偏光素子
【課題】優れた偏光スループット特性が得られる偏光素子を提供する。
【解決手段】透明基板10上に使用帯域の光の波長よりも小さいピッチで配列された凹凸構造を有し、凹凸構造の凸部20は、誘電体又は半導体からなる高屈折率材料21と高屈折率材料21よりも屈折率が小さい誘電体又は半導体からなる低屈折率材料22とが交互に積層される。自由電子の存在しない誘電体や自由電子が非常に少ない半導体の多層グリッド構造であるため、優れた偏光スループット特性を得ることができる。
【解決手段】透明基板10上に使用帯域の光の波長よりも小さいピッチで配列された凹凸構造を有し、凹凸構造の凸部20は、誘電体又は半導体からなる高屈折率材料21と高屈折率材料21よりも屈折率が小さい誘電体又は半導体からなる低屈折率材料22とが交互に積層される。自由電子の存在しない誘電体や自由電子が非常に少ない半導体の多層グリッド構造であるため、優れた偏光スループット特性を得ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直交する偏光成分(いわゆるP偏光波、S偏光波)の一方を吸収し、他方を透過させる偏光素子に関するものである。さらに詳しくは、使用帯域の光において、面内軸方向での光透過率の違いを利用した偏光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、偏光素子の代表的な構造として、20層以上の多層構造である偏光膜を成膜したプリズムを貼り合わせた「MacNeilleプリズム」が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この偏光素子は、コントラストが高く、最も標準的な偏光素子として使用されている。しかし、この構造の偏光素子は、入射光の角度依存性が大きい。さらに、プリズムの貼り合わせに有機接着剤が用いられているため、輝度が高い光源に対して使用する際には、光源の熱やUV成分により劣化が早まり、特性が劣化する。
【0003】
これらの問題を回避する偏光素子として、ワイヤーグリッド型の偏光素子が知られている。ワイヤーグリッド型の偏光素子は、一般的に、使用する光の波長よりも小さな周期を有し、一方向に延びる微細グリッド構造を備えている。このようなワイヤーグリッド型の偏光素子は、前記一方向に平行な方向に振動する直線偏光を反射し、直交する方向に振動する直線偏光を通過させる。このため、例えば無偏光の光が入射されると、所定の偏光を分離した光が射出される。
【0004】
図16は、偏光素子の偏光分離を示す概略図である。偏光素子は、45度の角度で光を入射した際、ある直線偏光を完全に反射し、直交する直線偏光を完全に透過することが理想的である。
【0005】
従来のワイヤーグリッド型の偏光素子は、特許文献2、3に記載されているように、可視光を透過する透明基板上に、金属材料を用いたワイヤー構造が形成された構造を有する。無機透明基板(例えば石英基板)上に、金属ワイヤー(例えばAl)を備えるため、上述したプリズム型の偏光素子に比べて耐熱性に優れ、入射光の角度依存性が±10°程度と比較的小さいという利点がある。
【0006】
また、特許文献4には、金属ワイヤーと誘電層を交互に形成した偏光素子が記載されている。この構造によれば、光子トンネル及びグリッド内共鳴効果の組み合わせにより、偏光素子の偏光性能を高めることが可能である。
【0007】
しかしながら、特許文献4に記載のように、ワイヤーグリッド型の偏光素子に金属材料を用いると、金属のもつ吸光性によりワイヤーに垂直な偏光成分の光の透過率が低下してしまう。具体的には、45度の角度で光を入射した際、p偏光の透過率(以下Tpと記す。)、及びs偏光の反射率(以下Rsと記す。)は、90%程度が限界であり、Tp×Rsで表される偏光スループットは80%と低くなってしまう。このため、近年のプロジェクター等における高輝度の要求に対する偏光素子の特性としては不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第2403731号明細書
【特許文献2】特開2009−139411号公報
【特許文献3】米国特許第6122103号明細書
【特許文献4】特許第4152645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、優れた偏光スループット特性が得られる偏光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した課題を解決するために、本発明に係る偏光素子は、透明基板上に使用帯域の光の波長よりも小さいピッチで配列された凹凸構造を有し、前記凹凸構造の凸部は、誘電体又は半導体からなる高屈折率材料と誘電体又は半導体からなる低屈折率材料とが交互に積層されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る液晶プロジェクターは、前述した偏光素子と、光源と、液晶パネルとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、自由電子の存在しない誘電体や自由電子が非常に少ない半導体の多層グリッド構造であるため、自由電子が存在し、光を吸収する金属を用いたワイヤーグリッド型の偏光素子と比べて、優れた偏光スループット特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態に係る偏光素子を示す概略断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る偏光素子の変形例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る偏光素子の製造方法(その1)を説明するための概略断面図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る偏光素子の製造方法(その2)を説明するための概略断面図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係る偏光素子の製造方法(その3)を説明するための概略断面図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る液晶プロジェクターの光学エンジン部分の構成を示す概略断面図である。
【図7】誘電体多層構造の偏光素子の入射光に対するTp、Rsの角度依存性を示すグラフである。
【図8】誘電体多層構造の偏光素子の入射光45°でのTp、Rs、Tp×Rsの波長依存性を示すグラフである。
【図9】誘電体多層構造のグリッド高さが270nm、480nmのときの偏光素子のTp、Rs、Tp×Rsの波長依存性を示すグラフである。
【図10】誘電体多層構造のグリッド幅が50nm、105nmのときのTp、Rs、Tp×Rsの波長依存性を示すグラフである。
【図11】誘電体の7層構造の偏光素子のTp、Rs、Tp×Rsの波長依存性を示すグラフである。
【図12】誘電体/半導体多層構造の偏光素子の入射光に対するTp、Rsの角度依存性を示すグラフである。
【図13】誘電体/半導体多層構造のグリッド高さが250nmのときの偏光素子の入射光に対するTp、Rsの角度依存性を示すグラフである。
【図14】誘電体/半導体多層構造のグリッド高さが350nmのときのTp、Rs、Tp×Rsの波長依存性を示すグラフである。
【図15】誘電体/半導体多層構造のグリッド幅が50nm、105nmのときのTp、Rs、Tp×Rsの波長依存性を示すグラフである。
【図16】偏光素子の偏光分離を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら下記順序にて詳細に説明する。
1.偏光素子の構成
2.偏光素子の製造方法
3.液晶プロジェクターの構成例
4.実施例
【0015】
<1.偏光素子の構成>
図1は、本発明の一実施の形態に係る偏光素子を示す概略断面図である。図1に示すように、偏光素子は、透明基板10上に使用帯域の光の波長よりも小さいピッチで配列された凹凸構造を有する。すなわち、偏光素子は、凸部が、透明基板10上に一定間隔に並んだ一次元格子状のワイヤーグリッド構造を有する。
【0016】
透明基板10は、使用帯域の光に対して透明で、屈折率が1.1〜2.2の材料、例えば、ガラス、サファイア、水晶などで構成されている。また、偏光素子の用途に応じて、ガラス、特に、石英(屈折率1.46)やソーダ石灰ガラス(屈折率1.51)を用いてもよい。ガラス材料の成分組成は特に制限されず、例えば光学ガラスとして広く流通しているケイ酸塩ガラスなどの安価なガラス材料を用いることができ、製造コストの低減を図ることができる。
【0017】
凹凸構造の凸部20は、透明基板10上に、誘電体又は半導体からなる高屈折率材料21と高屈折率材料21よりも屈折率が小さい誘電体又は半導体からなる低屈折率材料22とが交互に積層されている。この高屈折率材料21及び低屈折率材料22の各層は、例えば後述する斜め蒸着法により形成することができる。
【0018】
高屈折率材料21及び低屈折率材料22に用いられる誘電体としては、SiO2(屈折率:1.46(500nm付近))、Al2O3(屈折率:1.63(550nm付近))、TiO2(屈折率:2.5(550nm付近))、Ta2O5(屈折率:2.16(550nm付近))、CeO2(屈折率:2.2(550nm付近))、ZrO2(屈折率:2.05(550nm付近))、ZrO(屈折率:2.1(550nm付近))、Nb2O5(屈折率:2.33(500nm付近))などの酸化物を選択することができる。このような酸化物を用いることにより、例えばスパッタ等で誘電多層膜を形成する場合、同一チャンバーでの成膜が可能となり、リードタイムを低減することができる。また、酸化物は、グリッドを形成するためのリアクティブイオンエッチング工程などにも親和性が高い。
【0019】
また、高屈折率材料21及び低屈折率材料22に用いられる半導体としては、Si(屈折率:3.4(400nm付近))、もしくはこれを含む合金、又はシリサイド系半導体材料から選択することができる。このようなSi系材料を用いることにより、リアクティブイオンエッチング工程などにも親和性が高い。また、SiO2と交互多層膜を形成する場合には、同一チャンバーでの成膜が可能となる。
【0020】
本実施の形態では、前述の誘電体又は半導体の中から屈折率差が1以上となる高屈折率材料21及び低屈折率材料22を選択することが好ましい。具体的な高屈折率材料21と低屈折率材料22の組み合わせとしては、TiO2とSiO2、SiとSiO2などを挙げることができる。高屈折率材料21と低屈折率材料22との屈折率差が1以上であることにより、高い反射率が得られ、少ない層数で優れたスループット特性を得ることができる。
【0021】
このように自由電子の存在しない誘電体や自由電子が非常に少ない半導体の屈折率差を利用して多層グリッド構造を形成することにより、自由電子が存在し、光を吸収する金属層を用いたワイヤーグリッド型の偏光素子と比べて、優れた偏光スループット特性を得ることができる。
【0022】
また、前述の構成からなる偏光素子において、凸部20及び凹部30からなるグリッドピッチは、可視光域(400〜700nm)で使用する場合、可視光域の半分以下である200nm以下であることが好ましい。
【0023】
また、凸部20の幅であるグリッド幅は、使用波長帯域により自由に設計することができるが、グリッドピッチの20〜90%であることが好ましい。さらに好ましいグリッド幅は、グリッドピッチの30〜70%である。グリッド幅がグリッドピッチの20%未満となると作製が困難となるだけでなく、偏光スループットが良好な帯域が狭くなる。グリッドピッチが90%を超えると作製は比較的容易であるが、同様に偏光スループットが良好な帯域が狭くなる。
【0024】
また、凹凸構造の凸部の高さであるグリッド高さは、使用波長帯域に応じて自由に設計可能だが、500nm以下であることが好ましい。グリッド高さが500nmを超えると作製が困難となるだけでなく、グリッド構造の強度が低下してしまう。
【0025】
また、偏光素子のグリッド構造の強度を向上させる目的で、凹凸構造の凹部30に凸部間を支持する支持部31を形成してもよい。この支持部31の高さは、ワイヤーグリッドの倒れの防止に寄与する凸部20の高さ以下であることが好ましい。
【0026】
図2(A)に、使用波長よりも小さい周期のワイヤーグリッドに対して交差する使用波長より大きい周期のグリッド32を形成した偏光素子の例を示す。このようなグリッドを形成することにより、ワイヤーグリッドが倒れるのを防ぐことができる。直交グリッドの作製方法は、後述する干渉露光により、交差するようにパターニングすることにより得ることができる。なお、交差する角度は、必ずしも図2(A)のように直交である必要はなく、使用波長よりも大きい周期が保たれていればよい。
【0027】
また、図2(B)に、凹凸構造の凹部30に低屈折率材料22よりも屈折率が低い超低屈折率材料33を挿入した偏光素子の例を示す。このように凹部30の隙間に超低屈折率材料33を挿入することにより、ワイヤーグリッドが倒れるのを防ぐことができる。超低屈折率材料33としては、例えばMgF2を用いることができる。超低屈折率材料の挿入方法は、高速で旋回する基材にゾルを滴下することで成膜するスピンコーティング法を用いることができる。
【0028】
また、耐湿性などの信頼性改善の目的で、光学特性の変化が応用上影響を与えない範囲で最上部にSiO2などの保護膜を堆積させてもよい。
【0029】
このような構成の偏光素子は、グリッドが金属材料を含まない誘電体もしくは半導体からなる多層構造で形成されているため、グリッドの形状を任意に変更することにより、所望の波長帯域において偏光スループット(Tp×Rs)を90%以上とすることができる。また、無機材料のみで構成されているため、高い耐熱性を得ることができる。さらに、液晶プロジェクターに用いた場合、高い光密度に対応することができるため、光学ユニット部の小型化も実現することができる。
【0030】
<2.偏光素子の製造方法>
次に、図3を参照して本実施の形態における偏光素子の製造方法について説明する。先ず、透明基板10上に高屈折率材料21と低屈折率材料22とを交互に所定の層数、所定のグリッド高さとなるように積層する。各層は、スパッタ法、気相成長法、蒸着法などの一般的な真空成膜法あるいはゾルゲル法(例えばスピンコート法によりゾルをコートし熱硬化によりゲル化させる方法)により成膜することができる。
【0031】
次に、図3(A)に示すように、積層体上に反射防止膜(BRAC)41を成膜し、レジスト42により所定のグリッドピッチ及びグリッド幅となるようにナノインプリント、フォトリソグラフィなどにより格子状のマスクパターンを形成する。そして、図3(B)、(C)に示すように、ドライエッチングにより反射防止膜41を除去し、高屈折率材料21及び低屈折率材料22をエッチングする。ドライエッチング用のガスとしては、反射防止膜にはAr/O2、AlSiにはCl2/BCl3、SiO2、Si、Taには、CF4/Arを挙げることができる。また、エッチング条件(ガス流用、ガス圧、パワー、基板の冷却温度)を最適化することによって、垂直性の高い格子形状を実現する。これにより、所定の層数、所定のグリッド高さ、所定のグリッドピッチ及びグリッド幅を有する凹凸構造を形成し、偏光素子を作製することができる。
【0032】
また、図4に示すように斜め蒸着により無機微粒子層を形成する場合、透明基板10に一次元格子を形成し、この透明基板10の基板面の法線方向に対して蒸着角度αの方向に高屈折率材料21及び低屈折率材料22を設置して行われる。
【0033】
x、y、z直交座標におけるxy平面を基板面としたとき、xy平面において180°異なる2方向から誘電体材料を斜め蒸着させる。例えば、一方の方向から高屈折率材料21を斜め蒸着させた後、透明基板10を180°回転させ、他方の方向から低屈折率材料22を斜め蒸着させる蒸着サイクルを複数回行うことにより、多層膜を得ることができる。
【0034】
また、マスクパターンの形成方法は、前述の方法に限られず、図5に示すような干渉露光によって微細周期構造パターンを形成してもよい。露光基板は、透明基板10上に、図示しない高屈折率材料21及び低屈折率材料22が交互に積層され、その上に、水晶基板裏面まで光が透過しないようにする遮光膜40、レジスト42と下側界面からの反射を除去する反射防止膜41レジスト42がこの順に積層されている。そして、基板面の法線方向に対して角度θの2方向から露光することにより、干渉縞が発生する。なお、ピッチpと露光波長λとの関係は、下記式の通りである。
【0035】
【数1】
【0036】
また、凹凸構造の凹部30に凸部間を支持する支持部31を形成する場合にも、干渉露光を用いることができる。この場合、先ず、使用波長よりも短い周期で露光を行い、構造複屈折用のマスクパターンを形成し、所定の方向に基板もしくは干渉露光光学系を回転して使用波長より大きい周期で露光を行い、支持部用41のマスクパターンを形成する。そして、現像工程を経ることにより、例えば図2(A)に示すワイヤーグリッドに対して交差するグリッド32を形成した偏光素子を得ることができる。
【0037】
<3.液晶プロジェクターの構成例>
次に、本発明の一実施の形態に係る液晶プロジェクターについて説明する。液晶プロジェクター100は、光源となるランプと、液晶パネルと、前述した偏光素子とを備える。
【0038】
図6に、本発明に係る液晶プロジェクターの光学エンジン部分の構成例を示す。液晶プロジェクター100の光学エンジン部分は、赤色光LRに対する入射側偏光素子10A、液晶パネル50、出射プリ偏光素子10B、出射メイン偏光素子10Cと、緑色光LGに対する入射側偏光素子10A、液晶パネル50、出射プリ偏光素子10B、出射メイン偏光素子10Cと、青色光LBに対する入射側偏光素子10A、液晶パネル50、出射プリ偏光素子10B、出射メイン偏光素子10Cと、それぞれの出射メイン偏光素子10Cから出てくる光を合成し投射レンズに出射するクロスダイクロプリズム60とを備えている。ここで、前述した偏光素子は、入射側偏光素子10A、出射プリ偏光素子10B、出射メイン偏光素子10Cそれぞれに適用されている。
【0039】
この液晶プロジェクター100では、光源ランプ(不図示)から出射される光をダイクロイックミラー(不図示)により赤色光LR、緑色光LG、青色光LBに分離し、それぞれの光に対応する入射側偏光素子10Aに入射させ、ついでそれぞれの入射側偏光素子10Aで偏光された光LR、LG、LBは液晶パネル50にて空間変調されて出射され、出射プリ偏光素子10B、出射メイン偏光素子10Cを通過した後、クロスダイクロプリズム60にて合成されて投射レンズ(不図示)から投射される構成となっている。光源ランプは高出力のものであっても、強い光に対して優れた耐光特性をもつ偏光素子1を用いているため、信頼性の高い液晶プロジェクターを実現することができる。
【0040】
なお、本発明の偏光素子は、前記液晶プロジェクターへの適用に限定されるわけではなく、使用環境として熱を受ける偏光素子として好適である。例えば、自動車のカーナビやインパネの液晶ディスプレイの偏光素子として適用することができる。
【実施例】
【0041】
<4.実施例>
以下、本発明の実施例について説明する。ここでは、誘電体を積層した偏光素子と、誘電体及び半導体を積層した偏光素子とを作製し、P偏光の透過率(以下Tpと記す。)、S偏光の反射率(以下Rsと記す。)、及び偏光スループット(以下Tp×Rsと記す。)について評価した。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
[実施例1:誘電体の積層]
先ず、ガラス基板上にTiO2とSiO2とを交互に所定の層数、所定のグリッド高さとなるように積層した。この積層体上に反射防止膜(BRAC)を成膜し、レジストにより所定のグリッドピッチ及びグリッド幅となるように格子状のマスクパターンを形成した。
【0043】
次に、Ar/O2ガスによるスカム処理により反射防止膜を除去し、CF4/Arガスにより、TiO2及びSiO2をエッチングした。そして、O2アッシングにより、レジスト、反射防止膜を除去し、所定の層数、所定のグリッド高さ、所定のグリッドピッチ及びグリッド幅を有する凹凸構造を形成し、偏光素子を作製した。
【0044】
図7(A)及び図7(B)は、それぞれ誘電体多層構造の偏光素子の入射光に対するTp、Rsの角度依存性を示すグラフである。測定に用いた偏光素子は、凹凸構造の凸部がガラス基板側からTiO2/SiO2/TiO2/SiO2/TiO2の順に積層された誘電体の5層構造を有する。また、偏光素子のグリッド高さは400nm、グリッドピッチは150nm、グリッド幅は75nmである。また、比較例として、市販されているAlの金属単層からなる同一構造寸法のワイヤーグリッド型偏光素子における計算値を示す。
【0045】
図7(A)に示すTp、及び図7(B)に示すRsの値は、共に誘電体多層構造の偏光素子の値の方が金属単層構造の偏光素子よりも高かった。また、金属単層構造の偏光素子では、最大でもTp×Rsが85%程度であるのに対して、誘電体多層構造の偏光素子では、Tp×Rsが90%以上の値を示した。また、誘電体多層構造の偏光素子は、入射角度依存性も良好であり、入射光角度35〜65°の範囲でTp×Rsが90%以上の値を示した。
【0046】
図8は、誘電体多層構造の偏光素子の入射光45°でのTp、Rs、Tp×Rsの波長依存性を示すグラフである。測定に用いた偏光素子は、前述と同様、凹凸構造の凸部が誘電体の5層構造を有し、グリッド高さが400nm、グリッドピッチが150nm、グリッド幅が75nmである。
【0047】
この誘電体多層構造の偏光素子は、500〜600nmの波長帯域でTp×Rsが90%以上となり、緑色光の帯域で良好な特性を示した。
【0048】
図9(A)及び図9(B)は、それぞれ誘電体多層構造のグリッド高さが270nm、480nmのときの偏光素子のTp、Rs、Tp×Rsの波長依存性を示すグラフである。測定に用いた偏光素子は、前述と同様、凹凸構造の凸部が誘電体の5層構造を有し、グリッドピッチが150nm、グリッド幅が75nmである。また、偏光素子の波長依存性は、入射光の角度を45°として測定した。
【0049】
図9(A)に示す結果より、グリッド高さが270nmの偏光素子は、400〜480nmの波長帯域でTp×Rsが90%以上となり、青色光の帯域で良好な特性を示すことが分かった。また、図9(B)に示す結果より、グリッド高さが480nmの偏光素子は、580〜700nmの波長帯域で、Tp×Rsが90%以上となり、赤色光の帯域で良好な特性を示すことが分かった。また、前述の図8に示す結果より、グリッド高さが400nmの偏光素子は、500〜600nmの波長帯域でTp×Rsが90%以上となり、緑色光の帯域で良好な特性を示した。このように、グリッド高さを、Tp、Rs、Tp×Rsが高くなるように設計することにより、容易に所望の波長帯域の光に対して良好な特性を得ることができることが分かった。
【0050】
図10(A)及び図10(B)は、それぞれ誘電体多層構造のグリッド幅が50nm、105nmのときのTp、Rs、Tp×Rsの波長依存性を示すグラフである。測定に用いた偏光素子は、前述と同様、凹凸構造の凸部が誘電体の5層構造を有し、グリッド高さが270nm、グリッドピッチが150nmである。また、偏光素子の波長依存性は、入射光の角度を45°として測定した。
【0051】
図10(A)に示すグラフと図9(A)に示すグラフとの比較より、グリッド幅が50nmの偏光素子は、グリッド幅が75nmの偏光素子と比べて、Tp×Rsが良好な波長域が短波長域に移動することが分かった。逆に、図10(B)に示すグラフと図9(A)に示すグラフとの比較より、グリッド幅が105nmの偏光素子は、グリッド幅が75nmの偏光素子に比べてTp×Rsが良好な波長域が長波長域に移動するが、波長域が狭くなることが分かった。したがって、例えば青色光の帯域に対する偏光素子は、グリッド幅をグリッドピッチの30〜70%とすることが好ましいことが分かった。
【0052】
図11は、誘電体の7層構造の偏光素子のTp、Rs、Tp×Rsの波長依存性を示すグラフである。測定に用いた偏光素子は、凹凸構造の凸部がガラス基板側からTiO2/SiO2/TiO2/SiO2/TiO2/SiO2/TiO2の順に積層された誘電体の7層構造を有する。また、偏光素子のグリッド高さは400nm、グリッドピッチは150nm、グリッド幅は75nmである。また、偏光素子の波長依存性は、入射光の角度を45°として測定した。
【0053】
この誘電体多層構造の偏光素子は、400〜500nmの波長帯域でTp×Rsが90%以上となり、青色光の帯域で良好な特性を示すことが分かった。また、図8に示す5層からなる構造寸法が同一の偏光素子の波長依存性のグラフは、500〜600nmの緑色光の帯域で良好な特性を示すことから、層数を変えることでも、波長帯域の設計が可能であることが分かった。
【0054】
[実施例2:誘電体/半導体の積層]
先ず、ガラス基板上にSiとSiO2とを交互に所定の層数、所定のグリッド高さとなるように積層した。この積層体上に反射防止膜(BRAC)を成膜し、レジストにより所定のグリッドピッチ及びグリッド幅となるように格子状のマスクパターンを形成した。
【0055】
次に、Ar/O2ガスによるスカム処理により反射防止膜を除去し、CF4/Arガスにより、Si及びSiO2をエッチングした。そして、O2アッシングにより、レジスト、反射防止膜を除去し、所定の層数、所定のグリッド高さ、所定のグリッドピッチ及びグリッド幅を有する凹凸構造を形成し、偏光素子を作製した。
【0056】
図12(A)及び図12(B)は、それぞれ誘電体/半導体多層構造の偏光素子の入射光に対するTp、Rsの角度依存性を示すグラフである。測定に用いた偏光素子は、凹凸構造の凸部がガラス基板側からSi/SiO2/Si/SiO2/Siの順に積層された誘電体及び半導体の5層構造を有する。また、偏光素子のグリッド高さは280nm、グリッドピッチは150nm、グリッド幅は75nmである。また、比較例として、市販されているAlの金属単層からなる同一構造寸法のワイヤーグリッド型偏光素子における計算値を示す。
【0057】
図12(A)に示すTp、及び図12(B)に示すRsは、共に誘電体/半導体多層構造の偏光素子の値の方が金属単層構造の偏光素子よりも高かった。また、誘電体/半導体多層構造の偏光素子は、入射角度依存性も良好であり、入射光角度0〜65°のの広い範囲でTp×Rsが90%以上の値を示した。
【0058】
図13は、誘電体/半導体多層構造のグリッド高さが250nmのときの偏光素子の入射光に対するTp、Rsの角度依存性を示すグラフである。測定に用いた偏光素子は、グリッド高さが250nmであること以外、前述と同様であり、凹凸構造の凸部が誘電体及び半導体の5層構造を有し、グリッドピッチが150nm、グリッド幅が75nmである。また、偏光素子の波長依存性は、入射光の角度を45°として測定した。
【0059】
図13に示すグラフより、グリッド高さが250nmの偏光素子は、500〜580nmの波長帯域でTp×Rsが90%以上となり、緑色光の帯域で良好な特性を示すことが分かった。
【0060】
図14は、誘電体/半導体多層構造のグリッド高さが350nmのときの偏光素子のTp、Rs、Tp×Rsの波長依存性を示すグラフである。測定に用いた偏光素子は、前述と同様、凹凸構造の凸部が誘電体及び半導体の5層構造を有し、グリッドピッチが150nm、グリッド幅が75nmである。また、偏光素子の波長依存性は、入射光の角度を45°として測定した。
【0061】
図14に示すグラフより、グリッド高さが350nmの偏光素子は、580〜700nmの波長帯域でTp×Rsが90%以上となり、赤色光の帯域で良好な特性を示すことが分かった。
【0062】
図15(A)及び図15(B)は、それぞれ誘電体/半導体多層構造のグリッド幅が50nm、105nmのときの偏光素子のTp、Rs、Tp×Rsの波長依存性を示すグラフである。測定に用いた偏光素子は、前述と同様、凹凸構造の凸部が誘電体及び半導体の5層構造を有し、グリッド高さが250nm、グリッドピッチが150nmである。また、偏光素子の波長依存性は、入射光の角度を45°として測定した。
【0063】
図15(A)に示すグラフと図13に示すグラフとの比較より、グリッド幅が50nmの偏光素子は、グリッド幅が75nmの偏光素子と比べてTp×Rsが良好な波長域が短波長域に移動することが分かった。また、図15(B)に示すグラフと図13に示すグラフとの比較より、グリッド幅が105nmの偏光素子は、グリッド幅が75nmの偏光素子に比べてTp×Rsが良好な波長域が長波長域に移動するが、波長域が狭くなることが分かった。したがって、例えば緑色光の帯域に対する偏光素子は、グリッド幅をグリッドピッチの30〜70%とすることが好ましいことが分かった。
【0064】
[実施例3:支持部の形成]
先ず、ガラス基板上にTiO2とSiO2とを交互に所定の層数、所定のグリッド高さとなるように積層した。この積層体上に反射防止膜(BRAC)を成膜し、レジストにより所定のグリッドピッチ及びグリッド幅となるように格子状のマスクパターンを形成した。また、格子状のマスクパターンに対して交差する使用帯域の波長よりも大きい周期のマスクパターンを形成した。具体的には、干渉露光を用い、150nm周期で露光を行いて格子状のマスクパターンを形成し、所定の方向に基板を回転して1000nm周期で露光を行い、支持グリッド用のマスクパターンを形成した。
【0065】
次に、Ar/O2ガスによるスカム処理により反射防止膜を除去し、CF4/Arガスにより、TiO2及びSiO2をエッチングした。そして、O2アッシングにより、レジスト、反射防止膜を除去し、高さ400nm、幅40nmの支持グリッドが1000nmの周期で形成された偏光素子を作製した。この偏光素子は、凹凸構造の凸部がガラス基板側からTiO2/SiO2/TiO2/SiO2/TiO2の順に積層された誘電体の5層構造を有し、グリッド高さが400nm、グリッドピッチが150nm、グリッド幅が75nmであった。
【0066】
この支持グリッドが形成された偏光素子のTp、Rs、Tp×Rsの波長依存性について測定したところ、図8に示す支持グリッドが形成されていない偏光素子の波長依存性と同様、500〜600nmの波長帯域でTp×Rsが90%以上となり、緑色光の帯域で良好な特性を示した。
【符号の説明】
【0067】
10 透明基板、 20 凸部、 21 高屈折率材料、 22 低屈折率材料、 30 凹部、 31 支持部、 32 直交グリッド、 33 超低屈折率材料、 40 遮光膜、 41 反射防止膜、 42 レジスト、 50 液晶パネル、 60 クロスダイクロプリズム、 100 液晶プロジェクター、
【技術分野】
【0001】
本発明は、直交する偏光成分(いわゆるP偏光波、S偏光波)の一方を吸収し、他方を透過させる偏光素子に関するものである。さらに詳しくは、使用帯域の光において、面内軸方向での光透過率の違いを利用した偏光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、偏光素子の代表的な構造として、20層以上の多層構造である偏光膜を成膜したプリズムを貼り合わせた「MacNeilleプリズム」が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この偏光素子は、コントラストが高く、最も標準的な偏光素子として使用されている。しかし、この構造の偏光素子は、入射光の角度依存性が大きい。さらに、プリズムの貼り合わせに有機接着剤が用いられているため、輝度が高い光源に対して使用する際には、光源の熱やUV成分により劣化が早まり、特性が劣化する。
【0003】
これらの問題を回避する偏光素子として、ワイヤーグリッド型の偏光素子が知られている。ワイヤーグリッド型の偏光素子は、一般的に、使用する光の波長よりも小さな周期を有し、一方向に延びる微細グリッド構造を備えている。このようなワイヤーグリッド型の偏光素子は、前記一方向に平行な方向に振動する直線偏光を反射し、直交する方向に振動する直線偏光を通過させる。このため、例えば無偏光の光が入射されると、所定の偏光を分離した光が射出される。
【0004】
図16は、偏光素子の偏光分離を示す概略図である。偏光素子は、45度の角度で光を入射した際、ある直線偏光を完全に反射し、直交する直線偏光を完全に透過することが理想的である。
【0005】
従来のワイヤーグリッド型の偏光素子は、特許文献2、3に記載されているように、可視光を透過する透明基板上に、金属材料を用いたワイヤー構造が形成された構造を有する。無機透明基板(例えば石英基板)上に、金属ワイヤー(例えばAl)を備えるため、上述したプリズム型の偏光素子に比べて耐熱性に優れ、入射光の角度依存性が±10°程度と比較的小さいという利点がある。
【0006】
また、特許文献4には、金属ワイヤーと誘電層を交互に形成した偏光素子が記載されている。この構造によれば、光子トンネル及びグリッド内共鳴効果の組み合わせにより、偏光素子の偏光性能を高めることが可能である。
【0007】
しかしながら、特許文献4に記載のように、ワイヤーグリッド型の偏光素子に金属材料を用いると、金属のもつ吸光性によりワイヤーに垂直な偏光成分の光の透過率が低下してしまう。具体的には、45度の角度で光を入射した際、p偏光の透過率(以下Tpと記す。)、及びs偏光の反射率(以下Rsと記す。)は、90%程度が限界であり、Tp×Rsで表される偏光スループットは80%と低くなってしまう。このため、近年のプロジェクター等における高輝度の要求に対する偏光素子の特性としては不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第2403731号明細書
【特許文献2】特開2009−139411号公報
【特許文献3】米国特許第6122103号明細書
【特許文献4】特許第4152645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、優れた偏光スループット特性が得られる偏光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した課題を解決するために、本発明に係る偏光素子は、透明基板上に使用帯域の光の波長よりも小さいピッチで配列された凹凸構造を有し、前記凹凸構造の凸部は、誘電体又は半導体からなる高屈折率材料と誘電体又は半導体からなる低屈折率材料とが交互に積層されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る液晶プロジェクターは、前述した偏光素子と、光源と、液晶パネルとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、自由電子の存在しない誘電体や自由電子が非常に少ない半導体の多層グリッド構造であるため、自由電子が存在し、光を吸収する金属を用いたワイヤーグリッド型の偏光素子と比べて、優れた偏光スループット特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態に係る偏光素子を示す概略断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る偏光素子の変形例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る偏光素子の製造方法(その1)を説明するための概略断面図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る偏光素子の製造方法(その2)を説明するための概略断面図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係る偏光素子の製造方法(その3)を説明するための概略断面図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る液晶プロジェクターの光学エンジン部分の構成を示す概略断面図である。
【図7】誘電体多層構造の偏光素子の入射光に対するTp、Rsの角度依存性を示すグラフである。
【図8】誘電体多層構造の偏光素子の入射光45°でのTp、Rs、Tp×Rsの波長依存性を示すグラフである。
【図9】誘電体多層構造のグリッド高さが270nm、480nmのときの偏光素子のTp、Rs、Tp×Rsの波長依存性を示すグラフである。
【図10】誘電体多層構造のグリッド幅が50nm、105nmのときのTp、Rs、Tp×Rsの波長依存性を示すグラフである。
【図11】誘電体の7層構造の偏光素子のTp、Rs、Tp×Rsの波長依存性を示すグラフである。
【図12】誘電体/半導体多層構造の偏光素子の入射光に対するTp、Rsの角度依存性を示すグラフである。
【図13】誘電体/半導体多層構造のグリッド高さが250nmのときの偏光素子の入射光に対するTp、Rsの角度依存性を示すグラフである。
【図14】誘電体/半導体多層構造のグリッド高さが350nmのときのTp、Rs、Tp×Rsの波長依存性を示すグラフである。
【図15】誘電体/半導体多層構造のグリッド幅が50nm、105nmのときのTp、Rs、Tp×Rsの波長依存性を示すグラフである。
【図16】偏光素子の偏光分離を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら下記順序にて詳細に説明する。
1.偏光素子の構成
2.偏光素子の製造方法
3.液晶プロジェクターの構成例
4.実施例
【0015】
<1.偏光素子の構成>
図1は、本発明の一実施の形態に係る偏光素子を示す概略断面図である。図1に示すように、偏光素子は、透明基板10上に使用帯域の光の波長よりも小さいピッチで配列された凹凸構造を有する。すなわち、偏光素子は、凸部が、透明基板10上に一定間隔に並んだ一次元格子状のワイヤーグリッド構造を有する。
【0016】
透明基板10は、使用帯域の光に対して透明で、屈折率が1.1〜2.2の材料、例えば、ガラス、サファイア、水晶などで構成されている。また、偏光素子の用途に応じて、ガラス、特に、石英(屈折率1.46)やソーダ石灰ガラス(屈折率1.51)を用いてもよい。ガラス材料の成分組成は特に制限されず、例えば光学ガラスとして広く流通しているケイ酸塩ガラスなどの安価なガラス材料を用いることができ、製造コストの低減を図ることができる。
【0017】
凹凸構造の凸部20は、透明基板10上に、誘電体又は半導体からなる高屈折率材料21と高屈折率材料21よりも屈折率が小さい誘電体又は半導体からなる低屈折率材料22とが交互に積層されている。この高屈折率材料21及び低屈折率材料22の各層は、例えば後述する斜め蒸着法により形成することができる。
【0018】
高屈折率材料21及び低屈折率材料22に用いられる誘電体としては、SiO2(屈折率:1.46(500nm付近))、Al2O3(屈折率:1.63(550nm付近))、TiO2(屈折率:2.5(550nm付近))、Ta2O5(屈折率:2.16(550nm付近))、CeO2(屈折率:2.2(550nm付近))、ZrO2(屈折率:2.05(550nm付近))、ZrO(屈折率:2.1(550nm付近))、Nb2O5(屈折率:2.33(500nm付近))などの酸化物を選択することができる。このような酸化物を用いることにより、例えばスパッタ等で誘電多層膜を形成する場合、同一チャンバーでの成膜が可能となり、リードタイムを低減することができる。また、酸化物は、グリッドを形成するためのリアクティブイオンエッチング工程などにも親和性が高い。
【0019】
また、高屈折率材料21及び低屈折率材料22に用いられる半導体としては、Si(屈折率:3.4(400nm付近))、もしくはこれを含む合金、又はシリサイド系半導体材料から選択することができる。このようなSi系材料を用いることにより、リアクティブイオンエッチング工程などにも親和性が高い。また、SiO2と交互多層膜を形成する場合には、同一チャンバーでの成膜が可能となる。
【0020】
本実施の形態では、前述の誘電体又は半導体の中から屈折率差が1以上となる高屈折率材料21及び低屈折率材料22を選択することが好ましい。具体的な高屈折率材料21と低屈折率材料22の組み合わせとしては、TiO2とSiO2、SiとSiO2などを挙げることができる。高屈折率材料21と低屈折率材料22との屈折率差が1以上であることにより、高い反射率が得られ、少ない層数で優れたスループット特性を得ることができる。
【0021】
このように自由電子の存在しない誘電体や自由電子が非常に少ない半導体の屈折率差を利用して多層グリッド構造を形成することにより、自由電子が存在し、光を吸収する金属層を用いたワイヤーグリッド型の偏光素子と比べて、優れた偏光スループット特性を得ることができる。
【0022】
また、前述の構成からなる偏光素子において、凸部20及び凹部30からなるグリッドピッチは、可視光域(400〜700nm)で使用する場合、可視光域の半分以下である200nm以下であることが好ましい。
【0023】
また、凸部20の幅であるグリッド幅は、使用波長帯域により自由に設計することができるが、グリッドピッチの20〜90%であることが好ましい。さらに好ましいグリッド幅は、グリッドピッチの30〜70%である。グリッド幅がグリッドピッチの20%未満となると作製が困難となるだけでなく、偏光スループットが良好な帯域が狭くなる。グリッドピッチが90%を超えると作製は比較的容易であるが、同様に偏光スループットが良好な帯域が狭くなる。
【0024】
また、凹凸構造の凸部の高さであるグリッド高さは、使用波長帯域に応じて自由に設計可能だが、500nm以下であることが好ましい。グリッド高さが500nmを超えると作製が困難となるだけでなく、グリッド構造の強度が低下してしまう。
【0025】
また、偏光素子のグリッド構造の強度を向上させる目的で、凹凸構造の凹部30に凸部間を支持する支持部31を形成してもよい。この支持部31の高さは、ワイヤーグリッドの倒れの防止に寄与する凸部20の高さ以下であることが好ましい。
【0026】
図2(A)に、使用波長よりも小さい周期のワイヤーグリッドに対して交差する使用波長より大きい周期のグリッド32を形成した偏光素子の例を示す。このようなグリッドを形成することにより、ワイヤーグリッドが倒れるのを防ぐことができる。直交グリッドの作製方法は、後述する干渉露光により、交差するようにパターニングすることにより得ることができる。なお、交差する角度は、必ずしも図2(A)のように直交である必要はなく、使用波長よりも大きい周期が保たれていればよい。
【0027】
また、図2(B)に、凹凸構造の凹部30に低屈折率材料22よりも屈折率が低い超低屈折率材料33を挿入した偏光素子の例を示す。このように凹部30の隙間に超低屈折率材料33を挿入することにより、ワイヤーグリッドが倒れるのを防ぐことができる。超低屈折率材料33としては、例えばMgF2を用いることができる。超低屈折率材料の挿入方法は、高速で旋回する基材にゾルを滴下することで成膜するスピンコーティング法を用いることができる。
【0028】
また、耐湿性などの信頼性改善の目的で、光学特性の変化が応用上影響を与えない範囲で最上部にSiO2などの保護膜を堆積させてもよい。
【0029】
このような構成の偏光素子は、グリッドが金属材料を含まない誘電体もしくは半導体からなる多層構造で形成されているため、グリッドの形状を任意に変更することにより、所望の波長帯域において偏光スループット(Tp×Rs)を90%以上とすることができる。また、無機材料のみで構成されているため、高い耐熱性を得ることができる。さらに、液晶プロジェクターに用いた場合、高い光密度に対応することができるため、光学ユニット部の小型化も実現することができる。
【0030】
<2.偏光素子の製造方法>
次に、図3を参照して本実施の形態における偏光素子の製造方法について説明する。先ず、透明基板10上に高屈折率材料21と低屈折率材料22とを交互に所定の層数、所定のグリッド高さとなるように積層する。各層は、スパッタ法、気相成長法、蒸着法などの一般的な真空成膜法あるいはゾルゲル法(例えばスピンコート法によりゾルをコートし熱硬化によりゲル化させる方法)により成膜することができる。
【0031】
次に、図3(A)に示すように、積層体上に反射防止膜(BRAC)41を成膜し、レジスト42により所定のグリッドピッチ及びグリッド幅となるようにナノインプリント、フォトリソグラフィなどにより格子状のマスクパターンを形成する。そして、図3(B)、(C)に示すように、ドライエッチングにより反射防止膜41を除去し、高屈折率材料21及び低屈折率材料22をエッチングする。ドライエッチング用のガスとしては、反射防止膜にはAr/O2、AlSiにはCl2/BCl3、SiO2、Si、Taには、CF4/Arを挙げることができる。また、エッチング条件(ガス流用、ガス圧、パワー、基板の冷却温度)を最適化することによって、垂直性の高い格子形状を実現する。これにより、所定の層数、所定のグリッド高さ、所定のグリッドピッチ及びグリッド幅を有する凹凸構造を形成し、偏光素子を作製することができる。
【0032】
また、図4に示すように斜め蒸着により無機微粒子層を形成する場合、透明基板10に一次元格子を形成し、この透明基板10の基板面の法線方向に対して蒸着角度αの方向に高屈折率材料21及び低屈折率材料22を設置して行われる。
【0033】
x、y、z直交座標におけるxy平面を基板面としたとき、xy平面において180°異なる2方向から誘電体材料を斜め蒸着させる。例えば、一方の方向から高屈折率材料21を斜め蒸着させた後、透明基板10を180°回転させ、他方の方向から低屈折率材料22を斜め蒸着させる蒸着サイクルを複数回行うことにより、多層膜を得ることができる。
【0034】
また、マスクパターンの形成方法は、前述の方法に限られず、図5に示すような干渉露光によって微細周期構造パターンを形成してもよい。露光基板は、透明基板10上に、図示しない高屈折率材料21及び低屈折率材料22が交互に積層され、その上に、水晶基板裏面まで光が透過しないようにする遮光膜40、レジスト42と下側界面からの反射を除去する反射防止膜41レジスト42がこの順に積層されている。そして、基板面の法線方向に対して角度θの2方向から露光することにより、干渉縞が発生する。なお、ピッチpと露光波長λとの関係は、下記式の通りである。
【0035】
【数1】
【0036】
また、凹凸構造の凹部30に凸部間を支持する支持部31を形成する場合にも、干渉露光を用いることができる。この場合、先ず、使用波長よりも短い周期で露光を行い、構造複屈折用のマスクパターンを形成し、所定の方向に基板もしくは干渉露光光学系を回転して使用波長より大きい周期で露光を行い、支持部用41のマスクパターンを形成する。そして、現像工程を経ることにより、例えば図2(A)に示すワイヤーグリッドに対して交差するグリッド32を形成した偏光素子を得ることができる。
【0037】
<3.液晶プロジェクターの構成例>
次に、本発明の一実施の形態に係る液晶プロジェクターについて説明する。液晶プロジェクター100は、光源となるランプと、液晶パネルと、前述した偏光素子とを備える。
【0038】
図6に、本発明に係る液晶プロジェクターの光学エンジン部分の構成例を示す。液晶プロジェクター100の光学エンジン部分は、赤色光LRに対する入射側偏光素子10A、液晶パネル50、出射プリ偏光素子10B、出射メイン偏光素子10Cと、緑色光LGに対する入射側偏光素子10A、液晶パネル50、出射プリ偏光素子10B、出射メイン偏光素子10Cと、青色光LBに対する入射側偏光素子10A、液晶パネル50、出射プリ偏光素子10B、出射メイン偏光素子10Cと、それぞれの出射メイン偏光素子10Cから出てくる光を合成し投射レンズに出射するクロスダイクロプリズム60とを備えている。ここで、前述した偏光素子は、入射側偏光素子10A、出射プリ偏光素子10B、出射メイン偏光素子10Cそれぞれに適用されている。
【0039】
この液晶プロジェクター100では、光源ランプ(不図示)から出射される光をダイクロイックミラー(不図示)により赤色光LR、緑色光LG、青色光LBに分離し、それぞれの光に対応する入射側偏光素子10Aに入射させ、ついでそれぞれの入射側偏光素子10Aで偏光された光LR、LG、LBは液晶パネル50にて空間変調されて出射され、出射プリ偏光素子10B、出射メイン偏光素子10Cを通過した後、クロスダイクロプリズム60にて合成されて投射レンズ(不図示)から投射される構成となっている。光源ランプは高出力のものであっても、強い光に対して優れた耐光特性をもつ偏光素子1を用いているため、信頼性の高い液晶プロジェクターを実現することができる。
【0040】
なお、本発明の偏光素子は、前記液晶プロジェクターへの適用に限定されるわけではなく、使用環境として熱を受ける偏光素子として好適である。例えば、自動車のカーナビやインパネの液晶ディスプレイの偏光素子として適用することができる。
【実施例】
【0041】
<4.実施例>
以下、本発明の実施例について説明する。ここでは、誘電体を積層した偏光素子と、誘電体及び半導体を積層した偏光素子とを作製し、P偏光の透過率(以下Tpと記す。)、S偏光の反射率(以下Rsと記す。)、及び偏光スループット(以下Tp×Rsと記す。)について評価した。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
[実施例1:誘電体の積層]
先ず、ガラス基板上にTiO2とSiO2とを交互に所定の層数、所定のグリッド高さとなるように積層した。この積層体上に反射防止膜(BRAC)を成膜し、レジストにより所定のグリッドピッチ及びグリッド幅となるように格子状のマスクパターンを形成した。
【0043】
次に、Ar/O2ガスによるスカム処理により反射防止膜を除去し、CF4/Arガスにより、TiO2及びSiO2をエッチングした。そして、O2アッシングにより、レジスト、反射防止膜を除去し、所定の層数、所定のグリッド高さ、所定のグリッドピッチ及びグリッド幅を有する凹凸構造を形成し、偏光素子を作製した。
【0044】
図7(A)及び図7(B)は、それぞれ誘電体多層構造の偏光素子の入射光に対するTp、Rsの角度依存性を示すグラフである。測定に用いた偏光素子は、凹凸構造の凸部がガラス基板側からTiO2/SiO2/TiO2/SiO2/TiO2の順に積層された誘電体の5層構造を有する。また、偏光素子のグリッド高さは400nm、グリッドピッチは150nm、グリッド幅は75nmである。また、比較例として、市販されているAlの金属単層からなる同一構造寸法のワイヤーグリッド型偏光素子における計算値を示す。
【0045】
図7(A)に示すTp、及び図7(B)に示すRsの値は、共に誘電体多層構造の偏光素子の値の方が金属単層構造の偏光素子よりも高かった。また、金属単層構造の偏光素子では、最大でもTp×Rsが85%程度であるのに対して、誘電体多層構造の偏光素子では、Tp×Rsが90%以上の値を示した。また、誘電体多層構造の偏光素子は、入射角度依存性も良好であり、入射光角度35〜65°の範囲でTp×Rsが90%以上の値を示した。
【0046】
図8は、誘電体多層構造の偏光素子の入射光45°でのTp、Rs、Tp×Rsの波長依存性を示すグラフである。測定に用いた偏光素子は、前述と同様、凹凸構造の凸部が誘電体の5層構造を有し、グリッド高さが400nm、グリッドピッチが150nm、グリッド幅が75nmである。
【0047】
この誘電体多層構造の偏光素子は、500〜600nmの波長帯域でTp×Rsが90%以上となり、緑色光の帯域で良好な特性を示した。
【0048】
図9(A)及び図9(B)は、それぞれ誘電体多層構造のグリッド高さが270nm、480nmのときの偏光素子のTp、Rs、Tp×Rsの波長依存性を示すグラフである。測定に用いた偏光素子は、前述と同様、凹凸構造の凸部が誘電体の5層構造を有し、グリッドピッチが150nm、グリッド幅が75nmである。また、偏光素子の波長依存性は、入射光の角度を45°として測定した。
【0049】
図9(A)に示す結果より、グリッド高さが270nmの偏光素子は、400〜480nmの波長帯域でTp×Rsが90%以上となり、青色光の帯域で良好な特性を示すことが分かった。また、図9(B)に示す結果より、グリッド高さが480nmの偏光素子は、580〜700nmの波長帯域で、Tp×Rsが90%以上となり、赤色光の帯域で良好な特性を示すことが分かった。また、前述の図8に示す結果より、グリッド高さが400nmの偏光素子は、500〜600nmの波長帯域でTp×Rsが90%以上となり、緑色光の帯域で良好な特性を示した。このように、グリッド高さを、Tp、Rs、Tp×Rsが高くなるように設計することにより、容易に所望の波長帯域の光に対して良好な特性を得ることができることが分かった。
【0050】
図10(A)及び図10(B)は、それぞれ誘電体多層構造のグリッド幅が50nm、105nmのときのTp、Rs、Tp×Rsの波長依存性を示すグラフである。測定に用いた偏光素子は、前述と同様、凹凸構造の凸部が誘電体の5層構造を有し、グリッド高さが270nm、グリッドピッチが150nmである。また、偏光素子の波長依存性は、入射光の角度を45°として測定した。
【0051】
図10(A)に示すグラフと図9(A)に示すグラフとの比較より、グリッド幅が50nmの偏光素子は、グリッド幅が75nmの偏光素子と比べて、Tp×Rsが良好な波長域が短波長域に移動することが分かった。逆に、図10(B)に示すグラフと図9(A)に示すグラフとの比較より、グリッド幅が105nmの偏光素子は、グリッド幅が75nmの偏光素子に比べてTp×Rsが良好な波長域が長波長域に移動するが、波長域が狭くなることが分かった。したがって、例えば青色光の帯域に対する偏光素子は、グリッド幅をグリッドピッチの30〜70%とすることが好ましいことが分かった。
【0052】
図11は、誘電体の7層構造の偏光素子のTp、Rs、Tp×Rsの波長依存性を示すグラフである。測定に用いた偏光素子は、凹凸構造の凸部がガラス基板側からTiO2/SiO2/TiO2/SiO2/TiO2/SiO2/TiO2の順に積層された誘電体の7層構造を有する。また、偏光素子のグリッド高さは400nm、グリッドピッチは150nm、グリッド幅は75nmである。また、偏光素子の波長依存性は、入射光の角度を45°として測定した。
【0053】
この誘電体多層構造の偏光素子は、400〜500nmの波長帯域でTp×Rsが90%以上となり、青色光の帯域で良好な特性を示すことが分かった。また、図8に示す5層からなる構造寸法が同一の偏光素子の波長依存性のグラフは、500〜600nmの緑色光の帯域で良好な特性を示すことから、層数を変えることでも、波長帯域の設計が可能であることが分かった。
【0054】
[実施例2:誘電体/半導体の積層]
先ず、ガラス基板上にSiとSiO2とを交互に所定の層数、所定のグリッド高さとなるように積層した。この積層体上に反射防止膜(BRAC)を成膜し、レジストにより所定のグリッドピッチ及びグリッド幅となるように格子状のマスクパターンを形成した。
【0055】
次に、Ar/O2ガスによるスカム処理により反射防止膜を除去し、CF4/Arガスにより、Si及びSiO2をエッチングした。そして、O2アッシングにより、レジスト、反射防止膜を除去し、所定の層数、所定のグリッド高さ、所定のグリッドピッチ及びグリッド幅を有する凹凸構造を形成し、偏光素子を作製した。
【0056】
図12(A)及び図12(B)は、それぞれ誘電体/半導体多層構造の偏光素子の入射光に対するTp、Rsの角度依存性を示すグラフである。測定に用いた偏光素子は、凹凸構造の凸部がガラス基板側からSi/SiO2/Si/SiO2/Siの順に積層された誘電体及び半導体の5層構造を有する。また、偏光素子のグリッド高さは280nm、グリッドピッチは150nm、グリッド幅は75nmである。また、比較例として、市販されているAlの金属単層からなる同一構造寸法のワイヤーグリッド型偏光素子における計算値を示す。
【0057】
図12(A)に示すTp、及び図12(B)に示すRsは、共に誘電体/半導体多層構造の偏光素子の値の方が金属単層構造の偏光素子よりも高かった。また、誘電体/半導体多層構造の偏光素子は、入射角度依存性も良好であり、入射光角度0〜65°のの広い範囲でTp×Rsが90%以上の値を示した。
【0058】
図13は、誘電体/半導体多層構造のグリッド高さが250nmのときの偏光素子の入射光に対するTp、Rsの角度依存性を示すグラフである。測定に用いた偏光素子は、グリッド高さが250nmであること以外、前述と同様であり、凹凸構造の凸部が誘電体及び半導体の5層構造を有し、グリッドピッチが150nm、グリッド幅が75nmである。また、偏光素子の波長依存性は、入射光の角度を45°として測定した。
【0059】
図13に示すグラフより、グリッド高さが250nmの偏光素子は、500〜580nmの波長帯域でTp×Rsが90%以上となり、緑色光の帯域で良好な特性を示すことが分かった。
【0060】
図14は、誘電体/半導体多層構造のグリッド高さが350nmのときの偏光素子のTp、Rs、Tp×Rsの波長依存性を示すグラフである。測定に用いた偏光素子は、前述と同様、凹凸構造の凸部が誘電体及び半導体の5層構造を有し、グリッドピッチが150nm、グリッド幅が75nmである。また、偏光素子の波長依存性は、入射光の角度を45°として測定した。
【0061】
図14に示すグラフより、グリッド高さが350nmの偏光素子は、580〜700nmの波長帯域でTp×Rsが90%以上となり、赤色光の帯域で良好な特性を示すことが分かった。
【0062】
図15(A)及び図15(B)は、それぞれ誘電体/半導体多層構造のグリッド幅が50nm、105nmのときの偏光素子のTp、Rs、Tp×Rsの波長依存性を示すグラフである。測定に用いた偏光素子は、前述と同様、凹凸構造の凸部が誘電体及び半導体の5層構造を有し、グリッド高さが250nm、グリッドピッチが150nmである。また、偏光素子の波長依存性は、入射光の角度を45°として測定した。
【0063】
図15(A)に示すグラフと図13に示すグラフとの比較より、グリッド幅が50nmの偏光素子は、グリッド幅が75nmの偏光素子と比べてTp×Rsが良好な波長域が短波長域に移動することが分かった。また、図15(B)に示すグラフと図13に示すグラフとの比較より、グリッド幅が105nmの偏光素子は、グリッド幅が75nmの偏光素子に比べてTp×Rsが良好な波長域が長波長域に移動するが、波長域が狭くなることが分かった。したがって、例えば緑色光の帯域に対する偏光素子は、グリッド幅をグリッドピッチの30〜70%とすることが好ましいことが分かった。
【0064】
[実施例3:支持部の形成]
先ず、ガラス基板上にTiO2とSiO2とを交互に所定の層数、所定のグリッド高さとなるように積層した。この積層体上に反射防止膜(BRAC)を成膜し、レジストにより所定のグリッドピッチ及びグリッド幅となるように格子状のマスクパターンを形成した。また、格子状のマスクパターンに対して交差する使用帯域の波長よりも大きい周期のマスクパターンを形成した。具体的には、干渉露光を用い、150nm周期で露光を行いて格子状のマスクパターンを形成し、所定の方向に基板を回転して1000nm周期で露光を行い、支持グリッド用のマスクパターンを形成した。
【0065】
次に、Ar/O2ガスによるスカム処理により反射防止膜を除去し、CF4/Arガスにより、TiO2及びSiO2をエッチングした。そして、O2アッシングにより、レジスト、反射防止膜を除去し、高さ400nm、幅40nmの支持グリッドが1000nmの周期で形成された偏光素子を作製した。この偏光素子は、凹凸構造の凸部がガラス基板側からTiO2/SiO2/TiO2/SiO2/TiO2の順に積層された誘電体の5層構造を有し、グリッド高さが400nm、グリッドピッチが150nm、グリッド幅が75nmであった。
【0066】
この支持グリッドが形成された偏光素子のTp、Rs、Tp×Rsの波長依存性について測定したところ、図8に示す支持グリッドが形成されていない偏光素子の波長依存性と同様、500〜600nmの波長帯域でTp×Rsが90%以上となり、緑色光の帯域で良好な特性を示した。
【符号の説明】
【0067】
10 透明基板、 20 凸部、 21 高屈折率材料、 22 低屈折率材料、 30 凹部、 31 支持部、 32 直交グリッド、 33 超低屈折率材料、 40 遮光膜、 41 反射防止膜、 42 レジスト、 50 液晶パネル、 60 クロスダイクロプリズム、 100 液晶プロジェクター、
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上に使用帯域の光の波長よりも小さいピッチで配列された凹凸構造を有し、
前記凹凸構造の凸部は、誘電体又は半導体からなる高屈折率材料と該高屈折率材料よりも屈折率が小さい誘電体又は半導体からなる低屈折率材料とが交互に積層された偏光素子。
【請求項2】
前記高屈折率材料と前記低屈折率材料との屈折率の差が1以上である請求項1記載の偏光素子。
【請求項3】
前記ピッチは、200nm以下であり、
前記凸部の幅は、前記ピッチの20〜90%である請求項1又は2記載の偏光素子。
【請求項4】
前記高屈折率材料がTiO2、前記記低屈折材料がSiO2、又は前記高屈折率材料がSi、前記低屈折材料がSiO2である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の偏光素子。
【請求項5】
前記凹凸構造の凸部の高さが500nm以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の偏光素子。
【請求項6】
前記凹凸構造の凹部に、前記凸部間を支持する支持部が形成されている請求項1乃至5のいずれか1項に記載の偏光素子。
【請求項7】
前記支持部は、前記使用帯域の光の波長よりも大きいピッチで前記凹部の一部に形成されている請求項6記載の偏光素子。
【請求項8】
前記支持部は、前記低屈折率材料よりも屈折率が低い材料で形成されている請求項7記載の偏光素子。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の偏光素子と、光源と、液晶パネルとを備える液晶プロジェクター。
【請求項1】
透明基板上に使用帯域の光の波長よりも小さいピッチで配列された凹凸構造を有し、
前記凹凸構造の凸部は、誘電体又は半導体からなる高屈折率材料と該高屈折率材料よりも屈折率が小さい誘電体又は半導体からなる低屈折率材料とが交互に積層された偏光素子。
【請求項2】
前記高屈折率材料と前記低屈折率材料との屈折率の差が1以上である請求項1記載の偏光素子。
【請求項3】
前記ピッチは、200nm以下であり、
前記凸部の幅は、前記ピッチの20〜90%である請求項1又は2記載の偏光素子。
【請求項4】
前記高屈折率材料がTiO2、前記記低屈折材料がSiO2、又は前記高屈折率材料がSi、前記低屈折材料がSiO2である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の偏光素子。
【請求項5】
前記凹凸構造の凸部の高さが500nm以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の偏光素子。
【請求項6】
前記凹凸構造の凹部に、前記凸部間を支持する支持部が形成されている請求項1乃至5のいずれか1項に記載の偏光素子。
【請求項7】
前記支持部は、前記使用帯域の光の波長よりも大きいピッチで前記凹部の一部に形成されている請求項6記載の偏光素子。
【請求項8】
前記支持部は、前記低屈折率材料よりも屈折率が低い材料で形成されている請求項7記載の偏光素子。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の偏光素子と、光源と、液晶パネルとを備える液晶プロジェクター。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−189773(P2012−189773A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52739(P2011−52739)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】
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