説明

作業車両

【課題】左右一対の走行装置を有する走行機体の車速を演算する制御部を備えた作業車両であって、演算する車速に左右の走行装置の駆動速度差を加味することが可能であるとともに、製造コストを低く抑えることが可能である作業車両を提供する。
【解決手段】左右一対の走行装置1,1によって走行駆動される走行機体6を備え、油圧ポンプと油圧モータ30を組合せた変速装置を左右の走行装置1,1毎に各別に設けるとともに、変速装置を変速作動させる作動レバーを各変速装置にそれぞれ各別に設け、走行機体6の車速を演算する制御部を有する作業車両において、作動レバーの操作位置を検出する操作位置検出手段を一対の変速装置毎に各別に設け、制御部は、エンジン回転数及び作動レバーの操作位置から走行機体6の車速を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
走行機体の車速を演算する制御部を備えた作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
左右一対の走行装置と、主変速レバーの操作位置を検出する主変速レバーポテンショとを備え、エンジンの回転数及び主変速レバーの操作位置から走行機体の車速を演算する制御部を有する特許文献1に示す作業車両が公知となっており、該構成の作業車両では、左右の走行装置の駆動速度差を考慮することができないため、旋回時等に走行機体の車速が正しく演算されない場合があるが、これに対し、走行装置の駆動速度を検出するピックアップセンサ等の回転センサを左右の走行装置毎に各別に設け、該一対の回転センサの検出結果に基づいて走行機体の車速を演算する制御部を備えた特許文献2に示す作業車両が公知となっており、該制御部によれば旋回等の影響を加味した走行機体の車速を演算できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−303021号公報
【特許文献2】特開2006−84315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記文献に記載の作業車両は、各走行装置に設ける回転センサ自体が高価であるため、製造コストを低く抑えることが困難になるとともに、圃場の泥水等を走行する走行装置に回転センサを設けるに際して防水対策を施す必要があり、この点からもコストを低く抑えることが困難になる。
本発明は、左右一対の走行装置を有する走行機体の車速を演算する制御部を備えた作業車両であって、演算する車速に左右の走行装置の駆動速度差を加味することが可能であるとともに、製造コストを低く抑えることが可能である作業車両を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため本発明の作業車両は、第1に、左右一対の走行装置1,1によって走行駆動される走行機体6を備え、油圧ポンプ31A,31Bと油圧モータ30を組合せた変速装置を左右の走行装置1,1毎に各別に設けるとともに、変速装置を変速作動させる作動レバー32A,32Bを各変速装置にそれぞれ各別に設け、走行機体6の車速を演算する制御部を有する作業車両において、作動レバー32A,32Bの操作位置を検出する操作位置検出手段47A,47Bを一対の変速装置毎に各別に設け、制御部は、エンジン回転数及び作動レバー32A,32Bの操作位置から走行機体6の車速を演算することを特徴としている。
【0006】
第2に、走行装置1,1に伝動する動力の変速切換を行う副変速装置30と、該副変速装置30の変速切換を行う切換手段54とを備え、制御部は、前記操作位置検出手段47A,47Bによって各変速装置のニュートラル状態が検出されている場合のみ、切換手段54を介して副変速装置30の変速切換を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
以上のように構成される本発明の作業車両によれば、変速装置を変速作動させる作動レバーの操作位置及びエンジン回転数から左右の各走行装置の走行速度を検知することによって、旋回等の影響も加味した走行機体の車速を演算可能であるため、走行装置毎にピックアップセンサ等の回転センサを設けて旋回等の影響を考慮した車速を演算する場合と比較してコストを低く抑えることが可能であるという効果がある。
【0008】
また、走行装置に伝動する動力の変速切換を行う副変速装置と、該副変速装置の変速切換を行う切換手段とを備え、制御部は、前記操作位置検出手段によって各変速装置のニュートラル状態が検出されている場合のみ、切換手段を介して副変速装置の変速切換を行うことにより、操作位置検出手段を利用して、適切なタイミングで副変速装置の変速切換を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の作業車両を適用した農業用のトラクタの全体斜視図である。
【図2】キャビン内の操縦部を示す平面図である。
【図3】フロントパネルを示した図である。
【図4】走行変速レバーから伝動装置への機械的連係及びステアリングハンドルから伝動装置への機械的連係の構成を示す斜視図である。
【図5】リンク機構の構成を示す斜視図である。
【図6】リンク機構の構成を示す正面図である。
【図7】制御部の構成を示すブロック図である。
【図8】エンジンを定格で回転させ且つ走行機体の直進走行させた場合における作動アームの操作角に対する走行機体の車速の値を示す特性グラフである。
【図9】制御部が行う走行機体の車速の演算処理のフロー図である。
【図10】制御部が行う車速演算の別実施形態に関する処理フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下図示する例に基づき本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の作業車両を適用した農業用のトラクタの全体斜視図である。同図に示されたトラクタは、左右一対のクローラ式走行装置1,1(走行装置)によって支持された機体フレーム2上の前側にエンジン(図示しない)を収容する開閉自在なボンネット3を設け、機体フレーム2のボンネット3後方にキャビン4を立設することにより走行機体6を構成しており、該走行機体6の後部には昇降リンク(図示しない)を介してロータリ耕耘装置等の作業機(図示しない)が昇降駆動可能に連結されている。
【0011】
上記左右の各クローラ式走行装置1,1は、前後方向のクローラフレーム10と、クローラフレーム10の前後に回転可能に支持された駆動スプロケット8及びアイドラーホイール9と、該駆動スプロケット8及びアイドラーホイール9に掛け回されるクローラ11とによって構成されている。
【0012】
前記駆動スプロケット8は、キャビン4の下方に設置された伝動装置を介してエンジン動力が伝動され、これによって、車体が走行駆動される。ちなみに、本トラクタでは、左右の駆動スプロケット8を同一駆動速度で回転させることにより走行機体6を直進走行させる一方で、左右の駆動スプロケット8を異なる駆動速度で回転させることにより車体を旋回駆動させる。
【0013】
図2は、キャビン内の操縦部を示す平面図である。操縦部は、オペレータが着座する座席12と、座席12の前方に配置された操向操作具であるステアリングハンドル13と、座席12の進行方向右(右)側方に配置されたサイド操作パネル14と、ステアリングハンドル13の前方に配置されたフロントパネル16と、ステアリングハンドル13の左側に配置された駐車ブレーキスイッチ17とを備え、座席12とステアリングハンドル13との間には床面となるフロアステップ18が形成されている。
【0014】
前記駐車ブレーキスイッチ17は、オルタネイト動作する押し操作式の切換スイッチであって、後述する駐車ブレーキが入状態である走行規制状態と、駐車ブレーキが切状態である走行可能状態との切換を行うことができる。
【0015】
前記サイド操作パネル14には、前後揺動操作によって走行変速を行う走行変速レバー19と、該走行変速レバー19の把持部に設けられた副変速スイッチ21(切換操作具)と、前後揺動操作によってエンジンの回転数の変更操作を行うアクセルレバー22とが設けられている。
【0016】
該副変速スイッチ21は、オルタネイト動作する押し操作式の切換スイッチであって、後述する制御部により、副変速装置として機能する後述の走行モータ30を、高速と低速の少なくとも2段階に切換える。
【0017】
図3は、フロントパネルを示した図である。前記フロントパネル16は、エンジンの回転数等をアナログ表示するメータ23と、走行機体6の車速(走行速度)をデジタル表示する表示部である液晶パネル24と、前記駐車スイッチ17により走行規制状態に切換えられた際に点灯する駐車ランプ26と、前記副変速スイッチ21により「高速」状態へ切換えられた際に点灯する高速ランプ27とを備えている。
【0018】
次に、図4乃至6に基づいて走行変速レバーから伝動装置への機械的連係及びステアリングハンドルから伝動装置への機械的連係の構成について説明する。
図4は、走行変速レバーから伝動装置への機械的連係及びステアリングハンドルから伝動装置への機械的連係の構成を示す斜視図である。同図に示すように、伝動装置は作業機側にエンジン動力を変速伝動する変速機構が内装されて床面の真下側に配置された作業機伝動ケース28と、一対のクローラ式走行装置1,1毎に各別に設けられた油圧式無段階変速装置であるHST(変速装置)と、エンジン動力が入力されてHST側等に動力をギヤ伝動するように作業機伝動ケース28の前面側に取付固定されたギヤケース29とを備えている。
【0019】
各HSTは、作業機伝動ケース28の上面側に設置された油圧ポンプであるHSTポンプ31A,31Bと、対応するクローラ式走行装置1,1の駆動スプロケット8を駆動させる油圧モータである走行モータ30(図1参照)とを備え、このHSTによって対応するクローラ式走行装置1,1に伝動する動力の無段階変速を行うとともに、正逆転切換を行う。すなわち、このHSTによって、無段階の走行変速切換を行うとともに、走行機体6の前後進切換を行う。
【0020】
そして、ギヤケース29から入力されるエンジン動力によって駆動されるHSTポンプ31A,31Bによって走行モータ30側に作動油が圧送され、これによって走行モータ30が作動し、クローラ式走行装置1,1を駆動させる。この際、HSTポンプ31A,31Bに設けられた斜板(図示しない)の傾斜を変更することによって、走行モータ30への作動油の単位時間当りの供給量を無段階に変更可能であり、走行モータ30への単位時間当りの作業油供給量の無段階変更によって、走行モータ30の駆動速度が無段階で変更される。
【0021】
すなわち、各HSTはHSTポンプ31A,31Bの斜板の傾斜を変更することにより対応する各クローラ式走行装置1,1に伝動する動力を無段階で変速できるように構成されており、この斜板の傾斜変更は各HSTポンプ31A,31Bの側面側に支持された作動アーム32A,32Bを前後揺動することにより行われる。この各HSTポンプ31A,31Bに前後揺動可能に支持された作動アーム32A,32Bは、上述の走行変速レバー19及びステアリングハンドル13と機械的に連結されている。
【0022】
具体的には、走行変速レバー19が変速操作側リンク33を介して床面の前端部から上方に向かって突設された連係ユニット34の下方側に連結されるとともに、オペレータのステアリング操作によって軸回りに回転作動する上下方向のステアリング軸(図示しない)を介してステアリングハンドル13が上記連係ユニット34の上端側に連結されている。
【0023】
作業機伝動ケース28の上面に隣接状態で前後配置された一対のHSTポンプ31A,31Bにおける各作動アーム32A,32Bの側方から前方に向かって延びる前後方向の左右一対のリンク機構36A,36Bによって、該連係ユニット34の変速操作側リンク33連結部の下側に設けられた一対の操作アーム37A,37Bと、上述の一対の作動アーム32A,32Bとが連結されている。
【0024】
言換えると、リンク機構36A,36Bは一対のHST毎に各別に設けられ、この一対のリンク機構36A,36Bを介して、HSTを変速作動させる前記一対の作動アーム32A,32Bと、走行変速レバー19及びステアリングハンドル13とが機械的に連結されている。
【0025】
図5は、リンク機構の構成を示す斜視図であり、図6は、リンク機構の構成を示す正面図である。これらの図に示す通り、前側のHSTポンプ31Aである前側HSTポンプ31A側に支持された作動アーム32Aは、両HSTポンプ31A,31Bに近い側のリンク機構である近接側リンク機構36Aを介して、前記一対の操作アームの内で前側に位置する前側操作アーム37Aに連結されている一方で、後側のHSTポンプ31Bである後側HSTポンプ側に支持された作動アーム32Bは、両HSTポンプ31A,31Bから遠い側のリンク機構である離間側リンク機構36Bを介して、一対の操作アームの内で後側に位置する後側操作アーム37Bに連結されている。
【0026】
前記各リンク機構36A,36Bは、前後一対の前後方向の連結ロッド38A,38B39A,39Bと、該連結ロッドを連結する連結リンク41A,41Bとをそれぞれ備えており、前側の連結ロッドである前ロッド38A,38Bの前端部は対応する操作アーム37A,37Bに回動自在に連結され、後側の連結ロッドである後ロッド39A,39Bの後端部は対応する作動アーム32A,32Bの先端部に回動自在に連結され、前ロッド38A,38Bの後端部と後ロッド39A,39Bの前端部とは対応する連結リンク41A,41Bにより連結されている。
【0027】
近接側リンク機構36Aの連結リンク41Aと、離間側リンク機構36Bの連結リンク41Bとは、両方とも、作業機伝動ケース28側に取付られて該作業機伝動ケース28からリンク機構側側方に突出した左右方向の単一の支点軸44に回動可能に支持されている。
【0028】
前記近接側リンク機構36Aの連結リンク41Aは、支持軸44の軸回りに回動される方形状の連結アーム40を備え、この連結アーム40上部の表裏面に近接側リンク機構36Aの前ロッド38Aの後端部及び後ロッド39A前端部がそれぞれ回動自在に連結されている。
【0029】
該構成によりこの連結リンク41Aは、操作アーム37Aの前方揺動に伴う前ロッド38Aの前方移動によって、後ロッド39Aを前方移動させ、これによって、基端部から先端部に向かって上方に突出した作動アーム32Aを前方揺動させる一方で、操作アーム37Aの後方揺動に伴う前ロッド38Aの後方移動によって、後ロッド39Aを後方移動させ、これによって、作動アーム32Aを後方揺動させる。
【0030】
前記離間側リンク機構36Bの連結リンク41Bは、支持軸44の軸回りに回動されて支持軸44側から上方突出する方形状の上側連結アーム42と、支持軸44の軸回りに回動されて支持軸44側から下方突出する方形状の下側連結アーム43とから構成され、上側連結アーム42の上部に離間側リンク機構36Bの前ロッド36Bの後端部が回動自在に連結され、下側連結アーム43の下部に離間側リンク機構36Bの後ロッド39Bの前端部が回動自在に連結されている。
【0031】
該構成によりこの連結リンク41Bは、操作アーム37Bの前方揺動に伴う前ロッド38Bの前方移動によって、後ロッド39Bを後方移動させ、これによって、基端部から先端部に向かって下方に突出した作動アーム32Bを後方揺動させる一方で、操作アーム37Bの後方揺動に伴う前ロッド38Bの後方移動によって、後ロッド39Bを前方移動させ、これによって、作動アーム32Bを前方揺動させる。
【0032】
以上により、走行変速レバー19を、HSTをニュートラル状態とする前後中立位置から前後一方側である前進走行側(具体的には前方側)に揺動すると、連係ユニット34及びリンク機構36A,36Bを介して作動アーム32A,32Bが揺動され、各HSTが前進走行側に増速される一方で、該走行変速レバー19を、前後中立位置から前後他方側である後進走行側に揺動すると、連係ユニット34及びリンク機構36A,36Bを介して作動アーム32A,32Bが揺動され、各HSTが後進走行側に増速される。なお、前後中立位置からの揺動操作量が大きくなる程、各HSTの増速量が大きくなるように構成されている。
【0033】
また、走行変速レバー19が中立位置以外の箇所に揺動されている際、車体が直進するようにステアリングハンドル13が中立位置に操作されている場合には、一対のHSTが同一の変速比になるように、一対の各操作アーム37A,37Bが操作されるとともに、車体が左右一方側に旋回するようにステアリングハンドル13を旋回側にステアリング操作している場合には、旋回外側のクローラ式走行装置1が旋回内側のクローラ式走行装置1に比べて高速で駆動されるように、旋回内側のクローラ式走行装置1用の操作アーム37に比べて旋回外側のクローラ式走行装置1用の操作アーム37の中立位置からの前後揺動量を大きくなるが、この一対の操作アーム37A,37Bの揺動量の差は、ステアリングハンドル13の中立位置からの操作量が大きい程大きくなる。
【0034】
また、ステアリングハンドル13の中立位置からの操作量を所定以上大きくすることにより、旋回内側のクローラ式走行装置1を旋回外側のクローラ式走行装置1に対して逆転駆動させて走行機体6をその場で殆ど前後進させることなく旋回させるスピンターンを行うこともできる。
【0035】
さらに、各リンク機構36A,36Bは、連結ロッドに長さ調整機構を備えており、この長さ調整によって、ステアリングハンドル13の操作位置に対する作動アーム32A,32Bの揺動位置や、走行変速レバー19の操作位置に対する作動アーム32A,32Bの揺動位置を、左右各別に調整可能である。
【0036】
ちなみに、走行変速レバー19が中立位置に揺動されている場合には、ステアリングハンドル13による操向操作を行っても各操作アーム37A,37Bは前後中立位置で保持されるように連係ユニット34を構成している。
【0037】
また、図3に示すように、作業機伝動ケース28上面側における支点軸及び前側HSTポンプ31Aとの近接箇所には、取付ブラケット45を介して前後一対のポテンショメータ47A,47B(操作位置検出手段)が取付支持されている。後側のポテンショメータ47Aはポテンショリンク48Aを介して前側HSTポンプ31Aの作動アーム32Aに機械的に連結されて該作動アーム32Aの前後揺動位置(操作位置)に関する情報が反映された揺動角(以下、操作角)を検出するように構成されている一方で、前側のポテンショメータ47Bはポテンショリンク48Bを介して離間側リンク機構36Bの下側連結アーム43に機械的に連結されて後側HSTポンプ31Bの作動アーム32Bの操作角を検出するように構成されている。
【0038】
すなわち、作動アーム32A,32Bの操作角を検出するポテンショメータ47A,47Bを、左右の作動アーム32A,32B毎(HST毎)に各別に設け、この一対のポテンショメータ47A,47Bによって各別に検出される一対の作動アーム32A,32Bの操作角から、各HSTの変速比を検出する。
【0039】
なお、このHSTでは、上述したようにHSTポンプ31A,31Bの斜板の傾き調整によって無段階の走行変速を行う他に、可変容量形モータからなる走行モータ30の斜板の傾きを調整することによっても走行変速を行う。すなわち、左右のHSTの各走行モータ30が、走行変速を行う副変速装置となり、この走行モータ30の斜板の傾きを、油圧シリンダからなる副変速シリンダ(図示しない)の伸縮によって変更する。具体的には、該走行モータ30は、上記副変速シリンダによって、クローラ式走行装置1,1に高速動力を伝動する「高速」状態と、低速動力を伝動する「低速」状態の少なくとも2段階に切換えられる。
【0040】
この他、左右の各走行モータ30側には油圧式の駐車ブレーキが設けられており、作業油の供給・排出によって駐車ブレーキの入切を行い、これによって、上述の走行規制状態と走行可能状態との切換を行う。
【0041】
次に、図7乃至9に基づいて制御部の構成を説明する。
図7は、制御部の構成を示すブロック図である。制御部は、油圧系等を制御するメインマイコン51と、フロントパネル16の各種部材を制御するフロントパネル制御側マイコン52と、エンジンの回転数を制御するECUであるエンジン制御用マイコン53とから構成され、互いにシリアル通信によって接続され、相互にデータの送受信が行われる。
【0042】
作業車両に搭載されたメインマイコン51の入力側には、上述の一対のポテンショメータ47A,47B(操作位置検出手段)、副変速スイッチ21及び駐車ブレーキスイッチ17が接続されている他、該メインマイコン51にはエンジン制御用マイコン53からのエンジン回転数に関する情報がフロントパネル制御側マイコン53を介して入力される。
【0043】
一方、メインマイコン51の出力側には、上記副変速シリンダへの作動油の供給・排出を切換えて走行モータからなる副変速装置の変速切換を行う副変速切換バルブ54(切換手段)と、上記駐車ブレーキへの作動油の供給・排出を切換える駐車ブレーキバルブ56とが接続されている。
【0044】
制御部は、駐車ブレーキスイッチ17が入操作されている場合には、駐車ブレーキバルブ56によって駐車ブレーキを入作動させて走行機体6を走行規制状態に切換える一方で、駐車ブレーキスイッチ17が切操作されている場合には、駐車ブレーキバルブ56によって駐車ブレーキを切作動させて走行機体6を走行可能状態に切換える。
【0045】
また、制御部は、エンジン制御用マイコン53から送信されてくるエンジン回転数と、ポテンショメータ47A,47Bにより検出される各作動アーム32A,32Bの操作角とを用いて左右の各クローラ式走行装置1,1の駆動速度を算出し、この左右のクローラ式走行装置1,1の駆動速度に基づいて旋回等の影響が考慮された走行機体6の車速を演算し、その結果を液晶パネル24にデジタル表示するように構成されている。以下詳細について説明する。ちなみに、液晶パネル24は、メインマイコン51及びフロントパネル制御側マイコン52に接続されている。
【0046】
図8は、エンジンを定格で回転させ且つ走行機体の直進走行させた場合における作動アームの操作角に対する走行機体の車速の値を示す特性グラフである。本トラクタでは、ポテンショメータ47A,47Bにより検出される操作角(θ)の値が、ニュートラル最大角度(Nmax)よりも小さく且つニュートラル最小角度(Nmin)よりも大きいと(ニュートラル範囲内である場合)、HSTはニュートラル状態となる。すなわち、操作角(θ)がニュートラル最大角度(Nmax)よりも小さく且つニュートラル最小角度(Nmin)よりも大きい場合には、作動アーム32A,32Bを揺動させる走行変速レバー19の揺動位置がニュートラル位置となる。
【0047】
また、操作角(θ)の値が、ニュートラル最大角度(Nmax)以上かつ前進側最大増速角度(Fmax)以下である場合、HSTは、作動アーム32A,32Bのニュートラル最大角度からの操作量(θ−Nmax)に比例して前進側に増速される。そして、操作角(θ)が前進側最大増速角度(Fmax)と同一になるとHSTは前進側に最大増速される他、それよりも操作角(θ)が大きくなった場合には該HSTは前進側に最大限増速された状態で保持される。
【0048】
一方、操作角(θ)の値が、ニュートラル最小角度(Nmin)以下かつ後進側最大増速角度(Bmax)以上である場合、HSTは、作動アーム32A,32Bのニュートラル最小角度からの操作量(Nmin−θ)に比例して後進側に増速される。そして、操作角(θ)が後進側最大増速角度(Bmax)と同一になるとHSTは後進側に最大増速される他、それよりも操作角(θ)が小さくなった場合には該HSTは後進側に最大限増速された状態で保持される。
【0049】
また、制御部は、副変速スイッチ21よる切換操作を検出すると、副変速バルブ54を用いて、走行モータ30からなる左右の各両副変速装置の「低速」から「高速」、又は、「高速」から「低速」の変速切換を行うが、この「高速」状態か、「低速」状態かによって、HSTの変速比が同一の場合でも走行機体6の車速が変化するため(具体的には、図8に示す特性グラフの傾斜部分の傾きが変わる)、この左右の各副変速装置の切換状態も走行機体6の車速の演算に利用する。
【0050】
次に、図9に基づいて、制御部による走行機体の車速の演算について説明する。
図9は、制御部が行う走行機体の車速の演算処理のフロー図である。制御部は走行機体6の車速の演算処理フローが開始されると、ステップS1に進む。ステップS1では、エンジン制御側マイコン53からの情報によりエンジン回転数(E)を検知し、ステップS2に進む。
【0051】
ステップS2では、左側のクローラ式走行装置1に動力を伝動するHST側の作動アーム32Aの操作角(θ)である左側変速位置(L)をポテンショメータ32Aによって検出し、ステップS3に進む。ステップS3では、エンジン回転数(E)と、ステップS2において検出された左側変速位置(L)と、副変速装置の変速比(k)とを用い、図8の特性グラフから、左側のクローラ式走行装置1の駆動速度である走行速度(VL)を算出し、ステップS4に進む。
【0052】
ステップS4では、右側のクローラ式走行装置1に動力を伝動するHST側の作動アーム32Bの操作角(θ)である右側変速位置(R)をポテンショメータ47Bによって検出し、ステップS5に進む。ステップS5では、エンジン回転数(E)と、ステップS4において検出された右側変速位置(R)と、副変速装置の変速比(k)とを用い、図8の特性グラフから、右側のクローラ式走行装置1の駆動速度である走行速度(VR)を算出し、ステップS6に進む。
【0053】
ステップS6では、左右のクローラ式走行装置1,1の駆動速度である走行速度(VL,VR)の平均値を算出し、この算出された値を走行機体6の車速としてステップS7に進む。
【0054】
ステップS7では、駐車ブレーキスイッチ17の入切を検出し、駐車ブレーキスイッチ17が切状態であって走行機体6が走行可能状態に切換えられている場合には、ステップS8に進み、液晶パネル24にステップS6で算出された走行機体6の車速を表示した後、ステップS1に処理を戻す。ステップS7において、駐車ブレーキスイッチ17が入状態であって走行機体6が走行規制状態に切換えられている場合には、走行機体6が停止して車速は0になっているものと考えられるため、該車速を液晶パネル24に表示せず、ステップS1に処理を戻す。
【0055】
以上のように構成される本トラクタによれば、防水加工や施す必要が無く、それ自体も回転センサと比べて安価なポテンショメータを利用して左右のクローラ式走行装置1,1の走行速度となる駆動速度を各別に算出し、この算出結果に基づいて走行機体6の車速を演算するため、旋回等の影響を加味したより正確な車速を知ることが可能になる。
【0056】
次に、図10に基づき、制御部が行う車速演算の別実施形態について説明する。
図10は、制御部が行う車速演算の別実施形態に関する処理フロー図である。制御部は、停車状態を検出する処理のフローが開始されると、ステップS11に進む。ステップS11では、副変速切換バルブ54への出力信号等から両副変速装置の切換状態を判断し、副変速装置が「低速」に切換えられている場合には、ステップS12に進む一方で、「高速」に切換えられている場合には、ステップS13に進む。
【0057】
ステップS12では、変速比(k)に副変速装置の「低速」時の変速比(kl)を代入してステップS14に進む一方で、ステップS13では、変速比(k)に副変速装置の「高速」時の変速比(kh)を代入してステップS14に進む。ちなみに、「低速」時の変速比(kl)及び「高速」時の変速比(kh)は、具体的には、図8の特性グラフにおける比例部分の比例定数(傾き)を意味している。
【0058】
ステップS14では、上述の右側変速位置(R)をポテンショメータ47Bによって検出し、右側変速位置(R)の値が、上述のニュートラル範囲内に収まっているか否かを識別し、収まっていない場合にはステップS15に進む一方で、収まっている場合にはステップS18に進む。ステップS18では、HSTがニュートラル状態であるため、右側のクローラ式走行装置1の駆動速度(VR)に0を代入してステップS19に進む。
【0059】
ステップS15では、上述の右側変速位置(R)の値が、ニュートラル最大角度(Nmax)以上であるか、ニュートラル最小角度(Nmin)以下であるかの識別を行い、ニュートラル最大角度(Nmax)以上である場合にはステップS16に進み、ニュートラル最小角度(Nmin)以下である場合にはステップS17に進む。
【0060】
ステップS16では、ニュートラル最大角度からの操作量(R−Nmax)に、変速比(k)と、エンジン回転数(E)とを順次乗算することにより、右側のクローラ式走行装置の駆動速度(VR)を演算し、ステップS19に進む。なお、右側変速位置(R)の値が前進側最大増速角度(Fmax)よりも大きい場合には、ニュートラル最大角度からの前進側最大増速角度(Fmax−Nmax)に、変速比(k)と、エンジン回転数(E)とを順次乗算した値を右側のクローラ式走行装置の駆動速度(VR)とする。
【0061】
ステップS17では、作動アーム32Bのニュートラル最小角度からの操作量(Nmin−R)に、変速比(k)と、エンジン回転数(E)と、マイナス一(−1)とを順次乗算することにより、右側のクローラ式走行装置の駆動速度(VR)を演算し、ステップS19に進む。ちなみに、ステップS18では、駆動速度(VR)が0以下のマイナス値となるが、これは、右側のクローラ式走行装置1が逆転駆動されていることを意味している。なお、右側変速位置(R)の値が後進側最大増速角度(Bmax)よりも小さい場合には、ニュートラル最大角度からの後進側最大増速角度(Nmin−Bmax)に、変速比(k)と、エンジン回転数(E)と、マイナス一(−1)を順次乗算した値を右側のクローラ式走行装置1の駆動速度(VR)とする。
【0062】
ステップS19では、上述の左側変速位置(L)をポテンショメータ47Aによって検出し、左側変速位置(L)の値が、上述のニュートラル範囲内に収まっているか否かを識別し、収まっていない場合にはステップS20に進む一方で、収まっている場合にはステップS23に進む。ステップS23では、HSTがニュートラル状態であるため、左側のクローラ式走行装置1の駆動速度(VL)に0を代入してステップS24に進む。
【0063】
ステップS20では、上述の左側変速位置(L)の値が、ニュートラル最大角度(Nmax)以上であるか、ニュートラル最小角度(Nmin)以下であるかの識別を行い、ニュートラル最大角度(Nmax)以上である場合にはステップS21に進み、ニュートラル最小角度(Nmin)以下である場合にはステップS22に進む。
【0064】
ステップS21では、ニュートラル最大角度からの操作量(L−Nmax)に、変速比(k)と、エンジン回転数(E)とを順次乗算することにより、左側のクローラ式走行装置の駆動速度(VL)を演算し、ステップS24に進む。なお、左側変速位置(L)の値が前進側最大増速角度(Fmax)よりも大きい場合には、ニュートラル最大角度からの前進側最大増速角度(Fmax−Nmax)に、変速比(k)と、エンジン回転数(E)とを順次乗算した値を左側のクローラ式走行装置の駆動速度(VL)とする。
【0065】
ステップS22では、作動アーム32Aのニュートラル最小角度からの操作量(Nmin−L)に、変速比(k)と、エンジン回転数(E)と、マイナス一(−1)とを順次乗算することにより、左側のクローラ式走行装置1の駆動速度(VL)を演算し、ステップS24に進む。ちなみに、ステップS22では、駆動速度(VL)が0以下のマイナス値となるが、これは、左側のクローラ式走行装置1が逆転駆動されていることを意味している。なお、左側変速位置(L)の値が後進側最大増速角度(Bmax)よりも小さい場合には、ニュートラル最大角度からの後進側最大増速角度(Nmin−Bmax)に、変速比(k)と、エンジン回転数(E)と、マイナス一(−1)を順次乗算した値を左側のクローラ式走行装置の駆動速度(VL)とする。
【0066】
ステップS24では、算出された左右のクローラ式走行装置1,1の走行速度(VR,VL)の平均値を算出することによって走行機体6の車速(V)を演算し、ステップS25に進む。
【0067】
ステップS25では、左右のクローラ式走行装置1,1が何れも停止している状態であるか否かの識別を行い、何れも停止している状態であればステップS26に進む一方で、そうでない場合にはステップS27に進む。ステップS26では、判別変数(N)に「TRUE」を代入し、処理をステップS11に戻す。ステップS27では、判別変数(N)に「FALSE」を代入し、処理をステップS11に戻す。
【0068】
制御部は、上述のようにして、走行機体6の車速(V)を演算するが、この車速(V)が0で且つ判別変数(N)に「FALSE」が代入されている場合には、走行機体6が停止している状態でなく、その場でスピンターンしている状態であることが制御部によって識別できる。このようにして、走行状態を正しく検出することが可能である。
【0069】
ところで、本トラクタでは、副変速スイッチ21の切換操作等を検出した際、走行機体の停止が識別されている場合のみ、副変速装置の「高速」から「低速」への切換又は「低速」から「高速」への切換を行うように制御部を構成してもよい。これによって適切なタイミングで、副変速装置の変速切換を行うことが可能になる。ちなみに、走行機体6の停止が識別されている場合とは、図10の例では、各ポテンショメータ47A,47Bによって両HSTのニュートラル状態が検出されている場合か、又は、エンジン回転数(E)が0になっている場合である。
【符号の説明】
【0070】
1 クローラ式走行装置(走行装置)
6 走行機体
30 走行モータ(油圧モータ,副変速装置)
31 HSTポンプ(油圧ポンプ)
32 作動レバー
47 ポテンショメータ(操作位置検出手段)
54 副変速切換バルブ(切換手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の走行装置(1,1)によって走行駆動される走行機体(6)を備え、油圧ポンプ(31A,31B)と油圧モータ(30)を組合せた変速装置を左右の走行装置(1,1)毎に各別に設けるとともに、変速装置を変速作動させる作動レバー(32A,32B)を各変速装置にそれぞれ各別に設け、走行機体(6)の車速を演算する制御部を有する作業車両において、作動レバー(32A,32B)の操作位置を検出する操作位置検出手段(47A,47B)を一対の変速装置毎に各別に設け、制御部は、エンジン回転数及び作動レバー(32A,32B)の操作位置から走行機体(6)の車速を演算する作業車両。
【請求項2】
走行装置(1,1)に伝動する動力の変速切換を行う副変速装置(30)と、該副変速装置(30)の変速切換を行う切換手段(54)とを備え、制御部は、前記操作位置検出手段(47A,47B)によって各変速装置のニュートラル状態が検出されている場合のみ、切換手段(54)を介して副変速装置(30)の変速切換を行う請求項1に記載の作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−191228(P2011−191228A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58766(P2010−58766)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)