説明

信号伝送システム、送信装置、受信装置、および利得制御方法

【課題】CDMA信号を伝送する伝送システムにおいて、入力端から出力端までの利得を簡易かつ確実に一定化する。
【解決手段】CDMA変調された無線信号を載せた主信号と帯域の重なるパイロット信号を発生し、伝送線路から主信号を規定時間だけ切り離してパイロット信号を接続する。そして受信側においてパイロット信号を取り出してその信号レベルをモニタし、その結果をもとに可変利得増幅器6の利得を制御して伝送線路内における利得を一定化するようにしている。特に、規定時間を100ミリ秒以下とすることで出力端子8以降のCDMA受信機(無線端末など)のRAKE受信機能により瞬断を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気信号を直接または光信号に変換して伝送する信号伝送システムと、このシステムに用いられる送信装置と受信装置、および利得制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光ファイバを用いた光伝送システムが注目されており、CATV(Cable Television)ネットワークや移動通信網における中継システムとして適用されている。この種の伝送システムを移動通信システムに利用してサービスエリアを拡大することが行われている。移動通信システムではCDMA(Code Division Multiple Access)方式が主流となってきており(W−CDMA、CDMA2000など)、近年ではCDMA方式の無線信号を光信号に変換して伝送するシステムのニーズが高くなってきている。
【0003】
ところで、送信局と受信局とを繋ぐ伝送路の長さ、品質、および中継器やコネクタの数などは敷設箇所に応じて異なるため、伝送信号に生じる損失も一定ではない。これに対して安定した伝送品質を得るためには、損失の変動によらず、送信局と受信局との間で一定の信号利得を得られるようにする必要がある。
【0004】
このことを実現する手法の一つとして、伝送信号のレベルを入力端と出力端とでそれぞれモニタし、この2つの電力の差が一定となるように伝送利得を制御する方式がある。しかしながらこの方式をCDMA信号に利用することは難しい。CDMA方式ではユーザ情報を電力により多重するので、基地局当たりのユーザが少ない場合には伝送システムを流れる電力が非常に小さくなる。よって特に入力部において電力を検出する事が困難となり、入力信号電力が大きい場合にのみ限定されるからである。
【0005】
これとは別に、パイロット信号を利用して伝送区間の利得を制御する方式も知られている(例えば特許文献1〜3を参照)。すなわち入力端において規定レベルのパイロット信号を挿入し、出力端においてパイロットの電力をモニタする。そして、出力端でのパイロット電力が一定となるように伝送利得を制御する方式である。
【0006】
この方式においても以下の問題がある。すなわち伝送システムを流れる主信号(入力端から入力される)に干渉しないように、パイロット信号の周波数を主信号と異ならせる必要がある。しかしながら帯域が変わると伝送特性も変わるので、パイロット信号の帯域において好ましい利得特性を得られても主信号帯域においても同じ特性を得られるとは限らない。大抵、主信号帯域における利得が区間ごとに不定となる場合が多い。さらには、出力端前段において他事業者への干渉を生じないようにフィルタリングする必要があり、部品点数が増加する。
【特許文献1】特開平11−243558号公報
【特許文献2】特開2003−244750号公報
【特許文献3】特開2006−25293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上述べたようにCDMA信号を伝送する伝送システムにおいて伝送区間の利得を一定に保つ手法には改良の余地が有り、何らかの新たな提案が待たれている。
この発明は上記事情によりなされたもので、その目的は、CDMA信号を伝送する伝送システムにおいて、入力端から出力端までの利得を簡易かつ確実に一定化することの可能な信号伝送システム、送信装置、受信装置、および利得制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するためにこの発明の一態様によれば、CDMA(Code Division Multiple Access)方式を利用する移動通信システムの無線区間通信に使用される無線信号を載せた主信号を伝送線路に送出する送信装置と、前記伝送線路を介して到来した前記主信号を受信する受信装置とを具備する信号伝送システムにおいて、前記主信号と帯域の重なるパイロット信号を発生するパイロット発生器と、前記送信装置における前記伝送線路への前記主信号の送出経路を規定期間内で一時的に切り離し、当該送出経路に前記パイロット信号を接続する第1スイッチと、前記受信装置における前記伝送線路からの前記主信号の受信経路を前記第1スイッチに同期して切り離し、当該受信経路から前記パイロット信号を取り出す第2スイッチと、この第2スイッチから取り出された前記パイロット信号の信号レベルをモニタするモニタ装置と、前記信号レベルに基づいて前記送信装置と前記受信装置との間での伝送利得を一定化する利得制御手段とを具備することを特徴とする信号伝送システムが提供される。
【0009】
このような手段を講じることにより、主信号と帯域の重なるパイロット信号が伝送線路(メタリックケーブルまたは光ファイバなどの有線回線)に、規定期間内だけ導入される。このパイロット信号を用いて利得一定化制御を行うことにより主信号帯域における理想特性を得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、CDMA信号を伝送する伝送システムにおいて、入力端から出力端までの利得を簡易かつ確実に一定化することの可能な信号伝送システム、送信装置、受信装置、および利得制御方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、この発明に係わる信号伝送システムの実施の形態を示すシステム図である。このシステムはROF(Radio Over Fiber)システムにおける片方向伝送(ダウンリンク、またはアップリンク)系などに用いられる。特に本実施形態では、このシステムを適用する移動通信システムとしてCDMAに基づくシステムを採りあげ、伝送される主信号としてCDMA変調された無線信号を用いる。
【0012】
図1において、入力端子1から入力された主信号は切換スイッチ3を介して伝送線路に送出される。伝送線路においては利得の固定された固定増幅器4,5、および可変利得増幅器6により主信号は適宜増幅され、受信側の切換スイッチ7を経て出力端子8から出力される。
【0013】
送信側の切換スイッチ3にはパイロット発生器2が接続される。パイロット発生器2は主信号と帯域の重なるパイロット信号を発生する。切換スイッチ3は定常時には主信号を伝送線路に接続するが、利得調整時にはパイロット信号を規定期間だけ伝送線路に切換え接続する。特にこの実施形態では、規定時間を100ミリ秒以下、好ましくは10ミリ秒以下とする。この既定時間の設定および切換スイッチ3(7)の切換え制御は制御部10により実行される。
【0014】
受信側の切換スイッチ7には電力モニタ9が接続される。電力モニタ9は伝送線路を介して到来したパイロット信号の信号レベルをモニタして制御部10に与える。制御部9はこの電力レベルが一定となるように可変利得増幅器6の利得を制御する。ここで制御部9は切換スイッチ3および切換スイッチ7を互いに同期させ、送受において主信号を伝送線路から切り離すタイミング、すなわちパイロット信号を伝送線路に導入するタイミングを一致させる。以上の制御はデフォルトで一定周期で、または外部装置(図示せず)からのコマンド要求により実行される。1回の制御で得られた可変利得増幅器6の利得の制御量は、次の周期あるいは外部装置からの要求があるまで保持される。
【0015】
図1の構成において入力端子1、パイロット発生器2および切換スイッチ3はROFシステムにおける送信装置に備えられ、可変利得増幅器6、切換スイッチ7、出力端子8、電力モニタ9および制御部10は受信装置に備えられる。この送信装置と受信装置とのセットで片方向リンクの伝送系が形成され、通常はこれらのセットを対向させて2セットで双方向リンクの伝送路が形成される。なお可変利得増幅器6と制御部10とを受信装置の外に出し、伝送線路の中継器に備えるようにしても良い。
【0016】
図2、図3は比較のため既存の利得制御方式につき説明するためのシステム図である。図2のシステムでは、送信側において分岐器11により主信号を取り出してその信号レベルを電力モニタ14で読み取る。受信側においても分岐器12で主信号を取り出してその信号レベルを電力モニタ9で読み取り、両方のモニタ結果を制御部10に通知する。そして、主信号の送信電力レベルと受信電力レベルとの差が一定となるように制御部10により可変利得増幅器6の利得を制御する。しかしながらこの方式はCDMA方式との親和性に欠け、制御の精度が基地局当たりのユーザ数に左右される。
【0017】
図3のシステムではパイロット信号を使用する。すなわち主信号の伝送線路に合成器17によりパイロット信号を導入し、受信側の分岐器12で分岐したパイロット信号の信号レベルをモニタしてその値が一定となるように可変利得増幅器の利得を制御する。しかしながらこの方式ではパイロット信号と主信号の帯域を異ならせる必要があり、主信号帯域での理想特性を得ることが難しい。また出力端子8に主信号のみを取り出すためのフィルタ18を要する。
【0018】
これに対しこの実施形態では、CDMA変調された無線信号を載せた主信号と帯域の重なるパイロット信号を発生し、伝送線路から主信号を規定時間だけ切り離してパイロット信号を接続する。そして受信側においてパイロット信号を取り出してその信号レベルをモニタし、その結果をもとに可変利得増幅器6の利得を制御して伝送線路内における利得を一定化するようにしている。特に、規定時間を100ミリ秒以下とすることで出力端子8以降のCDMA受信機(無線端末など)のRAKE受信機能により瞬断を防止する。すなわちパイロット信号を接続している間は主信号が断となるが、その期間が例えば100ミリ秒以下であれば、CDMAシステムに特有に用いられるRAKE受信機能により伝送回線への影響を極めて少なくでき、瞬断的な回線断の影響を無視することができる。
【0019】
以上のようにこの実施形態では、ます、パイロット信号を用いる方式であることから主信号のレベルに依存せずに安定な利得制御を行うことが可能になる。また、パイロット信号は電力モニタのみ接続されるので、出力端子8からパイロット信号が出力されることがなく、フィルタなどの部品を排除できる。さらに、主信号帯域と同じ帯域のパイロット信号を用いることができるので主信号帯域における伝送利得を測定でき、これにより主信号帯域における伝送利得を理想化することが可能になる。
これらのことから、CDMA信号を伝送する伝送システムにおいて、入力端から出力端までの利得を簡易かつ確実に一定化することの可能な信号伝送システム、送信装置、受信装置、および利得制御方法を提供することが可能となる。
【0020】
なお、この発明は上記実施形態そのままに限定されるものではない。例えば、図1において可変利得増幅器6を可変減衰器に替え、その減衰量を制御するようにしても良い。また無線信号を周波数変換回路などにより中間周波数信号(IF信号)に変換し、これを主信号として伝送するようにしてもよい。
【0021】
また本発明は実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。さらに、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明に係わる信号伝送システムの実施の形態を示すシステム図。
【図2】比較のため既存の利得制御方式につき説明するためのシステム図。
【図3】比較のため既存の利得制御方式につき説明するためのシステム図。
【符号の説明】
【0023】
1…入力端子、2…パイロット発生器、3…切換スイッチ、4…固定増幅器、5…固定増幅器、6…可変利得増幅器、7…切換スイッチ、8…出力端子、9…電力モニタ、10…制御部、11…分岐器、12…分岐器、14…電力モニタ、17…合成器、18…フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CDMA(Code Division Multiple Access)方式を利用する移動通信システムの無線区間通信に使用される無線信号を載せた主信号を伝送線路に送出する送信装置と、前記伝送線路を介して到来した前記主信号を受信する受信装置とを具備する信号伝送システムにおいて、
前記主信号と帯域の重なるパイロット信号を発生するパイロット発生器と、
前記送信装置における前記伝送線路への前記主信号の送出経路を規定期間内で一時的に切り離し、当該送出経路に前記パイロット信号を接続する第1スイッチと、
前記受信装置における前記伝送線路からの前記主信号の受信経路を前記第1スイッチに同期して切り離し、当該受信経路から前記パイロット信号を取り出す第2スイッチと、
この第2スイッチから取り出された前記パイロット信号の信号レベルをモニタするモニタ装置と、
前記信号レベルに基づいて前記送信装置と前記受信装置との間での伝送利得を一定化する利得制御手段とを具備することを特徴とする信号伝送システム。
【請求項2】
前記規定期間は100ミリ秒以下であることを特徴とする請求項1に記載の信号伝送システム。
【請求項3】
CDMA(Code Division Multiple Access)方式を利用する移動通信システムの無線区間通信に使用される無線信号を載せた主信号を伝送線路に送出する送信装置において、
前記主信号と帯域の重なるパイロット信号を発生するパイロット発生器と、
前記主信号の前記伝送線路への送出経路を規定期間内で一時的に切り離し、当該送出経路に前記パイロット信号を接続する切換スイッチとを具備することを特徴とする送信装置。
【請求項4】
前記規定期間は100ミリ秒以下であることを特徴とする請求項3に記載の送信装置。
【請求項5】
CDMA(Code Division Multiple Access)方式を利用する移動通信システムの無線区間通信に使用される無線信号を載せた主信号を伝送線路を介して受信する受信装置において、
前記主信号の伝送線路からの受信経路を規定期間内で一時的に切り離し、当該受信経路から、前記主信号と帯域の重なるパイロット信号を取り出す切換スイッチと、
この切換スイッチから取り出された前記パイロット信号の信号レベルをモニタするモニタ装置と、
前記主信号を前記伝送線路に送出した送信装置と自装置との間での伝送利得を前記信号レベルに基づいて一定化する利得制御手段とを具備することを特徴とする受信装置。
【請求項6】
前記規定期間は100ミリ秒以下であることを特徴とする請求項5に記載の受信装置。
【請求項7】
CDMA(Code Division Multiple Access)方式を利用する移動通信システムの無線区間通信に使用される無線信号を載せた主信号を伝送線路に送出する送信装置と、前記伝送線路を介して到来した前記主信号を受信する受信装置とを具備する信号伝送システムにおける利得制御方法であって、
前記主信号と帯域の重なるパイロット信号を発生し、
前記送信装置における前記伝送線路への前記主信号の送出経路を規定期間内で一時的に切り離し、当該送出経路に前記パイロット信号を接続し、
前記受信装置における前記伝送線路からの前記主信号の受信経路を前記第1スイッチに同期して切り離し、当該受信経路から前記パイロット信号を取り出し、
この第2スイッチから取り出された前記パイロット信号の信号レベルをモニタし、
前記信号レベルに基づいて前記送信装置と前記受信装置との間での伝送利得を一定化することを特徴とする利得制御方法。
【請求項8】
前記規定期間は100ミリ秒以下であることを特徴とする請求項7に記載の利得制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−53943(P2008−53943A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226799(P2006−226799)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】