説明

偏光膜、コーティング液、偏光膜の製造方法、及びジスアゾ化合物

【課題】ヘイズ値が小さく、透明性に優れた偏光膜を提供する。
【解決手段】偏光膜1は、一般式(I)で表されるジスアゾ化合物を含んでいる。偏光膜1は、例えば、基材2上に形成される。ただし、一般式(I)において、Qは、置換基を有していてもよいアリール基を表し、Qは、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、Mは、対イオンを表し、Xは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基(アルキル基中の隣接しない炭素原子が酸素原子に置き換わっていてもよい)、メタクリル基、又はアクリル基を表し、mは、1又は2の整数を表し、nは、1〜4の整数を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジスアゾ化合物を含み且つ透明性に優れた偏光膜、及びジスアゾ化合物を含むコーティング液などに関する。
【背景技術】
【0002】
偏光膜は、偏光又は自然光から特定の直線偏光を透過させる機能を有する光学フィルムである。偏光膜は、例えば、液晶表示装置の構成部材や、偏光サングラスのレンズなどに使用されている。
汎用的な偏光膜は、例えば、ヨウ素で染色したポリビニルアルコールフィルムを延伸することにより得られる。
また、ジスアゾ化合物を含む溶液の溶液流延法により得られる偏光膜も知られている。
この偏光膜は、ベンゼン環を有するジスアゾ化合物を含む溶液を、基材上に塗布し乾燥することにより得られる(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2007−126628号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記ジスアゾ化合物を含む偏光膜は、耐熱性に優れ、且つ高い二色性を示す。さらに、上記ジスアゾ化合物を含む偏光膜は、溶液流延法で形成できるので、ヨウ素で染色したポリビニルアルコールフィルムからなる偏光膜と比べて、格段に薄い。
しかしながら、上記公報記載のジスアゾ化合物を含む偏光膜は、透明性が不十分であるため、その改善が求められている。
【0004】
本発明の第1の課題は、ジスアゾ化合物を含み、且つ透明性に優れた偏光膜を提供することである。
本発明の第2の課題は、ジスアゾ化合物を含み、且つ透明性に優れた偏光膜を形成できるコーティング液、及び該コーティング液を用いた偏光膜の製造方法を提供することである。
本発明の第3の課題は、上記偏光膜の形成材料として有用な新規ジスアゾ化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記従来のジスアゾ化合物を含む偏光膜が、透明性が十分でない原因について鋭意研究した。その結果、本発明者らは、従来のジスアゾ化合物が偏光膜中において微細な結晶となって存在することが原因であることを見出した。かかる微細な結晶が偏光膜中に存在すると、偏光膜のヘイズ(光散乱)が大きくなり、偏光膜の透明性を悪化させる。
【0006】
そこで、本発明は、下記一般式(I)で表されるジスアゾ化合物を含む偏光膜を提供する。
【0007】
【化1】

【0008】
一般式(I)において、Qは、置換基を有していてもよいアリール基を表し、Qは、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、Mは、対イオンを表し、Xは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基(アルキル基中の隣接しない炭素原子が酸素原子に置き換わっていてもよい)、メタクリル基、又はアクリル基を表し、mは、1又は2の整数を表し、nは、1〜4の整数を表す。
【0009】
上記一般式(I)で表されるジスアゾ化合物は、OH基、SOM基、及びOXを有するヒドロキシアルキル基がナフチル基に結合している。このため、本発明のジスアゾ化合物は、水などの水系溶媒に対する溶解性に優れている。
かかるジスアゾ化合物は、偏光膜中において微細な結晶となり難い。従って、本発明の偏光膜は、ヘイズ値が小さくなり、透明性に優れている。
【0010】
本発明の別の局面によれば、コーティング液を提供する。
本発明のコーティング液は、上記一般式(I)で表されるジスアゾ化合物と、溶媒と、を含む。
好ましくは、前記溶媒は、水系溶媒が用いられる。
【0011】
本発明の別の局面によれば、偏光膜の製造方法を提供する。
本発明の偏光膜の製造方法は、上記コーティング液を基材上に塗布し、乾燥することにより、偏光膜を形成する。
【0012】
本発明の別の局面によれば、上記一般式(I)で表されるジスアゾ化合物を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の偏光膜は、ヘイズ値が小さく、透明性に優れている。
また、本発明のコーティング液は、これを基材上に塗布乾燥することにより、透明性に優れた偏光膜を形成できる。
本発明のジスアゾ化合物は、水などの水系溶媒に対する溶解性に優れている。該ジスアゾ化合物は、例えば、透明性に優れた偏光膜の形成材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(本発明の偏光膜及びジスアゾ化合物)
本発明の偏光膜は、下記一般式(I)で表されるジスアゾ化合物を含む。本発明のジスアゾ化合物は、一般式(I)で表される。
なお、本明細書において、「Y〜Z」という表示は、「Y以上Z以下」を意味する。
【0015】
【化2】

【0016】
一般式(I)において、Qは、置換基を有していてもよいアリール基を表し、Qは、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、Mは、対イオンを表し、Xは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基(アルキル基中の隣接しない炭素原子が酸素原子に置き換わっていてもよい)、メタクリル基、又はアクリル基を表し、mは、1又は2の整数を表し、nは、1〜4の整数を表す。
【0017】
上記一般式(I)のmは、好ましくは1である。また、一般式(I)のnは、好ましくは1〜3の整数であり、より好ましくは1又は2である。
上記Xで表されるアルキル基の炭素数が2以上の場合、アルキル基中の隣接しない炭素原子が酸素原子に置き換わっていてもよい。また、前記アルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状でもよいが、好ましくは直鎖状である。アルキル基としては、メチル基、エチル基 、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。前記アルキル基の炭素数は、好ましくは1〜12であり、より好ましくは2〜8である。
【0018】
上記炭素数1〜18のアルキル基が置換基を有する場合、その置換基としては、−OM基、−SOM基、−COOM基、フェニル基、フッ素などのハロゲノ基、グリシジル基、アミノ基、ニトロ基などが挙げられる。前記アルキル基は、これら置換基から選ばれる少なくとも1種を有していてもよい。前記Mは、一般式(I)と同様に、対イオンを表す。
【0019】
好ましくは、一般式(I)のXは、水素原子、1以上のヒドロキシル基を有する炭素数1〜18のアルキル基(アルキル基中の隣接しない炭素原子が酸素原子に置き換わっていてもよい)、及びメタクリル基から選ばれる1つである。前記1以上のヒドロキシル基を有するアルキル基の炭素数は、好ましくは1〜12であり、より好ましくは2〜8である。
【0020】
上記一般式(I)のM(対イオン)は、好ましくは、水素原子;Li、Na、K、Csなどのアルカリ金属原子;Ca、Sr、Baなどのアルカリ土類金属原子;金属イオン;アルキル基若しくはヒドロキシアルキル基で置換されていてもよいアンモニウムの塩;有機アミンの塩などが挙げられる。金属イオンとしては、例えば、Ni2+、Fe3+、Cu2+、Ag、Zn2+、Al3+、Pd2+、Cd2+、Sn2+、Co2+、Mn2+、Ce3+等が挙げられる。有機アミンとしては、炭素数1〜6のアルキルアミン、ヒドロキシル基を有する炭素数1〜6のアルキルアミン、カルボキシル基を有する炭素数1〜6のアルキルアミンなどが挙げられる。上記Mで表される対イオンは、1種単独で、又は2種以上混在していてもよい。
【0021】
一般式(I)のナフチル基(式(I)において右側に表されたナフチル基)とアゾ基(−N=N−)の結合位置は、特に限定されない。好ましくは、前記ナフチル基とアゾ基は、前記ナフチル基の1位又は2位で結合されている。
一般式(I)のナフチル基の具体例としては、例えば、下記式(a)乃至式(i)などが挙げられる。
なお、式(a)乃至式(c)は、1位でアゾ基に結合するナフチル基を表し、式(d)乃至式(i)は、2位でアゾ基に結合するナフチル基を表す。
【0022】
【化3】

【0023】
一般式(I)のナフチル基は、式(c)又は式(d)で表されるものが好ましい。かかるナフチル基を有するジスアゾ化合物は、下記一般式(II)又は一般式(III)で表される。
【0024】
【化4】

【0025】
一般式(II)及び一般式(III)において、Q、Q、M及びXは、一般式(I)と同様である。
【0026】
上記各一般式において、Qで表されるアリール基は、フェニル基の他、ナフチル基などのようなベンゼン環が2以上縮合した縮合環基が挙げられる。
各一般式において、Qで表されるアリーレン基は、フェニレン基の他、ナフチレン基などのようなベンゼン環が2以上縮合した縮合環基が挙げられる。
【0027】
又はQで表されるアリール基又はアリーレン基は、置換基を有していてもよいし、又は、置換基を有していなくてもよい。前記アリール基又はアリーレン基が、置換又は無置換のいずれの場合でも、ジスアゾ化合物の溶媒溶解性は殆ど変わらない。このため、本発明のジスアゾ化合物を含む偏光膜は、ヘイズ値が十分に小さくなる。
【0028】
前記アリール基又はアリーレン基が置換基を有する場合、その置換基としては、例えば、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ジヒドロキシプロピル基等の炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基、炭素数1〜6のアルキルアミノ基、炭素数6〜20のフェニルアミノ基、炭素数1〜6のアシルアミノ基、ハロゲノ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、−SOM基、−COOM基、又は−OM基などが挙げられる。好ましくは、前記置換基は、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基、アミノ基、ニトロ基、ハロゲノ基、−OM基、−COOM基、及び−SOM基から選ばれる1つである。ただし、Mは、一般式(I)と同様に、対イオンを表す。このような置換基を有するジスアゾ化合物は、溶媒溶解性に優れている。これらの置換基は、1種又は2種以上が置換されていてもよい。また、置換基は、任意の比率で置換されていてもよい。
【0029】
好ましくは、各一般式のQは、置換基を有していてもよいフェニル基である。
好ましくは、各一般式のQは、置換基を有していてもよいナフチレン基であり、より好ましくは、置換基を有していてもよい1,4−ナフチレン基である。
【0030】
一般式(I)のQが置換基を有していてもよいフェニル基で、且つQが置換基を有していてもよい1,4−ナフチレン基であるジスアゾ化合物は、下記一般式(IV)乃至(VI)で表される。
【0031】
【化5】

【0032】
【化6】

【0033】
一般式(V)及び一般式(VI)において、X、M、m及びnは、上記一般式(I)と同じである。
【0034】
一般式(V)及び一般式(VI)において、A及びBは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基、炭素数1〜6のアルキルアミノ基、炭素数6〜20のフェニルアミノ基、炭素数1〜6のアシルアミノ基、ハロゲノ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、−SOM基、−COOM基、又は−OM基を表す。前記Mは、一般式(I)と同様に、対イオンを表す。
一般式(V)及び一般式(VI)のA及びBの置換数は、0〜5であり、好ましくは1〜2である。前記Aの置換数が2以上の場合、Aは、同じでもよいし、又は、異なっていてもよい。前記Bの置換数が2以上の場合、Bは、同じでもよいし、又は、異なっていてもよい。
【0035】
また、上記各一般式で表されるジスアゾ化合物は、例えば、次の方法で合成できる。
アニリン誘導体と、ナフチルアミン誘導体とを、ジアゾ化及びカップリング反応させ、モノアゾ化合物を得る。このモノアゾ化合物をジアゾ化した後、さらに、ヒドロキシナフチルアミンスルホン酸誘導体とカップリング反応させてジスアゾ化合物を得る。このジスアゾ化合物の合成は、従来公知の方法(例えば、細田豊著「理論製造 染料化学(5版)」、昭和43年7月15日技報堂発行)に従って行うことができる。
次に、上記ジスアゾ化合物のナフチルアミン骨格のアミノ基とグリシジル化合物とを、N−アルキル化反応させることにより、一般式(I)乃至(VI)で表されるジスアゾ化合物を合成できる。
【0036】
上記グリシジル化合物としては、グリシドール、アリルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジル、(パーフルオロアルキルエチル)グリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、デナコールEX系グリシジル化合物(「デナコールEX」は、ナガセケムテックス株式会社の商品名)等が挙げられる。
【0037】
上記ジスアゾ化合物のナフチルアミン骨格とグリシジル化合物とのN−アルキル化反応は、無触媒でも進行する。もっとも、前記N−アルキル化反応は、無機酸や有機酸などの酸触媒、塩基触媒などの触媒存在下で行うことが好ましい。
【0038】
前記N−アルキル化反応は、通常、溶媒中で行われる。前記溶媒は、上記グリシジル化合物などが溶解し得るものであれば特に限定されない。溶媒は、好ましくは水系溶媒が用いられる。水系溶媒は、水、親水性溶媒、及び水と親水性溶媒の混合溶媒を含む。親水性溶媒は、水と略均一に溶解させることができる溶媒である。親水性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、エチルアルコール、メチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのグリコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのセロソルブ類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルピロリドンなどのアミド類等が挙げられる。これら溶媒は、1種単独で又は2種以上併用できる。
【0039】
上記N−アルキル化反応の反応温度は、化合物の種類や溶媒などに応じて適宜設定される。この反応温度は、通常、−78℃〜200℃であり、好ましくは0℃〜150℃であり、より好ましくは20℃〜130℃である。上記N−アルキル化反応の反応時間は、通常、10秒〜1週間であり、好ましくは1分〜2日間であり、より好ましくは10分〜20時間である。
上記N−アルキル化反応の進行及び終了は、順相又は逆相の薄膜クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、NMR、赤外分光法などの分析手段によって、確認することができる。
【0040】
上記ジスアゾ化合物は、適当な溶媒に溶解させることにより液晶相を示し得る、リオトロピック液晶性化合物である。従って、該ジスアゾ化合物を含むコーティング液を基材上に流延することによって、ジスアゾ化合物が所定方向に配向する。
なお、リオトロピック液晶性化合物とは、溶媒に溶解させた溶液状態で、溶液の温度や濃度などを変化させることにより、等方相−液晶相の相転移を起こす性質(リオトロピック液晶性)を有する化合物を意味する。
【0041】
本発明の偏光膜は、上記一般式(I)乃至(VI)で表される少なくとも1種のジスアゾ化合物を含む。偏光膜には、構造が異なる2種以上のジスアゾ化合物が含まれていてもよい。
本発明の偏光膜は、上記ジスアゾ化合物が配向しているため、波長380nm〜780nmの間の少なくとも一部で吸収二色性を示す。
上記偏光膜の偏光度は、好ましくは98%以上であり、より好ましくは99%以上である。偏光膜の単体透過率は、好ましくは35%以上、より好ましくは40%以上である。
【0042】
上記偏光膜は、そのヘイズ値が小さく、従って、透明性に優れている。本発明の偏光膜のヘイズ値は、例えば、3.0%以下であり、好ましくは2.5%以下である。
なお、本発明において、「ヘイズ値」とは、偏光膜の全光線透過率と散乱透過率の比を百分率で表した値をいう。ヘイズ値(%)=(散乱光線透過率÷全光線透過率)×100で求められる。ヘイズ値が小さいほど、偏光膜の透明性が優れていることを意味する。
ヘイズ値は、例えば、JIS K 7136に準じて測定できる。
【0043】
上記偏光膜の厚みは、特に限定されない。本発明の偏光膜は、後述するように、コーティング液の塗布によって形成できるので、より薄く形成できる。具体的には、偏光膜の厚みは、好ましくは0.05μm〜5μmであり、より好ましくは0.1μm〜1.0μmである。
また、本発明の偏光膜は、従来のジスアゾ化合物で形成された偏光膜と同様に、耐熱性に優れている。
【0044】
(本発明のコーティング液)
本発明のコーティング液は、上記一般式(I)乃至(VI)で表される少なくとも1種のジスアゾ化合物と、該ジスアゾ化合物を溶解させる溶媒と、を含む。
【0045】
上記溶媒は、特に限定されず、従来公知の溶媒を用いることができるが、水系溶媒が好ましい。水系溶媒は、水、親水性溶媒、及び、水と親水性溶媒の混合溶媒を含む。前記親水性溶媒は、水と略均一に溶解させることができる溶媒である。親水性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、メチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのグリコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのセロソルブ類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類;などが挙げられる。上記溶媒は、好ましくは、水、又は、水と親水性溶媒の混合溶媒が用いられる。
本発明のジスアゾ化合物は、OH基、SOM基、及びOXを有するヒドロキシアルキル基を有するので、特に水系溶媒に対する溶解性に優れている。
【0046】
上記コーティング液は、液温やジスアゾ化合物の濃度などを変化させることにより、液晶相を示す。
この液晶相は、ジスアゾ化合物が液中で超分子会合体を形成することによって発現する。液晶相は、特に限定されず、ネマチック液晶相、スメクチック液晶相、コレステリック液晶相、ヘキサゴナル液晶相等が挙げられる。液晶相は、偏光顕微鏡で観察される光学模様によって、確認、識別できる。
【0047】
コーティング液中におけるジスアゾ化合物の濃度は、ジスアゾ化合物が液晶相を示すように調製することが好ましい。前記ジスアゾ化合物の濃度は、0.05質量%〜50質量%であり、好ましくは0.5質量%〜40質量%であり、より好ましくは2質量%〜30質量%である。
コーティング液の調製方法は、特に限定されず、例えば、溶媒を入れた容器にジスアゾ化合物を加えてもよいし、或いは、ジスアゾ化合物を入れた容器に溶媒を加えてもよい。
【0048】
また、コーティング液は、適切なpHに調整される。コーティング液のpHは、好ましくはpH4〜10程度、より好ましくはpH6〜8程度である。
さらに、コーティング液の温度は、好ましくは10℃〜40℃、より好ましくは15℃〜30℃程度の調整される。
【0049】
さらに、上記コーティング液には、添加剤が添加されていてもよい。該添加剤としては、例えば、可塑剤、熱安定剤、光安定剤、滑剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、相溶化剤、架橋剤、増粘剤などが挙げられる。コーティング液中における添加剤の濃度は、好ましくは0を超え10質量%以下である。また、コーティング液には、界面活性剤が添加されていてもよい。界面活性剤は、コーティング液の基材表面へのぬれ性や塗布性を向上させるために添加される。前記界面活性剤は、非イオン界面活性剤を用いることが好ましい。コーティング液における界面活性剤の濃度は、好ましくは0を超え5質量%以下である。
【0050】
(本発明の偏光膜の製造方法)
本発明の偏光膜は、例えば、上記コーティング液を適当な基材上に薄膜状に塗布し、乾燥することによって得られる。
【0051】
本発明の偏光膜は、好ましくは下記工程A乃至工程Cを経て製造できる。
工程A:上記コーティング液を、基材上に塗布し、塗膜を形成する工程。
工程B:前記塗膜を乾燥する工程。
工程C:工程Bで乾燥させた塗膜の表面に、アルミニウム塩、バリウム塩、鉛塩、クロム塩、ストロンチウム塩、及び分子内に2個以上のアミノ基を有する化合物塩からなる群から選択される少なくとも1種の化合物塩を含む溶液を接触させる工程。
上記基材は、コーティング液を塗布する側に配向処理が施されていてもよい。
【0052】
<工程A>
工程Aは、上述したコーティング液を、基材上に塗布し、塗膜を形成する工程である。
基材は、コーティング液を均一に展開するために用いられる。この目的に適していれば基材の種類は特に限定されず、例えば、合成樹脂フィルム(フィルムとは、一般にシートと呼ばれているものを含む意味である)、ガラス板などを用いることができる。好ましい実施形態においては、基材は、単独のポリマーフィルムであり、好ましい他の実施形態においては、ポリマーフィルムを含む積層体である。このポリマーフィルムを含む積層体は、好ましくはポリマーフィルムに配向層をさらに含む。
【0053】
上記ポリマーフィルムとしては、特に限定されないが、透明性に優れているフィルム(例えば、ヘイズ値3%以下)が好ましい。
上記ポリマーフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系;ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系;ポリカーボネート系;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系;ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体等のスチレン系;ポリエチレン、ポリプロピレン、環状又はノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体等のオレフィン系;塩化ビニル系;ナイロン、芳香族ポリアミド等のアミド系;ポリイミドなどのイミド系;ポリエーテルスルホン系;ポリエーテルエーテルケトン系;ポリフェニレンスルフィド系;ビニルアルコール系;塩化ビニリデン系;ビニルブチラール系;アクリレート系;ポリオキシメチレン系;エポキシ系などのポリマーフィルムや、これらの2種以上の混合物を含むポリマーフィルム等が挙げられる。また、上記基材は、2以上のポリマーフィルムの積層体を用いることもできる。
これらポリマーフィルムは、好ましくは延伸フィルムが用いられる。
【0054】
上記基材の厚みは、強度等に応じて適宜に設計し得る。薄型軽量化の観点から、基材の厚みは、好ましくは300μm以下、より好ましくは5μm〜200μm、特に好ましくは10μm〜100μmである。
【0055】
上記基材が配向層を含む場合、その配向層は、基材に配向処理を施すことで形成できる。上記配向処理としては、ラビング処理などの機械的配向処理、光配向処理などの化学的配向処理等が挙げられる。
機械的配向処理は、基材の一面(又は基材の一面に形成された適宜な塗工膜の一面)に、布などで一方向にラビングすることにより実施できる。また、機械的配向処理は、基材を延伸することにより実施できる。これらの機械的配向処理により、基材の一面に配向層を形成できる。
【0056】
化学的配向処理は、基材の一面に、配向剤を含む光配向膜を形成し、該光配向膜に光を照射することにより実施できる。これにより、基材の一面に配向層を形成できる。配向剤としては、例えば、光異性化反応、光開閉環反応、光二量化反応、光分解反応、光フリース転移反応などの光化学反応を生じる光反応性官能基を有するポリマーなどが挙げられる。ジスアゾ化合物の配向効率の点から、好ましくはイミド系ポリマーである。光配向膜は、配向剤を適用な溶媒に溶解させて溶液状とし、これを基材に塗布することによって形成できる。
【0057】
上記基材上(好ましくは基材の配向層上)に、コーティング液を塗布する。該コーティング液は、粘度0.1mPa・s〜30mPa・sに調製することが好ましく、さらに、粘度0.5mPa・s〜3mPa・sがより好ましい。ただし、粘度は、レオメーター(Haake社製、製品名:レオストレス600、測定条件:ダブルコーンセンサー shear rate 1000(1/s))で測定した値である。
【0058】
上記コーティング液は、固形分濃度が比較的低いため、流動性に優れ、さらに、塗布機(例えばコータ等)の最適塗布粘度範囲に調製することも簡易に行え得る。従って、上記コーティング液を用いれば、薄膜状で且つ均一な塗膜を基材上に形成することができる。
【0059】
コーティング液を基材の一面に塗布する方法としては、適切なコータを用いた塗布方法が採用され得る。該コータとしては、例えば、バーコータ、リバースロールコータ、正回転ロールコータ、グラビアコータ、ロッドコータ、スロットダイコータ、スロットオリフィスコータ、カーテンコータ、ファウンテンコータなどが挙げられる。
【0060】
液晶相状態のコーティング液を塗布すると、コーティング液の流動過程でジスアゾ化合物に剪断応力が加わる。よって、ジスアゾ化合物が所定方向に配向した塗膜を基材上に形成できる。
具体的には、液晶相状態のコーティング液中におけるジスアゾ化合物は、超分子会合体を形成している。該ジスアゾ化合物を含むコーティング液を所定方向に流延すると、超分子会合体に剪断応力が加わる。その結果、ジスアゾ化合物からなる超分子会合体の長軸が例えば流延方向に配向した、塗膜を基材上に形成することができる。
上記のように、ジスアゾ化合物は、コーティング液の流延時に加わる剪断応力によって配向する。もっとも、他の手段によってジスアゾ化合物を配向させることもできる。
上記他の手段としては、例えば、(a)配向処理が施された基材上にコーティング液を塗布する手段、(b)基材上にコーティング液を塗布して塗膜を形成した後、磁場又は電場を印加する手段などが挙げられる。これらの他の手段を単独で行っても、ジスアゾ化合物が所定方向に配向した塗膜を形成できる。
【0061】
<工程B>
工程Bは、前記塗膜を乾燥する工程である。
基材上に、コーティング液を塗布して塗膜を形成した後、これを乾燥する。
乾燥は、自然乾燥、強制的な乾燥などで実施できる。強制的な乾燥としては、減圧乾燥、加熱乾燥、減圧加熱乾燥などが挙げられる。強制的な乾燥は、例えば、熱風又は冷風が循環する空気循環式恒温オーブン、マイクロ波若しくは遠赤外線などを利用したヒーター、温度調節用に加熱されたロール、加熱されたヒートパイプロール、加熱された金属ベルトなどの乾燥手段を用いて実施できる。
乾燥温度は、コーティング液の等方相転移温度以下であり、低温から高温へ徐々に昇温させることが好ましい。前記乾燥温度は、好ましくは50℃〜120℃であり、より好ましくは20℃〜60℃である。かかる温度範囲であればコーティング液に含まれるジスアゾ化合物が微細な結晶となって析出することを防止できる。よって、ヘイズ値が小さい乾燥塗膜を得ることができる。
乾燥時間は、乾燥温度や溶媒の種類によって、適宜、選択され得る。厚みバラツキの小さい乾燥塗膜を得るためには、乾燥時間は、例えば1分〜30分であり、好ましくは1分〜10分である。
【0062】
上記塗膜は、乾燥する過程で濃度が上昇し、配向したジスアゾ化合物が固定される。塗膜中のジスアゾ化合物の配向が固定されることによって、偏光膜の特性である、吸収二色性を生じる。得られた乾燥塗膜は、偏光膜として使用できる。
得られた乾燥塗膜の厚みは、好ましくは0.05μm〜5μmである。乾燥塗膜中の残存溶媒量は、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0063】
上記方法によって製造された偏光膜は、ヘイズ値が小さい(例えば3.0%以下)。ヘイズ値が小さい偏光膜が得られる理由は、下記のように推定される。
本発明のジスアゾ化合物は、溶媒に対して溶解性を有し、特に水系溶媒に対して高い溶解性を有する。このジスアゾ化合物が溶媒に溶解されたコーティング液は、その乾燥過程で、ジスアゾ化合物が結晶化し難い。よって、上記ジスアゾ化合物を用いれば、透明性に優れた偏光膜を得ることができる。
【0064】
<工程C>
工程Cは、上記乾燥塗膜の表面(基材の接合面と反対面)に、耐水性を付与する工程である。
具体的には、上記工程Bで形成された乾燥塗膜の表面に、アルミニウム塩、バリウム塩、鉛塩、クロム塩、ストロンチウム塩、セリウム塩、ランタン塩、サマリウム塩、イットリウム塩、銅塩、鉄塩、及び分子内に2個以上のアミノ基を有する化合物塩からなる群から選択される少なくとも1種の化合物塩を含む溶液を接触させる。
【0065】
上記化合物塩としては、例えば、塩化アルミニウム、塩化バリウム、塩化鉛、塩化クロム、塩化ストロンチウム、4,4’−テトラメチルジアミノジフェニルメタン塩酸塩、2,2’−ジピリジル塩酸塩、4,4’−ジピリジル塩酸塩、メラミン塩酸塩、テトラアミノピリミジン塩酸塩などが挙げられる。このような化合物塩の層を形成することにより、乾燥塗膜の表面を水に対して不溶化又は難溶化させることができる。よって、乾燥塗膜に、耐水性を付与できる。
【0066】
上記化合物塩を含む溶液に於いて、その化合物塩の濃度は、好ましくは3質量%〜40質量%であり、より好ましくは5質量%〜30質量%である。
乾燥塗膜の表面に、上記化合物塩を含む溶液を接触させる方法としては、例えば、(a)乾燥塗膜の表面に上記化合物塩を含む溶液を塗布する方法、(b)乾燥塗膜を上記化合物塩を含む溶液に浸漬する方法などが採用され得る。これらの方法を採用する場合、乾燥塗膜の表面は、水又は任意の溶剤で洗浄した後、乾燥しておくことが好ましい。
【0067】
(本発明の偏光膜の用途等)
上記コーティング液を基材上に塗布乾燥することによって形成された偏光膜1は、図1に示すように、基材2上に積層されている。
本発明の偏光膜1は、通常、基材2上に積層された状態で使用される。もっとも、前記偏光膜1は、上記基材2から剥離して使用することもできる。
本発明の偏光膜1には、さらに、他の光学フィルムを積層してもよい。他の光学フィルムとしては、保護フィルム、位相差フィルムなどが挙げられる。本発明の偏光膜に、保護フィルム及び/又は位相差フィルムを積層することにより、偏光板を構成できる。
図2に、本発明の偏光膜1に保護フィルム3が積層された偏光板5を示す。この偏光板5は、基材2と、前記基材2上に積層された偏光膜1と、前記偏光膜1上に積層された保護フィルム3と、を有する。基材2は、偏光膜1を保護する機能を有する。このため、前記偏光板5は、偏光膜1の一方の面にのみ保護フィルム3が積層されている。
また、特に図示しないが、この偏光板5には、位相差フィルムなどの他の光学フィルムが積層されていてもよい。
【0068】
偏光膜に他の光学フィルムを積層する場合、実用的には、これらの間には任意の適切な接着層が設けられる。接着層を形成する材料としては、例えば、接着剤、粘着剤、アンカーコート剤等が挙げられる。
【0069】
本発明の偏光膜の用途は、特に限定されない。本発明の偏光膜は、例えば、液晶表示装置などの画像表示装置の構成部材として使用される。
前記画像表示装置が液晶表示装置の場合、その好ましい用途は、テレビ、パソコンモニター、ノートパソコン、コピー機などのOA機器;携帯電話、時計、デジタルカメラ、携帯情報端末(PDA)、携帯ゲーム機などの携帯機器;ビデオカメラ、電子レンジなどの家庭用電気機器;バックモニター、カーナビゲーションシステム用モニター、カーオーディオなどの車載用機器;商業店舗用インフオメーション用モニターなどの展示機器;監視用モニターなどの警備機器;介護用モニター、医療用モニターなどの介護・医療機器等である。
【実施例】
【0070】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をさらに説明する。ただし、本発明は、下記実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた各分析方法は、以下の通りである。
【0071】
(1)液晶相の確認
コーティング液の液晶相は、2枚のスライドガラスの間にコーティング液を少量挟み込み、偏光顕微鏡(オリンパス(株)製、製品名「OPTIPHOT−POL」)を用いて、室温(23℃)で観察した。
(2)厚みの測定
偏光膜の厚みは、ノルボルネン系ポリマーフィルム上に形成された偏光膜の一部を剥離し、3次元非接触表面形状計測システム((株)菱化システム製、製品名「Micromap MM5200」)を用い、前記フィルムと偏光膜の段差を測定した。
(3)ヘイズ値の測定方法
ヘイズ値は、ヘイズ測定装置(村上色彩研究所社製、製品名「HR−100」)を用いて、室温(23℃)で測定した。この測定は、3回行い、その平均値をヘイズ値とした。
【0072】
[実施例1]
下記構造式(VII)で表されるジスアゾ化合物(2.00g、2.83mmol)に、水(10mL)とグリシドール(1.05g、14.2mmol)を加え、100℃に加熱して3時間撹拌し、N−アルキル化反応させた。この反応溶液をアセトンに加えることによって生じる沈殿物をろ別、洗浄、乾燥することで、下記構造式(VIII)で表されるジスアゾ化合物(1.61g、2.07mmol。収率73%)を得た。
なお、得られたジスアゾ化合物の構造は、NMR(核磁気共鳴装置)を用いて確認した。
H NMR(d6−DMSO)9.03(d,ArH,1H),8.59(s,ArH,1H),8.38(d,ArH,1H),8.1−7.9(m,ArH,4H),7.81(s,ArH,1H),7.46(s,ArH,1H),7.20(d,ArH,2H),6.89(brs,ArNH,1H),5.07(d,CH−OH,1H),4.88(t,CH−OH,1H),3.91(s,OCH,3H),3.8−3.7(m,−NHCHCH(OH)CHOH,1H),3.5−3.1(m,−NHCHCH(OH)CHOH,4H)。
【0073】
【化7】

【0074】
次いで、上記構造式(VIII)で表されるジスアゾ化合物をイオン交換水に溶解し、5質量%の偏光膜形成用のコーティング液を調製した。
このコーティング液を偏光顕微鏡で観察したところ、該コーティング液はネマチック液晶相を示していた。
【0075】
上記コーティング液を、ラビング処理及びコロナ処理が施されたノルボルネン系ポリマーフィルム(日本ゼオン社製、商品名「ゼオノア」)の前記処理面上に、バーコータ(BUSHMAN社製、製品名「Mayer rot HS4」)を用いて塗布し、室温下で自然乾燥した。乾燥後の塗膜が、偏光膜である。
得られた偏光膜の厚みは、0.4μmであった。また、この偏光膜のヘイズ値は、2.4%であった。
【0076】
[実施例2]
上記構造式(VII)で表されるジスアゾ化合物(2.00g、2.83mmol)に、水(10mL)とグリセロールジグリシジルエーテル(1.73g、8.49mmol)を加え、120℃に加熱して10時間撹拌し、N−アルキル化反応させた。この反応溶液をアセトンに加えることによって生じる沈殿物をろ別、洗浄、乾燥することで、下記構造式(IX)で表されるジスアゾ化合物(2.20g、2.37mmol。収率84%)を得た。
なお、得られたジスアゾ化合物の構造は、NMRを用いて確認した。
H NMR(d6−DMSO)9.02(d,ArH,1H),8.58(s,ArH,1H),8.38(d,ArH,1H),8.1−7.9(m,ArH,4H),7.89(s,ArH,1H),7.45(s,ArH,2H),7.24(d,ArH,2H),6.87(brs,ArNH,1H),5.1−4.4(m,OH,4H),3.91(s,OCH,3H),4.0−3.3(m,−NHCHCH(OH)CHOH,1H),3.1−3.0(m,−NHCH,2H)。
【0077】
【化8】

【0078】
次いで、上記構造式(IX)で表されるジスアゾ化合物をイオン交換水に溶解し、5質量%の偏光膜形成用のコーティング液を調製した。
このコーティング液を偏光顕微鏡で観察したところ、該コーティング液はネマチック液晶相を示していた。
【0079】
上記コーティング液を、実施例1と同様にして、ノルボルネン系ポリマーフィルムの処理面上に塗布し、乾燥した。得られた偏光膜の厚みは、0.4μmであった。また、この偏光膜のヘイズ値は、1.3%であった。
【0080】
[実施例3]
上記構造式(VII)で表されるジスアゾ化合物(2.00g、2.83mmol)に、水(10mL)、ヒドロキノン(触媒量)及びメタクリル酸グリシジル(0.81g、5.67mmol)を加え、80℃に加熱して15時間撹拌し、N−アルキル化反応させた。この反応溶液をアセトンに加えることによって生じる沈殿物をろ別、洗浄、乾燥することで、下記構造式(X)で表されるジスアゾ化合物(1.93g、2.28mmol。収率80%)を得た。
なお、得られたジスアゾ化合物の構造は、NMRを用いて確認した。
H NMR(d6−DMSO)9.02(d,ArH、1H),8.58(s,ArH,1H),8.39(d,ArH,1H),8.1−7.9(m,ArH,4H),7.82(s,ArH,1H),7.48(d,ArH,2H),7.19(d,ArH,2H),6.91(brs,ArNH,1H),6.15(s,cis−HHC=C−,1H),5.75(s,trans−HHC=C−,1H),5.44(d,CH−OH,1H),4.2−4.0(m,−NHCHCH(OH)CHOMc,3H),3.91(s,−OCH,3H),3.5−3.1(m,−NHCHCH(OH)CHOH,4H),3.6−3.4(m,−NHCHCH(OH)CHOMc,3H),1.93(s,CH,3H)。
【0081】
【化9】

【0082】
次いで、上記構造式(X)で表されるジスアゾ化合物をイオン交換水に溶解し、5質量%の偏光膜形成用のコーティング液を調製した。
このコーティング液を偏光顕微鏡で観察したところ、該コーティング液はネマチック液晶相を示していた。
【0083】
上記コーティング液を、実施例1と同様にして、ノルボルネン系ポリマーフィルムの処理面上に塗布し、乾燥した。得られた偏光膜の厚みは、0.4μmであった。また、この偏光膜のヘイズ値は、2.9%であった。
【0084】
[実施例4]
下記構造式(XI)で表されるアゾベンゼン色素化合物(1.00mmol)に、水(5mL)とグリシドール(0.58g、7.88mmol)を加え、120℃に加熱して3時間撹拌し、N−アルキル化反応させた。この反応溶液をアセトンに加えることで生じる沈殿物をろ別、洗浄、乾燥することで、下記構造式(XII)で表されるジスアゾ化合物(0.95g、1.35mmol。収率85%)を得た。
なお、得られたジスアゾ化合物の構造は、NMRを用いて確認した。
H NMR(d6−DMSO)12.93(s,ArOH,1H),9.22(s,ArH,1H),8.98(d,ArH,1H),8.5−8.0(m,ArH,8H),7.69(d,ArH,1H),7.33(d,ArH,1H),6.99(d,ArH,1H),5.07(d,CH−OH,1H),4.88(t,CH−OH,1H),3.84(m,−NHCHCH(OH)CHOH,1H),3.5−3.1(m,−NHCHCH(OH)CHOH,4H)。
【0085】
【化10】

【0086】
次いで、上記構造式(XII)で表されるジスアゾ化合物をイオン交換水に溶解し、5質量%の偏光膜形成用のコーティング液を調製した。
このコーティング液を偏光顕微鏡で観察したところ、該コーティング液はネマチック液晶相を示していた。
【0087】
上記コーティング液を、実施例1と同様にして、ノルボルネン系ポリマーフィルムの処理面上に塗布し、乾燥した。得られた偏光膜の厚みは、0.4μmであった。また、この偏光膜のヘイズ値は、2.2%であった。
【0088】
[比較例1]
上記構造式(VII)で表されるジスアゾ化合物をイオン交換水に溶解し、5質量%の偏光膜形成用のコーティング液を調製した。
このコーティング液を偏光顕微鏡で観察したところ、該コーティング液はネマチック液晶相を示していた。
【0089】
上記コーティング液を、実施例1と同様にして、ノルボルネン系ポリマーフィルムの処理面上に塗布し、乾燥した。得られた偏光膜の厚みは、0.4μmであった。また、この偏光膜のヘイズ値は、7.4%であった。
【0090】
[比較例2]
上記構造式(XI)で表されるジスアゾ化合物をイオン交換水に溶解し、5質量%の偏光膜形成用のコーティング液を調製した。
このコーティング液を偏光顕微鏡で観察したところ、該コーティング液はネマチック液晶相を示していた。
【0091】
上記コーティング液を、実施例1と同様にして、ノルボルネン系ポリマーフィルムの処理面上に塗布し、乾燥した。得られた偏光膜の厚みは、0.4μmであった。また、この偏光膜のヘイズ値は、5.3%であった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の偏光膜は、例えば、液晶表示装置の構成部材、偏光サングラスなどに利用できる。
本発明のコーティング液は、例えば、上記偏光膜を製造するときに利用できる。
本発明のジスアゾ化合物は、例えば、上記偏光膜の形成材料、その他の光学フィルムの形成材料、色素などに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】1つの実施形態に係る偏光膜を示す部分断面図。
【図2】1つの実施形態に係る偏光板を示す部分断面図。
【符号の説明】
【0094】
1…偏光膜、2…基材、3…保護フィルム、5…偏光板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるジスアゾ化合物を含む偏光膜。
【化1】

一般式(I)において、Qは、置換基を有していてもよいアリール基を表し、Qは、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、Mは、対イオンを表し、Xは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基(アルキル基中の隣接しない炭素原子が酸素原子に置き換わっていてもよい)、メタクリル基、又はアクリル基を表し、mは、1又は2の整数を表し、nは、1〜4の整数を表す。
【請求項2】
前記ジスアゾ化合物が、下記一般式(II)又は一般式(III)で表される化合物の少なくともいずれか一方である請求項1に記載の偏光膜。
【化2】

一般式(II)及び一般式(III)において、Q、Q、M及びXは、一般式(I)と同じである。
【請求項3】
前記一般式(II)及び一般式(III)のQが、置換基を有していてもよいフェニル基であり、Qが、置換基を有していてもよいナフチレン基である請求項2に記載の偏光膜。
【請求項4】
前記ジスアゾ化合物が、下記一般式(V)又は一般式(VI)で表される化合物の少なくともいずれか一方である請求項1に記載の偏光膜。
【化3】

一般式(V)及び一般式(VI)において、A及びBは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基、炭素数1〜6のアルキルアミノ基、炭素数6〜20のフェニルアミノ基、炭素数1〜6のアシルアミノ基、ハロゲノ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、−SOM基、−COOM基、又は−OM基を表し、X、M、m及びnは、一般式(I)と同じである。
【請求項5】
ヘイズ値が3.0%以下である請求項1〜4のいずれかに記載の偏光膜。
【請求項6】
下記一般式(I)で表されるジスアゾ化合物と、溶媒と、を含むコーティング液。
【化4】

一般式(I)において、Qは、置換基を有していてもよいアリール基を表し、Qは、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、Mは、対イオンを表し、Xは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基(アルキル基中の隣接しない炭素原子が酸素原子に置き換わっていてもよい)、メタクリル基、又はアクリル基を表し、mは、1又は2の整数を表し、nは、1〜4の整数を表す。
【請求項7】
請求項6に記載のコーティング液を基材上に塗布し、乾燥することにより偏光膜を形成する偏光膜の製造方法。
【請求項8】
下記一般式(I)で表されるジスアゾ化合物。
【化5】

一般式(I)において、Qは、置換基を有していてもよいアリール基を表し、Qは、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、Mは、対イオンを表し、Xは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基(アルキル基中の隣接しない炭素原子が酸素原子に置き換わっていてもよい)、メタクリル基、又はアクリル基を表し、mは、1又は2の整数を表し、nは、1〜4の整数を表す。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−39154(P2010−39154A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−201546(P2008−201546)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】