説明

偏向ヨーク

【目的】 多芯平行導線を巻いて形成した偏向コイルに電流を流したときに、多芯平行導線の各芯線に流れる電流の近接効果による不均一化とアンバランスを緩和して多芯平行導線の発熱を抑制することができる偏向ヨークを提供する。
【構成】 No.1〜No.nの芯線を平行に配設した多芯平行導線15を巻線の巻き始めから途中まで巻く。次に、ボビンの渡り線部でこの多芯平行導線の各芯線を左右対称に配列順番を入れ換えた後、順次巻回して偏向コイルを形成する。これにより、各芯線に流れる電流量は左右のバランスをとる態様で均一化され、発熱による温度上昇が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はテレビジョン受像機やディスプレイ装置等に装着される偏向ヨークに関するものである。
【0002】
【従来の技術】周知のように、テレビジョン受像機やディスプレイ装置等の陰極線管に装着される偏向ヨークは水平偏向コイルと垂直偏向コイルを備えており、陰極線管の仕様や画面の特性に対応して偏向磁界の分布が設計段階で設定され、この偏向磁界の分布となるように、図10に示すようなボビン2のコイル巻き溝5にばらばらの単線を巻いて偏向コイルのコイル分布を調整していた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、図9に示す如く、前記コイル巻き溝5に捲線11を束ねられないばらばらの単線のまま1本〜数本ずつ自動巻線機で積層巻回する方式は、捲線11を巻くときに張力の方向が変化する等によって、捲線11は、ずれて片寄って巻かれたり、捲線11の順番が入れ換わったりして設計指示通りに巻くことができないという問題が生じ、しかも量産される各偏向コイルの捲線11の片寄りの状態も個々の製品毎にばらつきを生じ、偏向磁界を精度よく制御することができないという問題があった。
【0004】本出願人はこのような問題を解決するために、従来の1本、1本の単線のコイル導線に替えて、図8R>8に示すようなリボン線等の多芯平行導線を用いて形成する偏向コイルを提案している。
【0005】前記多芯平行導線15としては、図8の(a)に示すように、絶縁層4で被覆された銅やアルミニウム等の導体線を芯線10として接着剤6を用いて平行に配列して接着したものや、同図の(b)に示すように、樹脂等の絶縁シート7の片面に絶縁層4で被覆された芯線10を複数本平行に配列して接着剤6を用いて接着したものや、同図の(c)に示すように、絶縁層4と接着層9が形成された複数の芯線10を平行に配列して接着したもの等が使用される。
【0006】上記多芯平行導線15の芯線10はそれぞれの多芯平行導線15内で順序よく固定されており、したがって、芯線10はそれぞれの多芯平行導線15内で線がずれたり、また、線の順番が入れ換わったりすることがないので、これらの多芯平行導線15を用い、この多芯平行導線15をコイル巻き溝5に積層巻回することにより前記芯線10の大幅なずれ等を解消し得る偏向コイルの作製が期待できる。
【0007】ところで、ボビン2に多芯平行導線15を巻く場合、例えば、多芯平行導線15は、図7に示されるように、ネック側のコイル巻き溝5のA点からコイル巻き溝5の内周面に沿って頭部側の渡り線部のB点まで巻き、このB点から頭部側渡り線部をC点まで巻く。次いで、C点から分布部コイル巻き溝5に沿ってD点まで巻いた後、D点からネック側の渡り線部を巻いてA点に戻る。このA点からD点までを所定の回数巻き、順次、隣の左右の溝に多芯平行導線15を同様の巻線順序で巻いて、偏向コイルを形成する。
【0008】この偏向コイルに電流を流すと、例えば、多芯平行導線15Aを通ってA点からB点の方向に電流が流れ、さらに、渡り線側のB点からC点を経て多芯平行導線15Cを通ってC点からD点の方向に流れる。
【0009】通常、ボビン等に巻回しない多芯平行導線15に通電すると、図6の(c)に示されるように各芯線に流れる電流は芯線の表皮効果によって電流分布は左右両端側で大きくなり、一様ではないが、左右のバランスが保たれ、実線Cのカーブを描く。
【0010】ところが、図7に示すように、ボビンのコイル巻き溝5に多芯平行導線を巻回した場合には、この多芯平行導線に通電すると、前述のように、電流が窓を挟んで多芯平行導線15Aと15Cでは逆向きに流れるため、磁界の方向が逆向きになる。そのため、多芯平行導線15Aの電流は窓を挟んで多芯平行導線15C側(窓側)に引き寄せられ、同様に多芯平行導線15Cの電流は窓を挟んで多芯平行導線15A側(窓側)に引き寄せられる。したがって、図6の(b)に示されるように、窓側の芯線、例えばNo.1側には多量の電流が流れ、中央側には少なく、セパレート側にはやや多めに流れるようになり、各芯線に流れる電流分布は実線カーブAのような左右がアンバランスのカーブを描くようになる。また、多芯平行導線15A,15Cのそれぞれ隣の多芯平行導線15も同様に電流分布の不均一化と、左右対称側の多芯平行導線相互の磁界の影響による電流引き寄せ効果との相乗作用である近接効果によって電流分布は不均一、かつ、アンバランスとなり、順次隣の多芯平行導線15相互の多芯平行導線においても同様に、電流分布は不均一、かつ、アンバランスとなる。
【0011】上記のように、提案例の偏向ヨークでは、多芯平行導線15の各芯線10に流れる電流の近接効果によって多芯平行導線15の両端側、特に窓側に電流が集中して流れるためバランスが崩れ、バランスが崩れた分だけ多芯平行導線15のうち、電流が集中した線の発熱が大きくなり、温度上昇するという問題があった。
【0012】また、マルチスキャンタイプのディスプレイ装置において、水平走査周波数を変えると、多芯平行導線の各芯線の電流分布のパターンが変化することにより磁界分布が変化し、陰極線管の画面のX軸上のコンバージェンスXH (画面の水平軸上のブルーとレッドのビームの水平方向ずれ)や画面の対角軸上のコンバージェンスPQV (対角位置におけるブルーとレッドの上下方向のずれ)が変化するという問題があり、この提案例の偏向ヨークを用いたマルチスキャンタイプのディスプレイ装置では、良質の画像が得られないという問題があった。
【0013】本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、多芯平行導線を巻いて形成した偏向コイルに電流を流したときに、多芯平行導線の各芯線に流れる電流の近接効果による不均一化やアンバランスを緩和して、多芯平行導線の発熱を制御することができ、かつ、水平走査周波数が変化するマルチスキャンタイプにおいても陰極線管の画面のコンバージェンスに変化のない偏向ヨークを提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明は上記目的を達成するために、次のように構成されている。すなわち、本発明の偏向ヨークは、多芯平行導線を巻いて形成した偏向コイルを備えた偏向ヨークであって、前記偏向コイルの多芯平行導線は該多芯平行導線の各芯線に流れる電流量を、均一化する態様で、又は左右のバランスをとる態様で巻線の途中において1回以上芯線の配列順番を入れ換えて巻かれていることを特徴として構成されている。
【0015】
【作用】多芯平行導線を巻いて偏向コイルを形成する際に、巻線の途中で1回以上芯線の配列順番を入れ換えて巻く。例えば、この偏向コイルに通電したときに、電流量が多く流れる順番の芯線と電流量が少なく流れる順番の芯線とを入れ換えるという如く、所望の芯線の配列順番を入れ換えて巻く。この芯線配列の入れ換えにより偏向コイルに電流を流したとき、多芯平行導線の各芯線に流れる電流は、左右のバランスをとる態様で均一化される。
【0016】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、本実施例の説明において、提案例と同一の名称部分には同一の符号を付し、その詳細な重複説明は省略する。図1には、本発明の第1の実施例に係わる偏向ヨークの多芯平行導線を展開した回路図が示されている。
【0017】本実施例の偏向ヨークは、提案例と同様に多芯平行導線15をボビン2のコイル巻く溝5に積層巻回して水平偏向コイルや垂直偏向コイルを形成し、この水平偏向コイルおよびコアを組み立てて形成したものである。
【0018】本実施例の特徴的なことは、多芯平行導線15の巻線の途中において、多芯平行導線15の芯線の配列順番を入れ換えて巻いたことである。
【0019】前記多芯平行導線15を巻くボビンには、図4R>4に示すように複数のコイル巻き溝5が設けられており、このコイル巻き溝5は窓側からセパレート側に向かってセクション1、セクション2・・・セクションNとなっている。
【0020】この第1の実施例では、まず、多芯平行導線15を図6の(a)に示すように窓側にNo.1の芯線10をセパレート側にNo.nの芯線10を配置した状態で、図4のボビン2のセクション1とセクション2のコイル巻き溝5に積層巻回する。次いで、セクション2の多芯平行導線15の巻き終わりの線を渡り線部で所定の寸法弛ませ、この状態のまま、次のセクション3のコイル巻き溝5に巻回し、順次、セクション4・・・セクションNのコイル巻き溝まで巻く。しかる後、セクション2の巻き終わりの弛ませた部分で多芯平行導線15を切断し、図1に示すように、セクション2側のNo.1の芯線とセクション3側のセパレート側の一番端の芯線を接続する。同様に、セクション2側のNo.2の芯線とセクション3側のセパレート側の端から2番目の芯線を接続する如く、芯線の配列順番を左右対称に入れ換え、偏向コイルを作製する。
【0021】この実施例によれば、多芯平行導線15を巻線の途中において切断し、窓側とセパレート側の芯線を順次接続して芯線の配列順番を左右対称に入れ換えて巻く構成としたので、偏向ヨークを駆動したときに、多芯平行導線15の各芯線に流れる電流は、電流の大きい窓側と比較的小さいセパレート側との左右対称の芯線を接続することにより、左右のバランスをとる態様で均一化され、発熱による温度上昇を大幅に低減することができる。また、ディスプレイ装置において、水平走査周波数が変化しても各芯線の電流分布のパターンの変化がなく、陰極線管の画面のコンバージェンスの変化を制御することができるので、この偏向ヨークをマルチスキャンタイプのディスプレイ装置に用いても、高精彩の画像を得ることができる。
【0022】この実施例の偏向ヨークをマルチスキャンタイプのディスプレイ装置で実験した結果、例えば、水平走査周波数を64KHz でスキャンした場合、提案例と比較してコイルの発熱(温度上昇)が約20%低減された。また、水平走査周波数を31KHz から64KHz に替えたとき、提案例の偏向ヨークの場合には陰極線管の画面のX軸上のコンバージェンスが0.1 mm変化するのに対して、この実施例ではX軸上のコンバージェンスの変位は0mmと全く変化しないことが判った。また、コンバージェンスPQV の大幅な改善を図れることも実証できた。この偏向ヨークを駆動したときに、多芯平行導線の各芯線に流れる電流分布は、図5の(a)に示されるように左右対称にバランスされたカーブEを描く。
【0023】次に、第2の実施例について説明する。この第2の実施例は第1の実施例と同様に、図4に示すボビン2のコイル巻き溝5に多芯平行導線15を巻いて偏向コイルを形成するもので、第1の実施例と異なることは、セクション2の巻き終わり側の渡り線部で多芯平行導線15を切断して芯線の配列順番を入れ換えて接続することなく、図2に示すように多芯平行導線15のK点で線を180 °捩って表裏を反転し、この反転状態でセクション3からセクションNまで巻いて、偏向コイルを形成したことである。
【0024】第2の実施例では、多芯平行導線の巻線の途中で、多芯平行導線を180 °反転して巻くので、芯線の配列順番が左右対称に入れ換わり、第1の実施例と同様の効果を得ることができる。また、この第2の実施例では多芯平行導線15を180 °反転するだけで芯線の配列順番が左右対称に入れ換わるので、左右の芯線をそれぞれ対称に接続して順番を入れ換える第1の実施例に比較して作業が極めて容易である。
【0025】図3には第3の実施例の多芯平行導線を展開した状態の回路図が示されている。この実施例は、第1および第2の実施例の多芯平行導線の各芯線を左右対称に配列順番を入れ換えて巻く方式に対して、電流量の多い芯線と電流量の少ない芯線を接続して芯線の配列順番を必要に応じて入れ換えて巻くものである。この第3の実施例では、第1の実施例と同様に、セクション2の巻き終わり側で多芯平行導線15を弛ませて切断し、芯線の配列順番を入れ換えて接続するが、このセクション2側の電流量の多い窓側No.1の芯線とセクション3側の電流量の少ない中央部Gの芯線を接続し、同様にセクション2側の比較的電流量の多いセパレート側No.nの芯線とセクション3側の電流量の少ない中央部G+1の芯線を接続する。そして、電流量の多いセクション2側の窓側のNo.2の芯線は、セクション3側の電流量の少ない中央部Gの芯線よりも1つ窓側の芯線と接続する。このように、順次、セクション2の窓側から中央部にかけての芯線は、各芯線の電流量を均一化する態様でセクション3側の芯線と接続する。同様に、セクション2側のセパレート側から中央部にかけての芯線は、各芯線の電流量を均一化する態様でセクション3側の芯線と順次接続し、電流量の大きい芯線と電流量の小さい芯線の配列順番を入れ換えて偏向コイルを形成する。この偏向ヨークを駆動すると、多芯平行導線の各芯線に流れる電流量は左右にバランスをとる態様で均一化され、図5の(b)に示すような電流分布のカーブFを描く。
【0026】この実施例によれば、多芯平行導線の巻線途中で、窓側やセパレート側の電流量の多い芯線と中央側の電流量の少ない芯線とを接続して芯線の配列順番を入れ換える構成としたので、多芯平行導線に流れる電流は、窓側やセパレート側への集中電流が緩和され、左右対称にバランスをとる態様で第1の実施例よりもさらに均一化することができる。これにより、発熱による温度上昇を第1および第2の実施例よりもさらに低減することができる。また、ディスプレイ装置での水平走査周波数が変化しても各芯線の電流分布のパターンの変化による磁界の変化がなく、陰極線管の画面のコンバージェンスの変位を抑制することができ、マルチスキャンタイプのディスプレイ装置においても高画質の画像を得ることができる。
【0027】なお、本発明は上記実施例に限定されることはなく、様々な実施の態様を採り得る。例えば、上記実施例では、多芯平行導線をボビンのコイル巻き溝に積層巻回して偏向コイルを形成したが、ボビンの替わりに、巻枠金型に巻いて偏向コイルを形成してもよい。この場合には巻回終了後、偏向コイルを金型から離型し、偏向ヨークに組み込むものである。
【0028】また、上記実施例では、巻線途中の芯線の順番入れ換えをセクション2とセクション3の間で行ったが、例えば、セクション3とセクション4間としてもよく、各芯線に流れる電流量が均一化されるならば、入れ換えのセクション位置は問わない。
【0029】さらに、上記実施例では、巻線途中で芯線の配列順番を1回入れ換えて巻いたが、要求される特性に応じて、2回以上複数回芯線の配列順番を入れ換えてもよい。
【0030】さらにまた、上記各実施例では、多芯平行導線の全ての芯線の配列順番を入れ換えたが、必要に応じ、局部位置の芯線の配列順番を入れ換えるだけでもよい。
【0031】
【発明の効果】本発明は多芯平行導線を巻線の途中で、1回以上芯線の配列順番を入れ換えて巻く構成としたので、多芯平行導線の各芯線に流れる電流量を左右のバランスをとる態様で均一化することができ、発熱による温度上昇を大幅に抑制することができる。また、例えば、ディスプレイ装置で水平走査周波数が変化しても各芯線の電流分布のパターンに変化がなく、陰極線管の画面のコンバージェンスの変化を抑制することが可能となり、水平走査周波数の変化にかかわらず、高精彩の画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施例の多芯平行導線を展開した状態の回路図である。
【図2】多芯平行導線を180 °反転して芯線の配列順番を対称に入れ換えた状態の説明図である。
【図3】第3の実施例の多芯平行導線を展開した状態の回路図である。
【図4】ボビンの各コイル巻き溝の各セクション順を示す説明図である。
【図5】多芯平行導線の各芯線に流れる電流分布の説明図である。
【図6】従来の多芯平行導線の各芯線に流れる電流分布の説明図である。
【図7】半割り状のボビンに多芯平行導線を巻いた状態の説明図である。
【図8】多芯平行導線の各種形態の説明図である。
【図9】従来の偏向コイルのコイル巻き状態の説明図である。
【図10】従来の偏向コイルのボビンの一例の説明図である。
【符号の説明】
2 ボビン
5 コイル巻き溝
10 芯線
15 多芯平行導線
G 中央側芯線

【特許請求の範囲】
【請求項1】 多芯平行導線を巻いて形成した偏向コイルを備えた偏向ヨークであって、前記偏向コイルの多芯平行導線は該多芯平行導線の各芯線に流れる電流量を、均一化する態様で、又は左右のバランスをとる態様で巻線の途中において1回以上芯線の配列順番を入れ換えて巻かれていることを特徴とする偏向ヨーク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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