説明

作業車の走行変速装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、例えば農作業機のコンバインやトラクタ等に供する作業車の走行変速装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、この種の作業車の走行変速装置にあっては、例えば農業機械におけるコンバインやトラクタ等において、作業装置を駆動しての作業を行いながら走行している場合に、低速走行しているときの作業装置に対する駆動トルクを大きく、逆に高速走行しているときの作業装置に対する駆動トルクを小さくすることが望ましいものであった。例えば、コンバインについて説明すると、倒伏穀稈を引起しながら刈り取る場合には、低速で走行しながら引起し装置における駆動トルクを大きいものとするのであり、また立毛状態の穀稈を刈り取る場合には、比較的高速で走行しながら、引起し負荷も小さいことから引起し装置における駆動トルクを小さいものとするのである。そして、従来は上記の作業状態に対応できるようにするために、主変速装置と副変速装置とを設け、主変速装置における変速に対して高低2段或いは3段の切換を副変速装置で行っていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】従って、上記従来構造のものにあっては、副変速装置による高低2段の変速位置が、例えば、コンバインにおいて倒伏状態の穀稈を刈り取る作業を行うときのように低速走行で高トルク出力が得られる状態と、立毛状態の穀稈を刈り取る作業を行うときのように高速走行で低トルク出力が得られる状態とにするのである。しかしながら、圃場では穀稈が部分的に倒伏している箇所や立毛状態の箇所がある場合があるので、上記構造のものでは、その穀稈の状況に応じて、主変速装置の変速操作や副変速装置の変速操作をそれぞれ行うことが煩わしいものであった。本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、単一の変速操作具を操作するだけで作業に適した変速出力を得ることができる作業車の走行変速装置の提供を目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明にかかる作業車の走行変速装置は、可変容量油圧モータと可変容量油圧ポンプとで構成した走行変速用の静油圧式無段変速装置を備えるとともに、前記静油圧式無段変速装置に対する単一の変速操作具を設け、前記変速操作具を一方向に操作することによって、前記静油圧式無段変速装置を零速から最高回転速度まで変速可能に構成し、零速から所定回転速度までは、前記可変容量油圧モータの一回転当たりの受入れ容量を最大に設定するとともに、前記可変容量油圧ポンプの一回転当たりの吐出容量を最小から最大まで切り換えるように、かつ、所定回転速度から更に高速の最高速度までは、前記可変容量油圧ポンプの一回転当たりの吐出容量を最大に維持しながら、前記可変容量モータの一回転当たりの受入れ容量を最大から最小まで切換えるように、前記変速操作具で前記可変容量油圧ポンプ及び可変容量油圧モータを変速操作する連係機構を備えている作業車の走行変速装置であって、前記連係機構を構成するに、前記可変容量油圧モータの容量変更用の操作軸を操作する操作アームと、前記可変容量油圧ポンプの容量変更用の操作軸を操作する操作アームとを設け、前記静油圧式無段変速装置に対する単一の変速操作具と前記二つの操作アームとを押し引きロッドで連係するとともに前記零速から前記所定回転速度に対応する操作位置までの操作においては、前記変速操作具の作動を許容しながら前記可変容量油圧モータの操作軸を作動しない状態に維持する融通を、前記押し引きロッドと前記可変容量油圧モータの操作アームとの連係部位に設けて機械的連係機構を構成するとともに前記可変容量油圧ポンプの操作軸を前記変速操作具の作動に連動して容量増大側に回転駆動するように構成し、前記所定回転速度に対応する操作位置から高速側への操作においては、前記変速操作具の作動を許容しながら前記可変容量ポンプの操作軸を作動しない状態に維持する第2融通を、前記押し引きロッドと前記可変容量油圧ポンプの操作アームとの連係部位に設けて第2機械的連係機構を構成するとともに前記可変容量油圧モータの操作軸を前記変速操作具の作動に連動して容量減少側に回転駆動すべく構成してある。
【0005】
【作用】即ち、走行用及び作業用の出力が、零速から所定回転速度までは、可変容量油圧モータが最低速状態に保持された状態で、可変容量油圧ポンプの容量変更に応じて変速されることになり、その速度範囲では最低速状態に可変容量油圧モータが保持されているので、走行速度や作業速度は低速でありながら、駆動トルクは高トルクとなっている。一方、前記所定回転速度から最高速度までは、最高速度状態で可変容量油圧ポンプを保持しながら、可変容量油圧モータを高速がわに操作できるものとなっているから、その所定回転速度を境として高速で走行するときには駆動トルクは低トルクとなる。そして、それらの変速操作を、上述のように可変容量油圧モータやポンプを駆動操作する連係機構を介して単一の変速操作具で行うから、走行速度の増減速操作をその変速操作具で一連の動作で行うことによって実現するのであり、別に変速段数を変更するような操作を行わなくても済む。又、連係機構を機械的連係機構を介して構成したものにあっては、比較的安価にその連係機構を構成できることになる。
【0006】
【発明の効果】従って、単一の変速操作具を操作するのみで、低速走行時の高トルク駆動状態と、高速走行時の低トルク駆動状態とが得られるので、従来のように、主変速装置と副変速装置とをそれぞれ別の変速操作具で操作することで、上記のような変速状態を得ていたものに比較して、変速操作具の操作数が少なくて済むことになり、変速操作が簡易に行える。また、機械的な連係構造を利用することで安価に構成できる。
【0007】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1に、作業車の一例としてのコンバインを示している。このコンバインは、左右一対のクローラ走行装置1,1に支持された車体フレーム2に、刈取前処理部3、脱穀装置4、操縦部5、原動部6等を搭載装備して構成している。
【0008】そして、原動部6のエンジン7と、走行用ミッションケース8及び刈取前処理部3との間には、クローラ走行装置1,1と刈取前処理部3とを同調駆動するように、静油圧式無段変速装置9を介装している。この静油圧式無段変速装置9は、図2乃至図4に示すように、エンジン7からの動力で回転駆動される入力軸10を備えた可変容量油圧ポンプ11と、走行装置や刈取装置等の負荷に出力する出力軸12を備えた可変容量油圧モータ13とで構成している。可変容量油圧ポンプ11と可変容量油圧モータ13とは油路接続してあり、可変容量油圧ポンプ11から吐出された圧油が供給されて可変容量油圧モータ13で出力軸12を回転駆動するのである。そして、可変容量油圧ポンプ11及び可変容量油圧モータ13はその斜板角度を変更することで出力軸12の回転速度やその出力軸12におけるトルクを変更自在に構成しているのである。尚、可変容量油圧モータ13の最大容量の方が可変容量油圧ポンプ11の最大容量よりも大に設定してある。
【0009】図3に示すように、静油圧式無段変速装置9の外装ケース14のうち、可変容量油圧ポンプ11と可変容量油圧モータ13とを接続する油路を形成して、かつ、入力軸10及び出力軸12を枢着しているポートブロック14aを、可変容量油圧ポンプ11及び可変容量油圧モータ13の弁板がそれぞれ同一面上に位置する状態で配設されるよう、面一を成す一枚部材で構成している。さらに、可変容量油圧ポンプ11の変速操作用の操作軸としてのトラニオン軸15と、可変容量油圧モータ13の変速操作用の操作軸としてのトラニオン軸16とを機械的に連係し、かつ操縦部5の単一の変速操作具としての変速操作レバー17に連係している。すなわち、図2に示すように、変速操作レバー17と各トラニオン軸15,16とは連係機構18で連係している。詳述すると、変速操作レバー17は前後揺動自在に設けられ、このレバー17の揺動に連動するように押し引き作動する押し引きロッド19を、前記トラニオン軸15に連設した操作アーム20の遊端部に枢着したピン21に挿通してあり、このピン21と押し引きロッド19の鍔部22との間に圧縮コイルスプリング23を介装している。さらに、押し引きロッド19の先端部19aは、前記トラニオン軸16に連設した操作アーム24の長孔25に係入している。この長孔25は押し引きロッド19の押し引き方向に沿う案内溝を形成している。操作アーム24はスプリング26で可変容量油圧モータ13を最低速がわに向けて弾性付勢している。上記構成により、変速操作レバー17が走行停止状態の零速位置にある状態から、増速操作していったときに、前記鍔部22及び圧縮コイルスプリング23を介してトラニオン軸15を最低速状態から最高速状態に可変容量油圧ポンプ11を操作するとともに、その可変容量油圧ポンプ11における最高速状態に達すると、押し引きロッド19の先端部19aは、操作アーム24の長孔25の変速操作レバー17がわ端部に達するように設定している。さらに、変速操作レバー17を増速操作すると、操作アーム20の揺動は規制された状態で前記圧縮コイルスプリング23がより短縮していくことになり、それによって、長孔25端部に接当した先端部19aが操作アーム24を増速がわに操作することになる。そして、変速操作レバー17を最高速度位置に操作した状態で、可変容量油圧モータ13も最高速状態となるように設定している。従って、変速操作レバー17が零速位置Oから、可変容量油圧ポンプ11が最高速状態となる中間所定位置Cまでは、可変容量油圧モータ13が最低速状態、つまり一回転当たりの容量が最大となっている状態であるので、図5R>5に示すように、出力軸12における駆動トルクは、走行速度にほぼ比例した状態で増大する。さらに、前記中間所定位置Cから増速がわに変速操作レバー17を操作していくと、可変容量油圧ポンプ11は最高速状態、つまり一回転当たりの吐出容量が最大となっている状態が維持されながら、可変容量油圧モータ13が増速がわに操作されていくので、出力軸12の回転速度は増すものの、その駆動トルクは、図5に示すように低下していくのである。これにより、コンバインにおいて倒伏穀稈を引起しながら刈取作業するような低速走行時においては、刈取前処理部3への出力トルクを大きなものにして、引起し作用が降伏することなく粘りのある状態で確実に行えるとともに、立毛状態の穀稈に対して刈取作業するような高速走行時においては、刈取前処理部3での負荷は比較的小さく済むので刈取前処理部3への出力トルクを小さなものにできる。ここで、前記長孔25、操作アーム24、スプリング26等は、変速操作レバー17における走行停止操作位置から前記所定車速に対応する操作位置までの操作に連動して回動駆動し、かつ可変容量油圧モータ13のトラニオン軸16を操作しない状態に維持しておく融通Aを構成し、この融通Aと押し引きロッド19は機械的連係機構を構成している。そして、圧縮コイルスプリング23、ピン21、鍔部22は、変速操作レバー17における前記所定車速に対応する操作位置より高速がわへの操作に連動して、可変容量ポンプ11のトラニオン軸15を操作しない状態に維持しておく第2融通Bを構成し、この第2融通Bと押し引きロッド19は第2機械的連係機構を構成している。尚、機械的に構成される連係機構は上述実施例の構造に限定されるものでなく、各種の構造を適用できるものである。
【0010】尚、図5に示すような特性を達成する上記の静油圧式無段変速装置9において、可変容量油圧ポンプ11の一回転当たりの吐出油量の最大値Vpmax、可変容量油圧モータ13の一回転当たりの受け入れ容量の最大値Vmmax及び最小値Vmminの関係は、次式の通りである。
Vmmin<Vpmax<Vmmax
【0011】次に、コンバインのブレーキの取付構造について簡単に説明する。図6及び図7に示すように、前記静油圧式無段変速装置9の出力軸12から動力が入力されて左右一対のクローラ走行装置1,1へ伝動するミッションケース8内に各車軸に対して制動するためのドラム式のブレーキ28を配設している。このブレーキ28は、ミッションケース8端部に配設されたドラム29内に拡径操作されるブレーキシュー30を配置しているとともに、このブレーキシュー30を操作するブレーキ操作軸31に一体に連設したブレーキ操作アーム32を、ドラム29をミッションケース8内に閉止するブレーキハウジング33より外方に配設し、かつ、そのブレーキハウジング33をミッションケース8にボルト34で締結固定するようにしている。さらに、図6に示すように、ブレーキシュー30が拡径状態でドラム29に均等に接当押圧する状態で組付けできるようにするために、前記ブレーキ操作アーム32をブレーキ操作した状態でないと、ボルト34によるブレーキハウジング33の締結固定ができないように、つまりブレーキ操作していない状態では、そのブレーキ操作アーム32がボルト34の締結操作の邪魔になるようにそのボルト34及びブレーキ操作アーム32を設定配置しているのである。従って、ボルト34の締結するために予めブレーキ操作して、ブレーキシュー30とドラム29とが適正な位置関係にある状態で、ボルト34で固定するから、ブレーキシュー30とドラム29との心合わせにおいて手間がかからないものとなる。
【0012】〔別実施例〕
■連係機構としては、変速操作具の操作量を電気的に検出して、その検出結果に基づいて電動アクチュエータ等によって、可変容量油圧ポンプの操作軸及び可変容量油圧モータの操作軸を操作するように制御する構成にしても良い。
【0013】尚、特許請求の範囲の項に図面との対照を便利にするために符号を記すが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【図1】コンバインの前部を示す側面図
【図2】静油圧式無段変速装置、変速操作具、連係機構等を示す概略説明図
【図3】静油圧式無段変速装置を示す縦断正面図
【図4】コンバインの伝動系を示す概略図
【図5】変速操作具を操作したときの車速と静油圧式無段変速装置の出力軸のトルクとの関係を示すグラフ
【図6】ブレーキの取付構造を示す側面図
【図7】ブレーキを示す縦断正面図或いは縦断後面図
【符号の説明】
9 静油圧式無段変速装置
11 可変容量油圧ポンプ
13 可変容量油圧モータ
15 操作軸
16 操作軸
17 変速操作具
18 連係機構
A 融通
B 第2融通

【特許請求の範囲】
【請求項1】 可変容量油圧ポンプ(11)と可変容量油圧モータ(13)とで構成した走行変速用の静油圧式無段変速装置(9)を備えるとともに、前記静油圧式無段変速装置(9)に対する単一の変速操作具(17)を設け、前記変速操作具(17)を一方向に操作することによって、前記静油圧式無段変速装置(9)を零速から最高回転速度まで変速可能に構成し、零速から所定回転速度までは、前記可変容量油圧モータ(13)の一回転当たりの受入れ容量を最大に設定するとともに、前記可変容量油圧ポンプ(11)の一回転当たりの吐出容量を最小から最大まで切り換えるように、かつ、所定回転速度から更に高速の最高速度までは、前記可変容量油圧ポンプ(11)の一回転当たりの吐出容量を最大に維持しながら、前記可変容量モータ(13)の一回転当たりの受入れ容量を最大から最小まで切換えるように、前記変速操作具(17)で前記可変容量油圧ポンプ(11)及び可変容量油圧モータ(13)を変速操作する連係機構(18)を備えている作業車の走行変速装置であって、前記連係機構(18)を構成するに、前記可変容量油圧モータ(13)の容量変更用の操作軸(16)を操作する操作アーム(24)と、前記可変容量油圧ポンプ(11)の容量変更用の操作軸(15)を操作する操作アーム(20)とを設け、前記静油圧式無段変速装置(9)に対する単一の変速操作具(17)と前記二つの操作アーム(20)、(24)とを押し引きロッド(19)で連係するとともに前記零速から前記所定回転速度に対応する操作位置までの操作においては、前記変速操作具(17)の作動を許容しながら前記可変容量油圧モータ(13)の操作軸(16)を作動しない状態に維持する融通(A)を、前記押し引きロッド(19)と前記可変容量油圧モータ(13)の操作アーム(24)との連係部位に設けて機械的連係機構を構成するとともに前記可変容量油圧ポンプ(11)の操作軸(15)を前記変速操作具(17)の作動に連動して容量増大側に回転駆動するように構成し、前記所定回転速度に対応する操作位置から高速側への操作においては、前記変速操作具(17)の作動を許容しながら前記可変容量ポンプ(11)の操作軸(15)を作動しない状態に維持する第2融通(B)を、前記押し引きロッド(19)と前記可変容量油圧ポンプ(11)の操作アーム(20)との連係部位に設けて第2機械的連係機構を構成するとともに前記可変容量油圧モータ(13)の操作軸(16)を前記変速操作具(17)の作動に連動して容量減少側に回転駆動すべく構成してある作業車の走行変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【特許番号】特許第3161907号(P3161907)
【登録日】平成13年2月23日(2001.2.23)
【発行日】平成13年4月25日(2001.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−150745
【出願日】平成6年7月1日(1994.7.1)
【公開番号】特開平8−11562
【公開日】平成8年1月16日(1996.1.16)
【審査請求日】平成10年3月20日(1998.3.20)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【参考文献】
【文献】特開 平4−237680(JP,A)
【文献】特開 昭53−136232(JP,A)
【文献】実開 昭61−105233(JP,U)
【文献】実開 平1−166801(JP,U)