説明

偽造防止用紙及び偽造防止印刷物

【課題】偽造防止用紙に抄き込むためのスレッドの製造に使用する材料として、入手が困難な材料を使用することにより偽造防止用紙の複製を困難にするとともに、その材料の組み合わせ方によって異なる偽造防止特性を現出する優れた偽造防止効果が得られるスレッド入りの偽造防止用紙を得ること及びこの偽造防止用紙を使用した偽造防止印刷物を得ることにある。
【解決手段】光不透過性若しくは光透過性のスレッド用基材2の片面又は両面に、薬品と接触して発色可能な染料と該染料を発色させる固形状薬品と結着用樹脂とを含む染料発色層3が積層形成されたスレッド1が抄き込まれた用紙10であって、前記染料発色層3は前記薬品を溶解可能な溶剤に触れることにより該薬品が溶けて発色する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙幣、株券、債券、商品券、宝くじ、証書等の有価証券類や、パスポート、運転免許証、社員証、学生証等の個人証明書類等の偽造防止に関し、電子複写機等による偽造や変造が極めて困難な偽造防止対策を施し、真贋判定機能を有した偽造防止用のスレッドが抄き込まれた偽造防止用紙及び該偽造防止用紙に印刷を施した偽造防止印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、紙は紙幣をはじめ、宝くじ、商品券等の金銭的価値を有する有価証券やパスポート、運転免許証等の身分証明書、セキュリティラベル等のブランドプロテクションとして幅広く使用されている。これら有価証券用紙、身分証明書用紙等は、容易に偽造又は変造できないように、紙自身に透かしを施したり、マイクロ文字や凹版印刷、隠し文字、蛍光印刷等の特殊な印刷を施したり、金属光沢を有する箔やホログラム箔などを転写またはシールにて施したものである。
【0003】
また、パスポートやセキュリティラベル等には、改ざんを容易に判断できるように様々な薬品を使用した偽造防止用紙も、様々に提案されている。例えば、マンガンのフェロサイアナイドを用紙中に含ませ、金額欄に記載された文字をインク消しで消そうとすると褐色に変色する証券用紙の提案が、特許第78774号公報(特許文献1)や、特許第77962号公報(特許文献2)に記載されている。
【0004】
偽造防止用紙の紙層内に、スレッドと称される糸状物のスレッド(添加物)を抄き込んだ偽造防止用紙(スレッド入り用紙)は良く知られている。スレッド入り用紙は、製造に極めて高度な技術を必要とするものであり、偽造防止には大きな効果があり、周知のように各国の紙幣などに多く使用されている。
【0005】
スレッド入り用紙には大きく分けて2種類あり、一つはスレッドが用紙の内部に抄き込まれ、用紙表面には露出しない種類のものであり、もう一つはスレッドの一部が用紙表面に間欠的に露出した「窓空きスレッド入り紙」と称されるものである。
【0006】
スレッドが用紙の内部に抄き込まれ、用紙表面には露出しない種類のスレッド入り用紙を製造する方法としては、長網抄紙機のスライス部分における紙料の流れの中にノズルを入れ、ノズルに水を流しながらスレッドを繰り出し、抄紙網に形成される紙匹中にスレッドを抄き込む方法(特許文献3)、長網抄紙機のフローボックスから流出する紙料へスレッドの挿入装置を設置し、空気流でスレッドと紙料を非接触状態としながらスレッドを抄き込む方法(特許文献4)、紙料を入れる槽として2槽以上を有した円網抄紙機を使用して、2層以上の抄き合わせで、内壁に凹凸を設けた送管を使用してスレッドを紙層間に送り出し、紙層間にスレッドを抄き込む方法(特許文献5)などが提案されている。
【0007】
またスレッドの一部が用紙表面に間欠的に露出した「窓空きスレッド入り用紙」を製造する方法としては、抄紙ワイヤー上の紙料懸濁液に、凹凸部を有するガイドの凸部先端にスレッドを通した溝を有するベルト機構を埋没させて製造する方法(特許文献6)や、凹凸状に加工した網を円網抄紙機の上網に使用し、スレッドを網表面の凹凸部に接触させながら挿入して、窓空き部分にスレッドを抄き込む方法(特許文献7)や、長網抄紙機のワイヤー上の回転ドラム内に、圧縮空気ノズルを内蔵させ、予め紙匹に挿入したスレッド上のスラリーを圧縮空気で間欠的に吹き飛ばしてスレッドを露出させる方法(特許文献8)などが提案されている。
【0008】
この「窓空きスレッド入り用紙」は、用紙の流れ方向に間欠的に厚みを薄くした窓空き部を形成し、この窓空き部にスレッドが露出していることが特徴である。従って、表面に接着剤を塗工していないスレッドを使用して製造した用紙では、スレッドの露出部を爪などで擦ると、スレッドが簡単に剥がれてしまったり、印刷時にスレッドが浮き上がったりするので致命的な欠点となる。このため表面に感熱接着剤を設けたスレッドを使用して窓空きスレッド入り用紙を抄紙し、抄紙機の乾燥ゾーン(加熱乾燥ゾーン)でこの用紙を乾燥する際に、スレッドに塗工されている感熱接着剤を溶融若しくは軟化することによって、用紙を構成するセルロース繊維とスレッドとを確実に接着させ、剥離強度を高める対策が採られている。
【0009】
上記の偽造防止用紙であるスレッド入り用紙に使用するスレッドにも、多種多様な構成が提案されている。例えば、ホログラムスレッド、磁気スレッド、紫外線の照射により蛍光発色するスレッド、サーモクロミック剤を塗工したスレッド、金属蒸着スレッド、マイクロ文字入りスレッド等々が実用化されている。また、スレッドに特殊な加工を施し、偽造防止効果を高めたものもある。例えば、パール顔料とバインダーを主体とする塗工液を塗工したパール顔料塗工紙を設けたスレッドを抄き込んだ用紙(特許文献9)や、温度により変色する熱変色層を有したスレッドを抄き込んだ用紙(特許文献10)がある。
【0010】
しかしながら、上記のような偽造防止用紙は、複写は不可能であるが、製造に使用するパール顔料塗工紙やアルミ箔などの材料そのものが容易に入手可能であることから、複製が容易に可能になるという偽造防止対策上の問題がある。
【0011】
以下に、本発明に関連する公知の特許文献を記載する。
【特許文献1】特許第78774号公報
【特許文献2】特許第77962号公報
【特許文献3】特開昭51−130309号公報
【特許文献4】特開平2−169790号公報
【特許文献5】特公平5−40080号公報
【特許文献6】特公平5−85680号公報
【特許文献7】米国特許第4462866号公報
【特許文献8】特開平6−272200号公報
【特許文献9】特開平7−56337号公報
【特許文献10】特開平10−315620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、その課題とするところは、偽造防止用紙に抄き込むためのスレッドの製造に使用する材料として、入手が困難な材料を使用することにより偽造防止用紙の複製を困難にするとともに、その材料の組
み合わせ方によって異なる偽造防止特性を現出する優れた偽造防止効果が得られるスレッド入りの偽造防止用紙を得ること、及びこの偽造防止用紙を使用した偽造防止印刷物を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を達成する為になされた本発明の請求項1に係る発明は、光不透過性若しくは光透過性のスレッド用基材の片面又は両面に、薬品と接触して発色可能な染料と該染料を発色させる固形状薬品と結着用樹脂とを含む染料発色層が積層形成されたスレッドが抄き込まれた用紙であって、前記染料発色層は、前記薬品を溶解可能な溶剤が触れることにより該薬品が溶けて発色するようにしたことを特徴とする偽造防止用紙である。
【0014】
本発明の請求項2に係る発明は、上記請求項1に係る偽造防止用紙において、前記スレッドの発色前の染料発色層は、可視光にて無色透明、無色、白色のいずれかであり、前記薬品を溶解可能な溶剤が触れることにより該薬品が溶けて発色することを特徴とする偽造防止用紙である。
【0015】
本発明の請求項3に係る発明は、上記請求項1に係る偽造防止用紙において、前記スレッドの発色前の染料発色層は、可視光にて有色であり、前記薬品を溶解可能な溶剤が触れることにより該薬品が溶けて、前記色とは異なる色に発色することを特徴とする偽造防止用紙である。
【0016】
本発明の請求項4に係る発明は、上記請求項1に係る偽造防止用紙において、前記スレッドの発色前の染料発色層は、可視光にて無色であり、紫外光の照射により発光して発色することを特徴とする偽造防止用紙である。
【0017】
本発明の請求項5に係る発明は、上記請求項1乃至4のいずれか1項に係る偽造防止用紙において、前記スレッドの染料発色層は、結着用樹脂中に紫外光にて発色する紫外光発色剤が配合されていて紫外光照射により蛍光発色することを特徴とする偽造防止用紙である。
【0018】
本発明の請求項6に係る発明は、上記請求項1乃至5のいずれか1項に係る偽造防止用紙において、前記スレッドの染料発色層の染料及び固形状薬品は、該染料発色層の領域内に均一に分散分布して含有していることを特徴とする偽造防止用紙である。
【0019】
本発明の請求項7に係る発明は、上記請求項1乃至6のいずれか1項に係る偽造防止用紙において、前記スレッドの染料発色層の染料は、親油性有機溶剤に可溶であり、水若しくは親水性有機溶剤に不溶であることを特徴とする偽造防止用紙である。
【0020】
本発明の請求項8に係る発明は、上記請求項1乃至7のいずれか1項に係る偽造防止用紙において、前記スレッドが細幅の短冊形状であって、該スレッドの表面又は/及び裏面に、マイクロ文字、パターン等の着色印刷層が施されていることを特徴とする偽造防止用紙である。
【0021】
本発明の請求項9に係る発明は、上記請求項1乃至8のいずれか1項に係る偽造防止用紙において、前記スレッドは、紙層間に抄き込まれていて用紙表面には露出しておらず、前記溶剤に触れさせて用紙表面を反射光で観察した時には、前記染料発色層による発色が観察されることを特徴とする偽造防止用紙である。
【0022】
本発明の請求項10に係る発明は、上記請求項1乃至8のいずれか1項記載の偽造防止用紙において、前記スレッドは、紙層間に抄き込まれていて用紙表面にはスレッドの一部
が間欠的に窓空き部より露出しており、前記溶剤に触れさせて用紙表面を反射光で観察した時には、前記染料発色層による発色が窓空き部より観察されることを特徴とする偽造防止用紙である。
【0023】
本発明の請求項11に係る発明は、上記請求項1乃至10のいずれか1項に係る偽造防止用紙に、所定の印刷部を設けたことを特徴とする偽造防止印刷物である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の偽造防止用紙及びその偽造防止用紙を用いた偽造防止印刷物は、薬品と接触して発色可能な染料と該染料を発色させる固形状薬品と結着用樹脂とを含む染料発色層が積層形成されたスレッドが抄き込まれたスレッド入り用紙であり、前記染料発色層は、前記薬品を溶解可能な油性溶剤(有機溶剤)が触れることにより該薬品が溶けて特定の色に発色する。そのために、本発明の偽造防止用紙の真贋を検査し判断する際には、スレッドの抄き込まれた部分の用紙面に前記溶剤を付着させ、該溶剤をスレッドの染料発色層に接触させて含まれる固形状薬品を溶解し、染料発色層の染料と溶解した薬品とを接触させて発色させ、紙層を透して(又は窓空き部から)、規定の特定色に発色した染料発色層を確認した場合は真正の用紙として判断することができるものである。
【0025】
また、本発明においては、抄き込まれるスレッドの染料発色層に使用する染料と薬品の材料の種類の組み合わせ態様により発色する色調を異なるようにすることができるため、染料発色層に使用する染料と薬品の組成や種類を適宜に選択して染料発色層を設定してスレッドを製造することにより、染料発色層の製造材料の入手が困難になり、偽造、改ざん、複製が困難な偽造防止用紙及び偽造防止印刷物とすることができる。
【0026】
また、本発明においては、本発明の偽造防止用紙及び偽造防止印刷物に抄き込んだスレッドに設けた染料発色層の溶剤との接触により溶解する固形状の薬品と染料には粒子が細かい素材を使用することにより、可視光にて不可視の状態の染料発色層を製造することが可能になる。また、有機溶剤を用いて、本発明の偽造防止用紙、偽造防止印刷物から抄き込まれたスレッドのみを剥ぎ取ろうとしても、溶剤により発色するために痕跡が残り、不正使用は不可能であり、改ざん、贋造を防止する効果が得られる。
【0027】
このように本発明の偽造防止用紙及び偽造防止印刷物は、抄き込まれたスレッドに形成された染料発色層に含まれる染料が親油性の有機溶剤に可溶性であって、水や親水性の溶剤(メチルアルコール、エチルアルコール等低級アルコール類等の有機溶剤や無機溶剤)に不溶性であり、該染料が、親油性の有機溶剤に溶解して該発色層に含まれる薬品に接触すると発色する特性を備えているため、その偽造防止用紙及び偽造防止印刷物、あるいはスレッド本体に印刷表示された画像や文字、記号等は電子複写機等にて複写できたとしても上記のような溶剤による検査によって、その真贋を容易に判断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の偽造防止用紙の実施の形態を以下図面を用いて説明すれば、図1(a)〜(b)は、本発明の偽造防止用紙(10)の一例を説明する部分側断面図であり、スレッド(1)が用紙の内部に抄き込まれていて、用紙(10)の表面には露出しない種類のものである。
【0029】
本発明の偽造防止用紙(10)は、図1(a)に示すように、光不透過性、若しくは光透過性のスレッド用基材2の片面に、薬品と接触して発色可能な染料と該染料を発色させる固形状薬品と結着用樹脂とを含む染料発色層3が積層形成されたスレッド(1)が用紙の紙層10a、10b内に抄き込まれている。あるいは、図1(b)に示すように、光不透過性、若しくは光透過性のスレッド用基材2の両面に、薬品と接触して発色可能な染料
と該染料を発色させる固形状薬品と結着用樹脂とを含む染料発色層3が積層形成されたスレッド(1)が用紙の紙層10a、10b内に抄き込まれている。
【0030】
本発明の偽造防止用紙(10)に抄き込まれているスレッド(1)に積層形成された前記染料発色層3は、水又はアルコール(メチルアルコール、エチルアルコール等の低級アルコール)を溶媒とする水性(親水性)の結着用樹脂液(乾燥固化後は水に不溶となる水性エマルジョンタイプの樹脂バインダー、例えばバイロナール;東洋紡(株)製)中に、油性溶媒(親油性有機溶剤)に可溶の染料と薬品とを溶解しない状態で分散混合して調整した染料発色剤を用いて、光不透過性若しくは光透過性のスレッド用基材2の片面又は両面に塗布して形成したものである。この染料発色層3は、前記薬品(及び染料)を溶解可能な油性溶剤(親油性有機溶剤)に触れることにより、該薬品と染料は溶けて、薬品は染料に接触し、混合している該染料は該薬品によって反応し、特定の色調に発色して、用紙(10)の比較的薄い紙層10aを透して、染料発色層3の発色が確認される。
【0031】
また本発明の偽造防止用紙(10)は、図1(a)に示すように、光不透過性、若しくは光透過性のスレッド用基材2の片面に、薬品と接触して発色可能な親油性溶剤に可溶の染料と、該染料を発色させる親油性溶剤に可溶の固形状(粒状、顆粒状)の薬品と、紫外光の照射により発色する親油性溶剤に可溶の蛍光発色剤と、親水性溶剤に可溶の結着用樹脂バインダー(水性エマルジョンタイプの樹脂バインダー)とを含む染料発色層3が積層形成されたスレッド(1)が、用紙の紙層10a、10b内に抄き込まれている。あるいは、図1(b)に示すように、光不透過性、若しくは光透過性のスレッド用基材2の両面に、薬品と接触して発色可能な染料と、該染料を発色させる固形状薬品と、紫外光の照射により発色する蛍光発色剤と、結着用樹脂とを含む染料発色層3が積層形成されたスレッド(1)が、用紙の紙層10a、10b内に抄き込まれている。
【0032】
本発明の偽造防止用紙(10)に抄き込まれているスレッド(1)に積層形成された前記染料発色層3は、水又はメチルアルコールやエチルアルコール等の親水性溶剤を溶媒とする水性の結着用樹脂液(乾燥固化後は水に不溶となる水性エマルジョンタイプの樹脂バインダー、例えばバイロナール;東洋紡(株)製)中に、油性溶媒(親油性有機溶剤)に可溶の微粒状の染料と薬品と蛍光発色剤とを、溶解せずに分散混合して調整した染料発色剤を用いて、光不透過性若しくは光透過性のスレッド用基材2の片面又は両面に塗布形成したものである。この染料発色層3は、前記薬品と染料を溶解可能な溶剤(有機溶剤)に触れることにより、該薬品は溶けて染料に接触し、混合している該染料は、該薬品によって反応して特定の色調に発色するものである。また蛍光発色剤は、紫外光の照射により蛍光発色するものである。
【0033】
前記スレッド(1)の染料発色層3の発色前の色調は、可視光の下にて、無色透明、無色、白色のいずれかであり、薬品を溶解可能な溶剤が触れることにより該薬品が溶けて、染料に接触することにより発色するものである。あるいは、前記スレッド(1)の染料発色層3の発色前の色調は、可視光の下にて有色であってもよく、薬品を溶解可能な溶剤が触れることにより該薬品が溶けて、染料に接触することにより、異なる特定の色調に発色するものである。
【0034】
図2(a)〜(b)は、本発明の偽造防止用紙(10)の他の例を説明する部分側断面図であり、スレッド(1)が用紙(10)の紙層10a、10b内に抄き込まれていて、紙層10aには間欠的に紙層10aの欠如した窓空き部wを備え、用紙(10)の表面に該スレッド(1)の一部が、該窓空き部wから露出した、所謂、「窓空きスレッド入り用紙」と称される種類のものである。図2(a)は、用紙(10)の紙層10a、10b内に抄き込まれたスレッド(1)の片面に、染料発色層3が積層形成されたものであり、図2(b)は、用紙(10)の紙層10a、10b内に抄き込まれたスレッド(1)の両面
に染料発色層3が積層形成されたものである。この染料発色層3も、前記薬品を溶解可能な溶剤(有機溶剤)に触れることにより、該薬品は溶けて染料に接触し、混合している該染料は該薬品によって反応して特定の色調に発色して、用紙(10)の窓空き部wから染料発色層3の発色が確認される。
【0035】
なお、本発明の偽造防止用紙(10)においては、図3(a)〜(b)の部分側断面図に示すように、抄き込むスレッド(1)の染料発色層3形成面に対して反対面に、紙層との接着性を向上させるための接着剤を塗布して接着剤層4を積層形成してもよい。また、該接着剤層4の接着剤中には適宜に蛍光発色剤(蛍光染料)を混合することができる。
【0036】
図4(a)〜(b)は、本発明の偽造防止用紙(10)のスレッド(1)に積層形成された染料発色層3の組成構造を説明する模式的側断面図である。図4(a)に示す染料発色層3は、その形成領域Eに亘って乾燥固化した結着用樹脂中に、微粒状に染料cと薬品mが均一に分散している状態を示すものである。また図4(b)に示す染料発色層3は、その形成領域Eに亘って乾燥固化した結着用樹脂中に、微粒状に染料cと薬品mと蛍光発色剤kとが均一に分散している状態を示すものである。
【0037】
図5は、本発明の偽造防止用紙(10)の一例を示す平面図であり、図6は、図5のA−A線における断面説明図である。図示した偽造防止用紙(10)は、紙層(10a)と紙層(10b)の2層から構成されてなり、これらの紙層(10a、10b)間にスレッド(1)が挿入されて抄紙されている。このスレッド(1)の表面又は表裏両面には、染料発色層3の他に、該染料発色層3領域内、又は該染料発色層3領域以外の基材領域に、適宜な着色印刷層5を施すことができる。また着色印刷層5は、例えば★ABCD等のマイクロ文字、マイクロパターンなどであり、複写機(コピー機)などにて等倍複写や拡大複写が不可能な微細(微小)なキャラクタやパターンとして印刷されている。この際、前記着色印刷層5には、紫外蛍光発色剤を併用することも可能である。さらに紫外線で発色し、且つ通常の光で着色して見える染料や顔料も使用することができる。
【0038】
図7は、窓空きスレッド入り用紙である本発明の偽造防止用紙(10)の一例を示す平面図であり、帯状体(テープ状体)又は小片状体などの微細なスレッド(1)が、比較的薄い紙層10a又は10b部分である窓領域w内の表面に露出して抄き込まれている偽造防止用紙(10)である。なお、窓領域wの領域サイズとスレッド(1)のサイズとは、図示するように互いに異なっていてもよいし、同一であってもよい。
【0039】
また、本発明の偽造防止用紙(10)は、複数枚の用紙(10)を接着剤を使用して貼合して貼り合わせ紙を製造する際に、本発明のスレッド(1)を連続的に繰り出して、複数枚の前記用紙間に埋没させることによっても製造することができる。
【0040】
本発明のスレッド(1)の形成された基材(2)には、必要に応じて、染料発色層3と反対面(裏面)に接着剤(又は紫外光発色剤を混合した接着剤)を塗工し、次いでマイクロスリッターやマイクロカッターを使用して、微細な幅のテープ状体、あるいは微細な幅の紐状態(又は微細な小片状体)にスリットあるいはカッティングすることにより、微細幅テープ状体若しくは微細小片状体の本発明のスレッド(1)が完成する。なお、本発明のスレッドがマイクロスリッターを用いてスリット形成された微細幅テープ状体の場合には、それをボビンなど巻取軸にウエブ状に巻き取り、ロール状スレッドとしての本発明のスレッド(1)が完成する。
【0041】
スレッド用基材(2)の素材としては、例えば、セロファン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、液晶ポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネー
ト、ポリメタクリル酸エチル、ポリスチレン等の半合成、若しくは合成樹脂フィルムを、単層あるいは複合体として使用できる。さらに基材(2)は、抄紙機の乾燥ゾーンにおいて融解若しくは軟化しない材質であって、通常は90〜110℃で粘着性を帯びない性質の材質を選択するのが好ましい。
【0042】
基材(2)を半透過性(半透明)又は白色(不透明)とするためには、上記素材に、酸化チタン、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム等の白色の顔料が練り込まれたり、或いはこれらの顔料と接着剤よりなる塗工液を塗工したり、あるいは基材(2)の両面(又は片面)をサンドブラスト加工されたり、あるいは基材(2)を化学的発泡法、物理的発泡法にて発泡加工される。
【0043】
基材(2)の厚みは、薄すぎても各種の加工が困難となり、また厚すぎてもスレッド(1)を紙層間に抄き込んだ場合に部分的に紙の厚味が増大し、種々の問題点を引き起こすので、基材(2)の厚みは5〜25μmとすることが好ましい。
【0044】
本発明におけるスレッド(1)の裏面に形成する接着剤層4に使用する接着剤の具体例としては、ポリ酢酸ビニル樹脂系、ポリ塩化ビニル樹脂系、ポリエステル樹脂系、ポリアクリル酸エステル樹脂系、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂系、ポリビニルアルコール樹脂系等の公知の接着剤を、水系若しくは溶剤系の塗料とし、ロールコーターやグラビアコーター等の周知の塗工機を用いてスレッド用基材(2)の表面に塗工することにより形成できる。その塗工量は通常で0.1〜10g/m2 (乾燥質量換算)とする。
【0045】
偽造防止用紙(10)の紙層間にスレッド(1)が埋没しているタイプのスレッド抄き込み紙においては、接着剤層形成用の接着剤塗工量は少なくて良いが、窓空きスレッド入り紙の場合は塗工量を増加させる。接着剤には必要に応じて、ブロッキング防止剤、潤滑剤、着色剤、蛍光発色剤等を添加してもよい。
【0046】
前に述べたようにスレッド(1)の表裏を判定する必要がある場合には、スレッド用基材(2)として紫外線を吸収する基材を使用し、接着剤層4には蛍光発色剤を添加して、基材(2)の片面だけにこの蛍光発色剤添加の接着剤を塗工したスレッド(1)を製造する。これによりスレッド(1)の表面若しくは裏面から紫外線を照射することにより、該スレッド(1)の蛍光発色剤を添加した接着剤層が紫外線により発光する。その発光の有無によりスレッド(1)の表裏を容易に判定できるようになる。
【0047】
次に、本発明の偽造防止用紙の製造方法の一例を説明する。
【0048】
まず、抄紙のための紙料の調製としては、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の製紙用パルプを主体とし、ビーターやディスクリファイナー等を使用して叩解処理し、これに白土、カオリン、炭酸カルシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム等の各種填料、紙力増強剤、サイズ剤、歩留まり向上剤、消泡剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、定着剤等を適宜併用し、本発明の偽造防止用紙(10)を抄紙するための紙料(紙層10a、10b)を調整する。
【0049】
次に、偽造防止用紙の製造としては、従来公知の方法を使用して製造できる。前にも述べたようにスレッド入り紙には大きく分けて2種類ある。一つはスレッド(1)が偽造防止用紙(10)内部に抄き込まれ、用紙(10)の表面に露出しない種類のものであり、もう一つはスレッド(1)の一部が用紙(10)の表面に間欠的に露出した「窓空きスレッド入り紙」と呼ばれるものである。
【0050】
前者の用紙(10)の表面にスレッド(1)が露出しない偽造防止用紙を製造する方法としては、前に述べたように、長網抄紙機のスライス部分における紙料(紙層10a、10b)の流れの中にノズルを入れ、ノズルに水を流しながら、その流水にて微細なスレッド(1)を抄紙網に繰り出す。これにより抄紙網に形成される紙匹中にスレッド(1)を抄き込む方法(特許文献3)がある。
【0051】
また、長網抄紙機のフローボックスから流出する紙料にスレッドを挿入するためのスレッド挿入装置を設置して、空気流でスレッド(1)と紙料(紙層10a、10b)を非接触状態としながらスレッドを抄き込む方法(特許文献4)がある。
【0052】
また、2層以上を有した円網抄紙機を使用し、2層以上の抄き合わせで、内壁に凹凸を設けた送管を使用してスレッド(1)を紙層(紙層10a、10b)間に送り出し、紙層(紙層10a、10b)間にスレッド(1)を抄き込む方法(特許文献5)等が採用できる。本発明においては、用紙(10)の表面にスレッド(1)が露出しない方法であればこれら以外の製造方法を採用しても良いことは言うまでもない。
【0053】
後者の「窓空きスレッド入り紙」を製造する方法としては、前に述べたように、下網(ワイヤー)上に流し入れた紙料(紙層10a、10b)懸濁液に、凹凸部を有するガイドの凸部先端にスレッド(1)を送り込む溝を有するベルト機構を埋没して製造する方法(特許文献6)がある。
【0054】
また、凹凸状に加工した網を円網抄紙機の上網に使用し、スレッド(1)を凹凸状の上網表面の下向き凸部に接触させながら、下網に流した紙料(紙層10a、10b)懸濁液に挿入して、窓空き部分にスレッドを抄き込む方法(特許文献7)がある。
【0055】
また、長網抄紙機の下網(ワイヤー)上の回転ドラム内に圧縮空気ノズルを内蔵させ、予め紙料(紙層10a、10b)懸濁液に挿入したスレッド(1)上の前記懸濁液(スラリー)を圧縮空気で間欠的に吹き飛ばしてスレッド(1)を露出させる方法(特許文献8)等が採用できる。本発明においては、「窓空きスレッド入り紙」を製造する方法であれば、これら以外の方法を採用しても良いことは言うまでもない。
【0056】
また、抄紙途上で紙面にポリアクリルアマイド樹脂、澱粉、ポリビニルアルコール等を塗工することも可能である。さらに必要に応じて、マシンカレンダー処理やスーパーカレンダー処理を施し、表面平滑性を向上させることも適宜行われる。なお、用紙(10)の抄紙厚さ(坪量)は、特に本発明においては限定されるものではないが、例えば、坪量50〜150g/m2 程度で製造する。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上のような特性を生かして得られるスレッドを抄き込んだ本発明の偽造防止用紙(10)は、その製造に極めて高度の技術が必要なため、紙幣や、商品券、小切手、株券、債券、カード、各種チケット、機密文書、パスポート、身分証明書等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】(a)〜(b)は本発明の偽造防止用紙の一例を模式的に示した側断面図。
【図2】(a)〜(b)は本発明の偽造防止用紙の他の例を模式的に示した側断面図。
【図3】(a)〜(b)は本発明の偽造防止用紙のその他の例を模式的に示した側断面図。
【図4】(a)〜(b)は本発明の偽造防止用紙のスレッドに形成した染料発色層の構造を説明する模式図。
【図5】本発明の偽造防止用紙の一例を示す平面図。
【図6】本発明の偽造防止用紙の一例を示すA−A側断面図。
【図7】本発明の偽造防止用紙の他の例を示す平面図。
【符号の説明】
【0059】
1…スレッド
2…スレッド用基材
3…染料発色層
4…接着剤層
5…着色印刷層
10…偽造防止用紙
10a…紙層
10b…紙層
c…染料
m…薬品
k…蛍光発色剤
w…窓空き部領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光不透過性若しくは光透過性のスレッド用基材の片面又は両面に、薬品と接触して発色可能な染料と該染料を発色させる固形状薬品と結着用樹脂とを含む染料発色層が積層形成されたスレッドが抄き込まれた用紙であって、前記染料発色層は、前記薬品を溶解可能な溶剤が触れることにより該薬品が溶けて発色するようにしたことを特徴とする偽造防止用紙。
【請求項2】
前記スレッドの発色前の染料発色層は、可視光にて無色透明、無色、白色のいずれかであり、前記薬品を溶解可能な溶剤が触れることにより該薬品が溶けて発色することを特徴とする請求項1記載の偽造防止用紙。
【請求項3】
前記スレッドの発色前の染料発色層は、可視光にて有色であり、前記薬品を溶解可能な溶剤が触れることにより該薬品が溶けて、前記色とは異なる色に発色することを特徴とする請求項1記載の偽造防止用紙。
【請求項4】
前記スレッドの発色前の染料発色層は、可視光にて無色であり、紫外光の照射により発光して発色することを特徴とする請求項1記載の偽造防止用紙。
【請求項5】
前記スレッドの染料発色層は、結着用樹脂中に紫外光にて発色する紫外光発色剤が配合されていて紫外光照射により蛍光発色することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の偽造防止用紙。
【請求項6】
前記スレッドの染料発色層の染料及び固形状薬品は、該染料発色層の領域内に均一に分散分布して含有していることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の偽造防止用紙。
【請求項7】
前記スレッドの染料発色層の染料は、親油性有機溶剤に可溶であり、水若しくは親水性有機溶剤に不溶であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の偽造防止用紙。
【請求項8】
前記スレッドが細幅の短冊形状であって、該スレッドの表面又は/及び裏面に、マイクロ文字、パターン等の着色印刷層が施されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の偽造防止用紙。
【請求項9】
前記スレッドは、紙層間に抄き込まれていて用紙表面には露出しておらず、前記溶剤に触れさせて用紙表面を反射光で観察した時には、前記染料発色層による発色が観察されることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載の偽造防止用紙。
【請求項10】
前記スレッドは、紙層間に抄き込まれていて用紙表面にはスレッドの一部が間欠的に窓空き部より露出しており、前記溶剤に触れさせて用紙表面を反射光で観察した時には、前記染料発色層による発色が窓空き部より観察されることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載の偽造防止用紙。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項記載の偽造防止用紙に、所定の印刷部を設けたことを特徴とする偽造防止印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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