説明

光パルス試験装置

【課題】光ファイバに入射させる光パルスのパワーが変動する場合であっても波形歪みや雑音を抑制することができ、高い精度で試験を行うことができる光パルス試験装置を提供する。
【解決手段】光パルス試験装置1は、ゴーレイ符号を用いた符号変調が行われた光パルス列を生成するレーザ光源12と、レーザ光源12からの光パルス列を増幅するEDFA13と、EDFA13により増幅された光パルス列を光ファイバ40に入射させて得られる後方散乱光を受光する受光回路17と、EDFA13から出力される光パルス列のパワー変動に応じて受光回路17から得られる受光信号のレベルを補正するレベル補正部32と、レベルが補正された受光信号に対して相関処理を施すことにより復調を行う相関処理部33とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験対象の光ファイバに光パルスを入射させて試験を行う光パルス試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光パルス試験装置は、周知の通り、光パルスを試験対象である光ファイバに入射させ、光ファイバからの後方散乱光を受光して得られる受光信号に対して所定の演算処理を施すことにより光ファイバの特性(伝送損失や障害点までの距離等)を試験する装置である。尚、この光パルス試験装置は、光ファイバ試験装置又はOTDR(Opticai Time Domain Reflectometer)と呼ばれることもある。
【0003】
光ファイバから得られる後方散乱光は極めて微弱であるため、光パルス試験装置では一般的に光ファイバに入射させる光パルスのパワーを極力大きくすることでダイナミックレンジを改善している。また、近年においては、ゴーレイ符号(Golay code)やバーカー符号(Barker code)を用いて符号変調した光パルス列を光ファイバに入射させ、光ファイバからの後方散乱光を受光して得られる受光信号に対して相関処理(復調)を行うことで、ダイナミックレンジを向上させる光パルス試験装置も実現されている。
【0004】
尚、符号変調された光パルス列を用いて試験を行う従来の光パルス試験装置の詳細については、例えば以下の特許文献1及び非特許文献1を参照されたい。
【特許文献1】米国特許第4968880号明細書
【非特許文献1】ナザラシー・モシェ(Nazarathy Moshe),ニュートン・スティーブン・エィ(Newton Steven A.),ジファード・アール・ピー(Giffard R. P.),モーバリー・ディー・エス(Moberly D. S.),シスチカ・エフ(Sischka F.),ツルトナ・ダブリュー・アール・ジュニア(Trutna W. R. Jr.),フォスター・エス(Foster S.),「リアルタイム・ロング・レンジ・コンプリメンタリー・コリレーション・オプティカル・タイム・ドメイン・リフレクトメーター(Real-time long range complementary correlation optical time domain reflectometer)」,ジャーナル・オブ・ライトウェーヴ・テクノロジー(Journal of Lightwave Technology),1989年1月,Vol.7,p.24−38
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した通り、光パルス試験装置のダイナミックレンジは、光ファイバに入射させる光パルスのパワーを極力大きくすることで改善される。このため、光パルス試験装置には、光ファイバに入射させる光パルスを増幅するためにEDFA(Erbium Doped Fiber Amplifier:エルビウム添加光ファイバ増幅器)等の光ファイバ増幅器を備えるものがある。
【0006】
しかしながら、光ファイバ増幅器を用いて光パルスを増幅すると、光パルスの先頭では大きく増幅されて高いパワー(波高値)を得ることができるものの、時間経過とともにパワーが徐々に減少するという現象が生ずる。この現象は、符号変調された光パルス列でも同様に発生し、パルス列の先頭の光パルスから後方の光パルスへ時間経過とともに徐々にパワーが減少する。また、符号変調された光パルス列では複数のビットパターンを使用するためビットパターン毎にビット「1」の数やビット間隔が異なり、光ファイバ増幅器で増幅された光パルス列は不均一なパワーの光パルスの集まりとなる。
【0007】
符号変調した光パルス列を用いる光パルス試験装置において、構成する光パルスのパワーが不均一な光パルス列を光ファイバに入射させると、光ファイバから得られる後方散乱光のパワーも光パルス列のパワー変動に応じて変動してしまい、この後方散乱光を受光信号として相関処理を行った場合に、波形歪みや雑音が現れて試験結果の精度に悪影響を及ぼすという問題がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、光ファイバに入射させる光パルスのパワーが変動する場合であっても波形歪みや雑音を抑制することができ、高い精度で試験を行うことができる光パルス試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の光パルス試験装置は、光ファイバ(40)に入射させるべき光パルス列を増幅する光ファイバ増幅部(13)と、当該光ファイバ増幅部から出力される光パルス列を前記光ファイバに入射させて得られる後方散乱光を受光する受光部(17、18、19)とを備え、当該受光部から出力される受光信号に基づいて前記光ファイバの特性を試験する光パルス試験装置(1)において、前記受光部から出力される受光信号のレベルを、前記光ファイバ増幅部から出力される光パルス列のパワー変動に応じて補正する補正部(32)を備えることを特徴としている。
この発明によると、光ファイバ増幅部から出力される光パルス列のパワー変動に応じて、受光部から出力される受光信号のレベルが補正される。
また、本発明の光パルス試験装置は、前記光ファイバに入射させるべき光パルス列として、所定の符号変調を行った光パルス列を生成する光パルス列生成部(11、12)と、前記補正部でレベルが補正された受光信号に対して相関処理を施すことにより復調を行う相関処理部(33)とを備えることを特徴としている。
また、本発明の光パルス試験装置は、前記光ファイバ増幅部から出力される光パルス列及び前記光ファイバを透過した光パルス列の何れか一方のパワーを検出する検出部(15)を備えており、前記補正部は当該検出部の検出結果に基づいて前記受光信号のレベルを補正することを特徴としている。
或いは、本発明の光パルス試験装置は、前記光ファイバ増幅部から出力される光パルス列のパワー変動を記憶する記憶部(34)を備えており、前記補正部は前記記憶部の記憶内容に基づいて前記受光信号のレベルを補正することを特徴としている。
ここで、本発明の光パルス試験装置は、前記光ファイバ増幅部から出力される光パルス列及び前記光ファイバを透過した光パルス列の何れか一方のパワーを検出する検出部(15)を備えており、前記記憶部の記憶内容は前記検出部の検出結果に更新されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光ファイバ増幅部から出力される光パルス列のパワー変動を検出し、この検出結果に応じて受光部から出力される受光信号のレベルを補正しているため、光ファイバに入射させる光パルスのパワーが変動する場合であっても波形歪みや雑音を抑制することができ、高い精度で試験を行うことができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態による光パルス試験装置について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態による光パルス試験装置の要部構成を示すブロック図である。図1に示す通り、本実施形態の光パルス試験装置1は、符号生成回路11、レーザ光源12、EDFA13(光ファイバ増幅部)、光カプラ14、フォトダイオード15(検出部)、光サーキュレータ16、受光回路17(受光部)、増幅回路18(受光部)、A/D変換回路19(受光部)、信号処理部20、表示装置21、及びタイミング発生回路22を備えており、試験対象である光ファイバ40の特性(伝送損失や障害点までの距離等)を試験する。尚、光ファイバ40は、例えば石英系のシングルモードファイバである。
【0012】
符号生成回路11は、タイミング発生回路22から出力されるタイミング信号TM1に同期して、レーザ光源12を駆動する駆動信号を出力する。具体的には、レーザ光源12から射出される光パルス列がゴーレイ符号を用いて符号変調された光パルス列となるような駆動信号(符号)を生成してレーザ光源12に出力する。ここで、nビットのゴーレイ符号は、以下の(1)式で表される2種類の符号列Ak0,Bk0であり、それぞれ(−1)と(+1)の要素からなる双極性相関符号である。
【数1】

【0013】
但し、光は負のパワーを有さないため、光パルス試験装置1は、以下の(2)式に示す4種類の符号列A,B, ̄A, ̄Bを用いる。尚、本明細書の文中(数式を除く)においては、表記の都合上、記号「A」の上部にバー記号「 ̄」が付された記号を「 ̄A」と表し、記号「B」の上部にバー記号「 ̄」が付された記号を「 ̄B」と表す。
【数2】

【0014】
レーザ光源12は、例えばDFBレーザ(Distributed feedback laser:分布帰還型レーザ)等の半導体レーザ素子を備えており、符号生成信号11から出力される駆動信号に基づいてゴーレイ符号を用いて符号変調された光パルス(光パルス列)を射出する。EDFA13は、レーザ光源12から射出されたレーザ光を所定の増幅率をもって増幅する。ここで、EDFA13の増幅特性について説明する。
【0015】
図2は、EDFA13の増幅特性の一例を示す図である。いま、レーザ光源12から一定のパワーを有する複数の光パルスからなる光パルス列が射出されたとすると、EDFA13には、図2(a)に示す光パルスが入射されることになる。尚、図2においては、符号A, ̄A,B, ̄Bの各々に応じた光パルス列をそれぞれ模式的に図示しておりビットパターン等は実際のものと異なる。これらの光パルス列がEDFA13に入射すると、EDFA13からは図2(b)に示す通り、符号A, ̄A,B, ̄Bの種類に拘わらず、光パルス列の先頭では高いパワー(波高値)を有するものの、光パルスの後方になるにつれてパワーが徐々に減少するパルス列が出力される。更に、符号を構成するビットパターン毎にビット「1」の数やビット間隔が異なるため、光パルス列全体のパワーや構成する個々の光パルスのパワーも不均一となる。
【0016】
光カプラ14は、EDFA13から出力されるレーザ光の一部を分岐する。光カプラ14の分岐比は任意に設定することができるが、光ファイバ40に入射させる光パルス列のパワー低下を防止する観点からは、分岐比を極力大きく設定して光パルス列の殆どを透過させるのが望ましい。フォトダイオード15は、光カプラ14で分岐された光パルス列を受光してEDFA13から出力される光パルス列のパワーを検出する。
【0017】
光サーキュレータ16は、光カプラ14を透過した光パルス列を光ファイバ40に向けて透過させるとともに、光ファイバ40からの戻り光を受光回路17に向けて射出する。尚、光ファイバ40からの戻り光には、後方レイリー散乱光やフレネル反射光が含まれる。受光回路17は、光サーキュレータ16を介した光ファイバ40からの戻り光を電気信号(受光信号)に変換して増幅回路18に出力する。ここで、光ファイバ40からの戻り光、特に後方レイリー散乱光は極めて微弱なため、受光回路17は高感度のアバランシェ・フォトダイオード(以下、APDという)を用いることが多い。APDに対する印加電圧(逆バイアス)を増加させることで増倍度を高くすることができ、これにより受光回路17を高感度にすることができる。
【0018】
増幅回路18は、受光回路17から出力される受光信号を所定の増幅率で増幅してA/D変換回路19に出力する。A/D変換回路19は、タイミング発生回路22から出力されるタイミング信号TM2に同期して、増幅回路18から出力される受光信号(アナログ信号)をサンプリングしてディジタル信号(受光データ)に変換して信号処理部20に出力する。尚、A/D変換回路19から出力される受光データは、光ファイバ40からの戻り光の強度変化を示す時系列データである。
【0019】
尚、以下の説明では説明を簡単にするために、A/D変換回路19のサンプリング間隔は、レーザ光源12から射出される光パルス列のビット当たりの時間間隔に等しいとする。例えば、図2に示す符号Aの光パルス列のビット当たりの時間間隔が100nsecである場合、この光パルス列を光ファイバ40に入射させて得られる後方散乱光の受光信号を100nsec間隔でサンプリングするものとする。
【0020】
信号処理部20は、平均化処理部31、レベル補正部32(補正部)、及び相関処理部33を備えており、A/D変換回路19から出力される受光データに対して平均化処理、レベル補正処理、相関処理、その他の演算処理を施すことにより光ファイバ40の特性(伝送損失や障害点までの距離等)を求める。平均化処理部31は、光ファイバ40に光パルス列を入射させる度にA/D変換回路19から出力される受光データを平均化する処理を行う。ここで、光ファイバ40の試験時に複数回に亘って繰り返し光パルス列を入射させるのは、前述した通り、光ファイバ40からの戻り光が極めて微弱であるからである。
【0021】
尚、符号列A, ̄A,B, ̄Bの各々に応じた光パルス列を光ファイバ40に入射させたときに得られる受光データ(平均化処理部31によって平均化処理が行われた受光データ)をそれぞれS, ̄S,S, ̄Sとする。尚、記号「 ̄S」は記号「S」の上部にバー記号「 ̄」を付した記号であり、記号「 ̄S」は記号「S」の上部にバー記号「 ̄」を付した記号である。
【0022】
レベル補正部32は、平均化処理部31によって平均化された受光データのレベルを補正する処理を行う。具体的には、フォトダイオード15の検出結果に基づいて受光データのレベルを補正する。いま、フォトダイオード15で検出された符号列A, ̄A,B, ̄Bの各々に応じた光パルス列に含まれる個々の光パルスのパワーを以下の(3)式で表す。
【数3】

【0023】
また、これらの光パルス列に対応して得られた受光データS, ̄S,S, ̄Sを以下の(4)式で表す。光ファイバの後方散乱光は光パルスが光ファイバを伝播している間は常に発生しているため、光パルス列の全ての光パルスが光ファイバ出射端まで到達して発生した後方散乱光を受光し、更に、ノイズ測定に入った後に符号変調のビット数以上の受光データを受得しなければ、光ファイバ全長の特性を試験することはできない。以下の(4)式に記載した記号のうち、nは符号変調のビット数であり、また、m番目の受光データが光パルス列の先頭光パルスが光ファイバ端で発生させた後方散乱光のものである。
【数4】

【0024】
レベル補正部32は、上記(4)式で表された受光データS, ̄S,S, ̄Sに含まれる第x番目(xは1以上であってn+m−1以下の整数)のデータに対して以下の(5)式に示す演算(所定の係数の乗算)を施すことで、受光データのレベルを補正する処理を行う。尚、以下では、レベル補正が行われた受光データS, ̄S,S, ̄Sを、それぞれ受光データT, ̄T,T, ̄Tと表記する。尚、記号「 ̄T」は記号「T」の上部にバー記号「 ̄」を付した記号であり、記号「 ̄T」は記号「T」の上部にバー記号「 ̄」を付した記号である。
【数5】

【0025】
ここで、上記(5)式中の変数α,β,y,zは、変数xの値に応じて以下の値をとる。
1≦x≦n の場合、α=1,β=0,y=x,z=1
n+1≦x≦m の場合、α=1,β=0,y=n,z=1
m+1≦x≦n+m−1の場合、α=1,β=1,y=n,z=x−m
【0026】
つまり、1≦x≦nの場合には、上記(5)式に示される受光データT, ̄T,T, ̄Tは、分子び分母の第2項目が変数zの値に拘わらずそれぞれ0になり、変数y(=変数x)の値に応じて分子び分母の第1項目の値が変化する式になる。また、n+1≦x≦mの場合には、上記と同様に分子び分母の第2項目が変数zの値に拘わらずそれぞれ0になるが、分子び分母の第1項目が定数になって変数xの値に応じた値の変動は生じない。
【0027】
また、m+1≦x≦n+m−1の場合には、上記(5)式に示される受光データT, ̄T,T, ̄Tは、分子び分母の第2項目の値が変数z(=変数x−m)の値に応じて変化し、分子及び分母の第1項目(定数)からこの第2項目を減算する式になる。尚、レベル補正部32は、第n+m番目以降のデータについては補正を行わず、前述した(4)式に示した受光データS, ̄S,S, ̄Sをそのまま出力する。
【0028】
尚、上記(5)式は、受光データのレベルを受光データSの先頭のデータSa11のレベルを基準として補正する場合の演算式である。ここで、補正の基準とするデータは必ずしもデータSa11に限られることはなく、他のデータを基準とすることもできる。他のデータを基準とする場合には、そのデータに応じた演算式を用いて上記(4)式に示す受光データS, ̄S,S, ̄Sに含まれるデータの各々の補正を行えばよい。
【0029】
また、EDFA13から出力される光パルス列のパワー変動は、DEFA13の特性に依存しており、光パルス列毎に大きく異なるという訳ではない。このため、フォトダイオード15の検出結果を記憶する記憶部34を設けておき、この記憶部34の記憶内容に基づいて受光データのレベルを補正しても良い。ここで、EDFA13から出力される光パルス列のパワー変動を、定期的に、又はユーザの指示等に応じて不定期にフォトダイオード15を用いて検出し、記憶部34の記憶内容を新たに得られたフォトダイオード15の検出結果に更新するのが望ましい。また、記憶部34に記憶させる内容は、フォトダイオード15の検出結果(光パルス列のパワー変動の実測値)ではなく、DEFA13の特性から求められる変動の傾向を示す情報であっても良い。
【0030】
相関処理部33は、レベル補正部32によってレベル補正処理が行われた受光データT, ̄T,T, ̄Tを用いて(T− ̄T),(T− ̄T)なる演算を行った後に相関処理を施すことによって復調する。いま、上記の演算(T− ̄T),(T− ̄T)により得られる演算結果を以下の(6)式で表す。
【数6】

【0031】
ここで、相関処理(復調)により得られる値Dを以下の(7)式で表すと、(7)式中の値dは以下の(8)式で表される。尚、変数iは1以上の整数である。
【数7】

【数8】

即ち、相関処理部33が、上記(6)式に示される値と前述した(1)式に示した符号列Ak0,Bk0とを用いて上記(8)式に示す演算(相関処理)を施すことによって復調される。
【0032】
表示装置21は、CRT(Cathod Ray Tube)又は液晶表示装置等の表示装置を備えており、信号処理部20で求められた光ファイバ40の特性や、信号処理部20から出力される受光データに所定の信号処理を施して得られた表示データを表示する。この表示データは、戻り光の強度変化(時間変化)を、光パルス試験装置1を基点とした光ファイバ40の距離に換算したデータである。タイミング発生回路22は、レーザ光源12から光パルス列を射出するタイミングを規定するタイミング信号TM1及びA/D変換回路19のサンプリングタイミングを規定するタイミング信号TM2を出力する。
【0033】
次に、上記構成におけるパルス試験装置1を用いた光ファイバ40の試験時の動作について説明する。タイミング発生回路22からタイミング信号TM1が出力されると、符号生成回路11においてタイミング信号TM1に同期して駆動信号が生成されてレーザ光源12に印加される。これにより、レーザ光源12からは、図2(a)に示す符号列Aに応じた光パルス列が射出される。レーザ光源12から射出された光パルス列はEDFA13に入射して所定の増幅率をもって増幅され、図2(b)に示す通り、光パルス列の先頭では高いパワー(波高値)を有するが、光パルス列の後方になるにつれてパワーが徐々に減少する不均一な光パルス列が出力される。
【0034】
EDFA13から射出された光パルス列は、殆どが光カプラ14を透過して光サーキュレータ16を介して光ファイバ40に入射して光ファイバ40中を伝播する。尚、EDFA13から射出された光パルス列のうち光カプラ14で分岐されたものはフォトダイオード15に入射する。これにより、EDFA13から射出される光パルス列のパワー検出が行われる。この検出結果は信号処理部20のレベル補正部32に出力される。
【0035】
光パルス列が光ファイバ40中を伝播することによって後方レイリー散乱光が発生し、光パルス列が光ファイバ40の他端に至るとフレネル反射光が発生する。これら後方レイリー散乱光及びフレネル反射光を含む戻り光は、光サーキュレータ16を介して受光回路17に入射し、受光回路17に設けられたAPDによって受光信号に変換される。受光回路17から出力された受光信号は増幅回路18で増幅された後に、A/D変換回路19に入力されて、タイミング発生回路22から出力されるタイミング信号TM2に同期してサンプリングされることによりディジタル信号の受光データに変換される。A/D変換回路19で変換された受光データは、信号処理部20の平均化処理部31に入力されて一時的に記憶される。平均化処理は、後方散乱光が極めて微弱なために行われるもので、タイミング信号TM1の送出、符号列Aの光パルス列の射出、タイミング信号TM2の送出、受光データの取得を数万回繰り返して行い受光データSを求める。
【0036】
以上の処理が終了すると、符号列 ̄A,B, ̄Bについても上述した処理と同様の手順で受光データを取得して平均化処理を行い、 ̄S,S, ̄Sを求める。
【0037】
平均化処理部31で求められた受光データS, ̄S,S, ̄Sは、レベル補正部32に入力され、フォトダイオード15の検出結果を用いて、前述した(5)式に示す演算(所定の係数の乗算)が行われる。図3は、レベル補正部32で行われる処理を定性的に示す図である。図3において、光パルス列PTは光ファイバ40に入射させる光パルス列である。また、図3中の曲線L1は図中の光パルス列PTを光ファイバ40に入射させたときに平均化処理部31から出力される受光データのレベルを示しており、図3中の曲線L2はパワーが一定の光パルス列を光ファイバ40に入射させたときに平均化処理部31から出力される受光データのレベルを示している。
【0038】
光ファイバ40で生ずる後方散乱光のパワーはパルス列PTのパワーに比例するため、図3に示す通り、パワーが徐々に減少する不均一な光パルス列PTを光ファイバ40に入射させた場合には、パルス列PTのパワーが減少した分だけ後方散乱光のパワーも減少する。この結果として、図3に示す通り、受光レベル(平均化処理部31から出力される受光データのレベル)L1は、パワーが一定の光パルス列を光ファイバ40に入射させたときに平均化処理部31から出力される受光データのレベルL2よりも低下する。レベル補正部32は、フォトダイオード15の検出結果を用いて、前述した(5)式に示す演算を行うことで、図3に示す受光データのレベルL1と受光データのレベルL2との差Δ1,Δ2,Δ3,Δ4,Δ5,Δ6を補正する処理を行っている。
【0039】
以上の補正処理が行われると、レベル補正部32からはレベル補正処理が行われた受光データT, ̄T,T, ̄Tが出力される。相関処理部33は、レベル補正部32からの受光データを用いて(T− ̄T),(T− ̄T)なる演算を行った後に、前述した(7)式及び(8)式に示す相関処理を施すことにより復調する。復調されたデータは、例えば表示装置21に表示され、或いは光ファイバ40の特性(伝送損失や障害点までの距離等)を求めるために用いられる。
【0040】
図4は、復調されたデータの一例を示す図である。尚、図4においては、横軸は光ファイバ40の位置をとり、縦軸は復調されたデータの値(データ値)をとっている。図3に示す波形W1はレベル補正を行わない場合に測定される復調データの波形であり、波形W2はレベル補正を行った場合に測定される復調データの波形である。レベル補正を行わない場合に観測される波形W1を参照すると、データ値が大きく変化しており波形歪みや雑音が発生しているのが分かる。これに対し、レベル補正を行った場合に観測される波形W2を参照すると、データ値の波形歪みや雑音が大幅に低減されているのが分かる。
【0041】
以上説明した通り、本実施形態では、EDFA13から出力される光パルス列のパワー変動をフォトダイオード15で検出し、平均化処理部31から得られる受光データS, ̄S,S, ̄Sをフォトダイオード15の検出結果に応じて補正している。このため、光ファイバ40に入射させる光パルス列を構成するそれぞれの光パルスのパワーが不均一であっても波形歪みや雑音を抑制することができ、高い精度で測定することができる。
【0042】
以上、本発明の実施形態による光パルス試験装置について説明したが、本発明は上記実施形態に制限されることなく、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上記実施形態では、EDFA13から出力される光パルス列のパワー変動をフォトダイオード15で動的に検出し、平均化処理部31から得られる受光データS, ̄S,S, ̄Sをフォトダイオード15の検出結果に応じて動的に補正する場合を例に挙げたが、記憶部34に記憶されている内容に基づいて受光データS, ̄S,S, ̄Sの補正を行っても良い。
【0043】
また、上記実施形態では、EDFA13と光サーキュレータ16との間に光カプラ14を設け、光カプラ14で分岐した光パルス列をフォトダイオード15で受光することにより、EDFA13から射出される光パルス列のパワーを検出する場合について説明した。しかしながら、光カプラ14を省略するとともに光ファイバ40の他端部から射出される光パルス列をフォトダイオード15で受光することにより、EDFA13から射出される光パルス列のパワーを検出しても良い。また、本発明の光パルス試験装置は、上述したゴーレイ符号以外に、バーカー符号等を用いることもできる。
【0044】
更に、上記実施形態では、光ファイバ40中で生ずる後方レイリー散乱光やフレネル反射光を用いて光ファイバ40の試験を行う光パルス試験装置について説明した。しかしながら、本発明は、光ファイバ40中で生ずるブリルアン散乱光やラマン散乱光を用いて光ファイバ40の試験を行う光パルス試験装置にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施形態による光パルス試験装置の要部構成を示すブロック図である。
【図2】EDFA13の増幅特性の一例を示す図である。
【図3】レベル補正部32で行われる処理を定性的に示す図である。
【図4】復調されたデータの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
1 光パルス試験装置
11 符号生成回路
12 レーザ光源
13 EDFA
15 フォトダイオード
17 受光回路
18 増幅回路
19 A/D変換回路
32 レベル補正部
33 相関処理部
34 記憶部
40 光ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバに入射させるべき光パルス列を増幅する光ファイバ増幅部と、当該光ファイバ増幅部から出力される光パルス列を前記光ファイバに入射させて得られる後方散乱光を受光する受光部とを備え、当該受光部から出力される受光信号に基づいて前記光ファイバの特性を試験する光パルス試験装置において、
前記受光部から出力される受光信号のレベルを、前記光ファイバ増幅部から出力される光パルス列のパワー変動に応じて補正する補正部を備えることを特徴とする光パルス試験装置。
【請求項2】
前記光ファイバに入射させるべき光パルス列として、所定の符号変調を行った光パルス列を生成する光パルス列生成部と、
前記補正部でレベルが補正された受光信号に対して相関処理を施すことにより復調を行う相関処理部と
を備えることを特徴とする請求項1記載の光パルス試験装置。
【請求項3】
前記光ファイバ増幅部から出力される光パルス列及び前記光ファイバを透過した光パルス列の何れか一方のパワーを検出する検出部を備えており、前記補正部は当該検出部の検出結果に基づいて前記受光信号のレベルを補正することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の光パルス試験装置。
【請求項4】
前記光ファイバ増幅部から出力される光パルス列のパワー変動を記憶する記憶部を備えており、前記補正部は前記記憶部の記憶内容に基づいて前記受光信号のレベルを補正することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の光パルス試験装置。
【請求項5】
前記光ファイバ増幅部から出力される光パルス列及び前記光ファイバを透過した光パルス列の何れか一方のパワーを検出する検出部を備えており、前記記憶部の記憶内容は前記検出部の検出結果に更新されることを特徴とする請求項4記載の光パルス試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−156718(P2009−156718A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335466(P2007−335466)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】