説明

便器

【課題】少ない水の量で従来と同等以上の洗浄性を有する水洗便器を提供する。
【解決手段】下部から上部に向かって広がる形状を有するボウル部1と、該ボウル部1の上端部に配置されるリム部とを備えた水洗便器であって、前記ボウル部1の内面に、少なくとも2周し前記ボウル部1の上部から下部に至る、前記ボウル1内を流れる流水の向きを制御する螺旋状の誘導流路10を設け流水がボウル部1の表面上を移動する距離を多くした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は便器、とりわけ洗浄性に優れた水洗便器に関する。
【背景技術】
【0002】
水洗便器では、便器表面、より具体的にはボウルの内部表面に付着した汚物を流水により洗浄し便器外に排出している。そして、従来は流水量を多くすることにより洗浄性を向上させていた。
【0003】
しかし、近年の省エネ、省資源への要望の高まりにより、より少ない流水量で従来と同等以上の洗浄性を有する水洗便器が求められている。そして、このような便器として、例えば特許文献1に記載のような樹脂製水洗便器が知られている。樹脂は従来から便器に用いられている陶器質の材料と比べ、より少ない流水で表面に付着した汚物を洗浄できる(すなわち、洗浄性に優れる)。また、特許文献1記載の便器では2以上の合成樹脂製の分割体を接着一体化することにより陶磁器質の便器と同様の複雑な形状を得ることも可能である。
【0004】
さらに、特許文献2には、ボウル部の底部に溜まっている溜水に旋回流を引き起こすように、ボウル内面に流水を案内する螺旋状の段部を設けることで溜水面の中心に向かう方向に対し斜め方向に流水を流す水洗便器が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−328827号公報
【特許文献2】特開平11−61950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、より少ない水で高い洗浄性を得たいとの要望は、益々高くなっており、特許文献1記載の樹脂製の水性便器であっても、高い洗浄性への要望に対応できない場合があった。
【0007】
また、特許文献2に記載の螺旋状の段部は溜水に旋回流を与えて、溜水に到達した汚物を排出口より速やかに排出することを目的としている。従って、ボウル内部の表面の大部分を占める溜水面より上の部分に付着した汚物の洗浄性の改善への寄与は極めて限定的であった。
【0008】
そこで本発明は、より少ない水の量で従来と同等以上の洗浄性を有する水洗便器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の態様1は、下部から上部に向かって広がる形状を有するボウル部と、該ボウル部の上端部に配置されるリム部とを備えた水洗便器であって、前記ボウル部の内面を少なくとも2周し前記ボウル部の上部から下部に至る、前記ボウル内を流れる流水の向きを制御する螺旋状の誘導流路を有する水洗便器である。
【0010】
本発明の態様2は、前記ボウルと前記リム部が樹脂から成ることを特徴とする態様1に記載の水洗便器である。
【0011】
本発明の態様3は、前記ボウル部の下部における前記誘導流路の断面積が、前記ボウル部の上部における前記誘導流路の断面積より小さいことを特徴とする態様1または2に記載の水洗便器である。
【0012】
本発明の態様4は、前記ボウル部の下部における前記誘導流路の幅が、前記ボウル部の上部における前記誘導流路の幅よりも短いことを特徴とする態様3に記載の水洗便器である。
【0013】
本発明の態様5は、前記ボウル部の下部における前記誘導流路の高さが、前記ボウル部の上部における前記誘導流路の高さよりも低いことを特徴とする態様3または4に記載の水洗便器である。
【0014】
本発明の態様6は、前記誘導流路が溝であることを特徴とする態様1〜5に記載の水洗便器である。
【0015】
本発明の態様7は、前記溝の断面形状が中心角90°の円弧部と、垂直方向を向いた該円弧部の一端から略垂直方向に延在する縦延在部と、水平方向を向いた前記円弧部の他端から水平方向に対して上向きに角度θで横方向に延在する横延在部とを有することを特徴とする態様6に記載の水洗便器である。
【0016】
本発明の態様8は、前記溝の全長に亘り、前記円弧部の半径と前記縦延在部の垂直長さとの比および前記円弧部の半径と前記横延在部の水平長さとの比が一定であることを特徴とする態様7に記載の水洗便器である。
【0017】
本発明の態様9は、前記ボウル部の下部における前記円弧部の半径が、前記ボウル部の上部における前記円弧部の半径よりも短いことを特徴とする態様8に記載の水洗便器である。
【0018】
本発明の態様10は、前記ボウル部の下部における前記溝の前記横延在部の前記角度θが、前記ボウル部の上部における前記溝の前記横延在部の前記角度θよりも小さいことを特徴とする態様7に記載の水洗便器である。
【0019】
本発明の態様11は、前記誘導流路が前記ボウルの内面より突出した凸部により形成されることを特徴とする態様1〜5に記載の水洗便器である。
【0020】
本発明の態様12は、前記ボウル部の上部に位置し、前記ボウルの内部に水を供給する流水口の断面積が、前記誘導流路の断面積より大きいことを特徴とする態様1〜11のいずれかに記載の水洗便器である。
【発明の効果】
【0021】
本願発明に係る水洗便器は、そのボウル部の内面にこの内面を少なくとも2周し上部から下部に至る螺旋状の誘導流路を有している。そして、この誘導流路の内部を流水(洗浄水)が流れることで、流水がボウル表面上を移動する距離が多くなることから、より少ない量の水(流水)で従来と同等以上の洗浄性を確保した水洗便器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1(a)は本発明に係る水洗便器のボウル部1を示す側面図であり、図1(b)はボウル部1を示す斜視図である。
【図2】図2は図1(a)のII部の拡大断面図である。
【図3】図3は横延在部16の変形例を示す断面図であり、図2のIII部に相当する。
【図4】図4は螺旋形状の誘導流路10の傾きを説明するための模式図である。
【図5】図5は本発明に係る水洗便器100の斜視図である。
【図6】図6は水洗便器100の主要部分の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、「右」、「左」及びそれらの用語を含む別の用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が制限されるものではない。また、複数の図面に表れる同一符号の部分は同一の部分又は部材を示す。
【0024】
図1(a)は、本発明に係る水洗便器のボウル部1を示す側面図であり、図1(b)はボウル部1を示す斜視図である。ボウル1部の上端部には流水(洗浄水)を供給するための流水口1aが設けられている。ボウル部1の内面にはボウル1の上部から下部に至る螺旋状の誘導流路10が設けられている。ボウル部1の下部には汚物および洗浄水をボウル部1から排出するための排水管部5が設けられている。排水管部5は流水を流さない状態でもボウル部1の下部に存在する溜水の水面(喫水面)より下に通常位置する。
【0025】
流水口1aより供給された流水は、ボウル1と後述するリブ3とによりボウル1の上端部内周に形成される詳細を後述するガイド溝35に沿って流れる。そして、ガイド溝35を通り、ボウル1の上端部を概ね4分の1周した流水は、誘導流路10の上端部10aから誘導流路10内に入る。一方、誘導流路10の下端部10bは、好ましくは図1(b)に示すように排水管部5に設けられる。すなわち、誘導流路10は、喫水面の上部だけでなく、喫水面より下にも設けられるのが好ましい。
【0026】
流水口1aからボウル部1に供給される流水の少なくとも一部は、ガイド溝35を解して誘導流路10の上端部10aより誘導流路10内に入り、誘導流路10に沿って、ボウル部1の内側を回転しながらボウル部1の上部から下部に移動し誘導流路10の下端部10bから排水管部5に達する。このように流水は螺旋状の誘導流路10内を通ることにより、ボウル内面上をより長い距離流れた後、排水管部5に到達することから、より少ない流水の量でも従来と同等の洗浄性を確保することができる。
【0027】
誘導流路10内を移動する流水がより長い距離を流れるように、螺旋状の誘導流路10は、ボウル部1の内面を少なくとも2周周回している(以下、螺旋状の誘導流路10がボウル1の内面を周回する回数を「旋回回数という」)。誘導流路10の旋回回数は、2回以上、好ましくは4回以上である。
【0028】
誘導流路10は、ボウル部1において排水管部5を除く内面の略全体に設けてもよく、また例えば誘導流路と誘導流路との間に誘導流路がない部分(すなわち従来のボウル部と同じ曲面を持つ部分)を有するように、ボウル部1の内面の一部にのみ設けてもよい。図1(a)、(b)に示す実施形態では、ボウル部10の上部では誘導流路10と誘導流路10が略隙間なく配置されているが、ボウル部1の下部では、誘導流路10と誘導流路10の間に誘導流路の無い部分が設けられている。
【0029】
なお、本願発明に係る螺旋状の流動流路10は、上述した特許文献2に記載の螺旋状の段部とは以下に示すように効果と構成が全く異なるものである。
すなわち、特許文献2に記載の螺旋状段部は、ボウル部の底部に溜まっている溜水に旋回流を引き起こすためのものであり、得られる効果が本願のボウル部内面の洗浄性とは異なる。
【0030】
このように目的とする効果が異なることから、特許文献2の螺旋状段部については、旋回回数が規定されていない。また、特許文献2の図に開示されている螺旋状段部は、概ね1回転している螺旋が開示されているだけであり、流水がより長い距離を流れるように旋回回数が少なくとも2回である本発明の誘導流路10とは構成が異なる。このように構成が異なるのは、溜水に旋回流を起こすための第2主流束を導く特許文献2の段部が例えば旋回回数2回以上とその距離が長くなるとその中を流れる流水の速度が落ちることから目的とする旋回流を得ることが困難になるためであろうと思われる。
【0031】
誘導流路10は任意の断面形状を有することが可能である。以下に誘導流路10の好ましい断面形状の形態を例示する。
図2は、図1(a)のII部(点線で囲んだ部分)の拡大断面図である。図2に示す実施形態では、誘導流路10は従来のボウル部の曲面に溝を設けることにより形成される。この実施形態では誘導流路10の断面の形状は中心角90°の扇形の円弧部12と円弧部12の垂直方向を向く一端より概ね垂直方向に延在する縦延在部14と円弧部12の水平方向を向いた他端より横方向に延在する横延在部16とから成る。
【0032】
円弧部12の半径は最上部に位置する1番目の誘導流路10から順に最下部に位置するn番目の誘導流路10までR、R、R・・・Rである。弧部12の半径R(以下、上からx番目の誘導流路10の円弧部の半径をRとする(x=1、2、3・・・n)。同様に他の変数についても添字「x」はx番目の誘導流路10を意味する。)は、好ましくは3mm〜30mmである。縦延在部14の垂直方向の長さは上から順にn番目の誘導流路10までB、B、B・・・Bである。縦延在部14の垂直方向の長さBは、好ましくは5mm〜1mmである。横延在部16の水平方向の長さは上から順にn番目の誘導流路10までA、A、A・・・Aである。横延在部16の長さAは、好ましくは0.1mm〜3mmである。
【0033】
横延在部16(水平方向の長さがAの横延在部16)は、好ましくは水平方向に対して上向きに角度θ、θ、θ・・・θで延在している。誘導流路10の底部を形成する横延在部16が水平方向に対して上向きに延在することにより、誘導流路10を流れる水が誘導流路10の外側に流れ出るのを抑制する効果があるからである。横延在部16の水平方向に対する角度θは、好ましくは0°〜15°である。
【0034】
誘導流路10がボウル部1の内面(排水管部5を除く内面であってもよい)の略全体に形成されている場合、上からx番目の誘導流路10の横延在部16と上からx+1番目の誘導流路10の縦延在部16とが繋がっている。この場合、x番目の誘導流路10の横延在部16と上からx+1番目の誘導流路10の縦延在部16との境界部は図2に示すようにアール(R)を有することが好ましい。境界部にアールを有することで耐摩耗性が向上するからである。
【0035】
図3は、横延在部16の変形例を示す断面図であり、図2に点線で示すIII部に相当する。横延在部16は、図3に示すように断面内で曲線状であってもよい。図3に示す実施形態では、図2と同様にx番目の誘導流路10の横延在部16と上からx+1番目の誘導流路10の縦延在部16との境界部がアールを有している。この場合、横延在部12の水平方向対する角度θは、図3に示すように、円弧部12の水平方向を向いた端部(図3に示すB点)から、アールを有するこの境界部に引いた接線(図3中のA点とB点を結ぶ線)が水平方向と為す角度である。また、境界部がアールを有せずに角を有する場合には、角度θnは、この角と円弧部12の水平方向を向いた端部とを結ぶ直線が水平方向と為す角度である。
【0036】
好ましい実施形態では、縦延在部14の垂直方向の長さB(xは上からx番目の誘導流路を意味する。x=1、2、3・・・n)は円弧部12の半径Rの15〜35%であることが好ましい。そして、横延在部16の水平方向の長さAは、円弧部12の半径Rの1〜10%であることが好ましい。螺旋形状の誘導流路10を流れる洗浄水には遠心力が作用する。この遠心力により洗浄水が便器外に飛散するのを防止するため、A<Bの関係を満足することが好ましいからである。また、縦延在部14の垂直方向の長さBおよび、横延在部16の水平方向の長さAの円弧部12の半径Rに対する比が上述の好ましい範囲にある場合、ボウル部1の内面形状が審美性に優れ、使用者(消費者)に受け入れられやすいという効果も奏する。
【0037】
円弧部12の半径R、縦延在部14の垂直方向の長さBおよび横延在部16の水平方向の長さAはxの値に関わらず一定としてもよい。しかし、以下に示す理由からボウル部1の下部の誘導流路10の断面積の方がボウル部1の上部にある誘導流路10の断面積より小さい方が好ましい。
【0038】
すなわち、上述したように少なくとも旋回回数が2回以上の螺旋状の誘導流路10を設けることにより、流水はボウル部1の内面をより長い距離流れることにより高い洗浄性を得ている。しかし、一方でより長い距離を流れるために、ボウル部1の下部に位置する誘導流路10を流れる流水の流速が遅くなり、十分に高い洗浄性を得られない場合がある。そこで、ボウル部1の下方に位置する誘導流路10の断面積をより小さくすることで、下方に位置する誘導流路10を流れる水の流速を増加させて十分な洗浄性を確保するものである。
【0039】
なお、誘導流路10の形状が例えば図2に示す、円弧部12と縦延在部14と横延在部16とから成るように複雑な形状の場合のように、誘導流路10の断面積を正確に求めるのが手間を要する場合がある。このため、x番目の誘導流路10の断面積として、該誘導流路10の幅W(図2に示す実施形態では、円弧部12の半径Rと横延在部16の水平方向の長さAとの和に等しい。)と高さH(図2に示す実施形態では、円弧部12の半径Rと縦延在部14の垂直方向の長さBとの和に等しい。)との積を用いるのが好ましい。
【0040】
誘導流路10の断面積は、連続的に一定の割合で減少してもよく、また例えばボウル部1の内面を1周する間等、一定の間は一定の断面積で、所定の箇所で断面積が減少し、また一定の間は同じ断面積である等、不連続的に減少してもよい。
【0041】
幅Wを(1)式を満たすように減少させて誘導流路10の断面積を減少させてもよく、また、高さHを(2)式を満たすように減少させて誘導流路10の断面積を減少させてもよく、さらに幅Wが(1)式を満たしかつ高さHが(2)式を満たすように誘導流路10の断面積を減少させてもよい。

>W>W>・・・>W (1)
>H>H>・・・>H (2)
【0042】
図2に示す断面形状の誘導流路10において、幅Wが(1)式を満たし、かつ高さHが(2)式を満たすように断面積を減少させる好ましい方法として、円弧部12の半径Rと縦延在部14の垂直方向の長さBとの比率を一定(すなわち、R:B=R:B=R:B=・・・R:B)に固定し、かつ円弧部12の半径Rと横延在部14の垂直方向の長さBとの比率を一定として、円弧部12の半径Rを(3)式を満たすように変化させてもよい。

>R>R>・・・>R (3)
【0043】
このように(3)式を満たすように誘導流路10の断面積を減少させることにより、排水管部5付近での洗浄水の流速の減速を抑制でき、従って、洗浄性の低下を抑制できる利点がある。
【0044】
また、横延在部16が水平方向に対して上向きに延在する角度θは、以下の(4)式を満足するようにボウル部1の下方に行く程減少することが好ましい。角度θがボウル下部に行く程減少することで、誘導流路10のボウル下部の部分において洗浄水を誘導流路10から溢れさせることができる。そして、この溢れた洗浄水により、ボウル下部に位置する、誘導流路10と誘導流路10との間の誘導流路10以外の部位を洗浄することができるためである。

θ>θ>θ>・・・>θ (4)
【0045】
以上に説明した図2に示す実施形態では、誘導流路10は、従来のボウル部の曲面に溝(すなわち凹部)を形成することで得ている。
しかし、誘導流路10を形成する方法は、これに限定されるものではない。例えば、従来のボウル部の曲面にボウル部内側に向かった突起部(凸部)を設けることにより形成してもよい。この場合、誘導流路10は、突起部のみで形成してもよく、また突起部と従来のボウル部の曲面とから形成してもよい。
【0046】
このように突起部を用いて形成した誘導流路10においても、ボウル部1の下部の誘導流路10の断面積の方がボウル部1の上部にある誘導流路10の断面積が小さい方が好ましい。そして、x番目の誘導流路10の断面積として、該誘導流路10の幅Wと高さHとの積を用いるのが好ましい。
【0047】
また、誘導流路10が溝の場合と同様に、誘導流路10の断面積を減少させる方法として、幅Wを(1)式を満たすように断面積を減少させてもよく、また、高さHが(2)式を満たすように断面積を減少させてもよく、さらに幅Wが(1)式を満たしかつ高さHが(2)式を満たすように断面積を減少させてもよい。
【0048】
以下にボウル部1を構成する材料について説明する
ボウル部1は、従来の水洗便器と同様の陶磁器質の材料を含む各種の材料を用いて形成することができる。
しかし好ましくは、ボウル部10は合成樹脂により形成される。陶器(陶器質材料)等の材料により形成する場合と比べ、優れた洗浄性を得ることができるからである。
【0049】
また、ボウル部1は、以下に示すように、合成樹脂により形成することにより陶器で形成する場合より高い寸法精度を得ることができ、容易に誘導流路10の形状を制御できるという利点がある。
図4は、螺旋形状の誘導流路10の傾きを説明するための模式図である。図4は、ボウル部1を簡略化した形状(円錐台)で表した、ボウル1の側面と上面を示す模式図である。図4に示すボウル部1は、その高さがhであり、その上端の半径(内面の半径)がr(n)である。この半径r(n)は、ボウル部1の内面に設けられている螺旋形状の誘導流路10の旋回回数nを考慮して設定される(すなわち、旋回回数nの関数である)。そして図4に示される誘導流路10は一定の間隔Wでボウル部1の上端近傍に位置する誘導流路10の上端部10aからボウル部1の下端近傍に位置する誘導流路10の下端部10bまでボウル部内面上を延在している。
【0050】
従って、誘導流路10の傾き(螺旋の傾き)aは、a=W/2πr(n)で表すことができる。
好ましい誘導流路10の間隔はボウル部1の形状と旋回させたい螺旋回数で決まるが、好ましいボウル部1の上端の半径r(n)は例えば、30〜40cmであることから、好ましい傾きaは例えば0〜10である。
【0051】
一方、表1は陶器(陶器質材料)と樹脂の一般的な収縮率の値を示す。樹脂の収縮率とは金型での成形直後の寸法(すなわち金型寸法)と離型後の冷却により得られた成形品の寸法との寸法変化を意味し、陶器の収縮率は高温での焼成前後での寸法変化を示す。陶器の収縮率は、松下電工技報 Vol.55 No.4 P16から引用し、樹脂の収縮率は三谷景造「わかりやすい実践金型設計」工業調査会 P90より引用した。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示すように樹脂の収縮率は陶器の10分の1以下となっている。そしてボウル部1は強度を確保する必要から厚さが30mm以上の偏肉部分を有する場合がある。表1に示すように陶器製のボウル部1は収縮率が0.1(10%)以上であることが多く、上述の偏肉部分では、焼成による収縮により誘導流路10の傾きが変化してしまうため、傾きa≦10を満足する誘導流路10を備えることが困難な場合がある。一方、樹脂製のボウル部1では、金型により形成したボウル部1は離型後の冷却でも殆ど形状が変化しない。このため、傾きa≦10を満足する誘導流路10を備えた樹脂製のボウル部1を容易に形成できる。
【0054】
ボウル部1に用いる合成樹脂は、各種の樹脂を用いることが可能である。好ましい合成樹脂の例として、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネイト(PC)およびポリプロピレンが挙げられる。
【0055】
次にボウル1を含む、水洗便器100の詳細を示す。図5は本発明に係る水洗便器100の斜視図であり、図6は水洗便器100の分解斜視図である。なお図6では水洗便器100の主要部分であるボウル部1とリブ部3とスカート部2以外の部分は記載を省略した。図5、6に示すように、水洗便器100は、ボウル部1と、リブ部3とを含み、好ましくはスカート部2を含む。リム部3およびスカート部2は例えばアクリル樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂およびポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂等の樹脂より形成されることが好ましい。
【0056】
リム部3はボウル部1の上部に位置しており、例えばボウル部1の上フランジ部6の上にリム部3の下設置用鍔40を載置して溶着することで一体化されている。そして、ボウル部1の上端開口の縁部とリム部3の下端内周縁部とにより側方に開口した略C字形状のガイド溝35が形成される。
【0057】
スカート部2を有する場合、リム部3はスカート部2の上端部内に嵌め込まれ、リム部3の上設置用鍔41はスカート部2の上端面に溶着されている。
【0058】
ボウル部1は、下方に向かって開口径が徐々に小さくなっている。ボウル部1は、ボウル部1に洗浄水(流水)を供給する流水口1aを有し、下端部に排水管部5を有する。流水口1aより供給された流水は、ガイド溝35内を通り、例えばボウル部1の上端部内側を概ね4分の1周程度したところで、図1に示した誘導流路10の上端部10aより誘導流路10内に入り誘導流路10に沿って、ボウル部1の内面上を旋回しながらボウル部1の内壁を洗浄する。
【0059】
通常、流水口1aから供給される水の流れが停滞することがないように、ガイド溝35の断面積は流水口1aの断面積と同程度かまたは大きい。
【0060】
誘導流路10同士の間に誘導流路10を構成しない部分がある場合は、流水口1aの断面積は、誘導流路10の断面積(上端部10aでの断面積)より大きいことが好ましい。流水口1aから供給された流水の一部を誘導流路10から確実に溢れさせることができ、この溢れた水によりボウル部1の内面のうち誘導流路10が形成されていない部分を確実に洗浄できるからである。
【0061】
なお、上述の実施形態では流水口1aからガイド溝35に向け概ね水平方向に流水がボウル部1内部に放出されている。これは流水を誘導流路10の旋回方向に近い方向に放出することで、流水が誘導流路10に沿って、より確実にボウル部1の内面を周回できるようにするためである。
【0062】
しかし、例えば流水口1aから概ね垂直方向に流水をボウル部1内に放出しても(即ち誘導流路10が無ければ流水は殆ど旋回することなく排水管部5に達する条件であったとしても)本発明の誘導流路10内を流水が通ることで、流水はボウル部1の内面上を旋回した後、排水管部5に達する。
【0063】
リム部3の下面部の外周には平面視U字状の上述の下設置用鍔40が設けてあり、リム部3の上面部外周には平面視U字状の上述の上設置用鍔41が設けてある。
さらに、リム部3の後部の内周面には必要に応じて設けられる温水洗浄装置の洗浄ノズルをボウル部1内に出し入れするための洗浄ノズル出し入れ用開口部25を設けてもよい。また、必要に応じて設けられる送風装置から噴出する温風又は冷風をボウル部1内に吹き出すための送風用開口部26を設けてもよい。
【0064】
スカート部2は、必要に応じて設けられるもので、ボウル部1の外周を覆うことで水洗便器100の審美性を向上させることができる。また、スカート部2を用いる場合、スカート部2は、ボウル部1を所定の高さ及び位置に保持し、便器全体の強度を強化する。このスカート部2には、より強度を高めるために必要に応じ縦リブ7を設けてもよい。さらに、スカート部2は、ボウル部1を支持するための凹所9を有するのが好ましい(スカート部2がない場合は、ボウル部1自体がその下部に支持部を有するのが好ましい。)
【0065】
凹所9は、スカート部2の内面上部にはスカート部2の壁厚が下方に行くに従って徐々に薄くすることで周方向に形成してあり、該凹所9の底が水平な載置面9aとなっている。そして、この載置面9aにボウル部1の上フランジ部6を載置することでボウル部1を支持できる。
【0066】
ここで、ボウル部1とスカート部2とリム部3は、例えば、上述した樹脂を用いて射出成形等により作製することができる。誘導流路10についても予め対応する形状を金型上に形成しておくことで、ボウル部1を射出成形する際にボウル部1の内面に形成することができる。
ボウル部1、スカート部2、リム部3を樹脂により形成した後溶着することにより水漏れがないように高い寸法精度で一体化できる。
【0067】
水洗便器100は、回動自在に取り付けられた便座22と便蓋23、後方側面を覆う後方サイドカバー20および後方上部を覆う上カバー16を適宜設けることができる。なお、これら便座22、便蓋23、後方サイドカバー20および上カバー16も樹脂により形成されることが好ましい。
【実施例】
【0068】
高さhが200mm、上端の半径がr(n)が300mmで誘導流路10の有無以外は全て同じ樹脂製の実施例ボウル部1と比較例ボウル部とを用意した。実施例ボウル部1の内面には、旋回回数が9回でその形状(円弧部の半径R、縦延在部14の垂直方向の長さBおよび横延在部16の長さA)が表2に示される誘導流路10が設けられている。比較例ボウルの内面は誘導流路10を有しない曲面となっている。
【0069】
【表2】

【0070】
そして、実施例ボウル部1と比較例ボウル部を備え、ボウル部以外は全て同じ水洗便器をそれぞれ準備した。これら水洗便器では、上述した実施形態のように流水口から放出された流水はガイド溝を概ね4分の1周した後、ボウル部のガイド溝より下の部分を流れる。この際の流水口1a放出される流水の流速は2m/secであった。そしてそれぞれの水洗便器に流水口1aから流水を流し、流水がガイド溝35を出てからボウル部底部の排水管部に到達するまでの間にボウル内面を旋回した回数を計測した。計測結果を表3に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
実施例は旋回した回数が9回であり、比較例の3回と比べ明らかにボウル部の内面を流れる距離が増加した。これにより同じ量の流水を流してもより優れた洗浄性が得られる。
【符号の説明】
【0073】
1 ボウル部、1a 流水口、2 スカート部、3 リム部、5 排水管部、6 ボウル部1の上フランジ部、7 補強リブ、9 凹所、10 誘導流路、10a 誘導流路の上端部、10b 誘導流路の下端部、12 流動経路断面の円弧部、14 流路経路断面の縦延在部、16 流路経路断面の横延在部、100 樹脂製水洗便器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部から上部に向かって広がる形状を有するボウル部と、該ボウル部の上端部に配置されるリム部とを備えた水洗便器であって、
前記ボウル部の内面を少なくとも2周し前記ボウル部の上部から下部に至る、前記ボウル内を流れる流水の向きを制御する螺旋状の誘導流路を有する水洗便器。
【請求項2】
前記ボウルと前記リム部が樹脂から成ることを特徴とする請求項1に記載の水洗便器。
【請求項3】
前記ボウル部の下部における前記誘導流路の断面積が、前記ボウル部の上部における前記誘導流路の断面積より小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の水洗便器。
【請求項4】
前記ボウル部の下部における前記誘導流路の幅が、前記ボウル部の上部における前記誘導流路の幅よりも短いことを特徴とする請求項3に記載の水洗便器。
【請求項5】
前記ボウル部の下部における前記誘導流路の高さが、前記ボウル部の上部における前記誘導流路の高さよりも低いことを特徴とする請求項3または4に記載の水洗便器。
【請求項6】
前記誘導流路が溝であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の水洗便器。
【請求項7】
前記溝の断面形状が中心角90°の円弧部と、垂直方向を向いた該円弧部の一端から略垂直方向に延在する縦延在部と、水平方向を向いた前記円弧部の他端から水平方向に対して上向きに角度θで横方向に延在する横延在部とを有することを特徴とする請求項6に記載の水洗便器。
【請求項8】
前記溝の全長に亘り、前記円弧部の半径と前記縦延在部の垂直長さとの比および前記円弧部の半径と前記横延在部の水平長さとの比が一定であることを特徴とする請求項7に記載の水洗便器。
【請求項9】
前記ボウル部の下部における前記円弧部の半径が、前記ボウル部の上部における前記円弧部の半径よりも短いことを特徴とする請求項8に記載の水洗便器。
【請求項10】
前記ボウル部の下部における前記溝の前記横延在部の前記角度θが、前記ボウル部の上部における前記溝の前記横延在部の前記角度θよりも小さいことを特徴とする請求項7に記載の水洗便器。
【請求項11】
前記誘導流路が前記ボウルの内面より突出した凸部により形成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の水洗便器。
【請求項12】
前記ボウル部の上部に位置し、前記ボウルの内部に水を供給する流水口の断面積が、前記誘導流路の断面積より大きいことを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の水洗便器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−265693(P2010−265693A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118871(P2009−118871)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】