説明

保護スリーブ及びその製造方法

【課題】柔軟性、摩耗性に優れ、且つ、生産性に優れた保護スリーブを提供すること。
【解決手段】繊維糸を編組してなる編組スリーブと、該編組スリーブの外周に塗布された収束剤とからなる保護スリーブにおいて、上記編組スリーブの編組には、縦糸が組み込まれていることを特徴とする保護スリーブ。上記編組スリーブの内表面に、上記収束剤が存在していないことを特徴とする保護スリーブ。長さ方向に切裂かれた開口部が設けられていることを特徴とする保護スリーブ。上記収束材が、水性塗料であることを特徴とする保護スリーブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車、家電機器、重電機器等において、機械的保護スリーブ、収束用スリーブ、電気絶縁スリーブ、耐熱保護スリーブ等として使用される保護スリーブの製造方法に係り、特に、柔軟性、摩耗性に優れ、且つ、生産性に優れたものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、保護スリーブとして、ガラス繊維や樹脂繊維などの繊維糸を管状に編組してなる編組スリーブに、シリコーンワニス等の収束剤により表面処理を施したものが知られている(例えば、特許文献1〜3参照。)。これらの保護スリーブは、電線等の保護或いは収束のため、この電線束の外周に配置されることになる。
【0003】
また、本発明に関連する技術として、例えば、特許文献4〜9が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3376492号公報:クラベ
【特許文献2】特開2009−252605公報:クラベ
【特許文献3】特許第3415216号公報:日星電気
【特許文献4】特許第2875886号公報:ベントリイハリス
【特許文献5】特公平7−88513号公報:ベントリイハリス
【特許文献6】特許第2718571号公報:D&N PLC、ベントリイ
【特許文献7】特許第4030585号公報:ベントレイ−ハリス
【特許文献8】特表2001−508856号公報:フェデラルモーグル
【特許文献9】特表2007−514068号公報:ソファヌーSA
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような保護スリーブにおいては、特に、各種機器の可動部に使用することが多くなってきているため、柔軟で曲げ易いものが要求されている。ここで、収束剤が編組スリーブ内部へ浸透する量が多くなると、収束剤により編組の目が固着されてしまい、保護スリーブは硬いものとなってしまう。更には、編組スリーブ内部に浸透した収束剤は、編組スリーブ表面に位置する収束剤よりも硬化しにくくなるため、収束剤の硬化に時間がかかることとなり、生産性の低下を招いてしまう。そのため、例えば上記特許文献3などには、収束剤の粘度等を調整し、収束剤が編組スリーブ内部に浸透しないようにすることが記載されている。
【0006】
しかしながら、収束剤の粘度は、収束剤の均一な塗布や塗膜強度といった基礎特性に影響を与えるとともに、収束材の硬化速度を変化させるため生産性にも影響を与えるものである。そのため、編組スリーブ内部への浸透を防止することのみを目的に収束剤の粘度を選定することはできない。更には、昨今では環境対策の観点から有機溶剤の使用が制限されつつあるため、有機溶剤を使用しない、所謂、水性塗料や無溶剤塗料が主に使用される方向となっている。このような収束材は、従来のように有機溶剤によって収束剤の粘度調整をすることができないため、粘度の調整自体が難しくなっている。このような点より、収束剤が編組スリーブ内部へ浸透することについて、収束剤の粘度を調整することで解決するのではなく、別のアプローチから解決することが要求されてきている。
【0007】
本発明は、このような従来技術の欠点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、柔軟性、摩耗性に優れ、且つ、生産性に優れた保護スリーブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するべく、本発明の請求項1による保護スリーブは、繊維糸を編組してなる編組スリーブと、該編組スリーブの外周に塗布された収束剤とからなる保護スリーブにおいて、上記編組スリーブの編組には、縦糸が組み込まれていることを特徴とする保護スリーブ。
又、請求項2記載の保護スリーブは、上記編組スリーブの内表面に、上記収束剤が存在していないことを特徴とするものである。
又、請求項3記載の保護スリーブは、長さ方向に切裂かれた開口部が設けられていることを特徴とするものである。
又、請求項4記載の保護スリーブは、上記収束材が、水性塗料であることを特徴とするものである。
又、請求項5記載の保護スリーブの製造方法は、長さ方向に連続した開口部を有する保護スリーブの製造方法であって、製紐機により縦糸を組み込みながら繊維糸を編組して編組スリーブとする工程と、該編組スリーブに収束剤を塗布した後、該収束剤を加熱硬化する工程と、上記編組スリーブを長さ方向に切裂いて上記開口部を設ける工程と、からなるものである。
【発明の効果】
【0009】
編組スリーブ内部に収束剤が浸透する現象について、本願発明者の研究により、その機構が明らかになった。即ち、繊維糸を編組して得た編組スリーブは、巻取装置の張力や、収束剤タンク中の収束剤による圧力によって、長さ方向に伸ばされ径が縮む変形をすることになる(図9における(a)から(b)への変形)。この変形により、編組の目が動くことになり、この動きに伴って収束剤が目に流入して浸透していくのである。
【0010】
本発明によれば、縦糸を組み込むことにより、巻取装置の張力や、収束剤タンク中における収束剤の圧力による編組スリーブの変形を抑制できるため、収束剤が編組の目に流入して浸透していくことがない。従って、収束剤の粘度に関らず、収束剤が編組スリーブ内部に浸透しないため、柔軟で生産性に優れた保護スリーブを得ることができる。また、収束剤の設計自由度が向上することになるため、更なる生産性の向上、或いは、収束剤の均一な塗布や塗膜強度向上といった基礎特性の向上を図るべく収束剤を調整することができる。特に、収束材として、元々の粘度が低く、編組スリーブ内部に浸透しやすい水性塗料を使用した際、本発明は格段の効果が発揮されるものである。
更に、本発明では、保護スリーブの繊維糸が、保護スリーブ長手方向に対して斜めに配置されるよう構成される。このような繊維糸の構成は、保護スリーブ長手方向に沿った縦糸と保護スリーブ長手方向に垂直な横糸から構成されるような、織物を管形状に形成したものと比べると、耐摩耗性に優れるものとなる。保護スリーブ長手方向に垂直な横糸があると、この横糸が引っかかりを生み、そこから破壊してしまうためである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】保護スリーブの構成を説明するための斜視図である。
【図2】保護スリーブの構成を説明するための一部を拡大した平面図である。
【図3】他の形態の保護スリーブの構成を説明するための斜視図である。
【図4】他の形態の保護スリーブの構成を説明するための斜視図である。
【図5】他の形態の保護スリーブを実用に供した例を説明する斜視図である。
【図6】柔軟性の試験を説明する概略図である。
【図7】他の形態の保護スリーブの構成を説明するための断面図である。
【図8】保護スリーブの製造方法を実施するための装置の一例を示す説明図である。
【図9】従来の保護スリーブの構成を説明するための斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明する。図8は、本発明の保護スリーブの製造方法を実施するための装置の一例を示す説明図である。図8において、符号1は保護スリーブ、符号2は編組スリーブ、符号3は製紐機、符号4は繊維糸、符号5は収束剤タンク、符号6は収束剤絞り、符号7は加熱炉、符号8はガイドプーリー、符号9は刃、符号10は成型炉、符号11は巻取装置である。
【0013】
(実施の形態1)
実施の形態1による製造工程の流れを説明する。まず、製紐機3にポリエステルマルチフィラメント繊維の繊維糸4が巻かれたキャリアを48本セットする。回転するキャリア8個おきに固定キャリアを配置して縦糸を6本セットし、編組密度23、編組厚さ0.80mmの条件で編組し、編組スリーブ2とする。次いで、この編組スリーブ2を、水性塗料の収束剤(溶剤を含まず且つ粘度が3000cpのアクリル系エマルション)で満たされた収束剤タンク5内に連続的に導入して収束剤を塗布する。このとき、過剰に付着した収束剤は、スポンジ等からなる収束剤絞り6によって除去され、付着量が0.02g・cmとなるように制御される。このようにして所定量の収束剤を塗布した後、145〜165℃の温度に保持された長さ1.0mの加熱炉7内に連続的に導入して収束剤を加熱硬化させた。このようにして収束剤が塗布、加熱硬化された保護スリーブ1は、ガイドプーリー8を経た後、刃9及び成型炉10を経由せず、巻取装置11に巻き取られる。保護スリーブ1或いは編組スリーブ2の走行速度は約8cm/分である。このようにして、図1に示すようなφ=5mmの保護スリーブ1が作成される。
【0014】
ここで、図2は、本実施の形態1による編組スリーブの一部を拡大して模式的に示す平面図である。通常の編組においては、斜糸4a,4bのみから構成されているが、上記のように、固定キャリアからも繊維が供給されるため、これが縦糸4cとなる。この縦糸4cの存在により、編組スリーブ2は、図2で言うところの左右方向への伸縮が抑制され、それに伴い、図2で言うところの上下方向への伸縮も抑制されることになる。即ち、編組の目の動きが抑制されることになるため、この編組の目の動きに起因する収束剤の浸透を防止することができる。更には、径を安定させることもできる。
【0015】
(実施の形態2)
実施の形態2による製造工程の流れを説明する。まず、製紐機3にポリエステルマルチフィラメント繊維の繊維糸4が巻かれたキャリアを48本セットする。回転するキャリア8個おきに固定キャリアを配置して縦糸を6本セットし、編組密度23、編組厚さ0.80mmの条件で編組し、編組スリーブ2とする。次いで、この編組スリーブ2を、水性塗料の収束剤(溶剤を含まず且つ粘度が3000cpのアクリル系エマルション)で満たされた収束剤タンク5内に連続的に導入して収束剤を塗布する。このとき、過剰に付着した収束剤は、スポンジ等からなる収束剤絞り6によって除去され、付着量が0.02g・cmとなるように制御される。このようにして所定量の収束剤を塗布した後、145〜165℃の温度に保持された長さ1.0mの加熱炉7内に連続的に導入して収束剤を加熱硬化させた。このようにして収束剤が塗布、加熱硬化された保護スリーブ1は、ガイドプーリー8を経て刃9に当たり、長手方向に切裂かれることになる。この刃9は、通電されることにより加熱しているものである。これにより、保護スリーブ1は、長手方向に連続した開口部1aが形成される。更に、内径が編組スリーブ2の径の75%に設計された円筒形の成型炉10中で、保護スリーブ1が縮径された状態で加熱され、重ね合わせ率30%で重ね合わされた形状に保持される。そして、この保護スリーブ1は、巻取装置11に巻き取られる。保護スリーブ1或いは編組スリーブ2の走行速度は約8cm/分である。このようにして、図3に示すようなφ=5mmの保護スリーブ1が作成される。
【0016】
ここで、重ね合わせ率について、図7を参照に詳しく説明する。保護スリーブ1の長手方向に垂直な断面における、保護スリーブ1の周囲長C、重ね合わさせた部分の長さLの割合であり、
重ね合わせ率(%)=重ね合わさせた部分の長さL/保護スリーブ1の周囲長C×100 で表される。
【0017】
このようにして得られた保護スリーブ1であれば、例えば、電線に被せる際も、開口部1aから電線を保護スリーブ内部に挿入することができるため、例え電線の両端にコネクタを接続したとしても保護スリーブを後付けで配置させることができる。また、図5に示すとおり、電線束20の内の一部の電線20´を分岐させた場合でも、開口部1aより導出させることができるように、不規則な形状の部品にも対応することができる。
【0018】
上記の実施の形態1、2では、保護スリーブ2に収束剤を塗布する際に、編組と連続して行っているが、例えば、一度巻き取った後、別工程で収束剤を塗布しても良い。勿論、実施の形態2において、保護スリーブ1を長手方向に切裂いた後に、収束剤の塗布・加熱硬化を行っても良い。
【0019】
繊維糸としては、例えば、ガラス繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナ−シリカ繊維、カーボン繊維等の無機繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維等のポリエステル繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維、ポリエーテルサルフォン繊維、ポリエーテルケトン繊維、4フッ化エチレン繊維等の合成繊維、銅線、銅合金線、ステンレス線等の金属細線などが挙げられ特に限定されない。これらは使用条件等を考慮して適宜選択すれば良い。勿論、単独で編組しても良いし、複数種を併用して編組しても良い。また、繊維の太さも使用条件等を考慮して適宜選定すれば良い。特に、スリーブの保護機能、配線作業性向上のため、モノフィラメントとマルチフィラメントを混合して使用することが好ましい。この場合、保護スリーブの柔軟性および形状保持性は、モノフィラメントの直径や材料を変えることにより設定することができる。例えば、より柔軟性に優れたものとする場合は、モノフィラメントとして、直径が細いものを使用したり、柔軟なナイロン繊維を使用したりすることが考えられる。また、より確実に形状保持をしたい場合は、モノフィラメントとして、直径が太いものを使用したり、剛性が強いポリフェニレンサルファイド繊維(以下PPS)を使用したりすることが考えられる。モノフィラメントの直径については、上記のように必要とされる特性に応じて設定すればよいが、形状保持性、柔軟性および製紐の容易さのバランスを考慮して、0.10mm〜1.0mm、特に0.10〜0.40mmの範囲にすることが好ましい。尚、縦糸に使用される繊維は、モノフィラメントよりもマルチフィラメントの方が好ましい。これは、編組をしたときに編組糸同士が密着し易く、編組の目の隙間を生めることができることから、収束剤の浸透をより確実に防止できるためである。
【0020】
本発明では、製紐機を用いて上記の繊維糸を編組するのであるが、この際、編組密度は、好ましくは10〜45の範囲、更に好ましくは20〜40の範囲に設定する。編組密度が10未満では、編組目が粗くなり過ぎてしまい、本発明によって得られる保護スリーブの機械的強度(引張り強さ、伸び、耐磨耗性等)が低下してしまうとともに、収束剤が浸透しやすくなる可能性がある。一方、編組密度が45を超えてしまうと、編組重量が増加したり編組時間が増大したりするなどして生産性が悪化しコストが上昇してしまうとともに、編組糸として例えばガラス繊維糸を使用した場合には、毛羽立ちが発生し外観不良の要因となってしまう恐れがある。尚、本発明でいう「編組密度」とは、1インチ(25mm)間に山、谷に交差している繊維束の山の数をいう。また、縦糸の本数については、保護スリーブの径等に応じて適宜選定すれば良いが、全繊維糸数に対する縦糸数の割合が1/5〜1/13となることが好ましい。縦糸数がこれより多くなると、柔軟性に影響を及ぼし、少なくなると、縦糸による効果が充分に発揮されない可能性が生じるおそれがある。
【0021】
収束剤を使用する場合は、有機溶剤を含まず且つ粘度が500〜50000cpの範囲のものを使用することが好ましい。有機溶剤で希釈したタイプの収束剤を使用すると、蒸発した有機溶剤により作業環境が汚染されるので好ましくない。ここで、収束剤の粘度が500cp未満では、収束剤の塗膜強度が低下してしまい編組にホツレが生じる恐れがある。一方、粘度が50000cpを超えてしまうと、収束剤を塗布する際、塗りムラが生じて収束剤が均一に塗布されない可能性がある。
【0022】
収束剤の編組への付着量は0.001〜0.050g・cmの範囲となるように制御することが好ましいが、更に好ましくは、0.015〜0.03g・cmの範囲に制御する。収束剤の付着量が0.001g・cm未満では、編組にホツレが生じる恐れがある。一方、付着量が0.050g・cmを超えてしまうと、外観状態が悪化してしまうとともに、コストが上昇してしまう。
【0023】
収束剤としては、例えば、溶剤により希釈されたワニスであるシリコーン系ワニス,ウレタン系ワニス,エポキシ系ワニス,アクリル系ワニス,不飽和ポリエステル系ワニス,アミドイミドエステル系ワニス,ポリブタジエン系ワニス,ポリイミド系ワニス,一般に水性塗料と称され、水を分散媒とした塗料であるアクリル系エマルション,ウレタン系エマルション,ポリオレフィン系エマルション,酢酸ビニル系エマルション,ポリエチレン系エマルション,ポリエステル系エマルション,スチレン系エマルション,シリコーン系エマルション、無溶剤塗料とも称され希釈されず用いられる光硬化塗料,熱硬化塗料,触媒重合塗料などが挙げられ特に限定されない。これらは使用条件等を考慮して適宜選択すれば良い。特に、シリコーン系の収束剤は、耐熱性と柔軟性に優れているため好ましく、特に環境対策の観点より、水性塗料であるシリコーン系エマルションや無溶剤塗料である液状シリコーンゴムが好ましい。
【0024】
上記の実施の形態2では、刃9として、通電されることにより加熱しているものを使用しているが、これは、加熱しながら切裂くことで、切裂いた面の繊維或いは収束剤を溶融させ、開口部1aでの繊維の毛羽立ちやホツレを防止するためである。もちろん、繊維の種類によっては、刃9を加熱する必要がない場合もある。また、刃9を編組スリーブ外周に沿って定速度で回転させれば、図4のように、スパイラル状の開口部1aを有する保護スリーブ1とすることができる。なお、編組スリーブ2を切裂く手段として、刃に限定されるものではなく、例えば、ウォータカッター、丸ノコ、切削砥石、レーザーなどによって編組スリーブ2を切裂いても良い。レーザーによって切裂いた場合も、切裂いた面の繊維或いは収束剤を溶融させることができるため、開口部1aでの繊維の毛羽立ちやホツレを防止することができる。
【0025】
開口部1aの重ね合わせについて、上記した重ね合わせ率が10%以上50%以下であることが好ましい。10%未満であると、強い屈曲や加圧などによって開口部1aが開き、内部に収納していた電線等がはみ出てしまう可能性がある。また、50%を超えると、材料費が無駄になるとともに、電線等を内部に収納する作業が困難となり、更には、柔軟性が低下してしまう傾向にある。
【0026】
また、本願発明の保護スリーブは、製紐機によって管形状に形成されているため、図1に示すように、保護スリーブ1の繊維糸が、保護スリーブ1長手方向に対して斜めに配置されるよう構成される。このような繊維糸の構成は、保護スリーブ長手方向に沿った縦糸と保護スリーブ長手方向に垂直な横糸から構成されるような、織物を管形状に形成したものと比べると、耐摩耗性に優れるものとなる。耐摩耗性については、保護スリーブ長手方向に垂直な横糸が引っかかりを生みそこから破壊してしまうためである。
【実施例】
【0027】
上記実施の形態1により得られた保護スリーブを実施例1とし、この実施例1において縦糸を組み込まなかったものを比較例1とした。また実施例1において、収束剤を塗布しなかったものを比較例2とした。これらについて、柔軟性、摩耗性、生産性、内径安定性、端末バラケについて検証を行った。柔軟性は、保護スリーブ1を測定距離が250mmとなるように採取し、片側端末を図5のように固定台30に固定して、3分後の固定端からのたわみ距離Xを測定した。耐摩耗性は、JASO−D608−92ブレード法に準拠し、台上に保護スリーブ1を固定して、ブレード先端を当てて試料軸方向に10mm以上の長さに往復して摩耗させ、ブレードが導体に接触するまでの往復回数を測定した。この際、おもりは510g、エッジR0.125、摩耗速度60回/分の条件とした。生産性は、編組スリーブ2に収束剤を塗布した後、150℃に加熱した恒温槽内に配置し、収束剤が硬化するまでの時間を測定した。内径安定性は、工程能力指数を用いて評価した。長さ1000mの保護スリーブ1について、ランダムで1000ヶ所の内径を金属ゲージで測定し、公差±10%としてCpkを算出した。端末バラケは、長さ250mmの保護スリーブ1にΦ1.3の電線を3本束ねて挿入したときの作業性について評価した。この際、作業者が非常に円滑に挿入作業を行えたものを○、端末のバラケによって電線が引っ掛かり作業が困難となっていたものを×とした。また、併せて、収束剤の内部への浸透について、保護スリーブ1の内表面を目視で確認した。
【0028】
【表1】

【0029】
表1に示すように、実施例1は、比較例1と比べて柔軟性、摩耗性、内径安定性、端末バラケに優れていることが確認された。特に、柔軟性について、各種機器の稼動部に使用される際には、上記柔軟性測定のたわみ距離において100mm以上であることが要求されている。その点からしても、実施例1は、比較例1と比べて特に優れた柔軟性を有していることが確認された。また、実施例1は、比較例1よりも短時間で収束剤が硬化することから、単位時間当たりの生産量が多くなることとなり、生産性に優れていることが確認された。また、保護スリーブ1の内表面を目視で観察した結果、実施例1には内表面に収束剤が確認されておらず、収束剤の保護スリーブ内部への浸透が少ないことが確認された。
【0030】
尚、比較例2は、生産性には優れるものの、収束剤がない為、摩耗性、内径安定性について充分な特性が得られず、また、実使用にあたっては端末のバラケが生じ、加工を行うことが困難なものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の保護スリーブの製造方法によれば、特に、柔軟性、摩耗性に優れ、且つ、生産性に優れた保護スリーブを得ることができる。この保護スリーブは、例えば、自動車、家電機器、重電機器、産業機器、計測機器、医療機器等において、機械的保護スリーブ、収束用スリーブ、電気絶縁スリーブ、耐熱保護スリーブ等として好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 保護スリーブ
2 編組スリーブ
3 製紐機
4 繊維糸
5 収束剤タンク
6 収束剤絞り
7 加熱炉
8 ガイドプーリー
9 刃
10 成型炉
11 巻取装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維糸を編組してなる編組スリーブと、該編組スリーブの外周に塗布された収束剤とからなる保護スリーブにおいて、上記編組スリーブの編組には、縦糸が組み込まれていることを特徴とする保護スリーブ。
【請求項2】
上記編組スリーブの内表面に、上記収束剤が存在していないことを特徴とする請求項1記載の保護スリーブ。
【請求項3】
長さ方向に切裂かれた開口部が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の保護スリーブ。
【請求項4】
上記収束材が、水性塗料であることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れかに記載の保護スリーブ。
【請求項5】
長さ方向に連続した開口部を有する保護スリーブの製造方法であって、製紐機により縦糸を組み込みながら繊維糸を編組して編組スリーブとする工程と、該編組スリーブに収束剤を塗布した後、該収束剤を加熱硬化する工程と、上記編組スリーブを長さ方向に切裂いて上記開口部を設ける工程と、からなる保護スリーブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−1864(P2012−1864A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140375(P2010−140375)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000129529)株式会社クラベ (125)
【Fターム(参考)】