説明

偏光依存性損失分析器

【課題】偏光依存特性の測定における測定時間と誤差の問題を解決する
【解決手段】連続的に変調された光信号を被試験装置に印加し、被試験装置から出力される信号を電力計(パワーセンサ)で測定する。測定結果として得られる、その出力光の強度を時間の関数として表す信号について、その信号の振幅と位相を所定の周波数で測定し、被試験装置の偏光依存性損失を示す信号を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被試験装置の偏光依存特性を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光信号の伝送及び処理に基づく装置がますます一般的になってきている。データの伝送に光ファイバを利用するコンピュータ及び通信ネットワークが現在一般的である。このようなネットワークは、光ファイバ、及び光増幅器、マルチプレクサ、デマルチプレクサ、分散補償器等のような他の要素を利用して、光信号を搬送及び処理する。光信号が光ファイバのような装置を通過する結果、光信号の強度が損失する。装置の減衰は多くの場合、伝送される光信号の偏光状態(「偏波状態」とも称される)に依存する。偏光依存性損失(PDL)は、光ネットワークを構成する多数の光学構成要素に起因して、光ネットワークの長さ全体にわたって蓄積する可能性がある。したがって、構成要素の正確な測定を行うと共に、光ネットワーク全体を通じて低いPDLを維持することが重要である。挿入損失及び偏光依存性損失を正確且つ迅速に求める効率的な方法が必要とされている。
【0003】
装置の偏光依存性損失を測定する1つの従来技術の方法は、4つの異なる偏光状態用の装置を通じて伝送される電力(「パワー」とも称される)が測定されることを必要とする。この方法は、ミュラー−ストークス法と呼ばれることが多い。この方法では、電力測定は順次実施される。すなわち、第1の偏光状態を有する光用の装置によって伝送される電力が測定され、次いで、第2の偏光状態を有する光用の装置によって伝送される電力が測定され、以下同様である。偏光依存性損失は電力の個々の測定から求められる。この方法は、偏光依存性損失が測定の時間フレームにわたって一定のままであると仮定する。不都合なことに、光ファイバのような多くの装置の偏光特性は、測定間で装置が移動されるか又は温度が変化すると変化する可能性がある。したがって、装置の振動又は長い測定時間は、誤った測定につながる可能性がある。加えて、小さい偏光損失を有する装置に関して、この方法は、損失が、はるかに大きな電力測定値の重み付けされた差を取ることによって計算されることを必要とし、したがって、電力測定における小さな誤差が、測定された偏光依存性損失における大きな誤差につながる可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、従来技術では、(たとえば、偏光板などの機械的切り替えによって生成される)4つの異なる偏光状態の光の電力を測定することに起因する長い時間時間、および、装置の振動や長時間測定などに起因する測定誤差が問題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、偏光状態の連続的変調を用いることを特徴とし、また、光の強度を表す信号の高調波を観測することを特徴とする。本発明は、偏光依存性損失測定装置及び当該装置を使用する方法を含む。本装置は、光源と、センサと、コントローラとを備える。光源は、偏光変調された光信号を生成し、当該偏光変調光信号を被試験装置(「被測定物」または「DUT」とも称される)に印加するようになっている。センサは、被試験装置を出た出力光信号の強度を時間の関数として表す電気出力信号を生成する。コントローラは、電気出力信号を第1の周波数で測定し、被試験装置における偏光依存性損失を示す出力を生成する。本発明の一態様では、コントローラは、被試験装置に関連付けられる挿入損失も測定する。本発明の別の態様では、偏光変調光信号は、3つのストークスベクトル偏光成分のすべてが時間の周期関数である光信号を含み、コントローラは、上記周期関数を特徴付ける第1の変調周波数、第2の変調周波数、及び第3の変調周波数のそれぞれにおいて電気出力信号の振幅及び位相を測定する。本発明の別の態様では、偏光変調光信号は、ポアンカレ球の経路によって特徴付けられる。この経路は偏光変調光信号の選択に応じて閉じているか又は開いていることができる。本発明のまたさらなる態様では、コントローラは、電気ベクトルスペクトル分析器、又は振幅及び位相の測定を行うのに使用されるロックイン増幅器を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明がその利点を提供する様態は、本発明による偏光依存性損失及び挿入損失の少なくとも一方の分析器の一実施形態を示す図1を参照するとより容易に理解することができる。分析器20は、光信号を生成する光源21を備え、光信号の偏光状態は、光信号が被試験装置25に印加される前に偏光変調器22によって変調される。被試験装置25を出た光は、被試験装置25を出た光の電力を時間の関数として測定するセンサ23に入力される。被試験装置25を出た光は、装置25を通じて伝送されるか、又は装置25から反射される光とすることができる。これらの構成要素の動作はコントローラ24の制御下にあり、コントローラ24はまた、被試験装置25の偏光依存性損失及び挿入損失の少なくとも一方の測定値を提供するのに必要な計算も実施する。
【0007】
光の偏光は、その周期が、被試験装置25の特性が温度変化、振動、又は被試験装置25の状態の他の物理的変化に起因して変化すると予測される時間フレームよりもはるかに短い周波数で変調される。偏光変調器が動作する様態を、以下でより詳細に説明する。
【0008】
本発明の動作は、光信号の偏光の状態を表すストークスベクトルの観点から見るとより容易に理解することができる。ストークスベクトルは、4つの成分S〜Sを有する。第1の成分Sは光信号の強度であり、残りの3つの成分は光信号の偏光の状態を表す。光信号の偏光状態は、3つの軸に沿った単位ベクトルを、さまざまなタイプの偏光を有する光の部分を表すものとして観察することができる三次元空間におけるベクトルとして表される。S軸は、水平偏光された光に対応する正の値、及び垂直偏光された光に対応する負の値を有する直線偏光の内容(content)を測定する。S軸は、+45度偏光された光に対応する正の値、及び−45度偏光された光に対応する負の値を有する、水平(又は垂直)に対して45度における直線偏光の内容を測定する。最後に、S軸は円偏光の内容を測定し、正の値が右回りに円形に(右円)偏光された光を表し、負の値が左回りに円形に(左円)偏光された光を表す。正規化されたストークスベクトルは、その成分のすべてがその第一の要素に対して正規化されている。したがって、正規化された強度は1に等しい。ここで、正規化されたストークスベクトルが規定されている偏光空間を示す図2Aを参照する。単色光信号に関して、光の偏光状態は、ポアンカレ球と呼ばれることが多い単位半径球27上に存在する。
【0009】
ストークスベクトルパラメータは、光波の電界に関連し得る。ここで、単色平面波の偏光状態を説明する別の方法を示す図2Bを参照する。一般に、平面波は、その伝搬ベクトル、及び伝搬ベクトルに対して垂直な平面における電界ベクトルの複素振幅によって規定される。伝搬ベクトルは図2Bの平面に対して垂直である。一般に、電界ベクトルは平面内で楕円28を描いて移動する。この経路は任意の座標系XYに換算して表すことができる。ストークスベクトル成分は、以下のように、電界ベクトルEの成分に関連する。
【数1】

電界ベクトルの成分は複素値であることに留意されたい。
【0010】
ストークスベクトルは、光信号が光学素子を通過するときに起こる偏光状態の変化を表す有用な手段を提供する。このタイプの数学モデルでは、この光学素子はミュラー行列と呼ばれる行列によって表される。光学素子に入射する光のストークスベクトルSinを仮定すると、光学素子を出る光のストークスベクトルSoutは以下の式によって与えられる。
【数2】

式中、Mは光学素子を表すミュラー行列である。ミュラー行列は、第1行が光学素子を通過するときの電力損失を表す4×4行列である。したがって、偏光依存性損失・挿入損失分析器は、実際には、ミュラー行列の第1列を求める装置とみなすことができる。すなわち、図1に示される電力センサ23によって検出される電力は、以下の通りである。
【0011】
【数3】

【0012】
再び図1を参照すると、偏光変調器22は、自身を通過する光の偏光状態を、その光信号の電力をほとんど変えることなく自身への電気入力信号によって確定されるように連続して切り替わるようにする。この説明の目的のために、偏光変調器は、強度をほとんど変調することなく偏光状態を変調する装置であると規定される。装置の挿入損失は本発明には関連しないが、通常5dBを下回る。偏光変調器の動作を、ストークスベクトル空間において、ストークスベクトルにポアンカレ球の表面上の経路を行き来させるものとして見ることができる。ストークスベクトルが周波数fで変調され、且つミュラー行列の成分m1,i(ただしi>1)のうちの1つ又は複数が非ゼロである場合、測定される電力も、Sの変調が特定の基準を満たす場合、コントローラ24によって検出されると共に、m1,iを計算するのに使用することができる、周波数fでの変調を示す。
【0013】
ここで、本発明に必要な変調を提供することが可能な1つの種類の偏光変調器を示す図3及び図4を参照する。図3は偏光変調器50の斜視図であり、図4は図3に示される線4−4を通る偏光変調器50の断面図である。偏光変調器50は、x軸遮断z軸伝搬(x-cut, y-propagating)LiNbO42から構築され、光は入力ポート41を通じてxy平面の表面に垂直に入射し、z軸方向に伝搬する。結晶42の上面には、結晶に電位を印加するのに使用される3つの電極51〜53が含まれる。この電位は結晶内に複屈折を生じさせる電界を結晶内に生成する。電位を正確に選択することによって、出力信号のストークスベクトルをポアンカレ球上の任意の点に移動させることができるように、偏光状態を変更することができる。
【0014】
電位が選択される様態を、以下でより詳細に説明する。この説明のためには、第1の周期的な波形が電極53と52との間に印加されると共に、第2の周期的な波形が電極53と51との間に印加されることに留意すれば十分である。電極53は基準(接地)電極である。通常、これらの波形は同じ周期を有する。波形の各周期にわたって、出力光のストークスベクトルはポアンカレ球の表面上の所定の経路(または軌道)を行き来する。経路は、ストークスベクトルの偏光依存性成分のすべてが十分な振幅で変調され、印加される波形の各サイクル中に各成分に関連する偏光依存性損失が測定されるように選択される。この経路はまた、球の中心にその重心を有するように選択することもできる。その選択は、すべてのストークスベクトル成分が等しく働く場合に最適である。そして、平均検出強度が挿入損失の正確な測定を提供する。
【0015】
ここで、ポアンカレ球の斜視図である図5を参照する。ポアンカレ球上の、所望の軌道63上にある点61を考える。この点で終端するストークスベクトルは、ストークスベクトル空間の3つの軸に沿った3つの成分を有する。これらの成分は、ストークスベクトルを3つの軸上に投影することによって得られる。これらの3つの投影をq、u及びvで示す。ストークスベクトルが所望の軌道上の点62まで移動すると、これらの成分は任意の所与の時刻における点の特定のロケーションに応じて増減する。この説明の目的のために、q(t)、u(t)及びv(t)は周期関数であり、各ストークス成分に関して同じ基本周波数を有するフーリエ級数によって表すことができると仮定する。これは、所望の経路(または軌道)がポアンカレ球上の閉ループである場合に当てはまる。各サイクルの変調の結果、偏光状態はループの周囲を一度移動することになる。以下でより詳細に説明するように、ストークスベクトル成分はまた、ポアンカレ球上の経路(または軌道)が閉じていない場合であっても、周期関数とすることができる。この場合、ストークスベクトル成分は必ずしも同じ基本周波数を有しない。
【0016】
しかしながら、q(t)、u(t)及びv(t)は周期的であるが、それぞれが同時に純粋な色調(トーン)であることはできないことに留意されたい。成分が純粋な色調であるためには、3つの周波数w、w及びwが存在しなければならず、これらについて以下の式が成り立つ。
【数4】

式中、D及びDは固定位相シフトである。この連立方程式はこれらの制約を有する解を有しないことが示され得る。
【0017】
これらの成分のそれぞれが単一の色調である解を見つけることはできないが、3つの色調のみに依存する解は可能である。たとえば、以下の通りである。
【数5】

上記の式は制約q(t)+u(t)+v(t)=1を満たし、電力センサからの信号において3つの色調のみを生成する軌道を表す。
【0018】
本論考のより詳細な説明を以下に提供し、ポアンカレ球上の軌道の選択に進む。この説明の目的のために、ポアンカレ球上のストークスベクトルに関して軌道が選択されていると仮定する。
【0019】
ポアンカレ球上の軌道が与えられると、偏光変調器上の電極に印加されなければならない電位が確定されなければならない。既知の一定の入力偏光状態のためのこれらの電位を与えるために、2つの電極上の電圧をポアンカレ球上の偏光にマッピングする較正テーブルが構築される。この説明の目的のために、偏光変調器は、図3及び図4に示されるような変調器であること、及び電極53は接地に保持されることが仮定される。較正テーブルは、特定の対の電圧を電極51及び52に印加すると共に、次いでポート44を出る光の偏光を、3つのストークスベクトル成分を測定する従来の偏光分析器を使用して測定することによって構成される。
【0020】
この過程は、図5を参照すると共に具体的な実施例を考えることによってより容易に理解することができる。電極51及び52が接地される場合、出力光の偏光は61にある。2つの電圧のセットが電極51及び52に印加されると、ストークスベクトルは位置62に移動する。2つの電圧の異なるセットが印加される場合、ストークスベクトルはポアンカレ球上の或る異なる点に移動するであろう。したがって偏光変調器は、球上の入力電圧の各セットに対応する点を測定することによって較正することができる。一実施形態では、電圧範囲は、ポアンカレ球全体をカバーするように選択される。較正は、2つの変数、すなわち電極51及び52上の2つの電圧から成るベクトル値関数として編成することができる。逆に、軌道がポアンカレ球上で規定されると、軌道上の各点は、電極に印加される一対の電圧にマッピングすることができる。各電極の一連の電圧が計算されると、図1に示すコントローラ24が、1つは電極51の、1つは電極52の2つの波形を合成することができる。各波形は、対応する電極に適用される周期的変調関数の1周期を構成する。この周期波形の基本周波数は、変調器及び電力センサの周波数限界に一致するように設定される。
【0021】
正規化された形態のストークスベクトル(1,q(t),u(t),v(t))を考える。ストークスベクトルは周期変調関数を使用して変調されるため、その成分のそれぞれも周期関数である。したがって、各成分はフーリエ級数として表すことができる。級数中の重要な高調波の数は、ポアンカレ球において選択される軌道の詳細によって決まる。たとえば、式(5)によって説明される軌道は3つの重要な高調波しか有しない。より一般的な事例では、数学的に、ストークスベクトルの偏光依存性成分の成分は以下の形式で記述することができる。
【数6】

定数C、φi,j及びAi,j(ただしi=1〜3且つj=1〜N)は、3つのストークス成分のうちの2つを除去する適切な偏光フィルタを使用して各ストークス成分の偏光変調器からの出力電力を測定することによって、すなわちq(t)、u(t)及びv(t)を個別に測定することによって経験的に測定することができる。定数Ai,j及びφi,j(ただしi=1〜3且つj=1〜N)は、個々の高調波の振幅及び位相を表す。定数Cは各ストークス成分の変調されていない部分(0次の高調波)を表す。高調波の振幅及び位相の測定は、ベクトルスペクトル分析器、ロックイン増幅器、又は振幅及び位相の同時の測定を可能にする任意の他の形態の同期検出を使用して実施することができる。以下の説明から明らかになるように、重要である高調波の数Nは、少なくとも3でなければならない。
【0022】
上述の偏光変調パターンはすべて、調和級数においてストークスベクトルの偏光依存性成分を拡張することを含む。すなわち、各成分は、いくつかの基本周波数の整数倍である周波数成分の数に関して拡張される。しかしながら、以下で詳細に説明されるように、ストークスベクトルの偏光依存性成分が、周波数が単一の基本周波数の整数倍でない級数において拡張することができる事例が存在する。周波数は、偏光変調によって予め定められる。したがって、一般的な事例では以下のように仮定される。
【数7】

以下の説明から明らかになるように、少なくとも3つの周波数wがなければならない。高調波拡張の場合w=j×wであり、式中、wは基本周波数である。
【0023】
被試験装置を出る正規化された電力は、式(3)に示されるようなミュラー行列の第1行(m1,1,m1,2,m1,3,m1,4)とストークスベクトルとの点乗積(ドット積)を取ることによって得られる。したがって、正規化された電力は以下の式によって表すことができる。
【数8】

式中、p(t)は図1に示される電力センサ23によって測定される電力である。q(t)、u(t)及びv(t)に上記の高調波拡張を代入すると、以下のようになる。
【数9】

又は、複素表示では以下のようになる。
【数10】

式中、j=√(−1)は虚数である。電力センサ23からの電力p(t)は、コントローラ24の一部であると共に、個々の周波数成分の振幅及び位相を測定することが可能なベクトルスペクトル分析器において分析されると仮定する。角周波数w、w及びwにおいて測定される周波数成分をそれぞれp、p及びpで示す。量p、p及びpは複素数であり、振幅及び位相を含む。検出されるDC項は以下のように実(数)量pで表される。
【数11】

【0024】
量p、p及びpは以下の式で表すことができる。
【数12】

【0025】
光が平均偏光解消にある場合、すなわち、偏光度が0である場合、C=C=C=0である。この場合、式(9a)は以下の形態をとる。
【数13】

これは、DCにおける正規化された電力の測定値が被試験装置の挿入損失の直接の測度であることを示す。
【0026】
式(9b)は、以下のように行列表示に書き直すことができる。
【0027】
【数14】

【0028】
ここで、行列Zは上述のAi,j及びφi,jに関連する。したがって、成分zi,jを有する行列Zの行列式が非ゼロである場合、この連立方程式は偏光依存性ミュラー行列電力係数mi,jに関して解くことができる。ここで、ソフトウェア又はハードウェアで実施されるベクトルスペクトル分析器又はロックイン増幅器を利用する、位相の影響を受ける検出プロセスの基準位相は、ミュラー成分の実数解を提供するために適切に選択されなければならないことに留意することが重要である。これは、さまざまな基準位相を試験して、実数値のミュラー成分を提供するものを選択することによって達成することができる。
【0029】
式(9d)をミュラー行列の係数に関して解いた後、以下の式から偏光依存性損失を求めることができる。
【数15】

ミュラー行列の係数m1,j(j=2〜4)のそれぞれは、その偏光がストークスベクトル空間軸のうちの1つに位置合わせされた光信号によってもたらされる偏光依存性損失を表すものと考えることができることに留意されたい。
【0030】
上述の実施形態は、偏光変調器が強度変調を一切生成しないものと仮定している。しかしながら、実際には、いくらかの強度変調が常に存在する。上記の実施形態では、電力の変動が適切な電力正規化によって除去されていた。代替的に、強度変調を式に明示的に含めることができる。この事例では、正規化されていないストークスベクトル(i(t),q(t),u(t),v(t))を考える。この実施形態では、強度変動はストークスベクトルの他の成分と同じ周期を有するものと仮定する。そして、他のストークスパラメータと同様に、強度は以下の式によって表すことができる。
【数16】

【0031】
この追加の式は以下の連立方程式を導く。
【数17】

上記式は従来の方法で解くことができる。この事例では、軌道は、変調される光の偏光度がゼロである変調パターンをもはや提供する必要がない。
【0032】
上述の実施形態は、ストークスベクトル成分の高調波のうちの3つのみを利用した。しかしながら、より多くの成分を利用して、雑音がさらに低減された過剰決定体系を提供する実施形態を構成することができる。加えて、Zの行列式が3つの高調波の或る選択に関して0である場合、他の高調波から構築される行列は非ゼロの行列式を有し得る。
【0033】
上述の実施形態において、設計者は、ポアンカレ球上の軌道を定め、偏光変調器に印加される変調信号を、その偏光変調器の較正モデルから生成する。次いで、行列Zの係数が経験的に求められる。Zの行列式がゼロであるか、又は小さすぎてその連立方程式を正確に解くことができない場合、ポアンカレ球上の新たな軌道が選択されてプロセスが繰り返される。
【0034】
代替的に、上述の式(5)によって説明されるような既知の軌道を使用することができる。軌道は3つの高調波のみを生成する。対応するZ行列は以下の通りである。
【0035】
【数18】

【0036】
式中、j=√(−1)である。上記行列の行列式はj/2に等しい。ここで式(5)によって説明される軌道を示す図6及び図7を参照する。図6はポアンカレ球上の軌道を示し、図7は個々のストークスベクトル成分のグラフである。図6を参照すると、軌道72は、位相的には、73及び74で示される2点で接する2つのループを有する図8である。
【0037】
非ゼロの行列式を有する行列を生成する軌道の中からの軌道の選択は、以下に列挙するいくつかの一般原則によって導くことができる。軌道は、すべてのストークスベクトル成分に関してより少ない高調波を生成するものが好ましい。ミュラー行列の対応する係数に関して解くには3つの高調波しか必要とされない。さらなる高調波は、使用される高調波になるはずのエネルギーを散逸させる。したがって、多数のさらなる高調波を生成する軌道はより低い信号対雑音比をもたらす可能性がある。
【0038】
任意の所与の軌道によって生成される高調波の数は、偏光変調器の電極に印加される対応する駆動信号内の高調波の数によって決まり得る。また、電圧波形が複雑になると合成するのがより困難になり、したがって、変調器の駆動回路がより複雑になる可能性がある。
【0039】
コントローラによって生成されて偏光変調器に印加することができる電圧に対する制限もある。したがって、ポアンカレ球上の軌道は、偏光変調器及びコントローラによって確定される或る所定の電圧範囲内にある電圧を使用して行き来することができなければならない。
【0040】
ここで、本発明の一実施形態において利用される例示的な軌道を示す図8及び図9を参照する。図8は、ポアンカレ球81の斜視図である。図9A〜図9Cは、軌道82を行き来する、偏光変調器によって生成されるストークスベクトル成分を示す。軌道82は、位相的には図8の、ポアンカレ球81の北半球における第1のループ75、及びポアンカレ球81の南半球における第2のループ74を有する経路である。それらのループは赤道上の点83で接する。両ループは球の外部に位置する観察者が見ると、時計回りに行き来されている。
【0041】
さまざまなストークスベクトル成分の変調が図9A〜図9Cに示される。上述のように、ストークスベクトル成分のうちの少なくともいくつかは、上述のミュラー行列成分に関して解くのに使用することができる多くの高調波を含む変調関数を有する。ここで、図3及び図4に示される電極51及び52に印加され、ストークスベクトルに軌道82の周囲を移動させる電圧波形76及び79を示す図10を参照する。電圧波形76及び79は2つのサイクルを含み、軌道に沿った2回の回転に対応する。基準電極53は、この実施形態では接地に保持される。
【0042】
上述のポアンカレ球上の軌道は閉ループであり、したがって、変調周波数は、閉ループが行き来される周波数の高調波である。本説明の目的のために、経路は、ポアンカレ球上の同じ点で始まると共に終わっている場合に閉じているものと規定される。これは、ストークスベクトルが周期関数である場合に常に当てはまる。事例によっては、高調波の代わりに無関係な周波数である変調周波数を使用することが有利である場合がある。たとえば、このような無関係な周波数は電力センサの非線形性によって生成される高調波によって引き起こされるいくつかの誤差を低減することができる。ストークスベクトル成分が軌道を閉じる必要なく周期的に変調される軌道も可能である。このような軌道の一例は以下の式によって与えられる。
【数19】

式中、ω=eω/2且つω=ωである。ここでeは無理数2.71828...である。コントローラは(e−1)ω、eω及び(e+1)ωにおいて変調を検出し、ωはコントローラ内に含まれる分析器の範囲内にある周波数で検出を提供するように選択される。ストークスベクトル成分は周期関数によって表されているが、式(11)によって規定される軌道は周期的でないことに留意されたい。式(11)によって規定される経路は最終的には、それ自体を繰り返すことなくポアンカレ球の表面全体をサンプリングする。
【0043】
本発明の上述の実施形態は、固定の偏光状態を有する光源を利用する。光源は、波長にわたる成分の特性化を可能にする波長可変レーザ光源とすることができる。レーザ源の固定の偏光状態は、偏光変調器によって変調される。高度に単色性の波長可変レーザ源は、被試験装置が光ファイバ、光ファイバ部品、又はファイバインタフェース若しくは小さな寸法を有する他の装置を含む実施形態において非常に魅力的である。しかしながら、LEDのような他の光源に基づく実施形態を構築することもできる。光源が一定の固定偏光を有する光を提供しない場合、偏光フィルタを光源と偏光変調器との間に、又は偏光変調器の入力ポートの一部として導入することができる。
【0044】
上述の実施形態において利用される、図1からのコントローラ24は、偏光変調器に必要な電位を生成すること、電力センサからの電力情報を読み出すこと、任意の複素高調波を同期して検出すること、並びに、ミュラー行列の第1行の成分と、結果として挿入損失及び偏光依存性損失とを提供する連立方程式を解くことが可能な任意のデータ処理システムとすることができる。汎用信号生成システム及び汎用データ処理システム又は特殊用途ハードウェアを利用してこのようなコントローラを構築することができる。コントローラが、上述の同期検出機能を実施する専用ハードウェアを含むことができるか、又は、これらの機能をコントローラ24上で実行されているソフトウェア内で実施することができる。加えて、これらの機能を特殊用途のハードウェアとソフトウェアとの組合せにおいて実施することができる。
【0045】
上記の説明及び添付の図面などから、本発明のさまざまな変更形態が当業者には明らかになろう。念のため、本発明の実施態様を以下にまとめて記す。
【0046】
(実施態様1)
装置(20)であって、
偏光変調光信号を生成する光源(21、22)であって、該偏光変調光信号を被試験装置に印加するようになっている、光源と、
前記被試験装置(25)を出る出力光信号の強度を時間の関数として表す電気出力信号を生成するセンサ(23)と、
前記電気出力信号を第1の周波数で測定すると共に、前記被試験装置における偏光依存性損失を示す出力を生成するコントローラ(24)と、
を備える、装置。
(実施態様2)
前記コントローラ(24)は前記電気出力信号の振幅及び位相を測定する、実施態様1に記載の装置。
(実施態様3)
前記コントローラ(24)は前記被試験装置に関連付けられる挿入損失も測定する、実施態様1に記載の装置。
(実施態様4)
前記偏光変調光信号は、3つのストークスベクトル偏光成分のすべてが時間の周期関数を含む光信号を含み、前記変調周波数は、第1の変調周波数、第2の変調周波数、及び第3の変調周波数を含み、前記コントローラ(24)は前記第1の変調周波数、前記第2の変調周波数、及び前記第3の変調周波数のそれぞれにおいて前記電気出力信号の振幅及び位相を測定し、前記第1の周波数は前記変調周波数のうちの1つである、実施態様1に記載の装置。
(実施態様5)
前記第1の変調周波数、前記第2の変調周波数、及び前記第3の変調周波数は、1つの共通の周波数の整数倍ではない、実施態様4に記載の装置。
(実施態様6)
被試験装置を特徴付ける偏光依存性損失を測定する方法であって、
偏光変調光信号を前記被試験装置に印加すること、
前記被試験装置を出る光信号の強度を表す電気出力信号を生成すること、及び
前記電気出力信号を第1の周波数で測定すると共に、前記被試験装置における偏光依存性損失を示す出力を生成すること、
を含む、方法。
(実施態様7)
前記電気出力信号の振幅及び位相が測定される、実施態様6に記載の方法。
(実施態様8)
前記偏光変調光信号は、3つのストークスベクトル偏光成分のすべてが時間の周期関数である光信号を含み、該時間の周期関数を特徴付ける複数の周波数のそれぞれにおける前記電気出力信号の振幅及び位相が、前記偏光依存性損失を求めるときに測定される、実施態様6に記載の方法。
(実施態様9)
前記偏光変調光信号は、固定偏光を有する光信号が、光変調器に印加される信号によって確定されるように前記固定偏光を変更する前記偏光変調器を通過することによって生成され、前記方法は、前記信号と前記固定偏光における前記変更との間の関係を提供する較正マッピングを確定することをさらに含む、実施態様6に記載の方法。
(実施態様10)
前記電気出力信号の振幅及び位相は基準位相を有する装置を用いて測定され、該基準位相は、前記被試験装置を特徴付ける、前記強度及び前記位相から求められる、ミュラー行列の係数が実数となるように設定される、実施態様6に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明による偏光依存性損失・挿入損失分析器の一実施形態を示す図である。
【図2A】ストークスベクトルが規定される偏光空間を示す図である。
【図2B】単色光波の偏光を説明する別の方法を示す図である。
【図3】偏光変調器の斜視図である。
【図4】図3に示される偏光変調器の線4−4を通る断面図である。
【図5】ポアンカレ球の斜視図である。
【図6】本発明の一実施形態で使用することができる偏光変調光信号を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態で使用することができる偏光変調光信号を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態で使用することができる別の偏光変調光信号を示す図である。
【図9A】ストークスベクトル成分q(t)の変調を示す図である。
【図9B】ストークスベクトル成分u(t)の変調を示す図である。
【図9C】ストークスベクトル成分v(t)の変調を示す図である。
【図10】図8及び図9に示す軌道を生成する電圧波形を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
光源 21
偏光変調器 22
電力センサ 23
コントローラ 24
被試験装置 25

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置であって、
偏光変調光信号を生成する光源であって、該偏光変調光信号を被試験装置に印加するようになっている、光源と、
前記被試験装置を出る出力光信号の強度を時間の関数として表す電気出力信号を生成するセンサと、
前記電気出力信号を第1の周波数で測定すると共に、前記被試験装置における偏光依存性損失を示す出力を生成するコントローラと、
を備える、装置。
【請求項2】
前記コントローラは前記電気出力信号の振幅及び位相を測定する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記コントローラは前記被試験装置に関連付けられる挿入損失も測定する、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記偏光変調光信号は、3つのストークスベクトル偏光成分のすべてが時間の周期関数を含む光信号を含み、前記変調の周波数は、第1の変調周波数、第2の変調周波数、及び第3の変調周波数を含み、前記コントローラは前記第1の変調周波数、前記第2の変調周波数、及び前記第3の変調周波数のそれぞれにおいて前記電気出力信号の振幅及び位相を測定し、前記第1の周波数は前記変調周波数のうちの1つである、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記第1の変調周波数、前記第2の変調周波数、及び前記第3の変調周波数は、1つの共通の周波数の整数倍ではない、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
被試験装置を特徴付ける偏光依存性損失を測定する方法であって、
偏光変調光信号を前記被試験装置に印加すること、
前記被試験装置を出る光信号の強度を表す電気出力信号を生成すること、及び
前記電気出力信号を第1の周波数で測定すると共に、前記被試験装置における偏光依存性損失を示す出力を生成すること、
を含む、方法。
【請求項7】
前記電気出力信号の振幅及び位相が測定される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記偏光変調光信号は、3つのストークスベクトル偏光成分のすべてが時間の周期関数である光信号を含み、該時間の周期関数を特徴付ける複数の周波数のそれぞれにおける前記電気出力信号の振幅及び位相が、前記偏光依存性損失を求めるときに測定される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記偏光変調光信号は、固定偏光を有する光信号が、偏光変調器に印加される信号によって確定されるように前記固定偏光を変更する前記偏光変調器を通過することによって生成され、前記方法は、前記信号と前記固定偏光における前記変更との間の関係を提供する較正マッピングを確定することをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記電気出力信号の振幅及び位相は基準位相を有する装置を用いて測定され、該基準位相は、前記被試験装置を特徴付ける、前記強度及び前記位相から求められる、ミュラー行列の係数が実数となるように設定される、請求項6に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−133840(P2009−133840A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274035(P2008−274035)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【Fターム(参考)】