説明

光を全反射する繊維または糸

【課題】風合いが柔らかくて光る繊維や糸。
【解決手段】繊維素材は、透明度の高い、リポソーム処理された改質剤で改質された高強度透明ポリアミド繊維を用いる。紡糸口金は頂点が93度の二等辺三角形貫通孔を、頂点を中心部に向けて120度の位置関係に並べて紡糸する。紡糸後の糸断面は図4に示す。3本の頂点の角度合計が279°であるため各空気層は平均27°の間隙をもつこととなり、各繊維の接触による光の抜けを小さくすることができるため、入射光は再帰全反射して室内の照明色にキラキラ輝く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
衣類や繊維製品を光らせることで意匠的価値を高める繊維関連技術。
【背景技術】
【0002】
現在、ラメや金糸、銀糸など光る糸や布がある。また、下記特許文献1によれば、直角三角形断面形状の繊維とすることで光を全反射させる技術が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−248419
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在の金属箔などを付着させた糸などは風合いが硬く、また、特許文献1では、三角断面中1面しか光らないため、特に素材の透明度が悪い場合は、数十本拠り合わせた時に光らない部分が多く、乱反射して単に白く見えるだけであまり効果がない。透明度が高い場合でも、光る部分が少なく、効果が限定的であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
図1及び図2は、本発明の一例を説明する断面説明図である。101、201は繊維内葉、102、202は中空部である。図3は図2の内葉(201)の拡大断面説明図である。301は繊維内葉、302は中空部、a〜cは内葉の各変曲点である。図4、図5及び図6は本発明の他の例を説明する断面概念説明図である。401、501、601は単繊維断面、402、502、602は空気層である。
【0006】
第一の手段は、透明または半透明の素材からなる繊維または糸において、該繊維または該糸の断面形状が、多角形で、任意の隣接する辺のなす角の角度を2θ、該素材と空気の光学的臨界角をαとしたとき、(90°−α)≧θ≧(30°+α)とし、このθ条件を満たす角部(以下、「再帰反射角部」と呼ぶ)を繊維または糸の中心部に配向させてなり、再帰反射角部に対向する光の入射表面は再帰反射角部からの反射光に対して垂直な平面または曲面か、あるいは入射表面が角部の場合は、角部角度を2θとした時、θ<(30°+α)または、θ>(90°−α)としたことを特徴とする光を全反射する繊維または糸。
【0007】
本手段では、繊維または糸表面から中心部に向かう入射光が空気との境界面で再帰全反射し、再び入射表面に戻る。この時、入射表面は反射光に対して垂直な平面または曲面が望ましい。入射表面が角部の場合は、角部角度を2θとした時、θ<(30°+α)または、θ>(90°−α)の条件を満たす場合、入射光が表面外部へ再帰全反射する。図3の∠abcを{2×(90°−α)}以下にすることで、表面に垂直な入射光が空気繊維境界面とのなす入射角度が臨界角を超えるため内部で全反射する。また、{2×(30°+α)}以上であれば、入射方向に近い表面方向へ再帰する。反射光は再帰した表面が入射光に垂直な平面や曲面の場合、外部へ抜ける。角部であっても前記条件であれば同様の理由で外部に抜けて再帰全反射となる。尚、本編で言う「配向」とは分子の向きではなく、繊維又は糸横断面における再帰反射角部の向きを言う。
【0008】
第二の手段は、繊維または糸断面を中空構造ことを特徴とする光を全反射する第一の手段の繊維または糸。
【0009】
本手段では、繊維や糸を中空にすることで中空部に空気を保持することで、各葉と空気層が隣接する位置関係に置くことができ、内葉同士の接触による光抜けを防止することができ、常に安定した再帰反射を実現できる。本手段の一例では、図1の如く内向きに4葉形状とすることで、4方からの入射光を再帰反射させることができる。図2の例では11葉としたことで、11方向からの入射光を再帰反射させることができる。また、中空部を大きく取ることが可能なため保温性や吸湿性等中空繊維としての機能を十分発揮することができる。
【0010】
第三の手段は、透明または半透明の素材からなる繊維において、該繊維の断面形状が、多角形であり、再帰反射角部を繊維束中心部に配向させてなり、繊維束を構成する繊維の本数をPとし、再帰反射角部の角度をωとし、ω=90°の場合はP=3またはP=5とし、ω≠90°の場合はP=3またはP=4またはP=5とすることを特徴とする光を全反射する第一の手段の繊維または糸。
【0011】
本手段では、紡糸・紡績時、繊維束を形成するが、繊維束をPω≠360°にすることで、繊維間に間隙が生じる。即ち、P=3またはω<90°でP=4の場合、空気層が図4の如く表層部付近に生じる。また、P=5またはω>90°でP=4の場合は、図5または図6のように繊維束中心付近に空気層が発生する。いずれの場合も空気層が各繊維の間隙に生じるため入射光の抜けが少なくなり、より明るく光る。また、Pω≠360°でPωを360°に近づけるPとすることで、繊維束中の各繊維の変形を小さくしたり、この繊維束を数束撚糸して糸を製造するとき、他の繊維束の角が間隙に侵入するのをある程度防止したりすることが可能となり、光の抜けを小さくすることができる。また、繊維断面形状は三角形または五角形が望ましい。
【発明の効果】
【0012】
再帰反射角部を糸や繊維の中心に向けて配向させて表面を覆うことで表面に広く反射面を設けることができ、より明るく輝く。また、再帰反射角部の角度を360°に一致させないことで、繊維間に空隙を作り光の抜けを少なくして明るい反射が得られる。また、不一致角度を小さくすることで繊維断面形状の過度の変形を防止でき、安定した再帰全反射が得られる。これらの繊維や糸を用いて製造した衣類は、通常の繊維と変わらずに柔らかく、しかも周囲の光線を反射してキラキラ輝くため、意匠性を大きく向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
発明を実施するための最良の形態を実施例で説明する。図4は本実施例の一例を説明する断面説明図である。401は繊維内葉、402は空気層である。図7は図4の紡糸口金の平面断面説明図である。701は口金、702、703、704は貫通口である。表1は各種繊維素材の光学的物性を示す。
【0014】
【表1】

【実施例1】
【0015】
繊維素材は、透明度の高い、リポソーム処理された改質剤で改質された高強度透明ポリアミド繊維を用いる。紡糸口金は頂点が93度の二等辺三角形貫通孔を、図7の702、703、704の如く頂点を中心部に向けて120度の位置関係に並べて紡糸する。紡糸後の糸断面は図4に示す。3本の繊維の頂点角度合計が279°であるため各空気層は平均27°の間隙をもつこととなり、各繊維の接触による光の抜けを小さくすることができるため、入射光は再帰全反射して室内の照明色にキラキラ輝く。また頂点角度を再帰反射角度域の中央値付近とすることで外力による繊維断面形状の変形に起因する角度変化を吸収できる。
【0016】
本ポリアミド糸で編んだ編物や織った布帛で製造した衣類は、ラメや金属糸に比較して風合いも柔らかく、周囲の照明または環境色を全反射してキラキラ輝くため児童や高齢者の交通安全用衣服や舞台衣装、また、下着、ストッキング、カジュアルウェア等に用いられる。
【0017】
その他、リボンや紐、帆布、シート、テント、ロープ等に使用するとことができる。
【産業上の利用可能性】
【0018】
繊維、糸、布、編み物、衣類、ロープ、紐、リボン、帆布、シート、テント等に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一例を説明する断面説明図である。
【図2】本発明の一例を説明する断面説明図である。
【図3】図2の内葉の拡大断面説明図である。
【図4】実施例1を説明する断面概念説明図である。
【図5】本発明の他の例を説明する断面概念説明図である。
【図6】本発明の他の例を説明する断面概念説明図である。
【図7】実施例1を説明する断面概念説明図である。
【符号の説明】
【0020】
101、201、301 繊維内葉
102、202、302 中空部
401、501、601 単繊維断面
402、502、602 空気層
701 紡糸口金
702、703、704 貫通孔
a〜c 内葉の各変曲点
θ 光線と反射面のなす角度
α 臨界角
P 繊維の本数
ω 再帰反射角部の角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明または半透明の素材からなる繊維または糸において、該繊維または該糸の断面形状が、多角形で、任意の隣接する辺のなす角の角度を2θ、該素材と空気の光学的臨界角をαとしたとき、(90°−α)≧θ≧(30°+α)とし、このθ条件を満たす角部(以下、「再帰反射角部」と呼ぶ)を繊維または糸の中心部に配向させてなり、再帰反射角部に対向する光の入射表面は再帰反射角部からの反射光に対して垂直な平面または曲面か、あるいは入射表面が角部の場合は、角部角度を2θとした時、θ<(30°+α)または、θ>(90°−α)としたことを特徴とする光を全反射する繊維または糸。
【請求項2】
繊維または糸断面を中空構造ことを特徴とする請求項1に記載の光を全反射する繊維または糸。
【請求項3】
透明または半透明の素材からなる繊維において、該繊維の断面形状が、多角形であり、再帰反射角部を繊維束中心部に配向させてなり、繊維束を構成する繊維の本数をPとし、再帰反射角部の角度をωとし、ω=90°の場合はP=3またはP=5とし、ω≠90°の場合はP=3またはP=4またはP=5とすることを特徴とする請求項1に記載の光を全反射する繊維または糸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−163730(P2010−163730A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24250(P2009−24250)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(507275604)株式会社ミツヤコーポレーション (10)
【Fターム(参考)】