説明

光デバイス用偏光子およびその製造方法

【課題】プラズモン効果を利用することにより可視から近赤外光領域の任意の波長に対する偏光特性を向上させると共に薄型化を実現することのできる偏光子とその製造方法とを提供すること。
【解決手段】 偏光子は、メソポーラス酸化物膜と、そのメソポーラス酸化物膜の細孔に担持され、入射光によってプラズモン共鳴が励起される金属ナノ粒子とを備え、前記メソポーラス酸化物膜の1mm以上の面積において、前記金属ナノ粒子が一軸方向に配列されている。製造方法は、異方構造を有する基板上にメソポーラス酸化物膜を形成し、その細孔内に金属イオンまたは原子を含む前駆体を導入し、前駆体から金属ナノ粒子を生成する。メソポーラス酸化物膜は、基板の異方構造に沿って筒状の細孔が二次元ヘキサゴナル状に配列するように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光デバイス用の偏光子に関し、特に、プラズモン効果を利用することにより可視から近赤外光領域の任意の波長に対する偏光特性を向上させると共に小型化を実現することのできる偏光子とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
偏光子は、種々の光デバイスに使用されるものであるが、所望の偏光面を透過させ、これと異なる偏光面を透過させない特性を有するものである。例えば、投射型液晶表示装置における偏光子としては、ハロゲン化銀粒子を析出させた母ガラスを延伸させ、その延伸に伴い一軸方向に延伸されたハロゲン化銀粒子の一部(または全部)を還元して偏光ガラスを構成するものがあった(特許文献1参照)。
【0003】
上記技術は、延伸されて一軸配向するハロゲン化銀の一部を還元することにより、当該還元された銀粒子が、所望のアスペクト比を有するように構成するものであった。この種の偏光ガラスは、赤外線用偏光ガラスを製造する技術を応用したものであって、還元された銀粒子のアスペクト比を調整することにより、可視光領域の光についても偏光特性を発揮し得るように構成されたものであった。
【0004】
しかしながら、上記技術は、可視光領域(500nm〜600nmの波長領域)の光について透過率・消光比を向上させることができるとしても、特定波長の消光を可能にするものではなかった。また、金属粒子を析出し、母ガラスを延伸した後、ハロゲン化金属の一部を還元するものであることから、その製造工程が複雑なものとなっていた。
【0005】
そこで、ナノインプリントリソグラフィと反応性イオンエッチング法を用いて矩形の金属粒子を島状に配設する構成の金属微粒子分散型偏光ガラスが提案されている(特許文献2参照)。このように製造される偏光子は、光学的に透明な基板上に直方体形状の金属素片を複数配設するものであり、その直方体形状は、照射光の波長に対してプラズモン共鳴を生じるように、長辺方向の反電界係数が設定され、短辺方向の反電界係数はプラズモン共鳴を生じないように設定するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2008/072368号公報
【特許文献2】特開2009−216745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前掲の特許文献2に開示される発明は、前記直方体の長辺・短辺・高さの各辺の寸法を制御することにより、所望の偏光特性を発揮させることができるというものである。すなわち、針状金属微粒子によるプラズモン共鳴は、所望波長の直線偏光波を照射する場合、電界振動面が長軸方向と一致するときのみ金属粒子によって共鳴吸収されるが、短軸方向と一致する場合には共鳴吸収は起こらないという特性を利用するものである。
【0008】
しかしながら、上記発明は、偏光子を小型に製造するための手段として、ナノインプリントリソグラフィと反応性イオンエッチング法を採用するものであるが、イオンエッチング法による異方性エッチングが金属部分を直線的に浸食することとなることから、結果的に直方体の金属粒子を構成せざるを得ないものであった。当該技術によって所望の偏光特
性を実現する偏光子を得るためには、長辺・短辺・高さの各辺のそれぞれの寸法を管理、制御しながらイオンエッチングを行うこととなり、高度で煩雑なプロセスが必要になるという問題点があった。
【0009】
また、前記発明は、ナノインプリントリソグラフおよび反応性イオンエッチング法によることから、金属粒子形成に使用される基板が必要となり、その肉厚によって偏光子全体が厚肉なものとなっていた。そのため、小型の光デバイスに使用することができず、薄型化された偏光子が切望されていた。
【0010】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、プラズモン効果を利用することにより可視から近赤外光領域の任意の波長に対する偏光特性を向上させると共に薄型化を実現することのできる偏光子とその製造方法とを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者らは、鋭意研究の結果、次のような発明を完成するに至った。
【0012】
請求項1に記載の光デバイス用偏光子は、メソポーラス酸化物膜と、そのメソポーラス酸化物膜の細孔に担持され、入射光によってプラズモン共鳴が励起される金属ナノ粒子とを備え、前記メソポーラス酸化物膜の1mm以上の面積において、前記金属ナノ粒子が一軸方向に配列されていることを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の光デバイス用偏光子は、表面に異方構造を備えた基板を備えており、前記メソポーラス酸化物膜が、前記基板上に形成されると共に、適宜範囲にわたって筒状の細孔が二次元ヘキサゴナル状に配列していることを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の光デバイス用偏光子は、前記メソポーラス酸化物膜の細孔径が2nm〜30nmであることを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の光デバイス用偏光子は、前記金属ナノ粒子が、金、銀、銅のいずれかであることを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載の光デバイス用偏光子は、前記金属ナノ粒子が、粒状、棒状、ワーム状又は粒状の連結体であることを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載の光デバイス用偏光子の製造方法は、請求項1から5のいずれかに記載の光デバイス用偏光子の製造方法であって、表面に異方構造を備えた基板上にメソポーラス酸化物膜を形成する酸化物膜形成工程と、その酸化物膜形成工程において形成されたメソポーラス酸化物膜の細孔内に、金属イオンまたは原子を含む前駆体を導入する導入工程と、その導入工程にて細孔内に導入された前駆体から金属ナノ粒子を生成する生成工程とを備え、前記酸化物膜形成工程は、基板の異方構造に沿って筒状の細孔が二次元ヘキサゴナル状に配列したメソポーラス酸化物膜を形成するものであることを特徴とする。
【0018】
請求項7に記載の光デバイス用偏光子の製造方法は、前記生成工程が、金属イオンを還元して金属ナノ粒子を細孔内に析出させるものであり、任意形状の金属ナノ粒子に対してプラズモン共鳴を励起する光を照射する光照射工程を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載の光デバイス用偏光子によれば、メソポーラス酸化物膜の細孔内に沿って金属ナノ粒子を一軸方向に配列させており、その配列の長さを変化させることによって
、所望波長に対する偏光を可能にするものである。ここで、金属ナノ粒子の短軸方向はメソポーラス酸化物膜の細孔径にて規定できるため、配列する金属ナノ粒子の一軸方向(長軸方向)の長さを調整すれば所望波長に対する偏光を実現できる。すなわち、例えば、金の球状ナノ粒子では、波長520nm付近においてプラズモン共鳴を生じ、銀の場合は、波長410nm付近においてプラズモン共鳴を生ずる。これら球状の金属ナノ粒子に対し、形状を変化させることによって、プラズモン共鳴が生ずる波長を長波長側にシフトさせることができる。そこで、前記金属ナノ粒子について、一軸方向に配列する長さを変化させることにより、前記プラズモン共鳴を生じさせる波長域を変化させることができるのである。また、前記配列の方向に対して平行な偏光面を有する光については、プラズモン共鳴により、当該光を消光し、その他の光を透過することとなる。従って、このような構成の偏光子を組み合わせることにより、複数の特定波長における偏光制御を同時に行うことが可能となることから、多重通信における光スイッチ等の光デバイスに使用できることとなる。また、消光対象となる波長以外の光は全て透過されることから、幅広い波長域を有する光が使用されるデバイスにおける利用(例えば、情報通信における大容量化など)を可能にするものである。さらに、メソポーラス酸化物膜は、薄膜状に形成させることが容易であることから、薄膜形成したメソポーラス酸化物膜の細孔を利用することにより、偏光子を薄型化することができるものである。これにより、小型の光デバイス、例えば、体内撮影用カメラなどにおいて、特定の反射光を消光するための偏光フィルムに使用することができる。
【0020】
請求項2に記載の光デバイス用偏光子によれば、請求項1に記載の光デバイス用偏光子の効果に加えて、適宜範囲(できる限り広い範囲)に配列した二次元ヘキサゴナル状の細孔内に金属ナノ粒子が担持されることにより、金属ナノ粒子を二次元ヘキサゴナル状に沿って適宜範囲に配列することができることから、析出される金属ナノ粒子全体の総体積を大きくすることができる。これにより、金属ナノ粒子が、同一の一軸方向に配列する複数のロッド状を密な状態に形成することとなり、強力なプラズモン共鳴特性を生じさせることができるとともに、十分な吸光度を維持しつつ薄型化することができる。
【0021】
請求項3に記載の光デバイス用偏光子によれば、請求項1または2に記載の光デバイス用偏光子の効果に加えて、メソポーラス酸化物膜の細孔内に担持された金属ナノ粒子の大きさが、当該細孔の径に依存することとなるから、当該細孔径を2nm〜30nmとすることにより、その径寸法を金属ナノ粒子の短軸長さとすることができる。
【0022】
請求項4に記載の光デバイス用偏光子によれば、請求項1ないし3のいずれかに記載の光デバイス用偏光子の効果に加えて、可視から近赤外光域の光のうち長波長側から短波長側に至る範囲において、所望波長の光に対する偏光特性を発揮させることができる。例えば、金を使用する場合には、球状のナノ粒子では波長520nm付近にプラズモン共鳴波長を有するが、これを長波長側にシフトさせることにより、500nm〜4000nmの範囲においてプラズモン共鳴を励起させるように調整することができる。銅を使用する場合も同様の波長範囲であり、銀を使用する場合には、400nm〜4000nmの範囲においてプラズモン共鳴を励起させることができる。
【0023】
請求項5に記載の光デバイス用偏光子によれば、請求項1ないし4のいずれかに記載の光デバイス用偏光子の効果に加えて、金属ナノ粒子を粒状とする場合、その金属ナノ粒子を一軸方向に連続して配列させることにより、当該方向への長さを調整することができ、棒状の金属ナノ粒子とする場合、その棒状の長手方向を前記一軸方向に一致させることにより、当該一軸方向の長さを棒状の長さで調整することができる。また、金属ナノ粒子は、一軸方向に連結してなる連結体として棒状に近似させることができる。なお、太さを均等に形成できない場合においては、ワーム状に形成することにより、一軸方向の長さを調整することができる。
【0024】
請求項6に記載の光デバイス用偏光子の製造方法によれば、異方構造を有する基板上にメソポーラス酸化物膜を形成することにより、当該メソポーラス酸化物膜には二次元ヘキサゴナル状に配列した筒状の細孔を形成し、この細孔を鋳型として機能しつつ内部に金属ナノ粒子を担持させることができる。また、細孔の径方向を短軸とし、細孔の長手方向を長軸とする楕円形粒子または棒状粒子を当該細孔内に形成することができる。
【0025】
請求項7に記載のデバイス用偏光子の製造方法によれば、請求項6に記載のデバイス用偏光子の製造方法の効果に加えて、メソポーラス酸化物膜に形成される細孔の内部に金属イオンを導入した後、熱、光または化学還元することにより金属ナノ粒子を析出させることができる。また、金属ナノ粒子の析出中(または析出後)において、特定の大きさの金属ナノ粒子のみがプラズモン共鳴する光を照射することにより、共鳴する大きさの金属ナノ粒子が金属イオンに解離することとなる。これにより、金属ナノ粒子の長手方向の大きさを制御することができ、任意の波長の光のみを偏光させることのできる偏光子を作製し得るのである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の光デバイス用偏光子の実施形態の概略を示す図である。
【図2】メソポーラスシリカ内部に金ナノロッドが析出した状態のTEM像である
【図3】偏光板により偏光した光を照射した場合の実験例と比較例について、波長ごとの吸光度の測定結果のグラフである。
【図4】特定波長の可視光を照射しながら作製した銀の析出状態を示すTEM像である。
【図5】特定波長の可視光を照射しながら作製した銀の拡散反射スペクトルを示すグラフである。
【図6】特定波長の可視光を照射しながら作製した銀ナノ粒子のアスペクト比を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の光デバイス用偏光子およびその製造方法の実施形態について図面に基づき説明する。図1は、本発明の光デバイス用偏光子の実施形態の概略を示す図である。なお、図1(A)は、金属ナノ粒子を析出させる前の状態を示し、図2(B)は、金属ナノ粒子(例示として金ナノ粒子)を析出させた状態を示す。
【0028】
この図に示すように、本実施形態の偏光子は、基板の表面に積層されたメソポーラス酸化物膜の細孔に金属ナノロッドを析出して構成されたものである。なお、ここで、金属ナノロッドとは、一体として認識される形体が異方性形状となっているものであって、棒状、粒状、ワーム状のものに加え、ナノ粒子が連続的に結合した結合体、および、細孔に沿って一軸方向に密接に配列した一群の状態のものを含み、全体として一軸方向に連続または断続してメソポーラス酸化物膜の細孔に析出された微細な金属を意味する(以下、これらを総称して単に「金属ナノロッド」と称する場合がある。)。基板上に積層されているメソポーラス酸化物膜の細孔は、二次元ヘキサゴナル状に配列されており、これらの細孔がほぼ同径で筒状に形成されている。金属ナノロッドは、メソポーラス酸化物膜内の細孔を鋳型として、その内部に析出して形成されており、当該金属ナノロッドの径は、細孔の径に依存することとなる。また、金属ナノロッドの長手方向(長軸)は、一軸方向に揃っており、その長さを制御することができる。
【0029】
ここで、メソポーラス酸化物膜の細孔を広範囲で二次元ヘキサゴナル状に配列するために異方構造を有する基板上にメソポーラス酸化物を薄膜化させている。基板としては、マイカ、シリコン基板、高分子をラビリング処理した表面を有するあらゆる基板などから選
択して使用することができる。好ましくは、異方性が顕著かつ強固な材質による基板を選択する。より好ましくはマイカを使用する。異方性が非常に顕著かつ強固であるため、メソポーラス酸化物膜の筒状の細孔をより広範囲かつ厳密に配列させることが可能だからである。
【0030】
また、メソポーラス酸化物膜としては、例えば、メソポーラスシリカ(例えば、SBA−15)やメソポーラスチタニアによる薄膜がある。使用する波長が近赤外域の場合は、近赤外域で高い透光性を示すテルライト酸化物を使用することができる。なお、メソポーラス酸化物膜の材料としては、これらに限定されるものではなく、使用する波長域において透明性が確保できれば、酸化物の種類そのものを問うものではない。
【0031】
そして、異方構造を有する基板上で、メソポーラスシリカのような細孔を有する材料を薄膜化することにより、筒状の細孔の配向が広範囲で揃った状態としているのである。また、メソポーラスシリカの内部に構成される複数の各細孔は、それぞれの長手方向がすべて同じ向きとなって、二次元ヘキサゴナル状に配列しているのである。
【0032】
このように向きを揃えた複数の細孔の内部に金属ナノロッドを析出させることによって、複数の金属ナノロッドが同一方向(一軸方向)に揃って析出されるのである。この一軸方向への析出は、メソポーラス酸化物膜の1mm以上の面積において配列されることが好ましい。1mm以上の面積に金属ナノロッドを形成することにより、最も集光しにくい最長波長の4000nmの光をレンズ等により集光した時の範囲を十分にカバーすることが可能となるからである。すなわち、1mm以上の面積を有する範囲に金属ナノロッドが一軸方向に揃って配置されることにより、可視から近赤外光領域に至る広範囲の光を対象とすることができるのである。
【0033】
上記のように、一軸方向に配列させてなる金属ナノロッドを形成することにより、波長を選択しつつ偏光特性を発揮させることができる偏光子としているのである。つまり、この金属ナノロッドに対して光を照射するとき、金属ナノロッドの長軸の長さに応じて、照射される光のうち、特定の偏光面を有する所定波長の光に対してのみプラズモン共鳴が励起され、吸収されることによって偏光特性を発揮するのである。すなわち、金属ナノロッドの長軸方向に対して平行な偏光面を有する光はプラズモン共鳴を励起させ、それ以外の光はプラズモン共鳴を励起させない特性を有している。従って、特定の偏光面を有する光のみを吸収し、その他の光を透過させることができることとなる。また、このような特定の偏光面を有する光のうち、金属ナノロッドの長軸が長くなることにより、プラズモン共鳴を励起させる光の波長が長波長側にシフトすることとなるから、当該金属ナノロッドの長軸を長短変化させることにより、所定波長の光を吸収し、その他の光を透過させることができるのである。
【0034】
なお、本実施形態において、偏光子として機能させるためには、前記メソポーラス酸化物膜は、透光性を有する材質が好ましい。細孔の内部に析出した金属ナノ粒子に光を照射するためである。また、基板については、透光性を有する材質であることが好ましいが、必ずしも透光性が要求されるものではなく、光を反射できる材質でもよい。メソポーラス酸化物膜の内部に照射された入射光を偏光した後出力されればよいからである。
【0035】
また、本実施形態のメソポーラス酸化物膜の細孔は、二次元ヘキサゴナル状としたものを例示したが、この種の構成に限るものではなく、単数または複数の細孔に沿って一軸方向に金属ナノ粒子が配列できるものであればよい。また、異方構造を有する基板を使用することによってメソポーラス酸化物膜の細孔を揃えているが、この種の基板を備えない構成でもよい。
【0036】
光デバイス用偏光子にかかる実施形態は上記のとおりであることから、可視光領域の広い範囲において、偏光特性を発揮させることができるのである。例えば、金属ナノロッドの材料として金や銅を使用する場合は、波長が500nm程度以上の範囲で偏光効果を得ることができ、銀を材料にする場合には、波長が400nm以上領域において偏光効果を得ることができる。
【0037】
また、本実施形態の偏光子は、薄膜状の基板にメソポーラスシリカ薄膜を積層したものであることから、偏光子を薄型化することができる。また、複数の金属ナノロッドをヘキサゴナル状に配置していることから、多くの金属ナノロッドを設けたとしても狭い範囲に集中させることができるため、偏光子全体として十分な吸光度を有しつつ小型化することができる。
【0038】
また、上記偏光子の特性を利用することにより、光スイッチとしての適用が可能になる。すなわち、プラズモン共鳴を励起させる光のみを吸収・散乱すること(これを異方性消光という)、および、金属ナノ粒子の非線形光学効果(特に、三次の非線形光学吸収と屈折)を利用し、さらに複数の偏光子を組み合わせることにより、入射光に対して出力光を変化させることが可能となるからである。光スイッチとしては、光路スイッチ方式や光ゲート方式にも適用が可能となる。光路スイッチ方式としては、マッハツェンダ干渉計や全反射制御光導波路などがあり、光ゲートスイッチ方式としては、半導体光増幅器や空間光変調器などがある。また、異なる波長を選択的に吸収・透過が実現できるため、多重通信における光スイッチとしても使用できる。
【0039】
さらに、高強度の光を照射する場合には、非線形光学効果によりプラズモン共鳴による光吸収や光散乱に変化を与えることとなり、これに偏光特性が加えられることにより、偏光コントラストを変えることができる。例えば、パルス幅の短いレーザ光を絞ることにより高いエネルギーを生じさせる非線形光学効果を利用することも可能となる。このような場合には多光子吸収を利用したレーザ加工機などに適用することができる。
【0040】
また、特定の波長の光を消光できることから、特定の反射光を消光することも可能である。従って、極めて薄い偏光フィルタとして利用することができ、例えば、体内撮影用のカメラの偏光フィルタに使用することができる。つまり、体内撮影において、撮影に必要な照明光が体内の一部(臓器の表面)等で反射する場合、その反射光のみを消光させることができ、これにより、鮮明な体内(臓器)の映像を撮影することに寄与することができる。
【0041】
次に、光デバイス用偏光子の製造方法の実施形態について説明する。前述の偏光子を製造するための手段は、大別すると、メソポーラス酸化物膜を形成する酸化物膜形成工程と、金属イオンまたは原子を含む前駆体をメソポーラス酸化物の細孔に導入する導入工程と、前記前駆体から金属ナノ粒子を生成させる生成工程とを行う構成である。
【0042】
酸化物膜形成工程では、ゾルゲル法により基板上に酸化物メソポーラス材料を薄膜化し、その内部の細孔の内壁にアミノ基やチオール基による化学修飾を施して前駆体の吸着環境を準備するものである。導入工程では、メソポーラス酸化物膜内の細孔に前駆体を吸着させるものである。生成工程では、前駆体を還元等することにより金属ナノ粒子を生成させるものである。
【0043】
メソポーラス酸化物膜としてメソポーラスシリカを使用し、前駆体として金イオンを使用する場合について、さらに詳細に説明する。尚、本製造方法に用いられるメソポーラス酸化物膜は、メソポーラスシリカに限定されるものではなく、金属ナノ粒子は金ナノ粒子に限定されるものではない。まず、シリカ源となるシリコンアルコキシドとブロックコポ
リマーを混合・撹拌し、水と酸触媒を加えてシリコンアルコキシドの加水分解を進行させる。異方構造を有するマイカ基板の表面に前記溶液をディップコート(またはスピンコート)し、紫外光を照射すること(高温で焼成してもよい)で細孔内の有機高分子を取り除く。これによりマイカ表面にメソポーラスシリカを積層した状態となる。引き続き、前記メソポーラスシリカを基板とともにアミノ基を有するシランカップリング材に浸漬することにより、当該細孔の内壁のアミノ基修飾を行って金イオンの吸着準備を完了する。なお、前記溶液のコーティングは、その他のコート法(例えば、スプレーコート法)によることもでき、キャスティング法、バーコード法、ロールコート法などの塗布法を採用することもできる。所望の膜厚に制御し得る方法によればよく、また、膜の異方性が維持されるものであれば、コーティングを繰り返して厚膜化し、または、ディップコートにおける引き上げ速度を変化させて膜厚を制御してもよい。ここまでが酸化物膜形成工程である。
【0044】
次に、塩化金酸溶液を細孔内に導入することで、細孔の内壁に金イオンを吸着させるのである。これが導入工程である。さらに、アスコルビン酸等の還元剤を加えること(または熱処理や紫外線を照射してもよい)によって金イオンを還元させ、細孔内に金ナノ粒子を生成するのである。これが生成工程である。なお、金ナノ粒子を所望の長軸寸法とするためには、再び、塩化金酸溶液を環流させながら、還元剤を添加(または熱処理もしくは紫外線照射)して、さらに金ナノ粒子を析出させ、全体としてロッド状に形成する。
【0045】
金ナノロッドの長軸の長さは前記のように金イオンの吸着と還元を繰り返すことによって、所望の長さに形成することになるが、さらに精密に制御するために、プラズモン共鳴を励起させながら金イオンの吸着と還元を繰り返すことによって、ロッド長を制御しても良い。この方法としては、メソポーラス酸化物にチタニア等の酸化物半導体を含ませることが必要となる。すなわち、チタンアルコキシドや塩化チタンなどのチタニア前駆体を前掲のメソポーラスシリカの材料の替わりもしくはそれに混合した溶液を作製し、これを基板表面にディップコート等によりコーティングしてチタニアを含むメソポーラス酸化物を基板に積層するのである。そして、析出された金ナノロッドに対して、所定波長の光を照射することにより、プラズモン共鳴が励起された金ナノロッドの電荷がチタニアに移動し、当該金ナノ粒子の一部を解離させることとなるのである。このとき、プラズモン共鳴を示さなかった金ナノロッドのみが残ることとなる。例えば、可視光(400nm〜800nm)を照射すれば、当該波長に対してプラズモン共鳴を示す長さの金ナノロッドは解離(分解)され、400nm〜800nmに共鳴しない長さの金ナノロッドがメソポーラス酸化物の細孔に担持されることとなる。
【0046】
本発明の光デバイス用偏光子の製造方法にかかる実施形態は上記のとおりであることから、基板上に積層されたメソポーラス酸化物膜の細孔内に長さを制御された金属ナノ粒子を析出させた偏光子を製造することができるのである。なお、金属イオンを吸着・還元を繰り返す場合には、金属ナノ粒子が連続して配列された状態となるが、全体としては金属ナノロッドと称することができるものとなる。また、この金属ナノロッドは、メソポーラス酸化物膜の細孔を鋳型として析出させるものであるから、ロッドの径は細孔径に依存するものである。
【実施例】
【0047】
次に、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。まず、金属ナノロッドを作製した。金属ナノロッドの作製は次のように行った。
【0048】
〔実験1〕
ブロックコポリマー(Pluronic P123)を溶解させたエタノール溶液にテトラエトキシシランと希塩酸を加えて室温で2時間撹拌してゾルを調整した。劈開したマ
イカの表面にディップコートし、24時間室温で乾燥した後、400°Cで1時間焼成を行った。これにより二次元ヘキサゴナル構造の細孔を有するメソポーラスシリカ薄膜を作製した。次に、上記基板およびメソポーラスシリカ薄膜を3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)のエタノール溶液に浸漬し、細孔内壁をアミノ基で修飾し、その後エタノールで余分なAPTESを洗い流し60°Cで乾燥した。引き続き、塩化金酸(HAuCl)水溶液に浸漬して細孔内に金イオンを吸着させ、アスコルビン酸により金イオンを還元させ金ナノ粒子を析出した。金イオンの吸着と還元を繰り返し、ロッド状に連結した金ナノ粒子を析出させた。
【0049】
その状態を図2に示す。図2は、メソポーラスシリカ内部に金ナノロッドが析出した状態のTEM像である。この図から明らかなとおり、メソポーラスシリカの細孔に沿って複数の金ナノロッドが形成されていることがわかる。そして、この金ナノロッドはメソポーラスシリカの表面のみならず内部においても析出され、メソポーラスシリカの内部に形成された二次元ヘキサゴナル構造の細孔に沿って金ナノロッドが存在している。これにより、当該細孔に沿って一軸方向に配列しつつ金ナノロッドを析出したことを示している。
【0050】
〔実験2〕
次に、所定長さの金ナノロッド析出後の偏光特性を測定するための実験を行った。実験は、短軸約10nmで長軸約30nmに揃えた複数の金ナノロッドを析出し、波長ごとの吸光度を測定した。なお、比較例として、長さを揃えていない複数の金ナノロッド(短軸約10nm、長軸約10〜200nm)を析出し、同様に波長ごとの吸光度を測定した。
【0051】
金ナノロッドの作製方法は、実験1における場合とほぼ同様であるが、ブロックコポリマーはPluronic P123に代えてBrij56を使用し、金イオンの還元にはアスコルビン酸を使用せず紫外線を照射している。また、吸光度の測定には、JASCO社製の紫外可視分光高度計(V−560)を使用し、対象とする両サンプルの前面において偏光板により偏光した場合と偏光しない場合、偏光する場合にはさらに90°変化させた場合について、透過する光の強度を測定した。
【0052】
このように測定した金ナノロッドと比較例の吸光度を図3に示す。図3は、両者の吸光度の波長ごとの測定結果のグラフである。図3(A)は比較例であり、(B)は金ナノロッドの長軸方向の長さを揃えたものである。なお、図中0°とあるのは、長軸方向に直交する偏光面を有する光を照射した場合を意味し、90°とあるのは長軸方向に平行な偏光面を有する光を照射した場合を意味する。この図に示すように、いずれの場合も、長軸方向に対して直交する偏光面を有する光を照射した場合には、吸光度が小さく、長軸方向に対して平行な偏光面を有する光を照射した場合には、吸光度が大きくなっている。特に、金ナノロッドの長軸方向の長さを揃えた場合には、800nm付近の波長の光についてのみ吸光度が変化しており、偏光していない光の照射においても同様の吸光度変化が観測されている。
【0053】
以上より、特定の波長において、長軸方向と平行な偏光面を有する光についての吸光度が顕著であり、波長選択特性および偏光特性を有するものであることが判明した。
【0054】
〔実験3〕
次に、金属ナノロッドの長軸長さの精密制御について実験した。実験方法は次のとおりである。
【0055】
テトラエトキシシランとチタンテトラブトキシドの混合物と、ブロックコポリマーと、塩酸と水とを、モル比で1:0.017:5:194の割合で混合し、40°Cで20時間撹拌し、その後80°Cで24時間熟成した。その後濾過、乾燥した後、トルエンとヘ
キサメチルジシラザン混合溶液中で18時間撹拌し、濾過・乾燥した後、エタノールとジエチルエーテルの混合液で環流してCap−SBA−15粉末を作製した。ここでは、基板表面での薄膜化を省略した。その後、3−アミノプロピルトリエトキシシランとトルエンの混合液中において80°Cで6時間撹拌し、細孔内壁のアミノ基修飾を行った。その後、エタノール、水および硝酸銀の混合液中において40°Cで1時間撹拌することにより、銀ナノ粒子を細孔内に析出した。なお、比較のために、銀の析出工程中に可視光を照射したものと、照射しなかったものを作製した。なお、可視光の照射は、490〜550nmの波長のものと、650〜810nmの波長ものを作製した。
【0056】
この結果を図4〜図6に示す。図4は上記三種類の銀の析出状態を示すTEM像であり、図5は、各粒子における拡散反射スペクトルを示すグラフであり、図6はアスペクト比(長軸/短軸の割合)を示すグラフである。
【0057】
この結果から明らかなとおり、490〜550nmの波長の可視光を照射した銀ナノ粒子は、照射した光の波長域でのプラズモン共鳴のピーク強度が減少し、特定サイズの銀ナノ粒子が減少したことが判る。そして、残った銀ナノ粒子は、図6に示すように、アスペクト比が1であるものに集中している。また、同様に、650〜810nmの波長の可視光を照射した銀ナノ粒子は、図4のTEM像からも図6のアスペクト比からも判るように、アスペクト比が5以上の銀ナノ粒子が解離し、アスペクト比が1〜4であるものに集中している。
【0058】
このように、プラズモン共鳴を励起させることにより、銀とチタニアとの間で電荷移動が行われ、その結果として当該プラズモン共鳴を励起させる長さの銀を解離させることができ、最終的には、所望のアスペクト比の銀ナノ粒子のみを析出させることが可能となるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メソポーラス酸化物膜と、
そのメソポーラス酸化物膜の細孔に担持され、入射光によってプラズモン共鳴が励起される金属ナノ粒子とを備え、
前記メソポーラス酸化物膜の1mm以上の面積において、前記金属ナノ粒子が一軸方向に配列されていることを特徴とする光デバイス用偏光子。
【請求項2】
表面に異方構造を備えた基板を備えており、
前記メソポーラス酸化物膜は、前記基板上に形成されると共に、適宜範囲にわたって筒状の細孔が二次元ヘキサゴナル状に配列していることを特徴とする請求項1に記載の光デバイス用偏光子。
【請求項3】
前記メソポーラス酸化物膜の細孔径が2nm〜30nmであることを特徴とする請求項1または2に記載の光デバイス用偏光子。
【請求項4】
前記金属ナノ粒子は、金、銀、銅のいずれかであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光デバイス用偏光子。
【請求項5】
前記金属ナノ粒子は、粒状、棒状、ワーム状又は粒状の連結体であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の光デバイス用偏光子。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の光デバイス用偏光子の製造方法であって、
表面に異方構造を備えた基板上にメソポーラス酸化物膜を形成する酸化物膜形成工程と、その酸化物膜形成工程において形成されたメソポーラス酸化物膜の細孔内に、金属イオンまたは原子を含む前駆体を導入する導入工程と、
その導入工程にて細孔内に導入された前駆体から金属ナノ粒子を生成する生成工程とを備え、
前記酸化物膜形成工程は、基板の異方構造に沿って筒状の細孔が二次元ヘキサゴナル状に配列したメソポーラス酸化物膜を形成するものであることを特徴とする光デバイス用偏光子の製造方法。
【請求項7】
前記生成工程は、金属イオンを還元して金属ナノ粒子を細孔内に析出させるものであり、任意形状の金属ナノ粒子に対してプラズモン共鳴を励起する光を照射する光照射工程を備えていることを特徴とする請求項6に記載の光デバイス用偏光子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−194214(P2012−194214A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56086(P2011−56086)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】