説明

先付機

【課題】伸線機に用いる線材に先付加工を行う先付機を提供する。
【解決手段】線状のワーク10に先付加工する切削バイト3を回転させるスピンドル2内に、後方へ押し込まれてくるワーク10の先付部10aを振動しないように把持する均等中心角度位置に配設された3本以上のクランプアーム6を設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸線機に用いる線材に先付加工を行う先付機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被加工線材(ワーク)の最終用途に見合った線径を得るために、ダイスを用いてワークに引抜き加工を行う伸線機が用いられている。この加工に先立ってワークの先端部を伸線機のダイスよりも細径に縮径する先付加工が施される。用いる先付機としては、特許文献1記載のように、切削バイトを用いてワークの先端部を切削加工し、所定の線径に形成する切削先付機が広く知られている。
【特許文献1】特開昭63−230217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来の切削先付機は、ワークに先付加工を行う際、回転する切削バイトによってワークを削って縮径させるため、切削抵抗によって長尺のワークが振動し、切削加工の精度に問題が生じていた。このような切削加工精度の劣るワークの先付部では、その後の伸線機による伸線加工中に、強度不足で切断を生じたり、製品の寸法精度と品質に多くの問題を生ずる虞れがあった。
【0004】
そこで、本発明は、均一に精度のよい先付部を形成する先付機の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本発明の先付機は、線状のワークに先付加工する切削バイトを回転させるスピンドル内に、後方へ押し込まれてくる上記ワークの先付部を振動しないように把持する均等中心角度位置に配設された3本以上のクランプアームを設けたものである。
【0006】
また、ワークに先付部を形成する切削バイトと、一軸心廻りに回転駆動されるように固定フレームに設けられると共に上記切削バイトを回転させるスピンドルと、上記スピンドルに同心状に内設されると共に上記本体フレームに固定される固定パイプと、該固定パイプに内嵌され上記軸心方向にスライド自在に設けられる可動パイプと、該可動パイプに設けられた軸心方向のスリット内に揺動自在に枢着されると共に上記可動パイプの後方へのスライドに伴って上記固定パイプの前端に摺接して揺動し上記先付部を振動しないように把持する均等中心角度位置に配設された3本以上のクランプアームと、を具備するものである。
【0007】
また、ワークに先付部を形成する切削バイトと、一軸心廻りに回転駆動されるように固定フレームに設けられると共に上記切削バイトを回転させるスピンドルと、上記スピンドルに同心状に内設されると共に上記本体フレームに固定される固定パイプと、該固定パイプに内嵌され上記軸心方向にスライド自在に設けられる可動パイプと、該固定パイプの前端に揺動自在に枢着されると共に上記可動パイプの前方へのスライドに伴って上記可動パイプの前端に摺接して揺動し上記先付部を振動しないように把持する均等中心角度位置に配設された3本以上のクランプアームと、を具備するものである。
【0008】
また、上記クランプアームは勾配面を有する突出部を有し、上記可動パイプのスライドに伴って面取り状のガイド面と摺接して揺動するものである。
また、上記クランプアームは、先端に回転自在に枢着されるガイドローラを有しているものである。
また、上記クランプアームの勾配面が常に上記ガイド面に摺接するように、上記クランプアームを弾発的に付勢するリターンスプリングを備えているものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の先付機によれば、切削加工される長尺のワークの振動を抑制できる。これによって、切削振動による従来の寸法精度の悪化を極小に抑えることができ、安定して、精度のよい先付加工が施される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、実施の形態を示す図面に基づき本発明を詳説する。
図1は、本発明の先付機の実施の一形態を示す全体構成図であり、図2は要部拡大図である。
本発明の先付機は、固定して設置される固定フレーム1に、軸心L0 廻りに回転駆動されるパイプ状のスピンドル2を備えている。スピンドル2の前端には線状のワーク10を切削して縮径する複数本の切削バイト3が取着されている。スピンドル2内の中空部には二重パイプが設けられている。二重パイプは、固定フレーム1に連結された固定パイプ4と、固定パイプ4に軸心L0 方向にスライド可能として内嵌される可動パイプ5と、から成る。可動パイプ5には、3本のクランプアーム6が揺動自在に枢着されている。スピンドル2内には、リターンスプリング9を備えている。
【0011】
ワーク10は、金属製の線材であって、図外前方に設置された送り込み装置から、スピンドル2の軸心L0 に線の中心を合わせて送られてくる。
【0012】
スピンドル2は、2つの玉軸受部材Bと2つのころ軸受部材Cとを介して固定フレーム1に保持されている。このように、スピンドル2は、固定フレーム1に保持され、回転駆動する。スピンドル2は、前端に円盤型の刃物台11を有している。刃物台11は、切削バイト3を軸心L0 周りに均等位置に配置して保持するバイト取付部材12を有する。
【0013】
固定パイプ4の後端部は、固定フレーム1に固定して連結されているため、スピンドル2の回転とは独立して静止している。固定パイプ4の前端には、面取り状のガイド面13が形成されている。ガイド面13は、固定パイプ4の前方開口部の内側を、面取り加工して形成されたものである。
【0014】
可動パイプ5は、固定パイプ4に内嵌され、その後端部を固定パイプ4の後方開口部から露出している。可動パイプ5の後端部は、揺動アーム21の中間位置に枢結軸23にて、枢結されている。揺動アーム21は、一端をシリンダ22に、他端を固定フレーム1に枢結されている。シリンダ22は、一端を固定フレーム1に固定され、他端を揺動アーム21に枢結されている。シリンダ22の伸縮に伴って揺動アーム21が揺動し、可動パイプ5は前後方向にスライドする。
【0015】
図4は可動パイプ5及びクランプアーム6の説明図である。
図4に示すように、可動パイプ5は、軸心L0 方向の長孔状スリット5aを有している。スリット5aは、可動パイプ5の前端部に3箇所設けられ、軸心L0 に対して均等中心角度位置に配設されている。
【0016】
スリット5a内には、クランプアーム6が、それぞれピン16によって枢着されている。クランプアーム6の先端には、回転自在のガイドローラ8を有している。クランプアーム6は、突出部7を軸心L0 に対して外側に向けて突設している。突出部7の基端側には、ガイド面13と接合する勾配面7aが形成されている。
【0017】
図1と図2に示すように、リターンスプリング9は、前端をスプリング保持筒18によって固定され、後端の当接リング17を常に軸心L0 方向後方へ弾発付勢するように配設されている。スプリング保持筒18は、玉軸受であるベアリング部材19を介してスピンドル2に保持されている。当接リング17は、クランプアーム6の突出部7を、固定パイプ4のガイド面13に押し付けるように弾発力を加えている。
【0018】
上述した本発明の先付機の使用方法(作用)について説明する。
図1と図2に示すように、送りを与えられたワーク10は、前方から後方へ(図の右から左側へ)軸心L0 に沿って走行し、刃物台11を通過すると共に、複数の切削バイト3によって切削され、テーパー部10bを形成されつつ、所望の線径に縮径した先付部10aを形成する。
【0019】
図1のシリンダ22を駆動し、揺動アーム21を後方に揺動させて、可動パイプ5を後方へスライドさせる。3本のクランプアーム6は、可動パイプ5の後方へのスライドに伴って、勾配面7aとガイド面13とが摺接しつつ、軸心L0 に対して接近する方向(つまり、ラジアル方向)へ揺動する。
【0020】
図7は、先付部10aの要部断面図である。
図7に示すように、揺動したクランプアーム6は、走行する先付部10aに、先端のガイドローラ8を接触させ、3方向から均等に押し込むことで、先付部10aを把持し、切削抵抗によって振動しないように固定する。この際、ガイドローラ8は、回転しつつ先付部10aを案内するため、先付部10aとの間に摩擦を生じにくく、接触する表面に傷を付けることなく確実に保持力を加えることができ、かつ、円滑に先付部10aを案内している。
【0021】
図3は作用説明図である。
所望の長さ寸法の先付部10aを得た後、ワーク10の送りを停止し、かつ、スピンドル2の回転を停止し、バイト3をワーク10から離反する。そして、図1のシリンダ22を逆方向に駆動させ、可動パイプ5を前方へスライドさせる。図3に示すように、可動パイプ5の前方へのスライドに伴って、勾配面7aとガイド面13とが摺接しつつ、軸心L0 に対して離反する方向へ揺動する。この際、当接リング17は、突出部7に常に押圧する弾発力を加えているため、勾配面7aは、ガイド面13に沿って摺動し、クランプアーム6を確実に可動パイプ5と連動させている。
【0022】
上述したように、先付部10aをクランプアーム6の把持から解除し、スピンドル2内からワーク10を取り出す。このようにして得られたワーク10には、均一に精度のよい先付部10aが形成される。
その後、ワーク10は、伸線機でダイスによる引抜き加工を行って所定の線径に縮径され、線材として利用される。
【0023】
図5は、本発明の他の実施の形態を示すものである。
図5に示すように、ねじりバネ式のリターンスプリング90の中間を、ピン16に巻設している。スリット5aの後端内面から軸心L0 方向に形成された挿入孔5bと、クランプアーム6に突設した突起部60と、にリターンスプリング90の両端を掛止して矢印F方向に弾発付勢するものである。
リターンスプリング91の弾発力は、常に図中の矢印F方向に作用し、ガイド面13と勾配面7aを摺接しつつ、クランプアーム6を揺動させている。
【0024】
図6は、本発明の先付機の別の実施の形態を示す要部拡大図である。
図6に示すように、クランプアーム6を固定パイプ14の前端部に枢着している。可動パイプ15の前端にガイド面13を形成している。ガイド面13に勾配面7aが常に摺接するように弾発付勢するねじりバネ式のリターンスプリング91を設けている。
【0025】
クランプアーム6は、可動パイプ5の前方へのスライドに伴って、勾配面7aとガイド面13とが摺接しつつ、軸心L0 に対して接近する方向へ揺動する。
また、ねじりバネ式のリターンスプリング91は、ガイド面13に勾配面7aが常に摺接するように弾発力を加えているため、勾配面7aは、ガイド面13に沿って摺動し、クランプアーム6を確実に可動パイプ5と連動させている。
【0026】
以上のように、本発明は、線状のワーク10に先付加工する切削バイト3を回転させるスピンドル2内に、後方へ押し込まれてくるワーク10の先付部10aを振動しないように把持する均等中心角度位置に配設された3本以上のクランプアーム6を設けているので、切削振動によるワーク10の振れが極小に抑えられ、均一に精度のよい先付部10aを形成できる。
【0027】
また、ワーク10に先付部10aを形成する切削バイト3と、一軸心L0 廻りに回転駆動されるように固定フレーム1に設けられると共に切削バイト3を回転させるスピンドル2と、スピンドル2に同心状に内設されると共に本体フレーム1に固定される固定パイプ4と、固定パイプ4に内嵌され軸心L0 方向にスライド自在に設けられる可動パイプ5と、可動パイプ5に設けられた軸心L0 方向のスリット5a内に揺動自在に枢着されると共に可動パイプ5の後方へのスライドに伴って固定パイプ4の前端に摺接して揺動し先付部10aを振動しないように把持する均等中心角度位置に配設された3本以上のクランプアーム6と、を具備しているので、切削振動によるワーク10の振れが極小に抑えられ、均一に精度のよい先付部10aを形成できる。また、クランプアーム6は、可動パイプ5の前後のスライドに連動して揺動し、先付部10aを確実に把持する保持力が確保できると共に、簡単な操作でクランプアーム6を揺動させることができ、構造が簡素となる。
【0028】
また、ワーク10に先付部10aを形成する切削バイト3と、一軸心L0 廻りに回転駆動されるように固定フレーム1に設けられると共に切削バイト3を回転させるスピンドル2と、スピンドル2に同心状に内設されると共に本体フレーム1に固定される固定パイプ14と、固定パイプ14に内嵌され軸心L0 方向にスライド自在に設けられる可動パイプ15と、固定パイプ14の前端に揺動自在に枢着されると共に可動パイプ15の前方へのスライドに伴って可動パイプ15の前端に摺接して揺動し先付部10aを振動しないように把持する均等中心角度位置に配設された3本以上のクランプアーム6と、を具備しているので、切削振動によるワーク10の振れが極小に抑えられ、均一に精度のよい先付部10aを形成できる。また、クランプアーム6は、可動パイプ15の前後のスライドに連動して揺動し、先付部10aを確実に把持する保持力が確保できると共に、簡単な操作でクランプアーム6を揺動させることができ、構造が簡素となる。
【0029】
また、クランプアーム6は勾配面7aを有する突出部7を有し、可動パイプ5のスライドに伴って面取り状のガイド面13と摺接して揺動するので、可動パイプ5を前後方向にスライドする操作を行うのみで、クランプアーム6を揺動させることができる。かつ、故障の少ない簡素な構造となる。
【0030】
また、クランプアーム6は、先端に回転自在に枢着されるガイドローラ8を有しているので、走行する先付部10aとの間に摩擦を生じにくく、接触する表面に傷を付けることなく確実に保持力を加えることができ、かつ、円滑に先付部10aを案内できる。
【0031】
また、クランプアーム6の勾配面7aが常にガイド面13に摺接するように、クランプアーム6を弾発的に付勢するリターンスプリング9を備えているので、先付部10aからクランプアーム6の把持を解除する際に於ても、可動パイプ5のスライドに伴ってクランプアーム6を確実に揺動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の先付機の実施の一形態を示す全体構成図である。
【図2】要部拡大図である。
【図3】作用説明図である。
【図4】可動パイプ及びクランプアームの説明図である。
【図5】リターンスプリングの他の実施の形態を示すものである。
【図6】別の実施の形態を示す要部拡大図である。
【図7】要部断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 固定フレーム
2 スピンドル
3 切削バイト
4 固定パイプ
5 可動パイプ
5a スリット
6 クランプアーム
7 突出部
7a 勾配面
8 ガイドローラ
9 リターンスプリング
10 ワーク
10a 先付部
13 ガイド面
0 軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状のワーク(10)に先付加工する切削バイト(3)を回転させるスピンドル(2)内に、後方へ押し込まれてくる上記ワーク(10)の先付部(10a)を振動しないように把持する均等中心角度位置に配設された3本以上のクランプアーム(6)を設けたことを特徴とする先付機。
【請求項2】
ワーク(10)に先付部(10a)を形成する切削バイト(3)と、一軸心(L0 )廻りに回転駆動されるように固定フレーム(1)に設けられると共に上記切削バイト(3)を回転させるスピンドル(2)と、上記スピンドル(2)に同心状に内設されると共に上記本体フレーム(1)に固定される固定パイプ(4)と、該固定パイプ(4)に内嵌され上記軸心(L0 )方向にスライド自在に設けられる可動パイプ(5)と、該可動パイプ(5)に設けられた軸心(L0 )方向のスリット(5a)内に揺動自在に枢着されると共に上記可動パイプ(5)の後方へのスライドに伴って上記固定パイプ(4)の前端に摺接して揺動し上記先付部(10a)を振動しないように把持する均等中心角度位置に配設された3本以上のクランプアーム(6)と、を具備することを特徴とする先付機。
【請求項3】
ワーク(10)に先付部(10a)を形成する切削バイト(3)と、一軸心(L0 )廻りに回転駆動されるように固定フレーム(1)に設けられると共に上記切削バイト(3)を回転させるスピンドル(2)と、上記スピンドル(2)に同心状に内設されると共に上記本体フレーム(1)に固定される固定パイプ(14)と、該固定パイプ(14)に内嵌され上記軸心(L0 )方向にスライド自在に設けられる可動パイプ(15)と、該固定パイプ(14)の前端に揺動自在に枢着されると共に上記可動パイプ(15)の前方へのスライドに伴って上記可動パイプ(15)の前端に摺接して揺動し上記先付部(10a)を振動しないように把持する均等中心角度位置に配設された3本以上のクランプアーム(6)と、を具備することを特徴とする先付機。
【請求項4】
上記クランプアーム(6)は勾配面(7a)を有する突出部(7)を有し、上記可動パイプ(5)のスライドに伴って面取り状のガイド面(13)と摺接して揺動する請求項2又は3記載の先付機。
【請求項5】
上記クランプアーム(6)は、先端に回転自在に枢着されるガイドローラ(8)を有している請求項1,2,3又は4記載の先付機。
【請求項6】
上記クランプアーム(6)の勾配面(7a)が常に上記ガイド面(13)に摺接するように、上記クランプアーム(6)を弾発的に付勢するリターンスプリング(9)を備えている請求項4又は5記載の先付機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−131627(P2010−131627A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309356(P2008−309356)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(508358379)株式会社アイティエム (1)
【Fターム(参考)】