説明

便器洗浄装置

【課題】簡易な構造で小型化が可能であり、便器洗浄を良好に行うことのできる便器洗浄装置を提供する。
【解決手段】便器洗浄装置は、便器本体Tに連通する洗浄水供給路Rと、洗浄水供給路Rに設けられた開閉弁Vと、洗浄水供給路Rに接続された蓄圧装置Aとを具備している。蓄圧装置Aは、出入口11を洗浄水供給路Rに連通する出入流路12を有する蓄圧タンク10を備えている。蓄圧タンク10内には、中央部23が往復運動可能に形成されたダイヤフラム20が保持されている。ダイヤフラム20の中央部23の往復運動に連動して軸方向に進退可能な棒状部材40が出入口11を貫通している。棒状部材40の先端部42は、出入流路12内を軸方向に進退可能であり、軸方向に直交する断面積が出入口11の開口面積よりも大きい。出入流路12には、棒状部材40の先端部42が軸方向に進退可能であり、流路断面積を狭める絞り部12Aが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は便器洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の便器洗浄装置が開示されている。この便器洗浄装置は、便器本体に連通する洗浄水供給路と、洗浄水供給路に設けられた第1開閉弁と、第1開閉弁よりも上流側の洗浄水供給路に接続された蓄圧装置とを具備している。蓄圧装置は、一端側に別々に設けられた流入口と流出口とを有する蓄圧タンクを備えている。流入口は逆止弁を介して洗浄水供給路に連通している。流出口は第2開閉弁を介して便器本体に設けられたリム及びジェット口に連通している。蓄圧タンク内には、中央部が蓄圧タンクの一端側に対して離反及び接近する方向に往復運動可能に形成されたダイヤフラムが保持されている。ダイヤフラムは、流入口及び流出口に連通する第1室と、ダイヤフラムの中央部を一端側に接近する方向に付勢するコイルばねが設けられた第2室とに蓄圧タンク内を区画している。
【0003】
この便器洗浄装置では、第1及び第2開閉弁を閉弁すると、蓄圧タンクの第1室内に洗浄水が流入し、蓄圧水が貯留される。その後、第2開閉弁を開弁すると、第1室内の蓄圧水がリム及びジェット口に供給される。このため、リム及びジェット口から勢いよく洗浄水が吐水され、便鉢内の汚物を便器本体外へ排出することができる。
【0004】
【特許文献1】特開2006−70617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の便器洗浄装置では、第2開閉弁を開弁すると、第1室内の蓄圧水は一気にリム及びジェット口に供給されるため、そのタイミングによっては、汚物が排出されないおそれがある。このため、便器洗浄を良好に行うためには、第1及び第2開閉弁を制御し、開閉タイミングや開度を調整して、便器本体に供給される洗浄水の流量を制御しなければならない。よって、便器洗浄装置が複雑化、大型化してしまう。
【0006】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、簡易な構造で小型化が可能であり、便器洗浄を良好に行うことのできる便器洗浄装置を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の便器洗浄装置は、便器本体に連通する洗浄水供給路と、該洗浄水供給路に設けられた開閉弁と、該開閉弁よりも上流側の該洗浄水供給路に接続された蓄圧装置とを具備した便器洗浄装置において、
前記蓄圧装置は、出入口が貫設され、該出入口を前記洗浄水供給路に連通する出入流路を有する蓄圧タンクと、
該蓄圧タンク内に保持され、中央部が該出入口に対して離反及び接近する方向に往復運動可能に形成された隔膜と、
該出入口を貫通し、該隔膜の中央部の往復運動に連動して軸方向に進退可能な棒状部材とを備え、
該隔膜は、該出入口に連通する第1室と、該隔膜の中央部を該出入口に接近する方向に付勢する付勢手段が設けられた第2室とに該蓄圧タンク内を区画し、
該棒状部材の先端部は、該出入流路内を軸方向に進退可能であり、軸方向に直交する断面積が該出入口の開口面積よりも大きく形成され、
該出入流路には、該棒状部材の先端部が軸方向に進退可能であり、流路断面積を狭める絞り部が設けられていることを特徴とする。
【0008】
この便器洗浄装置では、開閉弁を閉弁すると、第2室の付勢手段の付勢力に抗して、出入口から第1室に洗浄水が流入する。第1室へ洗浄水が流入することにより、隔膜の中央部は出入口から離反する方向に移動する。第1室内に貯留された洗浄水は、付勢手段により蓄圧された蓄圧水となる。その後、開閉弁を開弁すると、第1室から蓄圧水が流出する。この際、第2室に設けられた付勢手段により隔膜の中央部は出入口に接近する方向に移動する。隔膜の中央部の往復運動に連動して棒状部材は軸方向に進退するため、棒状部材の先端部は出入流路内を進退する。蓄圧水が第1室から流出し、棒状部材の先端部が絞り部内を移動するときは、絞り部以外の出入流路内を移動するときに比べて蓄圧水の流出流量が少なくなる。つまり、この便器洗浄装置では、出入流路に設けられる絞り部の位置や、流路断面積を変更するのみで、第1室内から流出する蓄圧水の流量を便器洗浄に適するように調整することができる。
【0009】
したがって、本発明の便器洗浄装置は、簡易な構造で小型化が可能であり、便器洗浄を良好に行うことができる。
【0010】
絞り部は、出入流路の出入口側の端部に設けられ得る。この場合、開閉弁を開弁し、設定量の蓄圧水が第1室内から流出するまでは、第1室内から流出する蓄圧水の流量は少なく、設定量の蓄圧水が第1室内から流出した後は、第1室内から流出する蓄圧水の流量を多くすることができる。つまり、この便器洗浄装置では、便器洗浄の当初は小流量の洗浄水を便器本体に供給し、便鉢内の水位を高くする。その後、第1室内から流出する蓄圧水の流量が増加され、便器本体に供給される洗浄水の流量が増加される。このため、水位が上昇し、位置エネルギーが増加した便鉢内の洗浄水と、蓄圧水の流量の増加により、運動エネルギーが増加した洗浄水の便鉢への供給とにより、少ない洗浄水で便鉢の下流側に連なる便器排水路内にサイホン作用を生じさせることができる。よって、汚物を効率よく便器本体から排出することができる。
【0011】
絞り部は、出入流路の中間部に設けられ得る。この場合、蓄圧タンクの第1室から大流量の蓄圧水を流出させて、便器排水路にサイホン作用を生じさせた後、第1室から流出する蓄圧水の流量を一時的に少なくし、その後、再度、第1室内から大流量の蓄圧水を流出させることができる。このようにすると、サイホン作用を長く継続させることができるとともに、便器洗浄の後期に大流量の蓄圧水が供給されるため、残存する浮遊汚物等を確実に排出することができる。
【0012】
付勢手段は弾性体であり、第2室を形成する蓄圧タンクの周壁には吸排気口が貫設され、第2室は、吸排気口を介して便器本体に形成された便鉢の下流側に連なる便器排水路に連通可能であり得る。この場合、蓄圧タンクは、第1室から蓄圧水が流出するに従い、第2室の容積を拡大するため、吸排気口を介して便器排水路内から空気を吸引することができる。これにより、便器排水路内から空気が吸引されると、便鉢から便器排水路内に洗浄水が流入しやすくなり、少ない洗浄水で便器排水路にサイホン作用を生じさせることができる。また、第1室から流出する蓄圧水の流量変化と、便器排水路内から吸引される空気の流量変化とは同期している。つまり、第1室から大流量の蓄圧水が流出するのと同時に、便器排水路内から大流量の空気を吸引する。このため、便鉢から便器排水路内に多量の洗浄水を一気に流入させることができ、確実にサイホン作用を発生させることができる。よって、汚物をより効率よく便器本体からは排出することができる。また、第2室は隔膜により閉空間とされている。このため、便器排水路から流入する臭気等が第2室から拡散することを確実に防止することができる。
【0013】
棒状部材の先端部には、出入口の周縁部に当接可能なパッキンが設けられ、棒状部材の先端部が出入口を閉鎖可能であり得る。この場合、棒状部材の先端部に設けられたパッキンが出入口の周縁部に当接し、出入口を閉鎖すると、第1室内に洗浄水が流入できなくなる。このため、第1室内の洗浄水の圧力が高くなり過ぎることを確実に防止することができる。よって、蓄圧タンクを必要以上に耐圧構造とする必要がなくなり、蓄圧装置の軽量化、小型化を図ることができる。また、蓄圧装置の製造コストも安くすることができる。
【0014】
隔膜は、蓄圧タンクの内周面に摺動可能な摺動部を有するガイド部材に連結され得る。この場合、隔膜の中央部は、ガイド部材に案内され、往復運動する際の移動姿勢が移動方向に対して傾かずに保持される。このため、棒状部材も、正常な位置の軸方向に対して傾かずに移動するため、出入口及び出入流路の内周面に干渉することを確実に防止することができる。また、出入口を確実に閉鎖することができる。
【0015】
蓄圧タンクは第1室を形成する周壁に設けられた開口を有し、開口には第1室内に流入した洗浄水の圧力が設定圧力以上になると開口を開放可能な安全弁が取り付けられ得る。この場合、第1室内の蓄圧水の圧力が設定圧力以上になると、安全弁が開口を開放し、第1室内の蓄圧水を外部に流出させる。このため、第1室内の蓄圧水の圧力は設定圧力以上にならず、蓄圧タンクが蓄圧水の圧力により破壊されてしまうことを確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の便器洗浄装置を具体化した実施例1及び2を図面を参照しつつ説明する。
【実施例1】
【0017】
実施例1の便器洗浄装置は、図1に示すように、便器本体Tに連通する洗浄水供給路Rと、洗浄水供給路Rに設けられた開閉弁Vと、開閉弁Vよりも上流側の洗浄水供給路Rに接続された蓄圧装置Aとを具備している。
【0018】
便器本体Tには、上部周縁にリム2を有する便鉢1が形成されている。便鉢1の下流側には便器排水路3が連通している。便器排水路3は、便鉢1の下流端から上昇する上昇流路3Aと、上昇流路3Aに連続する下降流路3Bとを有している。便鉢1と上昇流路3Aとにより、封水部4が形成される。下降流路3Bの下端には洗浄水が滞留可能な滞留部5が形成されている。リム2の左側後方には、洗浄水供給路Rが接続されたリムノズル6が接続されている。便器排水路3の上昇部には、後述する蓄圧装置Aの吸排気口13に連通する吸排気路Sが接続された吸排気ノズル7が接続されている。
【0019】
蓄圧装置Aは、蓄圧タンク10と、隔膜であるダイヤフラム20と、ガイド部材30と、棒状部材40とを備えている。
【0020】
蓄圧タンク10は略円筒状の側壁10Sを有している。側壁10Sの一端側には、洗浄水の出入口11が貫設された第1壁10Aが形成されている。出入口11には、外側に伸びる出入流路12の一端側が連通されている。出入流路12の他端側は洗浄水供給路Rに連通している。洗浄水供給路Rの上流側は、図示しない水道管に接続されている。出入流路12が連通された箇所よりも下流側の洗浄水供給路Rに開閉弁Vが設けられている。
【0021】
出入流路12の軸芯は出入口11の開口面に直交している。蓄圧タンク10の側壁10Sの軸芯と、出入口11の中心と、出入流路12の軸芯とは同一線上に位置している。出入流路12は、洗浄水供給路R側に設けられた流路12Bと、出入口11側の端部に設けられた絞り部12Aとから形成されている。絞り部12Aの流路断面積は、流路12Bよりも小さく狭められ、出入口11の開口面積よりも大きい。絞り部12Aは後述する棒状部材40の先端部41が軸方向に進退可能である。
【0022】
蓄圧タンク10の側壁10Sの内周面17には、ダイヤフラム20の周縁部21を挿入し、固着保持する凹部14が同一円周上に形成されている。側壁10Sの他端側には、吸排気口13が貫設された第2壁10Bが形成されている。蓄圧タンク10は側壁10S、第1壁10A及び第2壁10Bにより周壁を形成している。
【0023】
ダイヤフラム20は、周縁部21と、周縁部21に連続する中間部22と、中間部22に連続する中央部23とから形成されている。周縁部21はリング形状であり、蓄圧タンク10に形成された凹部14に挿入され、固着保持される。中間部22は、略円筒状であり、柔軟性を有している。中間部22は、周縁部21から蓄圧タンク10の側壁10Sの内周面17に沿って伸び、折り返されて、後述するガイド部材30の第1外周面31Aに沿って伸びるように配置される。中央部23は、円盤状であり、ガイド部材30の第1外周面31Aに沿って伸びた中間部22の端部を閉じている。中央部23は、中間部22の変形により、蓄圧タンク10の側壁10Sの軸芯方向であって、出入口11に対して離反及び接近する往復運動が可能に配置される。
【0024】
ダイヤフラム20は、蓄圧タンク10内を第1室15と、第2室16とに区画している。第1室15は出入口11に連通している。第1室を形成する蓄圧タンク10の側壁10Sには開口18が貫設されている。開口18には安全弁60が取り付けられている。安全弁60は開口18を開閉するパッキン61Pを有する弁体61を有している。弁体61は、コイルばね62により開口18側に付勢され、第1室15内の蓄圧水の圧力が設定圧力以上になると開口18を開放する。これにより、第1室15内の蓄圧水は、排出口63から排出される。このため、第1室15内の蓄圧水の圧力は設定圧力以上にならず、蓄圧タンク10が蓄圧水の圧力により破壊されてしまうことを確実に防止することができる。
【0025】
ガイド部材30は、略円筒状であり、一端が閉鎖されている。ガイド部材30は、閉鎖された端部を蓄圧タンク10の出入口11側に向けて、蓄圧タンク10内に収納されている。ガイド部材30の軸芯と、蓄圧タンク10の側壁10Sの軸芯とは同一線上に位置している。ガイド部材30の円筒部31は、閉塞された端部側に形成された第1外周面31Aと、開放された端部側に形成された第2外周面31Bとを有している。第1外周面31Aは、蓄圧タンク10の側壁10Sの内周面17との間に隙間を形成し、この隙間にダイヤフラム20の中間部22が位置している。第2外周面31Bは、摺動部であり、蓄圧タンク10の側壁10Sの内周面17に摺動可能である。
【0026】
ガイド部材30には、第1外周面31Aの端部を連結し、ガイド部材30の一端を閉鎖する閉鎖部32が形成されている。閉鎖部32は、出入口11側の中央部に円盤状の挟持板33が連結されている。閉鎖部32と挟持板33とによりダイヤフラム20の中央部23が挟持されている。挟持板33は、出入口11側の中央部に後述する棒状部材40の基部41の後端が挿入可能な凹部34が形成されている。
【0027】
蓄圧タンク10の第2室16内であって、ガイド部材30の閉鎖部32と、蓄圧タンク10の第2壁10Bとの間に付勢手段であるコイルばね50が介装されている。コイルばね50は、ガイド部材30及びダイヤフラム20の中央部23を出入口11に接近する方向に付勢している。第2室16は、吸排気口13、吸排気路S及び吸排気ノズル7を介して便器排水路3に連通している。第2室16はダイヤフラム20により閉空間とされているため、便器排水路3から流入する臭気等が第2室16から拡散することを確実に防止することができる。
【0028】
棒状部材40は、基部41と先端部42とを有している。基部41は蓄圧タンク10の出入口11を挿通可能である。先端部42は軸方向に直交する断面積が出入口11の開口面積よりも大きく、基部41側にパッキン42Pが配置されている。先端部42の先端面には凹部43が形成されている。凹部43には、コイルばね44の一端部が挿入されている。棒状部材40の基部41の後端部は、出入流路12内から出入口11を介して挟持板33の凹部34に挿入される。コイルばね44の他端部は、先端部42に対向する洗浄水供給路Rの内面に当接され、棒状部材40を挟持板33の凹部34へ押し付ける方向に付勢している。このようにして、棒状部材40は、ダイヤフラム20の中央部23及びガイド部材30の往復運動に連動して軸方向に進退可能に組み付けられる。
【0029】
このように構成された実施例1の便器洗浄装置の洗浄動作について説明する。
【0030】
図2に示すように、開閉弁Vが閉弁されると、洗浄水供給路R内及び出入流路12内には、洗浄水が洗浄水供給路R内を流れる際の流動圧よりも高い水圧である静水圧が作用する。このため、コイルばね50の付勢力に抗して、洗浄水が出入流路12から出入口11を介して蓄圧タンク10の第1室15内に流入する。これにより、ダイヤフラム20の中間部22が徐々に変形しつつ、ダイヤフラム20の中央部23及びガイド部材30が出入口11から離反する方向に移動する。これにより、コイルばね50は徐々に圧縮される。この際、第2室16の容積は縮小するため、吸排気口13、吸排気路S及び吸排気ノズル7を介して便器排水路3に空気が排出される。このため、仮に便器排水路3内にサイホン作用による排出流が形成されていた場合には、サイホン作用を終了させて排出流を止めることができる。よって、封水切れを確実に防止することができる。棒状部材40は、ダイヤフラム20の中央部23及びガイド部材30の移動に連動し、軸方向に沿って、先端部42が出入口11に接近する方向に移動する。
【0031】
ガイド部材30は、タンク本体10の側壁10Sの内周面17に摺動する第2外周面31Bを有しているため、移動方向に対して傾かずに移動する。このため、ダイヤフラム20の中央部23は、ガイド部材30に案内され、移動姿勢が保持される。また、棒状部材40も、正常な位置の軸方向に対して傾かずに移動するため、出入口11及び出入流路12の内周面に干渉することを確実に防止することができる。
【0032】
棒状部材40の先端部42が流路12Bから絞り部12A内に移動すると、第1室15内に流入する洗浄水の流量は減少する。これにより、棒状部材40の移動速度は遅くなる。このため、棒状部材40の先端部42のパッキン42Pは、緩やかに出入口11の周縁部に当接して出入口11を閉鎖する。このように、出入口11が急激に閉鎖されないため、ウォーターハンマーの発生を防止することができる。
【0033】
棒状部材40の先端部42のパッキン42Pが出入口11の周縁部に当接し、出入口11を閉鎖すると、洗浄水は第1室15内に流入できなくなる。これにより、ダイヤフラム20の中央部23及びガイド部材30の移動が停止する。この状態では、第1室15内の水圧は上昇しないため、蓄圧タンク10を必要以上に耐圧構造とする必要がなくなり、蓄圧装置の軽量化、小型化を図ることができる。また、蓄圧装置の製造コストも安くすることができる。第1室15内に貯留された洗浄水は、圧縮されたコイルばね50の付勢力により蓄圧された状態の蓄圧水となる。
【0034】
蓄圧タンク10の第1室15内に蓄圧水が貯留された後、便器洗浄を行うために図示しない洗浄スイッチが操作され、開閉弁Vが開弁されると、洗浄水供給路R内及び出入流路12内には流動圧が作用し、コイルばね50の付勢力が上回る。このため、図3に示すように、コイルばね50の付勢力により、ダイヤフラム20の中間部22が徐々に変形し、ダイヤフラム20の中央部23及びガイド部材30が出入口11に接近する方向に移動する。棒状部材40は、ダイヤフラム20の中央部23及びガイド部材30の移動に連動するため、先端部42は、軸方向に沿って、出入口11から離反する方向に移動する。この際も、ガイド部材30によりダイヤフラム20の中央部23の移動姿勢が保持され、棒状部材40は正常な位置の軸方向に対して傾かずに移動する。このため、棒状部材40は、出入口11及び出入流路12の内周面に干渉することを確実に防止することができる。
【0035】
開閉弁Vが開弁され、棒状部材40の先端部42が絞り部12A内を移動している間は、棒状部材40の先端部42の外周面と絞り部12Aの内周面との隙間が小さいため、第1室15内から流出する蓄圧水の流量は少ない。このため、第1室15の蓄圧水は緩やかに流出し、第2室16の容積は緩やかに拡大する。つまり、便鉢1には、洗浄水供給路Rの上流の水道管から供給された洗浄水と小流量の蓄圧水が供給される。これにより、洗浄水はリム2を旋回しながら便鉢1内に流下し、便鉢1内に旋回流を生じさせ、便鉢1内の水位を上昇させる。この間に第2室16が、吸排気口13等を介して便器排水路3から吸引する空気の量は僅かである。
【0036】
棒状部材40の先端部42が絞り部12Aを通過し、流路12B内を移動するようになると、図4に示すように、棒状部材40の先端部42の外周面と流路12Bの内周面との隙間が大きくなるため、第1室15内から流出する蓄圧水の流量は多くなる。このため、第1室15の蓄圧水は勢いよく流出する。また、第2室16の容積は急激に拡大する。よって、便鉢1には、洗浄水供給路Rの上流の水道管から供給された洗浄水と大流量の蓄圧水が供給され、便鉢1内に強力な旋回流が形成される。この間、第2室は、吸排気口13等を介して便器排水路3から多量の空気を吸引する。
【0037】
つまり、図6に示すグラフの実線Xに示されるように、便器洗浄の当初は、蓄圧タンク10の第1室15内から流出する蓄圧水の流量は少なく、小流量の洗浄水が便鉢1に供給され、便鉢1内の水位を上昇させる。その後、第1室15内から流出する蓄圧水の流量は増加し、便鉢1に大流量の洗浄水が供給される。また、図6に示すグラフの実線Xは、第2室16が吸排気口13等を介して便器排水路3から吸引する空気の流量の経時変化も示しており、第1室15内から流出する蓄圧水の流量の増加とともに、第2室16により便器排水路3から吸引する空気の流量も増加する。
【0038】
このように、この便器洗浄装置では、便鉢1内の洗浄水の水位を上昇させ、位置エネルギーを増加させた後に、蓄圧水の流量の増加により運動エネルギーを増加させた洗浄水を便鉢1内に供給することにより、洗浄水を便鉢1から便器排水路3内へ一気に流入させることができる。この際、封水部4と滞留部5との間の便器排水路3は、夫々に貯留された洗浄水により閉空間とされているため、この閉空間から確実に多量の空気を吸引することができる。これにより、洗浄水が便鉢1から便器排水路3内へさらに流入しやすくすることができる。このため、少ない洗浄水で便器排水路3内にサイホン作用を生じさせることができ、汚物を効率よく便器本体Tから排出することができる。
【0039】
また、図6に示すグラフの破線Yは、出入流路12に絞り部12Aが設けられていない場合の第1室15から流出する蓄圧水の流量の経時変化及び第2室16が吸引する空気の流量の経時変化を示している。つまり、出入流路12に絞り部12Aが設けられていない場合には、開閉弁が開弁された直後に第1室15から大流量の蓄圧水が流出し、第2室16は大流量の空気を吸引することになる。このため、便鉢1内の洗浄水が上昇する前に大流量の洗浄水が便鉢1に供給され、便器排水路3から大流量の空気が吸引される。この場合、便鉢1内の洗浄水の位置エネルギーを高められないため、サイホン作用を生じさせるためには、大量の洗浄水を便鉢1内に供給するようにしなければならない。これに対し、実施例1の便器洗浄装置では、出入流路12に絞り部12Aを設けることにより、便鉢1内の水位を上昇させた後に、大流量の洗浄水を便鉢1内に供給し、大流量の空気を便器排水路3から吸引するため、少ない洗浄水でサイホン作用を生じさせることができる。
【0040】
したがって、実施例1の便器洗浄装置は、簡易な構造で小型化が可能であり、便器洗浄を良好に行うことができる。
【0041】
第1室15内の蓄圧水が全て流出すると、図5に示すように、出入流路12から第1室15内に洗浄水は流入せず、蓄圧装置より下流側の洗浄水供給路R内を流れる洗浄水の流量は、上流の水道管から供給された洗浄水の流量と同じになる。便鉢1に供給される洗浄水の流量が減少することにより、便器排水路3内のサイホン作用は終了する。その後、便鉢1を覆水するために、便鉢1に所定量の洗浄水が供給され、開閉弁Vは閉弁される。これにより、便器洗浄は終了する。
【実施例2】
【0042】
実施例2の便器洗浄装置は、図7に示す蓄圧装置Bを具備している。洗浄水供給路R及び開閉弁Vは実施例1と同様であり、詳細な説明は省略する。
【0043】
蓄圧装置Bにおいて、出入口11に連通する出入流路112には、出入口11側の端部に第1絞り部112Aが設けられ、出入流路112の中間部に第2絞り部112Cが設けられている。第1絞り部112Aと第2絞り部112Cとの間、及び第2絞り部112Cより洗浄水供給路R側には流路断面積が第1及び第2絞り部112A、112Cよりも大きい流路112Bが設けられている。他の構成は、実施例1の蓄圧装置Aと同様である。同一の構成には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0044】
この便器洗浄装置では、便器洗浄のために開閉弁Vが開弁されると、第1室15から流出する蓄圧水の流量は、小流量、大流量、小流量、大流量の順に経時的に変化する。このため、便器洗浄の当初は小流量の洗浄水を便鉢1に供給し、便鉢1内の水位を高くする。その後、第1室15から流出する蓄圧水の流量が増加され、便鉢1に供給される洗浄水の流量は増加する。このため、水位が上昇し、位置エネルギーが増加した便鉢1内の洗浄水と、蓄圧水の流量の増加により、運動エネルギーが増加した洗浄水の便鉢1への供給とにより、少ない洗浄水で便器排水路3内にサイホン作用を生じさせることができる。よって汚物を効率よく便器本体Tから排出することができる。
【0045】
その後、第1室15から流出する蓄圧水の流量を一時的に少なくした後、再度、第1室15内から大流量の蓄圧水を流出させる。このようにすると、サイホン作用を長く継続させることができるとともに、便器洗浄の後期に大流量の蓄圧水が便鉢1に供給されるため、残存する浮遊汚物等を確実に排出することができる。
【0046】
したがって、実施例2の便器洗浄装置も、簡易な構造で小型化が可能であり、便器洗浄を良好に行うことができる。
【0047】
以上において、本発明を実施例1及び2に即して説明したが、本発明は上記実施例に制限されるものではなく、その趣旨に逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0048】
例えば、絞り部12A、112A、112Cの流路断面積を適宜変更してもよい。この場合、第1室15内から流出する蓄圧水の流量を所望の流量にすることができる。また、絞り部12Aの軸方向の長さを適宜変更してもよい。この場合、第1室15から小流量の蓄圧水が流出する時間を所望の長さに設定することができる。
出入流路12、112には、絞り部を3つ以上設けてもよい。
絞り部12A、112A、112Cは、出入口11から遠ざかるに従い、流路断面積を徐々に変化するものであってもよい。この場合、第1室15から流出する蓄圧水の流量を徐々に変化させることができる。
棒状部材40の先端部42にパッキン42Pを設けなくてもよい。
蓄圧タンク10の第1室に開口18を貫設せず、安全弁を取り付けなくてもよい。
蓄圧タンク10の第2室16を密閉して気体を封入してもよい。この場合、封入された気体が付勢手段となる。また、便器排水路3から空気の吸引は行われない。
【0049】
また、蓄圧タンク10は、2つの筒体から形成されてもよい。この場合、一方の筒体は、一端に出入口11が貫設された第1壁10Aを形成し、開放された他端に外方に伸びる鍔部を形成する。他方の筒体は、一端に開口18が貫設された第2壁10Bを形成し、開放された他端に外方に伸びる鍔部を形成する。両筒体の開放端を合わせつつ、両鍔部の間にダイヤフラム20の周縁部21を挟持することにより、ダイヤフラム20等が備えられた蓄圧装置を形成することができる。
【0050】
また、便器本体Tがジェット口を有するものである場合、洗浄水供給装置をジェット口に連通してもよい。
便器本体Tは、滞留部5を有さない便器であってもよい。この場合、便器排水路3の下流部にオリフィスを形成する等、洗浄水の流下に抵抗となるものを便器排水路3の下流部に形成するとよい。これにより、便器洗浄の初期に便器排水路3内を流下する洗浄水により、便器排水路3の下流部に水膜を形成することができる。封水部4と水膜との間の便器排水路3が閉空間となるため、第2室16がこの閉空間から空気を吸引することができる。このため、洗浄水を便鉢1から便器排水路3内へ流入しやすくすることができ、少ない洗浄水で便器排水路3内にサイホン作用を生じさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例1の便器洗浄装置が設けられた水洗式便器の概略図である。
【図2】実施例1の蓄圧装置に蓄圧水が貯留された状態を示す断面図である。
【図3】実施例1の蓄圧装置から蓄圧水が流出する状態を示す断面図である。
【図4】実施例1の蓄圧装置から蓄圧水が流出する他の状態を示す断面図である。
【図5】実施例1の蓄圧装置から蓄圧水が流出し終えた状態を示す断面図である。
【図6】実施例1の蓄圧装置から流出する蓄圧水の流量変化及び便器排水路から吸引する空気の流量変化を示すグラフである。
【図7】実施例2の蓄圧装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0052】
T…便器本体
R…洗浄水供給路
V…開閉弁
A、B…蓄圧装置
1…便鉢
3…便器排水路
10…蓄圧タンク
10S、10A、10B…周壁(10S…側壁、10A…第1壁、10B…第2壁)
11…出入口
12、112…出入流路
12A、112A、112C…絞り部
13…吸排気口
15…第1室
16…第2室
18…開口
20…ダイヤフラム(隔膜)
23…中央部
30…ガイド部材
31B…第2外周面(摺動部)
40…棒状部材
42…先端部
42P…パッキン
50…コイルばね(付勢手段)
60…安全弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器本体に連通する洗浄水供給路と、該洗浄水供給路に設けられた開閉弁と、該開閉弁よりも上流側の該洗浄水供給路に接続された蓄圧装置とを具備した便器洗浄装置において、
前記蓄圧装置は、出入口が貫設され、該出入口を前記洗浄水供給路に連通する出入流路を有する蓄圧タンクと、
該蓄圧タンク内に保持され、中央部が該出入口に対して離反及び接近する方向に往復運動可能に形成された隔膜と、
該出入口を貫通し、該隔膜の中央部の往復運動に連動して軸方向に進退可能な棒状部材とを備え、
該隔膜は、該出入口に連通する第1室と、該隔膜の中央部を該出入口に接近する方向に付勢する付勢手段が設けられた第2室とに該蓄圧タンク内を区画し、
該棒状部材の先端部は、該出入流路内を軸方向に進退可能であり、軸方向に直交する断面積が該出入口の開口面積よりも大きく形成され、
該出入流路には、該棒状部材の先端部が軸方向に進退可能であり、流路断面積を狭める絞り部が設けられていることを特徴とする便器洗浄装置。
【請求項2】
前記絞り部は、前記出入流路の前記出入口側の端部に設けられている請求項1記載の便器洗浄装置。
【請求項3】
前記絞り部は、前記出入流路の中間部に設けられている請求項1又は2記載の便器洗浄装置。
【請求項4】
前記付勢手段は弾性体であり、前記第2室を形成する前記蓄圧タンクの周壁には吸排気口が貫設され、該第2室は、該吸排気口を介して前記便器本体に形成された便鉢の下流側に連なる便器排水路に連通可能である請求項1乃至3のいずれか1項記載の便器洗浄装置。
【請求項5】
前記棒状部材の先端部には、前記出入口の周縁部に当接可能なパッキンが設けられ、該棒状部材の先端部が該出入口を閉鎖可能である請求項1乃至4のいずれか1項記載の便器洗浄装置。
【請求項6】
前記隔膜は、前記蓄圧タンクの内周面に摺動可能な摺動部を有するガイド部材に連結されている請求項1乃至5のいずれか1項記載の便器洗浄装置。
【請求項7】
前記蓄圧タンクは前記第1室を形成する周壁に設けられた開口を有し、該開口には該第1室内に流入した洗浄水の圧力が設定圧力以上になると該開口を開放可能な安全弁が取り付けられている請求項1乃至6のいずれか1項記載の便器洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−24721(P2010−24721A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−187521(P2008−187521)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】