説明

保型容器およびそれを用いたコロイド結晶ゲルの製造方法

【課題】 任意の基板上に配向性に優れたコロイド結晶ゲルを製造するに好ましい保型容器、および、この保形容器を用いたコロイド結晶ゲルの製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明による保型容器は、対象基板に密着する密着面と、密着面を有する側に開放し、かつ、対象基板に対して所定の溶液を保持する保型溝と、保型溝と密着面と対向する表面との間をつなぐ第1の流路および第2の流路とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保型容器、および、それを用いたコロイド結晶ゲルの製造方法に関する。より詳細には、本発明は、任意の基板上にコロイド結晶ゲルを製造するに好ましい保型容器、および、それを用いた任意の基板上へのコロイド結晶ゲルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトニック結晶の一種であるコロイド結晶は、光に対して特異な現象を示すことが知られており、これを用いた光学素子への応用が盛んに研究されている。流動的で取り扱いの不便なコロイド結晶を、高分子ゲルを用いて固定化したコロイド結晶ゲルを製造する技術がある(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
図34は、従来技術によるコロイド結晶ゲルを製造するための容器を示す模式図である。
容器3400は、2つの注液口3410および3420を有する平板3430からなる。さらに、容器3400内部には、厚さ0.5mm以下の平板状キャピラリー3440が形成されている。また、注液口3410および3420は、平板3430に突設されている。それら注液口3410および3420の構造は、注液手段3450が取り付けられる入り口側開口部を広く、対向端側を狭くテーパー状である。
【0004】
このような容器3400を用いたコロイド結晶ゲルの製造方法を説明する。容器3400の注液口3410に注液手段3450を差し込む。注液手段3450には、重合性モノマー、架橋剤および光重合開始剤を含む、コロイド結晶状態のコロイド溶液が入れられている。次いで、注液手段3450からコロイド溶液を平板状キャピラリー3440に圧入することによって、平板状キャピラリー3440内部にてコロイド溶液にせん断流動を与え、配向性に優れたコロイド結晶を得る。その後、注液手段3450を除去し、容器3400に光照射することによってコロイド結晶ゲルが製造され得る。このようにして製造されたコロイド結晶ゲルは、容器3400から取り出して使用され得る。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1には、コロイド結晶ゲルを取り出すための方法、および、それに適した容器3400の具体的な構造が開示されていない。したがって、容器3400からコロイド結晶ゲルを取り出す際に、容器3400を破損してしまう、あるいは、コロイド結晶ゲルを損傷してしまう場合があり得る。したがって、コロイド結晶ゲルの製造コストが高くなるばかりでなく、歩留まりが低下し得る。
【0006】
また、製造されたコロイド結晶ゲルは、薄く柔軟であるので、一旦容器3400から取り出すと、取り扱いが困難である。そのため、コロイド結晶ゲルを製造後、使用時まで容器3400にて保存しておく必要がある。このため、容器3400を新たなコロイド結晶ゲルの製造に随時に使用することはできず、大量生産に不向きである。
【0007】
また、コロイド結晶ゲルの製造には、容器3400の材質およびコロイド結晶ゲルが接触する容器の表面の特性が影響し得るので、そのような接触面の特性を変えてコロイド結晶ゲルを製造するには、様々な表面を有する異なった容器が必要となる。しかしながら、そのような条件に応じて多種類の容器を準備することは、製造コストを高くすることになり得る。
【0008】
本発明者らは、以上のような特許文献1に係る問題点は、従来のような自己完結型の専用容器を用いるのではなく、任意の基板上にコロイド結晶ゲルを製造できる方式を開発す
ることにより解決しうると考えた。
【0009】
【特許文献1】特開2005−40647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、任意の基板上に配向性に優れたコロイド結晶ゲルを製造するに好ましい保型容器、および、それを用いたコロイド結晶ゲルの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による保型容器は、対象基板に密着する密着面と、前記密着面を有する側に開放し、かつ、前記対象基板に対して所定の溶液を保持する保型溝と、前記保型溝と前記密着面と対向する表面との間をつなぐ第1の流路および第2の流路とを有することを特徴する構成を採用した。
【0012】
前記保型溝の外枠を構成し、前記密着面を有する壁部材と、表裏に貫通した前記第1の流路および前記第2の流路を有する流路部材とをさらに含むことを特徴する構成を採用した。
【0013】
前記密着面の周囲の一部または周囲の全部に前記対象基板と前記保型容器との間に間隙を生じさせる傾斜面をさらに含むことを特徴する構成を採用した。
【0014】
前記保型容器または前記流路部材は、石英ガラス、光学ガラス、および、透明プラスチック樹脂からなる群から選択される材料からなることを特徴する構成を採用した。
【0015】
前記壁部材は、石英ガラス、光学ガラス、金属、樹脂フィルム、および、弾性ゴム材からなる群から選択される材料からなることを特徴とする構成を採用した。
前記第1の流路および/または前記第2の流路は、前記保型容器の前記表面の高さに一致するように形成されていることを特徴とする構成を採用した。
【0016】
前記保型容器の前記保型溝から前記表面までの厚さは、4mm以上であることを特徴とする構成を採用した。
【0017】
前記第1の流路および/または前記第2の流路は、前記流路部材の厚さに一致するように形成されていることを特徴とする構成を採用した。
【0018】
前記流路部材の厚さは、4mm以上であることを特徴とする構成を採用した。
前記保型溝の深さは、0mmより大きく0.5mm以下であることを特徴とする構成を採用した。
【0019】
前記壁部材の高さは、0mmより大きく0.5mm以下であることを特徴とする構成を採用した。
【0020】
前記所定の溶液は、コロイド溶液であることを特徴とする構成を採用した。
【0021】
本発明によるコロイド結晶ゲルを製造する方法は、上述の保型容器を前記対象基板に密着して配置するステップと、前記第1の流路または前記第2の流路から前記所定の溶液としてコロイド溶液を前記保型溝に注入するステップと、前記注入されたコロイド溶液に光を照射して、ゲル化するステップとを包含することを特徴とする構成を採用した。
【0022】
前記注入するステップは、前記コロイド溶液を圧入することを特徴とする構成を採用した。
【0023】
前記ゲル化するステップの前に、前記第1の流路および前記第2の流路を介して前記注入されたコロイド溶液に圧力差を印加するステップをさらに包含することを特徴する構成を採用した。
【0024】
前記配置するステップは、押し付け機構を用いることを特徴とする構成を採用した。
【0025】
前記傾斜面を用いて前記対象基板から前記保型容器を除去するステップをさらに包含することを特徴とする構成を採用した。
【発明の効果】
【0026】
本発明の保型容器によれば、対象基板に密着する密着面と、密着面を有する側に開放し、かつ、対象基板に対して所定の溶液を保持する保型溝と、保型溝と密着面と対向する表面との間をつなぐ第1の流路および第2の流路とを有する。
保型溝は、任意の対象基板に対して形成可能である。所定の溶液として、例えば、コロイド結晶状態のコロイド溶液をこの保型溝内に注入すれば、コロイド溶液中のコロイド粒子は、保型容器の表面および/または対象基板の表面に対して、自己整合的に特定の結晶面を配向し得るので、任意の対象基板上に配向性に優れたコロイド結晶ゲルが製造され得る。また、所定の溶液として、種々のゲル化可能な溶液を用いれば、任意の対象基板上に簡便に種々のゲルが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。同様の構成要素には同様の番号を付し、説明が重複するのを避ける。
【0028】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1による保型容器100の平面図である。
図2は、本発明の実施の形態1による保型容器100の断面図である。
図1および図2には、保型容器100が対象基板110上に配置された状態が示されている。図2は、図1に示される保型容器100のA−A’線断面図を示す。対象基板110は、例えば、スライドガラス、シリコン基板、プラスチック基板、ステンレス基板であり、平坦な表面を有する任意の基板が適用可能である。図1および図2を参照して、本発明による保型容器100の構成を詳述する。
【0029】
保型容器100は、対象基板110に密着する密着面200と、対象基板110に対して所定の溶液を保持する保型溝120と、第1の流路130および第2の流路140とを有する。このような保型容器100は、石英ガラス、光学ガラス、および、透明プラスチック樹脂からなる群から選択される材料から製造され得る。これらの材料は、いずれも透明材料であるので、後述する光照射による所定の溶液のゲル化を促進することができるので、好ましい。
【0030】
所定の溶液は、ゲル化可能な任意の溶液が適用可能であるが、後述するように、本発明によれば配向性に優れたコロイド結晶ゲルが得られる点からコロイド溶液が特に好ましい。したがって、以降の説明では、所定の溶液としてコロイド溶液を用いた場合に特化して説明する。なお、本明細書では、コロイド溶液とは、コロイド粒子を含む分散液に加えて、重合性モノマー、架橋剤および光重合開始剤を含む溶液であり、コロイド結晶状態にあることに留意されたい。
【0031】
密着面200は、対象基板110との間隙がないように密着可能な面を意図している。密着面200は、研磨等によってその表面に凹凸がないよう処理されていてもよい。また、保型容器100として透明プラスチック樹脂を採用した場合には、ミクロンオーダで表面に凹凸を有し得るので、凹凸を埋めるように弾性または塑性変形性を有するシートを密着面200に付与することが望ましい。このようなシートの例として、シリコーンゴムシート、液状ゴムの乾燥膜などがある。
【0032】
保型溝120は、保型容器100の密着面200側に開放して形成されている。保型溝120の深さdは、例えば、0.1mmであるが、これに限定されない。保型溝120の深さdは、0.5mm以下が望ましい。0.5mmより大きくなると、保型溝120内にて形成されるコロイド結晶の配向性が低下し得る。
【0033】
第1の流路130および第2の流路140は、保型容器100の密着面200に対向する表面に対して突状に設けられている。一方の流路は、シリンジ等任意の注液手段を用いて保型溝120にコロイド溶液を注入するための注液手段の差込口として機能し得、一方の流路は、注入時における空気抜き用の穴として機能し得る。また、第1の流路130および第2の流路140は、後述するように、互いに共働して保型溝120に注入されたコロイド溶液に圧力差を加えるように(すなわち、第1の流路130と第2の流路140との間に圧力差を生じるように)機能し得る。これにより、保型溝120に注入されたコロイド溶液にせん断流動を生じさせることができる。
【0034】
第1の流路130および第2の流路140の直径は、例えば、4mmであるが、これに限定されない。4mm(±0.1mmの誤差を含む)であれば、図34に記載の既存の注液手段3450を用いることができる。
【0035】
また、第1の流路130および第2の流路140は、保型溝120へ向かってテーパー状(先細り)であってもよい。通常、注液手段の先端部は、わずかにテーパー状であるため、第1の流路130および第2の流路140と注液手段との接触がよくなり、コロイド溶液の注入操作が容易になる。また、注液手段を保型容器100から取り外しやすくするため、余分な力が保型容器100にかかって保型溝120内に形成されたコロイド粒子の結晶性を損なうことはない。
【0036】
図1および図2では、第1の流路130および第2の流路140は、同一の形状であるが、注入されたコロイド溶液に圧力差を加えることができる限り、異なる形状であってもよいが、後述する図7のような操作を可能にするなどの製造上の利便性を考慮すると同一の形状が好ましい。
【0037】
このように、保型溝120は、第1の流路130または第2の流路140から注入されたコロイド溶液を、任意の基板に対して保持することができる。これにより、コロイド溶液中のコロイド粒子は、保型容器100(すなわち保型溝120)の表面および/または対象基板110の表面に対して自己整合的に特定の結晶面を配向し得るので、任意の対象基板110上に配向性に優れたコロイド結晶ゲルを製造することができる。また、保型容器100は、同一材料から単一部材として加工形成されているので、後述する別個の部材からなる保型容器に比べて、各部材間におけるコロイド溶液の漏れの心配がない。
【0038】
図3は、本発明の実施の形態1による別の保型容器300の断面図である。
図3には、図1および図2と同様に、保型容器300が対象基板110上に配置された状態が示されている。保型容器300は、密着面200の周囲に傾斜面310を有する以外は、保型容器100と同様である。このような傾斜面310は、保型容器300と対象
基板110との間に指かけ等を容易にする間隙を生じさせ得る。
【0039】
コロイド結晶をゲル化した後は、コロイド結晶ゲル自体がある程度の接着作用を有し、対象基板110から保型容器300を取り外しにくくするが、傾斜面310に指や爪または冶具を引っ掛けることができるので、対象基板110からの保型容器300の取り外しを容易にし得る。このような傾斜面310を、密着面200の周囲の一部に設けてもよいし、周囲の全部に設けてもよい。なお、本明細書において「間隙」とは、保型溝と対象基板との間で所定の溶液が確実に保持される密着面と対象基板との間の密着性を維持した、保型容器と対象基板との間の隙間であることに留意されたい。
【0040】
図4は、本発明の実施の形態1によるさらに別の保型容器400の断面図である。
図4には、図1〜図3と同様に、保型容器400が対象基板110上に配置された状態が示されている。保型容器400は、保型溝120の外枠を構成し、密着面200を有する壁部材410と、第1の流路130および第2の流路140を有する流路部材420とをさらに含む以外は、保型容器100と同様である。
【0041】
壁部材410は、対象基板110と接する面に密着面200を有する。壁部材410は、石英ガラス、金属、樹脂フィルム、および、弾性ゴム材からなる群から選択される材料からなる。より詳細には、金属は、例えば、ステンレスであり、樹脂フィルムはポリステルフィルムであり、弾性ゴム材はシリコーンゴムであり得るが、これらに限定されない。壁部材410が弾性ゴム材からなる場合、保型容器400と対象基板110との密着性を小さい押し付け圧力で容易に達成することができる。
【0042】
壁部材410の密着面200は、保型溝120に注入されるコロイド溶液が漏れないためにも、極めて平坦であり、対象基板110との密着性が高いことが好ましい。
【0043】
したがって、壁部材410が石英ガラス、金属等である場合、密着面200を研磨しておく方がよい。また、対象基板110との密着性を高めるために、柔軟性を有するシートを壁部材410の密着面200に予め付与してもよい。このようなシートは、壁部材410が樹脂フィルムである場合に特に有効であり得る。樹脂フィルムは、ミクロンオーダで表面に凹凸を有し得るので、凹凸を埋めるように弾性または塑性変形性を有するシートを密着面200に付与することが望ましい。このようなシートの例として、シリコーンゴムシート、液状ゴムの乾燥膜などがある。
【0044】
壁部材410の高さd(すなわち、保型溝120の深さd)は、例えば、0.1mmであるが、これに限定されない。壁部材410の高さdは、0.5mm以下が望ましい。0.5mmより大きくなると、保型溝120内にて形成されるコロイド結晶の配向性が低下し得る。壁部材410の高さdは、0.5mm以下で保型溝120が形成される限り任意の高さであり得る。
【0045】
流路部材420は、壁部材410と結合しており、それ自身に表裏に貫通した第1の流路130および第2の流路140を有する。保型溝120は、流路部材420の一部、すなわち、第1の流路130および第2の流路140を含む部分と、壁部材410とから構成されている。
【0046】
流路部材420は、図1〜図3を参照して説明した保型容器100、300と同様に、石英ガラス、光学ガラス、および、透明プラスチック樹脂からなる群から選択される材料から製造される。これらの材料は、いずれも、優れた光透過性を有しているため、保型溝120内に保持されたコロイド溶液のゲル化に有利である。
【0047】
本明細書において、壁部材410と流路部材420との結合とは、互いに密着した状態を意図しており、好ましくは、接着剤および粘着等の結合手段によって物理的に密着させてもよい。また、このような結合手段を使用せず、万力などの締め付け具を使用して、一時的に一体化させた場合は、ゲル化後に、壁部材410、流路部材420を順次取り外すことができるので、コロイド結晶ゲルが壊れやすい場合であっても対象基板110上に綺麗なコロイド結晶ゲルを担持させることができる。なお、結合手段は、上記の他にも可能であり、当業者であれば適宜選択可能である。
【0048】
保型容器400に示されるように、壁部材410と流路部材420とに異なる材料を選択できるので、ユーザの希望に応じた設計が可能になり、設計の自由度が増し得る。当然のことながら、壁部材410と流路部材420とに同一の材料を選択してもよく、この場合、原材料の種類が少なくてよいので、保型容器の製造コストを下げることができる。
【0049】
図5は、本発明の実施の形態1によるさらに別の保型容器500の断面図である。
図5には、図1〜図4と同様に、保型容器500が対象基板110上に配置された状態が示されている。保型容器500は、壁部材410および流路部材420の密着面200の周囲に傾斜面510を有する以外は、保型容器400と同様である。このような傾斜面510は、図3の傾斜面310と同様に機能し得る。このような傾斜面510を、密着面200の周囲の一部に設けてもよいし、周囲の全部に設けてもよい。
【0050】
次に、本発明による保型容器100を用いたコロイド結晶ゲルの製造方法を説明する。
【0051】
図6は、保型容器100を用いたコロイド結晶ゲルを製造する様子を示す模式図である。
【0052】
図7は、保型容器100を用いた別のコロイド結晶ゲルを製造する様子を示す模式図である。
【0053】
図6および図7を参照して、各ステップを詳述する。
【0054】
S110:保型容器100を対象基板110に密着して配置する。保型容器100を対象基板110に密着させるために、保型容器100と対象基板110とを挟む押し付け機構(図示せず)を用いてもよい。押し付け機構は、例えば、クリップ、上下に挟み込み可能なホルダー等である。
【0055】
S120:保型容器100の保型溝120にコロイド溶液を注入する。詳細には、第1の流路130(または第2の流路140)にコロイド溶液610が入ったシリンジ等の注液手段600を差し込み、注入する。
コロイド溶液610がつくるコロイド結晶は、保型溝120内にて、保型容器100の表面および/または対象基板110に対して自己整合的に特定の結晶面を配向し得るので、配向性の高いコロイド結晶が容易に形成される。
【0056】
S130:保型容器100の外部より保型溝120内のコロイド溶液に光を照射する。光は、例えば、紫外線等であり得る。これによって、コロイド溶液中にてゲル化が進行し、コロイド結晶ゲルが得られる。その後、保型容器100を除去する。当然のことながら、保型容器100を上方に移動させるだけでよいので、従来の容器3400(図34)に比べて、コロイド結晶ゲルに対する取り扱いが簡便になり得る。
【0057】
このようにして、任意の基板上にコロイド結晶ゲルを製造できる。また、製造後、保型容器100を用いて引き続いてさらなるコロイド結晶ゲルを製造することができるので、
歩留まりが向上するとともに、安価にコロイド結晶ゲルを提供できる。得られたコロイド結晶ゲルは、基板上に適宜カバーを付与して、保持してもよい。
【0058】
なお、S120において、注液手段600によるコロイド溶液610を、所定の速度で注入する(すなわち、圧入する)か、または、S120に引き続いて、注液手段600のピストンを所定の速度で押し込む、かつ/あるいは、注液手段600のピストンを所定の速度で引き抜いてもよい。このような所定の速度での注入、または、所定の速度でのピストン動作によって、第1の流路130と第2の流路140との間に圧力差が生じ、保型溝120に封入されたコロイド溶液にせん断流動が生じ得る。
【0059】
このようなせん断流動によって、保型溝120内により配向性の高いコロイド結晶が形成され得る。当然のことながら、第1の流路130または第2の流路140からコロイド溶液が漏れない程度に注入する、または、ピストンを押し込む/引き抜くことに留意されたい。図7に示されるように、第1の流路130に注液手段600を差し込み、第2の流路140に例えば、シリンジからピストンを取り去ったシリンダー部700のみを差し込むことによっても、コロイド溶液の漏れを防ぐことができる。
【0060】
上記各ステップは、図3〜図5を参照して説明した保型容器300〜500にも適用可能である。特に、保型容器300および保型容器500を用いた場合には、S130後に保型容器300、500を対象基板110から除去する際に、傾斜面310、510に指、爪または冶具等を引っ掛けることができるので、取り外しが容易である。
【0061】
このように、保型容器を単に対象基板から除去するだけで、形成されたコロイド結晶ゲルのみが対象基板に残るので、保型容器を破壊することなく、良質な状態でコロイド結晶ゲルのみを使用することができる。コロイド結晶ゲルが取り除かれた保型容器は、随時コロイド結晶ゲルの製造に再使用することが可能である。また、任意の基板上にコロイド結晶ゲルを形成できるので、対象基板表面の特性に応じたコロイド結晶ゲルを保型容器の材質を変更することなく製造できる。
【0062】
また、コロイド溶液の代わりにゲル化可能な任意の溶液を用いる場合も、上記S110〜S130のステップを採用できる。この場合、教育実験用、医療用、装飾用等種々のゲルを任意の対象基板上に簡便に製造することができる。
【0063】
(実施の形態2)
図8は、本発明による実施の形態2の保型容器800の平面図である。
図9は、本発明による実施の形態2の保型容器800の断面図である。
図8および図9には、保型容器800が対象基板110上に配置された状態が示されている。図9は、図8に示される保型容器800のA−A’線断面図を示す。対象基板110は、実施の形態1と同様に、スライドガラス、シリコン基板、プラスチック基板、ステンレス基板であり、平坦な表面を有する任意の基板が適用可能である。図8および図9を参照して、本発明による保型容器800の構成を詳述する。
【0064】
保型容器800は、対象基板110に密着する密着面900と、対象基板110に対して所定の溶液を保持する保型溝810と、第1の流路820および第2の流路830とを有する。保型容器800は、実施の形態1と同様に、石英ガラス、光学ガラス、および、透明プラスチック樹脂からなる群から選択される材料から製造され得る。
【0065】
実施の形態1と同様に、所定の溶液は、ゲル化可能な任意の溶液が適用可能であるが、本発明によれば配向性に優れたコロイド結晶ゲルが得られる点からコロイド溶液が特に好ましい。したがって、以降の説明では、所定の溶液としてコロイド溶液を用いた場合に特
化して説明する。
【0066】
なお、密着面900は、対象基板110との間隙がないように密着可能な面を意図している。密着面900は、研磨等によってその表面に凹凸がないよう処理されていてもよい。また、保型容器800として透明プラスチック樹脂を採用した場合には、ミクロンオーダで表面に凹凸を有し得るので、凹凸を埋めるように弾性または塑性変形性を有するシートを密着面900に付与することが望ましい。このようなシートの例として、シリコーンゴムシート、液状ゴムの乾燥膜などがある。
【0067】
密着面900は、実施の形態1の傾斜面310と同様に、傾斜面(図示せず)を有していてもよい。この場合も、傾斜面を設けた密着面900は、実施の形態1の傾斜面310と同様の効果を奏する。
【0068】
保型溝810は、保型容器800の密着面900側に開放して形成されている。保型溝810の深さdは、例えば、0.1mmであるが、これに限定されない。保型溝810の深さdは、0.5mm以下が望ましい。0.5mmより大きくなると、保型溝810内にて形成されるコロイド結晶の配向性が低下し得る。
【0069】
第1の流路820および第2の流路830は、保型容器800の密着面900に対向する表面に対して、突設することなく保型容器800の表面に一致するように(すなわち、表面と同一の高さに)設けられている。一方の流路は、シリンジ等任意の注液手段を用いて保型溝810にコロイド溶液を注入するための注液手段の差込口として機能し得、一方の流路は、注入時における空気抜き用の穴として機能し得る。また、第1の流路820および第2の流路830は、後述するように、互いに共働して保型溝810に注入されたコロイド溶液に圧力差を加えるように(すなわち、第1の流路820と第2の流路830との間に圧力差を生じるように)機能し得る。これにより、保型溝810に注入されたコロイド溶液にせん断流動を生じさせることができる。
【0070】
第1の流路820および第2の流路830の直径は、例えば、4mmであるが、これに限定されない。4mm(±0.1mmの誤差を含む)であれば、図34に記載の既存の注液手段3450を用いることができる。
【0071】
また、第1の流路820および第2の流路830は、保型溝810へ向かってテーパー状(先細り)であってもよい。通常、注液手段の先端部は、わずかにテーパー状であるため、第1の流路820および第2の流路830と注液手段との接触がよくなり、コロイド溶液の注入操作が容易になる。また、注液手段を保型容器800から取り外しやすくするため、余分な力が保型容器800にかかって保型溝810内に形成されたコロイド粒子の結晶性を損なうことはない。
【0072】
図8および図9では、第1の流路820および第2の流路830は、同一の形状であるが、注入されたコロイド溶液に圧力差を加えることができる限り、異なる形状であってもよいが、後述する図14のような操作を可能にするなどの製造上の利便性を考慮すると同一の形状が好ましい。
【0073】
このように、保型溝810は、第1の流路820または第2の流路830から注入されたコロイド溶液を、任意の基板に対して保持することができる。これにより、コロイド溶液中のコロイド粒子は、保型容器800(すなわち保型溝810)の表面および/または対象基板110の表面に対して自己整合的に特定の結晶面を配向し得るので、任意の対象基板110上に配向性に優れたコロイド結晶ゲルを製造することができる。
【0074】
また、第1の流路820および第2の流路830を実施の形態1のように突出することなく設けることによって、保型容器800の構造が簡略化されるので、保型容器800の製造が容易になり、コストを削減できる。また、図1〜図5に示される第1の流路130および第2の流路140は、突出しており、破損しやすいため、取り扱いが困難であるが、保型容器800の上面が平坦であるため、破損に強く、取り扱いも簡便である。さらに、このような形状であれば、例えば、保型容器800を大量に出荷する場合であっても、嵩張ることなくコンパクトな収容が可能である。加えて、突出部がなければ、光照射時に光源を保型容器800に近づけやすく、また、照射光による影が保型容器800に形成されることがないので、保型溝810全体にわたって均一にゲル化を進行させることができ、歩留まりが向上するとともに良質なコロイド結晶ゲルが得られ得る。
【0075】
図10は、本発明の実施の形態2による別の保型容器1000の断面図である。
図10には、図8および図9と同様に、保型容器1000が対象基板110上に配置された状態が示されている。保型容器1000は、保型溝810から保型容器1000の密着面900に対向する表面までの厚さt(すなわち、保型溝810の深さを除く全体の厚さ)が4mm以上を有する以外は、保型容器800と同様である。
【0076】
図8および図9に示す保型容器800に比べて、保型容器1000の厚さを十分に増すことによって、注液手段(図示せず)の取り付け時に薄い保型容器が破損することを防ぐとともに、注液手段の取り付けを容易にし得る。さらに、4mm以上の厚さを有するので、第1の流路820および第2の流路830は、突出した流路(例えば、図1の第1の流路130または第2の流路140)と同様に、コロイド溶液の液溜めとしても機能し得る。なお、上述の厚さtが4mm以上であれば上限は特にないが、4mmよりも小さい場合には、液溜めとしての効果が小さくなり得る。
【0077】
図11は、本発明の実施の形態2によるさらに別の保型容器1100の断面図である。
図11には、図8〜図10と同様に、保型容器1100が対象基板110上に配置された状態が示されている。保型容器1100は、保型溝810の外枠を構成し、密着面900を有する壁部材1110と、第1の流路820および第2の流路830を有する流路部材1120とをさらに含む以外は、保型容器800と同様である。
【0078】
壁部材1110は、対象基板110と接する面に密着面900を有する。壁部材1110は、石英ガラス、金属、樹脂フィルム、および、弾性ゴム材からなる群から選択される材料からなる。より詳細には、金属は、例えば、ステンレスであり、樹脂フィルムはポリステルフィルムであり、弾性ゴム材はシリコーンゴムであり得るが、これらに限定されない。壁部材1110が弾性ゴム材からなる場合、保型容器1100と対象基板110との密着性を小さい押し付け圧力で容易に達成することができる。
【0079】
壁部材1110の密着面900は、保型溝810に注入されるコロイド溶液が漏れないためにも、極めて平坦であり、対象基板110との密着性が高いことが好ましい。したがって、壁部材1110が石英ガラス、金属等である場合、密着面900を研磨しておく方がよい。また、対象基板110との密着性を高めるために、柔軟性を有するシートを壁部材1110の密着面900に予め付与してもよい。このようなシートは、壁部材1110が樹脂フィルムである場合に特に有効であり得る。樹脂フィルムは、ミクロンオーダで表面に凹凸を有し得るので、凹凸を埋めるように弾性または塑性変形性を有するシートを密着面900に付与することが望ましい。このようなシートの例として、シリコーンゴムシート、液状ゴムの乾燥膜などがある。
【0080】
壁部材1110の密着面900は、実施の形態1の傾斜面510と同様に、傾斜面(図示せず)を有していてもよい。この場合も、傾斜面を設けた密着面900は、実施の形態
1の傾斜面510と同様の効果を奏する。
【0081】
壁部材1110の高さd(すなわち、保型溝810の深さ)は、例えば、0.1mmであるが、これに限定されない。壁部材1110の高さdは、0.5mm以下が望ましい。0.5mmより大きくなると、保型溝810内にて形成されるコロイド結晶の配向性が低下し得る。壁部材1110の高さdは、0.5mm以下で保型溝810が形成される限り任意の高さであり得る。
【0082】
流路部材1120は、壁部材1110と結合しており、それ自身に表裏に貫通した第1の流路820および第2の流路830を有する。実施の形態1と異なり、第1の流路820および第2の流路830は、流路部材1120の厚さに一致するように(すなわち、流路部材1120の高さに一致するように)穴状に設けられている。保型溝810は、流路部材1120の一部、すなわち、第1の流路820および第2の流路830を含む部分と、壁部材1110とから構成されている。
【0083】
流路部材1120は、図8〜図10を参照して説明した保型容器800、1000と同様に、石英ガラス、光学ガラス、および、透明プラスチック樹脂からなる群から選択される材料から製造される。これらの材料は、いずれも、優れた光透過性を有しているため、保型溝120内に保持されたコロイド溶液のゲル化に有利である。
【0084】
本明細書において、実施の形態1と同様に、壁部材1110と流路部材1120との結合とは、互いに密着した状態を意図しており、好ましくは、接着剤および粘着等の結合手段によって物理的に密着させてもよい。また、このような結合手段を使用せず、万力などの締め付け具を使用して、一時的に一体化させた場合は、ゲル化後に、壁部材1110、流路部材1120を順次取り外すことができるので、コロイド結晶ゲルが壊れやすい場合であっても対象基板110上に綺麗なコロイド結晶ゲルを担持させることができる。なお、結合手段は、上記の他にも可能であり、当業者であれば適宜選択可能である。
【0085】
保型容器1100に示されるように、壁部材1110と流路部材1120とに異なる材料を選択できるので、ユーザの希望に応じた設計が可能になり、設計の自由度が増し得る。当然のことながら、壁部材1110と流路部材1120とに同一の材料を選択してもよく、この場合、原材料の種類が少なくてよいので、保型容器の製造コストを下げることができる。実施の形態1に比べて、第1の流路820および第2の流路830が突出していないので、保型容器の各部材の構造が簡略化されており、大量生産には好適である。
【0086】
図12は、本発明の実施の形態2によるさらに別の保型容器1200の断面図である。
図12には、図8〜図11と同様に、保型容器1200が対象基板110上に配置された状態が示されている。保型容器1200は、流路部材1210の厚さtが4mm以上である以外は、保型容器1100と同様である。この場合、図10に示す保型容器1000と同様に、注液手段(図示せず)の取り付け時に薄い流路部材が破損することを防ぐとともに、取り付けを容易にし得る。さらに、4mm以上の厚さを有するので、第1の流路820および第2の流路830は、コロイド溶液の液溜めとしても機能し得る。なお、上述の厚さtが4mm以上であれば上限は特にないが、4mmよりも小さい場合には、液溜めとしての効果が小さくなり得る。
【0087】
図13は、保型容器800を用いたコロイド結晶ゲルを製造する様子を示す模式図である。
図14は、保型容器800を用いた別のコロイド結晶ゲルを製造する様子を示す模式図である。
図13および図14を参照して、各ステップを詳述する。
【0088】
S210:図6および図7を参照して説明したS110と同様に、保型容器800を対象基板110に密着して配置する。この場合も保型容器800と対象基板110とを挟む押し付け機構(図示せず)を用いてもよい。なお、保型容器1000(図10)、1200(図12)を用いた場合には、保型容器自身が厚いため、または、流路部材1210(図12)が厚いため、押し付け機構の押圧による破損が起きる心配もなく、取り扱いが簡便となる。
【0089】
S220:保型容器800の保型溝810にコロイド溶液を注入する。詳細には、第1の流路820(または第2の流路830)にコロイド溶液610が入ったシリンジ等の注液手段600を差し込み、注入する。なお、保型容器1000、1200を用いた場合には、保型容器800と比べて、注液手段600の先端部を第1の流路820(または第2の流路830)に容易に収容可能となり、注液手段600を収容時に誤って破損することはない。
【0090】
S230:保型容器800の外部より保型溝810内のコロイド溶液に光を照射する。光は、例えば、紫外線等であり得る。これによって、コロイド溶液中にてゲル化が進行し、コロイド結晶ゲルが得られる。特に、第1の流路820および第2の流路830が保型容器800の表面に対して突設されていないので、第1の流路および/または第2の流路が光照射を妨げることはない。その後、保型容器800を除去する。当然のことながら、保型容器800を上方に移動させるだけでよいので、従来の容器3400(図34)に比べて、コロイド結晶ゲルに対する取り扱いが簡便になり得る。
【0091】
また、保型容器800は、実施の形態1の突状の第1の流路130(図1)および第2の流路140(図1)のような複雑な形状ではないため、洗浄も容易であり、プロセス時間を短縮できる。傾斜面(図示せず)を有する保型容器を用いた場合には、傾斜面に指、爪または冶具等を引っ掛けることができるので、対象基板110からの保型容器の取り外しが容易である。
【0092】
このようにして、任意の基板上にコロイド結晶ゲルを製造できる。また、製造後、保型容器800を用いて引き続いてさらなるコロイド結晶ゲルを製造することができるので、歩留まりが向上するとともに、安価にコロイド結晶ゲルを提供できる。得られたコロイド結晶ゲルは、基板上に適宜カバーを付与して、保持してもよい。
【0093】
実施の形態1と同様に、S220において、注液手段600によるコロイド溶液を、所定の速度で注入する(すなわち、圧入する)か、または、S220に引き続いて、注液手段600のピストンを所定の速度で押し込む、かつ/あるいは、注液手段600のピストンを所定の速度で引き抜いてもよい。このような所定の速度での注入、または、所定の速度でのピストン動作によって、第1の流路820と第2の流路830との間に圧力差が生じ、保型溝810に封入されたコロイド溶液にせん断流動が生じ得る。
【0094】
このようなせん断流動によって、保型溝810内により配向性の高いコロイド結晶が形成され得る。当然のことながら、第1の流路820(または第2の流路830)からコロイド溶液が漏れない程度に注入する、または、ピストンを押し込む/引き抜くことに留意することが必要であるが、保型容器1000、1200を用いた場合には、そのような液漏れも容易に防止され得る。
【0095】
あるいは、図14に示されるように、第1の流路820に注液手段600を差し込み、第2の流路830に例えば、シリンジからピストンを取り去ったシリンダー部700のみを差し込むことによっても、コロイド溶液の漏れを防ぐことができる。
【0096】
また、コロイド溶液の代わりにゲル化可能な任意の溶液を用いる場合も、上記S210〜S230のステップを採用できる。この場合も、教育実験用、医療用、装飾用等種々のゲルを任意の対象基板上に製造することができる。
【0097】
以上、実施の形態1および実施の形態2を参照して本発明を説明してきたが、本発明はこれらに限定されない。本発明の保型容器は、実施の形態1および実施の形態2を組み合わせて、例えば、突状の流路と穴型の流路とを有する保型容器であってもよいし、これらを有する流路部材を用いてもよい。また、図面では矩形の保型容器を示したが、これに限定されない。図面では保型溝の形状を角の丸まった矩形としたが、これに限定されない。保型溝のサイズおよび形状は、基板等に応じて適宜選択可能である。
【0098】
本発明の保型容器を、コロイド結晶ゲルを製造するに好ましい容器として説明してきたが、本発明はこれに限定されない。本発明の保型容器を種々のゲルの製造に用いてもよい。
【0099】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例1】
【0100】
図15〜図20は、実施例1による保型容器1500を示す図である。
図15は、実施例1による保型容器1500の平面図である。図16は、実施例1による保型容器1500の右側面図(左側面図)である。図17は、実施例1による保型容器1500の正面図(背面図)である。図18は、実施例1による保型容器1500の底面図である。図19は、実施例1による保型容器1500のA−A’線断面図である。図20は、実施例1による保型容器1500のB−B’線断面図である。
【0101】
実施例1による保型容器1500は、石英ガラスを用いて作製された。保型容器1500は、実施の形態1で説明した保型容器100(図1および図2)と同様である。
【0102】
保型容器1500の長手方向の長さLは76mmであり、幅Wは26mmであった。この保型容器1500の大きさは、通常用いられるスライドガラスと同一のサイズである。保型容器1500の全体の厚さDは1.5mmであり、保型溝1800の深さdは0.1mmであった。
【0103】
第1の流路1510および第2の流路1520の直径φは、それぞれ、4.05mmであった。また、第1の流路1510および第2の流路1520の高さHは4mmであった。第1の流路1510と第2の流路1520との距離lは、51mmであり、保型溝1800の幅w’は9mmであった。保型容器1500の周囲全体に傾斜面1600を設けた。
【実施例2】
【0104】
図21〜図26は、実施例2による保型容器2100を示す図である。
図21は、実施例2による保型容器2100の平面図である。図22は、実施例2による保型容器2100の右側面図(左側面図)である。図23は、実施例2による保型容器2100の正面図(背面図)である。図24は、実施例2による保型容器2100の底面図である。図25は、実施例2による保型容器2100のA−A’線断面図である。図26は、実施例2による保型容器2100のB−B’線断面図である。
【0105】
実施例2による保型容器2100は、石英ガラスを用いて作製された。保型容器210
0は、実施の形態2で説明した保型容器800(図8および図9)と同様である。
【0106】
保型容器2100の長手方向の長さL、幅W、全体の厚さD、保型溝2400の深さd、第1の流路2110および第2の流路2120の直径φ、第1の流路2110と第2の流路2120との間の距離l、および、保型溝2400の幅w’は、図15〜図20に示す保型容器1500と同様であった。保型容器2100の周囲全体に傾斜面2200を設けた。
【0107】
保型容器2100の第1の流路2110および第2の流路2120は、保型容器2100の保型溝2400と対向する表面の高さと一致するように作製された。それら第1の流路2110および第2の流路2120の深さHは、1.4mmであった。
【実施例3】
【0108】
図27〜図32は、実施例3による保型容器2700を示す図である。
図27は、実施例3による保型容器2700の平面図である。図28は、実施例3による保型容器2700の右側面図(左側面図)である。図29は、実施例3による保型容器2700の正面図(背面図)である。図30は、実施例3による保型容器2700の底面図である。図31は、実施例3による保型容器2700のA−A’線断面図である。図32は、実施例3による保型容器2700のB−B’線断面図である。
【0109】
実施例3による保型容器2700は、石英ガラスを用いて作製された。保型容器2700は、実施の形態2で説明した保型容器1000(図10)と同様である。
【0110】
保型容器2700の全体の厚さDを除いて、保型容器2700の長手方向の長さL、幅W、保型溝2400の深さd、第1の流路2110および第2の流路2120の直径φ、第1の流路2110と第2の流路2120との間の距離l、および、保型溝2400の幅w’は、図21〜図26に示す保型容器2100と同様であった。保型容器2700の全体の厚さDは、4.1mmであった。保型容器2700の周囲全体に傾斜面2800を設けた。
保型容器2700の第1の流路2710および第2の流路2720は、保型容器2700の保型溝3000と対向する表面の高さと一致するように作製された。それら第1の流路2710および第2の流路2720の深さHは、4.0mmであった。
【実施例4】
【0111】
実施例3の保型容器2700を用いてコロイド結晶ゲルを製造した。粒径約200nmのポリスチレン粒子(粒子体積分率濃度約12%)、重合性モノマー(N−メチロールアクリルアミド、濃度1M/L)、架橋剤(N,N’−メチレンビスアクリルアミド、濃度50mM/L)、光重合開始剤(カンファーキノン、濃度0.4mM/L)を含む水溶液を調製した。次いで、この水溶液にアルゴンバブリングによる酸素除去処理を施し、コロイド溶液とした。得られたコロイド溶液を1mL用シリンジに入れた。
【0112】
保型容器2700をスライドガラス基板(図示せず)に密着させて配置させ、第1の流路2710にシリンジを差し込んだ。次いで、シリンジからコロイド溶液を保型容器2700の保型溝3000内に注入した。この際、保型溝3000内にてコロイド溶液にせん断流動が生じるように、シリンジのピストンを所定の速度で押し込んだ。
【0113】
保型容器2700の外部より青色LEDを用いて保型溝3000内のコロイド溶液に光照射をし、コロイド溶液を重合・ゲル化させた。次いで、傾斜面2800に爪を引っ掛けてスライドガラス基板から保型容器2700を除去し、スライドガラス基板上にコロイド結晶ゲル膜を得た。
【0114】
得られたコロイド結晶ゲル膜の透過スペクトルを測定した。ここで、透過スペクトルの測定は、平面分光測定装置ImSpectorV10、KawasakiSteel Techno−research Corp.、Chiba、Japanを用いた。測定条件は、測定波長400nm〜950nmであり、波長分解能が9nmであった。水に浸したコロイド結晶ゲルを測定用の試料とし、その膜面に対して測定光が垂直に入射し、透過するように測定を行った。測定結果を図33に示す。
【0115】
図33は、本発明によるコロイド結晶ゲルの透過スペクトルを示す図である。
透過スペクトルは、800nm付近に透過率がシャープに落ち込んだ部分(ディップ)を有した。ディップの波長は、長波長側と短波長側とにおいて、良好な透過特性(高い透過率)を示した。また、得られたコロイド結晶ゲルの目視による観察の結果、全体にわたって均一な回折色を示すことを確認した。以上より、本発明による保型容器2700を用いて、配向性に優れたコロイド結晶ゲルが得られたことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0116】
以上説明してきたように、本発明による保型容器を用いれば、任意の基板上に配向性に優れたコロイド結晶ゲルを容易、かつ、高品質に製造できる。また、本発明の保型容器は、取り扱いが容易で、かつ、大量生産に好適であり、コロイド結晶ゲルの工業的製造以外にも、教育現場における学習用実験器具、研究開発現場における試験用実験器具にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明の実施の形態1による保型容器100の平面図
【図2】本発明の実施の形態1による保型容器100の断面図
【図3】本発明の実施の形態1による別の保型容器300の断面図
【図4】本発明の実施の形態1によるさらに別の保型容器400の断面図
【図5】本発明の実施の形態1によるさらに別の保型容器500の断面図
【図6】保型容器100を用いたコロイド結晶ゲルを製造する様子を示す模式図
【図7】保型容器100を用いた別のコロイド結晶ゲルを製造する様子を示す模式図
【図8】本発明による実施の形態2の保型容器800の平面図
【図9】本発明による実施の形態2の保型容器800の断面図
【図10】本発明の実施の形態2による別の保型容器1000の断面図
【図11】本発明の実施の形態2によるさらに別の保型容器1100の断面図
【図12】本発明の実施の形態2によるさらに別の保型容器1200の断面図
【図13】保型容器800を用いたコロイド結晶ゲルを製造する様子を示す模式図
【図14】保型容器800を用いた別のコロイド結晶ゲルを製造する様子を示す模式図
【図15】実施例1による保型容器1500の平面図
【図16】実施例1による保型容器1500の右側面図(左側面図)
【図17】実施例1による保型容器1500の正面図(背面図)
【図18】実施例1による保型容器1500の底面図
【図19】実施例1による保型容器1500のA−A’線断面図
【図20】実施例1による保型容器1500のB−B’線断面図
【図21】実施例2による保型容器2100の平面図
【図22】実施例2による保型容器2100の右側面図(左側面図)
【図23】実施例2による保型容器2100の正面図(背面図)
【図24】実施例2による保型容器2100の底面図
【図25】実施例2による保型容器2100のA−A’線断面図
【図26】実施例2による保型容器2100のB−B’線断面図
【図27】実施例3による保型容器2700の平面図
【図28】実施例3による保型容器2700の右側面図(左側面図)
【図29】実施例3による保型容器2700の正面図(背面図)
【図30】実施例3による保型容器2700の底面図
【図31】実施例3による保型容器2700のA−A’線断面図
【図32】実施例3による保型容器2700のB−B’線断面図
【図33】本発明によるコロイド結晶ゲルの透過スペクトルを示す図
【図34】従来技術によるコロイド結晶ゲルを製造するための容器を示す模式図
【符号の説明】
【0118】
100、300、400、500、800、1000、1100、1200、1500、2100、2700 保型容器
110 対象基板
120、810、1800、2400、3000 保型溝
130、820、1510、2110、2710 第1の流路
140、830、1520、2120、2720 第2の流路
200、900 密着面
310、510、1600、2200、2800 傾斜面
410、1110 壁部材
420、1120 流路部材
600 注液手段
610 コロイド溶液
700 シリンダー部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象基板に密着する密着面と、
前記密着面を有する側に開放し、かつ、前記対象基板に対して所定の溶液を保持する保型溝と、
前記保型溝と前記密着面と対向する表面との間をつなぐ第1の流路および第2の流路と
を有することを特徴する、保型容器。
【請求項2】
前記保型溝の外枠を構成し、前記密着面を有する壁部材と、
表裏に貫通した前記第1の流路および前記第2の流路を有する流路部材と
をさらに含むことを特徴する、請求項1に記載の保型容器。
【請求項3】
前記密着面の周囲の一部または周囲の全部に前記対象基板と前記保型容器との間に間隙を生じさせる傾斜面をさらに含むことを特徴する、請求項1に記載の保型容器。
【請求項4】
前記保型容器または前記流路部材は、石英ガラス、光学ガラス、および、透明プラスチック樹脂からなる群から選択される材料からなることを特徴する、請求項1または2のいずれかに記載の保型容器。
【請求項5】
前記壁部材は、石英ガラス、光学ガラス、金属、樹脂フィルム、および、弾性ゴム材からなる群から選択される材料からなることを特徴とする、請求項2に記載の保型容器。
【請求項6】
前記第1の流路および/または前記第2の流路は、前記保型容器の前記表面の高さに一致するように形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の保型容器。
【請求項7】
前記保型容器の前記保型溝から前記表面までの厚さは、4mm以上であることを特徴とする、請求項6に記載の保型容器。
【請求項8】
前記第1の流路および/または前記第2の流路は、前記流路部材の厚さに一致するように形成されていることを特徴とする、請求項2に記載の保型容器。
【請求項9】
前記流路部材の厚さは、4mm以上であることを特徴とする、請求項7に記載の保型容器。
【請求項10】
前記保型溝の深さは、0mmより大きく0.5mm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の保型容器。
【請求項11】
前記壁部材の高さは、0mmより大きく0.5mm以下であることを特徴とする、請求項2に記載の保型容器。
【請求項12】
前記所定の溶液は、コロイド溶液であることを特徴とする、請求項1に記載の保型容器。
【請求項13】
コロイド結晶ゲルを製造する方法であって、
前記請求項1〜12に記載の前記保型容器を前記対象基板に密着して配置するステップと、
前記第1の流路または前記第2の流路から前記所定の溶液としてコロイド溶液を前記保型溝に注入するステップと、
前記注入されたコロイド溶液に光を照射して、ゲル化するステップと
を包含することを特徴とする、方法。
【請求項14】
前記注入するステップは、前記コロイド溶液を圧入することを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ゲル化するステップの前に、前記第1の流路および前記第2の流路を介して前記注入されたコロイド溶液に圧力差を印加するステップをさらに包含することを特徴する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記配置するステップは、押し付け機構を用いることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記傾斜面を用いて前記対象基板から前記保型容器を除去するステップをさらに包含することを特徴とする、請求項13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【公開番号】特開2007−296491(P2007−296491A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128233(P2006−128233)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】