説明

作業着

【課題】 優れた制電性能を具備すると共にストレッチ性などの特性も具備し、食品や家電、各種ハイテク機器などを生産する工場で着用感よく使用できる、新規な作業着を提供する。
【解決手段】 ポリエステル長繊維糸条Aの周囲に繊度比0.7≦A/B≦3.3の導電性繊維糸条Bを撚回数200〜500T/Mにてシングルカバリングした複合糸が2.0〜13.0質量%の割合で均等な格子状に配されると共に、地糸としてポリエステル加工糸が用いられ、かつ吸水加工されたトリコット経編地を縫製してなる作業着であり、当該縫製には電気抵抗値10〜10Ωの縫糸が使用され、さらにIEC61340−5−1に準拠して測定される表面抵抗値が10〜10Ωである作業着。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品や家電、各種ハイテク機器などを生産する工場での着用に好適な、制電性に優れた作業着に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまでに、制電性に優れた織編物を使用して、多数の制電性作業着が提案されている。一般に制電性作業着は、食品工場や家電工場などで着用されるものであり、対象となる生産品目によっては、厳しく制電性能を要求されるときもある。
【0003】
このような現状からすれば、本来ならば制電性能を客観的に評価できる統一基準があってしかるべきところ、昨今までは作業着によって測定法がまちまちであったため、作業着間で同性能を比較することが困難な状況が続いた。例えば、特許文献1に開示されるクリーンルーム用作業着では、表面漏洩抵抗値が制電性能の評価基準となっており、特許文献2に開示される防塵衣では、縫合部抵抗値、防塵衣抵抗値などが評価基準となっている。
【0004】
このような現状に鑑み、近年、運用上の利便を図る目的から、統一基準たるIEC規格(国際電気標準会議規格)が定められた。ここでは、表面抵抗値が1012Ω以下であることが好ましいとされ、この基準を満足する制電性作業着として、例えば、特許文献3に、導電性複合糸を格子状に織編した織物を用いて、IEC61340−5−1なる規格で測定される表面抵抗値が10〜10Ωの範囲にある制電性作業着が提案されている。
【特許文献1】特開2005−344245号公報
【特許文献2】特開平11−350296号公報
【特許文献3】特開2008−7869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献3記載の制電性作業着は、優れた制電性能を具備するも、織物からなるためストレッチ性に欠け、作業着としての着用感に欠けるとの問題がある。すなわち、所望の制電性能を具備すると共に、作業着としての着用感にも優れた制電性作業着は未だ提案されていないのが実情である。
【0006】
本発明は、上記のような従来技術の欠点を解消するものであり、優れた制電性能を具備すると共にストレッチ性などの特性も具備し、食品や家電、各種ハイテク機器などを生産する工場で着用感よく使用できる、新規な作業着を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究の結果、導電性繊維糸条を巻き付け糸として用いたカバリング糸を含有するトリコット経編地を、制電性を有する縫糸で縫製すれば、作業着が全体として高度な制電性能を発揮し、特にトリコット経編地中の地糸として加工糸を用いれば、快適な着用感も同時に得られることを知見して、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、ポリエステル長繊維糸条Aの周囲に繊度比0.7≦A/B≦3.3の導電性繊維糸条Bを撚回数200〜500T/Mにてシングルカバリングした複合糸が2.0〜13.0質量%の割合で均等な格子状に配されると共に、地糸としてポリエステル加工糸が用いられ、かつ吸水加工されたトリコット経編地を縫製してなる作業着であり、当該縫製には電気抵抗値10〜10Ωの縫糸が使用され、さらにIEC61340−5−1に準拠して測定される表面抵抗値が10〜10Ωであることを特徴とする作業着を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、作業着全体に渡って制電性能を維持することができる。また、本発明では、特定の糸使いによるトリコット経編地を使用しているため、ストレッチ性などの特性も具備する。このため、従来の制電性作業着に比べ快適性に優れ、適用範囲も広くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の作業着は、特定のトリコット経編地を特定の縫糸で縫製した作業着であり、IEC61340−5−1に準拠して測定される表面抵抗値が特定範囲を満足する。つまり、本発明は、作業着全体として所定の制電性能を発揮するものであるが、かかる制電性能は、経編地と縫糸の両者に制電性能を具備させることにより奏される。
【0012】
まず、上記のトリコット経編地について説明する。本発明におけるトリコット経編地は、特定の複合糸を特定質量含有すると共に、当該複合糸を格子状に配列してなるものである。
【0013】
当該複合糸は、ポリエステル長繊維糸条Aと導電性繊維糸条Bとからなり、前者の周囲に後者を巻きつけたシングルカバリング構造を呈する。このとき、カバリングにかかる撚回数としては、200〜500T/Mであることが必要であり、この範囲を採用することで、複合糸の被覆性と製編における工程通過性とを確保することができる。なお、カバリングには、ダブルカバリングなるものも存在するが、コスト面で不利であることから、本発明では、シングルカバリングを採用する。
【0014】
上記複合糸の使用量としては、制電性能実現の観点から、経編地内に2.0〜13.0質量%の割合で含まれる必要がある。また、当該複合糸は、経編地内に偏って配されるのではなく、均等な格子状に配列される必要がある。これにより、制電性能の偏りを抑制することができる。
【0015】
本発明では、これら2つの構成要件と、上記した撚回数200〜500T/Mでのシングルカバリングなる構成要件とを同時に満足させることにより、経編地内で複合糸が格子状に配列するその交点上で糸条B同士を多く接触させることができ、結果、経編地の制電性能を大きく向上させることができる。
【0016】
また、当該複合糸を構成する上記糸条A、Bについては、繊度比として0.7≦A/B≦3.3なる範囲を満足する必要がある。これは、繊度比が0.7未満であると、複合糸表面に糸条Bが多く配され、複合糸の交点において糸条B同士がより多く接する結果、経編地の制電性能向上の点で一層有利となる。しかしその反面、糸条Bは一般に強度が弱く、複合糸の表面、すなわち経編地表面に強度の弱い糸条Bが多く露出するような形態は、耐久性が要求される作業着にあっては、採用できるものではない。したがって、繊度比は0.7未満である必要がある。一方、3.3を超えると、上記とは逆の理由から、複合糸配列の交点において糸条B同士の接点が減少するため、経編地の制電性能が低下する。
【0017】
このように上記複合糸は、経編地の制電性能に大きく関わるものである。ここで、当該複合糸を構成する2糸条の繊維素材について述べると、カバリングの芯糸としては、ポリエステル長繊維糸条を用いる必要がある。これは作業着の耐久性を向上させる観点によるものである。一方、鞘糸(芯糸の周囲に巻きつける糸条)として用いる導電性繊維糸条Bは、導電性を有する繊維糸条であれば特段限定されるものでない。例えば、KBセーレン(株)製「ベルトロン(商品名)」やユニチカファイバー(株)製「メガーナ(商品名)」などは、制電性能に優れるだけでなく取り扱い性も良好なことから、本発明に好ましく採用される。
【0018】
他方、トリコット経編地を構成する複合糸以外の糸条、すなわち、経編地を構成する地糸としては、作業着のストレッチ性向上を考慮して、ポリエステル加工糸を用いることが必要である。トリコット経編地は、構造上、どのような糸使いであっても基本的に一定以上のストレッチ性を発揮するものであるが、地糸として特にポリエステル加工糸を用いることで、作業着のストレッチ性を大きく向上させることができる。その結果、着用者の運動に作業着を追随させることができ、快適な着用感も得られることになる。なお、ポリエステル加工糸とは、ポリエステルフラットヤーンを仮撚加工、押込加工又は賦型加工するなどして、捲縮が付与された糸条を指す。
【0019】
本発明における経編地は、以上のような糸使いからなり、かかる糸使いだけでも経編地に一定以上の制電性能を付与することは可能である。しかし、高度にハイテク化された工場では、作業着として、高い制電性能に加え優れた洗濯耐久性も求められるため、経編地は吸水加工されている必要がある。
【0020】
次に、上記トリコット経編地の縫製に使用する縫糸について説明する。本発明では、作業着の制電性能向上の観点から、縫糸として導電性を具備するものを使用する。具体的には、電気抵抗値として10〜10Ωを満たす縫糸を使用する。縫糸の形態としては、特に限定されるものでなく、フィラメント糸、紡績糸、もしくは両者の混合形態などが採用できる。また、かかる縫糸は、トリコット経編地の縫製以外にも使用でき、例えば、ボタン、ファスナーといった作業着を構成する各部材の縫い付けなどに、かかる縫糸を使用することは、作業着の制電性能向上にとって好ましいものである。
【0021】
本発明の作業着は以上のような構成を有し、主たる効果として、作業着全体に渡って高度な制電性能を維持できる点があげられる。いいかえれば、本発明の作業着は、全体すなわち作業着中のいずれの部位においても高度な制電性能を発揮しうるのであって、縫い目を含んだ部位であっても例外なく高い制電性能を発揮する。
【0022】
したがって、本発明では、IEC61340−5−1に基づいて測定される表面抵抗値の大小をもって、作業着の制電性能を評価する。つまり、IEC61340−5−1では、縫い目を介して対峙する2点間の表面抵抗値を対象とするから、作業着全体の制電性能を客観的に評価できる。本発明の場合、制電性能として、経、緯、斜めいずれの方向においても、上記測定法に基づいて測定される表面抵抗値が10〜10Ωなる範囲を満足する必要がある。
【実施例】
【0023】
ポリエステル長繊維糸条Aとして、33dtex12fのポリエチレンテレフタレートフラットヤーンを用意した。そして、このフラットヤーンの周囲に28dtex2fの導電性繊維糸条B(ユニチカファイバー(株)製「メガーナ(商品名)」)を撚回数380T/Mでシングルカバリングし、複合糸となした。
【0024】
次に、得られた複合糸と、地糸に使用すべきものとして予め用意しておいた110dtex48fのポリエステル仮撚加工糸とを用いて、針密度28Gトリコット編機にて前記複合糸が9.9質量%含まれると共に均等な格子状に配列されるよう編成した。そして、編成によって得られた生機をリラックス精練し、130℃で30分間染色と同時に吸水加工した後、さらにファイナルセットしてトリコット経編地を得た。
【0025】
そして、上記のトリコット経編地を300dtexの縫糸(電気抵抗値:10Ω)を用いて縫製した後、当該縫糸を用いてボタン、ファスナーなどの各部材を縫い付け、本発明の作業着に仕立てた。
【0026】
得られた作業着は、見映え良好で、一見したところ、編成や染色に関わる欠点は視認できなかった。また、作業着はストレッチ性に優れ、数人のパネラーを使って着用感の官能検査をしたところ、いずれも良好との結果を得た。
【0027】
そして、作業着の制電性能を評価するため、IEC61340−5−1に基づき表面抵抗値を測定した。なお、測定は、室温23℃で相対湿度12%RH(環境1)及び室温23℃で相対湿度25%RH(環境2)の2環境下でそれぞれ行った。それによれば、経方向では、環境1で1.2×10Ω、環境2で8.5×10Ωであり、緯方向では、環境1で1.2×10Ω、環境2で6.5×10Ωであり、斜め方向では、環境1で1.7×10Ω、環境2で7.8×10Ωであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル長繊維糸条Aの周囲に繊度比0.7≦A/B≦3.3の導電性繊維糸条Bを撚回数200〜500T/Mにてシングルカバリングした複合糸が2.0〜13.0質量%の割合で均等な格子状に配されると共に、地糸としてポリエステル加工糸が用いられ、かつ吸水加工されたトリコット経編地を縫製してなる作業着であり、当該縫製には電気抵抗値10〜10Ωの縫糸が使用され、さらにIEC61340−5−1に準拠して測定される表面抵抗値が10〜10Ωであることを特徴とする作業着。


【公開番号】特開2009−197370(P2009−197370A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−41572(P2008−41572)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(599089332)ユニチカテキスタイル株式会社 (53)
【Fターム(参考)】