説明

作業船の姿勢安定方法

【課題】沿岸部や河口域のような水深の浅い海域における施工の際に、低コストかつ短期間で作業船の姿勢を安定させて作業できるようにする。
【解決手段】作業船20を係留させる場所の水底に複数の土嚢11を設置し、設置した複数の土嚢11の上方に作業船20を係留させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沿岸部や河口域などの干潮時に作業船の船底が着底する虞がある海域において作業船の姿勢を安定させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沿岸部や河口域などの海域において橋梁などを構築する際に、施工現場が陸上から近く、かつ、周囲に高架や建物などの障害物がない場合には、陸上からクレーンなどを用いて建設資材を揚重し、施工を行うことができる。一方、周囲に障害物があるなどの理由で、陸上からの揚重を行うことが出来ない場合には、揚重装置を備えた作業船を建設現場まで回航させて、作業船により建設資材を揚重している。
【0003】
この場合、沿岸部や河口域などの水深が浅い海域では、図6(A)に示すように、満潮時には作業船20が安定した姿勢で揚重作業を行うことが可能であるが、同図(B)に示すように、干潮時には作業船20の船底が海底に接触し、姿勢が不安定になることがある。このため、水深が浅い海域において施工を行う場合には、干潮時に作業船20を付近の母港に帰港させたり、例えば、特許文献1に記載されているような浚渫装置を備えた作業船により、作業海域の海底を浚渫したりして、作業船が着底することを防止している。
【特許文献1】特開2001−247076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のように、干潮時に作業船を母港に帰港させると、施工可能な時間が限られてしまうため、工期が長期化するとともに、作業船の回航のための燃料費がかかり、コスト高になるという問題がある。また、作業海域付近を浚渫する場合も、浚渫作業のため工期が長期化するとともに、浚渫作業にコストがかかるという問題がある。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、沿岸部や河口域のような水深の浅い海域において、低コストかつ短期間で作業船の姿勢を安定させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の作業船の姿勢安定方法は、作業船が着底する虞がある水深の浅い水域に係留される作業船の姿勢安定方法であって、前記作業船を係留させる場所の水底に複数の土嚢を設置し、前記設置した複数の土嚢の上方に前記作業船を係留させることを特徴とする。
【0007】
ここで、前記作業船に上下にスライド可能な鉛直方向に延びる係留部材を設け、前記係留部材の下端を前記水域の水底に貫入させてもよい。
また、前記水域には水流があり、前記複数の土嚢を前記水流に沿うように並べて設置してもよい。また、前記土嚢は、砂利が封入されていてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、干潮時であっても作業海域に設置された土嚢により支持されるため、作業船の姿勢が不安定になることがない。このため、作業船を干潮時を避けるように回航させたり、作業海域を浚渫したりする必要がなく、施工期間を短縮し、コストを削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の作業船の姿勢安定方法の一実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1は本実施形態の作業船の姿勢安定方法を説明するための図であり、(A)は満潮時の様子を、(B)は干潮時の様子を夫々示す側面図である。同図に示すように、本実施形態の姿勢安定方法の適用の対象となる作業船20は、海上において揚重作業などを行えるようにクレーン23が搭載され、船底が平らに形成された船舶である。
【0010】
同図に示すように、本実施形態の作業船の姿勢安定方法は、まず、このような作業船20の係留位置の海底に上面高さが略一定になるように内部の土砂の量を調整した複数の大型の土嚢11を設置する。そして、この土嚢11の上方に作業船20を回航させ、杭21の下端を海底に貫入させて、杭21を鉛直方向に延びるように設け、この杭21をスライド架台22により鉛直方向にスライド可能に作業船20に取り付けることにより、作業船20を係留するものである。
【0011】
かかる構成により、図1(A)に示すように、満潮時には作業船20は着底せずに、海面に浮遊することとなる。この際、作業船20は下端が海底に貫入された杭21に係留されているため、波風により動揺することなく、安定した姿勢で作業を行うことができる。また、水位が変化しても、作業船20はスライド架台22により上下方向に杭21により案内されるため、水平方向に安定な姿勢のまま、作業船20は水位の変化に合わせて上下方向に変位することができる。
【0012】
このように、作業船20は水位が変化するとその変化に合わせて杭21に沿って上下する。そして、図1(B)に示すように、干潮時には作業船20は土嚢11上に着底することとなる。同図に示すように、土嚢11は上面が略一定の高さとなるように内部の土砂の量が調整されているため、作業船20は着底しても傾くことなく土嚢11により支持される。このため、干潮時であっても、作業船20は安定した姿勢で揚重作業を行うことができる。
【0013】
以下、上記の作業船20の姿勢安定方法を用いて、橋梁を構築する方法を説明する。以下の説明では、図2に示すような河口域において、図中中央に示す垂直に屈曲した橋梁10を構築する場合を例として説明する。
図2に示すように、橋梁10を構築する海域は沿岸部の海域であり、図中右上から左下に向かって河川が流れ込み、また、図中右から左に延びるカルバートボックス内を通る水路が流れ込んでいる。図中の下方には交通量の多い道路が通っているため、地上からのクレーンによる揚重作業を行うことができない。また、この海域は水深が浅く、干潮時には作業船20の船底が着底してしまう虞がある。
【0014】
図3は、橋梁10を構築する工程を示すフローチャートである。
同図に示すように、まず、ステップ1において、地上より作業海域の測量を行う。
次に、ステップ2において、作業海域の深浅測量及び海底の状況の調査を行う。
次に、ステップ3において、これらの測量結果及び調査結果に基づき、土嚢11の配置を計画する。図4は、土嚢11の配置計画の一例を示す図である。同図に示すように、本実施形態では、作業船20の重量、作業船20に搭載されたクレーン23の重量及びクレーン23の吊荷重等を考慮して、土嚢11の数及び強度を決定し、これらの土嚢11を分散して配置する。また、これらの土嚢11は、河川及びカルバートから作業海域に流れ込む水流に対して障害にならないように、水流に沿って並ぶように配置されている。
【0015】
次に、ステップ4において、土嚢11の設置後に他の船舶が進入して土嚢11と接触事故を起こさないように、灯浮標12を設置する。
次に、ステップ5において、施工中の作業海域外への汚染を防止するため、作業海域の周囲に汚染防止膜13を設置する。なお、上記のように作業海域は、潮の干満により水深が大きく変化するので、この水深変化に対応できるような汚染防止膜13を用いるとよい。
次に、STEP6において、土嚢11を積んだ作業船20を作業海域に回航させる。
【0016】
次に、STEP7において、作業船20のクレーン23により土嚢11を作業海域に配置し、大雨時などに土嚢11が流出しないように、土嚢11をロープにより結束する。この際、土嚢11の内部に封入する土砂の量を適宜調整し、土嚢11の上面の高さが略一定になるようにするとよい。なお、土嚢11に封入する土砂としては、水路からの流れを阻害することなく、また、地盤形状を乱さぬように、透水性の優れたバラス(砂利)を用いるとよい。
【0017】
次に、STEP8において、図5に示すように、土嚢11上に作業船20を配置した状態で、スライド架台22を貫通するようにH型鋼からなる杭21を設けることにより、作業船20を鉛直方向に移動可能に杭21に係留する。これにより、上記説明したように、作業船20は、満潮時などの作業船20が着底していない状態では、杭21により波や風による動揺を抑えられ、また、干潮時には土嚢11上に着底し、土嚢11により支持されるため、常に安定した姿勢で作業を行うことができる。
【0018】
次に、STEP9において、作業船20のクレーン23により、橋脚の構築を行う。
次に、STEP10において、構築した橋脚の上に架橋を構築する工事を行う。以上の工程により、橋梁10が完成する。
次に、STEP11において、杭21を引抜き、作業船20を移動させる。そして、作業船20を支持していた土嚢11を撤去する。
【0019】
次に、STEP12において、作業船20を帰港させる。
次に、STEP13において、汚濁防止膜13を撤去する。
次に、STEP14において、灯浮標12を撤去する。以上の工程により橋梁10を構築する工事が完了する、
【0020】
本実施形態の作業船の姿勢安定方法によれば、干潮時に作業船20の船底が海底に接触してしまうような水深の浅い海域であっても、海底に土嚢11を配置することにより、作業船20はこれらの土嚢11に支持され、安定した姿勢を保つことができ、揚重作業を行うことが可能となる。このため、干潮時に作業船20を帰港させたり、浚渫作業を行ったりする必要がなくなり、施工期間を短縮することができるとともに、施工コストを削減することができる。
また、土嚢11は中の土砂の量を調整することにより容易に高さを変更することができるため、現場において容易にレベル調整を行うことができる。さらに、土嚢11を河川の流れに沿って分散させて配置することで、浚渫を行う場合に比べて、河川等の流れの変化を抑えることができる。
【0021】
なお、本実施形態では、沿岸域において橋梁10を構築する場合について説明したが、これに限らず、干潮時に作業船20が着底する虞があるような水域で作業を行う場合であれば、本発明を適用することができる。
【0022】
また、本実施形態では、クレーン23を備えた作業船20の姿勢を安定させる場合を例として説明したが、これに限らず、干潮時に着底する虞がある作業船に対しては本発明を適用することができる。また、本実施形態では、船底が平らな作業船20の姿勢を安定させる場合を例として説明したが、これに限らず、船底がV字型等の形状の作業船であっても、この形状に合わせて土嚢を設置することにより、姿勢を安定させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態の作業船の姿勢安定方法を説明するための図であり、(A)は満潮時の様子を、(B)は干潮時の様子を示す。
【図2】橋梁を構築する海域を示す図である。
【図3】橋梁を構築する工程を示すフローチャートである。
【図4】土嚢の配置計画の一例を示す図である。
【図5】作業海域に作業船を係留させた様子を示す図である。
【図6】従来の作業船による施工中の様子を示す図であり、(A)は満潮時の様子を、(B)は干潮時の様子を示す。
【符号の説明】
【0024】
10 橋梁
11 土嚢
12 灯浮標
13 汚染防止膜
20 作業船
21 H型鋼
22 スライド架台
23 クレーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業船が着底する虞がある水深の浅い水域に係留される作業船の姿勢安定方法であって、
前記作業船を係留させる場所の水底に複数の土嚢を設置し、
前記設置した複数の土嚢の上方に前記作業船を係留させることを特徴とする作業船の姿勢安定方法。
【請求項2】
前記作業船に上下にスライド可能な鉛直方向に延びる係留部材を設け、
前記係留部材の下端を前記水域の水底に貫入させることを特徴とする請求項1記載の作業船の姿勢安定方法。
【請求項3】
前記水域には水流があり、
前記複数の土嚢を前記水流に沿うように並べて設置することを特徴とする請求項1又は2記載の作業船の姿勢安定方法。
【請求項4】
前記土嚢は、砂利が封入されていることを特徴とする請求項1から3何れかに記載の作業船の姿勢安定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−29207(P2009−29207A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−193487(P2007−193487)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(505268677)株式会社九建 (11)