説明

倒立型移動体、その制御方法及びプログラム

【課題】急減速を行った場合でも限られた駆動力でその安全性を維持すること。
【解決手段】倒立型移動体は、倒立状態を維持しつつ、搭乗者が搭乗する搭乗部の傾斜に応じて所望の走行を行う。また、倒立型移動体は、搭乗部が後傾斜して減速する傾斜状態を水平な倒立安定状態に戻すための駆動トルクを算出するトルク算出手段と、搭乗部が後傾斜して減速する傾斜状態にあり、かつトルク算出手段により算出された駆動トルクが所定トルク以上である不安定状態にあるか否かを判定する判定手段と、判定手段により不安定状態と判定されたとき、車輪を停止する制御を行う制御手段と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、倒立状態を維持しつつ、搭乗者が搭乗する搭乗部の傾斜に応じて所望の走行を行う倒立型移動体、その制御方法及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
倒立状態を維持しつつ、搭乗者が搭乗する搭乗部の傾斜に応じて、加減速、停止などの所望の走行を行う倒立型移動体が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような倒立型移動体において、例えば、搭乗者の急激な減速動作などを行った場合でも、安全に停止あるいは走行継続することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−131620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、搭乗部を後傾斜して減速後に倒立状態を維持するために必要な駆動トルクは、その減速が大きいほど後傾斜が大きくなるため、大出力トルクの駆動部が必要となる。この駆動部の出力トルクが足りない場合、後傾斜状態から水平な倒立安定状態に戻すことができず倒立制御が不能となり安全性の低下を招くこととなる。また、人が搭乗する倒立型移動体においては、搭乗者の減速動作によってその姿勢が異なる為、減速の大きさを推測することは困難である。そのため、例えば、過剰な出力トルクの駆動部を搭載することとなり、大型化、重量増加、高コスト化を招く要因となっている。
【0005】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、急減速を行った場合でも限られた駆動力でその安全性を維持できる倒立型移動体、その制御方法及びプログラムを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、倒立状態を維持しつつ、搭乗者が搭乗する搭乗部の傾斜に応じて所望の走行を行う倒立型移動体であって、前記搭乗部が後傾斜して減速する傾斜状態を水平な倒立安定状態に戻すための駆動トルクを算出するトルク算出手段と、前記搭乗部が後傾斜して減速する傾斜状態にあり、かつ前記トルク算出手段により算出された駆動トルクが所定トルク以上である不安定状態にあるか否かを判定する判定手段と、前記判定手段により前記不安定状態と判定されたとき、車輪を停止する制御を行う制御手段と、を備える、ことを特徴とする倒立型移動体。
この一態様において、前記判定手段により、前記搭乗部が後傾斜して減速する傾斜状態で移動速度が所定速度以下であり、かつ、前記トルク算出手段により算出された駆動トルクが所定トルク以上である不安定状態と判定されたとき、前記制御手段は前記車輪を停止する制御を行ってもよい。
この一態様において、前記制御手段は、前記トルク算出手段により算出された駆動トルクが所定トルク未満となるとき、前記倒立状態を維持するための倒立制御を継続してもよい。
この一態様において、前記搭乗部の傾斜角速度を検出するジャイロセンサと、前記搭乗部の加速度を検出する加速度センサと、前記車輪の回転情報を検出する回転センサと、を更に備え、前記判定手段は、前記ジャイロセンサにより検出された前記傾斜角速度と、前記加速度センサにより検出された前記加速度と、前記回転センサにより検出された前記回転情報と、に基づいて、前記不安定状態にあるか否かを判定してもよい。
他方、上記目的を達成するための本発明の一態様は、倒立状態を維持しつつ、搭乗者が搭乗する搭乗部の傾斜に応じて所望の走行を行う倒立型移動体であって、前記搭乗部の傾斜角度を検出する姿勢検出手段と、前記搭乗部が後傾斜して減速する傾斜状態にあり、かつ前記姿勢検出手段により検出された傾斜角度が所定角度以上である不安定状態にあるか否かを判定する判定手段と、前記判定手段により前記不安定状態と判定されたとき、車輪を停止する制御を行う制御手段と、を備える、ことを特徴とする倒立型移動体であってもよい。
また、上記目的を達成するための本発明の一態様は、倒立状態を維持しつつ、搭乗者が搭乗する搭乗部の傾斜に応じて所望の走行を行う倒立型移動体の制御方法であって、前記搭乗部が後傾斜して減速する傾斜状態を水平な倒立安定状態に戻すための駆動トルクを算出するステップと、前記搭乗部が後傾斜して減速する傾斜状態にあり、かつ前記算出された駆動トルクが所定トルク以上である不安定状態にあるか否かを判定するステップと、前記不安定状態と判定されたとき、車輪を停止する制御を行うステップと、を含む、ことを特徴とする倒立型移動体の制御方法であってもよい。
この一態様において、前記搭乗部が後傾斜して減速する傾斜状態で移動速度が所定速度以下であり、かつ、前記算出された駆動トルクが所定トルク以上である前記不安定状態と判定されたとき、前記車輪を停止する制御を行ってもよい。
さらに、上記目的を達成するための本発明の一態様は、倒立状態を維持しつつ、搭乗者が搭乗する搭乗部の傾斜に応じて所望の走行を行う倒立型移動体のプログラムであって、前記搭乗部が後傾斜して減速する傾斜状態を水平な倒立安定状態に戻すための駆動トルクを算出する処理と、前記搭乗部が後傾斜して減速する傾斜状態にあり、かつ前記算出された駆動トルクが所定トルク以上である不安定状態にあるか否かを判定する処理と、前記不安定状態と判定されたとき、車輪を停止する制御を行う処理と、をコンピュータに実行させる、ことを特徴とする倒立型移動体のプログラムであってもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、急減速時を行った場合でも限られた駆動力でその安全性を維持できる倒立型移動体、その制御方法及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1に係る倒立型移動体の概略的な構成を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る倒立型移動体の概略的な構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る倒立型移動体の制御処理フローを示すフローチャートである。
【図4】(a)倒立型移動体の急減速したときの移動速度の変化の一例を示す図である。(b)倒立型移動体の急減速したときの指令トルク値の変化の一例を示す図である。
【図5】駆動車輪を停止し搭乗者が降車する状態を示す図である。
【図6】後傾斜状態を水平な倒立安定状態に戻すような倒立制御を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係る倒立型移動体の制御処理フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の実施の形態1に係る倒立型移動体の概略的な構成を示す概略図である。本実施の形態1に係る倒立型移動体1は、例えば、倒立状態を維持しつつ、搭乗者が搭乗するステップ(搭乗部)2の傾斜に応じて所望の走行を行う、倒立型二輪車として構成されている。例えば、搭乗者がステップ2を前方へ傾斜させると、その前傾斜に応じて倒立型移動体1は前進する。逆に、搭乗者がステップ2を後方へ傾斜させると、その後傾斜に応じて倒立型移動体1は減速あるいは後進する。また、搭乗者は、ステップ2の傾斜を増加させることで、倒立型移動体1の加減速度の大きさを調整することができる。
【0010】
倒立型移動体1は、例えば、移動体本体3と、移動体本体3の上面に設けられ搭乗者が搭乗するステップ2と、移動体本体3の左右側面に回転可能に設けられた一対の駆動車輪4と、移動体本体3に設けられ搭乗者が把持し前後方向や左右方向に操作可能な操作ハンドル5と、を備えている。なお、ステップ2は移動体本体3に一体的に設けられており、ステップ2と移動体本体3とは一体的に動作する。また、上述した倒立型移動体1の構成は一例であり、これに限らず、例えば、操作ハンドル5を有しない構成であってもよい。
【0011】
図2は、本実施の形態1に係る倒立型移動体の概略的な構成を示すブロック図である。本実施の形態1に係る倒立型移動体1は、ジャイロセンサ11と、加速度センサ12と、回転センサ13と、姿勢演算部14、動作判定処理部15、倒立制御演算部16、車輪停止指令部17、及びモータ制御部18、を含む制御装置6と、一対のモータ19と、を備えている。
【0012】
制御装置6は、例えば、移動体本体3に内蔵されており、制御処理、演算処理等と行うCPU(Central Processing Unit)、CPUによって実行される制御プログラム、演算プログラム等が記憶されたROM(Read Only Memory)、処理データ等を一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)等からなるマイクロコンピュータを中心にして、ハードウェア構成されている。
【0013】
ジャイロセンサ11は、例えば、移動体本体3又はステップ2に設けられており、ステップ2及び移動体本体3の傾斜角速度を検出する。ジャイロセンサ11には姿勢演算部14に接続されており、ジャイロセンサ11は、検出したステップ2及び移動体本体3の傾斜角速度を姿勢演算部14に対して出力する。
【0014】
加速度センサ12は、例えば、移動体本体2又はステップ3に設けられており、ステップ2及び移動体本体3の加速度を検出する。加速度センサ12には姿勢演算部14が接続されており、加速度センサ12は検出したステップ2及び移動体本体3の加速度を姿勢演算部14に対して出力する。
【0015】
回転センサ13は、例えば、エンコーダ、レゾルバなどにより構成されており、各駆動車輪4に設けられ、各駆動車輪4の回転角度、回転角速度、回転角加速度などの回転情報を検出する。回転センサ13には動作判定処理部15が接続されており、回転センサ13は検出した回転情報を動作判定処理部15に対して出力する。
【0016】
姿勢演算部14は、姿勢検出手段の一具体例であり、ジャイロセンサ11から出力されたステップ2及び移動体本体3の角速度と加速度センサ12から出力されたステップ2及び移動体本体3の加速度と、に基づいて、ステップ2及び移動体本体3の姿勢角度を算出する。姿勢演算部14には倒立制御演算部16及び動作判定処理部15が接続されており、姿勢演算部14は、算出したステップ2及び移動体本体3の姿勢角度を倒立制御演算部16及び動作判定処理部15に対して出力する。
【0017】
動作判定処理部15は、判定手段の一具体例であり、倒立型移動体1の動作の判定を行う機能を有している。動作判定処理部15は、例えば、回転センサ13から出力される各駆動車輪4の回転情報と、姿勢演算部14から出力されるステップ2及び移動体本体3の姿勢角度と、に基づいて、ステップ2が傾斜して減速する減速状態にあることを判定する。なお、動作判定処理部15は、回転センサ13から出力される各駆動車輪4の回転情報、及び、姿勢演算部14から出力されるステップ2及び移動体本体3の姿勢角度のうち、いずれか一方のみに基づいて、ステップ2が傾斜して減速する減速状態にあることを判定してもよい。
【0018】
また、動作判定処理部15は、回転センサ13から出力される各駆動車輪4の回転情報と、姿勢演算部14から出力されるステップ2及び移動体本体3の姿勢角度と、に基づいて、ステップ2が傾斜して減速する減速状態であり、かつ、倒立制御演算部16からのトルク指令値が所定トルク以上である不安定状態にあるか否かを判定する。
【0019】
なお、この所定トルクは、例えば、モータ19が出力可能な最大出力トルクが設定されている。したがって、倒立制御演算部16により算出されたトルク指令値が所定トルク以上となる場合は、その後傾斜状態から水平な倒立安定状態に復帰できないため、倒立制御が不安定状態(不能状態)となる。動作判定処理部15は、倒立型移動体1がこのような不安定状態にあるか否かを判定する。動作判定処理部15には倒立制御演算部16及び車輪停止指令部17が接続されている。
【0020】
動作判定処理部15は、倒立型移動体1が上記不安定状態であると判定したとき、倒立制御演算部16に対して停止信号を出力し、車輪停止指令部17に対して動作信号を出力する。
【0021】
さらに、動作判定処理部15は、回転センサ13から出力される各駆動車輪4の回転情報と、姿勢演算部14から出力されるステップ2及び移動体本体3の姿勢角度と、に基づいて、ステップ2が傾斜して減速する減速状態で移動速度が所定速度以下であり、かつ、倒立制御演算部16からのトルク指令値が所定トルク以上であるとき、上記不安定状態であると判定するのが好ましい。これにより、後述の如く、移動速度が所定速度以下の低速になったことを確認して、駆動車輪4を減速、停止させ搭乗者は安全に降車を行うことができる。
【0022】
倒立制御演算部16は、トルク算出手段の一具体例であり、倒立型移動体1が倒立状態を維持しつつ所望の走行を行うような、各モータ19に対するトルク指令値(駆動トルクの一例)を算出する。倒立制御演算部16は、例えば、姿勢演算部14から出力された姿勢角度に基づいた値に所定の制御ゲインを乗算することで、上記倒立状態を維持するためのトルク指令値を算出する。倒立制御演算部16にはモータ制御部18及び動作判定処理部15が接続されており、倒立制御演算部16は算出したトルク指令値をモータ制御部18及び動作判定処理部15に対して出力する。
【0023】
なお、倒立制御演算部16は、動作判定処理部15から停止信号を受信すると、上記トルク指令値の算出及び出力を停止する。
【0024】
車輪停止指令部17は、制御手段の一具体例であり、動作判定処理部15から動作信号を受信すると、各駆動車輪4を停止させるようなトルク指令値(=0)を生成し、モータ制御部18に対して出力する。
【0025】
モータ制御部18は、倒立制御演算部16又は車輪停止指令部17から出力されるトルク指令値に応じた制御信号を生成し、駆動回路などを介して、各モータ19に対して出力する。このように動作判定処理部15から出力される動作信号及び停止信号に応じて、倒立制御演算部16及び車輪停止指令部17からモータ制御部18へ出力されるトルク指令値が切り換えられる。
【0026】
各モータ19は、減速機構などを介して、各駆動車輪4の駆動軸に連結されており、モータ制御部18から出力される制御信号に応じて各駆動車輪4を独立して回転駆動する。これにより、倒立型移動体1は、倒立状態を維持しつつ、前後進、左右旋回、加減速、停止などの所望の走行を行うことができる。
【0027】
ところで、例えば、倒立型移動体を大きく後傾させて急停止する場合でも、通常、その後傾状態から元の水平な倒立安定状態に戻すこととなる。しかしながら、従来の倒立型移動体においては、その大きく傾斜した後傾状態から水平な倒立安定状態まで戻すためのモータトルクが足りない場合、倒立制御が不安定状態(不能状態)となり安全性上の問題が生じていた。一方で、そのモータトルク不足を解消するために、倒立型移動体に大出力モータを搭載すれば、その大型化、重量及びコスト増加などの問題が生じる。
【0028】
そこで、本実施の形態1に係る倒立型移動体1において、ステップ2が後傾斜して減速する減速状態で移動速度が所定速度以下であり、かつ、その傾斜状態を水平な倒立安定状態に戻すための駆動トルクが所定トルク以上となるとき、各駆動車輪4を停止する制御を行う。
【0029】
これにより、搭乗者による急停止動作などで、ステップ2が大きく後傾斜して、かつ、その傾斜状態を水平な倒立安定状態に戻すために必要な駆動トルクが所定トルク以上となり不足する場合でも、不安定な倒立制御を停止させ、駆動車輪4を確実に停止させることで、その後傾斜の状態で、搭乗者は安全かつスムーズに降車することができる。このように、限られた駆動力を効果的に用いて、急減速時においても駆動車輪4を停止し、搭乗者は安全かつスムーズに降車することができる。
【0030】
次に、本実施の形態1に係る倒立型移動体1の制御方法について、詳細に説明する。図3は、本実施の形態1に係る倒立型移動体の制御処理フローを示すフローチャートである。なお、下記(ステップS102)乃至(ステップS105)の処理は、例えば、所定の時間毎に繰り返し実行される。
【0031】
例えば、搭乗者がステップ2を大きく後傾させて倒立型移動体1を急減速させる(ステップS101)(図4(1))。
【0032】
動作判定処理部15は、回転センサ13から出力される各駆動車輪4の回転情報と、姿勢演算部14から出力されるステップ2及び移動体本体3の姿勢角度と、に基づいて、ステップ2が傾斜して減速する減速状態で|移動速度|が所定速度|α|以下であるか否かを判定する(ステップS102)。
【0033】
次に、動作判定処理部15は、ステップ2が傾斜して減速する減速状態で|移動速度|が所定速度|α|以下であると判定すると(ステップS102のYES)(図4(2))、倒立制御演算部16からの|トルク指令値|が所定トルク|β|以上であるか否かを判定する(ステップS103)。一方、動作判定処理部15は、ステップ2が傾斜して減速する減速状態で|移動速度|が所定速度|α|以下でないと判定したと(ステップS102のNO)、本制御処理を終了する。
【0034】
動作判定処理部15は、倒立制御演算部16からの|トルク指令値|が所定トルク|β|以上であると判定したとき(ステップS103のYES)(図4(3))、倒立型移動体1が不安定状態であると判定し、倒立制御演算部16に対して停止信号を出力し、車輪停止指令部17に対して動作信号を出力する。車輪停止指令部17は、動作判定処理部15から動作信号を受信すると、各駆動車輪4を停止させるようなトルク指令値を生成し、モータ制御部18に対して出力する。モータ制御部18は、各モータ19を制御して各駆動車輪4を停止させる(ステップS104)。これにより、不安定な倒立制御を確実に停止させ、搭乗者は安全かつスムーズに降車することができる(図5)。
【0035】
一方、動作判定処理部15は、倒立制御演算部16からの|トルク指令値|が所定トルク|β|以上でないと判定したとき(ステップS103のNO)、倒立制御演算部16は、倒立状態を維持しつつ所望の走行を行うようなトルク指令値を算出し、算出したトルク指令値をモータ制御部18に対して出力する。モータ制御部18は、各モータ19を制御して、後傾斜状態を水平な倒立安定状態に戻すような倒立制御を行う(ステップS105)(図6)。これにより、倒立型移動体1は、安定的に倒立制御を継続することができる。
【0036】
以上、本実施の形態1に係る倒立型移動体1において、ステップ2が後傾斜して減速する減速状態で移動速度が所定速度以下であり、かつ、その傾斜状態を水平な倒立安定状態に戻すための駆動トルクが所定トルク以上となるとき、駆動車輪4を停止する制御を行う。これにより、ステップ2が大きく後傾斜して、かつ、その傾斜状態を水平な倒立安定状態に戻すために必要な駆動トルクが所定トルク以上となり足りない場合でも、不安定な倒立制御を停止させ、その後傾斜状態のまま駆動車輪4を確実に停止させることで、搭乗者は安全かつスムーズに降車することができる。すなわち、急減速時においても限られた駆動力で安全性を維持できる。
【0037】
実施の形態2.
本発明の実施の形態において、動作判定処理部15は、ステップ2が後傾斜して減速する減速状態で移動速度が所定速度α以下であり、かつステップ2の|傾斜角度|が所定角度|γ|以上である不安定状態にあることを判定してもよい。なお、上記所定角度γは、例えば、各モータ19の最大出力によりステップ2及び移動体本体3の傾斜状態を水平な倒立安定状態に戻すのができる最大傾斜角度に設定される。
【0038】
動作判定処理部15は、倒立型移動体1が不安定状態であると判定すると、倒立制御演算部16に対して停止信号を出力し、車輪停止指令部17に対して動作信号を出力する。車輪停止指令部17は、動作判定処理部15から動作信号を受信すると、各駆動車輪4を停止させる。
【0039】
これにより、ステップ2の後傾斜角度が所定角度以上となり大きく後傾斜し、その傾斜状態を水平な倒立安定状態に戻すのが不能となった場合でも、その後傾姿勢のままで、確実に駆動車輪4を停止させることで、搭乗者は安全かつスムーズに降車することができる。
【0040】
図7は、本実施の形態2に係る倒立型移動体の制御処理フローを示すフローチャートである。
【0041】
例えば、搭乗者がステップ2を大きく後傾させて倒立型移動体1を急減速させる(ステップS201)。
【0042】
動作判定処理部15は、回転センサ13から出力される各駆動車輪4の回転情報と、姿勢演算部14から出力されるステップ2及び移動体本体3の姿勢角度と、に基づいて、ステップ2が傾斜して減速する減速状態で|移動速度|が所定速度|α|以下であるか否かを判定する(ステップS202)。
【0043】
次に、動作判定処理部15は、ステップ2が傾斜して減速する減速状態で|移動速度|が所定速度|α|以下であると判定すると(ステップS202のYES)、ステップ2の|傾斜角度|が所定角度|γ|以上であるか否かを判定する(ステップS203)。
【0044】
動作判定処理部15は、ステップ2の|傾斜角度|が所定角度|γ|以上であると判定したとき(ステップS203のYES)、倒立型移動体1が不安定状態であると判定し、倒立制御演算部16に対して停止信号を出力し、車輪停止指令部17に対して動作信号を出力する。車輪停止指令部17は、動作判定処理部15から動作信号を受信すると、各駆動車輪4を停止させるようなトルク指令値を生成し、モータ制御部18に対して出力する。モータ制御部18は、各モータ19を制御して各駆動車輪4を停止させる(ステップS204)。これにより、不安定な倒立制御を確実に停止させ、搭乗者は安全かつスムーズに降車することができる。
【0045】
一方、動作判定処理部15は、ステップ2の|傾斜角度|が所定角度|γ|以上でないと判定したとき(ステップS203のNO)、倒立制御演算部16は、倒立状態を維持しつつ所望の走行を行うようなトルク指令値を継続して算出し、算出したトルク指令値をモータ制御部18に対して出力する。モータ制御部18は、各モータ19を制御して、傾斜状態を水平な倒立安定状態に戻すような倒立制御を行う(ステップS205)。
【0046】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【0047】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。また、上述の実施の形態では、本発明をハードウェアの構成として説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明は、例えば、上記制御装置6が実行する処理を、CPUにコンピュータプログラムを実行させることにより実現することも可能である。
【0048】
プログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD−ROM、CD−R、CD−R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM)を含む。
【0049】
また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【符号の説明】
【0050】
1 倒立型移動体
2 ステップ
3 移動体本体
4 駆動車輪
5 操作ハンドル
6 制御装置
11 ジャイロセンサ
12 加速度センサ
13 回転センサ
14 姿勢演算部
15 動作判定処理部
16 倒立制御演算部
17 車輪停止指令部
18 モータ制御部
19 モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
倒立状態を維持しつつ、搭乗者が搭乗する搭乗部の傾斜に応じて所望の走行を行う倒立型移動体であって、
前記搭乗部が後傾斜して減速する傾斜状態を水平な倒立安定状態に戻すための駆動トルクを算出するトルク算出手段と、
前記搭乗部が後傾斜して減速する傾斜状態にあり、かつ前記トルク算出手段により算出された駆動トルクが所定トルク以上である不安定状態にあるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段により前記不安定状態と判定されたとき、車輪を停止する制御を行う制御手段と、
を備える、ことを特徴とする倒立型移動体。
【請求項2】
請求項1記載の倒立型移動体であって、
前記判定手段により、前記搭乗部が後傾斜して減速する傾斜状態で移動速度が所定速度以下であり、かつ、前記トルク算出手段により算出された駆動トルクが所定トルク以上である不安定状態と判定されたとき、前記制御手段は前記車輪を停止する制御を行う、
ことを特徴とする倒立型移動体。
【請求項3】
請求項1又は2記載の倒立型移動体であって、
前記制御手段は、前記トルク算出手段により算出された駆動トルクが所定トルク未満となるとき、前記倒立状態を維持するための倒立制御を継続する、ことを特徴とする倒立型移動体。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちいずれか1項記載の倒立型移動体であって、
前記搭乗部の傾斜角速度を検出するジャイロセンサと、
前記搭乗部の加速度を検出する加速度センサと、
前記車輪の回転情報を検出する回転センサと、を更に備え、
前記判定手段は、前記ジャイロセンサにより検出された前記傾斜角速度と、前記加速度センサにより検出された前記加速度と、前記回転センサにより検出された前記回転情報と、に基づいて、前記不安定状態にあるか否かを判定する、ことを特徴とする倒立型移動体。
【請求項5】
倒立状態を維持しつつ、搭乗者が搭乗する搭乗部の傾斜に応じて所望の走行を行う倒立型移動体であって、
前記搭乗部の傾斜角度を検出する姿勢検出手段と、
前記搭乗部が後傾斜して減速する傾斜状態にあり、かつ前記姿勢検出手段により検出された傾斜角度が所定角度以上である不安定状態にあるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段により前記不安定状態と判定されたとき、車輪を停止する制御を行う制御手段と、
を備える、ことを特徴とする倒立型移動体。
【請求項6】
倒立状態を維持しつつ、搭乗者が搭乗する搭乗部の傾斜に応じて所望の走行を行う倒立型移動体の制御方法であって、
前記搭乗部が後傾斜して減速する傾斜状態を水平な倒立安定状態に戻すための駆動トルクを算出するステップと、
前記搭乗部が後傾斜して減速する傾斜状態にあり、かつ前記算出された駆動トルクが所定トルク以上である不安定状態にあるか否かを判定するステップと、
前記不安定状態と判定されたとき、車輪を停止する制御を行うステップと、
を含む、ことを特徴とする倒立型移動体の制御方法。
【請求項7】
請求項6記載の倒立型移動体の制御方法であって、
前記搭乗部が後傾斜して減速する傾斜状態で移動速度が所定速度以下であり、かつ、前記算出された駆動トルクが所定トルク以上である前記不安定状態と判定されたとき、前記車輪を停止する制御を行う、
ことを特徴とする倒立型移動体の制御方法。
【請求項8】
倒立状態を維持しつつ、搭乗者が搭乗する搭乗部の傾斜に応じて所望の走行を行う倒立型移動体のプログラムであって、
前記搭乗部が後傾斜して減速する傾斜状態を水平な倒立安定状態に戻すための駆動トルクを算出する処理と、
前記搭乗部が後傾斜して減速する傾斜状態にあり、かつ前記算出された駆動トルクが所定トルク以上である不安定状態にあるか否かを判定する処理と、
前記不安定状態と判定されたとき、車輪を停止する制御を行う処理と、
をコンピュータに実行させる、ことを特徴とする倒立型移動体のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−99972(P2013−99972A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243457(P2011−243457)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】