説明

光ディスク用オーバーコート組成物

【課題】 硬化速度が速く、基材に対する密着性および耐久性に優れ、空気(酸素)による硬化阻害のない光カチオン硬化型光ディスク用オーバーコート組成物を提供する。
【解決手段】 少なくとも2個のプロペニルエーテル末端基を有する化合物および光カチオン重合開始剤を必須成分としてなる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は光ディスク用オーバーコート組成物に関する。さらに詳しくは、紫外線等の光照射により高速に硬化し、記録媒体との密着性、硬度、耐久性等に優れた硬化塗膜を形成する、プロペニルエーテル末端基化合物を含む光カチオン硬化型オーバーコート組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、コンパクトディスク記録媒体などの光ディスクの記録膜のためにオーバーコート剤が塗布されている。該オーバーコート剤としては、不飽和ポリエステル、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレートなどの光ラジカル硬化型オーバーコート剤(例えば特開昭63−96036号公報)が知られている。しかし、光ラジカル重合型の硬化は一般に体積収縮が起こり、記録媒体面に対するの密着性が低下し易く、さらに、アクリル系組成物は特有の臭気を有し、作業環境の汚染や皮膚刺激性が高いという問題点がある。さらに、UV硬化に際して空気(酸素)が介在するとラジカル硬化反応が阻害されるため、不活性ガス雰囲気中でUV照射を行う必要があり、装置の面でも制約があった。このようなラジカル硬化型の問題点を改善するものとして、エポキシ系の光カチオン硬化性樹脂があるが、該樹脂は光反応性が低いため、硬化時に多大のUVエネルギーを必要とする。そのため、高UVエネルギー照射装置を必要としたり、照射時間が長くかかるという欠点があった。このような光カチオン硬化性樹脂の反応性の低さを向上させる方法として、脂環式エポキシ化合物をベースレジンまたは希釈剤として用いる方法が提案されている(特開平5−186755号公報など)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記脂環式エポキシ化合物を用いた光カチオン硬化型の反応速度も、従来の光ラジカル硬化性樹脂に比べると遅く、しかも工業的に入手できる脂環式エポキシ化合物の種類は限られており、実用性能を満足できるものを得るのは困難であった。本発明は、有機溶剤、刺激性のモノマー、オリゴマーなどを含まず、UV等の活性エネルギー線を照射することにより高速に硬化し、ディスク基材に対するの密着性、耐久性、硬度等にすぐれ硬化物を与える光ディスク用オーバーコート組成物を提供することを目的とする。本発明のオーバーコート組成物は、従来技術における種々の問題点、すなわち作業者に対する有害性、環境汚染、臭気問題、硬化速度、塗膜物性等を大幅に改善するものである。
【0004】本発明者らは、上記問題点を解決する光ディスク用オーバーコート剤について鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、分子内に少なくとも2個のプロペニルエーテル末端基を有する化合物(A)および光カチオン重合開始剤(B)を必須成分とすることを特徴とする光ディスク用オーバーコート組成物である。
【0005】
【発明の実施の形態】本発明における分子内に少なくとも2個のプロペニルエーテル末端基を有する化合物(A)は、たとえばプロペニルエーテル末端基を有する(ポリ)エーテルオリゴマー、プロペニルエーテル末端基を有するポリエステルオリゴマー、プロペニルエーテル末端基を有するウレタンオリゴマーおよびプロペニルエーテル末端基を有するモノマーの群から選ばれる1種以上のものであり、特に好ましくはプロペニルエーテル末端基を有するウレタンオリゴマーである。
【0006】上記プロペニルエーテル末端基を有する(ポリ)エーテルオリゴマーは、下記一般式(1)で表される化合物である。
1[−O−(AO)m−R1]n (1)
{式中、nは2〜200の整数であり、n個のmは0〜200の整数でありmの少なくとも1個は1以上である。n個のR1の少なくとも2個はプロペニル基であり、残りは水素原子、アルキル、アシルまたはアリール基でもよい。Aは炭素数2〜12のアルキレン、アリーレン、アラルキレンまたはシクロアルキレン基であり、mが2以上の場合のAは同一でも異なっていても良く、(AO)m部分はランダム付加でもブロック付加でも良い。X1は多価アルコール残基である。}
【0007】該一般式(1)において、Aは炭素数1〜12のアルキレン、アリーレン、アラルキレンおよびシクロアルキレン基よりなる群から選ばれる2価の基であり、使用しうるアルキレン基の例には、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、へキシレン、へプチレン、オクチレン、ノニレン、デシレン、ウンデシレン、ドデシレン等が挙げられる。アリーレン基の例にはフェニレン、ナフチレン、アントリレン、フェナントリレン等が挙げられる。アラルキレンの例には、ベンジレン、1−フェニチレン、2−フェニチレン、3−フェニルプロピレン、2−フェニルプロピレン、1−フェニルプロピレンなどが挙げられる。シクロアルキレン基の例には、シクロペンチレン、シクロヘキシレン、シクロヘプチレン、シクロオクチレン等が挙げられる。これらのうち好ましくは、エチレン基およびプロピレン基である。アルキレン基の炭素数が12を越えるものでは後述する光カチオン重合開始剤(B)の溶解性が悪くなる。
【0008】X1は多価アルコール残基であり、該多価アルコールとしては、グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜18量体、例えばジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等)、グリシドールの開環重合物(重合度が2〜5000である化合物)、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)およびこれらの2〜3量体、モノペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、1,3,5−ペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタンソルビタングリセリン縮合物等が挙げられる。これらのうち特に好ましいものはグリセリン、ポリグリセリン、ならびにトリメチロールアルカンおよびその2〜3量体である。
【0009】該一般式(1)において、n個のmは通常0〜200の整数であり、mの少なくとも1個は通常1以上、好ましくは1〜80、特に好ましくは1〜5の整数である。mが200を超えると粘度が高くなり(B)の溶解が困難になる。
【0010】また、nは通常2〜200、好ましくは3〜100、特に好ましくは3〜5の整数である。nが200を超えると、粘度が高くなり開始剤(B)の溶解が困難になる。n個のR1の少なくとも2個はプロペニル基であり、残りは水素原子、アルキル、アシルまたはアリール基でもよい。
【0011】本発明におけるプロペニルエーテル末端基を有するポリエステルオリゴマーとしては、下記一般式(2)、(3)または(4)で表される化合物が挙げられる。
【0012】


{式中、mは1〜200の整数、nは2〜200の整数であり、X2、X3はそれぞれHOX2OH、HOX3OHで表されるアルキレンジオール、アリーレンジオール、ポリエーテルジオール、ポリウレタンジオールまたはポリカーボネートジオールのいずれかのジオールの残基であり、Y1は多価カルボン酸残基であり、Y2は2価カルボン酸残基である。n個のR1の少なくとも2個はプロペニル基であり、残りは水素原子、アルキル、アシル又はアリール基でもよい。}
【0013】該一般式(2)におけるX2は、HOX2OHで表されるアルキレンジオール、アリーレンジオール、ポリエーテルジオール、ポリウレタンジオールまたはポリカーボネートジオールのいずれかのジオールの残基である。
【0014】HOX2OHで表されるアルキレンジオールの具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、1.4−シクロヘキサンジオールなどがあげらる。これらのうち好ましくは、エチレングリコールおよびプロピレングリコールである。
【0015】HOX2OHで表されるアリーレンジオールの具体例としては、カテコール、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビスフェノールAなどが挙げられる。これらのうち好ましくは、ビスフェノールAである。
【0016】HOX2OHで表されるポリエーテルジオールの具体例としては、ポリ(オキシエチレン)ジオール、ポリ(オキシプロピレン)ジオール、ポリ(オキシテトラメチレン)ジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物などが挙げられる。これらのうち好ましくは、ポリ(オキシエチレン)ジオールおよびポリ(オキシプロピレン)ジオールである。
【0017】上記ポリエーテルジオールの重合度は通常1〜200、好ましくは2〜100、特に好ましくは3〜20である。
【0018】HOX2OHで表されるポリウレタンジオールの例としては、下記の(i)と(ii)との反応生成物が挙げられる。
(i) H(OX5)m−OH で表されるジオール(ただし、mは1〜200の整数、X5は炭素数2〜12のアルキレン、アリーレン、アラルキレンおよびシクロアルキレンの基よりなる群から選ばれる2価の基である。)
(ii) OCN−Z3−NCO で表されるジイソシアネート(ただし、Z3はアルキレン、アリーレン、アラルキレンおよびシクロアルキレンの基からなる群から選ばれる2価の基である。)
【0019】上記(i)のジオールにおいて、mは通常1〜200、好ましくは3〜20の整数である。
【0020】上記(i)のジオールにおいて、X5は炭素数2〜12のアルキレン、アリーレン、アラルキレンおよびシクロアルキレンの基よりなる群から選ばれる2価の基であり、使用しうるアルキレン基の例には、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、へキシレン、へプチレン、オクチレン、ノニレン、デシレン、ウンデシレン、ドデシレン等が挙げられる。アリーレン基の例にはフェニレン、ナフチレン、アントリレン、フェナントリレン等が挙げられる。アルアルキレンの例には、ベンジレン、1−フェニチレン、2−フェニチレン、3−フェニルプロピレン、2−フェニルプロピレン、1−フェニルプロピレンなどが挙げられる。シクロアルキレン基の例には、シクロペンチレン、シクロヘキシレン、シクロヘプチレン、シクロオクチレン等が挙げられる。これらのうち特に好ましくは、エチレン基およびプロピレン基である。アルキレン基の炭素数が12を越えると重合開始剤(B)の溶解性が悪くなる。
【0021】上記(ii)のジイソシアネートの例としては、トルエンジイソシアネート(TDI)、p−およびm−フェニレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、3,3’−ジメチル−4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−テトラヒドロナフタリンジイソシアネート、ナフタリン−1,5’−ジイソシアネート、ビス(2−メチル−3−イソシアナトフェニル)メタン、4,4’−ジフェニルプロパンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)などが挙げられる。これらのうち好ましいものは、TDI、MDI、IPDI、TMXDI、水添MDIおよびHDIである。
【0022】HOX2OHで表されるポリカーボネートジオールの例としては下記の一般式で表される化合物が挙げられる。


(ただし、mは1〜200の整数であり、X6は炭素数2〜12のアルキレン、アリーレン、アラルキレン、およびシクロアルキレンの基よりなる群から選ばれる2価の基である。)
【0023】上記一般式におけるmは通常1〜200、好ましくは3〜20の整数である。
【0024】上記一般式におけるX6は炭素数2〜12のアルキレン、アリーレン、アラルキレンおよびシクロアルキレンの基よりなる群から選ばれる2価の基であり、使用しうるアルキレン基の例には、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、へキシレン、へプチレン、オクチレン、ノニレン、デシレン、ウンデシレン、ドデシレン等が挙げられる。アリーレン基の例にはフェニレン、ナフチレン、アントリレン、フェナントリレン等が挙げられる。アルアルキレンの例には、ベンジレン、1−フェニチレン、2−フェニチレン、3−フェニルプロピレン、2−フェニルプロピレン、1−フェニルプロピレンなどが挙げられる。シクロアルキレン基の例には、シクロペンチレン、シクロヘキシレン、シクロヘプチレン、シクロオクチレン等が挙げられる。これらのうち好ましくはエチレン基およびプロピレン基である。
【0025】前記一般式(2)におけるX3としては、該式(2)のX2として例示したものと同一のものが挙げられ、X2とX3とは同一であっても異なっていてもよい。
【0026】一般式(2)におけるY1は2価以上の多価カルボン酸残基であり、Y2は2価カルボン酸残基である。該2価カルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸等が挙げられる。3価以上多価カルボン酸としてはトリメリット酸、ピリメリット酸等が挙げられる。これらのうちY1、Y2ともにイソフタル酸、テレフタル酸およびアジピン酸から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0027】一般式(2)において、mは通常1〜200、好ましくは1〜80、特に好ましくは1〜20の整数である。mが200を越えると粘度が高くなり重合開始剤(B)の溶解が困難になる。
【0028】一般式(2)おいて、nは通常2〜200、好ましくは3〜100、特に好ましくは3〜20の整数である。nが200を越えると、粘度が高くなり開始剤(B)の溶解が困難になる。また、n個のR1の少なくとも2個はプロペニル基であり、残りは水素原子、アルキル、アシルまたはアリール基でもよい。
【0029】次に下記一般式(3)で表されるポリエステルオリゴマーについて説明する。


{式中、mは1〜200の整数、nは2〜200の整数であり、X2はアルキレンまたはアリーレン基であり、X1は多価アルコール残基である。n個のR1の少なくとも2個はプロペニル基であり、残りは水素原子、アルキル、アシルまたはアリール基でもよい。}
【0030】該一般式(3)におけるX1は、前記一般式(1)で示されたものと同一のものが挙げられ、X2、mおよびnは、それぞれ前記一般式(2)で示されたものと同一のものが挙げられる。
【0031】次に下記一般式(4)で表されるポリエステルオリゴマーについて説明する。


{式中、mは1〜200、nは2〜200の整数であり、X2、X3はそれぞれ、HOX2OH、HOX3OHで表されるアルキレンジオール、アリーレンジオール、ポリエーテルジオール、ポリウレタンジオールまたはポリカーボネートジオールのいずれかのジオールの残基であり、X1は多価アルコール残基である。n個のR1の少なくとも2個はプロペニル基であり、残りは水素原子、アルキル、アシル又はアリール基でもよい。}
【0032】該一般式(4)におけるX1は、前記一般式(1)で示されたものと同一のものが挙げられ、X2、X3、mおよびnは、それぞれ前記一般式(2)で示されたものと同一のものが挙げられる。X2とX3は同一であっても異なっていてもよい。
【0033】本発明における(A)におけるプロペニルエーテル末端基を有するウレタンオリゴマーは下記一般式(5)で表される化合物である。


{式中、mは0〜200、nは2〜200の整数であり、Q1は−OX2O−または−N(R2)−X4−N(R2)−で表される基であり、Q2は−OX2O−で表される基である。X2は、HOX2OHで表されるアルキルジオール、アリールジオール、ポリ エーテルジオール、ポリエステルジオールまたはポリカーボネートジオールのいずれかのジオールの残基である。−N(R2)−X4−N(R2)−は、HN(R2)−X4−N(R2)Hで表されるジアミン残基であり、X4は炭素数2〜12のアルキレン、アリーレン、アラルキレンまたはシクロアルキレン基であり、R2は炭素数2〜12のアルキル、アリール、アラルキルまたはシクロアルキル基である。Z1は多価イソシアネート残基であり、Z2は2価イソシアネート残基である。n個のR1の少なくとも2個はプロペニル基であり、残りは水素原子、アルキル、アシルまたはアリール基でもよい。}
【0034】該一般式(5)において、Z2における2価イソシアネートとしては前記式(ii)で挙げられたものと同一のものが挙げられる。Z1における多価イソシアネートとしては上記2価イソシアネートの他にリジンエステルトリイソシアネート、ジイソシアネートの変性体(イソシアヌレート3量体、ビューレット3量体、トリメチロールプロパンアダクト体など)、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリフェニルメタンポリイソシアネート等が挙げられる。
【0035】一般式(5)において、Q1は−OX2O−または−N(R2)−X4−N(R2)−で表される基であり、Q2は−OX2O−で表される基である。X2はHOX2OHで表されるアルキレンジオール、アリ−レンジオール、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオールまたはポリカーボネートジオールのいずれかのジオールの残基であり、X2は前記一般式(2)におけるX2と同一のものが挙げられる。
【0036】上記HOX2OHがポリエステルジオールの場合、下記の(iii)と(iv)との反応生成物が挙げられる。
(iii) H(OX7)m−OH で表されるジオール(式中、mは1〜200の整数、X7は炭素数2〜12のアルキレン、アリーレン、アラルキレン、およびシクロアルキレンの基よりなる群から選ばれる2価の基である。)
(iv) HOOC−Y3−COOH で表されるジカルボン酸(式中、Y3はアルキレン、アリーレン、アラルキレンおよびシクロアルキレンの基よりなる群から選ばれる2価の基である。)
【0037】上記(iii)のジオールにおいて、mは通常1〜200、好ましくは3〜20の整数である。
【0038】上記(iii)のジオールにおいて、X7は炭素数2〜12のアルキレン、アリーレン、アラルキレンおよびシクロアルキレンの基よりなる群から選ばれる2価の基であり、使用しうるアルキレン基の例には、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、へキシレン、へプチレン、オクチレン、ノニレン、デシレン、ウンデシレン、ドデシレン等が挙げられる。アリーレン基の例にはフェニレン、ナフチレン、アントリレン、フェナントリレン等が挙げられる。アルアルキレンの例には、ベンジレン、1−フェニチレン、2−フェニチレン、3−フェニルプロピレン、2−フェニルプロピレン、1−フェニルプロピレンなどが挙げられる。シクロアルキレン基の例には、シクロペンチレン、シクロヘキシレン、シクロヘプチレン、シクロオクチレン等が挙げられる。これらのうち好ましくは、エチレン基およびプロピレン基である。アルキレン基がの炭素数が12を越えると重合開始剤(B)の溶解性が悪くなる。
【0039】上記(iv)のジカルボン酸の例としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ポリカルボン酸等が挙げられる。これらのうち好ましいものはイソフタル酸、テレフタル酸およびアジピン酸である。X4は、前記一般式(2)におけるX2と同一のものが挙げられ、R2は前記一般式(1)中のAで示されたものと同一のものが挙げられ、mおよびnは前記一般式(2)で示されたものと同一のものが挙げられる。
【0040】本発明の(A)におけるプロペニルエーテル末端基を有するモノマーは下記一般式(6)または一般式(7)で表される化合物である。
1[−O−R1]n (6)
{式中、nは2〜200の整数であり、X1は多価アルコール残基である。n個のR1の少なくとも2個はプロペニル基であり、残りは水素原子、アルキル、アシルまたはアリール基でもよい。}
【0041】該一般式(6)において、nは通常2〜200、好ましくは2〜6の整数である。nが200を超えると粘度が高くハンドリングが悪くなる。X1は前記一般式(1)で示したものと同一のものが挙げられる。
【0042】


{式中、nは2〜200の整数、X2はHOX2OHで表されるアルキレンジオール、アリーレンジオール、ポリエーテルジオール、ポリウレタンジオールまたはポリカーボネートジオールのいずれかのジオールの残基であり、Y1は多価カルボン酸残基である。n個のR1の少なくとも2個はプロペニル基であり、残りは水素原子、アルキル、アシルまたはアリール基でもよい。}
該一般式(7)において、nは通常2〜200、好ましくは2〜6の整数である。nが200を超えると粘度が高くハンドリングが悪くなる。Y1およびX2は前記一般式(2)で示されたものと同一のものが挙げられる。
【0043】本発明において使用される光カチオン重合開始剤(B)としては、公知の光カチオン重合開始剤が使用できる。該(B)の具体例としては、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムホスフェート、p−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、p−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−クロルフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−クロルフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ビス[4−ジフェニル−スルフォニオ)フェニル]スルフィド−ビス−ヘキサフルオロフォスフェート、ビス[4−ジフェニル−スルフォニオ)フェニル]スルフィド‐ビス‐ヘキサフルオロアンチモネート、(2、4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Fe−ヘキサフルオロホスフェート等を挙げることができる。これらは市場より容易に入手することができる。市販品の例としては、旭電化(株)製の「SP−150」、「SP−170」;チバ・ガイギー社製の「イルガキュアー261」;ユニオンカーバイド社製の「UVR−6974」、「UVR−6990」等を挙げることができる。
【0044】本発明において組成物の粘度を調節する目的で必要により反応性希釈剤(C)を使用できる。
【0045】該(C)としては、下記一般式(8)で表される化合物が挙げられる。
CH3−CH=CH−O−X2−O−R3 (8)
{式中、X2は、HOX2OHで表されるアルキレンジオール、アリーレンジオール、ポリエーテルジオール、ポリウレタンジオールまたはポリカーボネートジオールのいずれかのジオールの残基であり、R3は炭素数が2〜12のアルキル、アリール、アラルキルまたはシクロアルキル基、または水素原子である。}
【0046】上記一般式(8)におけるX2は、前記一般式(2)で示されたものと同一のものが挙げられ、R3は炭素数が2〜12のアルキル、アリール、アラルキルまたはシクロアルキル基、または水素原子である。
【0047】本発明において(A):(B)の使用割合は重量比で通常(95〜99.9):(0.01〜5)、好ましくは(96〜98):(2〜4)である。(B)の比率が0.05未満では十分な重合開始効果が得られず、5を越えて使用しても硬化速度の更なる向上効果はなく不経済である。
【0048】また、反応性希釈剤(C)を用いる場合の該(C)の量は、(A)と(B)の合計重量に対して通常5〜60重量%、好ましくは10〜30重量%である。該(C)の量が60重量%を越えると、硬化速度が低下する。
【0049】本発明の組成物には必要により公知の光ラジカル重合性組成物(D)を含有させることができる。該(D)の量は、本発明の組成物100重量部あたり、通常0〜100重量部、好ましくは0〜40重量部である。
【0050】本発明の組成物には、更に必要に応じて、公知のエポキシ樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等)、着色剤、充填剤、非反応樹脂、レベリング剤、帯電防止剤、溶剤、その他各種添加剤等を含有させることができる。
【0051】本発明の組成物からなる光ディスク用光カチオン硬化型オーバーコート剤は、光ディスクの記録膜の上に塗布後、UV等の光エネルギーを照射することにより高速に硬化し、密着性、耐久性等に優れた皮膜を形成する。また、光硬化に際して従来の光ラジカル硬化型のように空気中の酸素による硬化阻害を受けることがなく、さらに硬化時の収縮がほとんどないので被覆時の反りが極めて小さい。
【0052】光ディスク記録膜上への塗布方法については特に限定はなく、公知の方法(スピンコーターなど)を用いることができる。また、使用できる光としては高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、低圧水銀ランプ等から放出されるUVなどを挙げることができる。
【0053】
【実施例】以下、実施例を以て本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、配合組成欄の数値は重量部である。
【0054】実施例1〜6、比較例1〜3表1に示した配合処方で調製したオーバーコート剤を、ポリカーボネート基板にスパッタリングにより記録膜を設けた光ディスクの上に、スピンコーターで塗布し、下記評価方法および評価基準にしたがい、光反応性および硬化膜の耐湿性の評価をおこなった。得られた評価結果を表1に示す。
光反応性:オーバーコート塗布面に、高圧水銀灯でUVを所定量照射して硬化性を観察した。硬化性は、一定エネルギー量のUVを照射後の被覆面を綿棒でこすり、未硬化物の綿への付着の程度により評価した。


耐湿性 :900mJ/cm2のUVを照射して得た硬化膜を有する光ディスクを、70℃・90%RHの雰囲気中に1000時間放置し、硬化膜の異常の有無を評価した。


【0055】
【表1】


【0056】表1に示した配合に用いた化合物は以下の通りである。なお、CH3−CH=CH−基(プロペニル基)はPrと略す。
プロペニルエーテル末端基化合物(1):Pr−O−(CH2CH2O)12−Prプロペニルエーテル末端基化合物(2):

(Y:テレフタル酸残基)
プロペニルエーテル末端基化合物(3):

(X:トリエチレングリコール残基)
(Z:4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート残基)
プロペニルエーテル末端基化合物(4):

(X:トリエチレングリコール残基)
プロペニルエーテル末端基化合物(5):R[O−(CH2CH2O)12−Pr]3(R:グリセリン残基)
プロペニルエーテル末端基化合物(6):

(X1:トリエチレングリレリン残基)
(Y:テレフタル酸残基)
(X2:次式のポリウレタンジオールの残基)


(Z:4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート残基)
アクリレート末端基化合物(7):

エポキシ末端基化合物(8):「エピコート828」(油化シェル社製、ビスフェノール型エポキシ樹脂)
脂環式エポキシ末端基化合物(9):「ERL−4221」(ユニオンカーバイド社製、脂環式エポキシ樹脂)
反応性希釈剤(10):Pr−O−CH2CH2−OH反応性希釈剤(11):2−ヒドロキエチルアクリレート反応性希釈剤(12):「BRL−4206」(ユニオンカーバイド社製、脂環式エポキシ樹脂希釈剤)
光カチオン重合触媒(13):「UVR−6974」{p−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネートとビス[4−(ジフェニルスルフォニオ)フェニル]スルフィドビスヘキサフルオロアンチモネートの混合物の50%エチレンカーボネート溶液、ユニオンカーバイド社製}
光ラジカル重合触媒(14):「イルガキュアー184」(チバガイギー社製)
【0057】
【発明の効果】本発明のプロペニルエーテル末端基を有する化合物を含む光カチオン硬化型の光ディスク用オーバーコート組成物は、従来のラジカル重合型のアクリレート系のものよりも硬化性が良く、ディスク基板との密着性および耐湿性の優れた硬化塗膜を形成する。また、従来公知のエポキシ系UVカチオン硬化型樹脂を用いたものに比べても高速硬化性である。上記効果を奏することから、本発明の光カチオン硬化型組成物は、特に光ディスクの記録膜を保護するためのオーバーコート剤として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 分子内に少なくとも2個のプロペニルエーテル末端基を有する化合物(A)および光カチオン重合開始剤(B)を必須成分とすることを特徴とする光ディスク用オーバーコート組成物。
【請求項2】 (A)が、プロペニルエーテル末端基を有する(ポリ)エーテルオリゴマー、プロペニルエーテル末端基を有するポリエステルオリゴマー、プロペニルエーテル末端基を有するウレタンオリゴマーおよびプロペニルエーテル末端基を有するモノマーの群から選ばれる1種以上の化合物である請求項1記載の組成物。
【請求項3】 プロペニルエーテル末端基を有する(ポリ)エーテルオリゴマーが、下記一般式(1)で表されるオリゴマーである請求項2記載の組成物。
1[−O−(AO)m−R1]n (1)
{式中、nは2〜200の整数であり、n個のmは0〜200の整数でありmの少なくとも1個は1以上である。n個のR1の少なくとも2個はプロペニル基であり、残りは水素原子、アルキル、アシルまたはアリール基でもよい。Aは炭素数2〜12のアルキレン、アリーレン、アラルキレンまたはシクロアルキレン基であり、mが2以上の場合のAは同一でも異なっていてもよく、(AO)m部分はランダム付加でもブロック付加でもよい。X1は多価アルコール残基である。}
【請求項4】 プロペニルエーテル末端基を有するポリエステルオリゴマーが下記一般式(2)、一般式(3)、または一般式(4)で表されるオリゴマーである請求項2記載の組成物。


{式中、mは1〜200の整数、nは2〜200の整数であり、X2、X3はそれぞれHOX2OH、HOX3OHで表されるアルキレンジオール、アリーレンジオール、ポリエーテルジオール、ポリウレタンジオールまたはポリカーボネートジオールのいずれかのジオールの残基であり、Y1は多価カルボン酸残基であり、Y2は2価カルボン酸残基である。n個のR1の少なくとも2個はプロペニル基であり、残りは水素原子、アルキル、アシルまたはアリール基でもよい。}


{式中、mは1〜200の整数、nは2〜200の整数であり、X2はアルキレンまたはアリーレン基であり、X1は多価アルコール残基である。n個のR1の少なくとも2個はプロペニル基であり、残りは水素原子、アルキル、アシルまたはアリール基でもよい。}


{式中、mは1〜200、nは2〜200の整数であり、X2、X3はそれぞれ、HOX2OH、HOX3OHで表されるアルキレンジオール、アリーレンジオール、ポリエーテルジオール、ポリウレタンジオールまたはポリカーボネートジオールのいずれかのジオールの残基であり、X1は多価アルコール残基である。n個のR1の少なくとも2個はプロペニル基であり、残りは水素原子、アルキル、アシル又はアリール基でもよい。}
【請求項5】 プロペニルエーテル末端基を有するウレタンオリゴマーが下記一般式(5)で表されるオリゴマーである請求項2記載の組成物。


{式中、mは0〜200、nは2〜200の整数であり、Q1は−OX2O−または−N(R2)−X4−N(R2)−で表される基であり、Q2は−OX2O−で表される基である。X2は、HOX2OHで表されるアルキルジオール、アリールジオール、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオールまたはポリカーボネートジオールのいずれかのジオールの残基である。−N(R2)−X4−N(R2)−はHN(R2)−X4−N(R2)Hで表されるジアミン残基であり、X4は炭素数2〜12のアルキレン、アリーレン、アラルキレンまたはシクロアルキレン基であり、R2は炭素数2〜12のアルキル、アリール、アラルキルまたはシクロアルキル基である。Z1は多価イソシアネート残基であり、Z2は2価イソシアネート残基である。n個のR1の少なくとも2個はプロペニル基であり、残りは水素原子、アルキル、アシルまたはアリール基でもよい。}
【請求項6】 プロペニルエーテル末端基を有するモノマーが下記一般式(6)または一般式(7)で表される化合物である請求項2記載の組成物。
1[−O−R1]n (6)
{式中、nは2〜200の整数であり、X1は多価アルコール残基である。n個のR1の少なくとも2個はプロペニル基であり、残りは水素原子、アルキル、アシルまたはアリール基でもよい。}


{式中、nは2−200、X2は、HOX2OHで表されるアルキレンジオール、アリーレンジオール、ポリエーテルジオール、ポリウレタンジオールまたはポリカーボネートジオールのいずれかのジオールの残基であり、Y1は多価カルボン酸残基である。n個のR1の少なくとも2個はプロペニル基であり、残りは水素原子、アルキル、アシルまたはアリール基でもよい。}
【請求項7】 (A):(B)の重量比が(95〜99.9):(0.01〜5)である請求項1〜6のいずれか記載の組成物。
【請求項8】 さらに反応性希釈剤(C)が配合されてなり、(C)の含量が、(A)と(B)の合計重量に対して5〜60重量%である請求項1〜7のいずれか記載の組成物。
【請求項9】 (C)が下記一般式(8)で表される反応性希釈剤である請求項8記載の組成物。
CH3−CH=CH−O−X2−O−R3 (8)
{式中、X2は、HOX2OHで表されるアルキレンジオール、アリーレンジオール、ポリエーテルジオール、ポリウレタンジオールまたはポリカーボネートジオールのいずれかのジオールの残基であり、R3は炭素数が2〜12のアルキル、アリール、アラルキル、シクロアルキル基または水素原子である。}

【公開番号】特開平9−143391
【公開日】平成9年(1997)6月3日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−326392
【出願日】平成7年(1995)11月20日
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)