説明

偏光部材の製造方法

【課題】偏光膜と機能性膜との密着性が高く、優れた耐久性を有する偏光部材を提供すること。
【解決手段】基材上に二色性色素含有溶液を塗布することにより偏光膜を形成すること、形成した偏光膜に対し、該膜中の二色性色素の固定化処理を施すこと、固定化処理後の偏光膜上に樹脂成分および水系溶媒を含有する水系樹脂組成物を塗布し、該組成物を乾燥させることによりプライマー層を形成すること、ならびに、形成されたプライマー層上に機能性膜を形成すること、を含む偏光部材の製造方法。前記固定化処理後かつ水系樹脂組成物の塗布前に、被塗布物に対して加熱処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光部材の製造方法に関するものであり、詳しくは優れた耐久性を有する偏光部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
偏光レンズは、溶接作業、医療治療等の特殊作業やスキーなどの各種スポーツ中に防眩メガネとして利用されるものであり、一般に二色性色素の偏光性を利用することにより防眩性が発揮される。二色性色素の偏光性は、ディスプレイ機器、光伝送機器、自動車や窓ガラス等の光学用途にも広く利用されている。これら偏光部材は、通常、二色性色素を含む偏光膜を基材上または基材上に設けた配列層上に形成することにより作製される。そのような偏光部材の製造方法が、例えば特許文献1〜4に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−527401号公報
【特許文献2】特開2009−237361号公報
【特許文献3】国際公開第2008/106034号
【特許文献4】国際公開第2009/029198号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1〜4に記載されているように、偏光部材では通常、耐久性向上、各種機能付与等を目的として偏光膜上に機能性膜が設けられる。しかし、偏光膜と機能性膜との密着性が低いと、保管中ないしは使用中に機能性膜が部材本体から剥離する場合がある。
【0005】
そこで本発明の目的は、偏光膜と機能性膜との密着性が高く、優れた耐久性を有する偏光部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
近年、環境および人体への影響の点から有機溶剤の使用が制限される傾向にあり、これに伴い有機溶剤をほとんど含まない水系樹脂組成物が提案されている。本願発明者は、二色性色素の多くは水溶性であるため、上記水系樹脂組成物であれば二色性色素を含む偏光膜への塗布適性に優れると考え、偏光膜と機能性膜との間に設けるプライマー層について水系樹脂組成物を用いて形成したところ、偏光膜と機能性膜との初期の密着性を向上することは可能となった。
しかし本願発明者の検討により、上記プライマー層では、長期にわたり偏光膜と機能性膜との密着性を良好に維持するには不十分であることが判明した。そこで本願発明者は、長期にわたり密着性を良好に維持するための手段を見出すべく更に検討を重ねた。その結果、二色性色素の固定化処理後かつ水系樹脂組成物の塗布前に、被塗布物に加熱処理を施すことにより、偏光膜と機能性膜との密着性を長期にわたり良好に維持することが可能となることを新たに見出した。この点について本願発明者は、被塗布面である、固定化処理後の偏光膜表面の表面状態が、上記加熱処理によって水系樹脂組成物に含まれる樹脂成分が有する官能基と結合ないしは吸着しやすいように改質されることが、長期密着性向上に寄与していると推察している。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0007】
即ち、上記目的は、下記手段によって達成された。
[1]基材上に二色性色素含有溶液を塗布することにより偏光膜を形成すること、
形成した偏光膜に対し、該膜中の二色性色素の固定化処理を施すこと、
固定化処理後の偏光膜上に樹脂成分および水系溶媒を含有する水系樹脂組成物を塗布し、該組成物を乾燥させることによりプライマー層を形成すること、ならびに、
形成されたプライマー層上に機能性膜を形成すること、
を含む偏光部材の製造方法であって、
前記固定化処理後かつ水系樹脂組成物の塗布前に、被塗布物に対して加熱処理を施すことを特徴とする、偏光部材の製造方法。
[2]前記固定化処理を、シランカップリング剤溶液を偏光膜上に塗布することにより行う、[1]に記載の偏光部材の製造方法。
[3]前記シランカップリング剤として、エポキシ基含有シランカップリング剤を使用する、[2]に記載の偏光部材の製造方法。
[4]前記固定化処理を、アミノ基含有シランカップリング剤溶液およびエポキシ基含有シランカップリング剤溶液をこの順に、偏光膜上に塗布することにより行う、[3]に記載の偏光部材の製造方法。
[5]前記樹脂成分はポリウレタン樹脂を含む、[1]〜[4]のいずれかに記載の偏光部材の製造方法。
[6]前記加熱処理後の被塗布物を一旦冷却した後に、前記水系樹脂組成物を塗布する、[1]〜[5]のいずれかに記載の偏光部材の製造方法。
[7]前記加熱処理を、炉内雰囲気温度が40〜80℃の範囲である加熱炉内に被塗布物を配置することにより行う、[1]〜[6]のいずれかに記載の偏光部材の製造方法。
[8]前記基材と偏光膜との間に配列層を有する、[1]〜[7]のいずれかに記載の偏光部材の製造方法。
[9]前記配列層はケイ素酸化物を含有する、[8]に記載の偏光部材の製造方法。
[10]前記機能性膜はハードコート膜である、[1]〜[9]のいずれかに記載の偏光部材の製造方法。
[11]前記加熱処理前に、偏光膜中の二色性色素の非水溶化処理を行うことを更に含む、[1]〜[10]のいずれかに記載の偏光部材の製造方法。
【0008】
先に説明したように、水系樹脂組成物を用いてプライマー層を形成することにより偏光膜と機能性膜との初期の密着性を向上することができるが長期にわたり密着性を維持するには不十分である。これに対し、上記本発明を適用することにより、偏光膜と機能性膜との密着性を長期にわたり良好に維持することができる。
ところで本願発明者の検討の結果、上記のように偏光膜と機能性膜との間に水系樹脂組成物を用いてプライマー層を形成した偏光部材の中には、偏光膜にクラックが発生してクモリ(ヘイズ)が生じるものが確認された。偏光部材、特に偏光レンズ(眼鏡レンズ)におけるクモリ(ヘイズ)の発生は、光学特性低下の原因となる。そこで本願発明者は、優れた耐久性と光学特性を兼ね備えた偏光部材を提供すべく、水系樹脂組成物から形成したプライマー層を有する偏光部材において偏光膜のクラック発生を防止する手段を見出すために更に検討を重ねた結果、上記プライマー層を膜厚0.5μm以下の薄層として形成することにより、偏光膜にクラックが発生することを抑制できることを新たに見出した。この理由について本願発明者は、以下のように推定している。
水系樹脂は一般に吸湿しやすい性質を有するため膨潤しやすい。したがって水系樹脂組成物から形成されたプライマー層は変形(膨潤)しやすく、このプライマー層の変形に伴い偏光膜も変形する。そしてプライマー層が厚くなるほど変形量も大きくなり、プライマー層の変形量に追随できなくなると偏光膜にクラックが発生する。したがって、プライマー層の厚さを、偏光膜がその変形に耐え得る範囲とすることにより、即ち0.5μm以下とすることにより、偏光膜のクラック発生を抑制することができると考えられる。
【0009】
即ち、本願発明者により、下記態様(以下、「態様A」ともいう)も見出された。下記態様Aによれば、優れた光学特性と耐久性を兼ね備えた偏光部材を提供することができる。特に、前記した本発明の製造方法を下記態様Aと組み合わせることで、優れた光学特性を有するとともに、長期にわたり優れた耐久性を示すことができる偏光部材を提供することができる。
【0010】
[1]基材上に二色性色素を含有する偏光膜と機能性膜とをこの順に有する偏光部材であって、
前記偏光膜と機能性膜との間に、厚さ0.5μm以下の水系樹脂層を有することを特徴とする偏光部材。
[2]前記基材と偏光膜との間に配列層を有する、[1]に記載の偏光部材。
[3]前記配列層はケイ素酸化物を含有する、[2]に記載の偏光部材。
[4]前記水系樹脂層は樹脂成分としてポリウレタン樹脂を含む、[1]〜[3]のいずれかに記載の偏光部材。
[5]前記機能性膜はハードコート膜である、[1]〜[4]のいずれかに記載の偏光部材。
[6]基材上に二色性色素含有溶液を塗布することにより偏光膜を形成すること、
形成された偏光膜上にプライマー層を形成すること、および、
形成されたプライマー層上に機能性膜を形成すること、
を含む偏光部材の製造方法であって、
前記プライマー層として、厚さ0.5μm以下の水系樹脂層を、樹脂成分および水系溶媒を含有する水系樹脂組成物を偏光膜上に塗布し、該組成物を乾燥させることにより形成することを特徴とする、偏光部材の製造方法。
[7]前記樹脂成分としてポリウレタン樹脂を使用する、[6]に記載の偏光部材の製造方法。
[8]前記水系樹脂組成物は樹脂成分が水中に分散した水分散液である、[6]または[7]に記載の偏光部材の製造方法。
[9]前記基材上に配列層を形成し、該配列層上に前記偏光膜を形成する、[6]〜[8]のいずれかに記載の偏光部材の製造方法。
[10]前記配列層としてケイ素酸化物含有層を形成する、[9]に記載の偏光部材の製造方法。
[11]前記機能性膜としてハードコート層を形成する、[6]〜[10]のいずれかに記載の偏光部材の製造方法。
[12]前記プライマー層の形成前に、偏光膜中の二色性色素の非水溶化処理を行うことを更に含む、[6]〜[11]のいずれかに記載の偏光部材の製造方法。
[13]前記プライマー層の形成前に、偏光膜中の二色性色素の固定化処理を行うことを更に含む、[6]〜[12]のいずれかに記載の偏光部材の製造方法。
【0011】
更に本願発明者により、以下の新たな知見も見出された。
【0012】
前述の特許文献1、3の実施例では、偏光膜上に機能性膜として、アクリル系の被膜が設けられている。しかし、上記アクリル系の被膜は偏光部材の耐スクラッチ性を高めるために有効であるものの、二色性色素を含有する偏光膜との密着性に乏しく、そのため保管中ないしは使用中に部材本体から剥離する場合がある。この理由について本願発明者は、機能性膜を形成するために使用される多官能アクリレート系化合物が、偏光膜中に含まれる二色性色素との親和性に乏しいことが、アクリル系機能性膜と偏光膜との密着性の低さの原因であると考えた。
これに対し本願発明者が、偏光膜とアクリル系機能性膜との間に水系樹脂組成物を用いてプライマー層を形成したところ、偏光膜と機能性膜との密着性を長期にわたり良好に維持することが可能となった。これは水系樹脂組成物が、二色性色素膜(偏光膜)のみならず多官能アクリレート系化合物に対しても高い親和性を有することに起因すると、本願発明者は推察している。また、本願発明者の検討の結果、水系樹脂組成物は、二色性色素の非水溶化処理を施した後であっても偏光膜に対して高い親和性を示すことも明らかになった。この点は、従来知られていなかった点であり、本願発明者により見出された新たな知見である。
【0013】
即ち、本願発明者により、下記態様(以下、「態様B」ともいう)も見出された。下記態様Bによれば、アクリル系被膜と偏光膜との密着性を長期にわたり良好に維持することができる。特に、前記した本発明の製造方法、前記態様A、および下記態様Bの三態様の二以上を任意に組み合わせることにより、長期にわたり優れた耐久性を示し、優れた光学特性を有する偏光部材を提供することが可能となる。
【0014】
[1]基材上に二色性色素を含有する偏光膜と機能性膜とをこの順に有する偏光部材であって、
前記偏光膜と機能性膜との間に水系樹脂層を有し、かつ前記機能性膜は多官能アクリレート系化合物を含有する塗布膜を硬化させることにより形成されたものであることを特徴する偏光部材。
[2]前記偏光膜は、非水溶化処理が施された二色性色素を含有する、[1]に記載の偏光部材。
[3]前記基材と偏光膜との間に配列層を有する、[1]または[2]に記載の偏光部材。
[4]前記配列層はケイ素酸化物を含有する、[3]に記載の偏光部材。
[5]前記水系樹脂層は樹脂成分としてポリウレタン樹脂を含む、[1]〜[4]のいずれかに記載の偏光部材。
[6]基材上に二色性色素含有溶液を塗布することにより偏光膜を形成すること、
形成された偏光膜上にプライマー層を形成すること、および、
形成されたプライマー層上に機能性膜を形成すること、
を含む偏光部材の製造方法であって、
前記プライマー層を、樹脂成分および水系溶媒を含有する水系樹脂組成物を偏光膜上に塗布し、該組成物を乾燥させることにより形成し、かつ、
前記機能性膜を、形成されたプライマー層上に多官能アクリレート系化合物を含有する塗布液を塗布することにより塗布膜を形成し、次いで該塗布膜を硬化させることにより形成することを特徴とする、偏光部材の製造方法。
[7]前記樹脂成分としてポリウレタン樹脂を使用する、[6]に記載の偏光部材の製造方法。
[8]前記水系樹脂組成物は樹脂成分が水中に分散した水分散液である、[5]または[7]に記載の偏光部材の製造方法。
[9]前記基材上に配列層を形成し、該配列層上に前記偏光膜を形成する、[6]〜[8]のいずれかに記載の偏光部材の製造方法。
[10]前記配列層としてケイ素酸化物含有層を形成する、[9]に記載の偏光部材の製造方法。
[11]前記プライマー層の形成前に、偏光膜中の二色性色素の非水溶化処理を行うことを更に含む、[6]〜[10]のいずれかに記載の偏光部材の製造方法。
[12]前記プライマー層の形成前に、偏光膜中の二色性色素の固定化処理を行うことを更に含む、[6]〜[11]のいずれかに記載の偏光部材の製造方法。
【0015】
本発明によれば、長期にわたり優れた耐久性を示す、高品質な偏光部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例および比較例の偏光レンズの層構成の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、基材上に二色性色素含有溶液を塗布することにより偏光膜を形成すること、形成した偏光膜に対し、該膜中の二色性色素の固定化処理を施すこと、固定化処理後の偏光膜上に樹脂成分および水系溶媒を含有する水系樹脂組成物を塗布し、該組成物を乾燥させることによりプライマー層を形成すること、ならびに、形成されたプライマー層上に機能性膜を形成すること、を含む偏光部材の製造方法に関する。本発明の偏光部材の製造方法は、前記固定化処理後かつ水系樹脂組成物の塗布前に、被塗布物に対して加熱処理を施すことにより偏光膜と機能性膜との密着性を、長期にわたり良好に維持することができる。
以下、本発明の偏光部材の製造方法について、更に詳細に説明する。
【0018】
基材
前記基材としては、特に限定されるものではなく、プラスチック、無機ガラス等を挙げることができる。プラスチックとしては、例えばメチルメタクリレート単独重合体、メチルメタクリレートと1種以上の他のモノマーとの共重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート単独重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートと1種以上の他のモノマーとの共重合体、イオウ含有共重合体、ハロゲン共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリチオウレタン、エピチオ基を有する化合物を材料とする重合体、スルフィド結合を有するモノマーの単独重合体、スルフィドと一種以上の他のモノマーとの共重合体、ポリスルフィドと一種以上の他のモノマーとの共重合体、ポリジスルフィドと一種以上の他のモノマーとの共重合体等などが挙げられる。基材の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば偏光部材が偏光レンズである場合、通常1〜30mm程度である。また、その上に偏光膜が形成される基材の表面形状は特に限定されず、平面、凸面、凹面等の任意の形状であることができる。
【0019】
配列層
偏光膜に含まれる二色性色素の偏光性は、主に二色性色素が一軸配向することにより発現される。二色性色素を一軸配向させるためには、ポリビニルアルコール(PVA)フィルムに二色性色素を含浸させた後、該フィルムを一軸延伸する方法、二色性色素を含む塗布液を溝を有する表面上に塗布する方法が一般的に採用されている。偏光膜を後者の方法、即ち溝を有する表面に塗布液を塗布して形成する場合、二色性色素を一軸配向させるための溝は、基材表面に形成してもよいが、上記特許文献1〜4に記載されているように、基材上に設けた配列層の表面に形成することが、二色性色素の偏光性を良好に発現させるうえで有利である。
【0020】
上記配列層は、通常、基材上に直接または他の層を介して間接的に設けられる。基材と配列層との間に形成され得る層の一例としては、ハードコート層を挙げることができる。ハードコート層としては、特に限定されるものではないが有機ケイ素化合物に微粒子状金属酸化物を添加した被膜が好適である。なお、有機ケイ素化合物に代えてアクリル化合物を使用することもできる。また、アクリレートモノマーやオリゴマー等の公知の紫外線硬化樹脂やEB硬化樹脂を、ハードコート形成用のコーティング組成物として用いることもできる。ハードコート層の詳細については、例えば、特開2007−77327号公報段落[0071]〜[0074]および特開2009−237361号公報段落[0027]を参照できる。ハードコート層の厚さは、例えば0.5〜10μm程度である。なお、レンズ基材としてはハードコート付きで市販されているものもあり、本発明ではそのようなレンズ基材上に配列層を形成することもできる。
【0021】
上記配列層の厚さは、通常0.02〜5μm程度であり、好ましくは0.05〜0.5μm程度である。配列層は、蒸着、スパッタ等の公知の成膜法によって成膜材料を堆積させることにより形成してもよく、ディップ法、スピンコート法等の公知の塗布法によって形成してもよい。上記成膜材料として好適なものとしては、金属、半金属、またはこれらの酸化物、複合体もしくは化合物を挙げることができる。より好ましくは、Si、Al、Zr、Ti、Ge、Sn、In、Zn、Sb、Ta、Nb、V、Y、Crから選ばれる材料またはその酸化物、さらにはこれら材料の複合体もしくは化合物を用いることができる。これらの中でも配列層としての機能付与の容易性の観点からはSiO、SiO2等のケイ素酸化物が好ましく、中でも後述するシランカップリング剤との反応性の点からはSiO2が好ましい。
【0022】
一方、上記塗布法によって形成される配列層としては、無機酸化物ゾルを含むゾル−ゲル膜を挙げることができる。上記ゾル−ゲル膜の形成に好適な塗布液としては、アルコキシシラン、ヘキサアルコキシジシロキサンを無機酸化物ゾルとともに含む塗布液を挙げることができる。配列膜としての機能付与の容易性の観点から、上記アルコキシシランは、好ましくは特開2009−237361号公報に記載の一般式(1)で表されるアルコキシシランであり、上記ヘキサアルコキシジシロキサンは、好ましくは特開2009−237361号公報に記載の一般式(2)で表されるヘキサアルコキシジシロキサンである。上記塗布液は、アルコキシシラン、ヘキサアルコキシジシロキサンのいずれか一方を含んでもよく、また両方を含んでもよい。更に必要に応じて特開2009−237361号公報に記載の一般式(3)で表される官能基含有アルコキシシランを含むこともできる。上記塗布液および成膜方法(塗布方法)の詳細については、特開2009−237361号公報段落[0011]〜[0023]、[0029]〜[0031]および同公報記載の実施例を参照できる。
【0023】
次いで、上記配列層上に塗布される塗布液中の二色性色素を一軸配向させるために、通常、形成した配列層上に溝を形成する。溝が形成された配列層表面に二色性色素を含む塗布液を塗布すると、二色性色素が溝に沿って、または溝と直交する方向に配向する。これにより、二色性色素を一軸配向させ、その偏光性を良好に発現させることができる。上記溝の形成は、例えば、液晶分子の配向処理のために行われるラビング工程によって行うことができる。ラビング工程は、被研磨面を布などで一定方向に擦る工程であり、その詳細は、例えば米国特許2400877号明細書や米国特許4865668号明細書等を参照できる。または、特開2009−237361号公報段落[0033]〜[0034]に記載の研磨処理により、配列層上に溝を形成することも可能である。形成される溝の深さやピッチは、二色性色素を一軸配向させることができるように設定すればよい。
【0024】
偏光膜(二色性色素膜)
次に、基材上に直接または配列層等を介して設けられる偏光膜(二色性色素膜)について説明する。
【0025】
「二色性」とは、媒質が光に対して選択吸収の異方性を有するために、透過光の色が伝播方向によって異なる性質を意味し、二色性色素は、偏光光に対して色素分子のある特定の方向で光吸収が強くなり、これと直行する方向では光吸収が小さくなる性質を有する。また、二色性色素の中には、水を溶媒とした時、ある濃度・温度範囲で液晶状態を発現するものが知られている。このような液晶状態のことをリオトロピック液晶という。この二色性色素の液晶状態を利用して特定の一方向に色素分子を配列させることができれば、より強い二色性を発現することが可能となる。上記溝を形成した表面上に二色性色素を含有する塗布液を塗布することにより二色性色素を一軸配向させることができ、これにより良好な偏光性を有する偏光膜を形成することができる。
【0026】
本発明において使用される二色性色素としては、特に限定されるものではなく、偏光部材に通常使用される各種二色性色素を挙げることができる。具体例としては、アゾ系、アントラキノン系、メロシアニン系、スチリル系、アゾメチン系、キノン系、キノフタロン系、ペリレン系、インジゴ系、テトラジン系、スチルベン系、ベンジジン系色素等が挙げられる。また、米国特許2400877号明細書、特表2002−527786号公報に記載されているもの等でもよい。
【0027】
二色性色素含有塗布液は、溶液または懸濁液であることができる。二色性色素の多くは水溶性であるため、上記塗布液は通常、水を溶媒とする水溶液である。塗布液中の二色性色素の含有量は、例えば1〜50質量%程度であるが、所望の偏光性が得られればよく上記範囲に限定されるものではない。
【0028】
塗布液は、二色性色素に加えて、他の成分を含むこともできる。他の成分としては、二色性色素以外の色素を挙げることができ、このような色素を配合することで所望の色相を有する偏光部材を製造することができる。さらに塗布性等を向上させる観点から、必要に応じてレオロジー改質剤、接着性促進剤、可塑剤、レベリング剤等の添加剤を配合してもよい。
【0029】
塗布液の塗布方法としては、特に限定はなく、前述のディップ法、スピンコート法等の公知の方法が挙げられる。偏光膜の厚さは、特に限定されるものではないが、通常0.05〜5μm程度である。なお、後述するシランカップリング剤は通常、偏光膜に浸透し実質的に偏光膜に含まれることになる。
【0030】
上記二色性色素として水溶性色素を用いる場合には、膜安定性を高めるために塗布液を塗布乾燥した後に非水溶化処理を施すことが好ましい。非水溶化処理は、例えば色素分子の末端水酸基をイオン交換することや色素と金属イオンとの間でキレート状態を作り出すことにより行うことができる。そのためには、形成した偏光膜を金属塩水溶液に浸漬する方法を用いることが好ましい。使用できる金属塩としては、特に限定されるものではないが、例えばAlCl3、BaCl2、CdCl2、ZnCl2、FeCl2およびSnCl3等を挙げることができる。非水溶化処理後、偏光膜の表面をさらに乾燥させてもよい。
【0031】
前記偏光膜に対しては、膜強度および安定性を高めるために二色性色素の固定化処理を施す。この固定化処理は、上記の非水溶化処理の後に行うことが望ましい。固定化処理により、偏光膜中で二色性色素の配向状態を固定化することができる。
【0032】
前記固定化処理は、好ましくは、偏光膜表面にシランカップリング剤を、例えば濃度1〜15質量%程度、好ましくは1〜10質量%程度の溶液として塗布することにより実施される。上記溶液の溶媒は、水性溶媒であることが好ましく、水または水とアルコール(メタノール、エタノール等)との混合溶媒であることがより好ましい。上記溶液の塗布は、ディッピング法、スピンコーティング法、スプレー法等の公知の手段によって行うことができる。固定化処理の途中に、レンズ基材と偏光膜を含む部材を加熱炉内等に所定期間放置することにより、固定化効果を更に高めることができる。この炉内雰囲気温度および放置時間は、使用するシランカップリング剤の種類に応じて決定することができるが、通常、室温〜120℃、5分〜3時間程度である。
【0033】
上記シランカップリング剤としては、エポキシ基含有シランカップリング剤およびアミノ基含有シランカップリング剤が好ましい。固定化効果の観点からは、少なくともエポキシ基含有シランカップリング剤溶液を偏光膜上に塗布することにより固定化処理を行うことが好ましく、アミノ基含有シランカップリング剤の塗布後、エポキシ基含有シランカップリング剤を塗布することが更に好ましい。これは、エポキシ基含有シランカップリング剤(以下、「エポキシシラン」とも呼ぶ)と比べてアミノ基含有シランカップリング剤(以下、「アミノシラン」とも呼ぶ)は、その分子構造に起因して、一軸配向した二色性色素の分子間に入り込みやすいと推察されるからである。
この点について更に説明すると、シランカップリング剤により二色性色素の配列状態を固定化するメカニズムは、次の通りであると推察される。一軸配向した二色性色素の間にシランカップリング剤が入り込むとシランカップリング剤は加水分解により生成したシラノール基によって偏光膜の下層(例えば配列層)と結合する。この結果、二色性色素の間にシランカップリング剤が固定化された状態となり二色性色素同士が会合しにくくなるため、二色性色素の配向状態を維持することができる。ここで下層と結合させるためのカップリング剤としてアミノシランを用いると、アミノシランはアミノ基を上に向けた状態で偏光膜中に固定化された状態になると推察される。この上にエポキシシランを塗布すると、エポキシシランが架橋剤の役割を果たし、塗膜強度を高めることができると考えられる。これは、エポキシ基はアミノ基と高い反応性を有するため、アミノ基とエポキシ基が結合を形成するとともに、エポキシシランにおいて加水分解により生成したシラノール基が縮合しシロキサン結合を形成するからであると、本願発明者は推察している。
【0034】
シランカップリング剤とは、一般にR−Si(OR’)3で表される構造を有し(複数存在するR’は同一であっても異なっていてもよい)、エポキシ基含有シランカップリング剤とは、上記Rで表される官能基にエポキシ基を含むものである。エポキシ基は、通常、2価の連結基を介してSiに結合している。2価の連結基としては、後述の具体例化合物に含まれる連結基を挙げることができる。一方、上記R’で表される官能基は、通常アルキル基であり水性溶媒中で加水分解を受けシラノール(Si−OH)を生成する。上記R’で表されるアルキル基の炭素数は、例えば1〜10であり、好ましくは1〜3である。一方、アミノ基含有シランカップリング剤とは、上記Rで表される官能基にアミノ基を含むものであり、アミノシランに関する上記構造式の詳細は、Rにアミノ基を含む点以外は先にエポキシ基含有シランカップリング剤について述べた通りである。
【0035】
それらの具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(γ−GPS)、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のグリシドキシ基含有トリアルコキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリプロポキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリブトキシシラン、γ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、γ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリエトキシシラン、δ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリメトキシシラン、δ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリエトキシシラン等のエポキシアルキルアルコキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシランを挙げることができる。これらシランカップリング剤は、1種単独でも、または2種以上組み合わせて用いてもよい。なお、前記シランカップリング剤の塗布後、塗布面を純水、脱イオン水等ですすぎ洗いすることにより最表面に過剰に付着したシランカップリング剤を除去することも可能である。
【0036】
プライマー層
本発明の偏光部材の製造方法において、前記した固定化処理後の偏光膜と機能性膜との間に設けるプライマー層は、樹脂成分と水系溶媒を含有する水系樹脂組成物から形成される水系樹脂層であって、上層である機能性膜と偏光膜との密着性向上に寄与することができるものであり、水系であるため下層の偏光膜に含まれる二色性色素との親和性に優れる点で非水系樹脂と比べて有利である。なお本発明において、「水系樹脂組成物」とは、含有される水系溶媒が除去されることにより固化する性質を有する組成物をいうものとする。
【0037】
ここで形成するプライマー層の厚さが0.5μm以下であれば偏光膜と機能性膜との密着性の向上と偏光膜のクラック防止を同時に実現することができ好ましい。プライマー層の厚さは、偏光膜と機能性膜との密着性維持の観点から、0.05μm以上であることが好ましい。得られる偏光部材の光学特性と上記密着性の両立の観点から、プライマー層の厚さは0.10〜0.45μmの範囲であることがより好ましい。
【0038】
前記水系樹脂組成物に含まれる水系溶媒は、例えば水や極性溶媒等との混合溶媒であり、好ましくは水である。また、前記水系樹脂組成物中の固形分濃度は、液安定性および製膜性の観点から、好ましくは1〜62質量%であり、より好ましくは5〜38質量%である。前記水系樹脂組成物は、樹脂成分のほかに、必要に応じて、酸化防止剤、分散剤、可塑剤等の添加剤を含むことも可能である。また、市販されている水系樹脂組成物を、水、アルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)等の溶媒で希釈して使用してもよい。
【0039】
前記水系樹脂組成物は、水系溶媒に溶解した状態または微粒子(好ましくはコロイド粒子)として分散した状態で樹脂成分を含むことができる。中でも、水系溶媒中(好ましくは水中)に樹脂成分が微粒子状に分散した分散液であることが望ましく、この場合、上記樹脂成分の粒径は、組成物の分散安定性の観点から、0.3μm以下であることが好ましい。また、前記水系樹脂組成物のpHは、25℃において、5.5〜9.0程度であることが安定性の点から好ましく、25℃での粘度は、塗布適性の点から、5〜500mPa・sであることが好ましく、10〜50mPa・sであることがより好ましい。また、形成される水系樹脂層の物性を考慮すると、以下の膜特性を有する水系樹脂組成物が好ましい。厚さ1mmとなるようにガラス板上に塗布し、これを120℃で1時間乾燥させた後に得られる塗布膜が、ガラス転移温度Tgが−58℃〜7℃、鉛筆硬度が4B〜2H、JIS K 7113に準じて測定される引っ張り強度が15〜69MPa。
【0040】
前記水系樹脂組成物としては、樹脂成分として、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等を含むものが挙げられる。上記樹脂成分としては、密着性の点からポリウレタン樹脂が好ましい。ポリウレタン樹脂を含有する水系樹脂組成物、即ち水系ポリウレタン樹脂組成物は、例えば高分子量ポリオール化合物と有機ポリイソシアネート化合物とを、必要に応じて鎖延長剤とともに、反応に不活性で水との親和性の大きい溶媒中でウレタン化反応させてプレポリマーとし、このプレポリマーを中和後、鎖延長剤を含有する水系溶媒に分散させて高分子量化することにより調製することができる。そのような水系ポリウレタン樹脂組成物およびその調製方法については、例えば、特許第3588375号明細書段落[0009]〜[0013]、特開平8−34897号公報段落[0012]〜[0021]、特開平11−92653号公報段落[0010]〜[0033]、特開平11−92655号公報段落[0010]〜[0033]等を参照できる。また、上記水系ポリウレタン樹脂組成物としては、市販されている水性ウレタンをそのまま、または必要に応じて水系溶媒で希釈して使用することも可能である。市販されている水性ポリウレタンとしては、例えば、旭電化工業(株)製の「アデカボンタイター」シリーズ、三井東圧化学(株)製の「オレスター」シリーズ、大日本インキ化学工業(株)製の「ボンディック」シリーズ、「ハイドラン」シリーズ、バイエル製の「インプラニール」シリーズ、日本ソフラン(株)製の「ソフラネート」シリーズ、花王(株)製の「ポイズ」シリーズ、三洋化成工業(株)製の「サンプレン」シリーズ、保土谷化学工業(株)製の「アイゼラックス」シリーズ、第一工業製薬(株)製の「スーパーフレックス」シリーズ、ゼネカ(株)製の「ネオレッツ」シリーズ等を用いることができる。
【0041】
前記水系ポリウレタン樹脂組成物としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等のポリオールを基本骨格に持ち、カルボキシル基、スルホン基等のアニオン性基を持つ末端イソシアネートプレポリマーを水系溶媒に分散させた結果得られたものが好ましい。
【0042】
前記水系樹脂組成物を固定化処理後の偏光膜表面に塗布および乾燥させることにより、偏光膜上にプライマー層として水系樹脂層を形成することができる。塗布方法としては、ディップ法、スピンコート法等の公知の塗布法を用いることができる。塗布条件は、所望の膜厚のプライマー層を形成できるように適宜設定すればよい。塗布前には、被塗布面である偏光膜表面に対し、酸、アルカリ、各種有機溶媒等による化学的処理、プラズマ、紫外線、オゾン等による物理的処理、各種洗剤を用いる洗剤処理を行うこともできる。このような前処理を行うことにより、偏光膜表面と水系樹脂層との密着性を向上させることができる。
【0043】
ただし先に説明した通り、長期にわたり高い密着性を維持するためには上記塗布前に、被塗布物である基材と偏光膜との積層体に加熱処理(アニール)を施す必要があることが、本願発明者により新たに見出された。そこで本発明では、前述の固定化処理後、前記水系樹脂組成物の塗布前に、被塗布物に対して加熱処理を施す。上記加熱処理は、例えば、塗布前の部材全体を40〜80℃程度に温度制御された加熱炉内に、好ましくは5分〜1時間程度配置することにより行うことができる。また、上記加熱処理後に一旦冷却することにより、プライマー液の塗布時に膜厚を安定させることができる。この冷却処理は、加熱処理後の部材を炉外に取り出し所定時間放置し室温に戻すことにより行うことができる。
【0044】
水系樹脂組成物の塗布後、該組成物を乾燥させることによりプライマー層として水系樹脂層を形成することができる。上記乾燥は、例えば室温〜100℃の雰囲気中に5分〜24時間、プライマー層を形成した部材を配置することにより行うことができる。
【0045】
機能性膜
次いで、形成したプライマー層上に機能性膜を形成する。機能性膜としては、ハードコート膜、反射防止膜を挙げることができる。形成される機能性膜は1層であってもよく2層以上あってもよいが、偏光膜を保護し耐久性を向上する観点からは、少なくとも1層のハードコート膜が含まれることが好ましい。
【0046】
ハードコート膜については先にも説明したが、偏光膜上に設けるハードコート層は、光硬化性化合物から形成することが、作業性および得られる偏光部材の光学特性の点から有利である。
【0047】
上記の点から好ましいハードコート膜としては、多官能アクリレート系化合物を主成分とするものなどが例示される。なお本発明における「アクリレート」との語は、メタクリレートも含むものとする。また、以下の(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートを含むものとする。アクリル系機能性膜は偏光膜との密着性に乏しいところ、両膜の間に水系樹脂組成物から形成される水系樹脂層(プライマー層)を設けることで密着性を高めることができることが、本願発明者により新たに見出された。前記した態様Bは、この新たな知見に基づき完成されたものである。
【0048】
機能性膜形成のために使用される多官能アクリレート系化合物とは、分子中に少なくとも2個のアクリレート系重合性基を有する化合物であり、好ましくは分子中に少なくとも2個のアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を有する化合物であり、具体的には、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタグリセロールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、グリセリントリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、ペンタグリセロールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、グリセリントリメタクリレート、ジペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、トリス(メタクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ホスファゼン化合物のホスファゼン環にアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基が導入されたホスファゼン系アクリレート化合物またはホスファゼン系メタクリレート化合物、分子中に少なくとも2個のイソシアネート基を有するポリイソシアネートと少なくとも1個のアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基および水酸基を有するポリオール化合物との反応により得られるウレタンアクリレート化合物やウレタンメタクリレート化合物、分子中に少なくとも2個のカルボン酸ハロゲン化物と少なくとも1個のアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基および水酸基を有するポリオール化合物との反応により得られるポリエステルアクリレート化合物、ポリエステルメタクリレート化合物、ならびに上記各化合物の2量体、3量体などのようなオリゴマーなどが挙げられる。
【0049】
これらの化合物はそれぞれ単独または2種以上を混合して用いることができる。なお、上記の多官能(メタ)アクリレートの他に、ハードコート層用塗料組成物の硬化時の固形分に対して、好ましくは10.0質量%以下の、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の中から選択される少なくとも1種の単官能(メタ)アクリレートを配合してもよい。
【0050】
また、ハードコート層には、硬度を調整する目的で重合性オリゴマーを添加することができる。このようなオリゴマーとしては、末端(メタ)アクリレートポリメチルメタクリレート、末端スチリルポリ(メタ)アクリレート、末端(メタ)アクリレートポリスチレン、末端(メタ)アクリレートポリエチレングリコール、末端(メタ)アクリレートアクリロニトリル−スチレン共重合体、末端(メタ)アクリレートスチレン−メチル(メタ)アクリレート共重合体などのマクロモノマーを挙げることができる。その含有量は塗料組成物の硬化時の固形分に対して、好ましくは5.0〜50.0質量%である。
【0051】
上記重合性成分は、溶剤と混合した状態の溶液として用いてもよい。また、重合性成分として市販されているものを用いることも可能である。市販の化合物として具体的には、「NKハードM101」(新中村化学(株)製、ウレタンアクリレート化合物)、「NKエステルA−TMM−3L」(新中村化学(株)製、テトラメチロールメタントリアクリレート)、「NKエステルA−9530」(新中村化学(株)製、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)、「KAYARAD(登録商標)DPHAシリーズ」(日本化薬(株)製、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート化合物)、「KAYARAD(登録商標)DPCAシリーズ」(日本化薬(株)製、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート化合物の誘導体)、「アロニックス(登録商標)M−8560」(東亜合成(株)製、ポリエステルアクリレート化合物)、「ニューフロンティア(登録商標)TEICA」(第一工業製薬(株)製、トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート)、「PPZ」(共栄社化学(株)製、ホスファゼン系メタクリレート化合物)などが例示される。また、ハードコート層形成のための塗料組成物は、公知の光重合開始剤を含むこともできる。光重合開始剤の種類および使用量は、特に限定されるものではなく適宜設定することができる。
【0052】
上記ハードコート層形成成分は、通常、溶剤で希釈して用いられる。溶剤としては、ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノールなどのアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、セロソルブ類などから適宜選択して用いることができる。これらの有機溶剤は、必要に応じて数種類を混合して用いてもよい。溶剤の種類および使用量は、用いるハードコート層形成成分の種類や使用量、塗布方法、目的とするハードコート層の厚みなどに応じて適宜選択される。
【0053】
上記ハードコート層形成用塗料組成物をプライマー層上に塗布し、必要に応じて乾燥させた後に光照射することにより、ハードコート層を形成することができる。塗布は、ディップ法、スピンコート法等の公知の塗布法を用いることができる。塗布条件は、所望の膜厚のハードコート層を形成できるように適宜設定すればよい。照射する光は、例えば電子線または紫外線であり、照射する光の種類および照射条件は、使用するハードコート層形成成分の種類に応じて適宜選択される。
【0054】
一方、機能性膜として反射防止膜を形成する場合、反射防止膜としては、公知の無機酸化物よりなる単層、多層膜を使用することができる。この無機酸化物としては、例えば、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化ニオブ(Nb25)、酸化イットリウム(Y23)等が挙げられる。その形成方法は特に限定されるものではない。偏光膜上に形成されるハードコートの厚さは、例えば0.5〜10μm、反射防止膜の厚さは、例えば0.1〜5μmとすることができる。また、機能性膜として、撥水膜、紫外線吸収膜、赤外線吸収膜、フォトクロミック膜、帯電防止膜等も積層可能である。
【0055】
以上説明した本発明の製造方法により得られる偏光部材は、長期にわたり優れた耐久性を示すものであるため、長期にわたりユーザーに使用される各種偏光部材、例えば偏光レンズ、特に眼鏡レンズとして好適である。ただし本発明により得られる偏光部材は、上記構成を有するものであればレンズ形状のものに限定されるものではない。例えば、液晶ディスプレイ、光伝送機器、自動車や建物の窓ガラス等の偏光部材として本発明の偏光部材を適用することも、もちろん可能である。
【0056】
1.偏光レンズ作製の実施例・比較例
【0057】
[実施例1]
偏光レンズの作製
(1)配列層の形成
レンズ基材として、フェニックスレンズ(HOYA株式会社製、屈折率1.53、ハードコート付き、直径70mm、ベースカーブ4、中心肉厚1.5mm)を用いて、レンズ凹面に真空蒸着法により、厚さ0.2μmのSiO2膜を形成した。
形成されたSiO2膜に、研磨剤含有ウレタンフォーム(研磨剤:フジミインコーポレーテッド社製商品名POLIPLA203A、平均粒径0.8μmのAl23粒子、ウレタンフォーム:上記レンズ凹面の曲率とほぼ同形状)を用いて、一軸研磨加工処理を回転数350rpm、研磨圧50g/cm2の条件で30秒間施した。研磨処理を施したレンズは純水により洗浄、乾燥させた。
【0058】
(2)偏光膜の形成
レンズを乾燥後、研磨処理面上に、水溶性の二色性色素(スターリング オプティクス インク(Sterling Optics Inc)社製商品名Varilight solution 2S)の約5質量%水溶液2〜3gを用いてスピンコートを施し、偏光膜を形成した。スピンコートは、色素水溶液を回転数300rpmで供給し、8秒間保持、次に回転数400rpmで45秒間保持、さらに1000rpmで12秒間保持することで行った。
次いで、塩化鉄濃度が0.15M、水酸化カルシウム濃度が0.2MであるpH3.5の水溶液を調製し、この水溶液に上記で得られたレンズをおよそ30秒間浸漬し、その後引き上げ、純水にて充分に洗浄を施した。この工程により、水溶性であった色素は難溶性に変換される(非水溶化処理)。
【0059】
(3)固定化処理
上記(2)の後、レンズをγ−アミノプロピルトリエトキシシラン10質量%水溶液に15分間浸漬し、その後純水で3回洗浄し、加熱炉内(炉内温度85℃)で30分間加熱処理した後、炉内から取り出し室温まで冷却した。
上記冷却後、レンズをγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2質量%水溶液に30分浸漬した。
【0060】
(4)固定化処理後の加熱、冷却処理
上記固定化処理後、レンズを加熱炉内(炉内温度60℃)で30分間加熱処理した後、炉内から取り出し室温まで冷却した。
以上の処理後、形成された偏光膜の厚さは、約1μmであった。
【0061】
(5)水系樹脂層(プライマー層)の形成
上記冷却処理後の偏光膜表面に、スピンコート法により水系ポリウレタン樹脂組成物を塗布した。水系ポリウレタン樹脂組成物として、株式会社ADEKA製商品名アデカボンタイターHUX−232(ポリエステルポリオールを基本骨格にもちカルボキシル基を含有する末端イソシアネートプレポリマーを水に分散させた結果得られた水分散液、固形分30質量%、樹脂成分の粒径0.1μm未満、25℃での粘度20mPa・s、25℃でのpH8.5)をPGMにて6倍に希釈したものを使用した。スピンコートは、上記組成物を偏光膜上に回転数100rpmで供給し、10秒間保持、次に回転数400rpmで10秒間保持、さらに1000rpmで30秒間保持することで行った。
スピンコート後、レンズを加熱炉(炉内温度60℃)で30分間加熱処理することにより乾燥させて偏光膜上にプライマー層(水系樹脂層)を形成した。形成されたプライマー層の厚さは、0.30μmであった。
なお、使用した水系ポリウレタン樹脂組成物の前記した方法で測定される膜特性は、ガラス転移温度Tgが−18℃、鉛筆硬度がH、引っ張り強度は49MPaである。
【0062】
(6)ハードコート層の形成
上記(5)の処理を施したレンズにジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬製KAYARAD DPHA)1000質量部、酢酸エチル3000質量部、光重合開始剤(チバジャパン製Irgacure819)30質量部を混合した塗布液をスピンコート(1000rpmで、30秒保持)により塗布した。塗布後、紫外線照射装置によりUV照射光量1200mJ/cm2で硬化し、厚さ4.5μmのハードコートを得た。
以上の工程により、図1に示す層構成を有する偏光レンズを合計3枚用意した。
【0063】
[実施例2]
水系ポリウレタン樹脂組成物の使用量を変更することにより、厚さ0.44μmのプライマー層(水系樹脂層)を形成した点以外、実施例1と同様の方法により偏光レンズを得た。
【0064】
[実施例3]
加熱処理後、加熱炉から取り出したレンズに冷却処理を施さずに直ちに水系ポリウレタン樹脂組成物を塗布した点以外、実施例1と同様の方法により偏光レンズを得た。
【0065】
[比較例1]
固定化処理後のレンズに対して加熱および冷却処理を施さずに直ちにプライマー層の形成を行った点以外、実施例1と同様の方法により偏光レンズを得た。
【0066】
評価方法
(1)初期密着性の評価
作製直後のレンズについて、以下の方法で密着性を評価した。
<密着性評価方法>
ハードコート膜に1.5mm間隔で100目クロスカットし、このクロスカットしたところに粘着テープ(ニチバン株式会社製セロファンテープ)を強く貼り付けた後、粘着テープを急速に剥がした後の硬化膜の100目中の剥離マス目数を調べた。判断基準は以下の通りである。
(評価基準)
○ 剥離マス目数0〜2/100
△ 剥離マス目数3〜5/100
× 剥離マス目数6以下/100
(2)耐温水性試験後の密着性
実施例、比較例の各偏光レンズについて、50℃の温水に24時間浸漬した後に風乾させた偏光レンズの密着性を上記方法で評価した。
(3)耐湿性試験後の密着性
実施例、比較例の各偏光レンズについて、温度40℃かつ湿度90%RHの環境下で168時間保管した後の偏光レンズの密着性を上記方法で評価した。
以上の結果を、下記表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1に示すように、固定化処理後に加熱処理を行わなかった比較例1の偏光レンズは、耐温水性試験後、耐湿性試験後のいずれにおいてもハードコート膜と偏光膜との密着性が低かったのに対し、実施例1〜3の偏光レンズは、いずれの評価においても高い密着性を示した。また、これら実施例の各偏光レンズについて、作製直後、耐温水性試験後、耐湿性試験後のヘイズ値を株式会社村上色彩技術研究所製ヘイズメーターHM−150にて測定したところ、いずれもヘイズ値≦1.0%であり、高い透明性を有することも確認された。更に、実施例1〜3の偏光レンズの断面状態を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ(印加電圧10kV、倍率5000倍)、実施例1、2はプライマー層の膜厚の均一性が実施例3よりも高かった。これは、加熱処理後の冷却処理が膜厚の安定化に寄与しているからであると推察される。
【0069】
[比較例2]
非水系のウレタンアクリレート系プライマー(ダイセル・サイテック(株)UV−1700B)をPGMで100倍に希釈してスピンコート法により偏光膜上に塗布した後、紫外線照射(硬化処理)して厚さ0.30μmのプライマー層を形成した点以外、実施例1と同様の方法により偏光レンズを得た。作製直後の偏光レンズについて上記方法で密着性を評価したところ、評価結果は「×」であった。この結果から、非水系プライマーでは十分な密着性向上効果を発揮するプライマー層を形成することが困難であると判断した。
【0070】
[比較例3]
水系ポリウレタン樹脂組成物によるプライマー層の形成を行わず、偏光膜上に直接ハードコート層形成用塗布液を塗布した点以外、実施例1と同様の方法により偏光レンズを得た。得られた偏光レンズの(1)初期密着性、(2)耐温水性試験後の密着性、(3)耐湿性試験後の密着性、を前述の方法で評価した。結果を、前述の実施例1、2の評価結果とともに、下記表2に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
表2に示すように、プライマー層(水系ポリウレタン樹脂層)の形成を行わなかった比較例3の偏光レンズは、作製直後、耐温水性試験後、耐湿性試験後のいずれにおいてもハードコート膜と偏光膜との密着性が低かったのに対し、実施例1、2の偏光レンズは、いずれの評価においても高い密着性を示した。
【0073】
2.濡れ性の評価(接触角の測定)
【0074】
実施例1、2で使用した水系ポリウレタン樹脂組成物およびハードコート層形成用塗布液の、偏光膜表面に対する接触角を以下の方法で測定した。
協和界面化学製接触角測定装置(CONTACT-ANGLE METER型番CA-D)を用いて、前記した冷却処理までの処理を行ったレンズの偏光膜表面に対する前記組成物、塗布液の接触角を各3回測定し平均値を求めた。
上記と同様の方法で、実施例1と同様の方法で形成したプライマー層表面に対する、前記ハードコート層形成用塗布液の接触角の平均値を求めた。
測定された接触角の平均値から、以下の基準により濡れ性を評価したところ、前記ハードコート層形成用塗布液の偏光膜表面に対する濡れ性は「×」であった。これに対し実施例1、2で使用した水系ポリウレタン樹脂組成物の偏光膜表面に対する濡れ性、実施例1と同様の方法で形成したプライマー層表面に対するハードコート層形成用塗布液の濡れ性は、いずれも「○」であった。この結果から、水系樹脂層は、二色性色素を含有する偏光膜、アクリル系機能性膜の両方との馴染みがよいことが確認できる。
接触角の平均値85°以下:○
接触角の平均値85°超かつ90°以下:△
接触角の平均値90°超:×
【0075】
3.水系樹脂層の膜厚の影響の確認
【0076】
[実施例4]
水系ポリウレタン樹脂組成物の使用量を変更することにより、厚さ0.58μmのプライマー層(水系樹脂層)を形成した点以外、実施例1と同様の方法により偏光レンズを得た。
【0077】
[実施例5]
水系ポリウレタン樹脂組成物の使用量を変更することにより、厚さ1.24μmのプライマー層(水系樹脂層)を形成した点以外、実施例1と同様の方法により偏光レンズを得た。
【0078】
評価方法
(1)透明性(ヘイズ値)の評価
実施例1、2、4および5の各偏光レンズの作製直後のヘイズ値を株式会社村上色彩技術研究所製ヘイズメーターHM−150にて測定し、曇り(ヘイズ)の有無を以下の基準にしたがい評価した。
(評価基準)
○:曇りなし(ヘイズ値≦1.0%)
×:曇りあり(ヘイズ値>1.0%)
(2)密着性の評価
上記(1)で透明性を評価したレンズについて、前述の密着性評価方法で密着性を評価した。
(3)耐温水性試験後の密着性および透明性
実施例1、2、4および5の各偏光レンズについて、50℃の温水に24時間浸漬した後に風乾させた偏光レンズの透明性(ヘイズ値)および密着性を上記方法で評価した。
(4)耐湿性試験後の密着性およびヘイズ値
実施例1、2、4および5の各偏光レンズについて、温度40℃かつ湿度90%RHの環境下で168時間保管した後の偏光レンズの透明性(ヘイズ値)および密着性を上記方法で評価した。
以上の結果を、下記表3に示す。
【0079】
【表3】

【0080】
表3に示すように、プライマー層として、厚さ0.5μm以下の水系ポリウレタン樹脂層を形成した実施例1、2の偏光レンズは、作製直後および耐温水性試験、耐湿性試験後とも、透明性およびハードコートと偏光膜との密着性は良好であった。これに対し、水系ポリウレタン樹脂層の厚さが0.5μmを超える実施例4、5は、表3に示すように密着性および/または透明性は実施例1、2より劣る結果となった。
そこで、実施例4、5について曇りが観察された偏光レンズの断面状態を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ(印加電圧10kV、倍率5000倍)、偏光膜のプライマー層側の部分にクラックが発生していた。これにより、プライマー層として0.50μmを超える厚さの水系ポリウレタン樹脂層を有する偏光レンズでは、偏光膜のクラックに起因して透明性が低下(ヘイズが発生)することが確認された。また、実施例4、5において密着性が低下したことも、偏光膜のクラック発生に起因するものと推察される。
以上の結果から、偏光膜と機能性膜との間にプライマー層として、厚さ0.50μm以下の水系ポリウレタン樹脂層を形成することにより、曇りがなく耐久性にも優れた、きわめて優れた品質を有する偏光レンズが得られることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、眼鏡レンズ等の偏光レンズの製造分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に二色性色素含有溶液を塗布することにより偏光膜を形成すること、
形成した偏光膜に対し、該膜中の二色性色素の固定化処理を施すこと、
固定化処理後の偏光膜上に樹脂成分および水系溶媒を含有する水系樹脂組成物を塗布し、該組成物を乾燥させることによりプライマー層を形成すること、ならびに、
形成されたプライマー層上に機能性膜を形成すること、
を含む偏光部材の製造方法であって、
前記固定化処理後かつ水系樹脂組成物の塗布前に、被塗布物に対して加熱処理を施すことを特徴とする、偏光部材の製造方法。
【請求項2】
前記形成されたプライマー層の厚さは0.5μm以下である、請求項1に記載の偏光部材の製造方法。
【請求項3】
前記固定化処理を、シランカップリング剤溶液を偏光膜上に塗布することにより行う、請求項1または2に記載の偏光部材の製造方法。
【請求項4】
前記加熱処理後の被塗布物を一旦冷却した後に、前記水系樹脂組成物を塗布する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の偏光部材の製造方法。
【請求項5】
前記加熱処理前に、偏光膜中の二色性色素の非水溶化処理を行うことを更に含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の偏光部材の製造方法。

【図1】
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