説明

使い捨ておむつによる腹部への装着圧迫の評価方法

【課題】使い捨ておむつの着用によって着用者の腹部に加わる圧迫の程度を評価し得る方法を提供すること。
【解決手段】本発明の使い捨ておむつによる腹部への装着圧迫の評価方法では、装着対象者としての乳幼児に使い捨ておむつを装着させた状態で経時的に測定された皮膚温に基づき、該使い捨ておむつが該着用者の腹部に加える圧迫の程度を評価する。おむつを装着した初期段階での皮膚温の変化の傾きに基づき圧迫の程度を評価するか、又は対照おむつを装着させて測定された皮膚温に対する、測定対象のおむつを装着させて測定された皮膚温の差から圧迫の程度を評価することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装着状態の使い捨ておむつによって着用者の腹部に加わる圧迫の程度を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
使い捨ておむつの商品開発や製造の現場においてその良否を評価すること、あるいは着用者又はその介助者である使い捨ておむつの購入者がおむつの良否を評価したり購入のために選択したりするときの指標として、尿中のコルチゾール濃度の変化率を採用することが提案されている(特許文献1参照)。同文献においては、おむつの着用前と着用後であって、かつ起床後6時間以内の尿をおむつの着用者から採取し、おむつ着用前後の尿中のコルチゾール濃度を測定して、着用前後のコルチゾール濃度の変化率を求め、該変化率を指標としておむつの評価及び選択を行っている。同様の目的のために、尿中の抗利尿ホルモン(ADH)濃度の変化率を利用する方法も提案されている(特許文献2参照)。
【0003】
使い捨ておむつに関するこれらの技術とは別に、被服による皮膚圧迫が体温調節反応に及ぼす影響に関する報告がある(非特許文献1参照)。この報告によれば、綿素材とポリエステル素材という吸湿性の異なる衣服を用いて成人女性の全身の皮膚圧迫を行った場合、皮膚温を観察すると、発汗前は抑制傾向であったのに対し、発汗後には反対に促進したとされている。また、綿素材着用時の皮膚圧迫は、生体への温熱負荷が大きくなると結論している。
【0004】
同様に皮膚圧迫に関し、成人のヒトでは、皮膚圧が強いほど全身発汗が抑制される傾向にあるが、その程度は小さく、代謝量や体温には殆ど影響しないとの報告もある(非特許文献2参照)。この報告によれば、高温又は低温で非常に強い圧迫(5−10kgf/cm2)を行っても、体温の有意な変化はみられなかったとされている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−333448号公報
【特許文献2】特開2003−4734号公報
【非特許文献1】平田耕造ら、デサントスポーツ科学、2003年6月5日発行、vol.24、pp.3−5
【非特許文献2】小川徳雄、繊消誌、vol.43、No.8(2002)、pp506−511
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、被服として特に使い捨ておむつを対象とした場合に、着用者の腹部に加わる圧迫の程度を評価する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために本発明者らは鋭意検討したところ、おむつを装着する者として乳幼児を対象とした場合には、これまでの報告と異なり、意外にも、おむつによる圧迫の程度が、皮膚温に反映されることを知見して本発明の完成に至ったものである。
【0008】
すなわち本発明は、装着対象者としての乳幼児に使い捨ておむつを装着させた状態で経時的に測定された皮膚温に基づき、該使い捨ておむつが該着用者の腹部に加える圧迫の程度を評価する、使い捨ておむつによる腹部への装着圧迫の評価方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、おむつを装着した状態での圧迫の程度を客観的に評価できるので、着用状態のおむつではなく、おむつそれ単独で測定された締め付け力を評価する場合よりも、一層実態に近い評価結果を得ることができる。また本発明の方法によれば、おむつによる腹部の圧迫が人体の生理機能に与える影響を明確することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明における評価の対象は使い捨ておむつである。当該技術分野において、一般に使い捨ておむつは、パンツ型のタイプと展開型(テープ止め)のタイプに大別される。本発明においてはいずれのタイプの使い捨ておむつも評価の対象とすることができる。尤も、展開型の使い捨ておむつは、これを装着するときのファスニングテープの止着位置を調節することで、おむつの締め付けの程度を任意に調節できるので、おむつの締め付けの程度を任意に調節できないタイプのおむつであるパンツ型の使い捨ておむつを対象とした場合に本発明は特に有効な方法であると言える。そこで以下の説明においては、評価の対象となる使い捨ておむつの好適な例としてパンツ型のおむつを取り上げることとする。
【0011】
図1ないし3には、パンツ型使い捨ておむつ(以下、単にパンツ型おむつとも言う)の一例が示されている。ここで留意すべきは、本発明の評価の対象となるおむつは、これらの図に示すものに限られないということである。要するに、これらの図に示すおむつは、本発明の評価の対象となるおむつの一例に過ぎない。
【0012】
図1ないし3に示すパンツ型おむつ1は、その基本構造として、股下部C並びに股下部Cから前後方向に延びる腹側部A及び背側部Bを有している。股下部Cは、おむつの着用状態で着用者の股下に対向して位置する部位である。腹側部A及び背側部Bはそれぞれ、おむつの着用状態で着用者の腹側及び背側に対向して位置する部位である。またパンツ型おむつ1は、その着用状態で着用者の肌側に位置する肌対向面と、外方を向く外面とを有している。前記の腹側部Aの左右両側縁と背側部Bの左右両側縁とは、おむつの肌対向面が内側になるように互いに接合固定される。これによってパンツ型の形態が形成される。
【0013】
更に詳細に説明すると、おむつ1は、液透過性の表面シート2、撥水性の裏面シート3及び両シート2、3間に介在配置された液保持性の吸収性コア4を有する実質的に縦長の吸収体本体10と、該吸収体本体10の裏面シート3側に配された外包材11とを備えている。外包材11は、その両側縁が、長手方向中央部において内方に括れた砂時計形の形状をしており、おむつの輪郭を画成している。外包材11はその長手方向において、上述した腹側部A、背側部B及び股下部Cに区分される。外包材11における腹側部Aの両側縁と背側部Bの両側縁とが互いに接合されて、おむつ1にはウエスト開口部5及び一対のレッグ開口部6が形成される。この接合によって、おむつ1の左右両側縁には一対のサイドシール部Sが形成される。この接合には例えばヒートシール、高周波シール、超音波シール等が用いられる。
【0014】
表面シート2、裏面シート3及び吸収性コア4はそれぞれ矩形状であり、一体化されて縦長の吸収体本体10を形成している。表面シート2及び防漏シート3としては、従来この種のおむつに用いられているものと同様のものを用いることができる。また吸収性コア4は、高吸収性ポリマーの粒子及び繊維材料から構成されており、ティッシュペーパ(図示せず)によって被覆されている。
【0015】
図2に示すように、吸収体本体10の長手方向の左右両側には、液抵抗性ないし撥水性でかつ通気性の素材から構成された側方カフス8、8が形成されている。各側方カフス8は、吸収体本体10の長手方向に沿って固定端部及び自由端部を有している。固定端部は、表面シート2に固定されている。更に、固定端部及び自由端部は、吸収体本体10の長手方向両端部(図3における上下方向の端部)において表面シート2に固定されている。一方、自由端部の近傍には、側方カフス弾性部材81が伸長状態で配されている。これにより、図1のように組み立てられたおむつ1を着用させる際には、弾性部材81が縮むことにより側方カフス8が起立して、吸収体本体10の幅方向への液の流出が阻止される。
【0016】
外包材11は、少なくとも二枚の不織布、即ち外層不織布12と該外層不織布12の内面側に配された内層不織布13とを有している。外層不織布12はおむつ1の外面をなし、内層不織布13は外層不織布12の内面側に、ホットメルト粘着剤等の接着剤によって接合されている。外層不織布12と内層不織布13は液の染み出し性を考慮すると、共に撥水性であることが好ましい。
【0017】
外包材11における前後端部には、前後端縁に沿って、複数のウエスト部弾性部材51、51がその幅方向に亘り配されている。各ウエスト部弾性部材51、51は、外層不織布12と内層不織布13とによって伸長状態で挟持固定されている。各ウエスト部弾性部材51、51は、おむつ1の腹側部Aの両側縁A1,A2と背側部Bの両側縁B1,B2とを互いに接合(接合部分)させたときに、両弾性部材51、51の端部同士が重なるように配されているか、両接合部分まで両弾性部材51、51の端部が連続配置されている。これによって、図1に示すように、おむつ1のウエスト開口部5の付近には実質的に連続したリング状のウエストギャザーが形成される。このウエストギャザーの収縮作用に起因して、おむつ1を着用した着用者は、その腹部が所定の圧迫の程度で締め付けられる。
【0018】
外包材11は、吸収体本体10の前後端縁から外方に延出しており、延出した部分が吸収体本体10側に折り返されている。折り返された外包材11は、吸収体本体10の前後端部上(即ち吸収体本体10の前後端部における表面シート2上)を被覆している。
【0019】
外包材11における左右両側の湾曲部には、レッグ部弾性部材61a、61bが配されている。各レッグ部弾性部材61a、61bは、前記湾曲部に沿って配されている。各レッグ部弾性部材61a、61bは、外層不織布12と内層不織布13との間に配されており、所定の接合手段によって、両不織布12、13に伸長状態で固定されている。各レッグ部弾性部材61a、61bは、おむつ1の腹側部Aの両側縁A1,A2と背側部Bの両側縁B1,B2とを互いに接合させたときに、両弾性部材61a、61bの端部同士が重なるように配されているか、両接合部分まで両弾性部材61a、61bの端部が連続配置されている。これによって、図1に示すように、おむつ1のレッグ開口部6、6の付近には実質的に連続したリング状のレッグギャザーが形成される。
【0020】
おむつ1においては、おむつ1の腹側部A及び背側部Bそれぞれにおけるウエスト開口部5とレッグ開口部6との間に、おむつ1の幅方向に延びる弾性部材が多数配されている。弾性部材が配されることによって、ウエスト開口部5とレッグ開口部6との間にはおむつ1の幅方向に延在する胴回り領域71が形成されている。胴回り領域71に弾性部材71aが配されている。胴回り領域71はウエスト開口部5とレッグ開口部6との間に位置している。
【0021】
弾性部材71aは外層不織布12と内層不織布13とによって伸長状態で挟持固定されている。弾性部材71aは、おむつ1の腹側部Aの両側縁と背側部Bの両側縁とを互いに接合させたときに、腹側部Aの弾性部材71aと背側部Bの弾性部材71aとの端部同士が重なるように配されているか、両接合部分まで弾性部材71aの端部が配置されている。これによって、図1に示すように、おむつ1の腹側部A及び背側部(図示せず)における胴回り領域71には胴回りギャザーがそれぞれ形成される。上述したウエストギャザーに加え、この胴回りギャザーの収縮作用によって、おむつ1を着用した着用者は、その腹部が所定の圧迫の程度で締め付けられる。
【0022】
弾性部材71aは、おむつ1の左右両側縁(即ち外包材11の左右両側縁)と吸収性コア4の左右両側縁との間に亘って延在している。そして、吸収性コア4が存在している部位には、弾性部材71aは実質的に存在していない。その結果、胴回り領域71に形成されるギャザーは、おむつ1の左右両側縁と吸収性コア4の左右両側縁との間に位置しており、吸収性コア4が存在する位置にはギャザーが実質的に形成されていない。これにより、装着状態においても吸収性コア4が存在している部位は、弾性部材71aの収縮により外包材11が縮むことがなく、おむつ1は外観的にも、また吸収性能的にも良好なものとなる。
【0023】
おむつ1における各弾性部材としてはそれぞれ、天然ゴム、ポリウレタン系樹脂、発泡ウレタン系樹脂、伸縮性不織布又はホットメルト系伸縮部材等の伸縮性素材を糸状(糸ゴム)、帯状(平ゴム)、ネット状(網状)又はフィルム状に形成したものが好ましく用いられる。
【0024】
以上のとおり、図1ないし3に示すパンツ型おむつ1によれば、ウエストギャザーや胴回りギャザーの収縮作用によって、着用者の腹部に締め付け力が加わる。この締め付け力は、おむつ1の着用中におけるずれ落ちやそれに起因する漏れの発生及び外観の印象低下を防止するために必要なものである。したがって、この締め付け力を適切に設定することが、各種の性能の高いおむつを得る点から重要である。一般に締め付け力を高めれば、おむつのずれ落ちを防止できる傾向にあるものの、いたずらに締め付け力を高めても十分な効果が得られる訳ではない(例えば本出願人の先の出願に係る特開2006−61680号公報及び特開2006−61681号公報等参照)。また締め付け力を高めることで着用者に身体的な負荷が加わる場合もある。これらの観点から、パンツ型おむつの締め付け力がどの程度であるかを正確に把握する必要がある。この目的のために、例えばパンツ型おむつからウエストギャザーや胴回りギャザーの部位を切り出して測定片を作製し、その測定片の引張応力等を測定することが従来行われている。しかし、この測定方法はおむつの着用状態で行われるものではないので、着用者に加わる身体的な負荷についての情報が欠けており、専らおむつのずれ落ち防止の観点から検討されているに過ぎない。上述の特開2006−61680号公報及び特開2006−61681号公報においては、おむつの着用状態で締め付け圧を測定しているものの、これらの公報に記載の方法は再現性が得られにくいので信頼性に乏しい。
【0025】
このような現状のもと、本発明者らは、着用状態でのおむつの締め付け圧の程度を簡便に評価し得る方法を種々検討したところ、意外にも、おむつを装着する者として乳幼児を対象とした場合に限り、おむつによる腹部の圧迫の程度が、皮膚温に反映されることが見出された。この理由は現在のところ必ずしも明確になっていないが、本発明者らは次のように考えている。おむつによる腹部の圧迫に起因して、着用者の内臓に負荷が加わる。内臓は人体の他の器官に比べて外部からの圧力に敏感に反応しやすく、それに起因して血液の円滑な流通が阻害される傾向にある。尤も、成人の場合は身体が成熟していることから、外部からの圧力に対して内蔵が不感応であることが多い。このことは、先に述べた非特許文献2による報告と符合している。これに対し、乳幼児は、腹筋が未発達なので締めつけによる影響を受け易い。したがって、内蔵が外部から圧力を受けることで、血流の阻害の程度が顕著になると考えられる。そして、血液の円滑な流通の程度が皮膚温に反映されると本発明者らは考えている。
【0026】
本発明者らが検証したところ、装着対象者が乳幼児である限り、その性別によって評価結果に有意差は生じなかった。乳幼児とは、一般に小学校就学前の者を言う。
【0027】
装着対象者が睡眠しているときは、外部からの多様な要因を受けないので、締め付けのみの要因で皮膚温の変動を評価できる。したがって、本発明の方法は、装着対象者が活動中に行うよりも、睡眠中に行う方が、精度の高い評価結果が得られることが判明した。乳幼児は一日に占める睡眠時間が成人よりも非常に長いことから、睡眠中に本発明の方法を実施することは極めて容易である。装着対象者が睡眠中に皮膚温の測定を行う場合、睡眠の姿勢に特に制限はないが、複数の装着対象者について皮膚温を測定する場合には、測定条件を一定にする観点から、特定の姿勢のもとで皮膚温を測定することが望ましい。例えば、すべての装着対象者を仰臥位にした状態で皮膚温を測定することが望ましい。皮膚温の測定は、睡眠開始から熟睡を確認して所定時間経過後(例えば5〜10分経過後)に開始することが、一層正確な評価を行い得る観点から望ましい。
【0028】
皮膚温の測定は、例えば表面温度測定器を用い、非侵襲的に行うことができる。測定においては、下半身は装着対象者におむつを装着させる以外は他の衣類の着用は行わない。おむつの上からおむつカバー等を装着させることも行わない(上半身は下着のみ)。したがって下肢の皮膚温の測定状態においては、装着対象者の下半身は、おむつによって覆われている部位以外が露出している。この露出部位のいずれかの位置に表面温度測定器のセンサを取り付けて皮膚温の測定を行う。複数の装着対象者を採用する場合には、測定部位はすべての装着対象者において同位置とすることが、正確な評価を行う観点から望ましい。
【0029】
装着対象者の身体における皮膚温の測定位置としては、例えば脚部(大腿部、下腿部等、足背部)、胸部、腕部(上腕部、手背部)などが挙げられるが、これらに限られない。一層正確な評価を行う観点からは、装着対象者の腹部(内臓)から離れた位置において皮膚温を測定することが有利であることが本発明者らの検討の結果判明した。詳細には、締め付けの効果は末梢に出やすいと考えられ、この観点から、皮膚温の測定位置は下肢であることが好ましく、下肢のうちでも大腿部(例えば内腿)又は下腿部が好ましく、特に下腿部における下腿の腓腹部であることが好ましい。皮膚温の測定位置は、一の装着対象者において1箇所とすることもでき、2箇所以上とすることもできる。一般に、1箇所の測定位置を選択するだけで、十分に満足すべき評価結果が得られる。
【0030】
皮膚温の測定時間は30〜120分、特に30〜60分であることが適切である。この範囲の測定時間を採用することで、十分に正確な評価結果を得ることができる。測定は連続的に行う。
【0031】
測定環境は、乳幼児の生活環境としてみた場合に極端な環境でない限り、特に制限はない。例えば25℃、50%RHの条件下に測定を行うことができる。皮膚温の測定に先立ち、乳幼児を一定の環境下で所定時間(例えば15分間(馴化させ、引き続き、同環境下で装着対象者におむつを装着させて皮膚温を経時的に測定する。装着対象者を環境に馴化させている状態においては、装着対象者の腹部に圧迫が加わらないように留意する。
【0032】
装着対象者におむつを装着させ、睡眠を開始すると、時間の経過とともに装着対象者の皮膚温が上昇してくる。皮膚温の上昇の変化率は装着の初期においては大きいが、時間の経過とともに変化率は小さくなる。おむつの装着によって、おむつが着用者の腹部に加える圧迫の程度が大きいほど装着の初期における皮膚温の上昇の変化率が小さいことが、本発明者らの検討の結果判明した。したがって、装着の初期における皮膚温の上昇の変化率、すなわち皮膚温の上昇の傾きを尺度として、圧迫の程度を評価することができる。具体的には、皮膚温の上昇の傾きが小さいおむつほど、腹部の圧迫の程度が大きいと評価することができる。あるいは、基準となる対照おむつを作製しておき、この対照おむつを装着させて測定された皮膚温の上昇の傾きを基準値とし、その基準値に対して測定対象となるおむつについて測定された皮膚温の上昇の傾きが大きいかあるいは小さいかで、おむつによる腹部の圧迫の程度を評価することができる。基準値よりも傾きが大きい場合には、測定対象となるおむつは、対照おむつよりも腹部の圧迫の程度が小さいと評価される。逆に、基準値よりも傾きが小さい場合には、測定対象となるおむつは、対照おむつよりも腹部の圧迫の程度が大きいと評価される。この評価方法における装着の初期とは、一般に、おむつを装着し、睡眠を開始してから10分経過後の時間を言う。皮膚温の上昇の傾きは、装着の初期の期間に測定された皮膚温の値を用い、立ち上がりからの接線の傾きにより算出される。
【0033】
上述した皮膚温の上昇の傾きを尺度とすることに代えて、あるいはそれに加えて、皮膚温そのものを尺度として、おむつによる腹部の圧迫の程度を評価することもできる。具体的には、基準となる対照おむつを作製しておき、この対照おむつを装着させて測定された皮膚温の値を基準値とし、その基準値に対して測定対象となるおむつを装着させて測定された皮膚温の値の差を算出し、その差の大小で、おむつによる腹部の圧迫の程度を評価することができる。対照おむつに対し、測定対象となるおむつの方が圧迫の程度が大きい場合には、対照おむつを用いて測定された皮膚温よりも、測定対象となるおむつを用いて測定された皮膚温の方が低くなる。逆に、対照おむつに対し、測定対象となるおむつの方が圧迫の程度が小さい場合には、対照おむつを用いて測定された皮膚温よりも、測定対象となるおむつを用いて測定された皮膚温の方が高くなる。上述のとおり、皮膚温は、おむつの装着開始時から経時的に変化するところ、評価のために採用する皮膚温は、おむつを装着し、睡眠を開始してから10分経過後であることが、精度の高い評価を行い得る点で好ましい。
【0034】
以上の方法によれば、おむつ単独で測定された締め付け力を評価する従来の方法よりも、一層実態に近い評価結果を得ることができる。しかも、おむつによる腹部の圧迫の程度を、精度良くかつ簡便に評価することができる。したがって、本発明の方法を用いることで、着用者の身体に過度な負荷が加わらず、かつずれ落ち等が効果的に防止された使い捨ておむつを効率的に設計することができる。また、本発明の方法を用いることで、腹部の圧迫の程度に基づくおむつの良否を判断することができる。このように、本発明の方法は、使い捨ておむつの商品開発や製造の現場において特に有用なものである。また本発明の方法は、おむつによる腹部の圧迫が人体の生理機能に与える影響を明確にできる観点からも有用である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0036】
〔実施例1〕
(1)パンツ型おむつの製造
図1ないし図3に示すパンツ型おむつを作製した。吸収体本体10における表面シート2は、坪量25g/m2の親水性エアースルー不織布から構成されていた。裏面シート3は、坪量20g/m2のポリエチレンシートから構成されていた。また外包材11における外層不織布11は、坪量20g/m2の撥水性エアースルー不織布から構成されており、内層不織布は、坪量16g/m2の撥水性スパンボンド不織布から構成されていた。ウエスト部の弾性部材51及び胴回り領域71の弾性部材71aは、スチレン系エラストマーから構成した。これらの弾性部材を伸長状態で配置固定することで、ウエストギャザー及び胴回りギャザーの伸縮の程度を調整した。伸縮の程度は、本出願人の先の出願に係る特開2006−61680号公報の段落〔0028〕に記載の方法に従い測定された圧力が、ウエストギャザーにおいては1.9kPa、胴回りギャザーにおいては0.6kPaとなるように調整した。このようにして、測定用のパンツ型おむつを得た。
【0037】
測定用のパンツ型おむつとは別に、基準となる対照おむつも作製した。対照おむつは、測定用おむつにおいて、ウエスト部に弾性部材を配さないものとした。したがって、対照おむつにおいては、ウエストギャザーにおける圧力が0kPaであり、胴回りギャザーにおける圧力が0.6kPaであった。
【0038】
(2)腹部への装着圧迫の評価方法
装着対象者として8名の乳幼児を選定した。装着対象者の平均月齢は30ヶ月、性別の内訳は男子5名、女子3名であった。装着対象者を25℃、50%RHの環境可変室で15分間馴化させた。馴化の間、装着対象者の腹部には圧迫が加わらないようにした。馴化完了後、装着対象者におむつを装着させ、睡眠させた。睡眠に入ってから10分後に、身体に、表面温度測定器(SubCue社製のSubCue)のセンサを取り付けた。仰臥位の状態で皮膚温を60分間測定した。測定は、おむつとして対照おむつ及び測定用おむつを装着させた場合の2通り、並びにセンサの取り付け位置として、内腿に取り付けた場合と、下腿の腓腹部に取り付けた場合との2通りとし、合計4通りについて行った。これら4通りの測定は、測定日を異ならせて別個に行った。その結果を図3及び図4に示す。これらの図における縦軸は、測定開始時の皮膚温を基準としたときの差分を示している。
【0039】
図3には、センサを内腿に取り付けて皮膚温を測定した結果が示されている。この結果から、対照おむつよりも締め付けの程度が大きい測定用おむつの方が、測定時間の全体にわたって皮膚温が低いことが判る。また、装着の初期における皮膚温の上昇の傾きは、対照おむつよりも締め付けの程度が大きい測定用おむつの方が小さいことが判る。
【0040】
図4には、センサを下腿の腓腹部に取り付けて皮膚温を測定した結果が示されている。この結果は、上述した図3に示す結果と一致している。特に注目すべきは、図4に示す結果では、(イ)対照おむつと測定用おむつとの皮膚温の差が、図3に示す結果よりも大きい点、及び(ロ)装着の初期における皮膚温の上昇の傾きの値が、図3に示す結果よりも大きい点である。これらのことは、センサの取り付け位置として、内腿よりも下腿の腓腹部を選択することが、より精度の高い評価を行い得ることを示している。
【0041】
以上のとおり、おむつによる腹部への圧迫の程度と皮膚温との間には相関関係があり、本発明によれば、その相関関係に基づき使い捨ておむつが着用者の腹部に加える圧迫の程度を精度良く評価することができることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の評価の対象となる使い捨ておむつの一つであるパンツ型使い捨ておむつの一例を示す斜視図である。
【図2】図1に示すおむつを組み立てる前の状態を示す分解斜視図である。
【図3】図2における外包材の展開状態を示す平面図である。
【図4】実施例1において、センサを内腿に取り付けて皮膚温を測定した結果を示すグラフである。
【図5】実施例1において、センサを下腿の腓腹部に取り付けて皮膚温を測定した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0043】
1 パンツ型使い捨ておむつ
2 表面シート
3 裏面シート
4 吸収性コア
5 ウエスト開口部
6 レッグ開口部
71 胴回り領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着対象者としての乳幼児に使い捨ておむつを装着させた状態で経時的に測定された皮膚温に基づき、該使い捨ておむつが該着用者の腹部に加える圧迫の程度を評価する、使い捨ておむつによる腹部への装着圧迫の評価方法。
【請求項2】
前記おむつを装着した初期段階での皮膚温の変化の傾きに基づき圧迫の程度を評価する請求項1記載の評価方法。
【請求項3】
対照おむつを装着させて測定された皮膚温に対する、測定対象のおむつを装着させて測定された皮膚温の差から圧迫の程度を評価する請求項1記載の評価方法。
【請求項4】
着用者の下肢の皮膚温を測定する請求項1ないし3のいずれかに記載の評価方法。
【請求項5】
下腿の腓腹部の皮膚温を測定する請求項4記載の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−297111(P2009−297111A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152383(P2008−152383)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】