説明

光デイスク及びその再生方法

【目的】 高密度なROM型(読み出し専用ディスク)光ディスク及びその再生方法を提供するものである。
【構成】 情報(例えば、ピット情報)が記録された記録層2と、再生光による温度変化を記録された情報に応じて異ならしめる吸収層(例えば、ピットの有無に対応して厚さが異なる熱吸収層)6と、前記温度変化により記録された情報に応じた磁化反転をする再生補助用の磁性層(例えば、フェリ磁性膜)4とを積層して光ディスクを構成する。スポット状の再生光を照射して、記録された情報に応じて前記磁性層の補償点を上下する温度変化を生じせしめて、前記磁性層を記録された情報に応じて磁化反転させ、この磁化反転を検出して情報を再生する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は光学的に情報の再生が可能な光ディスクに係り、特にスポット状の再生光により再生されるピット情報が記録された光ディスク及びその再生方法の改良を関するものである。
【0002】
【従来の技術】再生専用型光記録媒体(光ディスク)としては、現在CD(コンパクトディスク)・VD(ビデオディスク)が実用化されている。これら光ディスクの記録密度(トラックピッチ・ピット長)は、再生装置の収光スポット系(スポット光の径、すなわち、レーザの波長)と、光学ピックアップの対物レンズの開口数(レンズ径と焦点距離によって定まる係数)から限界付けられている(図5参照)。
【0003】レーザ波長がλ、レンズの開口数がNAである光学系の再生限界波長は、λ/2NAであり、現行の光ディスク(光磁気ディスク)はλ= 780nm、NA=0.53であるので、検出限界波長は約0.74μm程度である。
【0004】そこで、記録密度をあげるために、再生に用いるレーザ波長を短くすることや高NAレンズを用いて、再生装置のスポット光の径を実質的に小さくする研究が盛んである。例えば、第2高調波発生素子(SHG)を用いて現行CDやビデオディスクの再生に用いられているレーザ波長を約 800nmから 400nmにする方法である。レーザの波長が半分になると記録密度を約4倍にできる。しかし、SHGは、まだ、安定性・性能・価格などの点で、実用化できる段階ではない。なお、単波長レーザとして実用が可能な波長は約 680nm程度にすぎず、この面からの記録密度の向上には限界が有る。
【0005】また、高NAレンズを用いると焦点深度が浅くなりレンズとディスクとの距離に精度が要求され、光ディスクの製造精度が厳しくなってしまう。したがって、レンズのNAをあまり高くできず、実用化が可能なレンズNAはせいぜい 0.6程度である。
【0006】これに対して、レーザ照射時に生じる光スポット内の温度差により高温部のみが読みだし可能となることを利用して、光スポット面積を実質的に縮小させたものがあり、例えば「アイリスター」と呼ばれるものがある。「アイリスター」は、保磁力が小さい再生層と保磁力の大きい記録層からなる磁性多層膜からなる光磁気ディスクを記録媒体としたもので、再生時に、初期化磁界をかけることにより、情報信号付近の再生層の磁気情報をすべて同一方向に磁化反転させて消去させ、記録を消去された再生層にレーザを照射することで、再生層の高温部のみに記録層から情報が転写され、微小信号を検出するものである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】このように、従来の光ディスクでは、再生する時の分解能はレーザ波長と光学ピックアップの対物レンズの開口数によって、光学的な検出限界が決定されてしまう。そのため高密度のROM型ディスク(読み出し専用ディスク)を再生するには、レーザの短波長化及び光学システムの変更が必要であり、容易ではない。「アイリスター」は、保磁力が小さい再生層と保磁力の大きい記録層からなる磁性多層膜からなる光磁気ディスクを記録媒体としたものであり、記録層として磁気的な変化を利用しているので、大量複製(生産)に適したROM型ディスク(読み出し専用ディスク)としては適切でない。
【0008】本発明の目的は、レーザの波長と光学ピックアップの対物レンズの開口数によって決定される光学的な検出限界以上の高密度の記録ピットを、レーザの短波長化及び光学システムの変更をせずに読み出し、さらに、大量複製(生産)に適したROM型ディスク(読み出し専用ディスク)を提供するものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は上記課題を解決するために、情報(例えば、ピット情報)が記録された記録層と、記録された情報に応じて再生光による温度変化を異ならしめる吸収層(例えば、ピットの有無に対応して厚さが異なる熱吸収層)と、前記温度変化により記録された情報に応じた磁化反転をする再生補助用の磁性層(例えば、フェリ磁性膜)とが、積層されてなることを特徴とする光ディスクを提供する。
【0010】さらに、情報が記録された記録層と、記録された情報に応じて再生光による温度変化を異ならしめる吸収層と、前記温度変化により磁化反転する再生補助用の磁性層とが、積層されてなる光ディスクの再生方法であって、スポット状の再生光を光ディスクに照射して、記録された情報に応じて前記磁性層の補償点を上下する温度変化を生じせしめて、前記磁性層を記録された情報に応じて磁化反転させ、この磁化反転を検出して情報を再生するようにしたことを特徴とする光ディスクの再生方法を提供するものである。
【0011】上記のように構成された光ディスク及びその再生方法によれば、スポット状の再生光を光ディスクに照射すると、記録された情報に応じて再生光による温度変化を異なるしめる吸収層により、記録された情報に応じて前記磁性層の補償点を上下する温度変化が生じる。その結果、前記磁性層上には、記録された情報に応じて補償点を越えて温度変化が生じた部分には磁化反転が生じ、この磁化反転を検出して情報が検出再生される。
【0012】
【実施例】本発明になる光ディスク及びその再生方法の一実施例を以下図面と共に詳細に説明する。
<基本原理>光ディスクは、ピット情報があらかじめ記録された基板(2)上に、補償点が室温以上にあるフェリ磁性膜(磁性層)(4)、吸収層(熱吸収層(6))を積層したものである(図2及び図3参照)。吸収層(6)はピット情報の有無に応じてその厚さが異なるように設けられている。なお、光ディスクを構成するフェリ磁性膜の補償点、吸収層の厚さ、レーザ光のパワーは、スポット状の再生光を光ディスクに照射して、ピット情報の有無(記録された情報)に応じてフェリ磁性膜の補償点を上下する温度変化を生じせしめるように適宜設定されている(図1参照)。
【0013】そして、図1に示すように、光ディスクに信号を読み出すためスポット状のレーザ光を連続照射すると、ピットのある所とない所では、吸収層の厚みが違うため異なる温度分布が発生する。レーザの光スポットは温度分布を持ち、中央部付近が高温になるため、光スポットよりも小さく局所的に温度を上がり、スポットの中央でピットのある所では、ピットのない所及びスポットの周辺でピットのある所に比較して高温になる。すなわち、スポットの中央でピットのある所では、レーザの光スポットが強く、かつ、吸収層が厚いので、高温部となってフェリ磁性膜の補償点を越えた温度となる(図1の[A]参照)。スポットの中央でもピットのない所では、吸収層が薄いので、高温部とならずフェリ磁性膜の補償点を越えない温度となる(図1の[B]参照)。スポットの周辺でピットのある所では、レーザの光スポットが弱いので、吸収層が厚いにもかかわらず高温部とならずフェリ磁性膜の補償点を越えない温度となる。
【0014】そして、ピットの対応部分の温度のみがフェリ磁性膜の補償温度を越えると、あらかじめ一定方向に磁化されたフェリ磁性膜の磁化がピットの所だけ反転する。この反転した磁化を読み出して、出力を得る(図1R>1の[A]参照)。レーザ光が隣のピットに照射される時には、前のピットの温度は、補償温度以下に低下しているため磁化は反転し、元に戻る。したがって、次に読み出す信号に対して干渉することがない。
【0015】このように、ピット情報(記録層の情報)はレーザ光によりフェリ磁性膜に記録転写するようにしたので、レーザ光(再生光)のスポット径Rにかかわらずスポット径よりも小さい中央部分の高温部の対応した部分のみ(転写径r)が補償点を越えて記録転写されることとなる。このようにして、レーザーの波長及び光ピックアップの対物レンズの開口数によって決まる検出限界以上の高密度の信号を取り出すことができる。
【0016】<実施例1>図2は、情報が記録された基板上に補償点が室温以上にあるフェリ磁性膜を積層し、その上に吸収層を設けることにより、レーザーを照射した時に記録ピットとそれ以外の所で温度分布ができることを利用して,記録ピット部のみを補償温度以上にして磁化を反転させ、信号を再生する光ディスクである。
【0017】光ディスク1は、あらかじめピット情報が記録されたROM基板2上に、酸化防止のためSi3 N4 (酸化防止膜3)を 500オングストローム、補償点が 100℃のTbFeCo(フェリ磁性膜4)を 300オングストローム、その上に酸化防止のためSi3 N4 (酸化防止膜5)を 300オングストロームを順次スパッタ装置で成膜した。次に吸収層6としてアントラキノン系の色素を溝が埋まるようにスピンコートで塗布した。色素としては、フタロシアニン系、シアニン系等でも構わない。この上に熱拡散の調整のため金属反射膜を付けることも可能である。この光ディスク1をレーザーの波長780nm、レンズの開口数0.53のプレーヤーで再生して見たところ、光学的な検出限界0.74μm以下の0.5μmの記録波長におけるピットの読取りも可能であった。
【0018】<実施例2>図3は、情報が記録された基板上に吸収層を設け、その上に補償点が室温以上にあるフェリ磁性膜を積層し、レーザーを照射した時に記録ピットとそれ以外の所で温度分布ができることを利用して、記録ピット部のみを補償温度以上にして磁化を反転させ、信号を再生する光ディスクである。光ディスク7は、あらかじめピット情報が記録されたROM基板上2に、吸収層6としてフタロシアニン系の色素を溝が埋まるようにスピンコートで塗布した。その上に、酸化防止のためSi3 N4 (酸化防止膜3)を500オングストローム、補償点が 100℃のTbFeCo(フェリ磁性膜4)を 600オングストローム、さらに酸化防止のためSi3 N4 (酸化防止膜5)を 500オングストローム成膜した。この光ディスク7をレーザーの波長780nm、レンズの開口数0.53のプレーヤーで再生して見たところ、光学的な検出限界0.74μm以下の0.5μmの記録波長においるピットの読取りも可能であった。
【0019】このとき、図4に示す光ディスク8のように、あらかじめピット情報が記録されたROM基板自体を吸収層(9)としても良い。
【0020】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明になる光ディスク及びその再生方法は、情報(例えば、ピット情報)が記録された記録層と、再生光による温度変化を記録された情報に応じて異なるしめる吸収層(例えば、ピットの有無に対応して厚さが異なる熱吸収層)と、前記温度変化により記録された情報に応じた磁化反転をする再生補助用の磁性層(例えば、フェリ磁性膜)とを積層して、光ディスクを構成し、スポット状の再生光を光ディスクに照射して、記録された情報に応じて前記磁性層の補償点を上下する温度変化を生じせしめて、前記磁性層を記録された情報に応じて磁化反転させ、この磁化反転を検出して光ディスクの情報を再生するようにしたものであるから、記録層の情報は、再生光のスポット径にかかわらずスポット径よりも小さい中央部分の高温部の対応した部分のみが補償点を越えて(ピット)情報が磁性層に記録転写され、この磁化反転を検出して光ディスクの情報が再生される。したがって、レーザの短波長化、及び光学ピックアップの対物レンズの開口数を増大させることをせずに高密度の光ディスクを再生することができる。
【0021】また、この光ディスクとして、ピット情報が記録された記録層から構成すれば、大量生産に適したROM型ディスクが提供されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明になる光ディスク及びその再生方法を説明する図である。
【図2】第1の実施例を説明する光ディスクの断面図である。
【図3】第2の実施例を説明する光ディスクの断面図である。
【図4】第3の実施例を説明する光ディスクの断面図である。
【図5】従来の光ディスク及びその再生方法を説明する図である。
【符号の説明】
1 光ディスク
2 ピット情報が記録された基板
3 酸化防止膜
4 再生補助用の磁性膜(フェリ磁性膜)
5 酸化防止膜
6 吸収層(熱吸収層)
7 光ディスク
8 光ディスク
9 ピット情報が記録された吸収層(基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】情報が記録された記録層と、記録された情報に応じて再生光による温度変化を異ならしめる吸収層と、前記温度変化により記録された情報に応じた磁化反転をする再生補助用の磁性層とが、積層されてなることを特徴とする光ディスク。
【請求項2】記録された情報に応じて再生光による温度変化を異なるしめる記録吸収層と、前記温度変化により記録された情報に応じた磁化反転をする再生補助用の磁性層とが、積層されてなることを特徴とする光ディスク。
【請求項3】ピット情報が記録された記録層と、記録されたピット情報に応じて再生光による温度変化が異なるように、ピットの有無に対応して厚さが異なる熱吸収層と、前記温度変化により記録された情報に応じた磁化反転するフェリ磁性膜からなる再生補助用の磁性層とが、積層されてなることを特徴とする光ディスク。
【請求項4】情報が記録された記録層と、記録された情報に応じて再生光による温度変化を異ならしめる吸収層と、前記温度変化により磁化反転する再生補助用の磁性層とが、積層されてなる光ディスクの再生方法であって、スポット状の再生光を光ディスクに照射して、記録された情報に応じて前記磁性層の補償点を上下する温度変化を生じせしめて、前記磁性層を記録された情報に応じて磁化反転させ、この磁化反転を検出して情報を再生するようにしたことを特徴とする光ディスクの再生方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図5】
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【公開番号】特開平5−94646
【公開日】平成5年(1993)4月16日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−278300
【出願日】平成3年(1991)9月30日
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)