判断した場合には、角度θ2の範囲を「θ2<π/2」と判定し、バケットシリンダ9のストローク位置が収縮側にある場合には、角度θ2の範囲を「θ2>π/2」と判定し、その判定結果をバケット姿勢角度演算部32に出力する。角度θ2の範囲の判定結果を受けたバケット姿勢角度演算32は、ステップS5にて、その判定結果と、ステップS1で取得した角度θ1の入力値とに基づいて、バケット6の姿勢角度θATTを演算する。
【0045】
以上、説明したように、本実施形態によれば、ポテンショメータ16は、バケット6からかなり離れた位置、即ち、バケットシリンダ9の基部にある係合ピン15に設けているので、掘削作業を行ってもポテンショメータ16が土砂等により破損することは殆どない。しかも、シリンダ駆動方向判定部31がバケットシリンダ9のストローク位置から角度θ2の範囲を判定しているから、バケット姿勢角度演算部32が、ポテンショメータ16にて検出した角度θ1の値に基づいて、バケット6の姿勢角度θATTを正しく求めることができる。そして、この姿勢角度θATTを運転監視装置40が監視することにより、油圧ショベルを安全に運転することができるのである。ここで、ポテンショメータ16を係合ピン15の近傍位置に設けても、ポテンショメータ16の破損防止になることは言うまでもない。
【0046】
なお、本発明に係る作業機械は、上述した実施の形態例の他に、種々の変形が可能である。
<変形例1>
例えば、操作装置11の操作レバー12の角度を検出するためにポテンショメータ(操作レバー角度検出手段)を設けておき、このポテンショメータから入力される操作レバー12の傾斜角度の値に基づいて、シリンダ駆動方向判定部31が、バケットシリンダ9のストローク位置が予め定めた閾値(θ2=π/2)より伸長側にあるか、それとも収縮側にあるかを判定するようにすることもできる。この変形例1によれば、圧力センサ13,14を設ける必要がないといった利点がある。特に、操作レバーが電気式の場合には、そもそも操作レバーの傾斜角度の情報は出力されているので、その情報を流用すれば、別途ポテンショメータを設けなくともバケット6の姿勢角度θATTを求めることができる。
【0047】
<変形例2>
パイロット圧を測定する代わりに、例えば、バケットシリンダ9のロッド室およびボトム室の各室内の作動油圧力を検出するための圧力センサを設けておき、これらの圧力センサから入力された作動油圧力の値と、各室のシリンダ受圧面積との積から各室におけるシリンダ推力を演算するようにする。そして、その演算結果に基づいて、シリンダ駆動方向判定部31が、バケットシリンダ9のストローク位置が予め定めた閾値(θ2=π/2)より伸長側にあるか、それとも収縮側にあるかを判定するようにすることもできる。
【0048】
<変形例3>
圧力を測定する代わりに、例えば、バケットシリンダ9のロッド室およびボトム室の各室内に流れ込む作動油流量を検出するための流量計を設けておき、この流量計から入力された各室における流量値に基づいて、シリンダ駆動方向判定部31が、バケットシリンダ9のストローク位置が予め定めた閾値(θ2=π/2)より伸長側にあるか、それとも収縮側にあるかを判定するようにすることもできる。圧力センサを操作レバー12の周辺に設けるとなると、操作装置11が大型化するため設計が大変であるが、この変形例3によれば、操作レバー12の周辺に圧力センサを設けなくても良いので、操作装置11の構成を複雑にしなくて済むといった利点がある。
【0049】
<変形例4>
例えば、図5に示すθ1とθATTとの関係を示す曲線を、図7に示すように予めデータテーブル33として用意しておき、このデータテーブル33をバケット姿勢角度演算部32の記憶領域に記憶しておく。そして、バケット姿勢角度演算部32は、θ1の値がポテンショメータ16から入力されると、データテーブル33を参照して、そのθ1の値に対応するθATTの値を選択するように構成しても良い。
【0050】
このデータテーブル33は、図7に示す通り、x1に対応するθATTはy1、x2に対応するθATTはy2といったように、x1〜x13のそれぞれのθ1の値に対して、y1〜y16までの各θATTの値がそれぞれ割り当てられたテーブル構成となっている。ただし、上述したように、θ1の値が範囲R内にある場合には、1つのθ1の値に対してθATTの値は2つ存在するため、θ1がx10〜x12の場合には、それぞれθATTの値が2つ規定されている。そして、θ1がx10〜x12の場合には、バケット姿勢角度演算部32は、シリンダ駆動方向判定部31による判定結果に従って、2つの値のうち一方のθATTをバケット6の姿勢角度として求める。
【0051】
この変形例4の構成を採用すると、バケット姿勢角度演算部32は、複雑な演算を実行しなくてもθATTを求めることができるため、制御装置30の制御負担が軽減されるといった利点がある。
【0052】
なお、上記した実施の形態例では、ポテンショメータ16をバケットシリンダ9の後端部にある係合ピン15に直接取り付けたが、バケットシリンダ9の後端部近傍の位置に取り付けることもできる。この場合であっても、ポテンショメータ16の破損を防止することができる。
【0053】
また、上記の実施の形態例では、アタッチメントとしてバケット6を装着したフロント作業機3を有する油圧ショベルを用いたが、装着されるアタッチメントはこの限りではなく、例えばフォークグラップルやリフティングマグネットなどの、4節リンク機構を介してバケットシリンダ9の駆動により姿勢が制御されるアタッチメントであれば、その姿勢の計測を行うことが可能である。
【0054】
なお、上記の実施の形態例で示した、アーム5とバケットシリンダ9の相対角度θ1からバケット6の姿勢角度θATTを計測する手法は、ブーム4やアーム5の姿勢等を計測する場合にも応用が可能である。
【符号の説明】
【0055】
1…走行体、2…旋回体、3…フロント作業機、4…ブーム、5…アーム、5b…アームの先端部、6…バケット(アタッチメント)、7…ブームシリンダ、8…アームシリンダ、9…バケットシリンダ(油圧シリンダ)、10…キャブ、11…操作装置、12…操作レバー、13,14…圧力センサ、15…係合ピン、16…ポテンショメータ(角度検出手段)、17…ピン、20…4節リンク機構、21…第1連結ピン、22…第2連結ピン、23…第3連結ピン、24…第4連結ピン、25…前側リンク、26…後側リンク、27…上側リンク、30…制御装置、31…シリンダ駆動方向判定部(シリンダ駆動方向判定手段)、32…バケット姿勢角度演算部(アタッチメント姿勢角度演算手段)、40…運転監視装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アームと、このアームの先端部に4節リンク機構を介して取り付けられたアタッチメントと、このアタッチメントを駆動する油圧シリンダと、この油圧シリンダに駆動指令を出力する操作装置と、を備え、
前記4節リンク機構は、前記アームの先端部に設けられ、前記アタッチメントの回転中心となる第1連結ピンと、この第1連結ピンより後端側の前記アームに設けられた第2連結ピンと、一端が前記第1連結ピンと連結し、他端が前記第2連結ピンと対角の位置にある第3連結ピンと連結する前側リンクと、一端が前記第2連結ピンと連結し、他端が前記第1連結ピンと対角の位置にある第4連結ピンと連結する後側リンクと、一端が前記第3連結ピンと連結し、他端が前記第4連結ピンと連結する上側リンクとにより構成され、
前記油圧シリンダは、その先端部が前記第4連結ピンと回動自在に連結すると共に、後端部が前記アームの後端部に設けられた係合ピンと回動自在に連結しており、
前記油圧シリンダの伸縮動作に伴って前記第4連結ピンが可動することにより、前記アタッチメントが前記第1連結ピン回りに回動する作業機械において、
前記係合ピンと前記第2連結ピンと前記第4連結ピンとを直線で結んで形成される三角形の内角のうち、前記係合ピンを頂点とする内角θ1を前記アームと前記油圧シリンダとの相対角度として検出する角度検出手段と、
前記油圧シリンダのストローク位置が、前記三角形の前記第4連結ピンを頂点とする内角θ2が90度となる閾値より伸長側にあるか、それとも収縮側にあるかを判定するシリンダ駆動方向判定手段と、
前記角度検出手段が検出した前記内角θ1と、前記シリンダ駆動方向判定手段の判定結果とに基づいて、前記第1連結ピンと前記第2連結ピンと前記第3連結ピンと前記第4連結ピンとを直線で結んで形成される四角形の内角のうち、前記第1連結ピンを頂点とする内角θATTを前記アタッチメントの前記アームに対する姿勢角度として演算するアタッチメント姿勢角度演算手段と、
を備えたことを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1の記載において、
前記シリンダ駆動方向判定手段は、前記油圧シリンダのロッド室およびボトム室のそれぞれに対応するパイロット圧を検出するための圧力センサから入力されたそれぞれの圧力値から、前記油圧シリンダのストローク位置が前記閾値より前記伸長側にあるか、それとも前記収縮側にあるかを判定するものであることを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項1の記載において、
前記シリンダ駆動方向判定手段は、前記操作装置の操作レバーの角度を検出するための操作レバー角度検出手段から入力された前記操作レバーの傾斜角度に基づいて、前記油圧シリンダのストローク位置が前記閾値より前記伸長側にあるか、それとも前記収縮側にあるかを判定するものであることを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項1の記載において、
前記シリンダ駆動方向判定手段は、前記油圧シリンダのロッド室およびボトム室の各室内の作動油圧力を検出するための圧力センサから入力されたそれぞれの圧力値と、前記各室のシリンダ受圧面積との積から前記各室におけるシリンダ推力を演算し、その演算結果に基づいて、前記油圧シリンダのストローク位置が前記閾値より前記伸長側にあるか、それとも前記収縮側にあるかを判定するものであることを特徴とする作業機械。
【請求項5】
請求項1の記載において、
前記シリンダ駆動方向判定手段は、前記油圧シリンダのロッド室およびボトム室の各室内に流れ込む作動油流量を検出するための流量計から入力されたそれぞれの流量値に基づいて、前記油圧シリンダのストローク位置が前記閾値より前記伸長側にあるか、それとも前記収縮側にあるかを判定するものであることを特徴とする作業機械。
【請求項6】
請求項1の記載において、
前記アタッチメント姿勢角度演算手段は、前記内角θ1と内角θATTとが予め対応付けられて記憶されたデータテーブルを備え、
前記データテーブルは、前記内角θ1が所定の角度範囲にある場合には、1つの前記内角θ1に対して前記シリンダ駆動方向判定手段の判定結果のそれぞれに対応する2つの前記内角θATTが記憶されて構成されるものであり、
前記アタッチメント姿勢角度演算手段は、前記データテーブルを参照して、前記内角θ1と前記油圧シリンダのストローク位置とに対応する前記内角θATTを決定するようにしたことを特徴とする作業機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−76286(P2013−76286A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217324(P2011−217324)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】