説明

作用領域の磁性粒子に影響を及ぼし、及び/又は該磁性粒子を検出する装置並びに方法

作用領域内の磁性粒子に影響を及ぼし、及び/又は該磁性粒子を検出する装置及び方法が開示されている。当該装置は、選択用磁場を発生させる選択手段であって、前記選択用磁場は、該磁場強度空間内において、磁場強度の小さな第1サブ領域及び磁場強度の大きな第2サブ領域が前記作用領域内に生成されるようなパターンを有する、選択手段、並びに、駆動用磁場の手段によって前記作用領域内における前記第1領域及び第2領域の位置を変化させる駆動手段、を有する。前記選択手段は少なくとも1つの永久磁石を有する。前記永久磁石は高電気伝導性の遮蔽手段によって少なくとも部分的に遮蔽されている。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作用領域の磁性粒子に影響を及ぼし、及び/又は該磁性粒子を検出する装置に関する。さらに本発明は作用領域の磁性粒子に影響を及ぼし、及び/又は該磁性粒子を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種類の装置は特許文献1から既知である。特許文献1に記載された方法の場合では、最初に、磁場強度の空間分布を有する磁場が、相対的に磁場強度の小さな第1サブ領域及び相対的に磁場強度の大きな第2サブ領域が前記検査領域内に生成されるような生成される。その後その検査領域内の領域空間内の位置は移動し、それによりその検査領域内での磁化が局所的に変化する。その磁化は前記サブ領域空間内での移動による影響を受けるその検査領域内の磁化に依存する信号が記録される。またその検査領域内での磁性粒子の空間分布に関する情報が前記信号から得られ、それにより前記検査領域内での像を生成することができる。当該装置及び方法は、非破壊的であって損傷を生じさせることなく、かつ高空間分解能で、任意の検査対象物-たとえば人体-を検査するのに用いることができる、という利点を有する。任意の検査対象物は表面付近であっても該表面から離れたところであっても上述したように検査可能である。
【0003】
この種類の既知の装置は、磁場(成分)を発生させるのに用いられる永久磁石が-特に所謂駆動用磁場を変化させることによる第2サブ領域への第1サブ領域のシフトに用いられる変化する電磁場環境に曝露されるとき-不十分であるという欠点を示してきた。その理由は、係る駆動用磁場は永久磁石の位置で渦電流を誘起してしまうことで、永久磁石を加熱してしまい、選択用磁場の意図しない変化を引き起こしてしまうからである。しかも変化する駆動用磁場は永久磁石内に意図しない高調波-特に永久磁石の軟磁性部分を起源とする-を発生させてしまう恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許出願第10151778号明細書
【特許文献2】独国特許出願第1304542号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明の目的は、「背景技術」で述べた種類の装置を供することである。その種類の装置では、磁場発生手段の性質及び安定性が改善されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、作用領域の磁性粒子に影響を及ぼし、及び/又は該磁性粒子を検出する装置によって実現される。当該装置は、選択用磁場を発生させる選択手段であって、前記選択用磁場は、該磁場強度空間内において、磁場強度の小さな第1サブ領域及び磁場強度の大きな第2サブ領域が前記作用領域内に生成されるようなパターンを有する、選択手段、並びに、駆動用磁場の手段によって前記作用領域内における前記第1領域及び第2領域の位置を変化させる駆動手段、を有する。前記選択手段は少なくとも1つの永久磁石を有する。前記永久磁石は高電気伝導性の遮蔽手段によって少なくとも部分的に遮蔽されている。
【0007】
本発明によると、選択手段は少なくとも1つの永久磁石を有し、選択手段及び/又は駆動手段及び/又は受信手段は、その少なくとも一部が単一コイル又はソレノイドの形態で供されて良い。しかも本発明によると、選択手段及び/又は駆動手段及び/又は受信手段は、それぞれ各独立した部品-具体的には各独立したコイル又はソレノイド-で構成されて良い。その独立した部品は1つとなって、選択手段及び/若しくは駆動手段及び/若しくは受信手段を形成するように、供され、かつ/又は備えられて良い。永久磁石に少なくとも部分的には隣接して、又はその周辺に遮蔽手段を供することなく、渦電流-特に(複数の)駆動用磁場によって誘起される-は選択手段の特性及び振る舞いに否定的な影響を及ぼす-具体的には永久磁石の加熱及び/又は熱ドリフトによって-傾向にある。少なくとも一部が永久磁石の隣又は周囲にある高伝導性シールドは、駆動用磁場の周波数では少なくとも表皮深さ程度の厚さを有していなければならない。
【0008】
本発明によると、遮蔽手段は、永久磁石の周囲を回るループ内に、又は少なくとも1つの電流伝播方向に従って備えられることが好ましい。これにより、渦電流を、永久磁石の周囲であって遮蔽手段内部において非常に効率的に誘起することが可能となる。単純な状況に限れば、電流の伝播方向、又は渦電流の主な電流伝播方向は、遮蔽手段が永久磁石周辺のループ内に配向すなわち配置されるような向きをとる。一般的には、本発明によると、電流伝播方向が最初に決定され、続いて遮蔽手段-特にリッツ線の形態をとるもの-が、その主要な電流支持経路が電流伝播方向を向くように配置される。本発明の装置の特別な配置において、様々な種類の電流伝播方向が検出される場合、遮蔽手段を、たとえば永久磁石の周辺に存在する2層以上の層内に設置することが可能となる。これらの各層は渦電流に追随する一の電流伝播方向-たとえば本発明の一の動作モードにおける、又は駆動手段に対して特別な信号シーケンスが与えられるときの-に対応する。電流伝播方向の決定は最初に導体板又はホイル-たとえば銅板-を永久磁石の周囲に供することによって実現されて良い。続いて本発明の装置の典型的な動作モードが実現され、又は典型的な信号シーケンスが駆動手段に印加されることで、電流伝播方向が検出される。
【0009】
本発明によると、遮蔽手段は少なくとも一部にリッツ線及び/又はプレート状又はホイル状の材料を有し、そのリッツ線は複数の独立したワイヤを有し、かつ各独立したワイヤは高電気抵抗の材料によって取り囲まれていることが好ましい。よって、ディスク形状のコイルの内部にかなりの高電流支持表面を供することが可能となる。これは、相対的に強い渦電流がリッツ線によって吸収される場合にとって重要である。特にプレート状又はホイル状の材料-たとえば銅板-を永久磁石とリッツ線の間に供することで、リッツ線が少なくとも1つの電流伝播方向に沿って又は従って配置されることが好ましい。さらに本発明によると、リッツ線は、複数の接触地点でプレート状又はホイル状の材料と電気的に接続することが好ましい。その接触地点はリッツ線に沿って、相対的に短い間隔-たとえば(完全な)リッツ線の直径の5〜15倍で好適には10倍-をあけて設けられている。本発明によると、リッツ線は、一の独立ワイヤが、たとえばそのリッツ線の延長方向に沿った一の位置においてそのリッツ線の中心にあり、かつ、たとえばリッツ線の延長方向に沿った他の位置においてはそのリッツ線の周辺に位置するに位置するように、紡がれる。よって、全ての独立したワイヤの各々は、たとえばリッツ線によって形成されるループ内において、各独立したワイヤによって同一のインピーダンスが実現されるように供されることが可能となる。
【0010】
しかも本発明の好適実施例によると、リッツ線は複数の1次リッツ線を有する。本発明の好適実施例では、リッツ線は複数の1次リッツ線及び複数の2次リッツ線を有する。1次リッツ線は複数の独立したワイヤを有する。1次リッツ線は複数の複数の1次リッツ線を有する。リッツ線は複数の2次リッツ線を有する。それにより、電流支持表面の増大が可能となり、かつ処理要件の複雑さ-特に多数の独立したワイヤを有するリッツ線を曲げること-が緩和される。
【0011】
本発明の実施例では、リッツ線は、所与の動作周波数帯及び電流支持路を進行する所与の電磁場での抵抗が実質的に最小となる、つまり熱雑音によって支配されるように備えられることが好ましい。これは特に、選択手段及び/又は駆動手段の電流支持経路の各独立した電流路(たとえば各独立するワイヤ)、電流強度、コイル装置、並びに、他の特性によって実現される。
【0012】
選択手段及び駆動手段は共に「磁場発生手段」とも呼ばれる。選択手段は磁場発生手段を有し、その磁場発生手段は、静的な(勾配を有する)選択用磁場又は約1Hz〜約100Hzの範囲の周波数を有する比較的ゆっくりと変化する長距離選択用磁場のいずれかを供する。選択用磁場の静的成分と比較的ゆっくりと変化する成分のいずれも、永久磁石若しくはコイル、又はこれらの結合によって生成されて良い。駆動手段は磁場発生手段を有し、その磁場発生手段は、約1kHz〜約200kHz範囲で、好適には約10kHz〜約100kHz範囲の周波数を有する駆動用磁場を供する。磁場発生手段(つまり選択手段及び駆動手段)の少なくとも一部は、別のコイルによって実装されて良い。各コイル又は各磁場発生手段の電流支持経路(すなわちリッツ線の場合であれば独立したワイヤ)の直径は、表皮効果がコイルの抵抗を増大させないように選ばれなくてはならない。本発明のさらなる好適実施例では、巻線キャパシタの巻数が最小となるだけではなく、磁場発生手段-特にコイル-の部品の回転数も制限される。これにより、巻線-特に選択手段のコイル-をブロックにすることにより、かつ巻線を十分に離すことによって、巻線間の材料の誘電率を小さくすることによって実現されて良い。これらの手法の利点の1つは、本発明の装置内部では、磁場発生手段の各独立したコイルの自己共鳴は、駆動周波数とは重ならないようなものである(駆動手段のコイルを除く)。係る重なりは意図しない磁場の歪み及びさらなる損失を引き起こす。
【0013】
リッツ線は、ある特定の範囲でのリッツ線の断面積に対する個々のワイヤの断面積を合計したものの比(充填率)を有すること、及びリッツ線の個々のワイヤが約1μmから約50μmの直径を有し、好適には約10μmから約25μmの直径を有することが好ましい。よってリッツ線内部に使用された電流支持表面を顕著に改善し、ひいては選択手段及び/又は駆動手段及び/又は受信手段の構成全体の抵抗を減少させることが可能となる。典型的には、選択手段及び/又は駆動手段のリッツ線の充填率は約0.30〜約0.70の範囲で、好適には0.50周辺であるので、約0.01〜約0.20の範囲で、好適には約0.03〜約0.10の範囲である受信手段のリッツ線の充填率よりも高い。さらに選択手段及び駆動手段のリッツ線の各ワイヤの直径は、受信手段のリッツ線の各ワイヤの直径よりも大きくなるように選ばれて良い。
【0014】
本発明のさらなる好適実施例では、各異なるリッツ線間の空間又はリッツ線内部の空間が、1つ以上の冷却チャネルに用いられる。よって本発明の装置の各異なる部品の温度を容易に決めることが可能となる。遮蔽手段を冷却することによって、特定の温度に永久磁石を維持することで、永久磁石によって生成される磁場を安定化させることが可能である。
【0015】
本発明のさらなる好適実施例では、電流支持経路は圧縮され、かつ/又は電流支持経路は、所定のパターン中に電流支持経路を供する前に、第1熱可塑性材料として多数の熱可塑性樹脂ワイヤを有する。よって非常に高密度で安定な構成の電流支持経路(リッツ線内部に個々の独立したワイヤがある)が可能となることは非常に有利である。それに加えて、電流支持経路の充填率は、電流支持経路が受ける圧縮圧力を変化させることによって、所望のレベルにまで調節されて良い。さらに電流支持経路の充填率は、追加の樹脂ワイヤの数及び/又はサイズを変化させることによって所望のレベルにまで調節されて良い。リッツ線の場合では、これらの樹脂ワイヤ(熱可塑性ワイヤ)は、リッツ線の個々のワイヤと共に、及び/又は1次リッツ線と共に、及び/又は2次リッツ線と共に、紡がれることが好ましい。
【0016】
本発明はさらに、作用領域内での磁性粒子に影響を及ぼし、及び/又は磁性粒子を検出する方法に関する。当該方法は、磁場強度空間内においてパターンを有する選択用磁場を発生させる工程であって、磁場強度の小さな第1サブ領域及び磁場強度の大きな第2サブ領域が作用領域内に形成される、工程、駆動用磁場によって前記作用領域内の2つのサブ領域の空間での位置を変化させることで、磁性粒子の磁化を局所的に変化させる、工程、並びに、前記永久磁石を高電気伝導性の遮蔽手段によって前記駆動用磁場から遮蔽する工程;
を有する。
【0017】
本発明のこれら及び他の特性、特徴、及び利点は、添付図面と共に以降の詳細な説明を参照することで明らかとなる。説明は例示のためだけに与えられるものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。以降の参照図は添付の図面を示す。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明による方法を実行する装置を図示している。
【図2】本発明による装置によって生成される磁場線のパターンの一例を図示している。
【図3】作用領域内に存在する磁性粒子の拡大図を示している。
【図4】a及びbは、当該粒子の磁気特性を表している。
【図5】リッツ線の構成例を概略的に図示している。
【図6】リッツ線の構成例を概略的に図示している。
【図7】リッツ線の構成例を概略的に図示している。
【図8】遮蔽手段を備えた永久磁石を概略的に図示している。
【図9】遮蔽手段を備えた永久磁石を概略的に図示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
特定の図を参照しながら、具体的実施例について、本発明を説明する。しかし本発明は参照された具体的実施例によっては限定されず、「特許請求の範囲」に記載された請求項によってのみ限定される。示された図は単なる概略に過ぎず、非限定的である。図においては、例示目的のため、大きさが誇張され、かつ正しいスケールで描かれていない構成要素がある。
【0020】
さらに、明細書及び特許請求の範囲に記載されている第1、第2、第3等の語は、同様の構成要素を区別するために用いられており、必ずしも生起順序又は時系列順序を表すものではない。よって用いられているそれらの語は適切な状況下では同義であり、本明細書で説明されている本発明は、説明すなわち例示されている順序以外の順序での動作が可能であることに留意すべきである。
【0021】
しかも、明細書及び特許請求の範囲に記載されている上部、下部、上、下等の語は、説明目的で使用されており、必ずしも相対的位置を表すものではない。よって用いられているそれらの語は適切な状況下では同義であり、本明細書で説明されている本発明は、説明すなわち例示されている順序以外の順序での動作が可能であることに留意すべきである。
【0022】
図1では、本発明による装置によって検査される任意の対象物が図示されている。図1の参照番号350は、患者テーブルに載せられた対象物-この場合ヒト又は動物の患者-を表す。図1では、患者テーブルの上部だけが図示されている。本発明による方法を用いる前に、磁性粒子100(図1には図示されていない)が、本発明に係る装置10の作用領域300内に備えられる。特に、たとえば腫瘍の治療及び/又は診断を行う前に、磁性粒子100は、その磁性粒子100を含む液体(図示されていない)を患者350の体内へ注入することによって、作用領域300に配置される。
【0023】
本発明の実施例の一例として、選択手段210を形成する複数のコイルを有する装置10が図2に図示されている。前記選択手段210の範囲は作用領域300を画定する。その作用領域300は処置領域300とも呼ばれる。たとえば選択手段210は、患者350の上と下、又は患者テーブル上部の上と下に備えられる。たとえば、選択手段210は、少なくとも1つの永久磁石210’’、及び第1コイル210’又は第1対のコイル(図示されていない)を有する。以降では、永久磁石210’’、及び第1コイル210’は共に選択手段210と呼ばれる。この場合では直流であることが好ましい。選択手段210は選択用磁場211を発生させる。選択用磁場とは一般的に、図2において磁場線によって表される磁場勾配である。選択用磁場は、選択手段210のコイル対の(たとえば垂直)軸方向にほぼ一定の勾配を有し、かつこの軸上のある一点でゼロの値に到達する。この磁場の存在しない点(図2では個別的に図示されていない)から開始して、磁場の存在しない点からの距離が増大することで、選択用磁場211の磁場強度は全空間方向において増大する。磁場が存在しない点の周りを取り囲む破線によって表された第1サブ領域301では、磁場強度があまりに小さいので、その第1サブ領域内に存在する粒子100の磁化は飽和しない。その一方で、第2サブ領域内(第1サブ領域の外側)に存在する粒子100の磁化は飽和状態となる。磁場の存在しない点すなわち作用領域300の第1サブ領域301は空間的にコヒーレントな領域であることが好ましい。の第1サブ領域301はまた点状の領域であるか、さもなければ線又は平坦領域であって良い。第2サブ領域302(つまり第1サブ領域301の外側である作用領域300の残りの領域)では、磁場強度は、粒子100を飽和状態に保持するのに十分な強さである。2つのサブ領域301と302の位置を作用領域300内で変化させることによって、作用領域300内での(全体の)磁化が変化する。作用領域300での磁化、又は磁化によって誘起される物理パラメータを測定することによって、作用領域内の磁性粒子の空間分布に関する情報を得ることができる。作用領域300内の2つのサブ領域301,302の相対位置を変化させるため、さらなる磁場-所謂駆動用磁場221-が、作用領域300又は作用領域300の少なくとも一部内において選択用磁場と重ね合わせられる。
【0024】
図3は、本発明の装置10と共に用いられる種類の磁性粒子100の一例を図示している。磁性粒子100はたとえば球形基板101を有する。その球形基板は、軟磁性層102が供されたガラスで作られる。その軟磁性層102は、たとえば5nmの厚さを有し、かつ鉄-ニッケル合金(たとえばパーマロイ)で構成される。この層は、たとえば酸のような物理的又は化学的に侵襲性のある環境から粒子100を保護するコーティング層の手段によって覆われて良い。係る粒子100の磁化を飽和させるのに必要な選択用磁場の磁場強度は様々なパラメータ-たとえば粒子100の直径、磁性層102に用いられる磁性材料、及び他のパラメータ-に依存する。
【0025】
たとえば直径10μmの場合では、約800A/m(1mTの磁束密度にほぼ相当する)の磁場が必要となる。他方直径100μmの場合では、約80A/mの磁場で十分である。小さな飽和磁化を有する材料からなるコーティング102が選ばれたとき、又は層102の厚さが減少するときには、はるかに小さな値が得られる。
【0026】
好適な磁性粒子100についての更なる詳細については、特許文献1及び2を参照のこと。
【0027】
第1サブ領域301のサイズは、一方で選択用磁場211の勾配の強度に依存し、他方で飽和するのに必要な磁場の磁場強度にも依存する。80A/mの磁場強度で磁性粒子が十分に飽和するため、及び選択用磁場211の磁場強度の(所与の空間方向における)勾配が160×103に達するため、粒子100の磁化が飽和しない第1サブ領域301は、(所与の空間方向において)約1mmの長さを有する。
【0028】
更なる磁場-以降では駆動用磁場221と呼ぶ-が、作用領域300内で選択用磁場210(すなわち勾配を有する磁場210)上に重ね合わせられるとき、第1サブ領域301は、第2サブ領域302に対して、この駆動用磁場221の方向に移動する。駆動磁場221の強度が増大することで、この移動量も増大する。重ね合わせられた駆動用磁場221が時間変化するとき、第1サブ領域301の位置もそれに従って時間的にも空間的にも変化する。駆動用磁場221が変化する周波数帯ではなく(それよりも高い周波数にシフトした)別な周波数帯において、第1サブ領域301に設けられた磁性粒子100からの信号を検出又は受信することは有利である。このようなことは可能である。その理由は、磁化特性が非線形である結果、作用領域300内で磁化の変化が生じるために駆動用磁場221の周波数の高周波成分が発生するためである。
【0029】
空間内での所与の方向にこれらの駆動用磁場221を発生させるため、さらに3つのコイル対が供される。これら3つのコイル対とは具体的には、第2コイル対220’、第3コイル対220’’、及び第4コイル対220’’’で、以降ではまとめて駆動手段220と呼ぶ。たとえば第2コイル対220’は、第1コイル対210’,210’’、すなわち選択手段210のコイル軸方向-つまりたとえば垂直方向-に延びる駆動用磁場221の成分を発生させる。このため、第2コイル対220’の巻線には同じ方向に電流が流れる。
【0030】
2つのさらに別なコイル対220’’,220’’’が、駆動用磁場221の磁場成分を発生させるために供される。この磁場成分は空間内の異なる方向-たとえば水平方向-に延びる。水平方向とは、たとえば作用領域300(すなわち患者350)の長手方向でかつその方向に垂直な方向である。(選択手段210及び駆動手段220のコイル対のような)ヘルムホルツ型の第3コイル対220’’及び第4コイル対220’’’がこの目的のために用いられた場合、これらのコイル対はそれぞれ、処置領域の左右、又はこの領域の前後に配置されなければならない。これは、作用領域300すなわち処置領域300のアクセスのしやすさに影響を及ぼす。従って第3磁気コイル対若しくは複数のコイル220’’及び/又は第4磁気コイル対若しくは複数のコイル220’’’もまた、作用領域300の上下に配置される。よってこれらの巻線の構成は第2コイル対の巻線の構成とは異なっていなければならない。しかしこの種類のコイルは、オープンマグネットを備えた磁気共鳴装置(オープンMRI)の分野では既知である。この磁気共鳴装置では、高周波コイル(RF)対が処置領域の上下に配置され、前記RFコイル対は水平であって時間変化する磁場を発生させることができる。従って係るコイルを構築することで、さらにコイルを精緻化する必要がなくなる。
【0031】
本発明による装置10は、図1において概略的にしか図示されていなかった受信手段230をさらに有する。その受信手段230は通常、作用領域300内の磁性粒子100の磁化パターンによって誘起される信号を検出することの可能なコイルを有する。しかしこの種類のコイルは、磁気共鳴装置の分野では既知である。この装置では、信号対雑音比を可能な限り高くするため、たとえば高周波(RF)コイル対が作用領域300の周辺に設けられる。従って係るコイルを構築することで、さらにコイルを精緻化する必要がなくなる。
【0032】
図1に図示された選択手段210の代替実施例では、永久磁石(図示されていない)が、勾配を有する選択用磁場211を発生させるのに用いられて良い。そのような対向する永久磁石(図示されていない)の極間の空間内では、図2と同様の磁場が形成される。図2と同様の磁場とはつまり、対向する極が同一の極性を有するときに生じる磁場である。本発明によると、複数の永久磁石もまた駆動用磁場の変化を起源とする比較的大きな渦電流の誘起から少なくとも部分的に遮断されることが好ましい。
【0033】
選択手段210、駆動手段220、及び受信手段230の様々な成分に通常用いられる周波数範囲は大雑把には以下の通りである。選択手段210によって発生する磁場は全く時間変化しないか、又は比較的緩やかに変化する。好適には約1Hzから約100Hzである。駆動手段220によって発生する磁場は約25kHzから約100kHzの間で変化することが好ましい。受信手段が敏感であると考えられる磁場変化は、約50kHzから約10MHzの間の周波数範囲であることが好ましい。
【0034】
図4a及び4bは磁化特性を図示している。つまり、粒子100(図4a及び4bには図示されていない)の懸濁物中において、その粒子100の位置での磁場強度Hの関数として、その粒子100の磁化変化が図示されている。磁化Mは、磁場強度が-Hc未満も大きい領域及び磁場強度が-Hc未満の領域ではもはや変化しないことが分かる。このことは、飽和磁化に到達していることを意味する。磁化Mは-Hcから-Hcの間の値では飽和しない。
【0035】
図4aは、粒子100の位置での正弦磁場H(t)の効果を図示している。ここでは、その結果として生じる正弦磁場H(t)(つまり「粒子100によって見える」)の絶対値は、粒子100を磁気的に飽和させるのに必要な磁場強度よりも小さい。つまりさらに磁場が活性になることはない。この条件での(複数の)粒子100の磁化は、磁場H(t)の周波数の周期でその飽和値を反転させる。その結果生じる磁化の時間変化は、図4aの右側縦軸のM(t)で表される。磁化もまた周期的に変化し、かつ係る粒子の磁化は周期的に反転することが分かる。
【0036】
曲線の中心での線の破線部は、正弦磁場H(t)の磁場強度の関数としての磁化M(t)の近似的な平均変化を表す。この中心線からのズレとして、磁場Hが-Hcから+Hcに増大するときには磁化はわずかに右側へ延びて、磁場Hが+Hcから-Hcに減少するときには磁化はわずかに左側へ延びる。この既知の効果はヒステリシス効果と呼ばれる。この効果は、熱を発生する機構の基礎をなすものである。曲線経路間に形成され、かつ形状とサイズが材料に依存するヒステリシス表面は、磁化が変化する際の熱の発生の指標となる。
【0037】
図4bは、上に静磁場H1が重ね合わせられる正弦磁場H(t)の効果を図示している。磁化が飽和状態にあるため、その磁化は正弦磁場H(t)による影響を実質的に受けない。磁化M(t)はこの領域では時間的に一定のままである。その結果磁場H(t)は磁化の状態に変化を生じさせない。
【0038】
図5から7では、リッツ線250が概略的に図示されている。そのリッツ線250は、本発明による遮蔽手段内部に少なくとも1つの電流支持経路を供する一例として図示されている。図5から7の各々は係るリッツ線250の一実施例の断面図を示している。各リッツ線250は多数の独立したワイヤ255を有する。それにより、電流支持面を増大させることが可能であり、かつ処理要件の複雑さ-特に(ソレノイド又はコイルを形成するために)多数の独立したワイヤを有するリッツ線を曲げる恐れ-が減少する。様々な実施例は正しいスケールで表されていない。大きさは単純に表すことのみを目的として選ばれている。リッツ線の充填率は、各独立した線255の断面積を合計し、かつ完全なリッツ線250の断面積で除することによって容易に評価することができる。図5から7に表されたリッツ線250の実施例に対し、そのリッツ線250の延長する長手方向とは垂直な方向に圧力を加えることによって、充填率を改善することが可能である。各独立したワイヤ255は高電気抵抗材料256によって円周を取り囲まれることで、高電気抵抗材料256が各独立したワイヤ255のクラッド256として機能することが好ましい。本発明によると、係るクラッド材料256は各独立したワイヤ255に存在する。しかし、リッツ線250の各独立したワイヤ255が、第1端部250’と第2端部250’’との間の隣接する独立のワイヤ250から電気的に絶縁されている、という条件が満たされている場合には、係る連続的なクラッドは必要ではない。図5の右側の等価電気回路図に表されているように、リッツ線250の独立したワイヤ255は、独立した電流支持経路255として機能し、かつ並列接続して理想的には同一のインピーダンスを有する抵抗器とみなすことができる。従って本発明によると、リッツ線は、一の独立ワイヤが、たとえばそのリッツ線の延長方向に沿った一の位置においてそのリッツ線の中心にあり、かつ、たとえばリッツ線の延長方向に沿った他の位置においてはそのリッツ線の周辺に位置するに位置するように、紡がれる。図5に表されたリッツ線250のさらなる好適特徴が表されている。具体的にはプラスチック製のホイル絶縁体257が、独立したワイヤ255の周囲でそれらをまとめるように供される。係るプラスチック製(熱可塑性)は、リッツ線250の他の全ての実施例に供されて良いが、図示されていない。係る絶縁性ホイル、すなわちリッツ線250の独立したワイヤ255の周囲でそれらをまとめる絶縁材料257のさらに他の特徴は、そのリッツ線のより良好な高電圧特性が可能となるという利点を供する。
【0039】
図6では、リッツ線250のさらなる実施例の断面が概略的に図示されている。ここでリッツ線250も(図5による実施例のように)複数の独立したワイヤ255を有するが、独立したワイヤ255は、複数の所謂1次リッツ線251にグループ化されている。これらの1次リッツ線251(各々は複数の独立したワイヤ255を有する)が1つとなるように合わせられることで、リッツ線250が形成される。図6では、連続的なクラッド256が各独立したワイヤ255の周囲に存在することが好ましいが、参照番号によっては示されていない。
【0040】
図7では、リッツ線250のさらに他の実施例の断面が概略的に図示されている。ここでもリッツ線250は、(図5及び6による実施例のように)複数の独立したワイヤ255、及び複数の1次リッツ線251を有するが、1次リッツ線251は複数の所謂2次リッツ線252にグループ化されている。これらの2次リッツ線252(各々は1次リッツ線251を複数有する)が1つとなるように合わせられることで、リッツ線250が形成される。図6では、連続的なクラッド256が各独立したワイヤ255の周囲に存在することが好ましいが、参照番号によっては示されていない。

本発明による一の重要な目的は、少なくとも1つの永久磁石210’が駆動用磁場221の変化によって誘起される渦電流から保護されるような、本発明による装置を供することである。さもなければこれらの渦電流は-永久磁石の材料の伝導度に依存して-永久磁石210’内部での温度上昇を引き起こす。本発明によると、図8及び図9で詳細に説明される永久磁石210’の周りに備えられた遮蔽手段を供することが提案される。
【0041】
図8及び図9では、遮蔽手段を備えた永久磁石の各異なる図が概略的に示されている。図8は参照番号270で指定された永久磁石の側面を図示している。図9は永久磁石270の上面を図示している。永久磁石270の周辺領域では、永久磁石270に隣接して、又は永久磁石270の周囲を取り囲むようにして遮蔽手段271が供される。図8及び図9に図示された遮蔽手段271は、永久磁石270の周囲で巻かれるワイヤの形態をとる例である。遮蔽手段271のワイヤはリッツ線250であることが好ましい。さらに遮蔽手段271は永久磁石270の周りを螺旋状に巻かれていることが好ましい。
【0042】
遮蔽手段のさらなる代替実施例によると、遮蔽手段は、相対的に高伝導度材料層が接合したものとして供されるか、又は永久磁石270の材料上に堆積される。本発明によると、比較的高伝導度の材料からなる層の厚さは、関連する周波数-つまり駆動用磁場の周波数-の表皮深さ程度のオーダーで選ばれなければならない。
【0043】
しかも本発明によると、永久磁石270の周りにプレート状又はホイル状の材料として高伝導性材料を供することも、比較的高伝導度のプレート状又はホイル状の材料の周りに1層以上の層をさらに供することも可能である。リッツ線は、永久磁石270の周りの渦電流の主な伝播方向(のうちの少なくとも1つの方向)に従うように配置されることが好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作用領域の磁性粒子に影響を及ぼし、及び/又は該磁性粒子を検出する装置であって、
当該装置は:
選択用磁場を発生させる選択手段であって、前記選択用磁場は、該磁場強度空間内において、磁場強度の小さな第1サブ領域及び磁場強度の大きな第2サブ領域が前記作用領域内に生成されるようなパターンを有する、選択手段;並びに、
駆動用磁場の手段によって前記作用領域内における前記第1領域及び第2領域の位置を変化させる駆動手段;
を有し、
前記選択手段は少なくとも1つの永久磁石を有し、
前記永久磁石は高電気伝導性の遮蔽手段によって少なくとも部分的に遮蔽されている、
装置。
【請求項2】
前記遮蔽手段は、前記永久磁石の周囲を回るループ内に、又は少なくとも1つの電流伝播方向に従って備えられる、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記遮蔽手段は少なくとも一部にリッツ線及び/又はプレート状又はホイル状の材料を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記リッツ線は複数の独立したワイヤを有し、かつ
各独立したワイヤは高電気抵抗の材料によって取り囲まれている、
請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記リッツ線は複数の1次リッツ線を有し、
該1次リッツ線は複数の独立したワイヤを有し、
前記リッツ線は複数の複数の1次リッツ線を有する、
請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記リッツ線は複数の1次リッツ線及び複数の2次リッツ線を有し、
該1次リッツ線は複数の独立したワイヤを有し、
前記2次リッツ線は複数の1次リッツ線を有し、
前記リッツ線は複数の複数の2次リッツ線を有する、
請求項4に記載の装置。
【請求項7】
前記リッツ線は、所与の動作周波数帯又は電流支持路を進行する所与の電磁場において、前記遮蔽手段の抵抗が実質的に最小となる、ように備えられる、請求項4に記載の装置。
【請求項8】
前記リッツ線は、該リッツ線の断面積に対する独立したワイヤの断面積を合計したものの比(充填率)を有し、
該リッツ線の充填率は約0.30〜約0.70の範囲で、好適には0.50周辺である、
請求項4に記載の装置。
【請求項9】
前記リッツ線の独立したワイヤは、約1μmから約50μmの直径を有し、好適には約10μmから約25μmの直径を有する、請求項10に記載の装置。
【請求項10】
各異なるリッツ線間の空間又はリッツ線内部の空間が、1つ以上の冷却チャネルに用いられる、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
作用領域内での磁性粒子に影響を及ぼし、及び/又は磁性粒子を検出する方法であって:
磁場強度空間内においてパターンを有する選択用磁場を発生させる工程であって、磁場強度の小さな第1サブ領域及び磁場強度の大きな第2サブ領域が作用領域内に形成される、工程;
駆動用磁場によって前記作用領域内の2つのサブ領域の空間での位置を変化させることで、磁性粒子の磁化を局所的に変化させる、工程;並びに
前記永久磁石を高電気伝導性の遮蔽手段によって前記駆動用磁場から遮蔽する工程;
を有する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−512916(P2010−512916A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−542337(P2009−542337)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【国際出願番号】PCT/IB2007/055157
【国際公開番号】WO2008/078261
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】